プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:14

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1人目

「Prologue」

【最終戦争(ラグナロク)編】原文:ノヴァ野郎さん

 アマルガムとの最終決戦を終えた一同は幻想郷での戦いを終え暗黒魔界への
先行部隊などと別れ戻ってきたメンバーと合流、
お互いにそれぞれなにがあったかを報告し合った。

 その後特異点へと向かうメンバー、トゥアハー・デ・ダナンで待機するメンバー、
トゥアハー・デ・ダナンを離れて静養や独自行動などをするメンバーに
分かれることになり、幻想郷から戻ってきたGUTSセレクトはトゥアハー・デ・ダナンを
離れてTPU本部へこれまでのことを報告しに行くことになった。
そして特異点へはゲートを開くゼンカイジャーを始め、マジンガーチームや心の怪盗団、
月美にペル、宗介にかなめ、そして新メンバーのにとりが
それぞれの目的のために向かうことになった。

 特異点にあるリビルドベースに到着後、最終戦争(ラグナロク)の調査のために
特異点組に同行したマジンガーチームは特異点の探索と調査を終え帰還した
アレク、ローラ姫、バーサル騎士ガンダム、アルガス騎士団と再会する。
彼らから特異点で謎の遺跡を発見したという情報を知ったマジンガーチームは、
発見者であるアレク、ローラ姫、バーサル騎士ガンダム、アルガス騎士団と
共にその遺跡へ調査に向かう。そこにはお目当てであったラグナロクの中で起こったと
される各世界の出来事や当時の状況などが壁画として描かれており、
その中には甲児達の住むリ・ユニオン・スクエアの超古代文明や
ゼウスとミケーネ帝国による戦い、更にはアレクやローラ姫が元いた世界に伝わる
ロト伝説やバーサル騎士ガンダム達がいたスダ・ドアカワールドに伝わる
古代の伝説さえもがラグナロクの一部として描かれていた。
他にも遺跡の中にはラグナロクの一部として様々な世界の伝説などが描かれていたが、
彼らはその中でも他よりも大きな壁画を発見する。

 そこに描かれていたのはかつてのCROSS HEROESの姿であった。

【斬鉄剣・修復の旅編】

 斬鉄剣が折れてしまったことで心に傷を負った五ェ門は、千子村正の鍛冶場を訪れ、
剣を鍛え直してもらっていた。村正は無言で金槌を振るい続け、
剣と五ェ門の魂が一体であることを示しながら、五ェ門に覚悟と決意の必要性を説く。
五ェ門は過去の失敗や恐怖と向き合い、自らの心を鍛える覚悟を固めていった。

 村正の助言を受け、五ェ門は山奥の修行場へ向かい、自分自身を鍛え直す決意をする。
険しい山道の先にある滝で、冷たい水流に打たれながら、心を研ぎ澄ませる修行を続ける
五ェ門。しかし、彼が修行に打ち込む中、山を包む怪しい瘴気が濃さを増していく。
彼はまだその異変に気づいていなかったが、新たな困難が迫っていた。

 五ェ門は、斬鉄剣が蘇るその時まで、自らもさらに強く、折れない心を手に入れるため、修行に身を捧げ続けるのだった。

【運命の交差点編】

 荒野と化した戦場での決戦が終わり、捕虜となったレナード・テスタロッサと
アンドレイ・セルゲイビッチ・カリーニンは、司法取引を受けるため尋問室に送られる。
彼らの証言が事件を大きく動かす可能性があるが、結果はまだ不透明。

 一方、渾沌結社グランドクロスの幹部「殲滅少女」ブーゲンビリアは、
メサイア教団の私兵団を壊滅させ、養分として教団兵士たちの命を吸収する。
彼女は次なる獲物を求め、ペルとの再戦を待ち望んでいた。

 特異点ではシャドウたちが再び地上に出現し、地上に脅威を与え始める。
カーミラ、荊軻、メディアがシャドウの討伐に乗り出し、
巨大なシャドウ「アバドン」との激闘を繰り広げる。
彼女たちは過去の記憶や後悔に直面しつつも、メディアの「ルールブレイカー」で
アバドンの力を無効化。荊軻とカーミラの連携でアバドンを討ち、
シャドウの脅威を一時的に退けた。しかし、やはりメメントスの再調査を行わねば
問題の根本は解決できないと言う結論に至る。

 一方、レジェンドとゾックス(ツーカイザー)の激しい戦いは続いていた。
ツーカイザーの「シンケンフォーム」による猛攻に対し、
レジェンドは仮面ライダー鎧武の力で対抗。侍と戦国武将、一進一退の戦いを展開。
仮面ライダーとスーパー戦隊の力が交錯する中、二人の戦いはますます激化していく。

 ゲイルとヒートは新たな冒険に旅立つ。彼らは敵対するジェナ・エンジェルからの
情報を手に、エンブリオンのメンバーであるセラフィータを探し出すために出発する。
トゥアハー・デ・ダナンの解析班によって端末の安全が確認されたものの、
二人はそれが罠である可能性を捨てきれない。ヒートは不安を抱えながらも、
「進むしかない」という強い意志を持って、ゲイルと共に危険な旅路に出発することを
決意する。

 それぞれの運命が交錯する中、戦いはさらなる激化を予感させる。

【第二次メメントス調査隊編】

 特異点に到着したCROSS HEROES。第2次メメントス調査のメンバーが選定され、
ペルフェクタリア、日向月美、門矢士、カルデアから召喚されたサーヴァントたちが
参戦する。地上で起こる妙な事件の対応を任されるクイーンとヴァイオレットに代わり、
宇津見エリセやイリヤスフィール・フォン・アインツベルンや太公望、
沖田総司・オルタなど、様々なメンバーがメメントスに挑む。
思わぬアクシデントによって深い眠りに入った沖田オルタに代わってその愛刀・煉獄が
姿を現すなど、参加者たちはそれぞれの「オルタ」や「ペルソナ」と向き合いながら、
メメントスでの戦いに備えていた。

 一行がメメントスに到着すると、予想以上の不気味な雰囲気に包まれた迷宮が広がり、
さらなる混沌が待ち受けていることが明らかになる。
次々と出現するニンジャ軍団との戦い。ペルフェクタリアと煉獄は
戦闘において連携し、冷静かつ圧倒的な力を発揮する。混戦の中で協力しながら
次々とニンジャ軍団を撃破していく調査隊。
しかし、エリセの邪霊の力と月美の退魔の力……複雑な心境と共に対照的な二人の間に漂う不協和音、さらにメメントス内部にはまだ解き明かされていない秘密も
未だ隠されているのだ……

【特異点・大規模消失事件編】

 特異点でメサイア教団のアディシェス騎士団が進軍しているとの情報を受け、
カルデアからの偵察任務として現地に向かった望月千代女。
しかし、そこには2500人もの騎士団の痕跡が残されているものの、
人間だけが忽然と姿を消していた。大規模な軍勢の不可解な消失事件……
戦闘の痕跡もなく、ただ静寂が広がる荒野に疑念が募る。

 千代女は状況を冷静に分析し、外力の介入による神隠しのような現象を疑うが、
確たる手がかりは見つからない。焦燥感を抱えながらも冷静さを保ち、
リビルド・ベースに戻り、藤丸立香とマシュに報告する。
千代女は自身の呪い「おろちの呪」にも反応がないことに驚きを隠せず、
立香たちも計器類での反応がなかったことに困惑する。

 その間、特異点の地を悠々と闊歩する謎の超越者が存在していた。
千代女たちは、この異常現象の背後に潜む謎を解明するべく、
危機を予感しながら次の行動を考える。

2人目

「昏き炎に影が差す その1」

「ゼクシオンか。」
 目の前にいる陰暗な男。
 影歩む策士、ゼクシオン。
 廃棄孔の怪物の覚醒、その直前に幻想郷から脱出したのは知っていたが、まさかここにいたとは思わなんだ。
「知り合いか?」
「ああ。そして俺たちの敵だ。」

「幻想郷のお仲間はもういいんですか?」
「お前こそ、幻想郷から逃げ帰ったと思えばまさかここにいたなんてな。どうだ、廃棄孔の怪物が倒され計画が御破算になった気分は。」
「悔しいですねぇ泣きたい気分だ。なんて言うと思いましたか?生憎と私はノーバディ。感情を感じられないもので。」
「強がりいいやがって。そうほざいてる時点で内心悔しがってんだろうが。」

「まぁ事実悔しいですよ。だから何です?ただ悔しいだけの私とすでに死んだ同志一人の犠牲と、一実験結果が燃え尽きたくらいで勝った気になっているそちら。滑稽さならそちらの方が上だ。」
 ゼクシオンの観点からすれば、同志焔坂の犠牲なぞどうでもいい部類にある、らしい。
 仮にも共に行動していた仲間を、死んだらどうでもいいと吐き捨てる。
 冷酷無比とは、今の彼にこそふさわしい。
「こいつ……腹立つ野郎だぜ。死んだ仲間のことをゴミ扱いしやがる。」
「はいそこうるさい。裏切り者がしゃべるな。」
 そういいながら、ゼクシオンは自身の得物でもある魔術書レキシコンから、強力な魔弾を放つ。
 大気を震わせる一撃。喰らえが重症では済まない。
「させない!」
 その一撃を、リクのキーブレードが上空へと弾き飛ばす。
 空中で炸裂する魔弾。
 だが、ゼクシオンにとっては謎が尽きない結果で。
「なぜ邪魔をするんです?彼はあなた方の敵でしょうに。光の勇士もヤキが回りましたか?」
「信用ならないがこれでも俺たちの仲間だ。こいつには聞きたいことが山ほどあるしな。まだ死なせるわけにはいかない。」
「そいつは慈悲深いことで。」

「とはいえ、私としては穏便にカルネウスの処刑を執り行いたい。今彼の身柄を大人しく引き渡せば、これ以上何もしませんよ。」
 そういって、右手を差し出すゼクシオン。
「カルネウスを引き渡せ」ということだろうか。
 それを裏付けるように、ゼクシオンは舌戦を続ける。

「どうです?あなた方の敵、メサイア教団大司教の一人が『内輪揉めで死亡』させられるんですよ。少なくともあなた方と刃を交えることなく、そちら側に誰の犠牲も残さずにね。私たちは裏切り者の処刑を、あなた方は邪魔な存在の一人が消えてくれる。互いに利がある、win-winの取引でしょう?」
 冷静に考えれば、この取引は受けるべきだ。
 天賦の域を超えた才能や戦闘力を持った大司教の一人を、互いに血を流すことなく消すことができる。これ以上のない取引はない。
 そも、カルネウスがこの先裏切る可能性もあるのなら引き渡す。それが論理的な考え方というもの。

 ―――だが、それでいいのか?
 カルネウスは、どうしても見せたいものがあって仲間になった。
 特異点にいるペルフェクタリアのように、嘘を見抜くことはできないが、それでも言葉に嘘は感じられない。
 もし最後に殺すのならば、ゼクシオンが来たタイミングでリクを彼に売り渡している。それをしなかったところを見ると、本気で裏切ったのは明白だ。

「さっき自分で言っただろ。『仲間一人消えても何の問題もない』って。どうせお前らのことだ、大司教の座なんぞいつでも補充できると思ってんだろ?こちらの仲間を一人消して、仲間は補充するから損失はない。そちら側の裏切り者も消せてさらにハッピーと来た。どこがwin-winだ?」
 即答。
 舌戦でも負けていない。
「それに、ここでカルネウスを売ったら、悔しさのあまり胸糞悪い気持ちになる。なめられた気分になるのは不快だからな。」
「……くっ。これだから心ある人間というものは。心を捨て非情に徹すればいいものを。」
「図星か。まぁいい、ここでお前を倒す。」
「できるのか?」
「ああ。こいつをよく知っているという意味で、現状倒せるのは俺と……あの中のデミックスだけだよ。」
「そいつぁ頼もしいな。俺も援護してやんよ。」
 武器を構える2人。
 ゼクシオンはため息をつく。
 それは諦めか、或いは―――地獄のはじまりか。
「そうですか。ならば仕方ありません。」
 ゼクシオンはおもむろに無線機を取り出し、後方に振り返ったかと思うとどこかへと連絡を始めた。
「こちら大司教ゼクシオン。例の実験を開始しろ。」
「実験。何の話だ。」
「……。」

 黙して答えない。
 むしろ勝ち誇っているまである。
「答えろ、何をした!」
 江ノ島邸の内部で、自分の仲間の身に何かが起きている。
 ゼクシオンは薄気味悪い笑みを浮かべ、リクたちに告げる。
「何って。私の実験をしているんですよ。」
「実験だと!何のことだ!」
「実験……おいおい、まさか。」
 カルネウスの頬に冷や汗が流れる。
「知りたいなら、あなた方も入るとよろしい。まぁ私が思うに今頃、絶望と罪悪感でその顔を曇らせているに違いないでしょうねぇ。」

3人目

「不思議な少年・ジョゼ/あの日メメントスで見た花の名前を僕達はまだ知らない。」

 ――メメントス。

「さてさて、ニンジャ達は一掃出来たようですね。さすが皆さんお強い」

 太公望は軽く笑みを浮かべ、余裕の表情を見せながら周囲を見渡す。
すでに戦場にはニンジャの影は見当たらず、調査隊は一息つけたようだった。

「ふぅ……なんとか片付いたか」

 スカルは拳を緩めながら肩を回し、息を整えていた。彼の体はまだ戦闘の余韻で
熱を帯びていたが、ニンジャ軍団を撃退したことにホッとした表情を見せる。

「けどよ、アンタは随分余裕そうじゃねえか」
「はっはっは。貴方がたのおかげで余力を残せたんですよ。よっ、怪盗団の切り込み隊長」
「隊長……ま、まあ、そう呼ばれて悪い気はしねえかなぁ……なっはははははは!!」

(スカル……あっさり口車に乗せられやがって……あのタイコーボーとか言う男、
随分と頭が回るみてえだ。人の扱いの何たるかに長けてやがる)

 まんまと太公望の話術に乗せられるスカルを見て、モルガナはやれやれと首を振った。

「まだ油断するのは早いと思うけど……」

 スカルたちに背を向けたまま、エリセは眼前に広がる闇を見つめている。

「ニンジャどもを倒したとは言っても、それは本当の目的じゃないでしょう」
「確かに、このメメントスにはまだ何かあるように感じますね……」

 その時、突然遠くからエンジンの轟音が響いてきた。
周囲の暗闇が揺らめき、かすかに光が見える。

「なに、あれ?」
「また新たな敵か……?」

 イリヤが目を凝らし、ペルが身構えると、そこには奇妙な光景が広がっていた。
線路の上を小さなバギーが荷物をいっぱいに詰め込みながら、軽快に走ってきたのだ。

「あいつは……?」

 スカルにはその乱入者に心当たりがあった。

「やぁ!」

 バギーに乗っていたのは、不思議な少年・ジョゼだった。
彼は一同に向かって軽く手を振りながら、笑顔を見せている。
そのまま、線路の上を走行して闇の中へと消えていった。

「あの子は……?」
「あいつの名はジョゼ。メメントスの中を彷徨いてる不思議な少年だ。
ワガハイ達も何度か会ったことがあるが……まさかこの特異点のメメントスの中でまで
会うとは思わなかったぜ」

「あいつもイマイチ良く分かんねえ奴なんだよな……敵じゃねえのは確かだけどよ」
「ジョゼにはいろいろ助けられたことがある。あいつは「人間」や「感情」について
研究してるらしく、ワガハイたちと同じようにああやってメメントスを探索してるんだ」

 モルガナやスカルに向けて説明を続けた。

「だが、あいつがいるってことは、ここにはまだ何か重要なものがあるってことかも
しれねぇな……」

 スカルは思案顔で線路の先を見つめた。闇の中に消えていったジョゼが向かう先には、
まだ見ぬ何かが待ち構えているのだろう。

「ま、何はともあれ俺達も先に進むしかないだろう」
「私たちもあちらへ向かいましょう。ここで得られる情報は、
どんな小さな手がかりでも重要です」
「そうだな。これ以上、手詰まりになるのも嫌だし、追いかけるしかないか」
 
 煉獄や月美の言葉にモルガナも賛成し、同意を示す。

「うん、ジョゼって子が何か知ってるなら、話を聞いてみたいし」

 イリヤもまた、ジョゼと言う少年の存在に興味を抱いている。

『イリヤさん、ああ言う男の子がいいんですねぇ』
「そ、そう言うんじゃないから!」

「よし、決まりだ! みんな、行くぞ!」

 ルビーにからかわれているイリヤを尻目に、スカルが先頭に立って歩き出し、
他のメンバーも彼に続く。
線路の上を駆け抜ける彼らの背中には、次なる戦いへの決意がみなぎっていた。

「やあ、おつかれ」 

 人間が他人を労う時に使う挨拶。ジョゼは少し進んだ先の袋小路にバギーを停め、
キャンプを開いていた。メメントス調査隊ならここを必ず訪れるであろうと言う
確信と共に。展開した荷物の中には、あちこちから集めたアイテムがずらりと
並べられている。調査隊一同は一瞬顔を見合わせた。

「すごい数……」
「回復アイテムに、戦闘に使えそうなものまで……」

 女性陣がショッピング気分でジョゼのコレクション群を眺めている中、
ジョゼが口を開く。

「あのお兄さんは一緒じゃないの?」
「いや、今日は別行動だ。ジョーカーは他の調査をしてる。俺たちがこっちのエリアを
担当してんだよ」
「そうなんだ」

 ジョゼはモルガナとの会話の最中に軽く首を傾げながら、何か考えている様子だ。

「お兄さんがいないと、少し寂しいね。でも、ここにいる人達もすごく頼りに
なりそうだから大丈夫だよね!」
「お前、ジョーカーのこと気にしてんのか?」

 スカルが興味深げに尋ねた。

「うん。あのお兄さんはすごく特別な存在だって感じるんだ」とジョゼは言いながら、
笑顔を浮かべた。

「僕がメメントスで会った人たちの中でも、あんなに強い意志を持った人は珍しいよ。
それに、あのお兄さんはただ強いだけじゃなくて、仲間たちを大事にしているのが
すごくよくわかるんだ」

「まったく、ジョーカーは特別だよ。ワガハイたちもあいつに支えられてるからな」と
モルガナが誇らしげに付け加える。

「わかるよ。あのお兄さんがいれば、きっとどんな困難でも
乗り越えられるって感じるんだ」

 今はここにいないジョーカーに思いを馳せつつ、ジョゼは満足げに頷いた。

「せっかくまた会えたんだ。僕も君たちを手伝うよ!  何か困ってることがあったら、
教えてね。このフロアのあちこちにある「花」を集めてきてくれたら、
その数に応じてアイテムと交換してあげるよ」

 ジョゼが指差すと、一定間隔で闇を照らすように仄かな光が灯る。
よく見れば、それは小さな花だ。

「さっきまでは無かった気がするけど……」
「それも『認知』のひとつだ。「そこにある」と脳が認知出来れば、
見えなかったものも見えてくる。ワガハイの言葉も、一度声を聞いた事で
言葉として『認知』出来るようになった結果って事さ」

「ふーん、難しいんだ……」
「とにかく、あの花を探せばいいのか?」

「ボクのアイテムはきっと役に立つと思うよ。奥のフロアに行く前に、
ここで準備をしていくのも良いんじゃないかな?」
「備えあれば何とやら、と申します。ここはこの少年の助言に耳を傾けるとしましょう」

「よし、とりあえずやるか。何人かチームを組んで、この辺りを探索しよう。
あんまり遠くへは行くなよ。迷ったら終わりだぞ」

 こうして、ジョゼのコレクションと交換するための「花」を求めて、
一同はメメントスの探索を開始した。

4人目

「昏き炎に影が差す その2」

 人の醜悪を見た。
 人の絶望を見た。
 人の悪性を見た。
 人の闇黒を見た。
 そして―――人という種の、救いようのなさを知った。

 神に仕え、神に力を与えられたときは幸福だった。
 これで、人類を救えると本気で思っていた。
 救いようのない人間は削除する。
 凶悪犯罪者、その兆候がある人間も削除する。
 社会に迷惑をかける人間は家族でも削除する。
 社会貢献をしない人間は、例外なく削除する。

 美しいはずの地球に醜い人間などいらない。
 キラに力を与えられていた私ならできる。
 そう、信じていた―――。

 だが蓋を開けてみれば、その神でさえ―――醜悪だった。

「魅上ィィ!!何してる……こいつらを、殺せッッ!」

 私の前で醜く、チョコレートを買ってもらえなかった子供のように嘆くキラだった男。
 ふざけるな。そんな也で何が神だ。
 そこにあるのは救済もクソもない、ただの人間ではないか。
 見るに堪えないぞ、夜神月。

 神たるキラが死んだあと、犯罪者は日に日に増えていた。
 美しく清廉な世界は、元の醜悪に戻っていった。

 現代社会は悪性だらけだ。
 人間同士の差別、いじめ、そこからくる復讐を良しとする人間。
 腐敗した権力者どもの語る平和だの幸福論だのは全て取るに足らぬゴミクズ。その内は私利私欲で越えた太っ腹。
 民衆の心は他人の絶望や曇った顔、苦痛にゆがむ姿に興奮を感じる卑怯者ばかり。創作であれ、そんなものに興奮するのは社会悪のやることだ、根絶すべき病原的思想、悪の癌細胞だ。

 しかしてもう、救世主はいない。
 救済の力を与える者も、この世にもう顕現しないと来た。
「俺も反省した。人間にデスノートはまだ早いおもちゃだった。もう人間界に落とすことはしねぇ。じゃあな魅上。二度と会うことはないだろう。」

 私の信じた正義は、すでに間違いだった。
 それどころか、永遠に繰り返すことのできない間違いとなってしまった。
 その間違いこそが、人類救済の一手となるだろうに。

 ―――もううんざりだ。
 キラでさえ救えなかったこの世界に、何の価値がある?
 どうせ人間に同族は救えない。
 いかな救世主でも、世界から「悪」を根絶することはできなかった。
 人の一生など所詮、憎悪と絶望の物語だ。
 いくら美辞麗句を並べてもこの真理は変えようがない。
 現代社会の人間の醜さが、悪意がそれを裏付けている。
 ならばこそこの世界は、終わらせるしかない。

「我々人間は歩むべき道を間違えた。美しい地球に生きる資格など、とうの昔に無くなっていた。」

 女神メアリー・スーの力を以て、腐りきった世界を終わらせる。
 人類を根絶し、女神の持つ魔力を以て新たなる世界に旅立つ。
 善を貴び、悪などない。完全なる清廉の世界。
 汚濁や泥のない川のような、澄み切った善の世界。

 それこそが、私の―――魅上照の望む新世界だ。



「……。」
「江ノ島ちゃん?」
 部屋の隅でしゃがみ込む江ノ島盾子。
 今の彼女に、
「ごめん、やっぱ怖い。」
「怖いなら、手つなぐか?」
 シャルルマーニュがそういって、江ノ島に手を伸ばす。
 彼女も無下にはできず、その手をつかむ。
「立てるか?」
「何とか……。」
(この先に自分の誕生の秘密が眠っている。超高校級の絶望と言われた自分のことだ、きっとろくでもないものだと決まっている。そんな覚悟はできているのに。)

 なぜか、胸騒ぎがする。
 恐怖?不安?不穏?
 でも。真実を見るって決めたんだ。
 とにかく、行かないと――――。

「目標を発見!攻撃を開始する!」
 目の前に現れた、黄色いヘルメットの、テロリスト風の男。
「雀蜂!?」
「教団の刺客か!気をつけろ!」
 刺客たる雀蜂の人数は一人。
 複数体ならともかく、一人なら取るに足らない。
 一対三。余地で勝てる。
「はぁ!」
 真っ先にとびかかったシャルルマーニュの剣閃。
 受ける刹那、相手の雀蜂が何かを投げた。
「……!」
「あっ。」
 それはよく見ると、閃光手榴弾のような。
 しかし、この行動によって防御をする時間は無くなる。
 これによりシャルルマーニュの一撃をもろに受け、ついには斃れた。
「ぐぅっ……!」
「なんだったんだ?今の。」
「暗殺部隊だったんじゃない?」
 突如現れ、何をするまでもなくただ謎の物体を投げただけの雀蜂。
 だが、周りを警戒していたデミックスは、その違和感に真っ先に気づく。

「ていうかあれ?江ノ島ちゃんは……?」



 意識が―――光に溶けていく。
 そのまま眠りにつくように―――私は。

「ここは……?」
 気が付くと、そこは見慣れた光景だった。
 少しカビのにおいが混ざった木々のにおい、見慣れた曇天。
 そしてよく見える、見覚えのある校章。
「希望ヶ峰学園……。」
 その奥で、黒い陽炎のように揺れる人影。
 私は、その姿を知っている。
 わたしは、彼の名前を識っている。

「お前は……苗木、誠。」

5人目

「それぞれの主従/太陽神の亡霊」

 ――メメントスの冷たい風が、重く沈んだ空気を運んでいた。
士、ペルフェクタリア、そして煉獄が歩くその道には、かすかな光と影が交差し、
不思議な静寂が漂っていた。無限に続くかのような闇の中を、ペルフェクタリアは
無言で進んでいく。周囲には仄かな光を放つ「ジョゼの花」が点在しており、
それを次々と拾い集めていく。彼女の動きは機械的で、一つ一つの花を手に取るたびに
慎重にそれを確保していった。

「……」

 ペルは一言も発さない。ただ、その黒い瞳が花の光を反射して静かに輝いていた。
その姿は、メメントスの不気味な風景の中にあっても異質な美しさを放っている。
後ろをついていく士はペルの行動をしばらく見つめていたが、やがて肩を竦め、
軽口を叩いた。

「花を摘む少女って、どう見てもお前のガラじゃないだろう」

 ペルはその言葉に一瞬だけ反応を見せたが、すぐに冷たい視線で士を睨みつけた。

「黙れ。そしてお前も拾え」
「おいおい、怖いな。そう言う尖った所は未だに残っているんだな」
「必要だからやっているだけだ。花なぞ似合わないのは知っている。そう言うのは
たりあにこそ似合う……」

 ペルフェクタリアはそれ以上何も言わず、再び黙々とジョゼの花を拾い集める作業に
戻った。士の言葉に対して特に反論はしなかったが、やはり彼女の優先事項は
今も昔も変わらず平坂たりあなのだと、士は再認識した。その一方で、煉獄が放つ
独特のオーラは、ただの戦士とは一線を画している。

「ところで、お前は男なのか、女なのか?」

 沈黙の中、士がふと思いついたように突如投げかけられた質問は、
あまりに突拍子もなく、しばし空気が静止する。
煉獄は少しも動じることなく、その目を静かに士に向けた。

「そんな区別は俺にはない。俺は主の刀。それ以上でもそれ以下でもないさ」

 少年とも少女とも取れる中性的な容姿とは裏腹に煉獄の声は低く、確信に満ちていた。
性別という概念が煉獄にとって無意味であることを言い放つその姿には、
強烈な使命感が滲み出ている。士は煉獄の堂々とした態度に少しばかりの驚きを
感じつつも、その答えに軽く笑みを浮かべた。

「主の刀、ね……なるほどな」
「その『たりあ』ってのが、お前さんの主か?」

 煉獄の質問に、今度はペルが応じる番だった。
彼女は長い間沈黙を守っていたが、目を伏せて静かに口を開いた。

「私は、たりあの記憶の番人だった。実体を持たない、疑似人格……
たりあの身体を借りることで存在していた。今でこそ、こうして肉体という名の器を
得てはいるが」

 ペルの声は抑揚がなく、冷静だった。しかし、その冷静さの裏に秘められたものが
士や煉獄には感じ取れた。彼女の存在は単なる生命体ではなく、
他者の意志と深く結びついた「次元の番人」という特別な役割を担っていた。

 士は少しだけ眉をひそめ、ペルフェクタリアの言葉を反芻する。

「平坂たりあは暁美ほむらと共にいるんだったな。その出自を考えれば
暁美ほむらは他の誰にも手出しをさせないだろう。そう言う女だ。とりあえずは
安心すると良い」
「……」

 士の言葉に、ペルは返答せず、ただ前を見据えてジョゼの花を拾っている。
その冷静な態度に、士は再び軽く笑みを浮かべる。

「俺の主も同じだ。俺は主の刀。主を守り、命じられるままに敵を斬る。
それが俺の存在理由だ。主を失えば俺は何もない」

 煉獄の言葉は淡々としているが、「主」という存在こそが煉獄の生きる理由であり、刀としての宿命を全うすることが何よりの使命であるという確固たる意志が込められていた。
煉獄にとって、沖田総司オルタはただの命令者ではなく、彼が存在するための
唯一の理由だった。

「……主を守る。それが私の使命。たりあが存在しなければ、私はここにはいない。
だからこそ、たりあを守るために私は存在している」

 ペルフェクタリアの言葉もまた、静かだが力強かった。
彼女にとって、たりあという存在がすべてでありそのために自らを犠牲にすることさえ
厭わない。

「同じだな。主を守る。俺たちはそれだけのために生まれた存在だ」

 煉獄はペルフェクタリアの言葉に深く共感し、その瞳には揺るぎない信念が宿っていた。彼らの言葉にこそ違いがあるが、二人に共通するのは「主を守る」という揺るぎない使命。それは、何よりも強い彼らの絆であり、戦士としての共通の誇りでもあった。
士はそんな二人を見つめながら、軽く笑みを浮かべる。

「何だか、お前たちは似た者同士だな。まるで鏡みたいだ」

 士の軽い言葉は、決して侮辱ではなかった。彼の目には、二人の戦士としての姿が
一つの共鳴を生み出しているように映っていた。ペルフェクタリアも煉獄も、
主を守ることが全てであり、そのために存在している。

 ペルフェクタリアと煉獄は、士の言葉に反応を示すことはなかったが、
互いの存在に対する尊敬の念が静かに流れていた。二人は、それぞれの「主」を
守護する使命を胸に秘めながら、メメントスの闇の中を進んでいく。
士は後ろを歩きながら、ペルと煉獄のツーショットをマゼンタのトイカメラに収めた。

「まだ持っていたのか、そのカメラ」
「当然だ。すべての世界をこのカメラに収める。それが俺の旅の記録にもなる」

 ペルフェクタリアと出会ったときから使い続けている士のトイカメラ。ある意味では
これも長き旅路を共に往く主と従者の関係の一つであるとも呼べるかもしれない。

「門矢士。先程の戦い、見せてもらった。私の知らない力を手に入れたようだな」
「お前と別れた後も、旅は続いていたと言う事さ。そう言うお前も随分腕を上げたな」

 ネオディケイドの力を手に入れた士と、ピッコロやラーメンマンと言った
歴戦の戦士からの教えを授けられたペルフェクタリア。その成長と進化は未だ
留まることを知らない。

「さて、ここらの花は一通り集まったか?」
「そのようだ」

 話している間に、ジョゼの花の回収を完了させた一行。花はひとつに集まり、
光の玉となってジョゼが待っているであろう方角に向かって飛んで行った。

「頃合だな。あの小僧の所まで戻ろう。他のチームも戻っている頃合かも知れないしな」

 士の言葉を合図に作業を終え、戻ろうとする3人。だが……

「! 気をつけろ、何かいるぞ!」

 その殺気に気づいたのは、煉獄だった。

「マグナムショットッ!!」

 突如浴びせかけられる銃撃。ペルは両腕のブレスレットで弾丸の軌道を逸らし、
煉獄は居合で弾丸を真っ二つにした。

「お前は……!」
「ふふふふふふ……ディケイドにとっては迷惑な存在……
GOD秘密警察第一室長こと、アポロガイストだ!」

 かつて、大ショッカーの大幹部として並行世界の悪の組織同志の同盟を
取り持っていた男……燃え盛る太陽を象った真っ赤な仮面に、攻守兼ね備えたシールド
「ガイストカッター」を携え、黒いレザースーツに真白いマントを靡かせる……
大ショッカー壊滅と共にディケイドらに葬られたはずだったが……

「そう言えば、会いたくない相手が出てくるとか言っていたな。このメメントスには……」

6人目

「幕間:バミューダトライアングルの神秘/0」

 存在しなかった世界 円卓の間

「カルネウスの処刑は?」
「数分前ゼクシオンを派遣しました。すぐにでもとらえられるそうです。」
「全く最後まで刹那主義な男よ。奴は裏切り者だ。ここに連れてきた次第速やかに殺せ。申し開きもなしだ。」

 円卓の間で、大司教エイダムとビショップが話をしていた。
 その内容はカルネウスの処刑と『次』の話。

「了解しました。」
 ジャバウォック島のゼクシオンは、教団の指金。
 彼らはカルネウスを本気で処刑するつもりだ。

「……貴様の装置が召喚したアルキメデスはどうしている?」
「彼は現在、藍神という少年の調査に出向いております。放置していても大丈夫です。」
「ところで、貴様が進めているという計画は……。」
「ええ、順調ですよ。サイヤ人だの超人だのを抱えたCROSS HEROES、彼らは我々の『最終目的』を理解していない。」
「最終目的……『■■及び■■の■■』を考慮すれば、サイヤ人だの超人レスラーだの英霊だのアマツミカボシだのをまともに相手する必要はない、と?」
「そうです。迎撃程度に収めればいいのですよ。」

「だが、それを実行しようにも例の海域は。」
「一度入ってしまえば、なんてこともありません。アンカーさえ打ち込めば、虚数空間経由でこちらから人員を派遣できるのですから。もちろん情報統制は地上の教団員が行っております。我々の最終目的にもつながる極秘事項ゆえ、おいそれと言えるものではない。」
 ビショップは悪い笑みを浮かべて続ける。
 いったい何を始めるのか。答えの断片は間もなく判明する。

「最後に勝つのは我々です。我々は目的のためなら大帝も地球も、キラの歴史すらも踏み台にしますよ。はっはっは。」



 ―――アメリカには「バミューダトライアングル」という海域がある。
 この海域に近づく船や飛行機は、なぜか沈没ないし消失してしまうという。

 理由を突き止めようにも、結局分からずじまい。
 謎に満ちたそこは『魔の海域』と呼ばれ、今も畏怖と共に考察が繰り広げられている。

 ある科学者は『地底のメタンガスが海と溶け合い、浮力を奪っている』と言い。
 ある地理学者は『ここは昔から天候があれやすく、地球の引力もひと際強いエリアだった』と言い。
 ある同人作家は『そこで沈没がよく起きていただけ、ただのプラシーボ効果だ』と言い。
 ある都市伝説マニアは『宇宙人の基地があって、その海域に入った物を破壊しているのではないか』と言い。
 ある超人プロレスファンは『ある悪魔超人の訓練の場で、訓練の過程で船や飛行機が姿を消しているんだ』と言い。
 ある魔術師は『この地に渦巻くマナの奔流が、バミューダ海域を通る機械類を狂わせているのだ』と言った。

 異口同音に並べられる多様な考察はあれど「本当の原因」が何なのかは、現在も分かっていない。

 ―――3週間前、謎の鉱物がこの海域で発見されたという。
 赤褐色の水晶にも見えるそれは、波に流されフロリダの海岸に流れ着いた。
 現場の研究者が持ち帰り、調べてみる。
 すると、驚愕の事実が発覚した。

 分子構造は花崗岩でもない、ルビーでもない、玄武岩でもない。
 ほかのどの鉱石にも当てはまらない。完全新種の鉱物。

 研究者が内部構造を調べるために、鉱物を丁寧に割ってみるとそこからすさまじいエネルギーを持った光線が放たれた。
 粉砕を意識した威力ではない、万全を期した準備の上で割った。
 にもかかわらず、鉱物の割れ目からほとばしる閃光が一条の光線となったのだ。
 太さ5ミリ程度の光線は、鉱物を保管していたドラフトの強化ガラスを破壊し、研究者の頬をかすめ、研究室の壁に外までつながる細い穴を開けた。
 幸い大惨事には至らなかった。だがこの事実はその場にいた研究者たちを震撼させた。

 『謎の鉱物光線事件』の数日後、気象衛星の写真がバミューダ海域の中心部をとらえた。
 赤褐色の、無限大の形をした円環の岩石島。
 その周囲一帯には、波に流されて砕けたであろう鉱物のかけらが浮かんでいた。
 海水に散らされているせいか、放たれるはずのエネルギーが飛び散る様子はない。

 のちにこの島は、未知への期待と希望を兼ねて「ユートピア島」と仮称されることになった。
 ユートピア島の情報は、「危険地域かつ未知のエリアで、調査が必要 追って情報を開示する」という理由で世間には秘匿されている。

 しかし、皮肉なるかな!
 この地に絶望郷(ディストピア)を呼ぶ使者が訪れてしまった!



 現在、バミューダ海域 ユートピア島周辺

 周辺に、浮上艇が次々に現れては消える。
 出てきたばかりの艇からは、武装した兵士と武器を詰めたトレーラー、コンテナが現れ島へと運び込まれてゆく。
「こちらメサイア教団鉄脚部隊、虚数浮上完了。ユートピアに「乗艦」しました。いつでも指示を。」
「こちら管制塔。ビショップ様の到着を待て。到着次第、艦を抜錨せよ。」
 荒れ狂うユートピア島は、数日前よりも変わっていた。
 円環の穴は無機質な大型機械とコンクリートによってふさがり、機会を纏ったその様子はまるで巨大空母だ。

「行先は中国・ロプノール地区。当該地区への攻撃が完了次第、第二回同時布教を開始する。よいな?」
「了解しました。」

 それは罪深き人類に対する宣戦布告。
 神話の戦いへの狼煙、その一幕。

Chase Remnant ACT5          人理定礎値:C
―――――――――――――――――――――――――――

  A.D.20XX 神双空中魔艦 ユートピア・フリート

―――――――――――――――――――――――――――
           双力の天空島

7人目

「大ショッカー! 大いなる大組織の大逆襲の序曲/裏切り者と蜘蛛の糸」

 ――メメントスの闇が深まる中、士、ペルフェクタリア、煉獄の3人は
アポロガイストの出現に驚きを隠せなかった。そこで士は、ある結論に辿り着く。

「なるほど……ショッカー大首領がここらを彷徨いてるらしい事と言い、
メメントスの活発化と言い、このジメジメとした暗闇の中で再起を狙ってたって事か。
合点が行った。わざわざこんな陰気な場所に付き合って来てやった甲斐があったかもな」

 かのクォーツァー・パレスでの激闘の最中にも、ショッカーの魔の手は密かに
特異点の各地へと及んでいた。その起点こそが、メメントス……

「その通り。このメメントスなる場所は人間どもの潜在無意識が集約する場所。
人間の恐怖、恨み、悲しみ……それは我々にとっての滋養となっているのだ。
私が生き永らえるためにパーフェクターでライフエナジーを奪っていた時のようにな……」

「アビアビアビーッ!!」
「ズーカーッ!!」

 アポロガイストだけではない。大ショッカーに参画していた怪人たちが
不気味な鳴き声を上げ、暗闇の中に蠢いている。やがては完全なる力と実体を取り戻し、
シャドウのようにメメントスから這い出てくる算段だったに違いない。
ショッカーが丸喜拓人に認知訶学研究のための資金援助を申し出たのも、或いは
この時のためだったのかも知れない。

「ふふふ、ディケイド……我々は何度でも甦る。このメメントスの中で力を蓄え、
そしてやがては地上へと本格的な侵攻を開始するのだ!!」

 不気味な笑い声を上げ、アポロガイストは真っ赤な仮面の下から燃え上がるような
視線を士に向ける。それは、復讐。ディケイドに倒された雪辱を晴らすための……

「メメントスの闇が、過去の敵まで引き戻しているってわけか……傍迷惑な話だ。
だが、残念だったな。ここで俺達に見つかったのが、お前らの運の尽きだ」

 ペルフェクタリアはアポロガイストを一瞥し、冷静に言葉を紡ぐ。

「奴らは……お前の過去の宿敵というわけか。ならば、今ここで終わらせるしかない。
私も、魔殺少女の役目を果たす時だ」

 煉獄もまた納刀の姿勢で、構えた。

「斬り刻み甲斐のありそうな連中だ。この煉獄、立ちはだかるもの一切を斬り捨てる」
「そう言うわけだ。再生怪人は弱体化するのが世の常、覚えておけ」

 士はネオディケイドライバーを腰に装着し、ライダーカードを取り出す。

「変身!」

 カードがディケイドライバーに挿入され、士は瞬く間にネオディケイドの姿に変わった。ペルフェクタリアは既に戦闘態勢を整えており、彼女の黒い瞳が
アポロガイストを鋭く見据える。煉獄はその剣を構え、敵を斬る準備を整えた。

「来い、アポロガイスト!」

 士が挑発すると、アポロガイストは巨大なガイストカッターを構えた。

「ふふふ、2度も私を倒せると思うなよ、ディケイド! メメントスの力は無限だ、
我々の存在を消し去ることはできない! ガイスト! カッタァァァァァァッ!!」

 その瞬間、外周に鋭い刃を携えたアポロガイストのシールドが投擲され、
3人に襲いかかる。咄嗟に散開し、煉獄は壁を蹴り上げた反動でアポロガイストに突撃。

「もらったッ!!」
「どうかな?」

 煉獄は力強い声で言い放ち、空中で抜刀しながらアポロガイストに切り込む。
しかし、その背後からガイストカッターが円弧を描いて再び飛来してきた。

「うおっ……」

 身を捩り、ガイストカッターを回避。だが煉獄の体勢が崩れたその隙を
アポロガイストは見逃さなかった。

「アポロフルーレッ!!」

 突きに特化したアポロガイストの剣が煉獄に迫る。

「くそっ!!」
「はああああああああッ!!」

 刀で受け止めるも、ガラ空きとなった煉獄の懐にアポロガイストの中段蹴りが炸裂。

「ぐはっ……!!」
「煉獄!!」

 煉獄の身体が壁に激突し、土埃が巻き起こった。その安否は定かではない。

「おのれッ……!!」

 煉獄のフォローへ向かおうとするペルに浴びせかけられる、粘着性の高い蜘蛛の糸。

「何っ!?」
『邪魔者には死を。それが私の仕事ですので……』

 無機質な電子音めいた声と共に現れるのは、クモオーグ。
人類の幸福を追求すると言う題目を掲げるSHOCKERの上級幹部だった男。
その主な任務は裏切り者の粛清。両腕を背中に回し、悠然と歩いてくる。

『良いですねぇ……鍛え上げられた肢体。光の無き黒い瞳。そして、その細首……』
「うぐっ……!!」

 蜘蛛の糸で雁字搦めになったペルの首に手をかける。
さらに、クモオーグの背中から生えてくる新たな腕。3対6本の腕と両脚を含めれば、
それは文字通り蜘蛛と同じ足の本数となる。

『実に……殺し甲斐がある……他人の命を私のこの手で奪うこと……
それこそが私の幸福……!!』
「く、ああ……!!」

 じわじわとペルの首を締める手に力を込める。まるでペルが苦しむ様を
一秒でも長く味わうかのように。蜘蛛のマスクの複眼が不気味に点滅している。
それは高揚を表しているのか……仮面によってエゴを増幅し、至上の幸福感に入り浸る……
クモオーグにとっては、「殺人」がそれに該当するのだ。

『さあ、貴女も死んで、私の幸福の一部となってください……!!』

「煉獄! 魔殺少女! くそっ……!!」
「ふっはっはっはっはっは……残念だったな、ディケイド。お仲間は苦戦しているぞ」

 仮面ライダーに倒された怪人たちの温床となっていたメメントス……
ここで食い止めなければ、再び地球は悪の手に沈んでしまうだろう。

(……さあ、この窮地をどう切り抜ける。門矢士……)

 孤軍奮闘するディケイドに視線を向けているのは果たして、敵か、味方か……

8人目

「昏き炎に影が差す その3」

「苗木……誠。」
 再現された、平和だったころの希望ヶ峰学園であることは、江ノ島にはすぐに看破できた。
 自分の識る希望ヶ峰学園は、まるで核シェルターのようになっていた。否、”そうさせた”。
 およそ外部からの攻撃なら、かめはめ波やゲッタービームといった予定外の攻撃でもない限り破ることは容易ではない。

「オ前が、みんナを……。」
 だが、事実希望ヶ峰学園は吹き飛んだ。
 教団の洗脳を受けたエミヤオルタに脅迫され、内側からの爆破により解体、木っ端みじんに吹き飛んだ。

「……許さない、許さない。」
「お前が何と言おうとも、私様は学園爆破の件に関しては無罪だぜ?」
 そうだ。
 江ノ島盾子は「希望ヶ峰学園爆破事件」に関しては無干渉。
 メサイア教団のデミックスとシグバールとは邂逅したものの、学園を破壊しようとは考えていない。

「……だめだ、お前だけは……!」
「あー、そういうことか。」
 澄明かつ事情の側面を知る江ノ島は悟った。
 おそらく目の前の苗木誠は”まだ”生きていて、そのうえでメサイア教団の洗脳を受けてこうして立っていると。
「あの連中……絶望的にむかついてきた。」
 真実を知って胸糞が悪い。
 万人が嘔吐する邪悪とはこういうことか。

「でもな、」
「それを証明する者はいない。」
 刹那、どこからか聞こえる声。
 苗木らしき影が話しているわけじゃない。
 だが、それは確かな実感となって江ノ島盾子の鼓膜を震わせる。

「どこだ!」
 背後を見ても、声の聞こえた方角に振り向いても、そこには誰もいない。
 いるのは黒い陽炎のように揺らめく■■■■■・■■■。

「お前は超高校級の絶望。」
「それゆえ、誰もお前を信じない。」
「誰もお前を愛さない、認めない、救わない。」
「お前に救いはない。」
「全て自業自得だ。」

 自分の所業は、許されない。
 自分が大人なら死刑ものだ。
 だが、その謗りは振り切った。

「………そんな謗りを受けて私様が折れるとでもおもうか?」



 江ノ島邸、玄関前

「……精神攻撃、だと?」
 リクに倒され、馬乗りにされたゼクシオンが不敵に笑う。
 先刻、雀蜂が江ノ島に投げつけたものは精神に対して作用するものだ、と。
「はは、そうですよ。もっと言うなら事実陳列による罪の自覚、というべきでしょうか?」
「何のためにそんなことを?」
「彼女もまた、我々の計画に必要だからです。無傷で手に入れるには心を折るしかない。いま彼女に投げた装置は対象一人の心をへし折る「精神攻撃」専用の魔術箱。あの中にいれば5分もいれば腑抜けになるでしょう。それに、もううすうす分かっているでしょう?我々の計画について。」
「!?」
 数分前に巻き戻される記憶。
 ついさっき、仲間の天宮月夜から話されたあの言葉。
 月夜が出会ったという戦神の見せた未来が真実ならば、その名の存在は近い将来自分たちに牙をむく。
 その名は―――。
「女神、メアリー・スー……!」
「そこまで知ってましたか。ですが、あなた方には止められませんよ?」

「ぐわああああぁあ!?」
 突如、苦悶の叫びをあげたカルネウス。それと同時にゼクシオンはリクの拘束を無理やりに突き飛ばして振りほどき、黒コートの土を払いながら立ち上がった。
「カルネウス!」
「ぐっ……油断したぜオイ!」
「無駄な抵抗はよした方がいいですよ?その影は暴れれば暴れるほど苦痛となってあなたを襲う!」
 抵抗するカルネウスの顔が、苦悶に満ちる。
 まるで神経を鑢で削られているような感覚に襲われている。
「あぁああ!!いってぇ!!くそ、てめぇ……!」
「全く、裏切らなかったらこうはならなかったんです。リクも、大人しくカルネウスの身柄を引き渡していれば、彼を苦しめることにはならなかった。自業自得ですよ。」
「お前……!」
「ははは。少し手間ですが、まずはカルネウスを我々の世界に捕えてから、ゆっくりと戦意喪失した江ノ島盾子を連れ去ると……え?」
 悪辣な笑みを浮かべるゼクシオン。
 リクにはあの影をどうすることもできない。無理に引きはがそうとすれば自分も引きずり込まれるか、逆にカルネウスを苦しめることになるからだ。

 だが、この状況で笑みを浮かべていたのは、勝ち誇っていたゼクシオンだけではなかった。
「ばーか、それで勝ったつもりかよ。」
 悪辣な笑みを浮かべるカルネウス。
 その光景を見たとき、ゼクシオンの表情は勝利を確信した笑みから困惑に、困惑は動揺へと変わった。
「!」
 その刹那、ゼクシオンの視界を通り過ぎる四角い何か。
 それは、研究者株である彼には見慣れた物でもあった。
「まさか……ディスク!?」
「リク……拾え!」
「!」
 地面に落ちるディスクを素早く拾い上げる。
 距離的にはリクの方が圧倒的に近く、ゼクシオンにはどうすることもできなかった。
「カルネウス貴様!この期に及んで悪あがきを……!」
「これは?」
「女神のスペックデータだ!ここに来る前にくすねておいたんだよ!これがあれば対策くらいは練れるだろ!それと、地上に戻ったらお前らのお仲間に伝えろ!2週間後にはこの世界はどうあがいても終わると!」
「何!?」
「最後だから教えてやる!現在メサイア教団は……2つの計画を同時に動かしている!女神計画とバミューダ海域で行われる計画だ!どれか一つでも完遂されれば世界は滅びる!」
「どうすれば解決できる!」
 影に引きずり込まれながら、カルネウスは叫ぶ。
「ジャバウォック島を出たら連中に伝えろ!バミューダ海域だ!そこに行ってビショップを倒せ!」
「くっ……カルネウス!まだ話は終わってない!こっちに来るんだ!」
「だめだ、もうこうなったら俺は助からねぇ!」
 カルネウスは高らかに笑う。
 それはゼクシオンに対する嘲笑か。
 リクに対する励ましか。
 或いは、くそったれな世界への狂笑か。
「クソみじけぇ間だったが、そこそこには楽しかったぜ……あばよ……!!」
「待て!まだ話は!!」
 手を伸ばす。
 しかして、彼が掴んだのは虚空。
 この事実が、助けられなかったという現実を突きつけた。

 カルネウスは影に引きずり込まれた。
 きっとあの先はメサイア教団の本拠地、そこで処刑されることだろう。
 時間的にも、もう助けられない。

「くそ……!!」
「……スペックデータを取られたのは痛いですが、あなたをここで殺して奪い返せばいいだけの事。」

 悔しそうに拳を握る。
 失意で体がどうにかなってしまいそうだ。
 リクの心は、彼(ソラ)ほど剛毅ではない。

「どうやらお互い、同じことを考えていたようだな。」
「何?」

 ―――彼の心にも少しずつ、恩讐の昏き炎が宿りつつあった。

「ゼクシオン、決着をつけよう。」
「いいでしょう、幻想郷の続きです。今度こそあなたを闇の世界へと引きずり込むッ!!」

9人目

「魔神セイバー、再起動/ヒトの幸福」

 ――士、ペルフェクタリア、煉獄は、メメントスの奥深くで士のかつての宿敵、
大ショッカーの怪人たちと再び対峙する運命にあった。
特異点と呼ばれる異常空間の一つであるメメントスは、人間の負の感情が集積する場所。
その暗黒のエネルギーを利用し、ショッカーは復活を企んでいた。

 煉獄がアポロガイストの猛攻に倒れた隙を突いて戦場に現れたのは、
SHOCKER幹部のクモオーグ。彼は粘着質の高い蜘蛛の糸を放ち、
ペルフェクタリアを拘束し、動きを封じる。

 仲間たちが次々と窮地に陥る中、士はアポロガイストに対して
何故か不敵な笑みを浮かべ、「ふふ、はっはっはっはっは……」と笑い出した。
アポロガイストは苛立ち、「何がおかしい! 気でも触れたか!?」と声を荒げる。
対する士の表情から笑みが消え、冷たく言い放った。

「勝った気になるのはまだ早いぜ。ようく見てみろ」
「何ぃ……!?」

 大ショッカーの怪人たちが間近に迫る煉獄の体から黒いオーラが立ち昇り、
その内に眠る存在が覚醒する。

「待たせたな……煉獄、これからが本番だ」
『やぁれやれ、ようやくお目覚めか、主よ……毎度毎度、一度眠り込んだら起きるのが
遅いんだから、ホント』

 煉獄の主、魔神セイバーこと沖田総司オルタがついに目を覚ましたのだ。
煉獄は本来の姿、「煉獄剣」に戻っている。

「ア~ブラ~!」
「クワーッ!!」

 目覚めたばかりの沖田オルタが一斉に飛びかかる大ショッカーの怪人たち。

「行けるか、煉獄」
『無論だ。主と俺が揃った今、何者も我らを阻む事など出来ん!』

 沖田オルタのその瞳がそれらを捉えた瞬間……

「我が光芒、無穹へ通ず……」

 メメントスの暗闇を空間ごと切り裂く金色の剣閃が、縦横無尽、変幻自在に繰り出され
怪人たちを次々と斬り捨てていく。沖田オルタが刀を抜くどころか、斬っている姿さえも
まったく視認することが出来ない。人の姿だった煉獄をも上回る神速……

「無量、無碍、無辺、三光束ねて無穹と成す――」

 そして再び沖田オルタが通常空間へと姿を現した時、煉獄剣から繰り出される黒き光、
必殺の魔剣。


「絶剱ッ! 無穹三段ッ!!」

 
 世に災いをもたらすもの、その存在ごと消滅させる。

「ギャアアアアアアアアアアアアアッ……」

 沖田オルタの宝具は細切れになった大ショッカーの怪人たちを丸ごと吹き飛ばし、
さらにはメメントスの壁にすらも大穴を穿った。

「眠れ、永久(とこしえ)に……」
「な、何だと……!?」

 アポロガイスト、そしてペルを追い詰めていたクモオーグも沖田オルタの鮮烈なる登場に
思わず騒然となる。さらに……

「――絶縁刀」
「むうっ!?」

 クモオーグの糸で覆われていたペルの右腕が淡く発光し、魔力による光の刃を纏って
拘束を断ち切った。クモオーグは寸での所で軽やかにその場から飛び退く。

「ほほう、そのような技を……」

 両腕を後ろ手に回したまま、バク宙で着地するクモオーグ。

「聞く所によれば、貴女も組織の裏切り者なのだとか……それに、その赤いマフラー……
忌々しい記憶が呼び起こされて、大変に不快ですねぇ……!!」

 クモオーグの脳裏に想起される、怨敵との戦い……

「ですがそれだけの力を、何故人間などのために使おうとなさるのです? 
あなたのその拳も元を正せば暗殺拳! 破壊と殺戮のための力は、
己の幸福を追求するために! その素晴らしさが何故分からんのです!?」 

 脳内の快楽物質が大量分泌される。紳士然とした態度も、歪められた多幸感で
上書きされる。

「私には人間の何たるかなど、分からない。人間ではないからな。
幸せと言うのにも正直ピンと来ていない。たりあを守れるのなら、それだけで良い。
いつ消えてしまおうが構わないと思っていた。だが……」


『お姉ちゃん、ありがとう!』
『とっても美味しいよ』


 幻想郷でラーメンマンや月美と共に、難民たちに配って回ったラーメン。
皆、温かいラーメンを食べている時の表情は、笑顔に満ちていた。


「彼らのあの顔を、言葉を、守りたいと思った。お前たちがそれを乱そうとするのなら、
私はそれを止めるために力を使う。魔殺少女としての力を!!」
「――速いッ!?」

 ペルフェクタリアの叫びと共に、彼女は低頭姿勢でクモオーグに向かって突進した。
クモオーグは俊敏な動きにもかかわらず、ペルフェクタリアの攻撃は稲妻の如く速く、
彼女の動きを捉えることができなかった。

「こ、この私が回避するのが、やっとだなどと、そのような事があるはずが!!」

 ペルフェクタリアの拳が空を切り裂くように、閃光と共にクモオーグに迫る。
クモオーグはさらに後退しようと試みるが、ペルフェクタリアの動きはそれを許さない。
彼女の拳と絶縁刀が交互に繰り出され、クモオーグを追い詰めていく。

「お前たちのやり方には反吐が出る……自分の快楽のために、他者の命を弄ぶとは!」

 ペルフェクタリアの声には怒りが込められていた。クモオーグは、
その圧倒的なスピードと力に次第に押され始める。

「く……だが貴女が如何に強かろうと、今一度動きを封じてしまえばこちらのもの!
勝った気になるのは早いですよ!」

 クモオーグは口からさらに多くの蜘蛛の糸を放ち、彼女を支配しようとした。
しかし、その瞬間、ペルフェクタリアの絶縁刀が閃光のように輝き、全ての糸を
一閃で断ち切った。

「あの刃は実体を持たぬエネルギー体……! つまり私の糸とは絡み合わず、
溶断される……相性不利!!」
「これで終わりだ……! ぬんッ!!」

 ペルフェクタリアは魔力を込めたマフラーを伸ばし、クモオーグを拘束する。

「うおっ、し、しまりました……!! よもやこの私自身が囚われるなどと……!!」
「はあああああああああああああああああああッ!!」

 マフラーで雁字搦めにしたクモオーグを強引に振り回し、壁に何度もぶつけながら
その勢いそのままに空中に投げ飛ばす。クモオーグは宙を舞い、天井に叩きつけられた。

「ぐはっ……!」

 クモオーグは苦しげな声を上げながらも、最後の言葉を吐いた。

「あ、貴女には分からない……私の幸せとは、他人の命を囚える、その至高の瞬間……!」

 しかし、ペルフェクタリアは冷然と彼を見上げ、ただ一言。

「分かりたくもない。幸せを求めるために他者を犠牲にする者など、いずれ自らが
撒き散らした因果の糸に絡まるだけだ」
「く、くく……やはり、赤いマフラーは、嫌いですね……」

 クモオーグはその言葉と共に崩れ落ち、泡となって消えていった。

「幸せ、か……人を苦しめる事で幸せを感じる者もいる。人間とは分からないものだ……」

 その戦いは、ペルが人間への理解を深めるための新たな一歩となったのかも知れない……

10人目

「衝撃!明かされるラグナロクの真実《後編》」

「CROSSHEROES…!?じゃあこの壁画描かれてるのが…!」

「我々がCROSSHEROESとして結成される以前に存在していたとされるかつてのCROSSHEROES…!」

「……なんか、俺たちに負けないぐらい個性豊かなだな」

ボスの言うとおり、壁画に書かれてたCROSSHEROESのメンバーは今のCROSSHEROESに負けずとも劣らない個性的な者達ばかりだった。

見た目は子供頭脳は大人な名探偵
片目が髪で隠れてて黒と黄色の横縞模様のちゃんちゃんこを着た少年
自分達の知ってる歴史とは少し異なる戦国時代に活躍した戦国武将
身体の片方が赤色もう片方が青色の人造人間
テンガロンハットを被り黒いタキシードを着た復讐者
不思議なステッキを使って戦う閻魔大王の甥
刃が普通の刀とは反対の位置にある不思議な刀を使うサムライ
腕に銃を取り付けたハードボイルドな宇宙海賊
手足と翼と顔のある黄色の球体とピンクの忍者服を着たくのいちのコンビ
いろは達とは異なるタイプの魔法少女
よろずやを営む白髪のサムライ
鬼の力を左手に封印している先生
お腹に不思議なポケットを付けた青たぬき
他にも人工知能を搭載した未来のロボットやファンタジーな異世界の天才美少女魔術師、魔王にサキュバス、更には宇宙の騎士だったり天下の義賊だったり格闘家だったりと……もはやカオスなんてレベルじゃないぐらいにいろいろとおり、まさしく世界の壁を越えたオールスターズと言えるだろう。

そしてそんなかつてのCROSSHEROESの中に甲児達も知るある人物がいた。

「っ!これは……ルパン三世!?」

なんと、甲児達の世界リ・ユニオン・スクエアで有名な世紀の大泥棒ルパン三世が描かれていたのだ!

「ルパン三世というと……確か我々が港区でメサイア教団と戦っている最中にソロモンの指輪を奪ったという……」

「けどなんでこの壁画にルパン三世が…?」

「平行世界の同一人物……でしょうか…?」

「だとは思うが……」

「……CROSSHEROESという言葉の下にも文章が書かれてますね」

「あぁ、それも見た感じかなりの量だ……時間は掛かるが読んでみるとするか」





一同は壁画の下に書かれた長い文章を読んでいった。
そこに書かれた内容は次のようなものであった。

"かつてCROSSHEROESと戦っていたとある組織はある計画を起こそうとした、その計画自体は最終的にCROSSHEROESの手によってなんとか阻止することに成功した。
がしかし、その計画が実行される中であらゆる世界が次々と融合し混ざりあってしまったのだ。
それに目を付けたオリュンポスの神々(ミケーネ帝国)は世界が混ざりあい繋がってしまったことを利用して数多の平行世界に対して侵略活動を開始、
そしてそれに続くように様々な悪しき者達が同じように他の世界へ侵略行為をするようになり、やがて全ての世界で元の世界の住民と別の世界から侵略者による戦いや別の世界の侵略者同士の戦いが勃発するようになってしまった……これが全平行世界を巻き込んだ史上最大規模の戦争、最終戦争(ラグナロクである。)
全ての世界が戦場と化したこの戦争は、もはや勝者以外の全てが滅びるまで永遠に続くと思われていた。
だがしかし、この最悪の戦争を終わらせようと立ち上がった者達がいた。
それこそが先の戦いを終わらせた英雄たち、CROSSHEROESである。
彼らはミケーネを裏切った光の神ゼウスや勇者ロトを始めとした正しき心の持ち主達や自由を求める者達、平和を取り戻そうとする者たちと力を合わせ、全ての発端となったオリュンポスの神々を始めとした平行世界への侵略活動を行う全ての悪しき者達を打ち倒し最終戦争(ラグナロク)を終わらせたのであった。
だがしかし忘れてはならない、多くの悪しき者達が再び現れたとき、そして再び全ての世界が繋がろうとする時、再び最終戦争(ラグナロク)は起こってしまう可能性があることを……"



「……なるほど、これがラグナロクか……」

「かつてのCROSSHEROESが戦っていた敵が起こした計画……それによる世界の融合に目をつけたミケーネが平行世界への侵略活動を始めた事によってラグナロクは引き起こされたのか……」

「……世界の融合か……」

「鉄也さん…?」

「……すまない。一つ聞きたいのだが……確かこの特異点を修復するのに必要とされる聖杯の持ち主……丸喜とやらとは今は停戦状態だったよな?」

「はい、確か暗黒魔界を倒すまでの間限定ですが、彼らとは停戦となり、この特異点に取り込まれた世界の改変は中断してくれると聞きました」

「……特異点による世界の融合の方はどうだ?」

「そちらについては何も聞かされてませんが……恐らく世界の融合自体は現在進行系で行われてるかと……」

「そうか……だとしたら少々まずいかもしれないな……」

「どういうことですか鉄也殿?」

「……ラグナロクは世界の融合とそれに目をつけたミケーネによる侵略活動が原因で起こった……」

「……っ!まさか!」

「そうだ。もしもこのままこの特異点があらゆる世界を取り込み融合し続けていけば……





この特異点がきっかけとなり、新たなラグナロクが起きてしまう可能性がある…!」

11人目

「命ある限り戦う、それが――/宿命の対決!! 仮面ライダーX対アポロガイスト」

 大ショッカーの怪人軍団、クモオーグ……覚醒した抑止力の使者・沖田オルタ、
ヒトの幸福の何たるかを知った魔殺少女ペルフェクタリアの前に倒れていった強敵たち。

「おのれ……!!」

 形勢逆転。士を中心にして、戦士たちがアポロガイストの前に集う。

「残念だったな、アポロガイスト。お前たちの企みもここで潰える」
「ふ、ふふふふふ……」

 その時、戦場の隅から新たな気配が漂ってきた。静寂の中に響く足音が、
次第に大きくなり、おどろおどろしい異形の影が蠢いている。
大ショッカーの新たな怪人たちだ。

「おかわり、ってか……」
「仮面ライダーに倒された怪人達の恨み……これしきの事で潰えるものか!」

 ―――士は新たな脅威に対し、冷静な目を向けながら口を開いた。

 異形の影は、恐ろしい笑みを浮かべながら一歩前に出た。
人間離れした醜悪な姿で、闇のエネルギーを纏っている。

「仮面ライダーに敗れた我らの憤りを、完全に消し去ってやる!」
「ディケイド! お前とて、一度は大ショッカーの大首領に君臨した身!
力こそがすべてを支配する! それは貴様もよく知っているはずだ!!」

 怪人たちから口々に投げかけられる、消せない罪。

「門矢士、お前も……」

 ペルは悟った。ここにいる男もまた、自分と同じ罪業を背負うものであると。
士は過去に世界を救うため、大ショッカーの大首領となり、或いはすべての仮面ライダーと敵対した事もあった。止まらない並行世界の融合……それを食い止めるには
世界を引き寄せ合う力の源であるすべての仮面ライダーを破壊するしか無かった。
ある意味では、世界を存続させるための必要悪となる必要があった。

「かつて、俺は大ショッカーの大首領として、世界を支配しようとしていた。
世界が崩壊の危機に瀕していた時、唯一の救いとして選ばれた存在。
完全なる消滅を回避するための、支配……俺は世界を救うために、
大ショッカーの力を利用しようとしたが、やがてその力がもたらす闇に気づいたんだ」

 これまでペルも知らなかった、士の過去。彼の言葉に耳を傾けながらも、
疑念を抱いていた。

「では何故、その大ショッカー大首領とやらの座を捨てて、今ここにいる」

 士は目を閉じ、過去の記憶に思いを馳せる。

「全ての仮面ライダーとの戦いの中で、俺は自分の選択が間違っていたことに気づいた。
力による支配だけでは、その先の未来は無い。人間の自由と平和を疎かにした世界は、
初めから死んでいるも同じだ」
「人間の自由と、平和……」

 故にこそ、士はペルフェクタリアが所属していたアベレイジと敵対し、
リ・ワールドを救うにまで至った。そしてペルもまた組織を離反し、戦う事を決意した
きっかけをもたらした男でもある。オルタは力強く頷いた。

「……あなたも、永遠に戦い続ける道を選んだのだな。私のように」

 志半ば、若くしてこの世を去った沖田総司の別側面……持てる命を燃やし尽くして
刃を振るい、戦い続ける……その願いの元に抑止力の守護者として導かれた。
そしてペルフェクタリアも微笑みながら言う。

「私も、お前のように過去を乗り越えて共に戦おう」

 士は仲間たちの言葉に感謝し、再び決意を新たにした。

「過去は変えられない、だが、未来は俺たちの手で作り上げることができる。
だからこそ、今ここで力を合わせて、お前ら大ショッカーを……潰す!!」

 その言葉に触発され、士と仲間たちは過去の闇を背負いながらも、
彼らの絆はより一層強く結ばれ、未来への希望が輝き始めたのだった。

「大首領を追われ、すべての世界から拒絶され……貴様は一体何なのだ!?」
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ……変身!!」

【KAMEN RIDE DECADE】

 士がネオディケイドに変身したと同時、足元に光るジョゼの花を拾い上げる。

「ふん、そんなちっぽけな花が何だと言うのだ」
「どんなにちっぽけな存在だろうと、それが集まれば、ちょっとした奇跡も起こせる……
かも知れないぜ?」

 すると、ペルがこれまでの探索で集めていたジョゼの花束と
ディケイドが持つ一輪の花が眩い光を放つ。

「これは……!!」

 それに呼応してライドブッカーから飛び出してくるのは、
ディケイドのライダーカード……ではなく、花探しに向かう前にジョゼから渡された
「ブランクカード」であった。


『何だ、こいつは……何も描かれていないじゃないか』
『役に立つかも知れないから、持っておいて。お守りだよ』


 真っ白な無地のカード。勿論、それだけでは何の力も意味も持たない。
だが、ジョゼの花の光を浴びると、ひとりでに絵が浮き出て来て……

「!?」

 怪人軍団の背後から鳴り響く爆音。

「クルーザァァァァァァッ! アタァァァァァァァァァァァァァァァックッ!!」

 「白い弾丸」クルーザーが怪人たちを次々に轢き斃していく。

「ぐぎゃあああああああああああああああああッ……!!」
「お、おおおっ、や、奴は……!! な、何故奴がここに……!!」

 華麗なターンを決め、振り返るその男は……アポロガイストにとって終生の好敵手……

「仮面ライダー! Xッ!!」

 銀の仮面に、黒マフラー。赤い胸はガードラング。額に輝くVとV……
アポロガイストが属する秘密機関GODを壊滅させた深海探査用カイゾーグ、
仮面ライダーXが現れたのだ。

「Xライダー……もしや、こいつの力か……」

 ディケイドが目をやると、ブランクカードは音もなく崩れ去った。
ヒトの祈りを形にする。力による支配を良しとしない者たちの、反逆の象徴。
ペル、沖田オルタ、ディケイド、命ある限り戦い続ける者たちの心がひとつになった事で
起こった、たった一度きりの奇跡……

「アポロガイスト……!!」
「くくく、はははははは、今日は何と言う日なのだ。よもや、貴様とこんな場所で
相まみえる事になろうなどとは!!」

 フルーレの切っ先を向け、アポロガイストは士気を高めた。

「ライドルホィィィィィィィィィィィィップッ!!」

 対するXライダーも、ベルトに備え付けられた専用武器・ライドルを引き抜き、
Xの字を描く。

「Xライダー! 貴様を倒し、今度こそ地上世界を支配してやるのだ!!」
「俺がここに喚ばれたのも、貴様のその悪巧みを止めるためなのだろう。
決着を着けるぞ、アポロガイスト!!」

『露払いは俺と主に任せな!』
「すべて斬り伏せるぞ、煉獄。え、と……」

「ペルフェクタリアだ」
「ペ、ペル、フェ……?」
「……長ければペルで良い」

「分かった。ペル。うん、呼びやすい」
「まだ寝ぼけているんじゃないのか、お前の主は」
『眠気覚ましにひと暴れするさ!』

 軽口混じりに、煉獄を携えた沖田オルタとペルフェクタリアは残る怪人軍団に
向かっていく。そして……

「ディケイド、アポロガイストは俺が引き受けた」
「頼んだぜ、センパイ」

 アポロガイストとXライダー。因縁の対決が時空を超えて今、再び――!

12人目

「心なき世界に憎悪の花束を その1」

 世界は理不尽でできている。
 いつもどこかで、誰かの顔が曇っている。
 世界のどこかで、誰かが無為に命を落とす。
 どこかで、些細な会話から不和が生まれる。
 世界から罪咎が消えることなく、それゆえの慟哭は止まない。
 そんな理不尽の世界に、我々人類は生きている。

 それでいいのか?
 それが人類の答えなのか?
 人類は、高潔で無垢で、善なる生き物でなければならない。
 なのに―――世界は憎悪に満ちている。
 神への恩讐!運命への憎悪!
 理不尽への嫌悪!そこから沸き出でる、哀しみと怒り!

 ならば燃やせ、復讐の焔を!
 怒れ、憎め、呪え、殺せ!
 世界を焼き尽くし、なおも燃え盛る昏き炎を此処に!



「おかしいですね、連絡が途絶えた?」

 ジャバウォック島 第Ⅳ実験棟 ファルデウスチーム

 難敵マクスウェル・メイガスを下し、一行は第Ⅴ実験棟で合流する予定だった。
 が、一応の確認というのもあって、まずは第Ⅳ実験棟の調査を終えてから合流する事にした。
 そのことを伝えようとするファルデウスだったが、どうも連絡が取れない。
「無事であればいいんですが……。」

「しかし、でけぇなここも。」
 第Ⅳ実験棟にある建物は、どこか博物館のような見た目をしていた。
 往々しくそびえたつ、大理石の柱。
 その奥はどこか薄暗い。この先に恐竜の化石でも待ち構えていそうな雰囲気だ。
「また、魔獣出てこないだろうな?」
「それは、入ってみたらわかる。」
 巨大な建物へと向かう4人。
「ドアは開いてる。見張りや魔獣の類もない。」
「中に教団兵士や魔獣の類もない。行きましょう。」
 周りには待ち伏せている兵士はいない。
 フィオレの魔術探査も青信号を出している。
 安全に内部へ入れそうだ。

 だが一人、遠くの方を見ている者がいた。霧切だ。
「……あっちの方で、何か嫌な予感がする。」
 仲間の霧切が、第Ⅴ実験棟の方を見て悩んでいる顔をしている。
 悩んでいるというには、心配しているという方が正確か。

 やがて我慢できなくなったのか、霧切は突如走り出す。
「……ごめんッ、先行って!」
「ちょ、おい!霧切!」
 燕青の制止も聞かず、霧切は行ってしまった。
 行先は当然第Ⅴ実験棟。
(復讐云々以前に、ものすごく恐ろしい何かを感じる!)
 それは虫の知らせからくる強迫観念。
 友への想い、仇への恩讐、宿敵への感情が、霧切の足を強引に動かし、精神を急かしていた。
 彼女の「超高校級の探偵」としての経験からくる直感が、その思いを確固なものとする。

「行っちまった……。」
「一体何が起きて……いや、何を感じたんだ……?」



 ????

「ぐぅ……なんだ、今の。」
 ゼクシオンが持ち込んだ礼装により、江ノ島は幻視する。
 目の前の苗木誠が、どこか陽炎のように見えてくる。
 陽炎は凶悪な笑みを浮かべ、此方を睨んでくる。
「やめろ苗木、それ以上私の心を縛るな……!!」
 この世全ての悪(アンリマユ)の力を植え付けられた苗木誠。
 彼が一歩近づくたびに、江ノ島の罪悪感が強まる。
 彼が迫るたびに、彼女の心はより重くなる。

「お前のせいでみんな死んだ」
         「絶望の化身が、正義を騙るな」
    「クズめ、どうせ裏切るだろうが」
                   「生きる価値など、お前にはない」
       「己の業と、罪を受け入れて死ね」

 己を責める声が、より強くなる。
 いくら超高校級の絶望として心を開き直らせても、精神は人並み。
 狂った性癖を以てしても、精神攻撃への耐性があるわけじゃない。
 精神と魂に作用する糾弾は、断罪は、非難は、確かに江ノ島の心を破壊しつつあった。

「消えろ消えろ、どこだ……どこにある!!」
 絶望が、罪が、咎が、悪性情報が、江ノ島の体を泥のように覆う。
 精神を軋ませる、悪辣な泥。
「あ、ああ、あ……あああああああああ!!」
 ついには苦悶の叫びをあげる。

 それは断罪の法廷。
 そこにいるだけで対象の罪悪感を掘り起こし、増幅させ、やがては無気力な木偶にしてしまう。
 それがゼクシオン・ビショップの発明した、人間への悪意に満ちた礼装。
 幻想郷の廃棄孔、そこに作った『偽・希望ヶ峰学園』と悪霊の精神汚染のデータをもとに作った悪意の兵器。
 試作・対象無力化礼装『糾弾法廷』である。

13人目

「大変身!! Xライダーの秘密パワー」

 仮面ライダーXとアポロガイストの戦いが本格的に始まると、戦場は緊張感に包まれた。アポロガイストはフルーレを鋭く突き出し、その動きはまるで蛇のように狡猾で素早い。
一方の仮面ライダーXは、ベルトから引き抜いたライドルホイップで
アポロガイストの攻撃を迎え撃つ。

「ふふははは、嬉しいぞ、Xライダー! やはり貴様との戦いは心が躍る!!」

 アポロガイストはその言葉と共に、一気に仮面ライダーXに突撃する。
フルーレが鋭く閃いて襲いかかるが、Xライダーはすばやく反応し
ライドルホイップを自在に操ってその攻撃を受け流す。火花散る連続攻撃。

「貴様の方こそ、相変わらず敵に回すには惜しい腕前だ!! とぉぉぉうッ!!」

 そして、Xライダーはアポロガイストの突きを飛び退いて回避し、

「ライドルスティィィィィックッ!!」

 戦況に応じて自在に形状を変形させる事が出来るライドルを、ライドルスティックに
チェンジさせて反撃に転じた。

「今度はこちらの番だッ! とぉぉぉうッ!!」
「ぬううッ!! なんのぉぉぉぉぉッ!!」

 ホイップが近接による突き、斬撃用形態であるならば、ライドルスティックは
間合いを離した中距離戦闘を得意とする。アポロフルーレの間合いの外から
怒涛の波のように繰り出されるXライダーの棒術に対し、アポロガイストは
ガイストカッターを盾代わりにしてそのすべてを受け止めた。

「やるな……!! かつて戦ったときよりもパワーアップしている……」
「当然だ……メメントスの闇の力……! これさえあれば、貴様にも勝てる!!」

「お前は闇の力を頼りすぎている……それだけでは、俺を倒すことはできないぞ!」
「ほざくなぁッ! 所詮貴様にこの闇の力の真髄を理解するなど到底不可能!
ガイスト! カッタァァァァァッ!!」

 アポロガイストはXライダーを押し退けると同時にガイストカッターを投擲、
空中で回転する刃がXライダーに迫る。一瞬の判断で身を屈め、ガイストカッターを回避。だが、それもアポロガイストには既に計算の上だった。

「マグナムショットッ!!」
「ぐあっ……!!」

 動きを止めた一瞬の隙を見逃さず、正確無比の銃撃がXライダーの胸部に着弾、
さらには軌道を変えて背後から戻って来るガイストカッターの波状攻撃に
見舞われてしまった。

「ぐああああっ!! くっ……!!」

 背中にガイストカッターの凶刃を受け、前のめりに倒れ込んでしまうXライダー。
アポロガイストは高笑いと共にガイストカッターをキャッチした。

「ふはははは、どうだ、Xライダー!!」
「おのれ……!!」

 よろめきながらもXライダーは起き上がる。

「傷は深いはず……それではもはや私の攻撃を避わす事は出来まい!」
「それはどうかな……!?」
「何ィ……!」

「俺にはまだ、貴様が知り得ない力がある……それをお見せしよう!!」
「ハッタリだ、今更何をしようとも……!!」


「マーキュリー回路! 起動ッ!!」


 かつて、GODの強敵怪人・クモナポレオンに敗れ去った際にXライダーに
組み込まれた未知なる力……


「大・変・身ッ!!」


 マーキュリー回路を起動させるためのキーとなる「大変身」のポーズを取ると、
Xライダーの身体機能が完全開放され、自己治癒能力も活性化、ガイストカッターで受けた
背中の傷も見る見る内に回復していく。

「ば、馬鹿なぁっ……!」

 アポロガイストは見た。銀色に光り輝いて仁王立ちするXライダーの背後で、
溢れ出すエネルギーの奔流が爆発しているイメージを。

「え、ええいッ! 虚仮威しだッ! マグナムショットォッ!!」

 再び銃撃を見舞う。すると今度は、Xライダーが飛んでくる銃弾を
紙一重で避わしてみせたではないか!

「……」
「そ、そんなはずはない! 私の銃撃を……!!」

 続く二発、三発……やはり当たらない。狙った獲物は逃さないと言う自負。
それが脆くも崩れ去っていく。まぐれではない、Xライダーは
マグナムショットの弾道と射速を完全に見切った上で回避しているのだ。

「な、何故ッ! 何故当たらないのだ!! ぬあああああああああッ!!」

 狼狽と共に投げつけるガイストカッター。先程と同じ手……Xライダーはきっと
これも避わすはず。回避の後のその一瞬を狙う!
 
「……」
「左ッ! もらった!!」

 Xライダーの動きに狙いを定め、マグナムショットの銃口を向ける。

「とぉぉぉぉぉぉぉうッ!!」
「うおっ……!?」

 地面に落ちていたライドルスティックを足先で拾い上げ、その先端を蹴り上げる。
ライドルスティックは一陣の槍となり、マグナムショットに直撃。
銃身を粉々に撃ち貫いた。

「うわああああああっ!!」

 自らの武器が破壊されるとは予想しておらず、その動きに一瞬の隙が生まれた。
その隙を見逃すことなく、Xライダーは素早く距離を詰め、アポロガイストをガッチリと
拘束する。

「受けろッ! 真空! 地獄車ァァァァァァァァッ!!」
「うおおおおッ……!」

 アポロガイストを捕まえたまま、Xライダーは上空へ飛び上がり、
遥か上空から急降下、アポロガイストの頭蓋を地面に叩きつける。
一度だけでは終わらず、2度、3度と繰り返し、威力と速度を倍々に増して
アポロガイストの意識が混濁するほどのダメージを与え続ける。

「これで終わりだッ!!」

 満身創痍になったアポロガイストを空中へ放り投げ、その脊髄にトドメの一撃を
叩き込む。


「Xッ!! キィィィィィィィィックッ!!」
「ぐぉああああああああああああッ……!!」

 膝を折って着地するXライダーと、地面に激突するアポロガイスト。

「勝負あったな……」
「ぐ、おお……」

 全身から火花を散らしながらも、アポロガイストは執念の一心のみで
立ち上がろうとする。

「信じられん……この俺の真空地獄車を受けて尚立ち上がって来たのは……
貴様だけだぜ、アポロガイスト……見上げたガッツだ……」
「ふ、ふふ……見事だ、見事だな、Xライダー……このメメントスの暗闇の中で
私は負のエネルギーを蓄え、再起の時を待ち続けていた……敗れはしたが、
晴れ晴れとした……良い気分だ……こんな気分はいつ以来か……」

 息も絶え絶えに、言葉を綴る。Xライダーもそれを噛みしめるように聞いている。

「最後に……握手を……」
「……」

 アポロガイストが差し出す手に、Xライダーは迷わずに応じた。

「疑わないのか……握手すると見せかけて、アーム爆弾を仕掛けて貴様を
道連れにしようとしたかも知れんのだぞ……」
「信じたんだ。共に力を出し尽くした者同士として……」

「くっ……くくく……つくづく甘い男だ……だからいつまでも人間などに利用される……
強い力を傘に着た、弱者共にな……」

 手を離し、Xライダーを退がらせる。

「今回は貴様に花を持たせよう。だが忘れるなよ、我々はいずれ再び蘇る……
人間に邪心がある限り……大ショッカー……そしてGOD機関は……不滅だ!!」

 最期の言葉を残し、アポロガイストは大爆発を起こした。

14人目

「モノ探しの得意な鼠/救世問答5_決意」

 幻想郷 人間の里郊外

「確かに、八雲紫の言う通り闇の力が強まっているようだ。」
「言われてみると、懐かしい感覚がする。」

 サイクスとザルディンが、幻想郷に到着する。
 八雲紫のスキマによりこの場所に転送された2人は、とりあえず動かなければ始まらないと考え、転送先の人間の里を出て散策に赴いた。
 幸い、下級妖怪なら問題なく追い払える戦闘力を持っている。
 今は未半刻(14時ごろ)ではあるが、このまま夜になって狂暴化した妖怪に食い殺されるなんてことはない。

「だが、この後はどうする?当てもなく散策するわけにもいくまい。」
「人間の里で聞きこんでおくべきだったか?」
「見たところ魔力を感じられない一般人ばかりだったぞ。彼らに瘴気の位置が分かるとは思えないがな。」
 珍しく考え込むノーバディ2名。
 感情には出さないし出せないが、

「おや、そこの黒い外套のお二人さん。探し物かい?」

 見ると、ネズミの耳をつけた銀髪の少女がそこに立っていた。
 腰にはダウジング道具のようなものを装備している。
「なんだこのネズミ……敵か?」
 風の槍を召喚しようとするザルディンを、サイクスが制止する。
「待て、少なくともキーブレードの王とは関係なさそうだ。」
「そうか、すまんな。」
「いいけどさ、きーぶれーど、ってなんだ?法具か?」
「……俺たちの中での用語だ、気にするな。」
「あ、そう。」

「で……改めて聞くけど、あんたらなんか探しているのか?」
「この瘴気の元を探しているんだが、何か知らないか?俺たちはそれを探してここに来たんだが。」
「あー暗黒魔界ってところかい?そういえばうちのお師匠様がそのことで悩んでたんだよなぁ。」
 ノーバディ2人は顔を見合わせる。
「そのお師匠様って人のところに案内してくれるか?」
「命蓮寺に?いいよ。敵っぽくなさそうだし。ただし武器出すの禁止ね。」
「わかった。今後は気を付けよう。」
「ところで、名前は?」
「私か?ナズーリン。あんたらは?」
「サイクス。」
「ザルディンだ。さっきは攻撃しようとして悪かったな。」
「いいよ別に、誰だって後ろに妖怪がいたら警戒するしさ。」
 2人はもの探しの鼠、ナズーリンに連れられ『命蓮寺』という場所へと向かうのだった。
「まぁいいか。案内するよ。」



 丸喜の救世、それはあまりにも優しく、自分のしようとしている事と同じだった。

「それ、は。」
「動揺したか?」
 それは、決して落胆ではなく。
「余の考えていた救世の方法と酷似していた故な、少々驚いたぞ。」
 過去の己との酷似故の驚愕。
 ストロング・ザ・武道が興味深そうに問い出す。
「では聞かせてもらおうか。元々貴様はどう世界を救済しようと思った?」
「……おぼろげな、昔の記録だ。」

 過去、月の新天地(エクステラ)にて『自分らしく生きる』という願いを抱いた。
 それこそを本懐とし、『異星鍵(モノリス)』の力を以て、己の意思に理不尽なく、かつ洗脳や精神を壊すことなく従わせる異能『天声同化(オラクル)』の力を得た。
 この力による世界の救済を掲げたカール大帝は、月の王/女王についた己が影と激闘を繰り広げた。
 だがそれはついに果たされず、ついには影たる己、シャルルマーニュに膝を屈した。
 激闘の果て、意思と意地のぶつかり合いの果ての敗北だ。悔いはない。
 その胸には熱はなくなった――――はずだった。

『―――ああ、願うならば。今一度。世界を救った後の幸福な世界を見てみたかった。』

 そう願ってしまったのが間違いだったか。
 今のこの身を見ろ。醜くも救世を諦めきれなかった『慙愧』の側面が、こうして醜態をさらしている。
 宿敵シャルルマーニュとの戦いの折、英霊の座に帰るはずだったこの身が零した無念という名のひとしずく。
 自分が情けなくなってくる。
 付く陣営を間違えたと言い訳する気はないが、その後悔がその思いを増幅させる。

「余は『誰もが自分らしく生きられる、争いのない幸福な世界』が見たかったのだ。だのに今となってはこのざまだ。」
「つくづく道化になり下がった己が情けないか。」
「否定はせんよ。」
 煽る武道、ため息交じりの大帝。

 人類が等しく、理不尽なく、自分らしく幸福を謳う。
 それは何よりも優しい救済の形。
 少なくとも絶望の果てに、世界を滅ぼさんとする魅上のそれよりは明らかに慈悲深い。
「で、貴様はこの後どうする?道化のままというのも癪であろう?」
「そうだな……。」

 大帝が、次の言葉を言おうとしたその瞬間だった。

「対話中失礼いたします。」
「何かあったのか?」
「ああ、我が兵士が来たようだ、ちょっと失礼する。……どうした?」
「報告いたします――――。」

15人目

「絶望と希望のその先へ」

 Xライダーとアポロガイストの一対一の決闘が激しく繰り広げられる中、
ディケイドたちは迫る大ショッカーの怪人軍団を相手に戦いを続けていた。

「Xライダーがアポロガイストとやりあっている間に、俺たちも片付けるぞ!」

 緊迫する状況の中、ディケイドは激しい戦場でライダーカードを取り出した。

【KAMEN RIDE WIZARD】

 ディケイドはウィザードの力を借りるべく、そのカードをディケイドライバーに装填。
瞬時に仮面ライダーウィザードの姿へと変身した。
ウィザードの黒い外套が翻り、ディケイドの体に魔法の力が宿る。

「その姿は……」
「ふっ、懐かしいか?」

 ペルには覚えがあった。リ・ワールドを巡る戦いの中で共にアベレイジと戦った
指輪の魔法使いの事を。

「あいつはいつ如何なる時も絶望しなかった。例え世界が滅びの現象に
見舞われたとしてもな……」

 彼は人間の絶望から生み出される怪物「ファントム」を大量に呼び起こす儀式・サバトに
巻き込まれ、魔法使いとして戦う宿命を背負いながらも
心折れそうになる自分自身を奮い立たせ、幾度となく襲ってくる絶望を仮面の奥底に隠し、
「最後の希望」として在り続ける道を選んだ。

 リ・ワールドが封印され、その生死も定かでなくなった今も、
ウィザードの力と意志を受け継ぐ者たち。
たりあに救われ、滅びの現象を免れてCROSS HEROESと出会う事となったペル。
もしも仮面ライダーウィザード/操真晴人がここにいたとすれば……

「想いを受け継ぐ……それが今の私に出来る事か……」
「さあ、ショータイムだ!」

 ウィザードの力を得たディケイドは、空中で軽やかに舞い、華麗な足技で
怪人たちを次々に蹴散らし、

【Explosion】

 すかさず魔法のウィザードリングを通して戦場全体に燃え上がる炎で
連鎖爆発を巻き起こし、周囲の怪人を吹き飛ばす。

「ギャアアアアアアアッ!!」

【Big】

「まとめてぶん殴るッ! でぇええあああーッ!!」
「ぐわああああああッ……」

 DCDウィザードの右腕が魔法で巨大化し、怪人たちを一度に殴り飛ばした。
オリジナルのウィザードは指輪を着けた拳で敵を殴ることを封じていたはずだが……

「悪いな、ニセモノなんでね。オリジナルより行儀が悪いぜ」
「こ、この悪魔が……」

 ディケイドがウィザードの力を借りて大ショッカーの怪人たちを蹴散らす一方、
ペルフェクタリアもまた、過去の戦いを思い返しながら戦場に立ち向かっていた。

(私の知る操真晴人は指輪の魔法使いとして、絶望に打ち勝つ最後の希望だった……
あの男がいなければ、私もアベレイジからたりあを救い出せなかったかも知れない。
グランドクロスに敗れた絶望からもう一度立ち上がる事も出来なかったかも知れない)

 ペルはその想いを胸に、次々と現れる怪人たちに冷静に目を向ける。

(私もなれるだろうか……あの男のように……)

「ケキャキャキャーッ!!」
「――疾ッ!!」

 奇声と共に襲いかかってくる怪人の懐に崩拳を打ち込む。

「ぐぼぇあッ……」
「見ていてくれ……私も最後まで絶望しない……」

 彼女の手には黒いエネルギーが渦巻き、そのエネルギーはまるで生き物のように
形を変えていく。彼女が次に繰り出そうとしている技は、かつてのウィザードの精神を
受け継ぎながらも、ペル自身の力を最大限に活かしたものだった。

 陰と陽、闇と光、黒と白、絶望と希望……相反するエネルギーが
巨大な龍と虎の像となってペルの背後に立ち昇る。

「絶望と希望の力を以って……私も己を超えてみせる」

 ペルの目は冷静だが、その拳に込められた力は燃え上がるように強烈だった。

「輪廻極光・龍虎鳳麟・陰陽無尽……」

 戦場に響くのは、敵の叫び声と混乱した足音。ペルは静かに目を閉じ、
かつての仲間たちの姿を思い浮かべた。ピッコロ、ラーメンマン、
そして仮面ライダーウィザード……それだけではない、これまでの出会いのすべてが
彼女に力と知恵を授け、戦いの本質を教えてくれた。

 ペルは闇に染まった大地を見据えながら、拳を構えた。彼女の体から影が広がり、
次々と分身が出現する。影は生きているかのように動き出し、敵を包囲していく。

「影が覆う……逃げ場はない!」

 怪人たちは驚愕し、分身の包囲に焦りの色を浮かべるが、すでに遅い。
ペルの影分身は、四方八方から同時に攻撃を仕掛け、怪人たちを翻弄する。
分身たちが鋭い打撃で急所を穿ち、関節技で敵の体を締め上げ、敵は動けなくなる。

「な、何だこれはあッ」
「これで終わりだ……!!」

 DCDウィザードや沖田オルタもまた、その動きを読んでいたかのように
準備体制に入っていた。

「彼らに合わせるぞ、煉獄」
『あいよ、任せな!』

 無数の怪人が押し寄せる中、DCDウィザードとペルが闇と光の力を融合させたその時、
その狭間に立つ者、沖田オルタも静かに姿を現した。

「人の祈りよ、我が手に! 日月を超える光よ……塵刹を照らし、蒼き狭間を征け!」

 この世の一切を両断し、無穹の彼方へと消し去る魔剣。

「絶剱・無窮一閃ッ!!」」

 それは物質のみならず、あらゆる負の念と言った形なき概念すらも例外ではない。

「虎の尾を踏んだな……」
「終わらせるぞ、魔殺少女!」

【FINAL ATTACK RIDE WI-WI-WI-WIZARD】【Kick Strike, Now!】

 DCDウィザードの足元に魔法陣が出現し、足先に炎のエネルギーを纏う。
側転、バク転、宙返りを高速で繰り出しながら敵陣に突っ込んでいく。

「てぇああああああああーッ!!」

 DCDウィザードは勢いそのままに高くジャンプし、飛び蹴りを繰り出す。
同時にペルも両腕に破壊エネルギーを集中させ、突撃。

「虎落笛・牙噛ッ!!」

 虎が獲物を鋭い牙で噛み千切るが如くペルが突き出した双拳と
竜に由来するDCDウィザードの炎を纏ったキックを受け、破壊的な風と炎のエネルギーに
包まれる。

「ぐぉああああああああああああーッ!!」

 怪人たちは一瞬のうちに崩れ去り、爆発音が辺りに響き渡る。
その余韻が消えるころには、すでに全ての敵は消滅していた。
戦いが終わり、ディケイド、ペル、そして沖田オルタは静かにその場に立っていた。

「終わったようだな……」

 アポロガイストを制したXライダーも現れる。

「ディケイド。またもや大変な戦いに巻き込まれていたらしいな」
「まぁな。今に始まった事じゃないが、助かったぜ。Xライダー」

「アポロガイストは倒れた。だが、人間に邪心がある限り、いつか必ず蘇る……とも
言っていた」
「やれやれ、つくづく迷惑な奴だぜ」

 すると、Xライダーの身体が光に包まれ始める。

「どうやら、俺の出番はここまでのようだ……後は任せたぞ。クルーザーッ!!」

 主の呼び声に応じ、クルーザーが自動運転で駆けつけた。

「まるで私とお前のようだな、煉獄」
『へっ、照れくせぇや』

「またいつか、何処かで会おう。さらばだ」
「ああ」

16人目

「ミケーネ帝国、特異点に降り立つ」

「な、なんだってー!?」

「この特異点が、新たなラグナロクが起こるきっかけに…!?」

「だが、ありえなくてはない……事実この特異点は既に様々な勢力に利用されているのだからな」

「あぁ、それに加えてこの特異点が他の世界を取り込み続ければ、やがてこの特異点を中心として全ての平行世界が繋がってしまうだろう。そうなればこのラグナロクが起きた原因の1つであるあらゆる世界が融合し混ざりあってる状態になってしまう…」

「そうなる前に、早く特異点による世界の融合を止めなければ…!」

「あぁ、そのためにも急いでリ・ビルドベースに戻ってこのことを皆さんに伝えましょう!」

「そうですね」

一同はすぐさま遺跡の外へと出た。





「っ!?これは…!?」

遺跡の外へと出た一同が目にしたもの、それは禍々しい赤に染まった特異点の空であった。

「特異点の空が……赤色に…!?」

「……まさか…!?」

一同はこの空に見覚えがあった。
そう、港区であしゅら男爵が血の儀式を行い、ミケーネの神々を蘇らせた時に発生したのと同じ空である。

「間違いない…!ミケーネがこの特異点に来る…!」





一方その頃、竜王城ではジークジオンと竜王が話をしていた。

「ネオブラックドラゴンめ……せっかくのチャンスをみすみす逃がしおって……」

「まぁ良いではないか、確かに奴らも我々にとっては大きな脅威ではあるが、焦らずとも奴らを殺せるチャンスなどいくらでもある……それよりも、我々が奴ら以上に警戒しなければいけない」

「超越者共か……」

「そうだ。特にあの破壊神ビルス……やつは復活したばかりだったとはいえあのミケーネ帝国が警戒し撤退を選択するほどの実力者だ……そしてビルス以外にも超越者共は多く存在している……奴らをなんとかせねば我々の野望など絵に描いた餅だ」

「なに心配する必要はない……そのために奴らのスポンサーになったのだ」

「……なるほど、グランドクロスか」

「そうだ。数多の世界を滅びの現象で滅ぼしてきた奴らの力ならば超越者共を一人残らず消し去ることもできよう……」

「それで貴様やショッカーの大首領は奴らのスポンサーになったわけか。
スポンサーとしての特権を使い、奴らを超越者共への対抗手段としてこき使うために…」

「そのとおりだ。ついでにメサイア教団とやらもな。奴らめ、自分達がグランドクロスの手によって裏から支配され無意識のうちに奴らの操り人形にされているとも知らずにまるで自分達が神であるかのごとく全てを見下して調子に乗りおって、滑稽だわい!」

「だがそれでも油断はできん。今だに勇者アレクやガンダム族を始めとしたこの時代のCROSSHEROESもミケーネ帝国も健在、他にも暗黒魔界などが新たに動き出しグランドクロスとの関係もいつまで続くか分からぬ以上、戦力の強化は必須だろう」

「わかっている。そのためにも手に入れれば超越者すらも超えられる可能性のある超エネルギー、『エタニティコア』をどうにかして手に入れたいところだな」

ジークジオンと竜王が話をしていると、ジオン族の騎士ゼノンマーサがやって来た。

「ジークジオン様!竜王様!お話中のところすみません」

「騎士ゼノンマーサか、どうした?」

「ミケーネ帝国がこの特異点に接近しているとの情報が……」

「っ!ほう…奴らめ、この特異点の存在に気づいたか……いいだろう。騎士ゼノンマーサよ、呪術士ビグザムと共にモンスター共を引き連れて奴らを迎え撃て!この特異点の…そしてこれから全ての世界の支配者として君臨するのがどちらか、奴らに思い知らせてやるのだ!」

「ハッ!!」






一方その頃、リビルドベースでは

「ん?なんだ?」

「どうしたの皆?」

「なんか……空が赤くなってるような…?」

「空が…?うわっ!?本当だ!真っ赤になってる!」

空が突然赤くなったことに驚くゼンカイジャーのところににとりがやって来た。

「おーい!ちょっとあんたらの持ってる銃の中を解剖したいんだけど……ん?どうしたの皆揃って空なんか見ちゃって?」

「実は突然空が真っ赤になりまして……」

「ふーん、空が真っ赤にねぇ……紅霧異変を思い出すなぁ」

「紅霧異変?」

「あぁ、あたしが住んでる幻想郷でも空が真っ赤に染まる異変が起きたことがあってね。その時は首謀者である紅魔館とこの吸血鬼を博麗の巫女が倒して解決したんだ」

「へー」

話をしていると今度は宗介とかなめもやって来た。

「皆そんなところに集まってどうしたの?」

「あ、宗介にかなめちゃん。実は空が突然赤くなって……」

「……待て?今空が赤くなったと言ったか?」

「え?そうだけど……」

「……すまない、ちょっと見せてくれ」

そう言い宗介はゼンカイジャーの面々の中に割り込むように窓の近くまで行き、外を見る。

「っ!これは…!」

「ど、どうしたの宗介…?」

「……間違いない……この空はあの時と……ミケーネが現れた時と同じ空だ…!」

「え!?それって……」

「今ここに待機してるメンバーで戦える奴らを今すぐ全員かき集めろ!俺の予想が正しければこの特異点に奴らが…!」

宗介が話をしていた次の瞬間…!

「な、なにあれ!?」

「どうした!?」

「今度は空にでっかい穴みたいなのが…!」

「っ!?」

特異点の上空に突如して巨大なワームホールが出現

そして……





「ギャオオオオオオン!!」

そこから無数の戦闘獣やミケーネ神、更にはミケーネのものと思わしき移動要塞などが次々と出現し、特異点の各地に降り立っていく。

「ちょ!?なんっすかあれ!?」

「なんかいろいろと出てきましたよ!?」

「宗介、もしかしてあれが……」

「あぁ、間違いない…!奴らがミケーネだ…!!」

最終戦争(ラグナロク)の元凶の1つにして、機械の身体を持つ神々の軍団ミケーネ帝国。
リ・ユニオン・スクエアを襲った脅威が今度は特異点を襲おうとしていた。

17人目

「策謀の月/Lonely Chaser」

戦いの余韻が漂う戦場に静寂が訪れた。
アポロガイストを倒したXライダーがクルーザーに跨って去った後、
ペルはメメントスの闇の中にその背中を見つめながら、自分自身の想いに耽っていた。

「私も……いつかはあのように、使命を全うできるだろうか」

 ペルの言葉に、煉獄が軽く笑うように答える。

『おいおい、もう十分やれてるぜ。そんなに自分を追い詰めるなよ』

 沖田オルタも微笑みながら続けた。

「ペルはもうすでに希望の光を見つけている。あとは、その光を信じて進むだけだ」
『おっ、良い事言うじゃないの、主』 

「さて、一旦あの妙な小僧の所に戻るか。奴にもらっといたカードが役に立ったぜ……」

 大ショッカーの襲来と言う思わぬアクシデントがあったものの、
今回の戦いでしばらくは大ショッカーの怪人達の大規模な地上侵攻を防ぐことが
出来たであろう。一方、別ルートを探索中の月美、エリセ、太公望、坂本竜司たちは……

「結構お花集まったね……」

 別ルートを探索していた月美、エリセ、太公望、そして坂本竜司は、
ディケイドたちの状況を知らぬまま、メメントス内で花を集めていた。
ジョゼという不思議な少年から依頼されたこの作業は、表面的には単純なものだったが、
メメントスは相変わらず不穏な気配を漂わせていた。

「他の場所を探しに行った連中は無事かな?」

 スカルがふと呟き、月美に視線を向けた。月美は頷きながらも、考え込むように答える。

「大丈夫だと思う。ペルちゃんたちなら、きっと乗り越えているはずよ。
私たちも、無駄な時間は過ごさないようにしないとね」

 一方で、エリセはその言葉に反応するも、目を伏せたままだった。
彼女の体質――悪霊を引き寄せてしまう体質が原因で、周囲との関係に
ぎこちなさを感じていたのだ。特に月美との関係は、退魔師の家系である彼女にとって、
常に相反するものだった。

「……ごめんなさい。私が一緒にいるせいで、また何か悪いことが起きるかもしれない」

 エリセが弱々しく呟くと、スカルが軽く笑いながら彼女の肩を叩いた。

「気にすんなよ、エリセ。何か起こったら、その時にまた一緒に乗り越えればいいだけさ。そうだろ?」

 その言葉に少し気が楽になったのか、エリセはかすかに微笑んだが、
まだどこか自信がなさそうだ。

 月美は二人のやり取りに優しい視線を送りながらも、心の中で葛藤を抱えていた。
退魔師として、エリセの持つ「悪霊を引き寄せる力」に対して距離を置かざるを
得ない自分。しかし、それ以上に仲間として彼女を守りたいという気持ちもあり、
心の中ではその狭間で揺れ動いていた。

「大丈夫よ、エリセちゃん。何かあっても、私たちが一緒にいるから。
絶対に守ってみせる」

 月美のその言葉に、エリセはわずかに驚いた表情を見せたが、すぐに静かに頷いた。

「ありがとう……月美さん」
(そうだよ。力とか、生まれとか……そんな事で人を助けない理由にはならない。
そうだよね、お父さん……)

 父・月光へ問いかけるように思いを馳せる月美。
その時、スカルは道具袋から、食べ物を取り出した。

「ほれ、これ食えよ」

 月美とエリセに手渡されたのは大手チェーン店、ビッグバン・バーガーの
テイクアウトセットだった。ちなみに、ノワールこと奥村春は
ビッグバン・バーガーを経営する大企業オクムラフーズの社長令嬢である。

「こん中に入れとくと食い物も傷まねえんだ。醒めたりもしねえしな」
「そうなのね……」
「じゃあ、いただこうかな……」

「ああ、結構美味いんだぜ。次の戦いの前にしっかりエネルギーを貯めとかねぇと!」

 その陽気な声に場の空気が少し和らいだ。

「あの~……僕のは?」
「あ、悪い。今ので最後だ。じゃ●りこでも食うか?」

 太公望にはコンビニで購入したポテト菓子じゃが●こが渡された。

「……ま、まあ、いいですけどね?(ぽりぽり) 
サーヴァントは本来食事や睡眠を必要としませんし?(ぽりぽり) 
全然何とも思いませんけどね?(ぽりぽり)
……なかなか美味いなこれ?」 

「美味しいね、エリセちゃん」
「う、うん、私も一応サーヴァントだから、必要ない事と言えばそうなんだけど……」

「さてさて、少し休んだら、ジョゼ少年の所に戻りましょう。どうにも
このメメントスなる場所は空気が悪い。じっと留まっていると何が起こるやら……」
「ん……」

 太公望の助言の中、月美がふと顔を上げると、暗闇の向こうに誰かが
立っているような気がした。

「あれは……」
「……」

「……お父さん!?」
「えっ?」

 月美は思わず立ち上がった。彼女の瞳に映ったのは、いるはずのない父。
日向家当主の退魔師、月美の父・日向月光であった。

「お父さん! どうして、どうしてここに……」

 禍津星穢によって滅びの現象に見舞われた月美の世界。
娘に最後の希望を託し、日向家代々に伝わる奥義……時空を飛び越える秘術によって
月美を異次元へと送り届けたきり、生死不明であった父が、目の前に……

「あ、あれが月美の親父さんだって……!?」
「妙だ……月美さん、ちょっとお待ちなさい。その御仁は……」

 太公望の呼び止める声も届かず、月美は駆け出していた。

「もしかして、もしかしてお父さんも無事だったの!? それで……」
「……」

 言葉はなく、月光はただ微笑んでいるだけだった。あと少し、もう少しで
もう二度と会えないかと思っていた父に手が届く……そう思った瞬間……

「えっ……」

 ずぶり。月美の足元が突然泥濘んだ泥のようになって月美の足首を呑み込む。

「や、やべえ! トラップだ!!」

 スカルには覚えがある。メメントスでは時折、こうして目に見えぬ罠が潜んでいる。
その上を通るものを下のフロアへ強制的に引き込んでしまう。これもその内の一種だ。

「きゃ、ああ!!」
「月美さん!!」

 すぐさま月美を助けようとするエリセ。そこに何者かの銃撃が放たれる。

「なっ……」

 その弾丸は日向月光の胸部を撃ち貫いたが、月光は大穴を空けられたにも
微動だにせず、平然としている。

「今度は何だ!?」
「……! ……!!」

 そうこうしている内に、月美の姿は完全に地の底に沈み、月光の姿も掻き消えた。

「やはりか……あのまま近づいていたら、お前も餌食になっていたぞ」

 右腕をアタッチメント式の大型銃器「ブラスターアーム」と化し、
サングラスで目元を覆った長身痩躯の謎の人物……大ショッカーの怪人軍団と戦う
ディケイド達の様子を陰ながら窺っていた男だ。
エリセは数瞬呆けながらもすぐに我に返り、男に言及する。

「で、でも……助けられたかも知れなかった! 
月美さんは私なんかにも優しくしてくれた! それをみすみす目の前で……」
「優しさを履き違えるな。そう言う奴から先に死んでいく」

「おい! さっきから聞いてりゃあ、誰なんだよてめえはよ!!」

 ずかずかとサングラスの男に食って掛かるスカルに、彼は低く響く声で答えた。

「……結城丈二」

18人目

「交響界事件録 ‐ 聖なる五重奏、再び ‐」

 結城丈二と名乗るその男は、静かに続けた。

「お前たちの仲間を助けるには、このメメントスという場所の本質を知ることが必要だ。
この地は、思念が実体化する特殊な空間。だからこそ、幻影を容易に作り出せるし、
人の心を惑わす術にも長けている……お前たちも気を抜くな」

 スカルが警戒の目を向ける中、エリセは悔しさを噛み締めながらも、
丈二の言葉に耳を傾ける。

「……つまり、あの月美さんのお父さん……も幻だったということですか?」

 結城丈二は頷き、

「そうだ。だが、彼女はそれに気づかず……おそらく、その心に巣食う“後悔”や“未練”が
引き金となったのだろう」
「クソが、えげつねえ真似しやがってよ……!!」

 肉親への情を利用される……スカル――坂本竜司にとっても看過できない
所業であった。一方で太公望は丈二の右腕を指差し、興味深げに尋ねた。

「ところで、あなたのその右腕……ただの飾りと言うわけではなさそうですが」

 結城丈二は一瞬視線を落とし、右腕をブラスターアームから義手へと換装した。

「……これは、“地獄”からの土産物だ。俺が背負った宿命の一部ってところさ。
敵を撃ち貫くために、必要なものだ」

 スカルは頷きながら感心したように口を開く。

「地獄からの土産物か……ただもんじゃねぇと思ってたが、やっぱり訳アリか。
でもまぁ、アンタみたいな猛者がいてくれりゃ、心強いぜ」

 エリセもそのやり取りを聞き、結城丈二の背負っているものの重さを
感じ取ったようだった。

「あなたも何かを背負っているんですね。私も、もう逃げません。
月美さんを助けるためなら、どんな闇だって受けて立ってみせる」

 結城丈二はエリセの決意を見て、サングラス越しに微かに微笑みを浮かべると

「ならば、ついて来い。彼女を救いたいなら、な」と言い、暗闇の中へと歩き出した。

「ったり前だろ。月美も俺達の仲間なんだ。このまま黙ってるわけにゃいかねえ。
あいつの親父さんに会いてえ気持ちを利用しやがって、落とし前は着けさせてもらうぜ!」
「いい覚悟だ。お前たちがそのつもりなら、俺も協力しよう。だが覚悟しておけ。
この先、どんな幻影や悪夢が待ち受けているかは分からない。それを乗り越えなければ、
月美の元へは辿り着けない」

 一同が頷き、結城丈二とともに足を踏み出すと、
その先には暗く深い闇が広がっていた――まるで、彼らを試すように。

「ひとまず、下のフロアに降りる前に一度ジョゼ少年たちの元に戻りましょう」

 ジョゼが待つ場に戻った一行からの事情を聞き、モルガナは眉をひそめた。

「ツキミがトラップに……!? そいつは厄介だぞ」

 エリセは下を向き、ゆっくりと語り始める。

「……月美さんが、お父さんの姿をした幻影に引き寄せられてしまって……
気づいた時には、下のフロアに引きずり込まれて……」
「……じゃあ、月美さんはどうなっちゃうの?」

 イリヤが不安げに問いかけると、丈二は真剣な面持ちで答えた。

「……時は一刻を争う。急いで下に降りねばな」

 太公望がふと、頭数が足りない事に対してモルガナに尋ねる。

「ところで、我らと同じく花を探しに行った面々はまだ戻られていないので?」
「……あれを見な」

 と、モルガナが指差す先には、空間を裂くようなオーロラが広がっている。
ディケイド、ペル、沖田オルタ、煉獄たちが向かった方角だ。

「何だありゃあ?」

 丈二は険しい表情を見せ、冷静に語り始める。

「……あれは、大ショッカーが用いる手段のひとつだ……奴らはあの向こうで
戦っている……」
「大ショッカー?」
「色々と事情に詳しいようだな……」

「それなりには、な……あのオーロラは大ショッカーによる封鎖技術だ。
あれを破るには少々手間がかかる。ディケイド達が連中をどうにかすれば、
自ずと解除されるはずだ。だが、それをのんびりと待っている余裕は無い」
「あいつらの援護は期待出来ねえ、か」

「仕方ねえ。ジョゼ、あいつらが戻ってきたら今のことを伝えてくれ。
ワガハイたちは一足先にツキミを助けに行く」
「うん、わかった。気をつけてね」

 かくして、月美救出作戦が開始された。


「……」


 暗い闇の中、メメントスの罠に落ちて沈んでいく月美の脳裏に、
かつての戦いの記憶が甦っていた。

「交響界事件」。

 響き合う幾つもの世界……まるで水面に生じた波紋が次々と広がるように、
無数の異世界の戦士たちが呼び寄せられたあの戦場。
そこには様々な力を宿す者たちが入り乱れ、月美自身もまた、
その混沌の中で自分の役割を果たそうと必死に戦っていた。

「――ほむらちゃん!」
「はっ……」

 リ・ワールドにて、ディケイドやペルと共にアベレイジを壊滅させた後も、
暁美ほむらは魔法少女として巴マミや佐倉杏子と共に魔獣との戦いに挑み続けていた。
けれど、親友である鹿目まどかはもはやこの世のどこにも存在せず、
美樹さやかもまた、魔獣との激闘の果てに消えてしまっていた。

 そんな最中に発生した「交響界事件」。ほむらはこの事件に巻き込まれ、
記憶を失うという運命に翻弄されてしまう。いつしか彼女の姿は、
三つ編みと赤縁メガネ――気弱で迷いの多かったルーキー時代のものに戻っていた。

「ぼーっとしてんじゃないわよ、転校生!」
「あ、ありがとうございます、美樹さん……」

 さやかがほむらを叱咤する。だが、そこにいるはずのないまどかと、
消滅したはずのさやかが、記憶を失ったほむらと共にに再び戦いの場に立っていた。
その再会が何を意味するのかを知ることなく、ほむらは混沌の戦場で
新たな道を歩み始める。

「ミンナ、イルイル!」と不思議な生き物・べべが陽気に叫ぶ。

 マミが微笑み、べべの頭を撫でながら応える。

「ふふ、そうね。私たちが揃えば、誰が相手でも負けることなんてないわ。
行くわよ、みんな!」
「まーたアレやんのか? マミ」と、杏子が少し呆れながらも楽しげに返す。

「もちろん」

 マミが堂々とした声で先頭に立ち、チーム全員で名乗りを上げた。


「「「「「ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット!」」」」」

 
 続いて、まどかが笑顔で前に出る。

「皆で未来を守るために!」
「いっちょ派手にやってやろうじゃん!」

 さやかが剣を構え、勇ましい声で、杏子は槍を片手に、少し気怠けに応える。

「ちゃっちゃと片付けてメシにしようぜ」
「わたしも、がんばります……!」

 ほむらも胸に秘めた決意を込めて、静かに名乗る。
マミが、全員に視線を向けてから自らの銃を構え、満足そうに微笑む。

「もうひとりぼっちじゃない……こんなに充実した気持ちになれるなんて……
もう何も怖くない……」

 5人の魔法少女が心を一つに合わせ、
「ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット」としての戦いを再び始める。
その姿は、まさに神聖なる光を纏った五重奏のように輝き、彼女たちは一丸となって
立ちはだかるすべての闇を切り開いていく。


 ……本当に?


(私達の戦いって……これで、良かったんだっけ……)

19人目

「交響界事件録 - 真実に挑む者たち -」

「う、ううん……」

 沈み込んだメメントスの下層で、月美は闇の中で倒れていた。

「……」
「はっ……!」

 目の前には、いつの間にか現れた父親・日向月光――
いや、父の姿をした“何か”が立っていた。その姿はかつての父そのもので、
彼女の心の奥深くに秘めた思いを引き出そうとするかのように、微笑んでいた。

「……月美、こんな危険な場所で何をしておるのだ」

 その声はあまりにも自然で、温かく響いた。月美は戸惑い、目を逸らしそうになったが、すぐに顔を上げ、相手の目をまっすぐ見つめた。

「あなたは……本当にお父さんなの?」

 月光の姿をした影が柔らかな微笑を浮かべる。

「もちろんだ。会いたかったぞ、月美。これからはずっと一緒だ」
「……!!」

 月美の心が一瞬揺れる。それは彼女が最も望んでいた言葉だった。
だが、心の中に渦巻く疑念は消えなかった。これは父の優しさではない。
離れ離れになった仲間たちの事が脳裏をよぎり、彼女は拳を強く握り締めた。

「……お父さんなら、私がこの場所にいる理由をわかっているはず。
私が今、ここで戦わなきゃいけないことを……!!」

 その言葉に、月光の表情が僅かに揺らいだ。その揺らぎは、一瞬本来の姿を見せたように思えたが、すぐに元の父の姿へと戻る。

「……月美、無駄な戦いはやめて私と来るのだ」

 だが、月美は一歩も引かず、静かに息を整えて相手に向き直った。

「あなたは……お父さんじゃない。私の弱さにつけ込む“何か”でしかない!
お父さんは、己の身も顧みずに私に世界の命運を託してくれたんだ……!!」

 その瞬間、父の顔は冷たい微笑みへと変わり、声色も低く、鋭く変わった。

「ほう……よくもそんなことが言えるな、小娘が」

 月美は目の前の偽りの父に立ち向かう覚悟を決め、決然と神刀・星羅を握る。

「お父さんの姿と名を騙って、私の弱さに付け入ろうとするなんて……絶対に許さない!」

 二人の間に緊迫した沈黙が広がり、闇がより深まるように感じられた。
月美は、かつての父との思い出を胸に刻みながら、目の前の”敵”に向かって力強く叫んだ。

「あなたは……私が倒す!!」
「やれるものならやってみるが良い。日向家当主の力……忘れたわけではあるまい」

 とてつもない霊気が月光から迸る。虚飾だけではない。
その姿のみならず、能力でさえも本人と寸分違わないかも知れない。
だとすれば……

「あなたが日向の名を騙らないで……!!」

 日の光も差さない闇の中、勝利をもたらされるのは、月美か、月光か……
望まざる父と子の戦いが、今、始まる……


-------- 回想・交響界事件 --------

 「交響界事件」に巻き込まれたほむらたちは、混沌とした戦場の中で戦い続けていた。
ほむらは戦いの最中、失われた記憶の断片が少しずつ蘇ってきていた。
巴マミ、佐倉杏子、そして美樹さやか――彼女の隣に立つ仲間たちは、
かつての戦友たちであり、彼女と共に多くの戦いを乗り越えてきた存在だった。

 だが、ほむらにはひとつの大きな違和感があった。かつて消え去ったはずの親友、
鹿目まどかが彼女のそばにいるのだ。まどかの穏やかな笑顔、励ましの声、
戦いの中で支え合う温もり――それらは確かに彼女の大切な思い出そのもので
あったはずだが、寧ろそれが故に、ほむらの中では揺るがぬ疑念が生まれていた。

(……これは本物なの? 本当に、まどかがここにいるの?)

 考えれば考えるほど、記憶が繋がらない。
「鹿目まどか」はもはやこの世界の何処にも存在せず、まどかの事を記憶しているのも
ほむらひとりだけだったはずだ。

「まどか、さっきのコンビネーション、すっごい良かったよ」
「ありがとう、さやかちゃん」
「……」

 まどかと談笑しているさやか。彼女の存在とて、妙なのだ。
ほむらの記憶が確かならば……

『バッカ野郎……さやか……』
『彼女も導かれたのね……円環の理に……』

 魔獣との戦いで力尽き、さやかも消滅した。そこには杏子やマミも居合わせていた。

「マミ、チーズ、チョウダイ」
「はいはい、ベベも頑張ったものね」

 マミに抱き上げられるベベ。あの妙な生き物は何なのだ。
何故マミとあんなに親しげに接しているのだ。あれは何処から来た?
見滝原の街で魔獣と戦っていた時にはいなかったはずだ。

「どうしたんだよ、ほむら。こえー顔しやがって。腹でも減ってんのか?」
「佐倉さん……」

「アンタじゃないんだからさ。一緒にしないでやんなよ」
「なんだと、てめーさやか! どう言う意味だ!」

 などと、ほむらの周りをぐるぐる走り回ってじゃれ合うさやかと杏子。
もう二度と見る事も無いだろうと思っていた光景……かつてほむらが持っていた固有魔法、時間遡行の力も失われた今となっては……

 そんな思いを抱えながらも、彼女は戦いを止めるわけにはいかなかった。
ここはほむら達がいるべき世界ではない。様々な異世界から召喚された英雄たちと同様、
元の世界に帰るために……

 鹿目まどか。本来ならばほむらのそばにいるはずのない存在。
このまま異世界での戦いを勝ち抜き、元の世界に帰る事が出来れば、
またまどかや仲間たちと一緒にいられるのか……けれども、そんな考えが過ぎるたびに、
ほむらはますます深い疑いの中へと引き込まれていく。

「……ほむらちゃん、どうかしたの?」
「まどか……」

 まどかの優しい問いかけに、ほむらはハッと我に返った。
その声が、彼女の心を暖かく包み込む。
だが、それでもこの空間のどこかに潜む“偽り”の影が彼女の心にささやきかける。

「……ありがとう。心配しないで。ただ、みんな一緒にいるなぁ……って思って」
「?」

「何だよ、それ。当たり前じゃねーか」
「ふふ、変なほむらちゃん」

「あら、素敵なことだと思うわ。みんな一緒に、元の世界に帰るんだから。
誰一人欠ける事なく、ね?」
「……」

 誰一人。やはり巴マミも、まどかとさやかがいる事に違和感を抱いていない。
魔獣との戦いの事を覚えていないのか、それとも、ここにいる魔法少女たちは
ほむらの知る彼女たちとは違う存在なのか?

(私は……私は何をしているの? 本当に、これが現実なの?)

 すべてが幻であるかもしれないという思いが彼女の心を締めつけ、
まるで目の前の仲間たちさえも信じられなくなるような不安が膨らむ。
それでも、ほむらは戦いを続けるほかなかった。もしここで立ち止まるならば、
自分は永遠に“偽り”に囚われてしまうかもしれない――
そんな恐怖に背中を押されるように。

 彼女の心の中には、かつて一人ぼっちで戦い続けた日々の孤独が蘇りつつあった。
それでも、隣にまどかがいる、さやかがいる、マミも、杏子も――
その温もりを信じたいという切実な願いが、ほむらの心をわずかに支えていた。

(……この戦いが終われば、すべてが分かるかもしれない)

 そう信じ、ほむらは眼鏡と三つ編みを解き、真実を解き明かすべく動き出す。
この戦いが収束する時、きっと求めていた答えに辿り着けると信じて……

20人目

「地獄の三つ巴、開戦」

ついに特異点に現れたミケーネ帝国、それを迎え撃とうするジオン族と竜王軍、そしてCROSSHEROES。
今ここに特異点全体を戦場とした、三つ巴の戦いが幕を開けた…!






「……これで全員か…?」

リビルドベースで待機してたメンバーのうち、戦いに参加できるメンバーがリビルドベース入り口に集まっていた。

「そうみたいだね」

「本当なら士やカルデアの皆の力も欲しかったけど……」

「あいつらはメメントスに行ってる最中だからな」

「そういやそうだったな……」

そう、現在特異点にいるCROSSHEROESのメンバーの一部はメメントスを攻略している最中なのである。
そのため現状ミケーネと戦えるのはリビルドベースに待機しているメンバーと遺跡の調査に向かったメンバー、そして杜王町にいる仗助達だけなのである。

「いない以上は仕方ありません、私達だけでなんとかしましょう」

「……遺跡へ調査に行ってる甲児達から連絡はあったか?」

「うん、今急いで杜王町の方へ向かってるんだって」

「杜王町か……確かにあそこは多くの一般人が住んでいる以上、絶対に守らないとな」

「うん、それに今杜王町にいる戦えるメンバーは仗助達だけだからね」

「彼らも確かに強いが、大きさと数のことを考えると彼らだけでミケーネ帝国から杜王町を守り切るのははっきり言って厳しいだろうからな」

「となると僕たちはリビルドベースの防衛に回る感じ?」

「あぁそうだ。ここには千鳥を始めとしたCROSSHEROESの非戦闘員に加えてどういうわけか杜王町と同じように一般人もいるみたいだからな……」

「あー……実はリビルドベースの一部のエリアは一般人でも自由に利用できるように開放してるんッス……レジャー系の施設とか……」

「それに加えて、特異点に迷い込んでしまった別の世界の人達の保護とかもしておりまして……一応保護してから少ししたら杜王町の方に住んでもらうようにはしてるんですが、保護した人たち全員を杜王町に住まわせるのは流石に難しいようで……」

「そうか……」

「あとはルイーダさんの酒場にも何人か防衛に行かせたいんッスけど……」

「……奴らの規模を考えるとこれ以上ここの防衛を減らすわけにはいかないな……河城、さっき頼んだアレはできたのか?」

「あぁアレね。一応ボディの方はリビルドベース内の空きスペースにあんたから貰った設計図を元に全自動で量産できるラインを作ったから多分今の時点で何体かできると思う。
搭載する自律稼働型AIはリビルドベースのデータベース(クォーツァーパレスだった頃のやつ)の中にいい感じのAIがあったから、あとはそれを最適化してインストールすればすぐに動かせるんじゃないかな」

「それにはどのぐらい時間が掛かる?」

「そうだね……最適化の作業さえ終わればインストール自体は量産されたボディに自動で行えるようにできるから……ざっと5分だね」

「わかった。ならお前は先にそれを終わらせてくれ」

「オッケー。じゃあそれまでヒソウテンソクへの指示はあんた達に任せるね」

そう言うとにとりはリビルドベースの中へと戻っていった。

「よし……お前達、5分だ。最低5分耐えることができればここにいる何人かを別の場所に行かせれるだけの余裕ができるはずだ」

「わかった。ところで宗介、アレっていったいなんなの…?」

「あぁ、それはだな……っ!
……どうやらこれ以上は話している時間はないらしいな」

一同が目にしたもの、それはリビルドベースへ向けて進軍してくるミケーネ神や戦闘獣の大軍団であった。

「あれがミケーネ…!」

「デカいのが沢山いる!」

「こりゃ、俺たちも最初から巨大化したほうが良さそうだな…」

「そのとおりだ。奴ら相手に力を温存しながら戦うのは危険だ、最初から全力でいったほうがいい」

「わかったよ宗介」



「む?あの赤い機体は確かリ・ユニオン・スクエアてま戦ったこの時代のCROSSHEROESの一人が乗ってたもの……となるとあの城はこの特異点における奴らの拠点ということか……」

「ククク、ならば話は早い……あそこを破壊してしまえば奴らに大きな損害を与えることができる…!
総員!あの城を一気に攻め落とし一斉にかかれ!!」



「っ!来た!」

『軍曹、ここはこの中で唯一奴らと戦闘経験のあるあなたが指揮をお願いします』

「わかった。
お前たち、奴らを一体たりともリビルドベースに近づけるな!河城がアレを完成させるまでの5分間、全力でここを守り抜くぞ!」

21人目

「鋼鉄と神話の激突」

 リビルド・ベースの監視塔に立ち、ヘクトールとパリス兄弟、
そしてアキレウスが並んでミケーネ帝国の動きを見つめていた。

「ミケーネ帝国か……よもや、サーヴァントになってまでギリシャ軍の名を頂く輩と
戦う事になるとは、これも因果かねぇ……」

 ヘクトールがミケーネの進軍を見据えながら、静かに煙草を燻らせた。
トロイア軍を指揮し、ギリシャ軍と激しい戦いを繰り広げた記憶が蘇る。

「……まさか、お前さんとこうして並び立つ日が来るとはな、アキレウス」

 いつもの飄々としたヘクトールの態度から一変、対するアキレウスは
冷たい視線を敵陣に向けたまま、皮肉げな笑みを浮かべて応えた。

「奇遇だな。俺も同じことを考えていた。トロイアではお前を倒すために
全力を尽くしたが……今は、共通の敵に全力を注ぐとしよう」
「まったく、何が起こるかわかりませんね。僕たちがこうして同じ側で戦うなんて……
ただ、今はトロイアの名誉も、お互いの過去も脇に置いて、全力でミケーネ帝国を
倒すことだけを考えましょう」

 可愛らしい少年の姿で召喚されたパリス。兄のヘクトールとは
兄弟どころか親子ほどの年の差を感じるギャップを感じられる。遡れば
トロイア戦争勃発の引き金となったパリス、そしてギリシャ軍とトロイア軍に分かれ
一騎討ちを争ったアキレウスとヘクトール。かつてのトロイア戦争では宿敵として
激しく戦った彼らが、今こうして肩を並べ、共通の敵に備えている。
その空気には複雑な緊張が漂っていた。

「我が弟ながら、い~い心構えだ」
「その通りだな。今の俺達はカルデアのサーヴァント……マスターを守るための存在だ」
 
 その言葉にヘクトールやアキレウスも同意を示し、監視塔から見える
ミケーネ帝国の軍勢に目を向けた。

「流石、私のパリスくん。かわいくて聡い。マジ最強」

 パリスが抱くのは羊のぬいぐるみのような姿をしたギリシャの太陽神、アポロン。
本来、サーヴァントは肉体の全盛期を迎えた姿で現界するものだが、
彼の独断と偏見によって純真無垢な少年時代の姿にされてしまった。

「奴らの進軍は予想以上に速い。兵士だけでなく、鋼鉄の巨神や戦闘獣もいる。
ミケーネ帝国の力は侮れない……だが、ここで奴らを食い止めなければ、
リビルド・ベースも、そこにいる仲間たちも危険にさらされるだろうね」

 アキレウスはアポロンの言葉に応じ、拳を握りしめた。

「ならば、全力で行くだけだ。俺たちがここに集う以上、
あの機械の塊どもに突破されることはない。ヘクトール、お前の力も借りるぞ」

 ヘクトールは頷き、力強く応じた。

「応さな。敵としちゃあ二度と戦いたくないが、お前さんが味方となれば
これほど頼もしい者もおるまい。お互い、存分に力を振るうとしましょうや」

 パリスも弓を構え、決意を胸に監視塔から遠くの敵陣に狙いを定めた。

「兄さん、アキレウス……僕も共に戦います。ミケーネを叩き、
リビルド・ベースとマスターを守るために」

 その言葉にアキレウスとヘクトールは互いに無言で頷き、緊張感を共有する。
この瞬間、かつての宿敵同士の間に確かな信頼が生まれ、
彼らは共に戦うための覚悟を決めていた。

 監視塔からは、ミケーネの鋼鉄の軍勢がゆっくりと迫ってくる様子が見える。
今こそ、トロイア戦争を戦い抜いた英雄たちの力が試されるときだ。

「ど~れ、まずは挨拶代わりと行きますか……」

 ヘクトールはのそのそと広場の真ん中に立ち、人差し指で槍の切っ先を定める。

「標的確認、方位角固定――『不毀の極槍(ドゥリンダナ)』!! 吹き飛びなァ!!」

 遥か地平の彼方に見ゆる敵軍に向かって放たれる、ヘクトールの宝具。
あらゆるものを刺し貫くとされた英雄の槍。例えそれがどれだけ離れた距離にいようとも。
どれだけ堅牢な装甲を誇ろうとも……

「う、うおおおおおおっ……」

 ミケーネ軍の敵陣に放り込まれた槍が大爆発を起こし、歩兵たちを一瞬にして
黒焦げにする。

「ぎゃああああああああああああああああッ!!」

「な、何だ!? 敵の攻撃か!?」
「お、おのれ、CROSS HEROES……!! 殺せ! 一匹たりとも残らず
根絶やしにしろ!!」


「大英雄の矛、戦いの狼煙には申し分なし! おっしゃあ! 開戦だァ!!」


 ヘクトールの先制攻撃を合図に、アキレウスの姿が掻き消える。
神速を誇る彼の脚力は、瞬く間にリビルド・ベースの領内の外に飛び出し、
ミケーネ帝国へと向かっていく。

「さぁて、忙しくなるぞぉ……」
「アキレウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 一息つこうとしたヘクトールとパリスの元に、血走った目をした女戦士が現れた。

「おわっと!?」
「今、アキレウスの声がしたぞ……!! 奴は何処に行った!?」

 トロイア軍と共同戦線を張ったアマゾネスの女戦士、ペンテシレイア。
バーサーカーとして顕現した彼女は、生前のトラウマ……
自身を殺し、誇りを傷つけたアキレウスに対する並々ならぬ執着心に染まっており、
理性をも凌駕する狂戦士と化してしまうのだ。

「あ、アキレウスなら、あそこに……」

 ヘクトールが指差す先には、もはや豆粒に見える程の距離を走破し、
ミケーネ帝国に向かっていくアキレウスの姿があった。

「ア、ア、アキレウスゥゥゥゥゥゥゥゥッ!! そんな所にいたかァァァァッ!!
ああああああああああああああああああああッ!!」

 地上数10メートルはあろうかと言う監視台の高所から飛び降り、
ペンテシレイアは奇声を発しながらアキレウスを追いかけて行った。

「あーあ、アキレウスの奴、死にましたね、あれは」
「悪く思うなよ、アキレウス……」


「発進、よろし! どうぞ!」


 一方、リビルド・ベースの格納庫では、一機の巨大構造物が発進準備に入っていた。
ダイマジーンなどを有したクォーツァー・パレスを改造したのが
リビルド・ベースであるため、そのノウハウは随所に引き継がれている。そして……

「こちらオデュッセウスだ。木馬で、出る!!」

 カタパルトに火花を散らし、格納庫から滑空発進するのは、
「トロイの木馬」で知られる、クラス:ライダーのオデュッセウスの宝具……

「未確認飛行物体、飛来!」
「ま、まさか、マジンガーZか!?」

「い、いいえ、違います、マジンガーは全身が黒いはずですが……
真っ白です! 真っ白な機械の馬が!!」

 「空にそびえる、白き木馬……ってな。アイギス接続。宝具格納庫より発進。
多重加護同時連結。魔力増大……殲滅形態で叩く!」

 木馬が変形し、人型機動兵器の姿へと変わる。


「ロ、ロボット!?」
「――終焉の大木馬(トロイア・イポス)ッ!!」


 胸部から巨大ビーム砲を放射し、ミケーネ帝国の前線を吹き飛ばす。


「ぐああああああああああああッ……」
「さあ、かかって来い、ミケーネ帝国とやら。トロイア戦争の切り札ともなったこの力、
機械仕掛けの神々よ、存分にご照覧あれ!」

 かくて、特異点を舞台としたミケーネ帝国との戦いの幕の火蓋は、切って落とされた!

22人目

「杜王町郊外:翠狂讐姫演義 その1」

 時は遡り、リビルド・ベース

「なんだァ?空真っ赤っかじゃねぇかよ。」
 タバコを吸いながらけだるげに、アヴェンジャー:罪木蜜柑・オルタが空を凝視していた。
 天の赫空は、かのミケーネ帝国の軍勢が特異点に攻めてきた証。
 真紅に染まる空を憎悪の目で睨む白髪の復讐者。
「ちっ、なんだか知らねぇが……こいつはまた厭な空だ。」
 殻だけになったタバコを灰皿に捨て、新しいタバコを咥え火をつける。
 その顔は浮いていない。

「あんな空仰いで、子供たちが眠れねぇってのも厭な話だ。……うし、行くか。」
 彼女は決意する。
 リビルド・ベースの会議室に置き手紙を殴り書きで書いて、武器庫からロケットランチャーをくすねる。
「すぐ戻ってくる。」
 そして、一室で眠っている子供サーヴァントを心配そうに見た後、罪木オルタは外へと走り出した。



 リビルド・ベースを少し離れ、杜王町郊外

 そして今に至る。

「あーあー、思った以上にでけぇな……。」
 息巻いて杜王町郊外に来た罪木オルタは目撃する。
 迫りくる戦闘獣、空中要塞、ミケーネ神の侵攻。
 特異点を襲う機械仕掛けの神々(デウス・エクス・マキナス)。
 進撃の機械軍団に、圧倒されつつあった。

「さすがに……単騎じゃきついな。」
 ベースからくすねてきたロケットランチャーが心許なく見えてくる。
 ついついらしくない、乾いた笑いが出てくる。
 何しろ相手は巨大なロボットの軍団に空中要塞。
 復讐の昏き炎を燃やし、悪徳の数々を燃やし尽くし血祭りに上げる彼女でも一人ではさじを投げたくなるというもの。

「ほう、連中を前に単騎とは、自決する気か。」
 そんな彼女を前に皮肉をぶつけるは一人の男。
「だから一遍戻ろうかって思って……あんた誰だ?」
 一時撤退を考えていた白髪の復讐者の横に立つは、禍々しき棘槍を持つ狂戦士。
 凶悪な笑みと冷酷な声。
 その闘気は大地を震わせ、狂奔と恐怖を招く。
 ―――バーサーカー:クー・フーリン、その別側面(オルタ)が援軍に来た。
「俺も行こう。連中を前に一人じゃ心許ないだろう?」
 冷酷に告げる。
「はっ、そうだな。一騎より二騎の方が多少は抗えるか?」
「二騎ではないぞ。」

 声の聞こえる方向に振り返ると、そこには弓に矢をつがえているアタランテの姿があった。

「私も行こう。」
「……アタランテか。」
「汝が何かを察して飛び出したのを見てな、後をつけてきた。」
「あとをつけてきたって……あのな、別につけなくてもいいんだぜ?言ってくれたらよかったのによ。」
「お前ら、無駄話をしている暇があるなら前を見ろ。」
 クー・フーリン・オルタが己が得物たる禍々しい槍を向ける。
「……ああ見えてるよ、あのロボの大群だろ?」

 そうこうしている間にも、ミケーネ神の軍勢が特異点を闊歩していた。
 まるでSF映画のような光景に圧倒され、周辺の市民は次々に杜王町市内へと逃げつつあった。
 迫りくる悪神の軍勢、侵略の一手が特異点に泥のように広がってゆく。
 その最中、たった3人だけは迫る軍勢を睨む。

「ベースのカルデア連中には、あたしから『なんかやばい気がするから先に杜王町に行ってる』って置き手紙を置いておいた。3騎なら心置きなく、ある程度の時間稼ぎはできると思うぜ。」
 そういいながら、罪木オルタはその辺の標識の根本を蹴り折り、心許なかったはずのロケットランチャーと共に武器として構える。
「そうか……んじゃ。」
「殲滅だな。ゆくぞ。」

 かくして3騎の英霊は、その弓/槍/標識を軍勢に向ける。
 純潔の狩人、アタランテ。
 暴虐なる狂王、クー・フーリン・オルタ。
 白髪の復讐者、罪木蜜柑・オルタ。

 大融合特異点にて、3騎の前哨戦が始まった。

23人目

「神に抗う者、神に仕える者」

 戦場は、ミケーネ帝国の圧倒的な鋼鉄の軍勢とカルデアのサーヴァントたちの衝突で
激しさを増していた。リビルド・ベースを防衛するトロイアの英雄たちや
新たに加わったギリシャ神話の強者たちが、迫りくる敵に備えていた。

 アキレウスが神速の脚でミケーネ帝国の軍勢に突進していく一方で、
ヘクトールは監視塔に残り、状況を冷静に見極めていた。
ペンテシレイアがアキレウスを追いかけて行ってしまったため、
彼とパリスはリビルド・ベースの守りを固めつつ、次なる戦術を模索していた。

「さぁて、パリス。あの大英雄様が敵陣で好き放題暴れてる間に、
俺たちも一つ二つ見せ場を作るとしようか」
「ええ、兄さん。僕も負けるわけにはいきません。アポロン様、力を貸してください」

「うーん、健気だなぁ。私のパリスくん」

 パリスが召喚したアポロンの弓が輝き、彼の矢に神の加護が宿る。
パリスの弓矢は精密で、鋼鉄の巨神の隙間を正確に射抜き、
ミケーネの兵士たちに次々と打撃を与えていく。
人体の急所のひとつとして知られるアキレス腱。それはギリシャ神話において
神速無双を誇るアキレウスの踵を撃ち抜いた事に由来する。その射手こそ、パリスなのだ。

「ははっ、おせぇおせぇ! そんなんじゃ俺の姿を捉えられまいよ!」

 遠くではアキレウスが敵の前線を蹴散らし、火花を散らしながら
走り抜けているのが見える。敵にとってはさながら瞬きの間に閃く雷光の如く……

「アキレウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
「!?」

 そんな中。突然、怒号と共にトゲ付きの鉄球がアキレウス目掛けて投げ込まれる。

「ぬおっ!?」

 地面に深く沈み込む鉄球。アキレウスを追って来た、狂化状態のペンテシレイアだ。

「おいおい、随分ご機嫌ナナメみてえじゃねえか……」
「黙れ! 口を聞けると言う事は、貴様はまだ生きていると言う事だ!
死ね!! 今死ね!!! すぐに死ね!!!! 潰れて死ね!!!!!」

 問答は意味を成さない。アキレウスの言葉などまるで耳に入ってこないと言う様子で
二対の鉄球を立て続けにぶつけてくる。

「うおおおおおおおおおああああああああああああああああああッ!!」

「ぎゃああああああッ!!」
「な、何だこいつはぁあああああッ!!」

 アキレウスはペンテシレイアの攻撃を紙一重で避けつつ、
周囲のミケーネ帝国兵を巻き込んで一網打尽にする作戦を水面下で進めていた。

「ひゅう、危ねえ危ねえ」
「逃げるな、アキレウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!! 戦え!!
戦って私に殺されろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 狂乱状態になりつつも、アキレウスの気配だけは本能で察知出来ている。
神速に肉迫するペンテシレイア。気を抜けば、すぐさま鉄球の血錆と化すであろう。 

 それぞれの激戦が繰り広げられる中、カイニス、ヘラクレス、
そしてキルケーが姿を現す。カイニスが槍を構え、笑みを浮かべた。

「どいつもこいつも、この神霊・カイニス様の領域に足を踏み入れるとは笑わせるぜ!
かかって来な、一匹残さず鉄くずにしてやらァ!!」
「ガオオオオオオオオオン!!」

 巨大な戦闘獣を前に、カイニスは不動の構えで迎え撃つ。

「陸に居ながらにして溺れ死ね!! 
海の神、荒れ狂う大海嘯(ポセイドン・メイルシュトローム)ゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 海神・ポセイドンの偏愛を受けたカイニスは、無双の力と不死性を与えられた。
己の力を過信し、神々への叛逆を繰り返した暴虐の英雄。その槍の切っ先から、
まるで荒野の真ん中に新たなる海を生み出すような質量の水流が迸る。

「!?!?!?!?!?!?」

 戦闘獣たちに浴びせかけられた渦がその装甲を圧壊、或いは飲み込み、
一切を洗い流していく。

「ハッハァ! 沈め沈め! 無様に命乞いしてみせろ!!」
「――!!」

 ヘラクレスがカイニスが生み出した洪水に飲まれた戦闘獣たちの上を
飛び石のように飛び移る。その巨体で敵を蹴散らし、拳で鋼鉄の巨神を粉砕する。

「ガアアアアアアアッ!!」
「ははは、いいぞぉ、ピグレット。ぷよぷよボディは海にも浮くのさ♪」

 女神ヘカテーに仕えし大魔女、キルケー。
あのキャスター・メディアに魔術の基礎を教え込んだ師でもある。
魔術で豚に変えた下僕に跨り、カイニスの海の上を漂う。
水遊びでもエンジョイしているかのようだ。

「た、助けてっ……」
「んん? 助けて欲しいかい? なら、君も私のピグレットになると良い」

 波に飲まれ、命からがらキルケーに縋り付くミケーネスに、キュケオーンを振る舞う。

「げ、げほげほっ……何だこれは……うぐっ、んごおごごごごご……!!」

 お手製の麦粥を口に流し込まれたミケーネスもまた、豚の姿に変えられてしまった。

「これで君も私のかわいいピグレットの仲間入りだ。ふふ♪」


 ――リビルド・ベース。*

 戦場の緊張が高まる中、リビルド・ベースの武器庫を彷徨く神父服の男。
言峰綺礼が無表情ながらもどこか探るような目つきで、周囲に問いかける。

「武器庫に保管してあった私のロケットランチャーを知らないかね?」

 言峰の冷淡な声とともに、周囲のカルデアのスタッフがちらりと互いに視線を交わす。
少し呆れた表情で、スタッフたちが小声で囁いた。

「ロケットランチャーって……なんてものを持ち込んでるんだ、あの神父は」

 一足違いで、杜王町に向かった罪木オルタが武器庫から持ち出したロケットランチャー。
それこそが、言峰綺礼の所有するものだったのだ。

「無いものは仕方が無い。昼食を取ることにしよう……」
「何かとんでもない事言ってるぞ……」

「はぁ……」

 待機中のモードレッドが呆れたように言峰の前で腕を組み、
少し苛立った口調で言い放った。

「ミケーネ帝国とか言うのが迫ってるってのに、何を呑気に昼飯なんか食おうってんだよ、
おっさんよ」

 しかし、言峰はまるで意に介さず、冷静に彼女を見返すと、ゆっくりと答えた。

「こう見えても、私は神に仕える身。神の加護を賜る者として、
戦場で無闇に刃を向けるなど無礼なことはできない。例えそれが異世界の神であろうとも」

 言峰の答えにモードレッドは眉をひそめ、肩をすくめた。

「神に仕えるとか、何を気取ってやがる。敵はンなもんお構いなしだ。
今さら神への忠誠を語ってる場合か」

 言峰は微笑みを浮かべ、

「今を生きる若者たちに任せるとしよう。後は君たちに託す」

 そう言うと、彼は悠々と食堂へと向かった。

「……って、ただメシ食いに行っただけじゃねーか!!」

「何なんだ、あの神父……」
「わからん……知らない間にカルデアに出入りするようになっていたが……」

 言峰綺礼。カルデアの誰一人として、その素性を知るものはいない……

24人目

「心なき世界に憎悪の花束を その2」

 ジャバウォック島 第Ⅴ実験棟周辺

「おおおお!」
「はあああああ!!」

 カルネウスを連れ去られ激情にかられるリク、嘲笑まがいに攻撃をいなすゼクシオン。
 怒りに飲まれたリクの攻撃は激しい。
 が、その一撃一撃をまるで幻影のように回避してゆく。
 これこそが、かつて「影歩む策士」と呼ばれたノーバディの神髄。

「そうだ、その眼です!その闇の炎!激情と憎悪にまみれた、昏き炎!!」
「くっ!!」
 ゼクシオンには見えていたのだろう。
 激情と復讐心がもたらす、眼の中の黒い火を。

「さぁ、早くしないと江ノ島盾子が発狂してしまいますよ!?」
「……そんなに闇が見たいなら見せてやる!!」
 その刹那、リクの体が闇に包まれる。
 すさまじい程の闇黒の瘴気。ゼクシオンすら膝をつきそうになる。
 だが、彼こそがそれを最も理解していた。
「ダーク・リク!なるほど……あの時と同じか!」
 冷や汗をかく。
 体に若干の恐怖がにじみ出る。無理もない。
 過去、ゼクシオンは一度、忘却の城にてこの姿のリクに敗北したことがあるのだから!

「ですが、今回ばかりは負ける気がしませんね!!」
「!?」
 その剣撃のすべてが虚空を斬るばかりで。
 幻影を切り裂くばかりで、まるで実感がない。
 まるで、攻撃のすべてを理解されているような。
「この私もね、学んでいるんですよ。」
 得意げにレキシコンを開き、大技にかかる。
「そろそろ終わりにしてあげましょう―――サイクロンスナッチ!!」
「来る!」
 体が黒い竜巻の幻影に吸い込まれる。
 そうして中心部に引き込まれたリクは、大地に縛り付けられてしまった。
「まだです!」
 地に縫い付けられたリクを、分身したゼクシオンが囲う。
 それはかく乱が目的でも、嘲笑が目的でもない。
 確実なるとどめを刺すための戦略。
「深き幻影よ!!」
 分身含むゼクシオン3名が、円を描きながら闇の波動を放ち続ける。
 無数の闇の弾幕と衝撃、幻想郷の弾幕ごっこもかくやな連撃。
 そしてとどめに放たれる最強の闇の一撃を以て、敵は例外なく塵と化す。

 その技の名は、カタストロフィー。
 ゼクシオンの放てる最大の必殺技である。

「どこだ、本物は!」
 冷静さを欠いたリクには、本物を見分ける余裕もなく闇の波動の連撃をもろに喰らってしまった。
「うおおおあああああああああ!!!」



 礼装『糾弾法廷』内

「これ以上、責めるな……私の心を縛るな!」
 江ノ島の心を攻撃する、精神攻撃の礼装。
 このまま腑抜けさせ、戦闘不能にしたところを連れ去るのがゼクシオンの狙い。
 だが、過剰な精神攻撃は最終的に対象を自死に追いやってしまうことだってある。

「……。」
 そんな彼女を、アンリマユと化した苗木誠はニタニタと見ていた。

「はぁ……はぁ……。」
 苗木誠が迫る。
 しかし恐怖と未知の絶望にさいなまれた江ノ島は震えている。
 体がどうにかなってしまいそうなくらいに。 

「もう……。」
 目から光が消えつつある。
 声が響く。
 脳を物理的にも、精神的にも破壊してしまいそうな罵声。
「………くそ。」
 やがては助けが来ることもなく、江ノ島の意識は失せてしまった。



「くっ……!!」
 サイクロンスナッチと影の爆撃の波状攻撃を食らい、膝をつく。
 ダーク・リクの変身も解けてしまった。
 闘志は消えていない。が、リクの手は震えていた。
「憎悪で私は倒せない、そんなことは分かっているでしょうに。」
「……それは。」
「だが、それでもあなたは闇の力で私を倒そうとした。なぜか。簡単なことだ。あなたは恐怖心を無理やりに抑え込もうとした。」
「!」
「それこそがあなたの弱点。あなたは心のどこかで、仲間である江ノ島盾子が死んでしまうんじゃないかと恐怖している。あなたは孤独の戦いを強いられるよりも、大切な仲間をいたぶられる方が辛いでしょう?」
「…………!」
「こんな問答をしても時間がない。とどめを刺してあげますよ。」
 そういいながら、ゼクシオンが迫る。
 リクに動ける体力は、まだある。
 が、己のうちの恐怖を突かれ、体が震えていた。

「………………。」
 呼吸を整える。
 まだ逆転の一手があるはずだ。
 落ち着け、魂を震わせる炎を抑えろ。
 そう考えながら、リクは前を見据える。
 まだ戦える、あと一手か、或いは何かのきっかけさえあればまだ戦えるのだ。

 ぴしっ。
「「!?」」
 それは、誰に向けられたものだったか。
 その時、ここから近い場所で、何かがひび割れる音が聞こえた。



『もういいだろ。闇を受け入れろ。絶望を享受しろ。』
 気を失ってもなお、己を責める声は依然響き続ける。
 どこにも逃げ場はない。

『何のためにCROSS HEROESについた?』
『敵であるくせに、なぜ?』
『お前は、なんのために戦う?』
 ああ、何のための戦いか。
 今まで問いかけ続けて、問いかけられて、ついぞ答えが見つかることがなかった難問。
 何のために、彼らの仲間になったか。
 結局分からずじまいか。
『お前が犯した罪から逃げるためか?』
 でも……それは違う。
 絶対に違う。
『正義面のアリバイのためか?』
 それも違う。

『なら、何のために?』

25人目

「日向の退魔師/右手に宿した運命抱いて」

 特異点・地上ではミケーネ帝国が襲来する一方……

 メメントスの深淵に立つ月美は、鋭い目つきで偽りの日向月光を見据えていた。
暗闇の中で一瞬の静寂が広がり、父の姿をした何者かを前に、月美の胸中には
複雑な感情が流れる。

「さあ、月美。お前が本当に成長したのなら、この父を超えてみせよ。
退魔師として、娘としてな」
「偽物のくせに……お父さんの姿を借りて、そんな言葉を口にしないで!」

 闇・月光は冷酷な笑みを浮かべながら、ゆっくりと構えを取る。
月美は緊張の中、呼吸を整えながらも決意を新たにする。彼女の手には父から教わった
退魔の霊力が宿り、メメントスの闇を突き抜けるように輝いていた。

「ならばいざ、証明してみせよ。私に勝てぬのならば、貴様は偽物以下と言う事ぞ」

 その動きは本物の月光の戦闘スタイルと瓜二つ。
月美が一度も勝てなかった父との厳しい訓練を思い出させた。

「――岩を割る磨羯よ、地を震わし揺るがせ。磨羯の轟!」
「!!」

 闇・月光が右足を一歩踏み出すと、地が砕け、連なる岩柱が月美に向かって迫る。

「くっ……!! この技……!!」

 見忘れるはずもない。日向家に伝わるその技。身をかわし、岩柱をやり過ごしながら、闇・月光が単に父の姿を模倣しただけの存在ではない事を月美は痛感する。

「織姫! 彦星!!」

 岩陰から、神具・織姫、彦星を射出する。赤と青の光を描いて空中を舞い、
月美の霊力に呼応するように輝きながら闇・月光へと飛んでいく。
闇・月光は冷笑を浮かべながら、その光景を一瞥する。

「ほう、神具を使うか。だがそれが、私に通用すると思うな」

 月美は歯を食いしばりながら、神具に込めた霊力を増幅させた。

「私は絶対に負けない! お父さんから教わった全てで、あなたを倒してみせる!」

 が、闇・月光は再び技を詠唱する。

「甲殻をまといし巨蟹よ、我が身を守護する堅牢なる鎧となれ、巨蟹の護り!」

 と冷たい声で唱えると、巨蟹座の霊力が彼の前に展開され、
巨大な甲殻の形をした障壁が出現。織姫・彦星を弾き返してしまう。

「くっ…さすがに固い…」

 月美は悔しそうに眉を潜めながらも、再び神具を操作し、岩陰を駆け回る。
巨蟹の障壁の隙を見つけるべく、冷静に相手の動きを見極めていた。

「こそこそと鼠のように隠れるだけか。ならば炙り出すまで」

 闇・月光はさらに攻撃の手を緩めず、再び詠唱を始めた。

「三角形を描く星よ、その鋭き刃で敵を斬れ! 結べ、三角の刃陣!
むん! むん!! むうううううううぅぅぅぅんッ!!」

 二本指で三角形の印を切り、光の刃をひとつ、ふたつ、みっつと次々に飛ばす。
岩柱の影に身を潜める月美もろとも易々と寸断してしまう勢いだ。

「……!!」
「そこか」

 月美の姿を捉えた闇・月光の両脚が光り輝く。

「疾風の天馬よ。我が速さとなり、万里を駆けろ。天馬の疾風!」

 天駆ける天馬の如く、自身の移動速度を大幅に上げる技。

「!? 速いッ……」
「むううううううううううううんあッ!!」

 その脚力は即ち、攻撃力にもなる。超スピードで迫った勢いを乗せた蹴りを
月美の脇腹にめり込ませる。

「――ごほっ……!!」
「しゃあああああああああああああああああああッ!!」

 吹き飛ぶ月美。メメントスの壁に激突し、土煙と瓦礫に埋もれる。

「――これが私の実力だ。よもやこれで終わりではあるまい。
退魔師として、どこまで耐えられるか見せてみろ」

 闇・月光の冷徹な声が響く中、月美は必死に体勢を立て直した。

「はあ、はあ……」

 肋を押さえ、息が荒くなりながらも、彼女は心の中で父との記憶を思い出す。
厳しい訓練の中で、いつも支えてくれた父の姿が浮かぶ。

「負けられない……この偽物に負けるわけにはいかない…!!」

 月美は力を込めて叫び、両手に霊力を集中させた。

「――純潔なる光よ。我が御霊を清め、邪を祓え……浄めよ、乙女の癒光!」

 月美の詠唱が響き渡り、純潔の光が受けたダメージを癒やすように広がっていく。

「ふう……」

 闇・月光はその浄化の力に目を細め、わずかに後退する。

「この浄化の光……やはりお前は、日向家の血を継ぐ者だ」
「当たり前よ!」

 月美は懐から飛び出した神刀・星羅の柄を握り、霊力を込めて刃を生成する。

「私は日向月光の娘で、日向の退魔師としてこの世の闇を祓うんだから!」

 彼女は深く息を吸い込み、闇・月光に敢然と神刀・星羅の切っ先を突きつける。
メメントスの深淵で、月美と偽りの日向月光との戦いは、
さらなる激化を迎えようとしていた。


「砲撃(フォイア)ーッ!!」


 両腕で握ったカレイドステッキ・ルビーを前のめりに振りかざして放つ魔力弾。
行く手を遮るシャドウを蹴散らすイリヤ。メメントスの深層は、あまりに不気味な静けさに包まれていた。闇は圧し掛かるように重く、進むたびに足元から不安が立ち上ってくる。
イリヤ、スカル、結城丈二、モルガナ、太公望、そしてエリセは、
深層に落ちた月美を助けるべく、果敢にその闇を突き進んでいた。

 だが、その道を遮るかのように、シャドウの群れが彼らの前に立ちはだかった。
闇に潜む異形の姿は、じっと彼らを見据え、冷たく光る眼を輝かせている。
スカルは特有の反骨心で拳を握り締め、電撃を纏わせたバットを肩に担いだ。

「こいつらァ……上等じゃねぇか! ジオダインッ!!」

 電撃魔法がバチバチと迸り、シャドウたちを焼き払う。

「グギャギャギャギャ……!!」
「悪いが手加減してやる余裕はねぇぞ!!」

 モルガナは柔軟な動きで地面を駆け回って、シャドウの注意を引きつけた。

「ワガハイの華麗な技を見せてやるぜ!! オラオラオラァァ!!」

 宙に飛び上がり、パチンコ弾を連射してシャドウ達を一掃する。

「グワッ」
「ギィィィッ」

「ふぅむ。この数。我々を月美さんの元へ行かせまいとしているようですね」

 太公望は、持ち前の策略家らしい冷静さを崩さずに戦場を見渡した。

「ああ~っ、しつっこいなぁ……もう!!」

 槍を突き立て、矛先から魔力の渦を放出するエリセ。目の前のシャドウ達を
一挙に吹き飛ばす。

「お前たちは先に行け。ここは俺が食い留める」
「何ッ!?」

 ブラスターアームの銃身でシャドウを殴りつけながら、結城丈二が
スカル達を先へ向かわせるべく、前線に立ちはだかる。

「ア、アンタ……!!」
「呆けている場合か。仲間を救うんだろう」

「……スカル、行くぞ。あいつの気持ちを無駄に出来ねえ!」
「モルガナ……」

 迷うスカルを後押しするモルガナ。

「心配するな。こう言う戦いには慣れている……行け」
「……頼んだぜ! 死ぬんじゃねえぞ!!」

 結城丈二の背中に向かって激励の言葉を投げつつ、スカルたちは
月美の元へ向かう事を決断した。

「ここから先は一歩も通さん……」

 失ったはずの右腕が疼く。鋼鉄の銃となった右腕だけではない。
熱き闘志が男の全身を駆け巡る。

「冥土の土産に見せてやる。この俺の、本当の力……!」

26人目

「無元の剣製 - 新・斬鉄剣完成 -」

 刀匠・千子村正に斬鉄剣の修復を託し、修行に勤しんでいた石川五ェ門であったが……

「む……!?」

 修行を続ける五ェ門は、次第に山全体に不穏な気配が満ちていくことに気づく。
空気は重くなり、木々がざわつき始めた。その異様な雰囲気に、五ェ門は瞑想を解いて
滝の下から立ち上がる。

「この邪気……まさか……?」

 五ェ門が修行場から庵に戻るため山道を進むと、視界に入ってきたのは無数の悪魔たちが蠢く光景だった。そして、その中心で悪魔に囲まれる一人の女性がいた。

「あれは……!」

 悪魔たちに囲まれていたのは……セラフィータだった。

「何故このような山奥に斯様な女人が……」

「グルルルルル……!!」
「やめて、戦いたくない……!」

 魔性の瘴気に満ちた山中で、戦いを忌避するセラフィータ。その意志に関わらず、
悪魔たちは奥底より溢れる戦闘衝動と飢餓に突き動かされていた。

「相待たれよ!!」

 五ェ門は覚悟を決め、戦の最中に割って入る。

「そなた、大丈夫か? これ以上は無理をするな」
「あなたは……!」

「斬鉄剣が無くとも……この状況は捨て置けぬ……!」

 五ェ門は刀がなくとも、鍛え直した心と体で悪魔たちに挑む。
セラフィータも共に戦い、山中の戦いは今、熾烈を極めようとしていた。

『クァァァァァッ!!』
「ふんッ!!」

 巨大悪魔が、地を割る剛腕を振り上げる。
五ェ門は咄嗟にセラフィータを抱え上げ、跳躍。一足違いで攻撃をやり過ごした。

「ここを動くでないぞ、良いな?」

 セラフィータを茂みの中へ避難させ、五ェ門は再び悪魔たちの元へ舞い戻る。

「拙者が相手になる。あの娘には指一本たりとて触れさせぬ」

 悪魔たちが押し寄せる中、五ェ門は己の体術で次々と悪魔を打ち倒していく。

「むんッ!! ずぇぁああああッ!!」
『グェェェェッ……』

 だが、次第に包囲は厳しくなり、五ェ門は追い詰められていく。
退けた悪魔も、時が経てば再び起き上がってくる。

『オレサマ、オマエ、マルカジリ!!』
『ヒトなど、我が力の前では無駄で、無力で、無価値だ……絶望せよ!』
「おのれ……!!」

 さらに巨大で圧倒的な力を持つ悪魔が現れる。その体は黒きオーラに包まれ、
両腕には無数の刃が生えていた。その圧倒的な魔力に、場の空気が凍りつく。
しかし、五ェ門は恐れず立ち向かう覚悟を見せた。

「恐怖に屈することはない……たとえ相手がどれほど強大であろうとも!」

 その瞬間、背後から力強い声が響いた。

「待たせたな、五ェ門!」

 村正が鍛冶場から現れ、その手には打ち直された斬鉄剣を持っていた。

「村正殿!!」
「斬鉄剣は鍛え直した。これを持て、お前の覚悟がその刃を導くだろうぜ! そらッ!!」

 五ェ門は投げ渡された新・斬鉄剣を受け取り、白木の鞘に収められた
その冷たく鋭い感触を確かめた。

「村正殿、感謝する……今こそ、真の一撃を見せよう!」
『たかがそんな刀一本で何が出来る!!』

「たかが刀、されど刀。その価値を示すは……拙者自身!」

 五ェ門は新・斬鉄剣を構え、山の霊気とともに悪魔の圧力に立ち向かう。
その瞬間、周囲の空気が研ぎ澄まされ、五ェ門が放つ剣気が悪魔に浴びせかけられる。
巨大悪魔はその力を感じ取り、不安げに後ずさった。

『な、なんだ、その刀は……!』

 未だ、白木の鞘に収められた斬鉄剣。
五ェ門は悪魔を見据え、一歩一歩静かに間合いを詰める。

「これぞ、新・斬鉄剣。かつては折れた剣だが、今は折れぬ覚悟が宿っている……
さあ、覚悟せよ!」
『喰い物の分際でぇぇぇぇぇぇぇッ!!』

 刹那の静寂が訪れたかと思うと、五ェ門は風の如き速度で敵の懐に入り、
一刀両断を繰り出す。

「……」
「……」

 その一撃は絶対の切れ味を持ち、巨大悪魔の体を真っ二つに斬り裂いた。

「生と死の狭間、迷いと恐れの先……今ならそれが見える……」
『え、え、え……ば、馬鹿なああああッ……!!』

 悪魔は咆哮を上げて消滅し、魔性の瘴気が一瞬で消えていく。

『ひ、ひええええ……!!』
『ち、ちきしょう、せめてあの女だけでも……!!』

 巨大悪魔を倒され、狼狽するも、悪魔たちはセラフィータへと殺到していく。

「おっと、旗色が悪くなれば、弱ええ奴を狙おうってかい」
『げっ……!?』

 だが、その行く手には村正が立ちはだかった。

「救えねえな、お前さん方。刀の錆にするにも勿体ねえや」
『ほざけえええええええッ!!』

「村正殿!!」

 五ェ門がすぐさま駆け出そうとするが……

「任せな」

 それを制し、村正は悪魔たちを見据える。

「――其処に到るは数多の研鑚。築きに築いた刀塚……」

 村正の詠唱と共に、その場の空間一帯が景色を変える。
幾千、幾万の刀が突き立てられた空間……

『な、何だァッ!?!?』
「縁起を以って宿業を断つ。八重垣作るは千子の刃……」

 刀匠・千子村正がその生涯を賭して作り上げようとした、究極の一刀を生み出すために、打っては折れ、打っては捨てられた九十九の刀達……
そのすべてがひとつに集約されていく。

「受けやがれ、これが儂(オレ)の、都牟刈村正だあああああああッ!!」

 刀とは、斬るもの。ならば究極の刀とは。
この世の一切を例外なく断ち切る事の出来る刀。
ありとあらゆる物。兵。時。宿業。次元でさえも――

『う、うわああああああああああッ……』

 村正が繰り出した一刀は、悪魔たちを一体残らず斬り裂き、霧散させた。
戦いが終わり、山は再び静寂を取り戻した。五ェ門は新・斬鉄剣を静かに納める。

「!? 村正殿……」
「見せてもらったぜ、五ェ門。お前さんと斬鉄剣の渾身の一刀。
こいつは、餞別代わりだ」

 村正の手に握られた刀が崩れ落ちていく。全身全霊を込めた一刀であるが故に、
その代償は大きく、一度限りしか耐えられないのだ。

「折れず、曲がらねえ、究極の一刀。それを示すのは、今後のお前さんと、
その新・斬鉄剣だ」
「あの……ありがとう」

 村正と五ェ門へ感謝の言葉を述べながら頭を下げるセラフィータ。
村正は鍛冶場に戻る準備をしながら、二人の姿を見て満足げに頷いた。

「五ェ門、覚悟を忘れるなよ。そいつがこの剣の真の力を引き出すんだからな」
「ああ、肝に銘じておく」

 山の頂に光が差し込み、清らかな風が二人の間を吹き抜けていく。

「ところで、そなたは何故ここに……」
「私は……セラフィータ。ジャンクヤードから来た……」

「じゃんく……やあど。聞き覚えのない国の名だが……」
「さあて、爺はそろそろ退散するぜ。人払いがしたくてこんな山奥に住んでるのってのに、
悪魔の相手までさせられちゃあ、敵わねえ。後はお前さん達でどうにかしな。あばよ」

「あ……村正殿!!」

 五ェ門の呼びかけにも村正は振り返る事無く、山の深くへと消えていく。
金色の光の粒子を放ちながら。まるで最初からいなかったかのように……

「……忝ない」

 そして悟る。五ェ門はもう二度と会えないのであろう村正に対し、
静かに感謝の頭を垂れた。

27人目

「ルパンよ、巴比倫弐屋を防衛せよ」

 ――特異点。

 荒れ果てた荒野が広がる特異点。
そこは、かつての文明の残骸が異次元の力で捻じ曲げられ、奇妙な空間となっていた。
特異点に出現したミケーネ帝国の戦闘獣軍団が無差別に破壊を行い、
戦場は混沌に包まれていた。

「へぇ~え、派手に襲って来てやがるな、バカでっけぇのが。
こんだけ目立つ店じゃ、若旦那のお宝が狙われるのも無理はねえってか?」

 ルパンと次元は、問屋の屋根に上って周囲の状況を見張っていた。
ミケーネ帝国の戦闘獣軍団が続々と特異点全土を進軍し、巴比倫弐屋に迫っている。

「何なんだ、ありゃ。少し前にマジンガーZが戦ってた機械獣とかってのに似てねえか」

 悪の科学者、Dr.ヘルが超古代の遺跡から出土した古代ミケーネ文明の技術を
再現したものが、機械獣である。つまり、現代に蘇ったミケーネ帝国の戦闘獣たちは
そのオリジナルであり、機械獣を上回る力を有している。

「ふん……機械仕掛けの神、と言ったところか」

 特異点に位置する『若旦那』の黄金一色の問屋「巴比倫弐屋」。
ここは、あらゆる武具や宝物が並ぶ壮麗な店。ひょんな事から知り合いとなった
ルパン三世、次元大介、若旦那の3人は突如として襲来したミケーネ帝国迎撃の準備を
進めていた。

「が、我の巴比倫弐屋に踏み込もうとは愚か者もいいところだ。
裁定者として彼奴らの愚行を裁かねばな」

 若旦那は問屋の奥に鎮座し、ミケーネの進軍を待ち受ける。

「ああ、だが数が多すぎる。おいルパン、何か妙案はあるのか?」

 次元は銃を構えながら、ルパンはいつものニヤリとした笑みを浮かべた。

「ふふん、こういう時ゃあよ、若旦那ご自慢のコレクションをお借りして
ドカンと一発いくしかないだろ?」

 次元は呆れながらも銃弾をリロードし、頷いた。

「お前は気楽でいいな。ま、俺も派手に暴れてやるか」

「おい見ろ。あの金一色の建物を」
「愚かしい。破壊せよ! 黄金の建物を焼き尽くせ!」

 ミケーネ帝国の軍勢が巴比倫弐屋に襲いかかる。
若旦那は悠然と椅子に座りながら、バビロンの武具の数々を浮かべた。

「貴様ら如きに、この巴比倫弐屋を好きにはさせぬ。雑種ども、余の力に震えろ!」

 彼の指示に従い、無数の黄金の武具が機械獣に向かって一斉に放たれる。
激しい爆発が起こり、前線部隊を裂いていく。

「殺せーッ!!」

 次元は屋根の上でミケーネス兵に狙われながら、愛用のマグナムを構える。

「喰らいな……!!」

 次元はミケーネス兵の隙を狙い、愛用のコンバットマグナムを構える。
狙いを定め、装甲の薄そうな部分に正確に弾丸を放った。
しかし、弾丸はミケーネス兵の装甲に弾かれ、スパークを起こし跳ね返るだけだった。

「ぐふふ、今、何かしたか?」
「何ィ……!? マグナムの弾が効かねぇだと!?」

 ルパンも驚いて次元を振り返る。

「おいおい、次元!」

 次元は冷静さを保とうとするが、額に汗が滲む。

「クソッ……どうすりゃいいんだよ。このままじゃ手も足も出ねぇ」

 その時、若旦那が冷笑を浮かべて語りかけた。

「どうやら貴様の粗末な弾丸では、この輩どもには通じぬようだな」
「言ってくれるじゃねえか。じゃあ、どうしろってんだィ」

 ギルガメッシュはゲート・オブ・バビロンを開き、黄金に輝く特別な弾丸を取り出した。それは魔力が込められているように眩く輝いていた。

「これを使え、雑種。我の力を宿した“強化弾”だ。お前の腕前なら、
あの者どもも撃ち抜けるだろう」

 ギルガメッシュは強化弾を次元に投げ渡した。次元は器用に受け取り、
その特別な弾丸を見つめる。

「魔力の込められた弾丸……か。オカルトは専門外だが、一丁試してみるか」

 次元は弾をマグナムに装填し、息を整える。

「懲りん奴だな! 効かぬと言っているだろう!!」
「効くか効かないかは、受けてからほざきな!!」

 次元は黄金の弾丸を込めたマグナムを構え、鋭い目で標的を狙った。
トリガーを引き、黄金の弾丸が光の軌跡を描いて放たれた。

「ぬ、うおおおおおーッ!?」

 弾丸は正確にミケーネス兵の装甲を貫き、その中枢部に命中する。
それに留まらず、吹き飛んだ巨体はそのまま地上に展開した部隊の中央に飛び込んだ。

「ぎゃああああああーッ!!」
「ストライク、ってか?」

 ミケーネス兵の軍勢を巻き込む凄まじい爆発が起こり、
次元は銃を下ろし、ホッと息をつく。

「やったな、次元! 一発で仕留めたぜ!」

 次元は若旦那に目をやり、帽子の鍔越しにニヤリと笑った。

「礼を言うぜ、若旦那。こいつはゴキゲンな威力だ」

 若旦那は威厳を崩さずに返答する。

「ふん、貴様の腕前も悪くはない。だが勘違いするなよ、これの我の力あってのことだ」
「へいへい」

 ルパンは二人のやり取りを見て、楽しげに笑った。

「面白くなって来やがったァ!」
「ふん、ヒトの身でありながらつくづく妙な連中よ」

 呆れたように目を細める若旦那だが、どこか楽しげに微笑んだ。

「くそっ、ちょこまかと!」

 一方、ルパンは問屋の屋根からミケーネの軍勢たちの攻撃をのらりくらりと躱しながら
周囲に罠を仕掛けていた。彼は問屋の品物を使い、巧妙なトラップを作り上げていく。

「さぁ、かかってこいよ。俺様のトラップはタダじゃないぜ!」
「ガオオオオオン!?」

 戦闘獣がルパンの罠に引っかかり、重い体を崩して倒れ込む。

「た、倒れるぞおおお! ぐぎゃああああッ……!!」

 その下敷きになるミケーネス兵たち。

「ぬ~ふふふ、人間様を見下すとこうなるってコトよ。大事なのはココね、ココ」

 銃の腕前、身体能力もさる事ながら、IQ300のを誇るルパンの真骨頂とは、
相手を如何にして欺き、出し抜くかの頭脳戦にある。
さらにその瞬間を逃さず、若旦那がトドメの武具を放った。

「これで終わりだ! 疾く失せるが良い、下郎ども!!」

 黄金の斧が戦闘獣を轟音と共に崩れ落ちた。

「こ、こいつら……たった3人で何と言う……」
「各員通達! CROSS HEREOS討伐に向かった部隊からの救援要請あり!
直ちに向かえ!!」

「おのれ、人間ども……! 覚えているがいい!!」

 戦いが終わり、巴比倫弐屋は無事守られた。

「や~れやれ、神サマ気取りにしては、パターンな捨て台詞だ事」
「雑種ども、貴様らもなかなかやるではないか」

 ギルガメッシュは満足げに笑い、ルパンと次元に向き直る。
ルパンはニヤリと笑い返し、次元と共に肩をすくめた。

「いやぁ~あ、楽しかったぜ、若旦那。さっきの宝物庫、もっと中身をじ~っくり
見せてくれると嬉しいんだけどな~、僕ちゃん」
「ま、これで一件落着ってとこか。まったく次から次にとんでもねえ事が起こりやがる、
この特異点とかって所はよ」

 こうして若旦那、ルパン、次元の奇妙な同盟は、ミケーネ帝国の脅威を打ち破った。
特異点の運命はまだ不安定だったが、彼らの絆が新たな物語を紡ぎ出していく──。

「さて、CROSS HEROES、そして星見の者どもはどう動くかな……」

28人目

「翠狂讐姫演義 その2」

 悲鳴を上げて逃げ惑う市民。
 迫るミケーネ帝国兵。
 ここ、杜王町郊外でも戦いは繰り広げられていた。
 その目的は力の誇示か、単なる支配のための蹂躙か。

 であるなら、今3人がいるこの地は前線(フロントライン)か。
 悪虐と蹂躙の具現、平和と日常の地、その境界に立つ者たち。
「つーかさ、あのでけーのどうするよ。」
「汝の持ち込んだ大砲ではダメなのか?」
「残弾数的に行けるかな……。」

 確かに、罪木オルタの持ち込んだ言峰綺礼のロケットランチャーは通常のそれよりも威力は高め。
 ミケーネ帝国の空中艦に傷をつけることはもしかすると可能ではあろう。
 しかしそれは単騎ならばの話。
 さすがに軍勢で襲い掛かられては、多勢に無勢というものだ。

「なら大物は俺が引き受ける、お前らは雑魚を片付けろ。」
 クー・フーリン・オルタが槍を空中艦に向ける。
 大物は俺が撃ち落とすと言わんばかりに。
「了解した。では私は」
「あいよ。んじゃ、薙ぎ払ってくる。」
 その一言と共に、罪木オルタの肉体は白い炎と化した。
 白髪を揺らし、迫る兵士の群れへと突撃する。

 そして、今に至る――。

 突如出現した白炎を兵士は見上げる。
 緑のパーカーに身を包んだ、白髪赤目のアヴェンジャー。
 突然の出来事に、兵士は数瞬混乱する。
「いらっしゃいませぇぇああああ!!」
 数十人が、罪木オルタが持ち込んだロケットランチャーの一撃が薙ぎ飛んだ。
 爆炎が逆巻き、兵士の混乱はさらに強いものとなる。

 炎と煙の中、兵士の頭蓋をミシミシと掴みながら復讐者が出現する。
「こんにちはクソ野郎。」
 言い終える暇もなく、掴んだ兵士の頭蓋骨をまるで卵を握りつぶすように破砕してしまった。
 兵士の混乱は、刹那の恐怖へと変質する。

「ああそうそう。上、気をつけてな?」
「「「「「!?」」」」」
 罪木オルタが憎らしい笑みを浮かべて、赫き天空を指さす。
 兵士の数十名が見上げるまもなく―――。

「訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)!!」
 警告は正しく、ミケーネの軍勢に襲い掛かる。
 アタランテの宝具によって放たれた、無数の光矢の奔流が雨霰のごとく降り注ぐ!

「「「ギャアアアアアア!!」」」
 兵士や大型兵器が次々に破壊、破砕、粉砕、鏖殺されてゆく。
 光の矢を受け続け、機械の体は次々に砕け散っていった。
 そんな弾幕の雨を、罪木オルタは駆け抜けてゆく。

 それでも戦い続ける兵士は不思議に思ったことだろう。
 なぜ、目の前の白髪の女は、あの光の雨の中を駆け抜けられるのか、と。
「はっ!んなもん"これしか知らねぇ"からに決まってるからだよバーカ!!」
 敵味方無用の矢の被弾を受けてもなおいきり立つ罪木オルタ。
 そこに、光の矢をもものともせず叩き潰さんと大型の戦闘獣が迫る。
「GAAAAAAAA!!」
 戦闘獣の踏みつけは、人間からすれば脅威もいいところの一撃だ。
 重機で叩き潰すなんてものじゃない。
 この一撃をかすりでもすれば、人間なら容易く肉片になって絶命する。

「うるせーッ!」
 持ち込んだロケットランチャーをもう一発放ち、その巨体を揺さぶる。
 揺れて、足が浮き上がったその数瞬を見逃すことなく、罪木オルタの渾身の回し蹴りがさらに揺り倒さんとする。
 ぐらり、と地に付す戦闘獣。その頭にとどめの一撃を放たんとする。
 もちろん、鋼鉄の体に人間の体をぶつけるのは無謀の一言。
 だが、受けたダメージを力に変換するスキル『被虐体質(恩讐)』と、アヴェンジャーの英霊としての力が、その不可能を可能にした。
「グアアアアアアアアア!!!」
 ただの拳が、復讐の昏き炎で鋼鉄の槍と化す。
 鋼鉄であるはずの戦闘獣の頭部が、ドーナツのような風穴があいた。
「ッッしゃおらぁあああ!!」

 倒れ伏す戦闘獣を尻目に、罪木オルタは勝利の咆哮を上げるのだった。

 そのさらに後方、クー・フーリン・オルタは空中のそれを見ていた。
「やるか。」
 迫りくる空中戦艦の群れ。
 アタランテの光の矢もものともせずどんどんと杜王町中心部に接近する。

 槍を数回転させ、地に足を固定させて投擲の構えをとる。
 手に持った赤黒い棘槍が、魔力と力で呻る。
 空中戦艦の数隻はそんな彼を捕捉、やらせまいと攻撃を開始するも―――。

「遅い、抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)……!!」

 迫る戦艦めがけて、赤黒の槍を渾身の力と魔力を以て投げつけた!
 槍は唸りを上げながら空中を滑走し、戦艦の機体に迫る―――。
 やがて赤い光と化した槍の一撃は、戦艦を爆発という名の花火に変化させた!
 さらに、槍はこれで留まることも落ちることもなく、まるで稲妻のような軌道を取って次の空中城塞、次の次の空中戦艦を次々に落としてゆく。

 援軍が来るまでの間は、ひとまずはこれで抑え込むつもりだ。



「ぽへー。」
 そんな戦闘があることを察知したのか、虚数姫カグヤは気の抜けた声で。
「あたしも、行かないとなぁ……。」
 されど、空中を忌々しげに見つめていた。

29人目

「侵食せし禁忌の奥義」

「はあ、はあ……」

 疲労が蓄積し、月美の身体は悲鳴を上げている。それでも、心の炎は消えることなく
燃え盛っていた。闇・月光が不敵な笑みを浮かべながら、再び詠唱の姿勢に入る。

「お前が本当に日向の退魔師ならば、この闇に屈することは許されぬぞ」

 その言葉は、かつて父が月美に語った言葉のように胸に突き刺さった。
偽物の口から聞かされることに怒りが込み上げるが、月美はその感情を抑え込み、
冷静に判断する。目の前の敵は強大で、油断すれば一瞬で命を落としかねない相手だ。

 メメントスの深淵は、闇に包まれた異世界の底知れぬ領域。
月美が立つその場は、圧し掛かるような闇と冷たい気配に満ちていた。
重苦しい空気が彼女の呼吸を乱し、まるで心の隙間にまで入り込んでくるかのようだ。
それでも、月美の足は一歩も退くことを知らなかった。

「言われるまでもないわ……!」
「ふん……虚勢だけは一丁前か」

 闇・月光は相変わらず冷静な表情で月美を見つめていた。
その姿は彼女が一度も勝てなかった本物の父、日向月光そのもの。
だが、目の前の存在は月美の心を揺さぶろうとする偽物に過ぎない。
偽りの父親と向き合うたびに、過去の厳しい訓練の思い出が胸を締め付けてくる。
それは決して辛い記憶だけではなかった。父の指導は厳しかったが、その根底には
愛があった。そんな父への敬愛が、月美の中で希望として輝き続けている。
全身が痛みに蝕まれ、呼吸は荒い。だが、心の中には父との記憶が
はっきりと浮かび上がっていた。父との訓練の日々、あの厳しくも愛情に満ちた指導。
そう簡単に諦めるわけにはいかない。

「はああああああああああ……ッ……!!」

 月美は歯を食いしばり、全身に力を込めた。痛みにも関わらず、再び闘志が燃え上がる。目の前の敵は、偽りの日向月光。彼女の大切な存在を模倣したこの敵を倒さなければ、
自分が進むべき未来はない。彼女の中で父の教えが力強く息づいていた。

「例え相手が誰であろうとも……!!」

 月美は神刀・星羅を両手でしっかりと握り、霊力を込める。
刃は光を宿し、闇を切り裂くかのように鋭く輝いていた。

 闇・月光はその様子を冷ややかに見つめながらも、構えを緩めなかった。

「吠えるのは結構だがな……」

 そう言い放つと、闇・月光は再び技の詠唱を始めた。

「宙舞う光弾よ、天を裂き地を穿て……天鷲の閃光!」

 その瞬間、彼の掌から放たれた閃光が空間を引き裂き、
月美へと一直線に迫ってくる。光の速度は容赦なく、凄まじい威力で周囲の空間を
焼き尽くさんとしていた。だが……

「――獅子煌ッ!!」
「何っ……!?」

 月美の掛け声と共に、天鷲の閃光を凌ぐ霊気光が放たれ、両者が正面から激突。
凄まじい爆発と衝撃風が戦場を覆う。獅子が鷲の喉元に喰らいつくかの如く……

「奴の援軍か……!? いや違う、あれは!!」

 それは、もうひとつの神具。神筒・獅子煌であった。月美は自らの霊気を送り込み、
死角に潜ませていた獅子煌を遠隔操作してみせたのだ。
かつて、悟空と無人島で修行をした際、織姫・彦星の援護射撃を纏いながら
星羅による剣撃を加えた多次元戦法を披露した月美……その時は体力と霊力を
絶え間なく消費し続けるだけのスタミナが追いついていないと指摘されてしまった。
だが、今は……

「これほどの威力を秘めた神筒……!! それを自ら触れる事無く、霊気によって
操ってみせるだと……はっ!!」
「感謝するわ……」

 月美が土煙を突き破って、闇・月光の間合いに踏み込んできた。

「相手の目を欺き、虚を突く……あなた自身が教えてくれた事よ!」
「しまっ……」

「これで終わりよ!」

 月美は神刀・星羅を力強く振り下ろす。その刃には、渾身の霊力を込めた
一撃が宿っていた。神刀の光は闇を切り裂くように走り、偽りの日向月光を貫かんとする。

「くッ……!!」

 巨蟹の護りの障壁に亀裂が生じる。だが、闇・月光はその一瞬の隙の狭間に
月美の一撃を受け流すように身を逸らし、星羅の刃がわずかに肩を掠めるに留める。

「惜しいな、月美。しかしその程度では――」

 闇・月光が再び攻撃の構えを取る前に、月美はすでに動いていた。

「まだ終わらない!」

 神具・織姫、彦星を再度召喚し、霊力を込めて放つ。赤と青の光が再び空を舞い、
強烈なエネルギーを纏いながら敵を包囲する。

「しつこいな……」

 闇・月光は眉を潜め、両手を広げて防御の構えを取る。だが月美はその瞬間を逃さない。神具の動きを囮にし、すかさず距離を詰めていった。
彼女の目には、勝利を掴むための覚悟が宿っている。

(何故だ、何故これほどまでに動き続けられる……!! 
星羅、織姫・彦星、獅子煌……これらの神具を同時に使いこなし続けて
肉体が保つはずが……むううっ!?)

 闇・月光は見た。月美に提げられた緑の勾玉の首飾りが淡い光を放ち、
そしてその背後に、何処か月美に似た女性の幻影が浮かび上がっているのを……

『……』
「お、お前は……!!」

「これで決める! 星羅、私に力を!」

 月美の叫びが響くと、神刀がさらに輝きを増し、鋭い一閃を放つ。
その刃が、ついに闇・月光の防御を破らんと迫っていった。
さしもの闇・月光も驚愕の表情を浮かべる。

「まさか、この私にここまで迫るとは……!」

 月美は力強く刃を振り抜いた。

「これが日向の退魔師の力! お父さんの誇りを汚させない!」

 鋭い一撃が闇・月光の胸元を捕らえた。砕かれる巨蟹の殻の最後の一欠片……
闇・月光は一瞬たじろぎながらも、未だに崩れず立ち続けている。

「巨蟹の護りを砕くか……だがまだ、終わらんぞ!」

 その冷たい声が響く中、月美は息を荒らしながらも、次の一手を考える。
相手の力はなおも強大だが、確実にダメージを与えることができた。
心の中で父への想いが一層強まり、彼女の決意は揺らぐことなく燃え続けていた。

「……これが最後の戦いだ、月美」

 闇・月光が冷酷な声で言い放つ。その目には憐れみの色など一切なく、
ただ月美を打ち倒さんとする意志だけが宿っていた。
月美は荒い息を整え、内なる霊力を高めていく。

「望むところ……!!」
「だが、勝つのは……私だ」

 闇・月光が繰り出す奥義を唱え始める。

「――天蠍・冥界毒潜!」

 天蠍とは、死と再生を司ると言う。霊力に強烈な毒の霧をまとわせ、敵に向けて放つ技。一度浴びた者は体内に毒が回り、肉体が蝕まれていく。それは空間をも侵食するため、
敵の動きを封じ込める効果も持つ。闇・月光はこの技を戦略的に使用し、月美をじわじわと
追い詰める。それはもはや不可侵の結界だ。

「詠唱破棄……日向の技の中でも禁忌とされている技……!!」

 月美は咄嗟に距離を離す。

「ふふふ、この技の恐ろしさを理解しているようだな。さあ、どうする?
これでは私に近づく事も出来まい……」

 神具・織姫、彦星を背中に纏わせて飛行し、冥界毒潜の侵食から逃れる月美。
闇・月光の力は衰えることを知らず、さらに強大な毒の結界が月美を追い詰めていく。

「くっ……!」

30人目

「Epilogue」

「ほう、この時代にも、奴らと同じように我らミケーネに立ち向かえる力と勇敢さを持った者達がいるとはな」

「っ!?」

杜王町をミケーネの軍勢から守る罪木オルタ達の前に、3つの首を持った機械神が無数の戦闘獣やミケーネ神を引き連れて現れる。
その機械神の首は、かつて甲児が戦った機械獣のガラダK7とダブラスM2のものにそっくりであった。

「誰だテメェ!」

「我が名はガラダブラ!ミケーネの勇者なり!」

「ミケーネの…」

「勇者…?」

「よくわかんねえが、テメェが今回の親玉ってことだな?」

「半分正解だ。確かにこの特異点に攻め込んでいる部隊を指揮しているのはこの我だ。だが、我らミケーネ帝国の頂点に立つのは、冥府の王であるハーデス様だ!」

「冥府の王…」

「ハーデス…!」

「はっ!だったらテメェをぶちのめして、そのハーデスってやつをここに引きずり下ろしてやる!」

「ほう、この我を相手にそこまで強気の態度を取るか……
いいだろう!この勇者ガラダブラ、貴様のその心意気に答え、相手をしてやる!」

「っ!来るよ!」

罪木オルタ達3人とガラダブラによる戦闘が始まろうとしたその時!



「っ!?」

「ぬぅ!?」

突如として罪木オルタ達とミケーネの両陣営に無数の魔法攻撃が襲いかかる。

「な、なんだ!?」

「今の攻撃……どうやら奴らが行ったもののようだな」

一同の目に写ったもの、それはジオン族の騎士ゼノンマーサと呪術士ビグザム、そしてジオン族竜王軍同盟のモンスター軍団であった。

「久しぶりだな、勇者ガラダブラよ!」

「貴様ら……ジークジオンとゾーマのところのモンスターか!
なるほど、我らがこの時代に蘇ったように、奴らもこの時代に蘇ったか!」

「そのとおり!もっとも、蘇ったのは我らが主ジークジオン様のみだがな」

「だがこの時代でジークジオン様と新たに同盟を組んだ竜王は、ゾーマに匹敵するほどの力とカリスマ性を持ち、かつてゾーマが従えていたモンスター共を従えている」

「そして竜王はこの特異点のコアとも言える2つの聖杯のうちの1つを手に入れている。すなわち、この特異点は我らのものと言っても過言ではないのだ!」

「なるほど。ならば話は早い……新たなラグナロクで我らミケーネが今度こそ全ての世界を支配するためにも、貴様らを打ち倒し、その竜王とジークジオンをも打ち倒してこの特異点を我らミケーネのものとしてくれよう!」

「それはこちらのセリフだミケーネよ。この特異点は我らが全ての世界を支配する覇者となるために必要なもの、貴様らには渡さん!」

「逆に貴様らとハーデスを打ち倒し、我々が新たなラグナロクの勝者として君臨してみせよう!」

(……これは……少しまずいか…?)

ミケーネ帝国とジオン族竜王軍連合、ラグナロクの頃から因縁のある二大勢力がバチバチに火花を散らす。





……その次の瞬間

「勝手に決めてんじゃねえ!」

「!?」

「クレイジーダイヤモンド!」

『ドラララララララララドラァ!』

その場に駆けつけた東方仗助のスタンド、クレイジーダイヤモンドによるラッシュが炸裂し、モンスター軍団が次々と殴り飛ばされる。

「なっ!?」

「ふぅ…間に合ったようだな」

仗助がラッシュを終えると、康一と億泰もやってきた。

「たく、遅えぞテメェら!」

「ごめんなさい!ちょっと遠くにいたから来るのに時間が掛かっちゃって……」

「代わりと言ってはなんだが、さっきようやく億泰と合流できたから連れてきたぜ!」

「おい仗助!康一!なんかいつの間にか変な場所に飛ばされてさぁ!見たことねえ化け物共に襲われながらやっと杜王町に着いたと思ったら町がまた別の化け物に襲われてるしよぉ、いったいどうなってんだ!?」

「詳しい事情は後で話すぜ億泰。それよりも……テメェら、神だがモンスターだが知らねえが、この町に手を出すってんならただじゃ済まさねえぞ!」

「人間風情が……調子に乗るなぁ!」

ミケーネ神のうちの1体が仗助達に向けて剣を振り下ろそうとする。

「っ!」

が、その時!

「ロケットパンチ!」

「アトミックパンチ!」

「!?」

剣を振り下ろそうとしていたミケーネ神の身体を2つの鉄の拳が貫き破壊したのだ。

「えぇ!?こ、今度はなんだぁ!?」

「今の攻撃……まさか!」

「あぁ!そのまさかだ!」

そこに現れたのは、遺跡の調査に向かってたマジンガーチーム、騎士ガンダムとアルガス騎士団、そしてアレクとローラ姫、CROSSHEROESの別働隊が杜王町の危機に駆けつけたのである!

「仗助殿!康一殿!ご無事でしたか!」

「騎士アレックス!」

「それに皆さんも!来てくれたんですね!」

「え?あいつら知り合い?」

「あぁ、お前がここに来るまでにいろいろあったんだよ」

「そ、そうか……」

「来たか!ゼウスの意思を受け継ぐ者、マジンガー共!」

「な、なんだぁアイツ!?」

「ガラダK7とダブラスM2が1つになってる…?」

「あれは……」

(間違いない……あの時、ケドラの記憶の世界で戦った…!)

「ミケーネだけではなく、ジオン族と竜王軍のモンスターもいるか…!」

「ガンダム族と勇者アレクか……丁度いい、ジークジオン様と竜王への手土産として、貴様らも今ここでミケーネ共々葬り去ってくれるわぁ!」

「やつら、我々とミケーネの両方を相手にするつもりか!」

「そして、それは恐らくミケーネの方もそうだろう」

「察しがいいな。新たなCROSSHEROESである貴様らも、モンスター共々地獄へ送ってくれる!」

「やれるもんならやってみろ!」

「この特異点に巻き込まれた人々を守るためにも、お前達に負けるわけにはいかない!」

「皆!いくぞ!」

CROSSHEROES、ミケーネ帝国、そしてジオン族竜王軍連合、三大勢力が今、ここ杜王町で激突する!
果たして勝つのは、いったいどの陣営なのか…!!