プライベート CROSS HEROES reUNION EPISODE:1「邂逅の刻」

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1人目

「Prologue」

 CROSS HEROES。
時空を超えて交錯する戦士たちの戦いを記憶している者は少ない。

 地球と宇宙。未来と過去の世界。剣と魔法の世界。
ついには生と死をも超越した者たちの果てしなき戦いはいつしか終局を迎え、
戦士たちはそれぞれの在るべき世界へと帰っていった。

そして、現在。物語は再び動き始める。新たなる戦場を舞台として……

2人目

「”Killer”」

カチ、カチ、カチ、カチ────
絶え間なく、腕時計の秒針が時間を刻んでいる。延々と駆動するそれを見ながら、ベンチに座る男は嘆息した。周囲から聞こえる人々の喧騒が、更に煩わしさを感じさせられて、どことなく眉間に皺が寄っている。周囲を流し見れば、けだるそうな顔をしたサラリーマンにパート帰りの主婦、ぎゃあぎゃあと喚きたてる学生まで様々だ。

午後六時。
既に夕刻を回った駅のホームは、例に漏れず帰宅ラッシュの憂き目に遭って大勢の人々によって埋め尽くされていた。男もまた、彼らと同じく電車を待っている最中である。

「ねえねえ、聞いた?」
「何を?」
「最近さ、女の人が次々失踪してるって噂、知ってる?」
「聞いた聞いた。誘拐だとか殺人だとか、そういう話クラスでもよく聞くもん」
「その犯人、ここら辺にいるかもって!」
「マジで?怖ー」
「なんかマジらしいよ!先輩とかなんか怪しい人を見たって!」
「えー?何それ」

男の右隣りから声が聞こえてくる。彼と同じベンチに座った二人組の女子高生の話し声だ。
その甲高い声音から察するに、何やら面白い話題でもあるのだろうか、早口でまくし立てるように言葉をひたすら続けていく。

「それにしてもさ、ここら辺にいるならさー。もしかして今、うちらの近くにいたりして、犯人」
「うわー!ちょっとやめてよ!そんなこと言われたら夜寝れなくなっちゃう!」
「話振ったのそっちでしょーが」

そんな小うるさい声も、電車が到着するとともに、ようやく解放される。彼女たちから距離を取った男は、そそくさと席に座り、背もたれに身体を預け脱力する。
ふと車窓をのぞき込めば人工の灯りで彩られた都市部の煌びやかな光景があった。
都市は朝から晩まで、ギラついた輝きを放つ。電車に揺られながら、もう何度目かもわからない嘆息を零した。

(”この世界”はなんて騒がしいのだ……猥雑で、無機質で、落ち着きがない……ああ、全く……)

“杜王町”と比べれば、あまりにも生き辛い。

ふう、とうんざりしたように、ため息をつく。
溢れ返る程の人混みに物で溢れかえった町並みを尻目に、胸元のポケットを探る。
ほんの少し、つん、とした異臭を感じた。

(そろそろ、”手を切る“時期か)

男は隣に座った女性の手を、愛おし気に見つめ始める。
彼の名を、吉良吉影といった。

3人目

「再臨の物語」

 カオス・ジ・アビス。
かつて、とある世界で発露したあらゆる並行世界を繋ぐと言われる異界の門である。
その力を我が物としようとした"天秤の男"の野望は清き心を持つ者達によって阻止され、
カオス・ジ・アビスは厳重に封印される事となった。

 しかし、全ての元凶が潰えたわけではない。
"天秤の男"の肉体を操り、カオス・ジ・アビスの門を開かせようとしたのは、
数々の並行世界から集った悪意の想念たちの仕業である。

 彼らは"天秤の男"が倒された事を契機に散り散りとなってしまったが、
密かに力を蓄え、再起の時を待っていた。

『おのれ……すべては忌々しき神子の仕業……』
『その存在は許されぬ……』
『我々だけが消えるわけではない……消えるならば、奴らも道連れよ……』

 呪いを唱え、憎悪を謳い、虚無に漂い続ける者たち。やがてそれは世界を侵食していく。
負の想念が次々と広がり、静かに、だが確実に蝕んでいった。

『滅びよ……全て滅びよ……』
『色彩を失くし、光を失くし、命を失くし、ただ、ただ、全てを闇に滅せよ……』
『暗く、黒く、昏く、何もかもを……』

 世界が、終わる。物語が、終わる。
それは前触れもなく、いとも容易く。
積み重ねられてきた時間も、営みも、その全てが塵芥となって消滅していく。
このまま全ては、永劫の闇の中へと消えていく他無いのだろうか?

 否、まだ希望は在る。
かつてのCROSS HEROESのように。闇があれば、それを払う光が生まれる。
今が、まさにその時なのだ。

「みんなが守った世界を……無かった事になんてさせない……そうだよね?」

 吹けばあっと言う間に消え行きそうな、か細い光が邪悪なる闇の中に瞬いた。

「きっと……きっと……」

 それは、願い。それは、祈り。
どれだけ暗く、冷たく、救いの無い世界であろうとも、それに抗い続ける灯火……
それがやがて、『英雄』たちを導く。

「きっと"あの子"だって、ここにいたら、そう言ったと思う。
だから、私もあきらめない。"あの子"が教えてくれたことだから……
そうだよね? ペル……」


 英雄たちの交錯。遠い時空を超えて、今、それが再び……
いつか、どこかで、誰かが云った。その物語に名付けるならば……



「CROSS HEROES reUNION」と。

4人目

「EAT, KILL ALL」

研究室の中は、狂気で満ちていた。
そんな中、部屋を侵す狂気の主が一人。女だった。
彼女は、冷たい目で、アンプルを眺める。ぞっとするほど、冷淡で、冷酷な目だった。
その傍らには、死体があった。男だった。身体を半分に切断された、惨殺体。胴体と下半身の切断面から際限なく流れる血液が床を赤く染めている。

充満する死臭、そして────

がつ、がつ、がつ。

男の下半身を、『ソレ』は喰らっていた。

歓喜とともに、愉悦とともに。
爪を突き立て、歯を突き立て。
血肉を咀嚼し、骨を噛み砕く。

後ろ髪の黒髪を流した頭頂部と、まるで鍾乳石の様な角を生やしているそれは、鬼。
邪鬼/ラクシャーサ。それが、男の死体を貪る異形の正体だった。

「……どうやら、培養には成功したらしい」

女は、淡々と言葉を連ねる。何処までも、平坦な印象を持たせる、声音だった。

もしも、この話を余人に伝えたとて、信用に欠けるのだろうが。
今、この場で死体を喰らうラクシャーサは、元は人間であった。
更に言うなら、男を喰らうラクシャーサは、彼の娘であった。

見よ。あの悪鬼羅刹の表情を。
肉を喰らう歓喜の笑みと、実の父を喰らう自身への絶望から来る涙を!

見るがいい。あの女の表情を。
邪鬼とその身を堕とした彼女の形相を見た、その冷酷無比なる容貌を!!

そして、括目せよ。
血を滴らせる女の腕を。異形のものに姿を変えたその腕を。ただの試運転、と其処に転がる男を両断した、正しく悪魔の腕を!!!

「『悪魔化ウィルス』は完成した。この世界でも培養は可能……それが結論だ」

研究室の扉が、開く。それに被せるように、女は言った。
その言葉を聞いて、研究室に踏み入った彼、或いは彼女は、満足そうに笑みを深めた。

女は、『ジェナ・エンジェル』はこれまた表情を変えずに、視線をアンプルに戻す。

研究室の壁に立てかけられた時計は、六時を回っていた。

5人目

「スワップアウト」

ぱちり、と目を開く。瞬間、目が痛くなるほどの輝きが視界を埋め尽くした。赤色と黄色が混ざったような、橙一色。それを、咄嗟に腕で目を覆って遮る。突如として、彼の視界に到来したものは、太陽の光。それも濃淡のあるグラデーションのような色づきから、時刻は夕方だろうか。

「なんで、僕は……俺は、こんなところにいるんだろ……わけわかんねえよ」

今まで何をしていたのか、想起される記憶が、霞がかかったように、どこかぼんやりとしていて思い出せない。思い出したくない。ここが、現実でないことを。ここが、夢であることを、願っている。

「ああ……くそっ……眩しいな…………」

ただ、ただ、こんなギラギラした陽の光なんかじゃなくて、そう。
もっと、きらきらとした、星々煌めく夜空。広大で美しい宇宙(コスモ)みたいな、そんな景色。その中で輝く一番星。何となく、理由もなく。ただ、今だけは、何もかも忘れて強く、強く心に残ったその情景を、もう一度見たくてたまらなかった。


彼も、正しく異邦人であった。異なる理、異なる世界より招かれた異邦人(ストレンジャー)。
さながら宇宙飛行士のような格好は、この都市の中ではさぞかし目立って仕方がない。それこそ今、彼が雑居ビルの屋上にいなければどこにいても注目を浴びていただろう。
彼は────電脳世界、人々の理想を叶える世界(リドゥ)の守り人にして、凡人。

“家永むつを”、或いは、楽士“ムーくん”

果たして、彼はこの世界で、どちらの名前で生きるのか。

賽の目は投げられた。舞台を上がれ。

6人目

「叛逆の悪魔と反転の悪魔」

 悪魔が神を引き裂いて、鳥籠の世界に閉じ込めた。
もう誰にも穢されないように。
もう何にも傷つかないように。
穢れるのも、傷つくのも、自分ひとりで良い。

 そう、思っていたのに……

「暁美ほむら、だな?」

 騒乱の渦は、彼女を捕らえて離さない。
蒼白い月の夜。高架下に立つ2人の男女。頭上を走る電車の音が駆け抜けていく。

「だとしたら?」
「貴様の力を頂く」

 男の姿が変貌していく。禍々しき悪魔さながらの姿に。

「……ディケイド……?」

 ほむらが知るものとは大きく異なっていたが、微かに残る面影。

「ほう、やはり知っているようだな。そう、これがディケイドの力。
そして門矢士が死んだ今、俺こそが真の仮面ライダーディケイドなのだ!」
「死んだ……? 彼が……」

 門矢士。数々の並行世界を旅して来た通りすがりの仮面ライダー。
旅の途中、永遠にも等しい時間遡行を繰り返し、
その全てを記憶する「叛逆の魔法少女」暁美ほむらと出遭い、共闘した事もある。

「ふんッ!!」
「!!」

 アナザーディケイド――タイムジャッカー・スウォルツ――が掌をかざすと、
ほむらの体が停止する。時を司る一族の末裔であるスウォルツの固有能力。

「……」
「このディケイドの力で、すべての力を手中に収める。そして今度こそオーマジオウを
討ち果たし、俺が全並行世界の王として君臨するのだ!」

 静止するほむらに伸びゆく悪魔の手。だが突如、アナザーディケイドの右手首を掴んだ。
ほむらである。

「!? ば、馬鹿な……何故動ける……?」
「ディケイドの力を操ると言う割には、調べが足りなかったようね。
よりにもよって私に時間操作の力を行使しようとするなんて」

 ぐぐぐ、とアナザーディケイドの手首を掴む力が強くなり、じわじわと押し退けていく。

「それにしても、私もつくづくディケイドとは妙な縁があるようね……
出遭う度にこうして戦う事になってしまう……」
「貴様……!」

「私はもう誰の味方にもならない。けれど、この世界に手出しをするようなら、
誰であろうと容赦はしない……!」

 ほむらの背中から黒い双翼が飛び出す。

「何だ……? この力は……! こんなもの、俺は知らんぞ……!!」
「そう……『大体分かった』わ。貴方がディケイドの力を得た経緯が……」
 

7人目

「DEVILS SAY【WORLD IS MINE】」

もしも眼前に映る、その翼を例えるとするなら、漆黒。夜の暗闇も一条の月光も、或いは世界そのものすらも更に黒く塗りつぶし飲み込む、ブラックホール。
まさか、終末の時が来たのか。絶対なる超越者、上位存在がこの地に降り立ち我らに終焉を告げるのではあるまいか。
禍々しく、それでいて広大な翼を広げた彼女を見た者は、等しく同じ印象を植え付けられる、といった確信をスウォルツは脳髄を駆け巡る寒気と共に確信していた。
一言で今の彼女、暁美ほむらを表現するならば。次元が、違う。格が、違う。
存在そのものから、まるっきり違う。この地に、この世界に息づく全ての生命を束にしても手も足も出ないような、そんな錯覚すらスウォルツに抱かせた。

「諦めなさい、あなたはもう────」

創世にして叛逆の悪魔、その深淵に、彼は触れたのだ。触れて、しまった。

「ここで終わりよ」

凝視する。瞬間、叩き付けられる殺意。破壊者の力を宿すアナザーディケイドとその身を変えても、肌が泡立つような恐怖を感じずにはいられない。握り絞められた手首が、みしり、と音を立てたような気がした。が、それに気をやる暇も残されていない。

「ほざけ……小娘がぁッ!」

「無駄な抵抗は止めておいた方が身のためだと思うけれど」

神を貶め、円環を歪めた、悪魔。
ライダーを貶め、歴史を歪めた、悪魔。
似た者、どうし。

「黙れッ!!!!」

そんな彼らに、差があるとしたら。

「俺の……俺の世界だ!!!俺が支配する、世界なのだ!!!」

「哀れね、あなたに対して同情くらいならしてあげてもいいわ。けれど」

「この世界は、渡さない」

8人目

「鳥籠の世界」

 強引にほむらの手を振り払い、後方に飛び退くアナザーディケイド。
掴まれた手首に走る鈍い痛み。

「ぐ……く……!」

 その長い黒髪。侮蔑と憐憫の視線を向ける目の前の少女。
スウォルツの脳裏に忌まわしき記憶がリフレインする。


『あなたのような王はいらない!』


 スウォルツを上回る才能を持ち、兄である自分を差し置いて一族を統べる王の座に
選ばれた妹。挙句の果てに兄に歯向かい、その胸に刃を突き立てさえした。
名を奪い、記憶を奪い、世界から追放しても尚、舞い戻ってくる。何度も、何度も……

「ア……ル……ピナァ……!! お前はまたしても、俺に楯突くと言うのかァ……!!
うあああああああああ!!」

 半ば自暴自棄になってほむらに突撃していくアナザーディケイド。

「出て行きなさい」

 ほむらの手刀が空を切ると、次元の裂け目が生まれる。

「この世界から――!」
「な……!?」

 走り出した勢いは止まらない。スウォルツがその裂け目を認識にした時には既に遅し、
アナザーディケイドは裂け目の中に吸い込まれてしまった。

「う、うおおおおおお……!!」

 アナザーディケイドが完全に呑み込まれると、裂け目は閉じられ
再び夜の静けさが戻る。

「ふう……」

 溜め息をひとつ。独り残されたほむらは、かつて刃を交え、
或いは世界を救うために共に奔走した通りすがりの仮面ライダーに想いを馳せていた。

「門矢士……あの人が死んだなんて、ね。殺しても死なないような人だと
思っていたけれど……」

 その事実は、ほむらに一瞬の心の隙を生み、
スウォルツに時間停止の発動を許してしまう程には一抹の重みを与えた。
だが、それも過ぎたことだ。時は移ろいゆくものだ。変わらないものなど無い。
人は生まれ、死に、世界も生まれ、滅ぶ。
だからこそ、せめてこの世界が終わるまでは己の全てを捧げてでも守る。
1分、1秒でも長く存続出来るように。

「もう、いいの。この世界さえあれば、まどかさえ健やかに生きていてくれるなら、
私がどうなろうと、他の世界がどうなろうと、構わない。そのために、私は……」

「おのれ……オーマジオウのみならず、あんな奴までいたとは……!!
俺は世界の破壊者の力を手に入れたのだぞ! どいつもこいつも俺を見下しおって…!!」

 その男の野望、未だ潰えず。

9人目

勇者王アレクの名を知らぬ者はいないだろう。
少なくともアレフガルド大陸とローレシア大陸には。

アレクはアレフガルドの地のラダトームの国にて予言者より伝説の勇者の血を引く事を明らかにされ、ラダトーム王女ローラ姫の救出や防衛機能を暴走させられた要塞都市の解放など数々の困難なクエストを達成し続けた。
遂には聖竜の血をひきながら闇に堕ちた邪竜、竜王を単身討ち取った。

この時にアレクは伝説の勇者の血をひく者でなく、彼もまた当代の勇者と見られるようになった。

その功績と民からの人気によりアレクは時のラダトーム王ラルス16世より新たなるラダトーム王になる事を請われるが、自分が治める国があるならばそれは自分で探したいとその申し出を断った。

その後彼はその自らの治める国を求める旅に出た。
ラダトームの姫の地位を捨てて追いかけてきたローラと共に。


アレクとローラはアレフガルド大陸を後にして世界中を冒険し、遂には理想の地を見つけそこに人を集め、現在のローレシア王国を建国したのだった。
アレクは伝説の勇者の武勇と建国の父の栄誉の両面から歴史上の人物として極めて人気が高い。
アレクの残した手記、いわゆる冒険の書は様々な物語や芝居、吟遊詩人の詩の題材になりその実物はローレシア城に未だに保存されている。

アレクの残した冒険の書は一般にラダトーム城でのラルス16世からのクエストの受諾からローレシア王国成立までのものが全てとされている。


だがローレシアから独立した兄弟国家、サマルトリア王国とムーンブルク王国には公にされていない冒険の書が存在する。

アレクやローレシア王国の名誉を傷つける忌まわしき記録だから隠されている、というような単純な話ではない。
あまりにも荒唐無稽な内容で当時のローレシアの大臣達やアレクの没後の歴史家達も困惑し、いっそ存在しないものとして一部の者以外に存在を秘匿するという判断を下されたのだった。

その内容は端的に言えばこういった内容である。
アレクとローラは自分達の国を創るまでの旅の中で二度異世界に迷い込み、同じく様々な世界から迷い込んだ勇者達と共に様々な邪悪なる存在と戦ったというのだ。

これはアレクの創作か、あるいは世迷いの幻覚なのかーーー



 
今ここにその隠されし冒険の書の一端、二度目の異世界での戦いの記録を繙こう。

10人目

「振り返ってはいけない小道、ジャンクヤード、或いは────」

電車という移動手段は、嫌いだ。それが人口密集地、つまりは都市部を繋ぐ路線であるならば特に。狭い車内に数えるのも億劫なほどの人間が詰め込まれる様は、嘗て大西洋における奴隷売買。その、奴隷船のようだ。嫌々働いている会社員達の、感情が抜け落ちたような表情がそれに拍車をかけている。椅子からこの光景を眺める、というだけでも不快感を覚える程には、人間で詰め込まれていた。数日前、彼曰くこの騒々しく生きづらい世界に飛ばされてから、何度も見た光景。それから少しでも目を逸らそうと、『吉良吉影』は予め購入している文庫本に手を伸ばした。これから、彼が向かう『研究室』の最寄り駅は未だ遠い。心底暗澹とした心境のまま、活字に目を通す寸前。

スマートフォンの、バイブレーション機能。吉良もこの世界に招かれて初めて知った未知なるデバイス。つい先日入手したばかりのそれが、吉良に用向きを伝えて来る。

(まったく……この世界に生きる連中は皆一様に忙しない........少々息抜きをさせてくれてもいいんじゃあないか……?)

嘆息しつつも慣れた手つきで、画面をタップし、メッセージアプリを起動。緊急事態において慣れぬデバイスだからと後手に回るのは吉良のプライドが許さない。スマートフォンを確保したと同時に、粗方の操作を既に習得していた。

記された宛名と内容を見て、そこに記された、暁美ほむらの名を見て、吉良の気分は更に落ち込む事となる。どうして、こうも周囲は自らの平穏をかき乱すのか、と。

「ジェナ・エンジェルめ……面倒な女と手を組んでしまったものだ……」

思わず、ため込んでいた鬱屈が口をついて噴出する。自らの身体を悪魔と変化させる異形であり、腹の底が見えぬ、しかし確実に吉良の平穏をかき乱す存在。そんな彼女に対して、吉良が不愉快に思わぬわけがない。今も、これ程の人波に揉まれてまで彼女に呼びつけられたというのだ。不満の一つや二つ、当然湧いて出よう。吉良は人知れず、これから起こる災難を予想して、ため息を吐いた。直後、電車が減速していき、止まった。少しの揺れと共に、駅へ到着したことへのアナウンスが鳴り響く。そこで吉良は降りた。その時の表情は、あのジェナ・エンジェルと違わず、冷徹さが押し出された、無機質な表情だった。

11人目

「閑話休題 - 響き合う幾つもの世界 -」

 世界は複数存在する。これまでに語られた物語だけを見てもそれは明らかだ。

 アレフガルドの勇者が竜王を倒し、冒険の果てに訪れた異世界。
暁美ほむらが鹿目まどかを円環の理と分離させ、その神なる力を
もう何者にも利用させないために創造した鳥籠の世界。
スウォルツがほむらによって鳥籠の世界から追放された先にある世界。
ジェナ・エンジェルが悪魔化ウィルスを開発した世界。
吉良吉影がジェナと通じ、暁美ほむらの存在を認識している世界。
謎のバーチャドール・リグレットが心に後悔を持つ者を取り込むリドゥと呼ばれる
仮想世界。
数え上げれば枚挙に暇がない。

 我々が知らないだけで、きっと、もっと多くの世界が存在していたのだろう。
それが消滅していく。
殆どの者は、自分の世界が消えていくのに気づく事も無く。

「世界が……終わる……」

 ここに、その異変に気づく数少ない者の内のひとりがいた。
彼女もまた、かつて異世界からの来訪者たちと共に戦った戦士である。

「月美よ……旅立て。この滅びの現象は、悪しき者たちの負の想念が引き起こしている」
「お父さん……」

「この世界の命運ももはや風前の灯火。亡き我が妻が鍛えた「織姫」「彦星」と共に
この未曾有の危機を救うのだ」
「じゃあ、お父さんも一緒に……」

「ならぬ。私は残る力を以ってお前をこの世界の外へと送る。
私は此処に残らねばならぬのだ」
「そんな……」

「情けない声を出すではない。日向家の娘ともあろう者が。
織姫と彦星。その名の通り、いずれ星の海で再び巡り会う事もあろう。
では、参るぞ。かぁぁぁぁあああああああッ……!!」

 男の怒号と共に、空にぽっかりと大穴が開かれる。
日向家に伝わる秘奥義。世界を渡る門を開く力。

「さあ、行けぃ、月美! もはや時を残されておらぬぞ……!!」
「お父さん……きっと、きっとまた逢えるよね?」
「それはこれからのお前次第だ……行けぃ!!」

「……行ってきます!!」

 少女……日向月美は父の意志を継ぎ、世界を渡る門へと飛び込んで行った。

「これで良い……月美……お前だけでも生き延びてくれれば……希望は在る」

 すべての力を使い果たし、膝をついたと同時に門も閉ざされる。
そして世界が色彩を失っていく。

「我が娘に……とこしえの幸あれ……」

12人目

「モンスターの気配はありませんが……」


二人はこの二人の元の世界には存在しなかったコンクリートのビル等が建ち並ぶ廃墟にいた。


アレクは喋るのがあまり得意ではない。“はい”と“いいえ”に類する言葉だけで会話を済ませる事も少なくはない。

それは彼が敬愛するローラ相手でも同じであった。

「どうやら」

アレクは静かに話しはじめた。

「また我々は異世界に飛ばされてしまったと見るべきでしょうね」

ローラは軽くため息をついた。
己の境遇を嘆いてのものではない。

アレクの“伝説の勇者”という肩書きは様々な災難を彼に与え、今また新たにそれが始まったと感じたからだ。

「ローラ姫」

アレクはローラの肩に手を置き、語りかけた。

「ここがどこであろうとも、私はローラ姫を護ります」


ため息をついたローラを案じたのだろう、優しい言葉にローラは可憐な笑顔で応じた。

「ありがとうございますアレク様……ですが、何度もいいますがもう私は姫ではありませんわ。あなたを追って城を出てからは」


その言葉にアレクは困ったように視線を泳がせるがローラの期待に満ちた目に観念し、小さな声でローラ、とポツリと呟いた。


「はい、ローラはアレク様をお慕い申しております」
「それにしても」

ローラの言葉が終わる前にアレクは次の話を切り出した。
照れ隠しなのだろう。ローラはそれを特に気にしなかった。


「前の異世界の時のように我々以外もこの世界に来ているのでしょうか」
「そうならば早いところ合流してパーティーを組みたいところですわね」


そう言いつつもローラの中には懸念があった。
アレクはローラ相手ならば優しい言葉も長めの文章も言ってくれるのだが基本的にローラ以外にはひどく無愛想なのだ。

竜王軍との戦いにおいても様々なラダトーム騎士や傭兵とパーティーを組むような流れになったが、どれもアレクの態度でご破算になった。

結果アレクは誰ともパーティーを組まず単身で竜王の城に乗り込み討ち取るという偉業を為し遂げたのだった。


本人に悪意はないので矯正は難しく、前の戦いではそんなアレクをわかってくれた勇者も少なくなかったが……。



「アレク様」
「なんでしょうか」
「まずは笑顔の練習をしましょうか」
「は?」


二人は新たなる戦いに備え、コミュニケーションの練習を始めたのだった。

13人目

「魔王と勇者」

「――この本によれば……」

 ふと、空の手を見つめる。男は肩を竦め、『それ』がもう存在しない事を思い出す。
そうであった。
逢魔降臨歴。最低最悪の魔王が生まれ、育ち、世に君臨するまでを指し記す預言書。
だがもうそんな未来は訪れない。いや、未来は誰にも分からなくなったと言うべきか。
まるで停電した闇の中を踏みしめて歩くような不安感はあるが、
それが本来ヒトの在るべき姿なのだろう。

 私は見守るだけだ。『彼』が掴み取る未来が如何様なものとなるのか……

「うわーっ!」
「きゃーっ!?」

 突如、平和な街に轟く悲鳴。
異形の怪人――アナザー龍騎――が研ぎ澄ませた刃であらゆるものを両断する。
それだけではない。がいこつ、メトロゴーストと言ったモンスターまでもが
街に跋扈していた。

「アレク様……!」
「姫……あ、いや……ローラ! 退がって!」

 その現場には、アレクやローラの姿もあった。アレクはローラや逃げ惑う住人達を
助けながら、モンスター達に応戦する。

「どうやら、異世界に迷い出たのは我々だけではなかったと言う事か……
でぇいやぁッ!!」

 アレクの力強い剣撃一閃ががいこつを真っ向両断する。会心の一撃と言った所か。

「ウァァァァァァッ!!」

 モンスター達を押し退け、アナザー龍騎がアレクに向かってくる。

「くぁっ……!!」

 振り下ろされるアナザー龍騎の剣を受け止めるアレク。激しい鍔迫り合い。

「アレク様!」
「この者……! 今まで戦ったモンスターとは違うようだが、何と言う剛力……!!」


【Zi-O!】

 何処からか時を刻む秒針のような音が高鳴る。

「変身!!」

【RIDER TIME! KAMEN RIDER Zi-O!】

「おりゃああああッ!!」

 側面からアナザー龍騎に飛び蹴りを叩き込み、アレクに加勢する黒い戦士。

「グゥゥゥゥゥゥゥッ……!!」

 ゴロゴロとアスファルトを転がるアナザー龍騎。

「大丈夫?」
「君は……」

「俺は、ソウゴ。常磐ソウゴって言うんだ。そんでもって、この格好は……
仮面ライダー、って奴」

 その顔面に施された装飾は「ライダー」と読めなくもない。

「カメン……ライダー?」
「やれやれ、やはり君は、その道を選んでしまうのだね。我が魔王」

 最高最善の魔王と、勇者が出会う。

14人目

「ドラゴンズ・ウィル」

絶叫が、悲鳴が各所からひっきりなしに木霊した。夕暮れを通り越して夜に差し掛かった街中。平時ならば帰宅途中の会社員に外食に出かけた家族連れの一団で賑わう、商店街の大通りは、有体に言えば、阿鼻叫喚の地獄に叩き落とされていた。蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う人々、それを追いすがるのは、怪物(モンスター)。まるで子供の読むファンタジーものの絵本から、或いは、RPGにでも出てきてもおかしくない、自律して動く骸骨に、宙を縦横無人に飛び交うゴーストで満ち溢れ、埋め尽くされる。

言葉に違わず、此処は、地獄だった。
その、地獄の中央。辺りでは乗り捨てられ、果てには電柱に、ガードレールに、前方の車に玉突き事故を起こした車が放置された地獄の発生源。その中心に立ち、民衆が上げるそれよりも数倍悍ましく、腹の底から大気を震わせるような、絶叫、いや咆哮を上げるアナザー龍騎。どこからか流れて来た車のガソリンに引火し、周囲が炎の赤色のみに彩られた空間にて叫ぶそれは、正しく地獄より這い上がって来た悪魔さながらの光景であった。

未だ逃げ遅れた人々が右往左往する中、ある者は、スマートフォンのカメラ機能で大通りの中央を撮影していた。恐怖と、それでも、この状況を誰かに教えたくて動画を撮ってはいるも、この騒乱の影響で電波が繋がらない為誰にもその状況を伝える事が出来ない。それでも、誰かにこの異常を、或いは。

──まるで、あの化け物を討ち果たさんと仁王立つ二人の、勇者と魔王の存在を伝えるために、スマートフォンを掲げていた。

アナザー龍騎が、地面を蹴った。突進とでも形容できる勢いで踏み込み、鬼気迫る雄たけびと共に右手の刃を目にも止まらぬ速さで振り下ろす。この一撃だけで、只人を文字通りの真っ二つにし得るほどの力が込められていた。証拠に、耳を劈く程の風切り音が一帯に響いた。しかし、それを撮影する民衆は目を背けはしなかった。

ただ、世にも恐ろしい悪魔の一撃を、片手に持つ盾のみで受け止めた、雄々しきあの男は何者か、その一念に囚われていたからだ。

「……戦えるか?」

アナザー龍騎の剣の一撃を防いだ勇者、アレクが問う。声音から感じるのは、微かな疑問と、期待。お前も、あの逃げ惑う民草を守る戦士であるのか、と。

「勿論!俺は、みんなを守る魔王だから!」

然り、彼は戦士であり、魔王であった。

15人目

「決着、時の王者と異世界の勇者」

「参るッ!」
「はああああッ!」

 威風堂々、アレクとジオウが揃ってアナザー龍騎に向かっていく。

「ウォォッ!!」

 アナザー龍騎の長剣をジオウが字換銃剣ジカンギレードで受け止めている隙に、
アレクがガラ空きになった胴抜き一閃。

「むんッ!」
「だりゃあああっ!」

 火花散るアナザー龍騎の装甲。よろめいた所にジオウがさらなる追撃の
袈裟斬りを振り下ろす。初対面ながら息の合った連携。

「グァッ……ウグゥゥゥッ!」
「こいつも喰らえ!」

【ジュウ!】

 戦況に合わせ、剣モードと銃モードを使い分ける事が出来るジカンギレ―ド。
電子音と共に銃モードに換装し、ゼロ距離からの射撃を二発、三発、と御見舞いする。

「ウァァッ……ヌゥゥゥッ!」

 たまらず後退るアナザー龍騎であったが、負けじと手甲を突き出し、
竜の吐息が如く激しい火炎放射を噴き出す。

「わっ……!?」
「危ないッ!!」

 あわや、と言う所ですかさずアレクがジオウの前に立ちはだかり、
「みかがみのたて」で火炎を防いだ。

「ありがとう、助かった!」
「炎が止んだ時が反撃の好機だ……!」

 だんだんと炎の勢いが弱まり、高熱でゆらめく陽炎の先にアナザー龍騎の姿が
浮かび上がっていく。

「今だッ!」
「うおおおおおッ!」

 合図と共にジオウがアレクの左肩を踏み台にして飛ぶ。

「!?」

【FINISH TIME!】

 さらにアレクも駆け出し、アナザー龍騎に反撃を仕掛ける。

「グゥゥッ!! ェヤァァァッ!!」

 苦し紛れに鋭い爪が生えた鉄拳を繰り出すアナザー龍騎。
アレクはそれを紙一重で避わし、瞬時に「ロトのつるぎ」を持ち替えながら
身体の捻りをも加えての切り上げ斬撃を叩き込んだ。

「――ぬああああああああッ!!」

 アナザー龍騎の体躯がその威力のあまりに空中に浮き上がる。

【TIME-BREAK!!】

「だあああああああッ!!」 

 「キック」の文字がエネルギー体となってアナザー龍騎の周囲を取り囲んで拘束し、
ジオウのライダーキックが胸部に炸裂した。

「オ……ア……グアァァァァッ!!」

 直後、断末魔と共に大爆発を起こすアナザー龍騎であったが、
その変身者の姿は無かった。

「また、アナザーライダーの抜け殻だけが彷徨い歩いてたのか……」

16人目

「で、どうする?」

文字通りの、爆発四散。之にて、英雄と魔王の邂逅、その華々しき初陣はお仕舞。破壊され、未だ方々で戦火の残る商店街はそのままだ。しかし、街中を駆け巡る悲鳴の代わりに、辺りには歓声や、互いの無事を確かめ合う声が辺り一面を埋め尽くした。

故に、残るは一つ、後始末のみとなる。これは、英雄譚でも叙事詩でも喜劇でも、物語ですらない、非情なまでの現実なのだから。

(……抜け殻?アナザーライダー?)

四六時中、強張ったような、十人が十人、生粋なまでの堅物であると取れるほどに硬いアレクの表情が歪んだ。目の前に佇む、魔王を名乗る黒の鎧だろうか、不可思議なものを身に纏う戦士。その自称にしろ、先程の発言にしろ、この異世界において何らかの事情を知っているのではないか、という疑問が確信に変わっている。しかし、彼を疑う、といった感情は微塵として存在しない。かつて自身が討ち滅ぼしたかの竜王とは似つかわしい程の眩しい善性を少年から感じ取ったからに他ならなかった。今はそれどころではない、というのもある。あくまで倒したのは周囲の魔物だけ。あの強大な竜騎士との戦いに紛れて、少なくない数の魔物が散らばっていったのを確認した。それらを放ってはおけない。

「助けて貰ってすまないが、これから街に散らばった魔物を斃さねばならない。失礼する」

「えっ」

救援感謝の意、これからこの場をすぐに離れなければいけない理由。一息に、そして、端的に。必要な部分だけを抜き取って伝えると、即座に身を翻して、脱兎の如く駆け出していった。これまでの時間、僅か五秒。流石の行動の速さに固まる魔王。自由奔放、唯我独尊の気がある若き暴君といえど、完全に面喰ってしまった。あまりにあっさりと離れてしまったアレクに仮面の下で口をぱくぱくとしていることは、当人ですら知り得ぬことであろう。そして、アレクと入れ替わるように、一人の女性が言葉を投げかける。

「先程は、アレク様にご助力頂きありがとうございました。今はこれといったお礼はできませんが、どうか感謝だけでもお受け取り下さい。それでは!」

こちらもまた、一応は最低限に丁寧かつ麗しさを感じるきびきびとした所作で一礼。その後アレクを追うように駆け出していった。

「えぇ……」

完全に、置いていかれてしまった。これには流石のソウゴも、がっくりと肩を落とす他無かった。

17人目

「奮闘のローラ」

 アナザーライダーとは、スウォルツ率いるタイムジャッカーが歴史改変のために
生み出した異形の怪人の総称である。
人間の自由と平和のために戦ってきた仮面ライダー。その力と存在を歪ませ、
悪の尖兵とする。スウォルツが変身したアナザーディケイドが良い例であろう。
そしてアナザーライダーが生まれる事により、オリジナルであるライダーは力を失う。

 しかし、常磐ソウゴとその仲間たちの活躍によりタイムジャッカーは退けられ、
アナザーライダーの力も本来のライダーの資格を持つ者たちに還っていったはずであった。
にも関わらず、スウォルツは再び暗躍を始め、
先のアナザー龍騎のような変身者を介さない歴史改変の残滓とでも言うべき存在が
度々街に出現しては暴虐の限りを尽くしている。
力は力でしかない。
理性もなく、倫理もなく、ただ無軌道に、無秩序に撒き散らされるだけだ。

 異世界の住人であるアレクとローラ、そしてその仇敵であるモンスターたちが
時空を飛び越えて現代世界に迷い込んでしまったのも
或いはアナザーライダーの再臨と関係しているのかも知れない。
世界は歪み始めている。かつて幾度となく発生した騒乱と同じく……

「ギラ!!」

 ローラの指先から放たれる閃熱呪文。横一文字に指を振り、
複数のモンスターたちに一度にダメージを与える。

「ギャアアアアアッ!!」

 魔物の群れをやっつけた。モンスターに襲われ、負傷している市民に駆け寄る。

「じっとしていて……ホイミ!」

 患部を両の掌で覆い、柔らかな癒やしの光が傷を治していく。

「あ、ありがとうございます……」
「ここは危のうございます。さ、お早く……」

 ローラもただアレクに守られるだけではない。その助けになれるようにと、
冒険の中で数々の呪文を学び、習得していったのだ。

(ローラ……頼もしくなられた)

 アレクもローラの健気な献身の姿に勇気づけられる。
だからこそ、これまで如何なる苦難をも乗り越えられた。
ローラもそんなアレクの視線に気づき、微笑みを返す。

「!? ローラ!!」
「え……」

 ローラの背後にしりょうのきしが現れる。ローラの影に潜んで、隙を窺っていたのだ。

「伏せて!!」

 少女の声と共に宙を舞う霊符が、しりょうのきしに貼り付き、その動きを封じた。

「ギ……ガ、ガ……!!」

18人目

「同じ星の下に集いし者たち」

「行って、織姫! 彦星!!」

 少女の命に従い、紅と蒼の光を放ち宙を舞う2対の輝き。
まるで意志を持つかのように空中を自在に飛び交い、
しりょうのきしの躯をズタズタに切り裂いていく。

 日向家に代々伝わる霊器、織姫・彦星。
一族の末裔のみが使役する事が出来る。父から継承され、
亡き母に鍛え上げられたもの。

「おおおおおッ!!」

 そしてモンスターへの怒りを込めた
アレクの一撃がしりょうのきしを木っ端微塵に粉砕した。

「……ローラ! 怪我は!?」
「え、ええ。大事ありません……あのご婦人のおかげです」

「はあ、良かった……」

 織姫と彦星を回収し、ローラの無事を確認した少女は安堵に胸を撫で下ろした。
ピンク色のブラウスに赤いスカート、胸元には年季の籠った碧石の勾玉。
先程放った霊符をストックしたホルダーを左腿に巻いている。

 日向月美。高い霊力を宿す退魔の一族、日向家の後継者。

「おーい!」

 戦い済んで、ジオウが専用マシン「ライドストライカー」に乗って現れた。

「カメンライダー……俺たちを追ってきたのか?」
「うん。他の場所にいたモンスターはやっつけてきたから安心して。
どうやら、ここが最後みたいだ」

「……済まないッ!!」

 アレクはジオウと月美に深々と頭を下げた。

「え!? ちょ、ちょっといきなり何!?」

「自分のみならずローラの窮地までをも救われ、
あまつさえ素性も分からぬ者のためにその身を呈して戦う姿勢……感服したッ!!」

「ちょ、ちょっとやめてよそんなの」
「そうですよ、顔を上げてください。当然の事をしたまでです」

「私からもお礼を言わせて下さい、お二方。本当にありがとうございました。
貴方がたこそ、この異世界の勇者なのでしょう」

 ローラも重ねて頭を下げる。

「異世界の……勇者?」
「では、あなたたちも私と同じ……?」

 世界の崩壊の最中、父・月光によって送り出された月美。
竜王を倒し、アレフガルドを発ったアレクとローラ。
奇しくも共通する宿命を持った者たちが一同に集った。

「ま、まあ、よく分かんないけど、とりあえず問題は解決したし、
みんな俺ン家で少し話をしない? クジゴジ堂で!」

 歴史を駆け抜けた勇者達。
今その力が未来へと受け継がれる!
祝え! 新たなる物語の誕生を!

19人目

「ニルヴァーナ、リドゥ、或いは───」

≪速報です、突如として街の中心で大規模破壊が──≫

≪只今、映像が入りました。突如として現れたこれは……何でしょうか≫

≪こちら現場リポーターの山田です。あの場に居合わせた方にインタビューを───はい?勇者?魔王?≫

「───ああ、【特異点】が観測された、か。問題ない。既にこちらでも把握している」

人々がごった返す駅の入り口。其処に、一人の女が立っていた。上から下まで、白一色。黒色のスーツを着た帰りのサラリーマン達でごった返した中に於いては、これ以上無く目立つ装いだった。気の強さが前面に出たような佇まいをしたその女性は、スマートフォンに耳を当て、駅に備え付けられたモニターを眺めながら何かを話している。

「あの魔王なる少年、ニュースからの外見を見るに、貴様の娘と近しい年頃だな、ブラフマン。わざわざ私にこうして連絡を掛けてくるとは、余程のことだ。今更、情が移った、などど抜かすなよ」
『君に言われたくはないですね、ジェナ・エンジェル。それを言うなら貴女の娘とも近しい年でしょう。今更、ためらわないでいただきたい』
「誰に物を言っている。微塵も情など湧かん」

一層、強い口調でジェナ・エンジェルと呼ばれた女は言い放った。その瞳は、灰色にくすんでいて、視線を落とした先にいる、仲睦まじく歩き去っていく母娘を冷たい眼光で一瞥する。今の彼女の目を見た者は、誰もが悪魔を連想するであろう。事実、ジェナ・エンジェルは悪魔である。神話に嘗てより登場する、”陰陽神ハリ・ハラ”、それを模した悪魔こそ、彼女の持つもう一つの姿(アバター)であった。

『来て、いるのでしょう?事実君の娘はこの世界を変え得る力を持つ存在……【特異点】の一人、セラフィータ。貴女の娘ではありませんか』
「それを言うなら、お前の娘もそうだろう。リグレット……あの娘をこの世界に”持ち込んだ”のはお前だ。世界の理すらも操りかねない可能性を秘めた、な」

互いに、断絶を思わせるやり取り。終始二人の声色は、絶対零度の如く冷たい。

『それで……君の部屋にいるこれはどうしますか?』
「ラクシャーサは、街にでも放っておけ。他の特異点をおびき寄せる餌にでもなるだろう」
『了解しました。最後に、あの少年は?確保しますか?』
「ああ、あそこには既に───」



「吉良を、向かわせてある」

20人目

「集結する力」

 謎の存在、梵天ブラフマン。特異点と呼ばれる存在を狙うジェナ・エンジェル。
差し向けられた恐ろしき刺客、吉良吉影。世界を超越して暗躍する悪意。
その足音が刻一刻と迫っているとも知らず、ソウゴ達はクジゴジ堂へと向かった。

「おじさん、ただいまー」
「おう、おかえり、ソウゴく――」

「失礼する」
「ごきげんよう」
「お邪魔します」

「……」

 ソウゴの保護者であり、叔父の順一郎が経営する時計店。
壊れた時計を直していた順一郎の前をアレク、ローラ、月美が通り過ぎていく。

「……ソウゴ君、まーた変わった友達連れてきたなぁ……
ま、友達が増えるのは良い事か、うん」

 異世界の勇者、王女、退魔師……変わっているどころではないクセの強い面々である。
何事が起ころうとも許容してしまう包容力。両親を早くに亡くしたソウゴが
真っ直ぐな青年に育ったのも、順一郎のおかげであろう。

 4人はテーブルを囲み、それぞれの身の上を話し始める。

「私も、過去に異世界に召喚された事があったんです。多くの異世界人の皆さんと共に。
アレクさんやローラさん、ソウゴさんのように皆、勇敢な方ばかりでした。
自分の生まれ育った世界だとかそうじゃないとか関係なく、
平和を取り戻すために全力で……あの頃、まだ未熟だった私も、
あの人たちのようになりたいとその背中を必死に追いかけていたんです」

 人型機動兵器、超人、魔法少女……津々浦々の世界から呼び集められた特異点たちが
敵味方入り乱れ、次元を揺るがす程の大戦の中に身を投じていたと言う月美。
やがて事態は収束し、月美も元の世界へと還り平和な生活を送っていたのだが、
それはある日突如として崩壊した。

「父によれば、滅びの現象は悪しき者たちの負の想念が引き起こしている、
と言っていました」
「アナザーライダーやモンスターが現れたのも、そのせいかな?」

「可能性はあると思います。早く何とかしないと、この世界も
私が暮らしていた世界のような末路を辿ってしまうかも知れません。
でも、何をどうすればそれを止められるのか、私だけでは途方も無い話で……」

「――生まれた世界を違える我々がこうして巡り逢った事にも、何か意味があるのだろう」
「そうですね。私達にもお手伝いさせて下さい、月美さん」
「俺たちが力を合わせれば、行けるって気がする!」

21人目

「ジャスト・ライク・マリーアントワネット」

日向月美は、嬉しかった。そして、心の底から、安心していた。
目の前に居る異世界の英傑三人、彼らの心強い言葉を聞いて、自然と力が抜けてしまう。今の今まで、無意識の内に肩が強張ってしまっていたのだと実感する。それも、当然のことと言えば、そうなのだろう。

『この世界の命運ももはや風前の灯火。亡き我が妻が鍛えた「織姫」「彦星」と共に
この未曾有の危機を救うのだ』

ふとした瞬間、父の言葉が蘇る。何度も、何度も。単純な話、月美の両肩にのしかかっていた、”世界を救う”という重荷は、未だ一介の少女であった彼女にとって重すぎたのだ。自分のこれからの行為次第で、世界に住まう幾つもの命が、そして父の命が、露と消えてしまうかもしれない。それが、恐ろしくてたまらなかった。前のように、様々な人物からの助けも得られないかもしれない。そんな不安があったからこそ、彼らの言葉が、月美の心に、強く、強く、染み渡った。

「皆さん、ありがとうございます……!本当に……!本当に……!」

思わず、涙ぐんでしまいそうになる。それでも、心からの感謝の言葉を繰り返す。共に戦う、そう言ってくれてありがとうございます、と何度も。そんな月美の背中をローラが優しく撫で、ソウゴは、順一郎を呼んでティッシュを探しに立ち上がり、その光景をアレクが眺めていた。アレクも、ローラも、慈愛の感情が顔に出ていた。

「……アレク様」
「如何なされた、ローラひm……ローラ」
「今のアレク様、とても良い笑顔を浮かべていましたよ。普段からそのような顔をなされたら良いのですが」
「……はい。善処致します」




「ティッシュありがと、おじさん」
「ああいいよいいよ。それよりソウゴ君、月美ちゃん、大丈夫そうかな?」
「大丈夫だよ。俺も、アレクもローラもいるんだし」
「そう……ならいいけど」

クジゴジ堂、という時計店は、店主の人の良さが、売りの一つと言えるだろう。一介の時計店でしかないにも関わらず、本来は専門外であろう電化製品の修理、果てには下宿までさせていたこともあった。故に、同居人のソウゴが、月美用のティッシュを催促しに来て、彼女について順一郎が心配しないわけが無かった。

「すみません。少し、宜しいでしょうか……」

からん、と扉が開く。

「私、『吉良吉影』と、申します」

22人目

「吉良吉影! クジゴジ堂を訪れる」

 スーツ姿の男性が、店内へと入ってきた。
その男性は、一見すると普通のサラリーマンと言った風貌だった。
順一郎は別け隔てなく接客する。

「ああ、いらっしゃい。何かお探しで?」
「ええ……少し……『探し物』を、ね……」

「――!?」

 吉良吉影がクジゴジ堂を訪れた瞬間、月美の体に得も知れない怖気が走る。
高い霊感を持つ月美は、吉良吉影の中にある黒い『何か』を敏感に感じ取ったのだ。
一目見ただけで、彼のことが普通ではないと感じ取っていた。
理由は簡単だ。彼から放たれている雰囲気が、あまりにも異質すぎるからだ。
どこか、不気味さを感じさせるようなオーラを放っているようにすら感じる。


ドドドドドドドドドドドドドドドドド……


「ンン……?」
「……」

 そしてその月美の視線を吉良は見逃さなかった。
咄嗟に顔を背ける月美。その長い髪の間から覗く綺麗なうなじ……

(ほォう……)

 それを見た途端、彼の頭の中に邪悪かつ醜悪な考えが浮かんでいた。
彼は気づかれぬよう舌なめずりをして、月美の方へ一歩ずつ歩み寄る。
それに気づいたのか、月美もじりじりと後ずさる。
二人の距離は少しずつ縮まっていく。もうお互いの息がかかるほど近くなったところで……
ガシッ!! と、月美の腕を掴んだ。
突然の出来事で頭が追いつかず、恐怖で体が動かせなくなる。
そんな月美の様子を見て、表情を変える事無く、こう言い放った。

「君の……その『手』を見せてくれないか……? ちょっとした……
興味本位……なのだがね……」

 ゾワァッ……と、全身の毛が逆立つ感覚に襲われる。
何故この人はわたしの手を見たいのだろうか、と疑問に思う。
だが、そんなことよりも、今この状況から逃げ出さなければならない、という考えで
頭の中がいっぱいになっていた。
月美とて、数多くの修羅場を潜って来たつもりだ。
しかし、今まで戦ってきた相手とはカテゴリーが違う。こんなにも距離が狭まった状態で、
冷気にも似た殺気に曝されたことはなかった。

 月美の額から冷や汗が流れ落ちる。
それを拭うこともせず、ただじっと見つめてくる瞳から目を逸らす。

(この娘……『気づいている』のか……私の目的に……)
(この人……危険だわ……)


(店の中には私を除き『5人』……まずは……この娘からか……)

23人目

「トヘロス」

アレクがそうぽつり、と呟くと魔力が微かでもある者は辺り一帯に清浄なる空気のようなのが広がったのを感じた。

「アレク様、何故トヘロスを?」
「魔の者かどうか確かめました」

トヘロスとは聖なる魔力を辺りに一定時間広げて使用者よりも力量の低い魔の者を近づけなくする呪文である。
使用者と力量が近いか、より上回っている相手には効果は無いが、それでもなんとなくの不快感を与える程度の効果はある。
魔力の放出方法を変える事で眠る時に魔物に見つかりにくくなるという応用も出来る戦闘用でない冒険者の呪文だ。


「魔の者?いきなりご挨拶な……」
「魔の存在では無いようですが、ただの人間でも邪悪な輩はいくらでもいるものです」

抗議の声をあげようとした吉良の言葉を無視する形で断ち切りアレクは少しづつ吉良からローラをかばうように立ちあがった。

「えーとアレク君だっけ?いくらソウゴ君のお友達でもお客様にそういう態度を取られたら困るんだけど」
「失礼、時計の用で来たわけではない」
「まーこのパターンも慣れちゃったけどね!うち時計屋なのになんでしょっちゅうこうなっちゃうかなー!」

剣呑な雰囲気を見かねて口を挟んだ順一郎であったが探し物というワードから微かに抱いていた希望を改めて砕かれるという結果になってしまった。

「アレク様、とりあえずお話だけでも聞いてみてはどうでしょうか」

アレクの陰にすっぽりと納まり吉良からは姿が見えないローラの声だ。
吉良視点からは鎧を着て帯剣している偉丈夫の股間のあたりから可憐な女性の声がしてるように見える。

「しかし安全な人間かわかりません」
「アレク様は魔物でもない相手から私を守る自信が無いとでも?」
「む……」

口での勝負となるとアレクはローラに勝った事がない。

「この方からは不思議な雰囲気を感じます、何かしらの情報を持っているかもしれませんわ」

今までの冒険から情報の大切さは身に染みている。
アレクは腕を組んで改めて椅子にどっかりと座りこんで黙った。

ローラにはその沈黙はローラの言葉を受け入れ、吉良に敵意をぶつける事をやめたという意味があるのはわかるが、見るものが見ればその態度もまた威圧や敵対的と判断するには十分なものだった。

24人目

「始まりのいろは」

 クジゴジ堂にて第一の刺客、吉良吉影と一触即発の会談に臨むアレクたち。
一方その頃……


ーー神浜市。

「へえー、ひでえ有り様だなー」

 新興都市の片隅に居を構える旧・宿泊施設「みかづき荘」。
そのリビングにあるソファーに身を沈める金髪の少女。
両足をだらしなくテーブルの上に投げ出してTVのニュースを眺めている。
内容は勿論、ジオウやアレク、ローラ、そして月美が
アナザーライダーやモンスターと戦った後の現場の中継模様だ。

「ちょっとフェリシア。足を降ろしなさい。ごはん抜きにするわよ」

 すかさず行儀の悪い深月フェリシアの態度を嗜めるのは
みかづき荘の家主、七海やちよだ。ごはん、と言われれば
言う事を聞かざるを得ない。ささっとやちよの言葉に従う。

「へいへい」
「まったく……」

 反省の色が感じられないフェリシアの返事に肩を竦めて溜め息をつく。
多少は丸くなったとは言え、フェリシアの粗暴さは出会った頃から
あまり変わってはいない。

「でもさー、やちよ。これ見ろよ。
街がすんげーメチャクチャになってんぞ」
「確かに……」

 神浜からはやや離れた地点にある町。
ガス爆発などの類にしては規模が大きすぎる。
インタビューを受ける現場の一般市民たちも「勇者」「魔王」「モンスター」などの
不可思議な単語を羅列するばかり。

『こちらは、視聴者提供によるスマートフォンで撮影された映像です』

 慌てていたのか手ブレが酷く不鮮明ではあるがマントを靡かせ、怪物を叩き斬る甲冑の騎士。それをサポートするように
指先から光を放つ女性。高速のバイクに跨がり、廃墟を駆け抜ける黒い魔王。
どれも常識を逸した光景だ。

「魔法少女、じゃねーよな……」
「それらしく見えなくもないけど……」

「おはようございます、フェリシアちゃん、やちよさん」

 とん、とん、と2Fから階段を降りてくる桃色の髪をサイドで編み上げた少女。
環いろは。

「いろは、これ見ろよ」
「わあ、何があったんだろう。魔女の仕業でしょうか?」

 魔女。世に厄災を振り撒く存在。

「魔女は自らの結界に引き籠り姿を現さない。
魔女ではない、けれどそれに匹敵する何かが暴れたと言う事でしょうね」

 そう、彼女らは魔法少女。
願いの代償に魔女と戦う宿命を背負いし者たち。

「気になりますね……」

25人目

「そして集いしSTARDUST」 

 神浜市。ここには多くの魔法少女が世を忍び暮らしている。
悲喜交々様々あるが皆、宇宙生物インキュベーターこと
キュゥべえとの契約の下に魔法少女としての力を得た。
そんな中にあって中立を貫いているのが「調整屋」。その店主、八雲みたまだ。

「いらっしゃーい」

 この日もいつものように調整屋の扉を開けると
カウンターの奥で椅子に座っていたみたまは
いつものように間延びした声で挨拶した。
この店では様々なものが売買されている。
魔法少女の命の源、ソウルジェムの調整や強化。
あるいは回復薬など。

「急に呼びつけてごめんなさいね」
「何があったんだ?」
「実は……」

 みたまに呼ばれたのは十咎ももこだった。
彼女もまた魔法少女であり調整屋の常連客の一人でもある。

「果てなしのミラーズから知らない男が出てきた!?」

 果てなしのミラーズとは鏡の魔女の結界のことだ。
ミラーズは魔女の領域でありそこには通常人間が入ることはできない。
常に内部構造が変化し中には恐ろしい怪物も蠢く。
普段はみたまが管理しているが時折このような現象が起きることがある。

「そうなのよ。それもかなり手練れみたい」
「手練れって……まあ、ミラーズから無事に出てくるぐらいだから、そうか」
「それに結構男前なのよねえ。
ちょっと気になるじゃない? 今、奥の応接室にいるんだけど……」

「どんな奴か見てやろう」

 そう言って、ももこは応接室のドアをノックする。
中には帽子にロングコートと全身真っ白な出で立ちで
コーヒーを傾ける長身の男が座っていた。

「アンタがミラーズから来たって人かい?」
「ああ、そうだ。俺の名は空条承太郎。海洋学者だ。
ひとつ、妙な事を聞くかも知れないが……ここは『杜王町』じゃあないのか?」

「もりおー? ここは神浜だけど」

(神浜……まったく聞いた事の無い地名だ。
『吉良吉影』を追って俺は杜王町に来たはずだが)

 少ない情報を頭の中で統合していくと、
やはり果てなしのミラーズに迷い込んだ事が発端らしい。

「時折、違う世界や場所から果てなしのミラーズに入り込んでしまう人が
いるんですよ」
(やはりか……この空条承太郎、若い時分に随分と修羅場を潜ったおかげで
多少の事には動じないと言う『自負』があったつもりだが……
やれやれだぜ……)

26人目

「絡み合うエンブリオン」

夕方のオレンジ色と夜の黒みがかった藍色が混ざり合う、午後7時。太陽の輝きも地平線に半身を隠し、入れ替わるように月が到来し始める、そのちょうど狭間の時間。

「ほんっと……わけわかんねえ」

相も変わらずビルの屋上、日の光で暖められた熱が未だ残るコンクリートの上で大の字になって寝そべる男が、一人。オブリガードの楽士、ムーくんその人であった。漸く煩わしく輝く太陽の時間が終わり、宇宙の景色をそのまま投影したような星空が拝めるはずだ。何故自分がここにいるのか、何故自分が楽士の姿のままいるのか、そんな疑問、現実から少しでも逃避しようとする様は、傍から見れば滑稽でもあった。

「無事か」

しかし、いつだって現実は理不尽だ。この世界(げんじつ)はムーくんに現実逃避をさせる時間すら、十分に与えるつもりはないようだった。突如として現れた、紫のカラーリングをした、まるでテレビゲームの画面から出てきた、ゴースト、とでも表現したらいいのだろうか。件のゴースト───アナザー龍騎と共に出現したメトロゴースト────に襲われたのだ。そして、助けられた。

問題は、その助けられた人物───そもそも、人であるかすら不明だが───の外見が、メトロゴーストの数倍、おぞましく、まさにモンスターと言い表すに相応しい外見をしていたからだ。頭頂から縦に割れた口が、言葉を紡ぎ出す。

「ああ。名乗るのが、まだだったな。俺は、『ゲイル』だ」

起伏のない、平坦な声で、それは言った。聞く人が人なら、無感情である、とも感じるかもしれない。

しかし、ムーくんはそうは思えなかった。何か、仮にオーラ、とでも表現しようか、嘗て夢を追い求めた【家永むつを】の残骸が、告げている。眼前に佇むそいつは、昔のお前なんかよりもずっと、ずっと強い何か、熱いものを胸に秘めているぞ、と。思わず、目を逸らす。怪物じみた外見に恐れをなしたのではない、ただでさえ維持できない、『ムーくん』という自分が、粉々に砕かれてしまいそうな気がしたから。つまりは、彼の精神が、ゲイルという異形が持つ熱く、眩しい魂を、直視出来なかった、ということだった。

27人目

「万々歳に行こう!」

 承太郎は、みたまとももこから神浜の街やこの世界についての話を聞かされた。

「ふむ……」

 どうやらこの世界は承太郎がいた世界よりも技術が進み、
尚且つ人間の理解を超えた存在が溢れ返っているようだ。

「その……『果てなしのミラーズ』……だったか。もう一度その中を潜って
俺が元いた世界に戻る事は出来ないのか」

 承太郎はS県・杜王町に潜伏する殺人鬼、吉良吉影の行方を追っていた。
その最中、果てなしのミラーズの中に迷い込みこの世界にやってきてしまったと言う訳だ。

「難しいかも知れません。ここ最近、ミラーズの結界はとても不安定で、
内部構造も常に変化し続けています。正直、承太郎さんがこうして通常空間に
無事に出てこれたのも奇跡に近い事なんです」
「アンタ、相当腕っぷしに覚えがあるのかい? ミラーズの中はバケモノだらけで
まず普通の人間じゃ太刀打ち出来ないようなのがウジャウジャしてただろ?」

 承太郎は身長190cm超と、日本人の平均身長を大きく上回る体格に恵まれてはいる。
だが、ミラーズ内の怪物たちにとってはそんなものは誤差でしかないだろう。

「……まあ、身を守る術ぐらいは持ち合わせていると言う所だ」

 帽子の鍔を下げ、承太郎は視線を落とす。 

「とにかく、元の世界に帰る方法を探さねばならない。少し、この神浜と言う街を
探索してみる事にするか……」

 承太郎はすっくと立ち上がり、部屋を出て行こうとする。

「あ、それじゃあさ。あたしが少しばかり付き合うよ。道案内くらいは出来るからね」
「そいつは助かるな。それじゃあ、世話になる事にしよう」

 こうして、承太郎とももこはみたまの店を出て行った。

「気をつけて行ってらっしゃ~い」

 みたまの声を背に受けながら……。

「承太郎さん、お腹空いてない? 知り合いがお店をやってるんで、
良かったらそこで食べてかない?」

 道中、ももこがそう切り出した。

「ああ、頼もう」
「万々歳って言う中華料理屋さんなんだけどね。値段の割にボリューム満点なんだ」

 2人は大通りに出て、そこから伸びる道を進んで行く。
すると程なくして中華風の建物が見えてきた。
店の前には赤い看板に白い文字で店名が書かれている。

「あれだよ。あそこのチャーハンはオススメかな」
「ほう、それは楽しみだな」

28人目

「革新的に生まれ変われ」

 周囲の好奇の視線に晒され、身を縮こませ、ずず、と音を立てながら、オブリガードの楽士、ムーくんはラーメンの麵を啜り始めた。宇宙服、というコスプレじみた衣装を身に纏った彼は、この中間料理店において目立つにも程があるが、今はそう我儘も言ってはいられない。

「ふむ、器用だな」

 じろり、とムーくんの食べる様子を興味深く覗き込む、緑色の瞳を目が合う。フードを被った、これまた緑色の髪をした男。こいつが、まさかさっき助けられたあのバケモノと同じだとは、正直信じ難い、が。事実だった。

「そんなことより早く飯、食えよ」

 うんざりとした風に、ムーくんは言った。目の前にいる男────ゲイルのことが苦手というのもそうだが、さっさと食事を終えたい、というのがムーくんの本音だった。いつまでも衆目に目立つというのは流石に来るものがある。さっさと食えとにらみつけるムーくんに、ゲイルは何を言うでもなく、自身が頼んだ麻婆豆腐と向かい合った。

 そんなゲイルを見て、ムーくんはうんざりしたようにため息を吐いた。『アートマ』とやらの説明を聞いて嫌々食事をする為にここまで足を運んだのだが……

 運よく目に止まった万々歳、とかいう名前の中華料理店は、時間が時間ということもあってかそこそこに混んでいる。店員だろうか、年相応の溌溂さが伺える少女に自身の服装を見て驚かれた時は、穴があったら入りたい気分だった。

「はぁ……ったくなんでこんな事に……」
「喰わないのか、冷めるぞ」

 今度は、ゲイルがムーくんに一言を入れる番だった。

「そういや、やってたな。ニュースでも」

 このままゲイルの言うことを聞くのも何か癪な気持ちになって、ムーくんは話を降った。万々歳へ向かう途中の家電量販店のモニターで、勇者と魔王、その邂逅となった一連の騒動を彼らは知っていたのだった。その言葉を聞いて、ゲイルはふと、顎に手をやり、考えるそぶりを見せた。

「……ああ。そのようだ。どうやらここも、ニルヴァーナと呼ぶには、未だ程遠いらしい」
「何だよ、ニルヴァーナって」

 そう聞き返すなり、また押し黙ってしまうゲイル。「冷めるぞ」と再び咎める口調で言うゲイルに今度は従い、ラーメンに箸を向けたムーくんをよそに、今もまた来客を告げる店員の声が木霊していた。

29人目

「因縁」

「あ、いらっしゃいももこちゃーん……わっ、大きな男の人……知り合い?」

 来店した承太郎とももこを出迎えたのは万々歳の看板娘、由比鶴乃であった。

「ちょっと訳があってね。色々と話してたら、
お腹空いたから一緒にご飯を食べよう! ってなって」

 ももこの言葉を受けて、へぇ~と感心したような声を上げ、
まじまじと承太郎の顔を見上げる。

「そっかそっか、それじゃごゆっくり~!」

 そう言い残し、鶴乃は厨房へと消えていった。
承太郎とももこはカウンター席に隣り合って座ると、メニュー表を開いた。

「承太郎さん、どれにする? あたしはねぇ……」
「む……」

 メニュー表を読んでいるももこをよそに、承太郎はやたらと目につく
テーブル席の2人組の姿が気になっていた。
ゲイルとムーくんだ。

「あの男……」

 ゲイルはすぐさま承太郎の視線に気がついたようで、一瞬だけ視線を合わせた。
だが、すぐに目をそらすと、そのまま食事を再開した。

「なんだよ、あんまり客をジロジロ見るなよ。ただでさえ目立ってんだからさ」

 ムーくんの言葉を受け、ゲイルは「すまない」と短く答えた。
座席上、承太郎に背を向けた格好になっているためムーくんは気がついていない様子だ。

「注文、決まった?」

 ももこに声をかけられ、承太郎もメニュー表に目を戻した。

「ああ」
「すみませーん」
「はいは~い」

 ももこが呼ぶと、厨房の方から元気の良い返事が返ってきた。

「あ、やっぱり気になりました? あの人達。わたしもびっくりしちゃって」

 鶴乃は承太郎にムーくんとゲイルについて耳打ちをした。

「あいつらは良くこの店に来るのか?」
「いや、初めてですね。何かのコスプレかなぁ」

 不思議そうな顔をする鶴乃。

「でも最近じゃ珍しくもないかも。ほら、あれとか……」

 鶴乃が店に設置されたテレビで報道している、件のアレクやジオウが街中で
モンスターと戦っていた事件のことを話題に出すと、承太郎は少しばかり
興味を示した様子でテレビに視線を移した。

「む……?」

 不鮮明ではあるが、ジオウやアレクが戦っている姿を物陰から見つめている
怪しげな男の姿が画面に映っていた。

「あの男……まさか、『吉良吉影』……?」

 調査資料で写真を見た覚えがある。だが、何故あの男がこの世界に……?

30人目

「Epilogue」

 ――こうして、様々な異世界から呼び寄せられた者たちが、続々と集結しつつあった。

世界消滅の危機を防ぐため、異能力を駆使して戦う戦士たち。
逆にそれらを「特異点」と称して己が掌中にしようと企む者たち。
そして、そんな戦いを外なる宇宙で傍観する者たち……

 様々な思惑と欲望が入り乱れる中、いよいよ物語は動き出す。
これは、「特異点」を巡る物語である。

英雄たちの交錯が、時を超えて、今再び。


「CROSS HEROES reUNION」EPISODE:1「邂逅の刻」


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to be Continued…