スイートスノウ

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1人目

朝、起きて窓の外を見ると、雪が降り積もっていた。
はしゃいで外に出ると、足を滑らせて、顔から雪に突っ込んでしまった。
……え? 目の前の雪を手ですくい、確かめるように口に入れる。

気のせいじゃない。なんと、雪が甘かった。

2人目

「これは砂糖?」
しかし次に口に入れると辛かったのだ。

「ヒャァァァァ辛い!なんなんだ?これは。」
こんな雪?は俺は知らない。一体何が起こっていると言うのか。
家の中に戻りテレビを付けると「雪が酸っぱくなったり甘くなったりしています。これは一体どう言う現象なんでしょう?」とアナウンサーが専門家に聞いていた。

「これは何かが我々の感覚を操作している可能性があります。その影響で雪が甘くなったり辛くなるのでしょう。しかし今後は雪だけじゃなく全ての事に影響出ると思います。」
「感覚を操作する……ですか。それができるとしたらやはり最近噂されている超人類でしょうか?」
「超人類とみて間違いないでしょう。」
そんな会話をしていた。

超人類……数年前に目撃されたと言われている人類よりも優れた生物。
未だに完全に目撃された事も無いからデマという噂も出たくらいだ。そんな未知な生物の仕業だとは俺は考えられ無かった。

3人目

「超人類? 私、そうだけど」
超人類、めっちゃ近くにいたんですけど! 未知の生物、隣の家の幼馴染だったよ……!
幼馴染の少女は雪玉を作って、俺にぶつけてくる。やめて! 背中に入れるな!

え、あの。感覚を操作する、とか聞いたんだけど、どうやってやってるんですか……? 
そう尋ねると「え。わかんないよ」と返ってきた。
「ただ、今朝に限っては、雪が降ってるなー。雪が甘いと楽しいよね、とか考えたかも」

「で、そのあとに激辛ラーメン食べたかな。うん」
操作というか、ほぼ本人の思った事や体験などが反映しているようだった。
「ああ、そうそう。校長も確か、超人類だよ」

校長まで! あのハ……いや、眩しい校長先生! 人類よりも優れててもハゲなんだな!
けっこう身近にいたんじゃないか、超人類。
完全に目撃された事がないからデマ、とか国の調査、無能すぎるんじゃないの。

言われてみると確かにこの幼馴染、勉強してる様子もないのにテストは毎回上位だし。
運動神経も良いから、球技大会とかでも目立ってるよな……。
超人類かあ。なってみたいなあ。俺がそうつぶやくと、幼馴染が口を開いた。

「え? なれるよ?」

4人目

超人類って途中からなれたりするものなんだ。俺は少し驚いた。
彼女は少しの間、俺のことをじっと見つめてから、プイっと横を向いた。えっとね、そう言って超人類のなり方を説明し始める。
「こう、空をイメージして目を閉じて、そこにある炎をがっと掴むの。そしたらぐわって力が湧いてくるから、それをばーって」
さっぱり言っていることが分からなかった。やっぱり天才ってこういう人のことを言うんだな。操るのが感覚ならば、会得するのも感覚。凡人の俺にはとてもできそうにない。
「分かったかな?」
真っすぐな黒い瞳が俺を覗き込む。思わず俺は首を縦に振っていた。ちっともわかっちゃいないっていうのに。
「ならよかった」
小さく言って彼女は微笑む。
何だかその姿を見ていると、胸の辺りがきゅっとなった。
「あっ」
白い吐息と一緒に、彼女は短く呟いた。俺は少しだけ目を見開いて、首をかしげた。
一瞬だけ目が合う。
こぼれた言葉を拾うことなく、彼女は下を向いてしまった。するとなぜか俺の顔が熱にほだされていく。
口の中には甘酸っぱい感覚が広がっていた。
そこで俺は雪を口にした時のことを思い出した。これは、もしかして彼女の感覚?

5人目

まずい。何か、ドキドキしてきたぞ……。
これは俺がドキドキしてるの? 彼女のドキドキが影響してるの……?
今度は、何か無性に手をつなぎたくなってきた。なに、この感覚……。

でも、手をつなごうなんて言えない。恥ずかしい。理由だ。理由を考えよう。
雪玉を作ってたら、手が冷たくなったから……。これだ……!
……って、これ、めっちゃ彼女側の理由じゃん!

俺、雪玉つくってないし! ぶつけられた側だし!
やっぱり彼女の感覚が影響、伝染してるんだ……!
その時である。妙に身体中が熱くなってきたのだ。熱いというより暑苦しい! キモイ!

「おはよう! 我が愛する生徒たち! ハッハー!」
校長だ! いつの間にか、背後に校長が立っていた。
校長の熱い気持ちが伝染したんだ! キモイ!

校長は高らかに笑いながら去っていった。
何かよくわからない状況になりかけたけど、とりあえず、えっと……。
彼女の感覚だけ受け取っているのは不公平だよな。

俺も超人類になるための一歩を踏み出してみようか。
まずは何をするんだっけ? 隣の彼女にそう尋ねると。
「まずは、幼馴染と手をつなぎます」

そう言って、彼女は笑った。