プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:15
「Prologue」
【メメントス編】
特異点の地下迷宮「メメントス」での探索が進む中、怪盗団とその仲間たちは
次々と立ちはだかる危機に直面する。謎の少年ジョゼとの再会を果たした一行は、
彼から「花」を集めるよう依頼され、メメントスの奥深くを進む。
しかしその過程で、仮面ライダーディケイドやペルフェクタリア、
沖田総司オルタ(煉獄)は、メメントスの下層で復活の時を狙っていた
大ショッカーの幹部アポロガイストや怪人軍団との激しい戦闘に巻き込まれる。
ディケイドたちは復活した大ショッカーの幹部や怪人軍団と戦う中で、
仮面ライダーXの助けを得て、アポロガイストとの決着をつける。
ディケイドは過去の罪業を背負いながらも、仲間たちとの絆を武器に、
再び世界の平和を守るために戦い続ける決意を新たにする。
一方、別行動をとっていた日向月美は偽りの父・日向月光の姿に引き寄せられ、
メメントスの深淵へと落ちてしまう。
彼女を救うために仲間たちは奮闘するが、メメントスの闇が次々と敵を生み出し、
彼らの行く手を阻む。
闇・月光との戦いに挑む月美は、父から受け継いだ退魔師としての技と意志を駆使し、
偽りの父を模倣した強敵に立ち向かう。
圧倒的な力を誇る闇・月光に追い詰められながらも、月美は父から教わった戦術を活用し、神具「星羅」「織姫」「彦星」「獅子煌」を巧みに操り反撃を試みる。
月美は、闇・月光の最強奥義「天蠍・冥界毒潜」に追い詰められながらも、
父との記憶を胸に戦い続け、日向家の退魔師としての誇りを証明しようとする。
過去の罪と向き合う者、未来を守るために戦う者、それぞれの想いが交錯する中、
彼らは絶望の深淵に希望の光を灯す。
【交響界事件編】
これは、かつて暁美ほむらが一時的に記憶を失った際に巻き込まれた事件の物語。
巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか――かつての仲間たちと共に戦う中、
ほむらは一つの違和感を抱いていた。消え去ったはずの親友、鹿目まどか。
さらに、魔獣との戦いで命を落としたはずの美樹さやかや、
謎めいた存在・ベベと親しげなマミの姿が現実感を失わせていく。
自分の記憶に基づく事実と、目の前にある現実の乖離に戸惑うほむら。
戦場では仲間たちが平穏を取り戻したかのように振る舞うが、
ほむらの心には“偽り”の影が忍び寄る。彼女の心は、これが本当に現実なのか、
それとも幻なのかという葛藤で揺れ動いていた。
それでも、ほむらは戦いを止めるわけにはいかなかった。
この世界から抜け出し、真実を知るために、彼女は疑念を抱えながらも戦い続ける。
隣にいる仲間たちを信じたいという切実な願いと、心に残る孤独が彼女を突き動かす。
すべてが明らかになる時、この異世界での戦いが収束した時、
ほむらは本当に求めていた答えに辿り着けるのだろうか――?
【新・斬鉄剣完成編】
石川五ェ門は、修復のために刀匠・千子村正に斬鉄剣を託し、修行に励んでいた。
だが、修行場の山に悪魔たちの瘴気が満ち始め、不穏な空気が漂う中、
一人の女性、セラフィータが悪魔たちに襲われているのを目撃する。
五ェ門は刀がないまま悪魔たちに立ち向かい、セラフィータを守るため全力を尽くす。
しかし悪魔たちは圧倒的な数と力を持ち、五ェ門は次第に追い詰められていく。
そんな中、村正が修復を終えた「新・斬鉄剣」を携えて現れ、五ェ門に託す。
新たな覚悟を宿した五ェ門は斬鉄剣で巨大悪魔を一刀両断し、圧倒的な力を示す。
戦いの最中、村正は自らの究極の宝具「都牟刈村正」を発動。
鍛え抜かれた数多の刀の魂を一つに集約し、悪魔たちを一体残らず消し去る。
その代償として刀は砕け、村正は静かに山奥へと消えていった。
戦いが終わり、五ェ門はセラフィータを助けた感謝を受けながら、
新・斬鉄剣を手にさらなる覚悟を胸に秘める。山は再び静けさを取り戻し、
五ェ門は自らの使命を背負って新たな旅へと歩み出した。
【特異点ミケーネ襲来編】原文:ノヴァ野郎さん
特異点で発見した謎の遺跡にてついに判明した最終戦争(ラグナロク)の真実、
それはかつてのCROSSHEROESと戦った敵勢力が引き起こした世界の融合を
ミケーネが利用した結果ラグナロクが起きたというものだった。
これを知った調査部隊は様々な世界を取り込む特異点をなんとかしなければ
新たなラグナロクが起きるかもしれないと考えすぐさまリビルドベースへと戻ろうとする。
がしかし、突如としてミケーネ帝国が特異点に襲来。
特異点のいたるところで侵略活動を始めるミケーネ帝国から特異点にいる人々を守るため、CROSS HEROESはカルデアのサーヴァント達と共にミケーネ帝国の迎撃を行う。
そんな中、ジオン族竜王軍連合が特異点に襲来したミケーネ帝国を
CROSS HEROES諸共滅ぼすために行動を開始、杜王町を始め特異点各地で
無数のモンスター軍団が動き出し戦いは混沌を極めようとしていた。
果たしてCROSS HEROESはこの危機的な状況を打破し、特異点にいる人々を守ることが
できるのだろうか?
「特別編:Overture」
――西暦20XX年。
夕暮れの渋谷はいつもの喧騒とは違っていた。スクランブル交差点には人影がなく、
ネオンが不気味な薄紫色に輝いている。空は裂けたように歪み、
その中心に巨大な裂け目が浮かんでいた。特別封鎖地域に指定されたこの街。
そこから全てが始まり、全てが集約する終わりの地。
「戻ってきたか……ここに」
特務機関「森羅」のエージェント、有栖零児が交差点の中央に立ち、裂け目を見上げる。
その隣でパートナーである仙狐・小牟が口を開いた。
「全ての次元を繋ぐ歪みの中心ってわけじゃな、もうあまり猶予は無い」
「そして、逢魔の沙夜もここにいる……」
裂け目から現れる影。それは、沙夜率いる逢魔軍の幹部たちだった。
「フフ、ようやくお出ましか。君たちがどれほど抗おうと、世界の黄昏は止まらない」
「俺の炎が世界を焼き尽くすのも時間の問題だな」
「静かに黄昏を迎えなさい。抵抗なんて無意味よ」
ルガール・バーンシュタイン、志々雄真実、諫山黄泉……
死後の世界より蘇った者たち……紗夜はあらゆる時代、世界から集めた強者たちを集め、
自らの戦力としていた。その暗躍によって世界を隔てる壁は形骸化し、均衡は崩壊した。
零児は剣を抜き、鋭い目つきで幹部たちを睨む。
「戯言は聞き飽きた。ここでお前たちの野望を終わらせる!」
「お主らのせいであっちこっちの世界を飛び回る羽目になったんじゃ。いい加減、
幕引きにせねばのう!」
最終決戦の火蓋を切られようとしていた渋谷に現れたのは、
草薙流古武術の使い手にして三種の神器を司る一族の末裔、草薙京だった。
「遅れてすまねぇな。どうやらここが、祭りの会場らしいな」
彼の拳からは燃え立つ赤い炎が盛っている。
「草薙……京!」
「ルガールのおっさんよ。とっとと地獄とやらに帰るんだな」
かつて、京が葬ったはずの、闇の武器商人にして世界各地の格闘家を倒す事を
享楽としていたルガール。
「おいおい、派手な喧嘩って話だったから来てやったぜ。
まさかこんな化け物どもが相手とはな!」
さらには大災害によって文明が崩壊した地・ロストグラウンドで生きるアルター使い
カズマが登場。シェルブリットを纏いながら笑みを浮かべる。
「本土まで乗り込んできたのですか、カズマ!」
「おう、蛇野郎。てめえをボコりになぁ」
アルター能力の秘密……こことは違う別空間「向こう側の世界」からのエネルギーを
抽出し、特異現象を引き起こしている事を解析した無常矜侍は本土側に移り、
逢魔の野望に加担したのだ。向こう側の世界はおろか、数多の並行世界を行き来して
オーバーテクノロジーの数々を手中に収めんとする、尽きぬ野望の男。
しかし、そのためにカズマや仲間たちをも利用しようとした事は、カズマの逆鱗に触れた。
「皆さん、大丈夫ですか? わたしも力を貸します!」
さらに、上空から異世界から持ち込まれたジュエルシードを集める
魔法少女の使命を帯びた高町なのはがレイジングハートを掲げて降りてくる。
そして、剣と魔法の世界からやって来た天才美少女魔導士、リナ=インバースが登場。
黒いマントを靡かせ、両腕を組みながら威勢よく叫んだ。
「これだけの人数が揃ったら、どんな敵でも怖くないわね!
さっさと片付けて晩ご飯にしましょう!」
裂け目から湧き出した雑兵と幹部たちに、CROSS HEROESは応戦する。
「愚かな人間どもが……この力の前に跪け! ぬうううううううんあッ……!!」
地球意志・オロチの力を取り込み、オメガ・ルガールへと変貌する。
上半身のスーツが弾け飛び、筋肉は硬質化、肌も鋼鉄のように黒き光沢を放つ。
一方、志々雄真実は燃え盛る刀で街路を焼き尽くしながら不敵に笑う。
「もっと燃えろ! この街ごと、てめえらを俺の炎で焼き尽くしてやる!」
その前に立ちはだかるのは草薙京。拳を燃やし、志々雄に突き進む。
「炎の使い手なら負けるわけにはいかねぇ!」
「面白ェ! これだから現世と言う名の地獄って奴はよ!!」
混乱は渋谷だけに留まらない。宇宙妖怪によって長き封印の眠りから目覚めた
天魔大王が街を破壊する。迎撃に向かった自衛隊のヘリが、天魔大王の放つ怪光線によって一瞬にして墜落してしまう。
『ウロロロロロロ……』
「ついに復活してしまったのか、天魔大王……!!」
「鬼太郎! 奴を倒さねば、この世界はおしまいじゃ!!」
人間と妖怪の狭間に生きる幽霊族の末裔、ゲゲゲの鬼太郎。
一反木綿に乗り、目玉の親父と共にビル街の上空に鎮座する天魔大王を見据える。
CROSS HEROESたちは次々と現れる敵に翻弄されるが、全員の力を合わせ、
敵を迎撃していく。
「草薙殿、加勢する! 飛天御剣流――龍槌閃ッ!!」
「やっと来たか抜刀斎!」
京の援護に加わったのは、緋村剣心。明治の時代、志々雄真実と対峙し、
打ち破った、「人斬り抜刀斎」と呼ばれし伝説の剣客。
「ボルテッカアアアアアアアアアアアアアッ!!」
反物質砲、ボルテッカで地獄の鬼たちを一掃する、宇宙の騎士テッカマンブレード。
侵略者ラダムに家族を奪われた男……逢魔の野望を阻止しなければ、
再びその悲劇が世界中に拡散してしまうだろう。
「ラダムにも、貴様らにも、好き勝手にはさせん!!」
そんな中、渋谷の最奥部で儀式を進めていた沙夜がツクモガミ「九十九」と
完全に一体化し、その姿を変える。全身を覆う漆黒のオーラは次元そのものを歪ませ、
ヒーローたちを圧倒する。
「我は次元そのもの……お前たちの存在など、もはや無意味」
零児と小牟が沙夜に立ち向かうが、その力の前に追い詰められる。
「これが、紗夜が平行世界のオーバーテクノロジーを集め回っていた結果か……!!」
「零児、わしらが負けたら、全てが終わるんじゃぞ!」
仲間たちの声が響く中、零児と小牟は最後の一撃を放つ。
「鬼門封じッ!!」
「木は火を生み、火は土を生み、土は……金を生む! とぉあああああーッ!!」
「そして金は……水を生む!」
「真羅……万象ッ!!」
零児と小牟に、CROSS HEROESの面々の力が融合した全力の一撃が
九十九の力が崩壊していく。
「……これが……お前たちの力……か……」
「地獄に落ちろ、紗夜」
「坊や……いいえ、零児……強く……なった……」
九十九、紗夜、そして再び敗れ去った逢魔の幹部たちが消滅すると同時に、
裂け目が閉じ、渋谷は静寂を取り戻す。
全てが終わり、ヒーローたちは元の次元へと帰っていく。しかし、暁美ほむらだけは
その場に残り、鹿目まどかを守り切れなかった後悔に苛まれていた。
「……また、守れなかった……でも、次こそ……」
ほむらは盾を握りしめ、時間を巻き戻す。光に包まれた彼女は、
次元の狭間に消えていく。
この世界もまた、彼女の終わりなき旅の一端にしか過ぎなかった。
故に、ほむらは知らない。この後、グランドクロスによって引き起こされた出来事を。
そして、現在……
「完全なる荊棘を求めて その1」
江ノ島邸 廊下
「ちっ、もう追ってきたか!」
「ここを通すな!」
「ええいくそ、先回りされてたか!」
「仕方ない、江ノ島ちゃんを守り抜いてやる!」
回り込んでいたメサイア教団の雀蜂兵。
背後より迫るシャルルマーニュとデミックスの気配を察知し応戦する。
対する2人も武器を構えて雀蜂兵に肉薄する。
放たれる弾幕にものともせず斬りかかる。
「グレネードだ!放て!容赦するな!」
「させるか!」
雀蜂の数体が放つ焼夷手榴弾。
デミックスのシタールが放つ激流が、それを押し飛ばす。
軍用手榴弾は、水中でも問題なく炸裂し衝撃をもたらす。
ならば爆発以上の濁流を以て、手榴弾が放つ衝撃波に指向性を与える事で返り討ちにしてやるとういう寸法だ。
「返り討ちってな!」
「ぐあああ!?」
一通り雀蜂部隊を無力化したのち、シャルルマーニュは周囲を見渡す。
「さて、ここのどこかにあるんだろうが……。」
シャルルマーニュがそうして取り出したのが、一枚のメモ。
「それって、入る前に江ノ島ちゃんに渡されたメモ?地下にあるのか……。」
「ここのどこかなんだよな、地下への階段が。」
「地下内地下室か……妙にロマンを感じるけど……も……ん?」
デミックスは、雀蜂の一体が持っていた謎のゴーグルに手を伸ばす。
ゴーグルにしては随分とごつい。
野鳥観察用、というよりも軍用。それも夜間のスナイパーが使いそうな代物だ。
「えっと…………。」
ゴーグルの側面についた文字を見たとき、デミックスの表情が笑みで歪んだ。
心無いノーバディにあるまじき感情。
しかし、笑わずにはいられない。
「やっぱ物探し、俺向き?」
江ノ島邸 書斎
「書斎。ラノベ?だとここに地下室がありそうなもんだろうが。」
シャルルマーニュは先んじて、メモに書かれた地図の部屋たる書斎にたどり着いた。
随分と本棚が多く、往々しい部屋だ。
まさに魔法の図書館。ラノベにあるそうな大型の一室だ。
というか、本人も鎧姿とそのラノベにありそうな格好ではあるが、閑話休題かつ今さらな話だ。
「ここのどこだ……?」
「えっと、シャルル。そこの本棚の上から3番目の左から7つ目の本を動かしてみ?」
「えっとこれか。」
「それ。」
「よいしょ。」
聞き覚えのある声に導かれて、本棚の本を取り出そうとする。
本に手をかけ、抜き取ろうとしている時だった。
かちり、と何かのスイッチが入るような音。
それと同時に、そこそこの広さだった書斎の中心の空間が円形に切り取られ、地下へ螺旋階段が出現した。
本を少しずらすと、隠し扉が開くとかいういかにも古典的なギミックだ。
「うわぁ……ものスゲー古典的。」
流石のシャルルマーニュも、これには苦笑い。
「うん、俺も同じこと考えてた。」
「ああそうd……ってデミックス!?何だよそのゴーグル!?」
シャルルマーニュの後方に立っていたのは、さっき雀蜂が持っていたゴーグルを装備したデミックスだった。
どうやらこのゴーグルで、先ほどの仕掛けを見つけたらしい。
「これ、なんか見るだけで魔術の流れとかが見えるらしくてね。」
「そうか、それで……。」
2人は床に空いた穴を見つめる。
その奥、螺旋階段の下に広がる深層と真相を。
「この下だね……。」
◇
第Ⅳ実験棟
霧切が去った後、ファルデウス達は依然調査を続けていた。
その道中、残ったメンバーは手分けして実験棟を探し回っていたのだが。
「ここは……資料室か?」
資料室らしき部屋を見つけたファルデウス。
当然中にはパソコンやプリンター、そして大量の年季が入った書物の数々。
そのうち、一つの資料ファイルに目が通った。
黒い本型の資料用ファイルだった。
素材自体はどこにでもある普通のもの。だが。
(魔術的な封印がかかっている。解除自体は簡単だが……なぜこれだけが?)
謎に封印がかかっていた。これだけが。
それだけでも考察の余地はあるが、今はそんなことはどうでもいい。
そう考えながら、ファルデウスはファイルにわざわざ仕掛けられた魔術封印を解く。
封印は年季がかかっていたので解くこと自体は簡単だった。
出来の悪い南京錠を、金属用ペンチで破壊するようなものだ。いともたやすく術式を破壊できる。
(よし、中身は……)
黒いファイルを開けた、その1ページ目に書かれたタイトル。
「『メアリー・スー計画書』……。」
メアリー・スー。
美しい物語を創作者のエゴで凌辱せんとする、無辜の怪物の名。
(確か……SF映画の二次創作で出てきたオリジナルキャラクターの名前。そんな人物の名がどうしてここに?)
悍ましき怪物の名を冠した悍ましき計画名。
その立案者の名を見て、ファルデウスは痛く驚愕した。
「キラ教団…………江ノ島……!?」
「星は変わる世界の闇と夜を照らして」
――特異点・メメントス深層部。
日向月美の父、月光の力と姿を模した「闇・月光」が
日向家の退魔師に伝わる禁断の奥義、天蠍・冥界毒潜を発動させる。
全てを呪毒で蝕むその様を目の当たりにして月美は歯を食いしばり、目を鋭く細めた。
この状況下での打開策を探りながらも、月美の心は決して折れなかった。
「固く禁じられていたこの技を使うなんて、やっぱりあいつは
お父さんなんかじゃない……!!」
止めねばならない。迷いは確信に変わる。
霊力による守護壁を活かしながら、月美は結界の隙間を見極める。
その時、胸元の緑の勾玉が再び輝きを増し、温かな感覚が彼女を包み込んだ。
『……負けないで、月美……私たちはいつも、あなたを見守っている……』
母の声のような、どこか懐かしい響きが聞こえたような気がした。
勾玉の光と共に、月美の心に新たな力が宿る。
「そうだ……! 私は一人じゃない!」
月美は決意を新たにし、霊力をさらに高める。
そして、父から教わったすべてを思い出し、禁忌すらも超える力を引き出す覚悟を固めた。
「この技を使うのは最後の手段……だけど、今しかない!」
神刀・星羅を握り直し、月美は静かに詠唱を始めた。
「星と月を繋ぐ光よ、闇を貫き、全てを浄化せよ――天星・霊月煌!」
その言葉と共に、星羅が青白い光を放ち始めた。
その輝きは、周囲の毒の霧をかき消すかのように広がり、月美の全身を包み込む。
「なっ……その技は!?」
闇・月光が驚愕の表情を浮かべる。天星・霊月煌は、日向家の奥義中の奥義。
肉体と霊魂を限界まで酷使し、全ての霊力を一撃に込める技だ。
しかし、この技を使えば、術者の生命も削られる危険を孕んでいた。
「これが私のすべて……はあああああああああああああッ!!」
月美の叫びが闇に響き渡る。そして、その声と共に神刀・星羅から放たれた一閃が、
天蠍・冥界毒潜の結界を打ち破り、闇・月光へと一直線に向かう。
「ば、馬鹿な……!」
光の奔流が闇・月光を包み込み、その姿を消し去っていく。辺りを覆っていた毒の霧も、光によって浄化され、メメントスの深淵が清浄な空間を取り戻していく。
月美は地面に膝をつき、荒い息をつきながらも、勝利を確信して微笑んだ。
「これで……終わった……」
だが、その時、闇・月光の声が再び響く。
「甘いな……これが最後だと思うなよ……!」
濃い霧の中から現れた闇・月光の姿は以前よりも禍々しいオーラを纏っていた。
彼は倒れず、むしろさらなる力を解き放とうとしている。
呪いそのものと一体化することで醜い泥人形が如き巨大化を果たしていく……
「まだ……終わらないの?」
月美は立ち上がり、再び構えを取る。闘いは、まだ決着がついていなかった――。
そのとき、周囲の空気が微かに揺れた。
遠くから聞こえる足音、そして複数の気配が迫ってくる。
「砲撃(フォイア)ーーーーーーッ!!」
力強い声と共に、桃色の魔力弾を前のめりに放つイリヤが現れた。退く闇・月光。
続いて、鋭い目つきをしたエリセが天逆鉾を構え、背後にはスカルとモルガナが並ぶ。
さらに太公望が余裕のある表情で歩み寄ってきた。
「むう……!」
「遅くなっちゃったけど、助けに来たよ! 月美さん!」
イリヤが朗らかな声で言う。明るく見えるが、
その背後には強大な魔力が渦巻いているのを感じさせた。
「ごめんなさい、ひとりにして。借りは返すから」
エリセが謝罪しながらも、冷静に語りかける。
「うーん、この状況、なかなか手強そうだな。けど、俺たちならどうにかなるだろ!」
スカルが軽く拳を鳴らしながら、戦意を漲らせた。
「人の心に巣食う闇……それがシャドウだ。けど、これほどの大物はそうはいねえ。
メメントスに渦巻く負の念……それを自分のものにしちまうとはな」
モルガナはメンバーの中で最もシャドウとメメントスに関する知識に精通する。
闇・月光はその中でも稀に見る強力な存在である事を窺い知った。
「魔を滅ぼすのが退魔師であれば、その悪しき魔の力を己のものとして
転換する事も可能、と言う訳ですか。いやはや、逆転の発想ですね。
ふぅむ、このメメントスなる空間とは、悪い意味で相性が良いと言うわけか……」
太公望が冗談交じりに語るも、その糸目の奥には鋭い光が宿っている。
月美は目の前の仲間たちの姿に、一瞬だけホッとした表情を見せる。
そして、再び闘志を燃やした。
「みんな……来てくれてありがとう! でも、相手は強大よ。覚悟して!」
「覚悟ならできてる!」
「その通りよ」
イリヤが自信満々に言い、エリセも力強く頷いた。
対する闇・月光は冷ややかな笑みを浮かべる。
「ほう、仲間が増えたところで結果は変わらん……! この私に抗うというなら、
全員まとめて葬ってやる!」
その言葉と共に、闇・月光の周囲に暗黒の霧がさらに広がり始める。
毒の結界が再び強化され、空間そのものが歪んでいく。
「そんなの、させないわよ!」
イリヤがいち早く反応し、カレイドステッキ・ルビーを振りかざす。
すると、眩い光が闇の霧を押し返し始めた。
「月美さん、あいつを倒すには集中攻撃しかない。全員で力を合わせるわよ!」
エリセが指示を飛ばす。
「了解!」「任せろ!」
仲間たちの声が響き、全員がそれぞれの力を解き放つ準備を始めた。
「デスバウンドォォォォォッ!!」
スカルが地面に広域放射する波動で、闇・月光の侵攻を食い留める。
「ディアラハン!!」
モルガナの回復魔法で、月美の体力が回復していく。
「へへ、怪盗団のヒーラーと言ったらワガハイの事さ」
「凄い……! ありがとう、モナちゃん!」
両手を開閉し、身体に漲る力を確かめる月美。
「この禍々しさ……邪霊そのもの……!!」
「ふははははは、感じるぞ、小娘。お前の中にも私と同じ力の波動を感じる……」
邪霊の力を操るエリセと、呪の力に身を委ねた闇・月光。その性質は限りなく近しい。
「一緒にすんな……! わたしのこの忌まわしき力は、お前みたいなのを
叩き伏せるために使うもの……!! エルケーニッヒッ!!」
エリセの怒りが槍の切っ先に宿り、闇・月光を斬りつける。
「うぐ、おおおおおお……っ!?」
「どう? 出所が同じ力なら、身体にも馴染むんじゃない?」
「き、貴様ァ……!!」
「お前を絶対に外の世界には行かせない……!! ここで調伏して見せる!!」
「ルビー!! お願い!!」
『筋系・神経系・血管系・リンパ系……擬似魔術回路変換、完了!』
「──これがわたしの全て!
『多元重奏飽和砲撃 (クウィンテットフォイア)』アアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
エリセの攻撃で闇・月光が怯んだ隙に、
肉体を構成する身体組織の全てを魔術回路と誤認させ、文字通り自分自身のすべてを
魔力に変えて放出するイリヤの宝具が発動する。
「ぐああああああああああああああッ……!?」
巨大化した闇・月光の身体をも丸ごとの飲み込むほどの魔力光……
〈暗黒魔界へ行こう:早朝〉
_悪霊事変から、かれこれ数日が経った。
負傷者の救護、生活基盤の立て直し、その他…
時間に『濃淡』を付けるとすれば、地上の者達にとって間違いなく『濃い』日々だっただろう。
そして、今日もまた_
「へぇい、皆。本日は集まってくれて本っ当にありがとう!」
「お前が来いって言ったんだろ…ンンッ、やけにテンションが高いね?」
やけに腑抜けた声色に対し、明智が小声でドスを利かせる。
しかしアビィはどこ吹く風と言わんばかりで、何処となく表情もだらけてる様に見える。
「オイ、こんな所に朝っぱらから呼び出したんだ。ちゃんとした用があるんだろうな?」
「オラ、まだねみぃぞぉ…」
そんな彼にベジータから殺意にも似た声が飛び、続いで悟空があくび交じりでそう言った。
ここは幻想郷、人里の郊外。集まっているのは、暗黒魔界行きのメンバー達。
そしてベジータの言うように、お日様が顔を出したばかりの時間だ。
おおよそ6時くらいだろうか。
そんな早くに叩き起こされ外に集められては、ベジータの様に苛立つのも無理は無いだろう。
「とっとと話せ、クソガキ。」
「そうだね、皆を呼んだのは他でもない…」
途端に、神妙な雰囲気を纏って語るアビィ。
その場の全員が、思わず固唾を飲み_
「_僕にガールフレンドが出来たのさぁーーー!!!」
「いぇーいっ!」
_直後、誰もが言葉を失った。
「_はっ?」
誰が声を漏らしたか、それはどうでもいい。
そして何時の間に居たのか、アビィと共に万歳している少女。
アビィに懐いている様子だが、当然皆は初対面だ。
(な、何だこの子どもは?全く存在を感じなかったぞッ…!?)
そんな違和感を覚えたピッコロを初めとして、皆の表情が困惑の色を帯びる。
小柄で緑髪、黒い帽子を被っており、見た所10代前半程度だろうか。
そんな子が傍にいる事に、集合してから今まで誰も気が付かなかった。
いや、それもあるがアビィの「ガールフレンド」発言もまた、場の素っ頓狂具合に磨きを掛けている。
とにかく、あまりの突拍子の無さに誰もが呆気に取られるしかなかった。
「え、ちょっ待ていっ、どういう事じゃ一体!?経緯!経緯を説明してみーや!」
「アビィ君、本当に何があったの…?」
いの一番に正気を取り戻したキン肉マンの叫びから、堰を切った様にアビィに詰め寄る一行。
「ふふふ、気になるだろう?あれはそう、夜空の星々が良く見えた_」
「私ね、気付いたら機械だらけの場所に来ちゃってて、そこのブリッジ?って所でアビィ君に出会ったの!」
「_うーんこいしちゃんに出番を取られたねぇ。」
でもまぁ女性に花を持たせるのも大事だからね?と付け足すアビィ。
一方でキン肉マンは、自然にちゃん付けで呼ぶアビィに思わず呆れる。
「こいしちゃん、ってお前なぁ…」
「本名は古明地こいしちゃんさ、家も知ってる仲なんだよぉ~?」
「キーッ!若い子が猥らな関係を自慢するんじゃないの、全くっ!」
白地のハンカチを噛み締め、悔しそうな声を上げるキン肉マン。
アビィは心底愉快気だ。
_最もこれは、アビィの自慢にオーバーリアクションで答えてあげる大人の優しさ的な物だ。
既婚者キン肉マンは、そういう気配りが出来る男なのだ。
「_あれ、こいしちゃんは?」
そんな中で話題の少女が不在なのに気付いて周囲を見渡して呟いた、次の瞬間。
_ザッ
「_あなた、凄い『無意識』を持ってるのね?」
「おわっ…!」
いつの間にか悟空を間近で見上げ『包丁を突き付けていた』こいしと、『臨戦態勢を取っていた』悟空。
『今しがた気付いた様に』驚愕した悟空の声で以て、皆が漸く状況に気付く。
「な、何だ!?」
「あいつ、何時の間に包丁を…?」
「悟空を殺すつもりかっ!?」
こいしの突然の凶行に、各々反応を示す一行。
その中で、ピッコロが驚きを隠さずに静かに一言零す。
「ま、まただ…いつ近くに現れたのか、全く分からなかった…!」
「なに、お前が気付かなかっただと…?」
それを聞き、疑問符を顔に浮かべたベジータが問う。
ピッコロの耳の良さを知っているが故にだ。
「この距離なら、例え浮かんでても服の擦れや風切り音が嫌でも入るだろう?」
「俺もそう思っていた。実際青いガキがべらべら喋ってる途中までは、確かに聞こえてはいたんだ…」
冷や汗を一筋流しながら、事実を確かめる様に言葉を紡ぐ。
「突然現れたんだ、警戒はしていた。だが気付いたら、また動きを掴めなかった。」
「…お前が二度もしくじるとは考えづらい、何か種が仕掛けてあるな。瞬間移動の類か?」
「いや、あれも風切り音はする。とすると…幻想郷の住民特有の妙な能力という奴か。」
「妙な能力だと?」
再び疑問符を浮かべたベジータに、ピッコロが説明する。
「あぁ、紫が使った『境界を操る程度の能力』の様な物だ。」
「…成程、『スキマ』とかいう訳の分からん術か。」
「チルノがやった氷の様に分かりやすい奴もあるが、あのこいしとやらは紫寄りの特異な奴だろう。」
一頻り説明を終えたピッコロは、そのまま悟空へ警鐘を促す。
「おい悟空、ソイツは妙な動きをする。一先ず距離を取れ!」
「あー、けんどよぉピッコロ。コイツ、どうも殺気っちゅーもんが感じられねぇんだ。」
「なに?」
そう言いながら、構えを解く悟空。
「な、オイ!?」
凶器を突きつけられながら何を、と誰もが思った。
しかしこいしは、隙だらけの姿勢に付け入るでもなく包丁を仕舞い、好奇心を顔に浮かべて悟空に語りかけた。
「あなた、私に気付く前から構えてたよね?」
「お、そういやそうか?」
言われて、不思議そうに自身の両手を交互に見る悟空。
「それって、体が『無意識』に危険を感じたって事でしょ?」
「お、おぅ?もしかしてオメェ、刃物向けたのもそれを確かめたかったんが理由か?」
「正解!ごめんね、急に包丁突きつけたりして?」
一瞬だけ屈託のない喜色を浮かべたこいしは、直後に仮面の様な笑顔に戻った。
「…わたしの行動はね、全て無意識の赴くままなの。わたしが何をするか、わたしにも分からない。」
「全部無意識って…オメェ、自分を制御出来てねぇのか?」
「そう、だから普段は誰にも気付かれなくて。」
そう呟くと、帽子を目深に被り直す。
そんな様子に毒気を抜かれたのか、悟空も警戒を解きながら応える。
「…そっか、オメェはそれでひとりぼっちだったんだな?」
「うん。でもあなたは無意識で気付いてくれた。」
表情はまたも一瞬で切り替わり、今度は両手を少し広げて悪戯っぽい笑みになる。
「だからあなたの事は、凄く興味が有るの!ねぇ、名前はなんて言うの?わたしは古明地こいし!」
「おう、こいしか。オラは悟空、孫 悟空だ!」
名乗って、右手を差し出す悟空。
こいしも素直に応え、両手で以て握り返す。
人と人ならざる者。
だがそこには、確かに奇妙な友情が生まれていた。
「悟空ね!うん、決めた!わたし、悟空に付いて行くわ!」
そしてこいしは、そう宣言して見せた。
「_ガフッ。」
「アビィ君!?」
「脳が破壊されたか。」
一方アビィは片膝を付き、吐血した。
「前線の激戦、そして新たなる防衛兵器」
一方その頃、リビルドベース防衛線ではリビルドベースに待機してたCROSSHEROESのメンバーとカルデアのサーヴァントがミケーネ帝国の侵攻を食い止めていた。
「あれは……カルデアのサーヴァントか…!?しかし何故……」
『恐らくですが、彼女(藤丸立香)がいなくても活動自体は独自で行えると思われます』
「なるほど……だがこれは嬉しい誤算だ」
「何をごちゃごちゃと言っている!死ねい!」
「っ!」
宗介の乗るレーバテインにミケーネ神の鎌が振り下ろされる。
「っ!?なっ…!」
がしかし、宗介の乗るレーバテインはそれを難なく回避、それどころか回避するのと同時に手榴弾をミケーネ神に向けて投擲していたのだ。
「ぼはぁ!?」
手榴弾の爆発はミケーネ神の顔面に直撃、爆発をもろに受け怯んだところに宗介はGAU-19/S 12.7mmガトリングガンによる弾幕を浴びせる。
「ギャアアアアアアアアア!?」
手榴弾の爆発で既にズタボロだったところに傷をえぐるように弾幕を浴びせられたことによりミケーネ神の顔はボロボロと崩れ落ち、顔が完全になかったのと同時に胴体も動かなくなり倒れ込んだ。
「戦闘獣もそうだったが、どうやらミケーネの奴らは顔が共通の弱点のようだな……」
『そのようですね』
「ギャオオオオオオオオオオオオン!!」
「っ!」
話してる暇もなく、次々と戦闘獣やミケーネ神が攻撃をしてくる。
「やはり数が多いな……アル、玉はまだ残っているか?」
『まだありますが、既に用意してた分の半分以下しか残ってません』
「そうか。
(河城がアレを完成させるまであと少し…それまで持ちこたえれば…!)」
《24バーン!オーレンジャー!》
「超力!ダイナマイトアタック!」
「グォオオオオオオオオオ!?」
ゼンカイザーはオーレンジャーの必殺技である超力ダイナマイトアタックで巨大な火の玉になって突撃!
ミケーネ神の身体を貫く!
「今度はこれだ!」
《33バーン!シンケンジャー!》
「スーパーモウギュウバズーカ!成敗!」
「ギャオオオオオオオオオオオオン!?」
お次はシンケンジャーのギアを使用し、スーパーモウギュウバズーカを召喚。
牛折神を模したエネルギー弾を放つ必殺技「外道覆滅」で戦闘獣の人面部を吹き飛ばした。
「ほう、中々やるではないか人間ども!」
「だが、我らミケーネの戦力はこれだけではないぞ!」
そう、ミケーネ帝国の軍勢はまだまだ沢山おり、クロスヒーローズとカルデアのサーヴァントがミケーネ神や戦闘獣などを多数撃破してもなお奴らの勢いは衰えてなかったのだ!
「ちょ!?マジかよ!?まだあんなにいるのかよ!?」
「多くない!?」
「ヌヌッ!?こ、これってまずいのではないッスか…!?」
「はい、このままの状況で戦いが長引いてしまえば、数の多いあちらがどんどんと優勢となってしまい、ルイーダさんの酒場を始めとした他のエリアへ援軍に向かうどころか、このリビルドベースを守り切るのさえ怪しくなってしまいます!」
「そんな!?」
巨大な機械の身体に加えて数の兵力も持つミケーネ帝国…!その圧倒的な物量が追い詰めようとする…!
が、その時…!
「っ!?」
突如としてリビルドベースの方面から凄まじい量の銃撃が、弾幕がミケーネ帝国の軍勢に向けて降り注ぐ。
「な、なんだ!?」
「……どうやら間に合ったようだな」
「え?」
「っ!おい、あれはなんだ…!?」
一同がリビルドベースの方へ振り向くと、そこには様々な火器を武装した謎の着ぐるみ軍団を引き連れた河城にとりの姿があった。
「いや〜ごめんごめん(笑)
ちょっと搭載するAIの調整に手間取っちゃってさ」
「いや、短時間で実戦に使えるようにしてくれただけでも十分だ」
「宗介、この大量の着ぐるみって……」
「あぁ、俺が河城に頼んで用意してもらったものだ」
「そういうこと。さぁ、テストも兼ねて早速おっ始めようじゃないか!いけ!ボン太くん軍団!」
「ふもっふ!」
〈暗黒魔界へ行こう:多分恋愛向いてない〉
悲痛さを隠し切れていない笑みで二人を見つめるアビィ。
彼の吐いた血を見て本気で心配する春と、冷静に分析する蓮。
場は混沌としていた。
「ア、アビィ…?大丈夫かの?ベッドまで運ぼうか?」
「フ、フフ、大丈夫さキン肉マン…ちょっと内臓の何個かが持っていかれただけだよ。」
「脳が破壊されたって蓮君が言ってなかったっけ…?」
先程までの嫉妬のフリも捨て、心から心配そうに問いかけるキン肉マン。
そこから出された嘘かホントか分からぬ症状の自己申告に、ただ戸惑う春。
やがて、アビィは何処か焦燥した笑顔で口を開く。
「…分かってたさ。こいしちゃんが何となく気まぐれで僕に付き合っててくれてたのは。」
「アビィ…!」
「でも、それでも僕は証明したかった…キン肉マンやテリーみたいに、僕にも良い仲の異性が出来るとっ!」
「アビィ…」
途端に彼を見る周囲の目が冷めた物になった。
そんな視線も意に介さず、苦虫を嚙み潰したような表情でアビィは続ける。
「だけど振られるどころか、別の人にお熱だなんて…現実は、非情だ…っ!」
『付け加えるなら、最初に近付いてきたこいし様に気付いたのは、ご主人では無く私でした。恐らくそこが原因でしょう。』
「うん、そんな所かな。ごめんね?」
「ジャスティーズゥ!?こいしちゃん!?」
まさかの不意打ちである。
そのまま両膝を突き、ガクリと項垂れた。
「うぅ、あんまりだ…月美ちゃん、いろはちゃん、ペルちゃん、会いたいよ…」
「ア、アビィ君?そんなに悩んでるんなら、打ち明けてくれれば良いのに…」
「そだぞー?それに怪盗団にも異性はいるだろ?」
憐れみを含んだ声を掛ける春と、棒読み気味な双葉。
そんな二人の提案に、アビィは頬を少し赤らめ言う。
「_だって、そういうのって僕のキャラじゃないっていうか、恥ずかしいし…」
「アビィ君…」
「それに怪盗団の皆は何ていうか、ずっと前から一緒に戦ってきた『仲間』っていうか『戦友(とも)』じゃん。」
「アビィ君?」
「そういう…異性として見るっていうのは、違うじゃん??」
「あ、これ面倒臭い奴だ。」
双葉は静かに悟った。
そしてアビィがヤケクソ気味に言う。
「確かに皆綺麗で可愛いけどさ?杏とかはモナもだけど竜司にも申し訳無いし。」
「お、それは分かるぞぉ。何かとお似合いだよな、杏とリュージ。何時くっ付くんだってずっと思ってるわ~。」
「双葉ちゃん??」
まさかの同担に春の混乱が加速する。
「真はおちゃらけた僕に興味無いだろうし、ていうか姉(あね)さんに殺される。」
「分かり味が深い。」
遠い目になるアビィ、うんうんと頷く双葉。
そんな二人を見てか、テリーが口を開く。
「なぁ、アビィ。ユーは双葉ちゃんの事はどう思ってるんだい?」
「…双葉かい?」
「ウチかぁ?」
さっきから息ピッタリだし、とは敢えて言わずに助け船を渡すテリー。
二人は意表を突かれた様に顔を見合わせ。
数瞬してから春に向かい、素顔で言う。
「「オタク仲間。」」
「「えぇ…??」」
イェーイ!と笑顔でハイタッチする二人を尻目に、呆れ返るテリー達。
「アビィの奴、プレイボーイぶってるだけで実はかなりの奥手じゃないの…?」
キン肉マンが、小声でぼやく。
もう面倒見切れよう、そんな言葉が浮かんだ。
「ていうかアビィ、マージで一通り落ち着いたらアビダイオーの設計見せろよな~?」
「あぁ、フェザーマンロボの参考にだろう?だが生半可な設計じゃないからなぁ、出来るかな~?」
「コイツ、言わせておけば~!そんな事言う口はこれか!?」
「うわっ!?レディがそんな事するんじゃあないっ!?蓮っ春っ止めてくれ~!」
このこの!と頬を引っ張る双葉と、助けを求めるアビィ。
勿論蓮も春も何もしない。
…が、ここで意外な者が声を掛けてきた。
「_フン、黙って聞いておいていたが、下らん魂胆だ。」
「んん?」
「ベジータ?お前…」
それは、何処か不敵な笑みを浮かべたベジータだった。
まさかこれに首を突っ込むとは思わなかったピッコロが困惑する。
「アビィと言ったな?貴様。ガールフレンド如きで俺達を驚かせようとしたんだろうが、結果はこのザマか。」
「ぐぅ…!」
何も言い返せないアビィに、ベジータは嘲笑を零しながら続ける。
「そんなお前に、俺からのとっておきの情報を教えてやろう…!」
「おいベジータ、まさか…」
言わんとする事を察したピッコロが、呆れを含んだジト目になる。
「良いかよく聞け?俺は既に、ブルマと結婚している…」
「_はっ?」
そして、予感は的中する。
呆然とするアビィ
ベジータは笑みを深め、己を親指で差して、告げた。
「俺は、超(スーパー)既婚者だ…!」
「そん、な…!?」
アビィ、精神的敗北の瞬間である。
心の奥底から、絶望に染まるアビィ。
「嘘だ…馬鹿馬鹿しいとか言って屋根の上で寝てた、協調性のきの字のも無い荒口男が、既婚者…!?」
「あー、ベジータさんってああ見えて、赤ちゃんをお世話したり出来るんですよ?」
「フン、赤子に泣かれたら昼寝もおちおち出来んからな。」
「イクメンンーーー!?」
春からの追加情報で、いよいよ限界に達したアビィの絶叫が虚しく響く。
ただ傍観していた祐介ですら、同情気味だ。
「アイデンティティの喪失とは、ここまで人を追い込むのだな…」
「うぅ、言わないでくれたまえ祐介…こいしちゃんを失い、どころか悟空君に取られた僕をいっそ笑え…」
「うん?オラァ、チチと結婚してっから奪うも何もねぇと思うぞ?」
「つまりカカロットも結婚しているという事だ。」
「_ゴッハァ!」
南無三。
既婚者にガールフレンド(仮)を取られた事実は、アビィに完全にトドメを刺す。
塊めいた血液を吐き出し、完全に突っ伏した。
精神的な死である。
そんな様を見て、ベジータは勝ち誇ったかの如く高笑いをする。
「ハーッハッハ!懲りたら関係自慢はこれっきりにする事だな。今日は気分が良い、見逃してやる。」
「ベジータの奴、最近じゃ見ねぇくらいにご機嫌だな?」
「フン、何の事だか。さぁて、トランクスやブルマへの手土産でも見繕うかな。」
「はいはい、かいさーん。」
結果的に関係自慢したのはお前だろう。
喉元まで出かかったその言葉を、ピッコロは寸での所で飲み込んだ。
そうして未だ動かぬアビィを余所に、皆が元のサイクルに戻ろうとして。
「_おい、帰られると困るんだが。」
「あのー、皆さんが魔界へ行かれる方でいらっしゃいますか?」
魔界、その言葉に全員が足を止め、身を翻す。
そこには黒い外套を来た二人組…サイクスとザルディンが、何人かの女性を引き連れていた。
いや、それよりも。
「_おいガキ、今日俺達を集めた理由は何だ?」
底冷えた声色、額に浮かぶ血管。
ベジータの機嫌が急転降下したのは、火を見るよりも明らかだ。
対し、アビィは消えそうな声で呟き。
「…魔界へ行く準備が、整ったから_」
「それを先に言わんかーーーッ!!!」
怒号が、夜明け空に鳴り響いた。
「星羅天照」
イリヤの多元重奏飽和砲撃によって、闇・月光の身体が崩壊している。
「ば、馬鹿な……! 再生が間に合わぬほどの……!! 何者だ、あの娘……!!」
「はあ、はあ……!!」
全身全霊を出し尽くしたイリヤは、転身も解け、その場に倒れ伏した。
「イリヤちゃん! なんて無茶を……」
駆け寄りイリヤを抱き起こす月美。
「許せなかった……月美さんのお父さんを騙って、傷つけた、あいつを……」
「だからって、こんなに……」
『イリヤさんはこう言う人なんです……世界も友達も、両方守る。そのために
自分がどうなろうとも惜しまない……』
「……ふざけるな、まだ私は……!」
闇・月光の低い声が残響のように響いた。彼の形はほとんど消えかけていたが、
なおもその執念は消えなかった。
「イリヤの言う通りだぜ!!」
スカルが敢然と前に出る。
「親ってのは子を守るもんだろうがよ!!」
「知ったことか! すべては私の力の糧に過ぎぬ!!」
「話になんねえな、キャプテン・キッド! 一発でかいやつ、ぶちかましてやれ!」
スカルのペルソナ、キャプテン・キッドが雷を纏いながら現れる。
その雷は空間を震わせるほどの威力を秘めていた。
「喰らえ、マハジオダイン!! カミナリ食らって反省しやがれ、このド外道が!!」
スカルの叫びと共に放たれた雷撃が、闇・月光の全身を貫く。
電撃の爆発音が響き、巨大な闇の身体がさらに揺れる。イリヤの宝具で欠損した部分を
通して電撃が全身に伝播しているのだ。
「ぐぬうううううおおおお……おのれ……! 私をこれほどまで追い詰めるとは……!!」
闇・月光は感電によって苦悶の声を上げるが、その力は未だ衰えない。
無理矢理に復帰しようとしている。
「この闇の核を叩き潰さないと、私たちまで飲み込まれる……だったら……」
エリセが天逆鉾を手に取る。その瞳には怒りと共に全てを凍てつかせる
冷徹さを兼ね備えている。
「おしまいにしよう。芦原をなずさう虚ろ船、これなるは我が臍の緒、
黄泉大神の器の沼鉾、いざや掻き鳴らせ――『天遡鉾(アメノサカホコ)』!!
エリセが槍を掲げると、天逆鉾から禍々しい光が放たれる。
その槍先が渦を巻き、闇・月光の足場を奪う。時空をかき混ぜ、対象の存在そのものを
原初の渾沌へと送り返す。
「八十四符印、全機起動」
さらに太公望も宝具……「打神鞭」を構える。彼の目には冷静な決意が宿っている。
「邪霊を封ず――それがこの鞭の役割だ!」
打神鞭が空間を裂き、闇・月光の頭上に向かって振り下ろされる。
その鞭は負のエネルギーを吸収し、禍々しい霊気を浄化していく。
「光に消えよ……」
打神鞭が闇・月光の中心に巻き付き、彼の膨れ上がった力を削り取っていく。
「ば、馬鹿な……私の力が……!」
闇・月光の身体が小さく縮んでいき、その闇の核が露わになった。
「ツキミ! 今だ!」
イリヤを介抱するモルガナが叫ぶ。仲間たちの力が総結集し、
最後の一撃を放つ時が訪れる。
月美は神刀・星羅を高く掲げ、その刃に全ての霊力を込めた。
胸元の緑の勾玉が輝きを増し、神刀にさらなる力を宿す。
「みんなの力を……私の一撃に込める! これで終わりよ!
偽物のお父さんなんて、もういらない!」
「星と月を繋ぐ光よ……全てを断罪し、闇を浄化せよ―― 『星羅天照』!!」
闇を払う清めの舞と共に繰り出された月美の一撃が、
神刀から放たれる青白い光となり、闇・月光の核を完全に貫いた。
「ぐあああああああ……! これが……お前たちの……力……!」
闇・月光が完全に崩壊し、その残骸すらもエリセの宝具によって生み出され渦の中に
太公望の打神鞭に押し込まれながら光に消えていく。
周囲の闇も浄化され、メメントス深層部に再び静寂と光が訪れた。
諸行無常、月と星が絶えず、夜空を輝かせ続けるように……
月美は神刀を収め、肩で息をしながら仲間たちを見渡す。
「……みんな、ありがとう。私ひとりじゃ、ここまで来られなかった」
イリヤが微笑みながら手を差し伸べる。
「ひとりじゃないって気づけたのが、あなたの強さだよ、月美さん!」
月美は胸元の勾玉に手を添え、静かに呟いた。
「お父さん、お母さん……私、やり遂げたよ」
光の中で、彼女の心には父への誇りと仲間たちへの感謝が宿っていた――。
「……終わったようだな」
単独で殿を務めた結城丈二も、漆黒の戦闘スーツに身を包み、敵を全滅させていた。
「だが……地上も何やら騒がしいようだ」
敵の躯の上、結城丈二は新たなる騒乱の予感を察知する。
「お前がやったのか」
そこへ、大ショッカーとの戦いを勝ち抜き、月美たちの捜索をしていた
ペルフェクタリアが通りすがる。
「そんな事はどうでも良い。日向月美たちはこの先にいる。恐らく無傷ではないだろう。
早く行ってやるんだな」
(嘘の匂いはしない……だが、寂しさと孤独を感じる男だ)
「それと……」
結城丈二は何かをペルに投げ渡した。
「これは……」
「門矢士に渡せ。そうすれば分かる」
そう言うと、結城丈二は静かに去っていく。
「待て、お前は……」
ペルの呼びかけに、結城丈二は応えることは無かった。
一方、月美たちは……
「開かねえな……」
闇・月光が立ちはだかった先に、さらなる奥へと繋がってるであろう巨大な扉が
聳え立っていたが、開く様子は無かった。
「今はまだその時ではないって事か……今回の探索はここまでだね」
「しゃあねえ、みんなボロボロだし、一端リビルド・ベースへ戻ろうぜ」
この後、月美たちはペル、ディケイド、沖田オルタたちと合流し、
メメントスから脱出する事となる。だが、彼らはまだ知らない。
地上では、カルデアとミケーネ帝国の熾烈な戦いが繰り広げられていたことを……
「暗黒魔界へ行こう:幕間/虚空に咲く赤花」
ベジータが叫ぶ数時間前。
サイクスとザルディンは目的地――命蓮寺に到着していた。
その目的はただ一つ。
「…………。」
魔界の位置を知るこの寺の主に会い、案内してもらう為である。
「……サイクス。足、痺れたのか?」
「………ああ。」
「律儀だな。」
普段から何かしらの事情で正座になれているザルディン。
一方で正座に慣れていないサイクスは足が痺れたのか、苦虫をすりつぶしたような顔で耐えている。
これから交渉する相手に、悪い態度を見せるわけにはいかないのだろう。
「お待たせいたしました。楽にしていただいて結構です。」
襖をあけて出てきたのは一人の尼僧であった。
黒と白を基調とした服に、緑色の数珠を首にかけている。
グラデーションのかかった長い髪に、穏やかな笑み。
しかして―――その尋常ならなるオーラは人の域を超えていた。
(この尼僧……ただ者ではないな。相当の手練れか。)
「私は聖白蓮。命蓮寺の僧侶です。あなた方は……外の世界からの客人ですか?」
「ああ。俺はサイクス。そしてこちらが……。」
「ザルディン。よろしく頼む。」
一通りのあいさつを済ませたのち、サイクスは事情を説明した。
暗黒魔界に向かい、倒すべき敵を倒すこと。
倒さなければ、幻想郷はおろか世界が滅んでしまう事を。
「なるほど……故に魔界に向かいたい、と。」
「どうか、案内していただきたい。」
サイクスが頭を下げる。
今まで彼の苛烈で厳格な一面を見ることが多かったザルディンは少し驚いたそぶりを見せる。
これに対し、聖白蓮はにこやかな笑みを浮かべて返答する。
「事情は理解しました。案内は可能です。むしろちょうど良かったまであります。」
「ちょうど良かった?」
続けるように彼女は言葉を紡ぐ。
「私も最近の魔界が少し気になっていたところでしたので。瘴気が強まっているのは妖怪の賢者より聞き及んでいましたし。何より私は魔界をよく識っている。」
「なるほど。渡りに船というやつだな。だが……。」
「行ったことが?」
「ええ、いろいろありましてね……。」
魔界の瘴気の異常な強化は、八雲紫から事情を聞いていたので知ってはいたのだろう。
だが、この聖白蓮という僧は思っていた以上に魔界とは深い関係があるようだ。
「なるほど。これ以上は聞かないででおこう。」
「ああそれと、案内自体はいいのですが……。」
「心配には及ばない。こちらは十分戦える。何なら……。」
◇
「その後、その辺の怪異を調伏して力を示し、今に至るだ。」
「いずれにせよ許可は取った。いつでも案内はできる。」
この数時間、何があったのかを一通り話した2人。
一同は彼らの話を聞いていたが、そのうち一つの質問にたどり着く。
「それで、お前たちはどうやって案内するつもりだ?」
その質問に、ザルディンが答えた。
「この―――聖白蓮氏と彼女が操る船ならば暗黒魔界の位置を正確に辿ることができる。暗黒魔界への羅盤(コンパス)になるということだ。」
曰く。聖白蓮は過去、数百年にわたり魔界に封印されていたという。
どういう経緯で彼女が封じられていたかは、今はどうでもいい。
重要なのは封じられていた後、彼女の同志たちが白蓮を解放するために立ち上がったこと。
そして魔界から幻想郷に白蓮を移動させるために用いた道具の一つが、ザルディンの言う「船」だという。
「名を聖輦船。白蓮が法力で生み出した寺にして、魔界へと通じる船だ。」
◇
存在しなかった世界
「ご報告いたします、先ほど、裏切り者のカルネウスが―――」
「カルネウスがどうした?」
兵士の一人が跪き、大帝に状況を報告していた。
「武道。」
『こちらは構わん。』
「わかった。――何があった?」
「捕えた後即刻処刑の予定でしたが、彼は処刑場から脱走し……兵士の数名を殺した後に逃走!」
「なれば直ちに捕えよ。あの手の輩は何をしでかすか……!?」
その直後。
窓の外、昏き空に赤い炎が咲いた。
轟音を震わせながら、さらなる混沌を運んで来た。
「爆発!?」
捕縛命令を下す暇もなく、謎の爆発。
澄明な兵士、カール大帝は即座に予感した。
「まさか……自爆テロ!?」
「侵攻する者たち、護りし者たち」
――リビルド・ベースは今や特異点の拠点として機能していた。
しかし、ミケーネ帝国の侵攻により地上は混乱の極みに達している。
防衛部隊は各地で戦闘を繰り広げ、指揮を執るのはカルデアのマスター・藤丸立香と
彼女の盾役でありパートナーであるマシュ・キリエライトだった。
「マシュ、現状の被害状況を教えて。どれくらい持ちこたえられる?」
「はい。ミケーネ帝国の侵攻に加え、各地で敵対勢力の動きが活発化しているようです。
現在、ルイーダの酒場方面の戦線はクロエさんと美遊さんが中心になって
防衛してくれていますが……」
「向こうは大丈夫だと信じるしかないね……。それで、リビルド・ベース周辺は?」
「こちらも複数の侵攻を受けていますが、宗介さんのレーバテイン部隊と、
にとりさんが用意した着ぐるみ軍団『ボン太くん軍』が善戦しています。ただ……」
「ただ?」
「戦闘が長引けば物資が枯渇し、防衛線が崩れる恐れがあります。
さらなる戦力が戦線に投入される可能性が高いと予測されています」
「私たちが今ここで崩れたら、特異点全体が終わる。何としても持ちこたえないとね」
「先輩……それでも、やはりペルさんたちが心配です。メメントスは異常なまでに
危険な空間。ペルさんや月美さんたちが無事に戻れるかどうか……」
「わかるよ、マシュ。私だって不安でたまらない。でも、彼女たちを信じるしかないんだ」
藤丸はベースの戦略マップに目をやりながら、マシュに視線を向ける。
「私たちはここを守るのが役目。ペルたちが無事に戻ってこれるように、
帰る場所を残さなきゃ。それが彼らへの最大の応援になるんだから」
「……はい、先輩。私も精一杯、この盾で皆さんを守り抜きます!」
「頼りにしてるよ、マシュ。マシュがいるから、私も諦めずに戦える」
通信が次々と入る。ルイーダの酒場からの報告、リビルド・ベース周辺の戦闘状況、
そして未確認の敵勢力の動き――。
「マシュ、このままじゃ戦力が分散しすぎる。防衛ラインを整理して、
各部隊を再編成するよ。周囲の拠点も確認して、増援を送れる場所を探そう!」
「了解しました! 即座に作戦案を作成します。」
ふと、藤丸は遠くの空を見上げる。その目には強い決意が宿っていた。
「ペルたちが帰ってきたら、きっとまた戦局が変わる。私たちがここで耐え切れれば、
彼らが戻ったときに全てが好転するはず……そう信じてる」
「そうですね。先輩がそうおっしゃるなら、私も信じます。」
その時、遠方から地鳴りのような音が響く。次の戦いがすぐそこまで迫っている。
藤丸は拳を握りしめ、戦略マップを指し示す。
「マシュ、次の防衛線の準備をするよ!」
「はい、先輩!」
リビルド・ベース内の指揮室で藤丸とマシュが次の防衛ラインの作戦を練る中、
カルデアからの通信が入る。ホログラムディスプレイには
ダ・ヴィンチちゃんとホームズの姿が映し出される。
『マスターくん、こちらカルデア、ダ・ヴィンチだよ!』
藤丸はその声に一瞬だけホッとした表情を見せた。だが、それも束の間、
すぐに緊張感を取り戻し口を開く。
「ダ・ヴィンチちゃん! そっちから見て、こっちの状況はどうなってる?」
彼女の声には、疲れと焦燥が滲んでいる。それを聞いたダ・ヴィンチは
一瞬表情を曇らせたが、すぐに明るく励ますような声で応える。
『状況はこっちでも確認してる。だけど、焦らないでね!
まだ全てが絶望的ってわけじゃないから』
『その通りだ、マスター』
ホームズが、ダ・ヴィンチの言葉を引き継ぐように話し始めた。彼の落ち着いた声が、
戦場の喧騒の中でもどこか安心感を与える。
『勢力図は拮抗している。各地の防衛部隊も十二分に成果を上げているようだ。
カルデアのサーヴァントに加え、CROSS HEROESの諸君……さすが音に聞こえし英雄と
言ったところか…』
「うん、みんなよくやってくれてる。後は私達がここを守り抜かないと意味がないよ」
藤丸は深く息を吐き出し、マップに視線を戻す。
「マシュ、ルイーダの酒場方面で戦っているクロエたちを支援できるかもしれない
拠点はある?」
「はい、いくつか候補がありますが、防衛線を崩さずに戦力を送るのは難しいです。
それに、ベース周辺もかなりの侵攻を受けていて……」
マシュの声には迷いが含まれていた。
「そうだね……でも、どこかで優先順位をつけないと全部が崩れる。
それなら、まずここを守ることに集中しよう。クロエたちは強い。
信じて待つしかないよ」
藤丸の言葉には迷いがなかった。それが、彼女自身を支えるための言葉でもあることを、マシュは感じていた。
『カルデアに待機しているサーヴァントをそちらに派遣する準備を進めているから、
また連絡する。幸運を!』
通信が一時中断すると、藤丸とマシュはそれぞれ深く息をついた。
二人の間にしばしの静寂が訪れる。再び立ち上がった二人の目には、
揺るぎない決意が宿っていた。指揮室の窓から見える戦場には、なおも混沌が
渦巻いていた。だが、藤丸とマシュの胸には確かな希望が灯っていた。
それは、カルデアとの連携と戻るはずの仲間たちを信じる心から生まれるものだった。
――特異点・ルイーダの酒場。
「む……? 揺れているか?」
酒場の片隅でおにぎりを貪る、少年とも少女とも付かぬ中性的な容姿の持ち主が
異変に気づく。長い黒髪を三つ編みに束ねている。
「モンスターが暴れ回ってるようだね……アンタ、避難した方がいいよ」
「もんすたぁ……怪異か。うむ。おにぎりを馳走になったのだ。ひと働きせねばな」
酒場からやや離れた場所では、リビルド・ベースから派遣されたクロエと美遊が立つ。
周囲には既に火の手が上がり、ジオン族のモンスターたちが押し寄せている。
「ったく、数だけは一丁前に揃えてきたわね!
ミケーネとかって連中だけじゃなかったの!?」
「クロ、私たちがここで食い止めないと……酒場の人やみんなが危険よ!」
「分かってる! 美遊、援護は任せたわよ!」
クロエが携えるは、雌雄一対の双剣――干将・莫耶。
ゴブリンザク、ワームアッグガイ、タートルゴッグ、スライムアッザムに向かって
突撃していく
「ギエエエエエィッ!!」
ゴブリンザクがヒートホークで振り下ろすが、クロエは高らかに跳躍し、
背後を取る。
「おっそい♡」
空中回転捻りを加えた冴えた剣閃が、ゴブリンザクの背中を真っ二つに切り裂く。
「グギャアアアアアッ……」
ワームアッグガイの蠢く触手がクロエを絡め捕らんと伸びて来る。
「やらしいんだ、そんなの!!」
触手群の先端を切断するクロエ。
「シュートッ!!」
その隙に、美遊の魔力弾がワームアッグガイに直撃。
「ギャアアアッ!!」
「ナーイス、美遊! あとでたっぷりお礼するから」
「お、お礼って……? そんな事より、戦いに集中!」
「完全なる荊棘を求めて その2」
第Ⅴ実験棟外周部の戦闘、リクとゼクシオンの激闘は激しさを増していた。
両者ともに負傷が増え、傷が大きく広がってゆく。
「ぐっ……!」
「かぁ!」
両者膝をつく。
しかし闘志の炎に一点の曇りなし。
両者ともに譲れないものがある。
ならば、まだここでは引き下がれない。
「まだ戦えるとは……あなたの不屈の意志もここまでくると殺意を覚えますね!」
「諦めの悪さならソラにだって負けない自信がある。」
片や友―――ソラが心折れかけてもなお立ち上がった勇士。
片や狂奔と狂気の中で戦う狂気の魔術師。
「今のお前を、イエンツォたちが見たらさぞ失望するだろうな。」
「何とでもいえばいい。私はしょせん無念を晴らすために今もって存在している。」
「怨霊まがいの行動はいい加減辞めたらどうだ?」
「いや――無念慙愧をこうして残してしまったのなら、消さなきゃ気が済まない性分でしてね!」
連撃として放たれる数十発のかまいたち。
風を裂く見えない斬撃が、リクを襲う。
しかしてリクはその一撃一撃を弾き、躱し、なおも進撃する。
「だったら猶更、今ここでお前を倒す!」
荒れ狂う怒涛の連撃。
疾風、爆撃、闇、光、炎、雷、吹雪。
およそ全ての属性の魔術が、第Ⅴ実験棟の外周を蹂躙し破壊していく。
「吹き飛べ!」
ゼクシオンの放つ風の魔術が、リクを激しく吹き飛ばした。
空中高く舞い上げられ、このまま偽物の海に叩き潰されんとする。
「ッ……ブリザガ!」
体制を整え、空中での機動を取る。
海の一部を氷の魔術で凍結させ即席の足場を作った。
当然、頭から突っ込んで死ぬためではない。
足から着陸して、次の攻撃につなげるためである。
「小賢しいマネを!」
◇
何も見えない。
何も聞こえない。
ただ憎悪と恩讐、正当な怒りをぶつけられている。
反論しようのない、
ああ、今回ばかりはくじけそうだ。
「……はは、ああ、くそ。あたしも、そうなのかよ……。」
泥の中を無限に沈む。
悪意。悪性。邪悪。邪念。
この世全ての絶望を識る彼女でも、泥のような無限の悪意は知らない。
無限の滂沱、濁流がごとき悪性をおっかぶせられて、精神が持つわけがない。
「ああくそ。あたしも、一人じゃダメなんだな。」
失意と断罪の坩堝。
もうこのまま沈み切ってやろうとも思っていた。
「おいおい、こいつは何の冗談だ?妙に運のいい少年を取り込まされて、次は別嬪さんと来たか。」
―――闇の中、妙な声が聞こえる。
嘲笑っているような、楽しんでいるような。
「…………何だよ、私様を笑いにでも来たってか?」
「笑うも何も、笑うしかないだろ。不愉快にさせてしまったのなら、ゴメンナサイ。」
「謝る気が絶望的に感じられねーんだが。」
「きひひ、何しろ俺はそういう奴でしてね。」
謎の声は続ける。
「なんかメカクレの研究者にさっきの少年と憑依させられて、窮屈だったんだよ。肉を持ったのは良いが、その状態でこんな檻に封じ込まれちゃ意味がない。」
自虐的で嗜虐的。
されど光を識る聖者のような。
「なぁ、あんたはここから出してくれるのか?」
「あんたはこの泥からは出られるさ。そのまま浮上していけばいい。俺も助けるってなら、まずはあの少年を助けてからにしてくだサイ!」
「…………そう、か。」
自分はこの泥から出られる。それは分かった。
苗木も救える余地はある。
だが、その前に――
「なぁ、教えてくれるか?」
「は、悲しい顔するなよ。あんたは絶望を愛して、絶望を知っている。だったら絶望に抗ったり絶望を武器にしても誰も文句は言わないだろう。」
「それに―――」
◇
(江ノ島……まだか!?)
氷の地面を走るリク。
ゼクシオンにも言えることだが、彼は内心焦っている。
両者ともに決め手に欠けているからだ。
長期戦になってしまえば、両者ともに消耗しつくしてしまう。
もう一押し何かが欲しい。
その時だ。
ぴしり。
「「!?」」
また、ガラスにひびが入る音がした。
しかも、今度のは大きい。
「またヒビが!やはり試作品ではダメだったか……!?(時間がない……かくなる上は!)」
「……来るか!」
その刹那、ゼクシオンの持つレキシコンの頁が一気に巻き上がる。
同時に、リクの肌でも感じられるほどゼクシオンの魔力量が増大していく―――!
「カタストロフィ……!しかもこの魔力量――!」
「避ければ何もかもが崩壊する一撃です!受け止めざるを得ない!」
闇の魔力、瘴気を一極に集中させて放つ。
先ほど、リクに膝をつかせたものとは比べ物にならない。
「ふっははははは!これで終わりです!」
万事、休すか。
「黄金の騎士、残夜幻想」
「数が多すぎるわ……! これじゃキリがない!」
「クロ、諦めないで! 私たちがここで止めないと、みんなが危険よ!」
美遊がクロエを励ましながら、魔力弾を放って敵を牽制する。
二人の奮闘でなんとか戦線を保っていたが、圧倒的な物量差に次第に
追い詰められていった。
「……!!」
その時、突如として全身を眩い黄金の鎧で包んだ剣士が戦場に現れる。
「何、あの人……?」
クロエが驚きの声を漏らす。黄金の騎士は無言で剣を振るい、
一撃で複数の敵を薙ぎ払う。その圧倒的な戦闘力に、モンスターたちは一瞬怯んだ。
「ギャアアアアアッ」
「すごい……! あの人、一体何者なの?」
美遊が目を見張る。
「誰でもいいわよ! 助けてくれるなら歓迎するっての!」
黄金の騎士の助力で戦況が少しずつ好転する中、また一人の剣士が戦場に現れる。
「お、やっているな……ちょうど持たされたおにぎりも食べ終わってしまったところだ」
白い和装に身を包み、威厳を漂わせた剣士――セイバーだった。
ルイーダに包んでもらったおにぎり、その最後の一個をかじり、掌についた米粒を
舐め取る。
「サーヴァント反応……?」
「この地を汚す異形よ。我が剣の前に伏すがいい!」
鋭い声で叫び、剣を振るう。その一撃は敵の群れを切り裂き、一瞬で数体を倒す。
流麗にして怒涛たる川の流れが如く。
「ええっ、また新手? でも、どうやら味方みたいね!」
クロエが驚きながらも安心したように微笑む。
「命を賭して弱きを守る覚悟があるのならば、共に刃を振るおう」
謎のセイバーがクロエと美遊に言葉を投げかける。
強力な二人の援軍が加わり、戦局が優勢に傾き始めたその時、地面が大きく揺れ始めた。
「うおっと?」
周囲の建物が軋む音が響く中、巨大な影が現れる。
それは泥と金属が融合したような怪物、マッドゴーレムだった。
「マッドォォォォォォ……」
「チイ……」
「ちょっと……何よあれ!?」
クロエが双剣を構え直すが、その巨大さに圧倒される。
「ただのゴーレムじゃない……相当強化されてるわ!」
美遊が緊張した声で呟く。さらに、上空から不気味な鳴き声が響き渡った。
「―――――!!!」
猿の頭、虎の胴、蛇の尾を持つ異形の怪物――鵺が現れ、瘴気を撒き散らしながら
急降下する。
「冗談でしょ! 二体同時なんて……!」
「気をつけて! あの鵺、ただの魔物じゃない……呪いの力を持ってる!」
苦々しい表情を浮かべるクロエに美遊が警告するが、鵺の奇襲で戦線が混乱する。
巨体に似合わぬトリッキーな敏捷力で飛び回る。
「ケケケケケケーッ!!」
「こいつら、しぶとすぎるわ……わっ!!」
「マッドォォォォォォッ!!」
クロエがマッドゴーレムの攻撃をかわしながら叫ぶ。クロエを捕らえんと、
大きな手を右に左に伸ばしてくる。
「援護を頼む!」
黄金の騎士が冷静に指示を飛ばし、マッドゴーレムの注意を引きつける。
「分かりました! 『夢幻召喚(インストール)、ランサー!!』
美遊が魔力を高め、ランサーのクラスカードを使用する。
イリヤと同様、英霊の力を封じ込めたクラスカードによって様々なフォームへと
転身することが可能なのだ。
「限定展開、刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)ッ!!」
因果逆転の紅き槍を投擲し、マッドゴーレムの右足を貫く。
「マッ、ドォォォォォォッ!?」
「直撃させる!!」
膝を崩したマッドゴーレムの右目に、黄金の騎士の剣が突き立てられた。
「オオオオオオオッ……!!」
「キッ、キッ、キエエエエ!!」
一方ではセイバーを執拗に責め立てる鵺。爪で引っ掻こうとする瞬間に動きを見切り、
回り込んで側面から斬りつける。よく見れば、セイバーの剣は液体のように
不定形な形を取っており、その全容は窺い知れない。
「まだまだ!!」
剣を地面に突き立て、刀身から発する激しい水流をジェット噴射のように応用して
鵺の頭上を取って渾身の唐竹割りを浴びせかける。
「ンギャアアアアアアアッ!!」
傷口を押さえ、もんどり打つ鵺。
「刮目せよ!」
セイバーが剣を両手で握り、目を閉じて天高く構える。
光り輝く八頭の蛇の像が絡まり、束ねるイメージが浮かび上がる。
「八頭の蛇……八岐之大蛇……ま、まさか、あの人は!」
「清き水よ、たゆたい、流れ、海へと至りて星を成せ───
『絶技・八岐怒濤』!! せえええええええええええいッ!!」
不定形だったセイバーの剣が全容を現し、振り下ろした刃から同時に8つの斬撃が
飛んでいく。
「ギィィィエエエエエエエエエエッ……」
蒼き閃光と共に鵺は爆散。それだけに留まらず、その衝撃の余波は
ジオン族のモンスターたちをも飲み込んでいく。
「くうううっ……す、すごい威力……!!」
衝撃風に思わず目を覆う美遊。
「こっちも行くわよ! 一斉攻撃で仕留める!」
クロエが声を上げ、黄金の騎士と共に最後の一撃に全力を込める。
「山を抜き、水を割り、なお墜ちることなきその両翼! 鶴翼三連っ!!」
干将・莫耶を同時に投擲、更に投影魔術にてさらにもう一対を生成し、時間差で投擲。
左右上下から飛び交う、死角を封じた多次元攻撃。
「これでトドメッ!!」
ダメ押しの三対目を投影し、自らも突撃。
「終わりにさせてもらおう!!」
クロエと黄金の騎士……合わせて7連斬もの怒涛の一斉攻撃がマッドゴーレムに
叩き込まれた。
「マァァァァァッ……ドォォォォォォ……」
さしものマッドゴーレムも、耐えきれずに仰向けに倒れ込み、
元の土塊となって地に還った。
「これで……終わったの?」
クロエが肩で息をしながら呟く。
「本当にありがとうございます……あなたたちがいなければ、酒場は守れなかった……」
美遊が深く頭を下げる。
「礼には及ばない。ジオン族は私にとっても仇敵だ。だが用心しておくのだな。
奴らは君たちに目をつけている。いずれ、大きな戦いに発展するだろう」
黄金の騎士はそのままその場を立ち去る。
「む……少々力を使いすぎたか……」
「あ、身体が……」
セイバーの身体が黄金の光を放ち始める。
「逸れとは、なかなか不便なものだな。正式な主でもいればまた違うのかも知れないが」
「やはり、あなたはサーヴァントだったのですね。それも、かなり強力な……」
「うむ。私も驚いた。君たちのような幼子が、英霊の力を行使して戦っているとは。
面白いものを見せてもらったぞ。縁があれば、また何処ぞで会う事もあろう。
酒場の女将に、おにぎり美味しかったと伝えてくれ。ではな」
そうして、セイバーは真名を明らかにしないまま、退去していった。
黄金の騎士も同じく、名前や素顔は分からずじまいであった。
「結局、あの人たちの正体は分からないけど……本当に助かったわね。」
美遊が安堵の表情を浮かべる。
「まあいいわよ! とにかく、これで一段落って感じね!」
「河童の科学力は世界一ィィィィーーーー!」
「ふもー!」
「ふもっふー!」
ボン太くん軍団は数の暴力と凄まじい量の弾幕、更には高い連携能力と弱点を的確に攻撃できる技術力でミケーネ帝国の軍団を圧倒する。
「すっげー!」
「見た目によらず、結構強いですね…!」
「けどよ、なんであんなマスコットみたいな見た目なんだ?」
「元々俺が使ったボン太くんは俺が過去にとある遊園地でぬす…借りた着ぐるみをベースにしたものだからな。
それを量産してリビルドベース中に配備すれば拠点の防衛を強化しつつリビルドベース内にあった娯楽エリアのマスコットにもなると思ってな。河城に頼んで量産ラインを作ってもらった」
「ちなみにあのボン太くん軍団の中には中の人の代わりとして自律稼働型のAIを搭載してるんだけど、そのAIはリビルドベースのデータベースの中にあった自律稼働型のAIのデータを元に私が独自に開発したものだよ。
いやー、ああいうのは一から作ろうとしたら結構大変だからね、流用できそうなものが運良くあって助かったよ」
※ちなみににとりがボン太くんに搭載しているAIの元になったリビルドベースのデータベースの中にあったAIのデータというのは、リビルドベースがクォーツァーパレスだった頃にクォーツァーが量産したカッシーンなどに搭載していたAIであり、その後リビルドベースに改造される際にクォーツァーが利用していたデータベース自体はそのまま残っていたため、中にあったAIのデータもそのまま残っていたのである。
「……そういえば、カルデアの藤丸立香って人からいいお知らせと悪いお知らせを預かってんだけど」
「いいお知らせと悪いお知らせ?」
「うん、いいお知らせというのはここ以外の場所にもカルデアのサーヴァントがミケーネの対処をしてくれてるんだってさ。確かルイーダって人の酒場もそのうちの1つだって」
「っ!ルイーダさんの酒場をサーヴァントの皆さんが守ってくれてるんですか!?」
「よ、良かったッス……これでひとまずは安心ッスね……」
「で、もう一つの悪い知らせとはなんだ?」
「ああそれは……っ!」
「どうした?」
「……どうやら今言おうとした奴らが来たみたいだ」
するとそこにジオン族竜王軍連合のモンスター達が次々と乱入し、CROSSHEROESとミケーネ帝国の双方に襲いかかる!
「モンスター!?」
「こいつらがその悪い知らせか!?」
「あぁそうだよ!どうやら各地でモンスターの軍団が次々と動きだしてミケーネの奴らとドンパチやってみるみたいでね…しかもミケーネ以外にも見境なしに攻撃するから、場所によってはミケーネVSモンスター軍VSその他みたいな感じの三つ巴が起きてるところもいくつかあるみたい!」
「クソ!ミケーネだけに攻撃するのならともかく、そうじゃないのなら空気読めねえなこいつら!」
「だがやるしかない…!」
「ボン太くん軍団の準備で戦闘に参加できなかった分、ここからは私も頑張らせてもらうよ!いけ!ヒソウテンソク!」
「!」
にとりが命令を出すと、ヒソウテンソクはミケーネ神に攻撃する。
「チッ…!マジンガーもどきに負ける我々ではないわぁ!」
ミケーネ神はヒソウテンソクに攻撃するが、なんと片手で受け止められてしまう。
「なに!?」
「ヒソウテンソクは伊達じゃない!ブレストブラスター発射!」
「!」
ヒソウテンソクは胸部の放熱板からマジンガーZのブレストファイヤーを彷彿とさせる熱線「ブレストブラスター」を放ちミケーネ神をドロドロに溶かす。
「ギャアアアアアアアアア!?」
「ヒソウテンソクは私達河童と外の世界の人達が共同で開発したスーパーロボットなんだ!神様が相手でも負けはしないよ!」
「クッ!ならばあのマジンガーもどきに指示を出している貴様から始末してくれる!いけ!」
「ギャオオオオオオン!」
戦闘獣の一体がにとりに襲いかかるが…
「ヒソウテンソクに指示を出している私への直接攻撃、発想は悪くないけど…!」
「っ!?」
にとりは弾幕を飛ばして戦闘獣の人面部分を攻撃!
「なっ!?その力は…!?」
「これでも私は妖怪なんでね。幻想郷にいる時ほどの力は発揮できないけど、私自身も戦えるんだよ!」
にとりは背中のリュックから鉄球を取り出し、振り回して戦闘獣と周辺のモンスターを攻撃する。
「ギャオオオオオオオオオン!?」
「背中のリュックから鉄球が…!?」
「へっへーん!ここリュックには私が作った発明品が他にもいろいろと仕込んであるんだよ!例えばこういうのとかね!泡符「撃て!バブルドラゴン」!」
にとりは自身のスペルカードを発動させると、リュックからメガホンに似た形状の器具を取り出し、それを使って巨大なシャボン玉を生成すると、ミケーネ神を中に閉じ込めたのだ!
「う、動けん…!?ぐ、ぐわぁああああああああ!?」
閉じ込められたミケーネ神は苦しみだし、最終的に爆散した。
「にとりすっげー!俺の父ちゃんに負けないぐらいの天才じゃん!」
「いや〜それほどでも〜!」
「油断はするな、まだ敵の数は残ってる!」
「わかってるって。さ〜て、まだまだ発明品はいろいろあるよー!」
「完全なる荊棘を求めて その3」
存在しなかった世界 女神研究棟 通称「神を孕む鉄塔」
「…………一体何が。」
「カルネウスの奴がどこからか爆弾をくすねてきて、ここで自爆したらしい。」
「兵士数十名を巻き込んだ自爆テロ、だそうだ。」
爆発に飲み込まれ、崩れつつある塔。
周囲では雀蜂兵や教団兵士が消火作業と周辺の調査、がれきの掃除をしている。
だが、兵士一同の考えていることはただ一つ。
「女神は?」
「無事だ。格納シェルターが盾になってくれたおかげで傷一つついていない。」
女神の玉体、その無事。
鉄塔自体はいくらでも替えが効く。
だが、女神はメサイア教団の叡智と血肉の結晶。
破壊されてしまえばたまったものじゃない。
そこに、兵士数名を引き連れて駆けつけてくる影が。
「魅上様!カルネウスが……!」
「それは知っている、逃亡してここで自爆したのだろう!奴がここで何をしていたかの痕跡は分かるか!」
「現在調査をしています!もうしばらくお時間を!」
兵士の一人がパソコンから、研究棟の機械装置、そのデータログを調査し始める。
「爆発の数十秒前、転移装置のログが……位置は教団研究室のエジプト支部。焦っていたのか位置は適当だな。」
「奴は何を転送した?」
「お待ちを……」
爆発で機械は完全に壊れてしまった。
だが、幾重にも防御されたブラックボックスからのログの調査は可能だ。
そこからであれば、あの時カルネウスが何をしているのかは分かる。
「え、嘘…!?」
「答えろ、何があった!」
兵士は震える声で答える。
「魅上様……奴が転送したのは、ソロモンの指輪です……!」
「な、に……?」
「恐らく防衛装置をすべて破壊し、指輪を転送した後自爆したかと!」
カルネウスの最後の悪あがき。
それは、エジプトに転送されたソロモンの指輪。
こめかみをひきつかせ、魅上は憤りを隠せないでいた。
「最後まで余計なことを……直ちに兵士の一部をエジプトに招集しろ!CROSS HEROESや他の連中が動き出す前に!」
◇
「さァ、この一撃でおさらばです!」
終局の一撃、カタストロフィー。
ゼクシオンが今まさに放とうとする一撃は、この地下ジャバウォック島そのものを破壊しつくさんとするようなものであった。
それほどの魔力量をどこで調達してきたかは分からない。が。
「深き幻影よ!」
「来る!」
この一撃をまともに食らえば。次はない。
何もかもが壊れて、おしまいだ。
そうして、降り注ぐ闇の弾幕をリクのキーブレードが弾く。
「おおおおおおお!!」
「先ほどよりもさらに強化された私の《カタストロフィー》!果たして、いつまで弾ききれますかね!」
攻撃は激しくなる。
全方位から放たれる弾幕の濁流は、かつてのゼムナスとの戦いを彷彿とさせる。
「弾ききってやる!」
「これでも!?」
無数の弾幕は四方八方に飛び散り、その悉くを破壊してゆく。
壁は砕け、地は吹き飛び、海は飛び散る。
「!?」
「これは…リク……!」
「江ノ島ちゃん……大丈夫か!?」
書斎にいるシャルルマーニュたちも不安になってくる。
だが、立ち止まっている暇はない。
そのうち、一発の弾幕がリクの足を抉った。
あまりの痛さに、転びそうになる。
そのすきを、ゼクシオンは見逃さなかった。
「これでとどめです!」
とびきり強力で、とてつもない大きさのエネルギー弾を叩き落す。
もはや避けられようのない事実。
「っ……!」
歯ぎしりするしかない絶望。
このまま押しつぶされるかと、この場にいた誰もが思っていた。
その時。
「なっ……私の魔弾が……!」
空中で爆発が起きた。
突然の花火。
誰かが打ち上げたわけじゃない。
ゼクシオンが叩き落そうとした巨大魔弾を、誰かが破壊した。
否、正確には。
「レキシコンを吹き飛ばして……攻撃を解除した!?一体誰が!?」
「まさか……!」
そこに立っていたのは、リクがよく知る顔であった。
「手負いの奴を嬲って舌なめずり、それで勝ったつもりかァ!?」
「まさか……!」
長い橙色の髪を2つに結び、黒い服を身にまとって立って。
その手には一丁のショットガンを手にして、ゼクシオンめがけて銃口を向けている。
間違いない。
あの絶望的なまでに強気な彼女。
その名は――
「江ノ島、盾子……!!」
「お待たせ、待ったか?リク!」
「脱出したか!」
「銭形警部の事件簿①カグヤ邸お宅探訪」
――存在しなかった世界。虚数空間の海に漂うメサイア教団の本拠地。
現状、この場所に辿り着ける者は限られている。その中のひとり。
今、最もメサイア教団の真相に近い男……それが誰あろう、ICPOの銭形警部だ。
通常の人間では、その身を晒しただけで即死すると言われる虚数空間の中にあって
銭形が生還を果たしたのは、虚数姫カグヤの力によるものだった。
自らを姫と称し、すべての人間を愛し、保護したいと言うカグヤに気に入られた銭形は
彼女の邸宅に招待されていた。
「なんじゃあ、この家は……?」
その外観は、実に突飛なものであった。和洋折衷、あちこちの文明のデザインが
取り入れられた、まるで統一性の無い佇まい。
ギリシャの神殿。エジプトのピラミッド。日本の城。人類がこれまでの長い歴史の中で
培ってきた文明の粋が十把一絡げになっている。そう言ったものがパズルゲームのように
不規則に積み重ねられたような……建物と呼ぶのも無理がある。
その周囲は花畑に囲まれ、桜や紅葉、四季の花々が同時に咲いている。
虚数空間と呼ばれるこの不思議な場所にあるその家は、
銭形にとっても異質な存在であった。
「かわいいでしょ?」
銭形の背後でニコニコしながらカグヤが言う。
この女の美的センスはどうなっているのか。すべての人間を愛する。その言葉を鑑みれば
人間と言う存在、ひいては人類が築いてきた文明も含めて嘘偽り無く「好き」ではあっても
その本質を理解できていない。この女がおよそまともな人間ではないことを物語っている。これまでの言動に対する強度が増す。
銭形は眉間にしわを寄せながらも、中に通された。
「どうぞ―!」
門を潜ると、卓上に豪華な茶器を用意していた。蒸らしたばかりの湯気が立ち上り、
色とりどりの菓子が美しく盛られている。市松模様の床にカーペットが敷かれ、
その中心には迫り上がった囲炉裏と畳。
「ほれ、座って座って。お茶をどうぞ!」
銭形は一瞬警戒の目を向けた。
「毒でも入っているんじゃないだろうな?」
カグヤはぷくっと頬を膨らませた。
「も~、そんなことしないよ! あたし、人間大好きって言ったでしょ!」
半信半疑ながらも、銭形は湯呑みに口をつけた。芳醇な香りと共に喉を通る
茶の味は普通で、毒や魔術の類は微塵も感じられない。
「美味い……んぐっ、はむっ、もぐもが……」
ここまで死ぬような思いをしたのもあり、腹も減っていたのも手伝って、その手は自然と
目の前の菓子を貪っていた。
「それで、話を聞かせてほしいの。地上ではどんな人たちがいて、
どんなことをしているの?」
カグヤの素直な興味に、警戒心の強い銭形も徐々にほぐされていった。
彼は地上での出来事を語り始めた。警察官としての日々、善悪が交差する街の様子、
そして宿敵ルパン三世との追いかけっこ。カグヤは目を輝かせながら頷き、
「へえ、地上ってそんなに面白いところなんだ」と感心した。
「ねえ、銭形さん。ひとつお願いがあるの」
「なんだ?」
カグヤは両手を合わせるようにして身を乗り出した。
「銭形さんっておまわりさんでしょ? だから、存在しなかった世界の調査を
してほしいの」
「存在しなかった世界だと?」
銭形は眉をひそめた。
「うん。虚数空間に突然現れた場所でね。そこに戻っていく人たちそう呼んでたの。
その世界がどうして生まれたのか、何があったのかを知りたいの」
カグヤは虚数空間で起きた事象を感知する事が出来る。
にも関わらず、「存在しなかった世界」が出現したことをつい最近まで気づけずにいた。
「はい、これ」
カグヤは、銭形に小さな護符を手渡した。
それはまるで手のひらにすっぽり収まるほどの小さな札で、
不思議な力を感じさせる光を放っていた。
「これがあれば虚数空間でも死ぬことはないし、
これを破れば、いつでも地上に戻れるから。安心して行ってきて」
銭形は護符をじっと見つめた。これならば虚数空間から戻れると少しだけ安堵した。
「お前は行かんのか?」
「私ね、ちょっと行かなきゃいけない所があって。しばらくここを離れるんだ」
「ふーむ……良かろう。仮にも助けてもらったわけだし、こうして茶と菓子を
ご馳走にもなった。受けた恩は返すのが、人間として当然の義務だ」
「受けた恩は……返す! いい言葉! メモっちゃお!」
こうして、銭形はカグヤに依頼され、「存在しなかった世界」へと向かう。
そして、カグヤが「行かなければならない場所」とは……
「完全なる荊棘を求めて その4」
「メアリー・スー計画……」
資料室でファルデウスは、その計画書を読み込んでいた。
記されていたのは、ひたすらに悍ましい計画の全貌―――
結論から言うと、その計画の最終段階は「完全・完璧なる存在が支配する新世界秩序の創造」であった。
地下ジャバウォック島の真の機能は、世界中から集めた優れた才能を持った子供たちを招集――という名の拉致を行い、その知識・知能・才能・能力をデータ化。
その限界値を拷問にも似た検査方法で導き出し、そのデータを現行人類がたたき出しうる限りの最高スペックを持った人工生命―――ホムンクルスにインストールすることで「完全なる存在」を人工的に作ってしまおうという計画である。
こうして生まれた「完全なる存在」が下等な人民を教導し、間違いを犯せば粛正―――。
犯罪者、不良、戦争を起こしている国家にはその暴威ともいえる力を以って家族、地域、国の単位で消去する。そのための力は数万本からなる魔術回路――それから生み出される強力な魔術によって生成し、粛正を実行する。
悪党の粛正を見た人類はそれに恐怖し、己を完全存在として律するようになり、それを繰り返していけば、戦争や犯罪を犯す人間を筆頭にその力を以って粛正されてこの世から消え失せる。
残った人類は完璧なる存在へと昇華するためにこの存在が教導し、やがては完璧な存在へと成り上がった彼ら彼女らが支配する完全なる新世界の創世は成される――。
まさに人類史の「挫折」と「成功」を繰り返した先にある「進化」という概念への、絶望にも似た感情が生み出したおぞましき計画。
「この計画が完成した場合、生存できる現行人類は1%にも満たない。文字通りの一握りの人間のみが生き残る行き詰まり(デッドエンド)と化す……最悪ですね。」
全く持ってその通りである。
完全なる世界に成長の余地はなく、進化の余分すらない。
そういう世界は抑止力によって剪定事象となるし、何より人間の基本原理の一つ――「人は成長する生き物」への冒涜だ。
ファルデウスはその資料をさらに読み込んだ。
「ここから先は日記……いや、記録か?」
内容は日記形式で記されており、書いたのは江ノ島盾子の父親。
彼はこの計画に疑念と不信感を抱いていた。
人倫、倫理、秩序。その三点を欠いたあまりにも独善的な計画。
そのくせ、そこから導き脱されるのが数多の犠牲からなる、粛正の恐怖によって支配された絶望郷。
「計画の第三段階、ホムンクルス鋳造の段階で頓挫。現行のホムンクルス技術では短命の個体しか作れず『完全なる存在は長命でなければならない』理念(オーダー)を果たせない。別の方法の模索を開始――」
ホムンクルスの最大の弱点は、短命であること。
どれだけ頑張っても、人間の寿命の平均値には届かない。
そこで、次に提案されたのが――。
「妻の江ノ島■■、デザイナー・ベイビー技術を嬉々として提案。教団研究議会はそれを採用。否定したのは、夫の私だけ。」
デザイナー・ベイビー技術。
それは生命倫理への最大の冒涜の一つである。
「妻の受精卵からアナログクローン技術とスーパー・ベイビー法により肉体的・知性的能力の向上に成功。ゲノム編集も完了済み。」
日記の字は次第に震えているように見えてくる。
まるで、何かに恐怖しているかのようだ。
「試験管(しきゅう)から姉妹――むくろと盾子が誕生する。両者ともに性能面では問題ないようだ。可哀そうな我が娘たちよ。どうか愚かな両親を許してくれ。」
父親は姉妹に愛情を注いでいた。
その証拠に身長の記録や自分と撮ったであろう写真が張り付けられている。
だが、母親は違ったようだ。
「妻が率先して用意した人工魔術刻印と約70万本以上の魔術回路の準備が完了する。私は止めたが――魔術回路の移植なぞ不可能にも等しい技術でしょうに……この妻は娘たちを計画のための道具としか思っていない……!」
その証拠に、そのページからは血の跡のような模様が残っていた。
妻に痛めつけられていたせいか、それとも血反吐でもはいていたのか。
最後のページにはひと際大きい血の跡がこびりついていた。
読みづらかったが、ファルデウスは何とかこれを読み解く。
「後悔は い。私は、娘たちの を思った。これ以上、私の のお しい 画に付き合わ けにはい ない。完 とは 望、完 とは 見る り最 の 夢だ。私は、魔 路移 の に見せかけ、娘たちをこの から逃がして 戚 せた。 こ 画に付 っ だ。故に てゆくこ きない。ど せに ってほしい。」
まるでこのページを開いたまま拳銃自殺でもしたかのような惨状だった。
一通り、計画書を見たファルデウスの顔は曇り、ただ頭を抱えることしかできなかった。
「ああ、吐きそうだ……。」
◇
「さっきはよくもやってくれたな……ゼクシオン――!!」
「まさか簡単に破壊されてしまったとは……!」
断罪法廷を脱出した江ノ島。
だが、それだけではないようだ。
「まだいるんだよ。後ろ。」
江ノ島が親指で自信の後ろを指す。
「よう、久しぶりだなメカクレのお兄ちゃん?」
「本当に、苦労したよ。」
江ノ島の背後に立つ2人に、ゼクシオンは動揺する。
緑色のコートを着た少年と、黒い影のような存在が、そこに立っていた。
「苗木誠……そんな馬鹿な!分離!?」
「アンリマユなら、僕を解放して消えたよ。」
「江ノ島さんには、いろいろと聞きたいことはあるけれど……まずは。」
「ああ、ゼクシオンを倒してからだ!」
◆
「それに―――楽しけりゃいいんじゃないか?悪党が心から正義の味方になるってのも。出なきゃ、肉を持って生きている意味がないんだから。」
その言葉は達観していて。
その癖に、彼女の心の曇りを晴らすような。
「―――――ああ、そうか。ありがとう。あたし、迷ってたんだ。」
「いい顔になったな。ほら、さっさとこいつと脱出して、2人でデートとしゃれこみなサイ!」
そんな軽口と共に、周囲がひび割れる。
断罪法廷。それは心の闇を増幅させる庭。
だがしかし、対象者の心に闇、不安がなくなった時、それは意味をなさない。
「苗木!」
「……え、江ノ、島……さん……?」
泥の奥から手を伸ばす。
届け、届け、届け。
決意と共に、この手よ届け。
「お前は、何も間違っちゃいない―――!」
「……!」
「だから―――一緒に戦おう、な?」
そうして、絶望の結界はここに破却された。
「銭形警部の事件簿②潜入・メサイア教団拠点」
銭形は護符をしっかりと懐にしまい、カグヤの奇妙な館を後にした。
虚数空間の不気味な光景が広がる中、彼は一瞬立ち止まる。
これから向かう「存在しなかった世界」とやらには、一体何が待ち受けているのか。
彼の中で警察官としての直感が危険を訴えていた。
「ふん、相変わらず怪しい連中に巻き込まれるな、わしも。
だが、この手で真相を暴いてやる!」
気合を入れ直し、カグヤから教えられた進路をたどる銭形。
彼が目指す先に待っているのは、虚数空間の最深部――『存在しなかった世界』だ。
「……」
「……」
巨大な要塞が如き建造物。見張りの兵は重々しい装備に身を包み、
地上侵攻用の艦船が慌ただしく出入りを繰り返していた。
鋼鉄と光る結晶が複雑に絡み合い、歪な形状の艦体が虚数空間の不気味な輝きに
照らされている。その異質な艦船を目の前にし、銭形は口元を引き締めた。
「こいつは……どう見ても普通じゃねえな」
その異様さに一瞬目を奪われたが、銭形はすぐに意識を切り替えた。
「いつもの仕事だと思えばいい……そうだ、ルパンを追い詰める時だって
こんなことは日常茶飯事だった」
そう呟きながら、銭形はふと手にした護符に目をやった。この小さな護符が、
虚数空間での彼の命綱だ。だが、この状況で万能の盾になるわけではない。
「失敬、私はICPOの銭形と言うものだが……二三、聞きたい事が……」
同時に懐から警察手帳を取り出し、パトロール中の兵士に見せた。
「なっ……ICPOが何故こんな所に?
それよりも、ただの人間が何故この虚数空間で平然としていられる!?」
だが、兵士はその手帳を見るや否や、突然武器を構え、
銭形に向かって襲いかかってきた。
「おいおい、ちょっと待て! こっちは自己紹介しただけだろうが!」
「問答無用!!」
銭形は手帳をしまい、兵士の奇襲に身構える。彼らの武器は奇妙な光を放ち、
銃のようなものから発射される弾は、金属ではなく虚数空間特有のエネルギーで
構成されているようだった。壁に当たると一瞬でそれが崩れ、周囲に紫色の光が広がる。
「なんてこった……こんなもん、まともに食らったらひとたまりもねえ!」
銭形は兵士の間を駆け抜け、近くにあった機械の陰に飛び込んだ。
隠れながら息を整えるが、兵士は執拗に追い詰めてくる。
だが、彼は決して逃げ腰にはならなかった。
「ンなろォ、お前らが何者か知らねえが、わしの捜査を邪魔するなら容赦せんぞ!
公務執行妨害成立だ!!」
兵士の銃撃の軌道を、銭形は見切っていた。
「狙いが甘い! 次元の奴なら、一発目でわしに致命傷を与えていたぞ!!」
「な、何だこいつ……!! 本当に人間か!? このおおッ!!」
白兵戦に切り替え、槍を振り回す兵士。
「そんなもの! 五ェ門の斬鉄剣に比べれば、何の事は無いわ!
そぉおおおおうりゃあああっ!!」
「うおっ……わあああっ!!」
銭形は素早く懐に飛び込み、兵士を一本背負いで地面に叩きつける。
「ぎゃああッ!!」
「悪く思うなよ。しかし、ルパン一味相手に鍛えた足腰が役に立つとはな!」
「がくっ……」
「何かこっちの方で物音がしたが……」
「うおっ、いけねぇ……」
他の見張り兵のざわつく声が聞こえる。銭形は投げ飛ばして気絶した兵士を
物陰に引きずり込み、息を殺す。
一対一ならまだしも、複数で同時にかかって来られては流石の銭形も手に余る。
「おい、ゼクシオン様が裏切り者のカルデウスを連れて来られたぞ。
即刻処刑せよとのお達しだ」
「大司教第三位も地に落ちたものだ。さっさと牢にぶち込んでおけ!」
何やら別件が入り、兵たちは慌ただしく拠点内部へと戻っていった。
「処刑……? 随分と物騒な連中なようだな……話し合いは通じそうにもないか……」
辺りを見回すと、近くに通気口を見つけた。そのダクトは
拠点内部へと続いているようだ。
「うーむ、ICPOがこんなコソドロのような真似事をするとは情けない。
こんな狭い道も、ルパンを追いかけてる内に慣れちまったな……」
銭形はダクトの蓋を外し、慎重に中へと入り込んだ。
ダクトの中は狭く、金属の冷たい感触が全身に伝わってくる。僅かに漏れる光と
機械の低い振動音が、異様な緊張感を生み出していた。
「こりゃあ、気味の悪い場所だな……だが、この先に真相があるに違いねぇ」
銭形は這い進みながら、ダクト越しに見える風景を確認していく。
やがてダクトの終端に到達すると、教団の拠点内部に足を踏み入れる。
そこには巨大な装置があり、無数の管やパイプが放射状に広がっていた。
中央には奇妙な結晶体が浮かび、その周囲を信徒たちが忙しそうに行き来している。
銭形は物陰に身を隠しながら、その装置を観察した。
結晶体からは強烈なエネルギーが放たれており、それが管を通じて艦全体に
供給されているのが分かった。装置に接近し、隠れながらその構造を確認する。
近くで信徒たちが何かを話している声が耳に入った。
「地上世界への接続は順調だ。これでさらに多くの虚数潜航艦を地上に送り込めるだろう」
「創世の祭壇に安置された『女神』の力が完全に解放されれば、
我々メサイア教団による地上の救済も間近だ。あのCROSS HEROESとか言う奴らも
相手ではなくなる」
その言葉に銭形は息を呑んだ。
「メサイア教団……聞いた覚えがあるな。それに『女神』ってのは一体何なんだ?
それに、クロスヒーローズ……」
信徒たちの会話から、『創世の祭壇』と呼ばれる場所があり、
メサイア教団が地上侵攻を企む要の存在、『女神』が封じられているという。
銭形は聞き取った情報を記憶に刻み込み、さらに奥へ進むことを決意した。
狂気じみた表情を浮かべながら部下らしき者たちに怒鳴り散らしている。
「CROSS HEROESめ……いつまでも我々の計画を妨害するとは!」
男の叫び声が広間に響き渡る。部下たちは怯えた様子で頭を下げ、
彼の怒りをなだめようとしているが、なおも苛立ちを隠そうとしない。
「指輪の回収はどうなってる!? あれが無くしては女神完全解放にはほど遠い!」
その男――魅上は激しく机を叩きつけ、部下たちに冷酷な命令を下す。
「全兵力を使ってでも、CROSS HEROESを排除しろ!
我々の計画に障る者はすべて……抹消するのだ!」
物陰からその様子を見ていた銭形の額には冷や汗が滲んでいた。何より驚愕したのは、
その男がかつて発狂死したはずの魅上であるということだった。
「あれは確か、魅上照……奴は、死んだはずでは……?」
銭形は拳を握りしめながら、記憶を辿った。
魅上はキラ事件の関係者として地上で非道な行いを重ね、その末に精神を崩壊させて
命を落としたはずだった。
「どういうことだ……? 奴が生きていて、このメサイア教団とやらを指揮し、
女神とやらを目覚めさせようとしている……ええい、分からんことだらけだ……」
その答えを確かめる術はないが、魅上が教団の中枢に立つ人物であることは
疑いようもなかった。
「原初黎明を我らは見る その1」
「どうしたファルデウス!お前もいきなり!」
燕青たちが、突如第Ⅳ実験棟を抜け出したファルデウスを追いかける。
ファルデウスの顔は緊迫に満ち、その足は第Ⅴ実験棟に向かっている。
「教団が何をしようとしているかがわかったんです!キラの再現どころじゃない、彼らはそれ以上の悲劇を起こそうとしている!」
「キラの、再現!?」
「みんなと合流したらすべてを話します、今は急ぎましょう!」
◇
ゼクシオンとの最後の戦い。
影の疾風、魔の弾丸。
それらすべてを弾き裂く夢幻にも等しい攻撃群。
「相当焦っているんじゃないか?」
「だったら何だというんです?この彼我の距離、あなたの跳躍力や身体能力、魔力を以てしても届かない!」
ゼクシオンは高い位置から、地上のリク達へ魔術攻撃を仕掛けていた。
全ては確実に彼らを抹殺するためである。
仮にそこからさらに高い場所からのサンダガを放とうとしても、ゼクシオンはそれすら回避してしまう。
と、そこへ。
「!」
空高く魔弾の雨を降らせていたゼクシオンを攻撃した、自動小銃の弾丸。
撃ったのは、薄紫色の髪の探偵――霧切響子!
その瞳の昏き炎は消え失せている――!
「霧切!?助けに来たってのか!?」
意外な救援に、江ノ島は驚くが霧切本人はどこかそっけない。
「勘違いしないで、あなたにはまだまだ聞きたいことがいっぱ……って苗木君!?怪我は大丈夫なの!?」
友――苗木誠との思いがけない再会。
苗木はおぼつかない足取りで、霧切にいつもの笑顔を向けながら答えた。
「信じがたいと思うけど、江ノ島さんが助けてくれたんだ。」
「え……嘘。」
「本当だよ。今の江ノ島さんは、間違くなく僕らの味方だ。僕が保証する。」
霧切は信じがたいものを見るような顔で、江ノ島の方を向き直る。
江ノ島は振り返ることなく、ショットガンを撃ちながら答えた。
「……戻ったら全部話すし、謝ることは謝る。今はゼクシオンに集中して。」
ため息交じりに、されど笑顔で霧切は返した。
「それくらい当たり前。」
突然の相手方の増援に、追いつめられるゼクシオン。
しかし、ここで逃げるわけにはいかない。
「たかが一人増えた程度で……思いあがるな!」
激情にもにた魔力の流れ。
それは暗く澱んだ隕石となり、大地に降り注ぐ――!
「メテオミラージュ―――!!」
降り注ぐ隕石の幻影。
幻影でも魔力で編み上げられた隕石、その威力はちゃんとある。
邸の壁や天井、地面を破砕しながらすべてを押しつぶさんとする―――!
「くそ、本気でやけになってないか!?」
「ははははは!これで今度こそ最後です!」
勝利を確信したのか、ゼクシオンが高笑う。
地上から自分のいる位置までには相当の距離がある。
江ノ島邸の屋上から飛んでも届きやしない。
もはやゼクシオンはこのまま攻撃し続ければ、確実に抹殺できよう。
―――だが。
「ああそうかよ、だったら!」
制止も振りほどいて、リクが跳躍した。
「リク!」
幻影の隕石を足場にして、次々に高く高く飛び上がっていく。
「足場を用意してくれてありがとうな――――!」
「な……リク……!!」
「うおおおおお!!」
ゼクシオンは空中で連撃を受け、受け身が取れない。
魔術による地上への攻撃に集中していたが故、防御体制に切り替えるのも間に合わない。
地上の皆は隕石を回避ないし破壊している。
ちらりと見てみれば、致命傷を負っている様子もない。
ならば、ならば!
十全たる余裕をもって、お前にとどめを刺そう!
「これでとどめだ―――!!」
キーブレードを振り回して魔力を練り上げ―――追尾する弾幕として放つ!
是、即ち―――
「ギガ・インパクト!!」
数十本の光の矢が、ゼクシオンを追尾しながら攻撃する。
そして光は爆裂し、彼にとどめを刺した―――
「くそ、私は……また……!?」
レキシコンを弾き飛ばされ、極大級の魔術の反動によりゼクシオンは膝をついた。
もはや魔力切れ、ここで打ち止めである。
決着はついた。
もはやゼクシオンに抵抗の余地はない。
黒い靄に己の身を蝕まれながら、ゼクシオンはなおも続けた。
「いいえ、まだです……我らの真の目的はすでに起動している。」
「『女神』……。」
幻想郷で未来を幻視した月夜から聞いたメサイア教団の救世装置こと『女神』。
関係者から直接存在を言及されることで、その真実味が増すというもの。
「しかし……まさかここまで彼女の心が強いとは。なるほど……あの資料に書かれていたことは事実だった、と……。」
「どうしてそこまで江ノ島にこだわる!?」
ゼクシオンは不敵に答える。
「――彼女の正体が何なのか、考えたことがあるのですか?本当は、うすうす分かっているんじゃあないんですか?」
「何のことだ……!」
問い詰めようとするリクを制止して、江ノ島は答えた。
断罪法廷によって心を壊されそうになりながらも、己の答えを見つけた彼女。
その眼には一点の曇りもない。
燃え盛る決意こそが、今の己を突き動かしている。
「今のあたしは怪物でも罪人でもいい。その責務を背負う覚悟はできてる。これ以上、あたしの人生を侵すな。」
「ははは……では地下に行ってみればいい。」
「地下……。」
「あなたのルーツが、そこにある。」
そうしてゼクシオンは黒い靄に包まれて消滅していった。
転移による消滅ではない。それは、ノーバディが死んで消える時のそれと同じものであった。
「最後まで薄気味悪い奴だったな……。」
ゼクシオンは消えた。
残る大司教は4人。
だが今は、それを考慮している暇はない。
「行こう、地下だ。シャルルたちを待たせるわけにはいかない。」
「銭形警部の事件簿③置き忘れの謎たち、そしてパラガスの島」
天井裏に潜んでいた銭形は、不意に激しい爆発音を耳にした。
衝撃波が広間全体に響き渡り、警報が鳴り響く。
「ぬおおおおっ……!? 何だ、何だぁ!?」
「警報!? 何事だ!」
「魅上様! カルネウスが……!」
「それは知っている、逃亡してここで自爆したのだろう!
奴がここで何をしていたかの痕跡は分かるか!」
メサイア教団に反旗を翻したカルネウスは、ソロモンの指輪の内のひとつを
転送装置を使い、エジプトへと送り込んだ後、兵士たちもろとも自爆したのだ。
CROSS HEROESとメサイア教団、両方を混乱に陥れた大司教第三位の男は、
最後まで騒乱を引き起こした末に、散ったのだ。
「女神を破壊しようとしただけに飽き足らず、指輪まで……最後まで余計なことを……!
直ちに兵士の一部をエジプトに招集しろ!
CROSS HEROESや他の連中が動き出す前に!」
「は、ははっ……!!」
教団員たちが急いで動き出す。魅上はバリバリと頭を掻き毟っていた。
「あのハッタリばかりの無能者如きが!! どいつもこいつも……!!
くっそ、くそくそ、糞がああああああああああッ!!」
「魅上ィィィィィィィィッ!!」
「!?」
ひとりその場に残った魅上の前に、銭形が姿を現した。
「え……な、何だ、お前……」
「ICPOの銭形だ! 魅上照で間違いないな!?」
「ア、ICPO……?! 何だってそんなのがこの場所に……!!」
「じゃかぁしい、神妙にお縄につけい! こっちだってわけの分からん事続きで
頭が煮えくり返りそうなんだィ、取調室で洗いざらい聞かせてもらうぞ!!」
「だ、誰か、来い!! 侵入者だぞ!! 私を守れ!!!」
つい今しがた自らが指示を出したのも棚に上げ、魅上は誰にも届かぬ命令を飛ばす。
「観念せええええええい!!」
「う、うわああああああ!!」
突っ込んでくる銭形に、魅上は懐に忍ばせておいた拳銃を乱射する。
射線も照準もめちゃくちゃだった。しかし……
「あっ……!!」
魅上の放った最後の一発を避けようとした銭形が、持っていた護符を手放してしまう。
「い、いかん! あれは大切な……!!」
思わず、空中をひらひら漂う護符をダイビングキャッチ。
「ふいいいい、危ない、危な……あ、ありゃあああああ!?」
勢い余って、銭形は護符を真っ二つに破いてしまっていた。
カグヤに言われた言葉が脳裏をよぎる。
「た、確か、この護符を破ったら……」
『これがあれば虚数空間でも死ぬことはないし、
これを破れば、いつでも地上に戻れるから。安心して行ってきて』
「お、おわああああああああああっ……」
眩い光が銭形を包み込み、その姿は何処かへとかき消えてしまった。
「な、何だ、何が起こったんだ……」
キョロキョロと辺りを見回す魅上だったが、銭形はもう何処にもいなかった。
騒ぎを聞きつけ、入れ替わりに教団員がやって来る。
「魅上様、ご報告いたします、入口の見張り兵が草むらで気を失っているのを発見し……」
「馬鹿どもが!! 侵入者だ! この不可侵である筈の拠点に、
地上からの侵入者が入り込んでおったのだ!!」
「ええっ……!? その者も、ICPOの銭形を名乗る男に投げ飛ばされたと
話していて……」
「銭形……!! どうやってここに入り込んだ……女神は損傷、指輪は奪取、
挙げ句に侵入者……きえええええええええええええええええええッ!!」
ヒステリーを引き起こす魅上。気がつくと、銭形は砂浜に横たわっていた。
夕暮れの薄明かりの中、彼が立ち上がると、周囲には地上の光景が広がっていた。
「こ、ここは……わしは、戻ってこれたのか……」
晴れた空。白い雲。息もできる。自然に溢れた景色。波の音。ヤシの木の葉が
風に揺れている。何処かの無人島だろうか。
どれも存在しなかった世界にはなかったものだ。
「戻ってこれたのはいいが……女神とか、魅上の復活とか、置き忘れの謎が山積みだ……
だがこれで終わりじゃねえ」
銭形は空を見上げ、息をついた。ICPOの警部として、そして正義を信じる男として、
この異常な事件の真相を暴くまで彼の戦いは終わらない。
「ルパン……お前の追跡も大事だが、わしがこの事件の真相を突き止めてやる!」
「おや、気がついたのかね? 突然現れた時は驚いたよ」
仰向けの銭形が逆さまに見たその男は……あの港区での決戦以来
行方をくらましていたパラガスだった。
「腹が減っているのではないかね? 夕食でもいかがかな? ふふ……」
「おお、これはかたじけない。何処の誰かは存じませんが、救助、感謝いたしますぞ!」
パラガスの素性など知る術もなく、銭形はひとまず異境での潜入任務で
満身創痍となった身体を癒やすのであった……
「超大乱戦!地獄と化した杜王町!」
リビルドベース防衛線がモンスター達の乱入より混沌としていく一方、杜王町は既にミケーネ帝国、ジオン族竜王軍連合、そしてCROSSHEROESによる激しい三つ巴の戦いが繰り広げられていた!
「うぉりゃぁ!ボスボロットの力を思い知れぇ!」
ボス達が乗るボスボロットが両腕と両足を広げて身体を高速回転させ、滑りながら突撃しモンスターの軍団を蹴散らしていく。
「Zカッター!光子力ビーム!」
「ギャオオオオオオオオオン!?」
さやかの乗るビューナスAは戦闘獣の人面部分をZカッターで切り裂き、その傷口に向けて光子力ビームを発射して戦闘獣を撃破!
「メラ!」
「っ!?」
ローラ姫は巨大な火の玉を放ち戦闘獣の人面部分を燃やす
「アレク様!騎士ガンダム様!今です!」
「「ハァアアアアアアアアアッ!!」」
戦闘獣の焼けた人面部分をアレクと騎士ガンダムの勇者コンビの剣がXの字にぶった斬る!
「グォオオオオオオオオオ!?」
人面を焼かれさらに4等分に斬られた戦闘獣は爆散した。
「……ほう、別の世界の勇者もやるではないか」
「っ!」
アレク達3人の前に現れたのは、ミケーネの勇者ガラダブラ!
「ミケーネの勇者か…!」
「……ん?その盾は……」
ガラダブラはアレクの持っていたロトの盾に目をつける。
「……そうか、貴様はロトの……いいだろう。貴様にロトの盾を持つ資格があるかどうか、試してやる!」
「っ!来るぞ!」
ミケーネの勇者がアレフガルドの勇者とガンダム族の勇者に戦いを挑む!果たして勝つのはどちらなのか…!
一方その頃
「ここから先は、一匹足りとも通さねえ!」
仗助、康一、億泰らスタンド使いと甲児が乗るマジンガーZが避難した人達がいるエリアへと進行しようとするミケーネ帝国の軍勢とモンスター軍団を足止めしていた。
「ザ・ハンド!」
億泰は自身のスタンド『ザ・ハンド』の能力を使い、地面をガオンッ!っと削り取り、穴を開けることによって地面を這って移動するモンスターを次々と落としていく。
「エコーズ3FREEZE!」
「クレイジーダイヤモンド!」
空を飛ぶタイプのモンスターを始めとした、穴に落ちないモンスターや穴を乗り越えてくるモンスターなどは仗助と康一がそれぞれのスタンド能力を使って撃破していく。
「ルストハリケーン!ロケットパーンチ!ブレストファイヤー!」
甲児が乗るマジンガーZは戦闘獣やミケーネ神を1体ずつ着実に撃破していく。
だが…!
「くっ…!敵の数に対して撃破していくスピードが追いつかない…!」
「こっちもだぜ…!」
ミケーネ帝国もジオン族竜王軍連合も互いに潰し合ってくれているとはいえ、それでもどちらも数が凄まじく、いくら倒してもきりがないのである!
さらに、仗助達のスタンド能力は射程距離に上限があるため、射程距離外のモンスターの対処をするためには移動して近づく必要がありその分手間取ってしまう。
また甲児の乗るマジンガーZも、スーパーロボットの名にふさわしくどの武装も火力はあるものの、機械獣よりも丈夫な戦闘獣やミケーネ神を一度の攻撃で複数体まとめて撃破するのは難しく、攻撃1体ずつ着実に倒していく必要があるため、全て倒そうとすると必然と時間が掛かってしまうのだ。
「このままじゃ、町の皆が避難している避難所にこいつらが…!」
「っ!お、おい!なんだよあれ!?」
「どうした億泰?」
「なんか空から人みたいなのが降ってくるぞ!?」
「空から人が?億泰、いくらこんな状況だからってそんなことは……」
一同が空を見るとなんと本当に上空から複数の人影らしきものが降ってきているのである!
「えぇ!?」
「ほ、本当に人が降ってきてやがる…!?」
そして降ってきた人影が次々と杜王町の大地に勢いよく着地してゆき、そのたびに杜王町全体に大きな衝撃が走る…!
「うぉおおおっ!?」
「クッ…!な、なにがどうなって……って、アイツらまさか…!?」
「……グロロ…!」
「完璧超人…!」
そう…!CROSSHEROES、ミケーネ帝国、そしてジオン族竜王軍連合による三つ巴の戦いの戦場と化した杜王町に降り立った者たち、
それはストロング・ザ・武道率いる完璧超人軍団であった…!!
「原初黎明を我らは見る その2」
江ノ島邸 書斎
「……そうか、カルネウスは。」
「ああ、すまない。」
ゼクシオンには勝利したものの、カルネウスは連れ去られてしまった。
その後でかにが起きたのかを彼らは知らないが、それでも。
それでも、その一点を見ればある意味での敗北。
「だが、いつまでも下を向いているわけにもいかないだろ。」
「そうだけど……もう少し、話したかったなって。」
「……それはそうと、霧切はどうした?」
そういえば、と周囲を見ると霧切の姿がない。
どこかに行ったのだろうか?
「霧切さんならさっき、ファルデウスって人のところへ戻るって。」
と言いながら書斎に入ってきた苗木誠。
「そう。で、何であんたがここに?」
「江ノ島さんがここで何をしに来たのか、見てきてくれって霧切さんに頼まれて。」
一時の共闘、一時の和解をしたとはいえ、それでも不信感はぬぐえない。
故に霧切響子は彼に監視を頼んだ、ということなのだろう。
「そうか、じゃあ江ノ島の後ろ、デミックスの前にいてくれ。デミックス、後ろは任せた。」
「了解!」
◇
書斎の地下螺旋階段は非常に深く、どこまで続いているのかは全く分からない。
電灯の類はなく、どこからか持ってきた懐中電灯だけが頼りだ。
電池にはまだ余裕がある。亡霊の類はいない。
非常に暗いこと以外は何一つ恐れるものはない。
「どこまで続いているんだ……?」
「今は地下、4階あたりか?」
「えっと……これ、ゴーグルで見たところ地下10階まであるみたいだよ?」
「マジ?」
「マジ。」
設計者は何を恐れて、地下10階クラスの位置にこんな隠し部屋を作っているのだろう。
地下ジャバウォック島を含めても、これではバンカーバスターの類も決して通さない。
そんな地下シェルターもかくやな部屋めがけて、彼らは無限に降りてゆく。
「……階段はここで終わり、か。」
「着いたな。」
最深部には、鉄製の扉が一つ。
その奥からは、赤く薄い光が漏れ出ていて明らかに不穏を煽っている。
一体、この先に何があるというのか?
ここまでして隠したかった/守りたかったものとは?
「開くか?」
「……ああ、鍵はかかってない。開く。」
そうして、江ノ島はそのドアノブを回して、ゆっくりとドアを押し開く。
ぎしぎしと鉄を軋ませながら、ドアは回り開いてゆく。
恐怖と緊張を持ったまま、江ノ島はドアを開けて―――
「……なにこれ。」
眼前の光景に、愕然とした。
「これって……なんだ?」
「透明なカプセルが、2つ……?」
リクとシャルルマーニュは、この光景とそこに隠された真実を知った時、激しい憤りを覚えた。こんなことがあっていいものか、と。黒幕に対する義憤の念を抱いた。
「ねえ、これ……絶対やばい奴だよね?」
デミックスはひたすらに混乱していた。
訳が分からない、なんてものじゃない。
いくら心無いノーバディだからって、これは「ありえない」ものだ。それは分かる。
人道もクソもあるものか。
◇
そこは、研究所だった。
目の前にある巨大なガラス板の手前に、10個くらいの機械装置が今も稼働している。
モニターには「Vitality」「Temp」「MODE:Coldmove」「PROJECT-MARY-SuE」といった文章が書かれている。
一行の目を引いたのが、これ見よがしに配置されたガラスの仕切り。
その奥には無数のケーブルにつなげられ、緑色の何かがこびりついたカプセルがある。
中には何も収められていない。だが、状況証拠は間違いなく「このカプセルに何かを収めていた」ということを伝えていた。
「…………培養槽、か。」
一行はその異常な光景に圧倒されつつも、中に入ってゆく。
そのうち彼らは光景に慣れ、周りの調査を始めた。
謎の研究室、
「書類か。」
「なになに……は?」
この研究所で何が行われていたのかを、シャルルマーニュは知ってしまった。
凄まじき嫌悪感。
吐き気を催す邪悪とはまさにこのことかと思い知らされる。
「書いていることは子供たち拉致して拷問……人の心がないのか!?拷問を終えて死んだ子供たちは焼却処分、拷問の果てにデータを徴収した子供たちも口封じの為に『破棄』せよ、か。典型的な魔術師でももっとマシだぞ……!?」
「知能限界を引き出すために子供たちの記憶を一度電気ショックで抹消、その後子供たちに中高、大学や専門のプロ知識を叩きこませ、うまく行かなければ処刑も辞さない……ひどいな。」
続いて苗木も怒りを覚える。
「ホムンクルス……兄弟が変異した特異個体、マクスウェル・メイガス……あれってそういうことか……。」
リクは納得していた。
地上に封印されていた謎の怪物「マクスウェル・メイガス」と「シュレディンガー・ビースト」。
彼らはもともと無垢な子供たち、ないしはホムンクルスであった。
だが、凄惨な拷問と魔術回路の無茶な移植により肉体レベルで変質、自我なき怪物と化してしまった。
「てことは……っ……頭が痛くなってくる……!!」
シャルル遊撃隊、その後遅れてやって来たSPM、流星旅団の分隊。
彼らがこの光景と記録を見て思うことはすべて一つだった。
「キラ教団、否!現・メサイア教団!断じて許すまじ!」
凄惨極まる、神生む地獄。
心無い怪物の温床、それが地下ジャバウォック島の正体であった。
そんな残酷な書類の中にただ一つ鎮座された、一枚の白い封筒。
黄ばんでいてかび臭く、年代を感じさせる。
江ノ島はそれを手に取って、その筆者の名を見て、彼女は別の意味で驚愕した。
「ちょっと待って。これ……パパの手紙だ。」
「黄金色の伝説③昏き闇にも尽きぬ輝き」
――レジェンドの世界。
仮面ライダーレジェンドとツーカイザーの激闘を見守っていた
謎の影が不気味な笑みを浮かべる。その男は黒いマントを纏い、顔を覆っていた。
「界賊も仮面ライダーも揃っているとは好都合。まずは……」
「うわっ、何だお前!?」
その瞬間、気配もなく背後に回り込んだ彼は、観戦していたゾックスの妹である
フリントの首元に黒いナイフを当てていた。冷たく光る刃先……
「フリント!?」
ゾックスの叫びが戦場に響く。即座に振り返り、フリントの姿を確認すると
そこにいた男に敵意を剥き出しにした。
「貴様……何者だ!」
レジェンドの問いかけに対し、
「動くな。さもなくばこの妹の命、どうなるか分からぬぞ?」
その声は冷たく、淡々としていながらも底知れぬ悪意が含まれている。
ナイフを持つ手が微かに動き、フリントが小さく悲鳴を上げる。
「やめろ!」
ゾックスは歯軋りしながらも動けない。普段ならば敵に臆することはないが
目の前で妹を人質に取られては何もできない。フリントを傷つけさせるわけには
いかないのだ。
「卑怯な手を!」
「強者が弱者を利用するのは、この世の常だろう。それに界賊と名乗る君たちも
奪うことで生きてきたのではないか?」
その言葉にゾックスは拳を握り締めた。確かに界賊を名乗る彼らは必要なものを
奪い取ることで生き抜いてきた。だが、それは決して弱者を犠牲にするものではなかった。妹や家族を守るためにやってきたのだ。
「だとしても妹を傷つける奴は許さねえ!」
「さあ、妹の命が惜しくば、その力を私に……」
男が言葉を続けようとしたその時、遠くから一筋の金色の閃光が射抜いた。
「むっ……」
レジェンドが、ナイフを精密射撃で弾き飛ばしたのだ。
「このッ!!」
フリントは謎の男のみぞおちに肘鉄を打ち込み、囚われの手から脱出。
「お前は妹を守れ」
レジェンドの冷静な指示に、ゾックスは迷いもなく頷いた。
「フリント、無事か?」
「アニキ……ごめん、油断しちまった!」
妹を抱き寄せ、再び謎の男を睨みつけるゾックス。
「人質を取って脅迫か。まったくゴージャスではないな。それはカグヤ様がこの世で
最も軽蔑する醜い行いだ」
「ふふふ……」
男の隠された素顔が露わになる。
「貴様、ハンドレッドの手の者か。それとも……」
「我が名はネブラークス……世界を司るオーバーテクノロジーを収集し我らが
渾沌結社グランドクロスの糧とする……」
「グランドクロスだァ?」
戦場の中心に立つネブラークスは、巨大な斧を構えた。
その力は周囲の空間を歪ませ、次元そのものを飲み込もうとしている。
ツーカイザーとレジェンドは一瞬視線を交わし、即座にそれぞれの戦闘態勢を整えた。
「妹を助けてもらった借りは返す!」
「カグヤ様の信条に従ったまでの事だ。気にするな。それに、あの男は世界を乱す。
許しておくわけには行かない」
「仮面ライダーとスーパー戦隊の力……貴様らを葬ればそれらが一気に手に入る!」
ネブラークスが斧を振り下ろすと、黒紫の斬撃波が地を裂きながら
二人を襲った。その波動は空間に無数の裂け目を作り出し、周囲の景色を変えてしまう。
「けっ、派手にやりやがる!」
レジェンドはレジェンドマグナムを両手で構え、ネブラ―クスに向かって
光弾を撃ち込み、金色のエネルギーが黒紫の波動を貫く。が、飛び散った波動が
人の姿を成し、ネブラ―クスの分身体を生み出す。
「これ以上好きにさせるか……あいつを直接叩くしかない!」
レジェンドはゾックスに向けて叫ぶと、ネブラークス本体を目標に定め
次々に射撃を放つ。精密な射撃が分身体を爆破し、戦場に火花を散らす。
ゾックスはギアダリンガーを高速回転させ、新たな力を解放した。
「界賊の本気、見せてやる! リッキー! お前の力借りるぜ!!」
「おう!」
【回せー! オォォォレンジャァァァッ!!」
(オーレ! オーレ! オーレ!)
【ヨーソロー! チョーリキにレボリュゥゥゥゥション!!】
「熱血超力! オーレンフォームだ!!」」
弟・リッキーと一体化し、「超力戦隊オーレンジャー」を宿した
ツーカイザーのスーツが新たな色合いを帯び、俊敏な動きがさらに際立つ。
ゾックスは次元の裂け目を跳ね回りながら、ネブラ―クスへと向かっていく。
「お前の小細工なんざ、俺には通じねえ! ゥアタタタァッ!!」
ゾックスはネブラークス本体に接近し、徒手空拳を連打する。
行く手を阻む分身体を一撃粉砕。その動きはまるでダンサーのように
流麗でありながら鋭い。が、ネブラークスは分身が倒されるたびにその残滓を取り込んで
新たなエネルギーとして吸収し、斧に溜め込む。
「無駄だ。分身を倒しても、この力が私を守る!」
斧を地面に突き立て、そこから黒紫のエネルギー波を発生させた。
その波動は周囲の空間を飲み込み、ツーカイザーとレジェンドの動きを封じようとする。
「闇に飲み込まれればどんな輝きも無意味と知るが良い……!」
レジェンドは波動に飲まれかけながらも、レジェンドライバーにカードを装填した。
「甘いな。真のゴージャスな輝きはどんな闇の中であっても絶える事は無い……
これで終わりだ!」
【GORGEOUS ATTACK RIDE LE-LE-LE LEGEND!】
「チマチマ分身を増やしやがるんなら、まとめて全部ぶっ潰してやる!!」
ツーカイザーもまた、ガンモード状態のギアダリンガーの舵輪型ハンドル部分を
複数回し、トリガーを押すとエネルギー体のピラミッドがネブラ―クスと分身体を包囲。
さらに上空にワームホールを作り出し、拳型の巨大エネルギー体を発生させる。
「超力スターナックル! はあああああッ!!」
「ゴージャスに…散れっ!」
ツーカイザーの怒りの鉄拳が上空からネブラ―クスを分身体諸共押し潰し、
ひとつに集約した所にレジェンドのライダーキックが炸裂した。
「ぐぉああああッ!!」
崩れゆくネブラークスは、最後にかすかな笑みを浮かべて呟いた。
「闇の中にあっても尽きぬ星と黄金の輝き……か……」
彼の身体は次元の裂け目と共に消え去り、黒紫の霧も完全に消失した。
「へっ、喧嘩を売る相手を間違えたようだな……」
ゾックスは肩で息をしながら空を見上げた。そして……
「世界を救ってもらった報酬だ、受け取るが良い」
カグヤはバトラーに用意させた宝石が詰め込まれた宝箱を
ゴールドツイカー一家へを渡す。
「うおーッ、すっげ!」
フリントやリッキー、カッタナ―たちが目の色を変えて殺到。
「お宝は確かに受け取った。妹を救ってくれた礼に、この世界からは引き上げてやるよ。
あのグランドクロスとか言うふざけた野郎共の事も気になるしな……」
こうして、仮面ライダーとスーパー戦隊の激突から始まった戦いは幕を閉じた。
しかし、グランドクロスの魔の手は、今もその範囲を拡大させ続けているのだ。
「遺された破神計画」
「江ノ島さん。」
「ファルデウス、それは?」
遅れてやって来たファルデウスの手に持っていたのは、数個の資料。
「女神計画の記録と『未来機関』の資料です。」
苦々しい顔で、彼はつづけた。
言いたくもない真実を言うかのように。
好きでもないジャンルの映画を見させられた時のような表情で。
未来機関が残した資料の内容は、概ねはファルデウスが読んだものと大差変わりなかった。
ただその資料は、尚のこと計画の記録の信ぴょう性を高める証拠品となる。
「結論から言ってしまえば、あなたの母親は最初からあなたを……」
「女神を生むための道具としか考えていなかった、だろ?」
「はい。それも彼女は世界平和とか人類救済とかではなく……教団内での権力を得るために。虎の威を借る狐ですよこれじゃ。」
「けっ。おおよそ女神作ったという名誉によって権力を得て、女神の力で教団トップ層を鏖殺。自らが教団トップになった段階で地上に進撃、いや『地球の掃除』と言いましょうか。そうして『美しくなった世界』の頂点について自分は新世界の神として君臨する。彼女自身の目的はそんなところだろ。」
当然、これは江ノ島の邪推の域を越えない。
だが記録資料からも、母親の歪んだ性格が垣間見える。
「それは、手紙ですか?」
江ノ島の手には、さっきから一枚の古ぼけた手紙が握られていた。
どこかかび臭い、黄ばんだテープの古い手紙が。
それだけならばそのあたりの資料と何ら変わらないが。
「ちょっと待って、中に何か入っている……?」
外側から触ってみると奥に、硬い金属のようなものが入っている。
輪っか状の硬い何か。
封筒を傾けて、それを取り出した。
「これって。」
丸く、真円よりも円い黄金の指環。
それはほんのりと、あたたかな力を感じさせる。
間違いない。自分たちはこれが何なのかを識っている―――。
「ソロモンの指輪……でも、なんでここに?」
「手紙に、理由でも書いてないか?」
江ノ島はその言葉を受けて、封筒の中の手紙を取り出し読み始めた。
その内容は、筆者であろう江ノ島の父の、娘たちと世界への謝罪から始まった。
そこには、キラ教団――現在のメサイア教団と自分の妻、即ち江ノ島盾子の母親が主導となって女神を生み出す計画が行われていたこと、自分の弱さと不甲斐なさゆえにこの狂気に満ちた計画を止められなかった事への懺悔、娘たちへの「私たちの事なんか忘れて、幸せに生きてほしい」という心からの願い。
『万が一、私たちのしている事が今も続いているという事実に憤りを覚え、止めたいと心の底から願うのならば、この『ソロモンの指輪』がきっと役に立つだろう。この指輪を以て女神に干渉すれば、その力を抑えることも解放することも可能だ。複数個あることは把握してある。1個でも、何かしらのエネルギーを注ぎ込むことができれば上記の効果を得ることが出来よう。』
「……あいつの言う通りじゃん。」
トラオムから帰還した時にヤング・モリアーティに言われた言葉。
『ソロモンの指輪を集めよ』『指輪を壊してはならない』という2つの言葉が、今になって意味を成し、深く咀嚼し得るものとなる。
『教団の本拠地は「存在しなかった世界」という場所にある。そこへ行くための方法は私には分からない。だが、女神がこの世界に顕現すれば、この指輪の力を以っての迎撃・破壊が可能だ。私はこの計画そのものを止めることはできなかった。だが、それでも娘たちの幸福とこの世界の平和のために、何かがしたかった。私はもうすぐ殺される。故に未来、この手紙を読む者たちならびに未来機関の者たちに私の「破神計画」を託すものとする。どうか教団の狂気を止めてくれ――。』
手紙を読み終えた一同は、ただ沈黙していた。
江ノ島は今にも泣きそうな顔でうつむいている。
特に彼女を大いに曇らせたのが、彼女の歪んだ絶望への執心が、禁忌の技術である受精卵ゲノム編集による性格異常と女神計画の実験記録のインストールによる精神異常化の助長による代物。即ち教団の望む「女神」の性格にするための下ごしらえによるものだった事。
本来ならば正常に執り行われるはずだったコロシアイ学園生活。その正体が自分の嗜虐心を満たすための道楽などではなく、ここで執り行われていた実験プログラム「才能強制覚醒/献上プログラム」を国単位で行うためにメサイア教団が行った最終試験であったこと。(”無事”終わればこのプログラムを全世界で行う予定だった事も書かれていた。)
「そうか、お前の父さんは最後まで案じていたんだな。」
「……そうだったんだ。私は――――。」
過去の自分が情けなくなる。
絶望という名の狂奔に走り、己を傷つけ他人を傷つける快楽に溺れた。
やがては自分を破滅させる事も知らず。
それが――親たちによって作られた役割だった事実にも気づかず。
何が超高校級の絶望だ、ただその役割に縛られた――狗だ。
「……ふざけんなよ。」
小さい言葉でつぶやいた。
霧切はその様子を見て、何かを察したのか煽るように言う。
「悔しいの?」
「悔しい、というより絶望的にむかついている。もしあたしの意志ですべてをやったのならば自業自得で片付く。でも聞いた?ゲノム編集だか実験だか知らないけど、さ。これじゃあたしピエロじゃん。馬鹿にされてるじゃん。」
「あたしは決めたよ。あんな奴らの言いなりになるくらいだったら――神様だって殺してやる。絶望だって笑って踏みにじってやる。」
もう覚悟は決めている。
掲げた覚悟と心中するのは。
「だから、みんな手伝ってほしい。あたしたち家族の禍根を断つのを、助けてほしいんだ……!」
改めて、頭を下げる。
なんて言われてもいい。
この場で追放されても、ないしは殺されてもいい覚悟だ。
皆は―――。
「顔を上げてください。僕たちはあなたを責めようとか殺そうとかは微塵も思っていない。」
それでも優しく、迎え入れてくれた。
「世のため人のために戦うのが俺たちだろ?その中には俺たちも、そしてお前も含まれていなきゃ、ダメだろ。」
「あなたの覚悟は私にも伝わったわ。口先だけの人間になったらその時こそはあなたを許さないから。」
厳しいことを言ってくる人もいた。
安心しろシャルルマーニュ、霧切響子。
「この私様は往生際の悪さは天下一品だ。口だけの人間にらならねぇよ。」
「いつもの調子に戻って来たね。」
――さぁ、ここからだ。
「死者と生者と」
セラフィータを求め、CROSS HEROESから離脱したヒートとゲイル。
冷たい風が大地を吹き抜け、乾いた砂埃を巻き上げていた。
広がるのは、まるで巨大な拳で地表を叩きつけたかのようなクレーター。
その中心には、焼け焦げた地面と、未だ消えぬ残り火が燻っていた。
ヒートはその場に立ち尽くし、険しい表情でクレーターを見下ろしていた。
普段なら飾らない言葉で周囲を軽くあしらう彼だが、この光景の前では
言葉を失っているようだった。
「マジかよ……」
「ここが……ジェナの言ってた場所、か」
ぽつりと呟いたゲイルの声が風に掻き消される。
横に立つゲイルは、冷静そのものだった。ポケットから取り出した端末を操作しながら、足元の砂を蹴り、座標を確認する。画面に映る場所は確かにここを指していた。
しかし、そこにあるべきものは何もなく、ただ無残に壊れた風景が広がるばかりだった。
「間違いない。ここだ」
ゲイルの声は冷たい。だが、その奥には鋭い警戒心が宿っていた。彼は一歩進むと、
クレーターの中心へと視線を送った。ヒートは拳を握りしめる。
その目は、怒りと焦りで曇っていた。
「なんだよ、これ……こんな場所で何があったってんだ? それとも、
やっぱりジェナの奴、俺達に偽の情報を与えたんじゃねえのか?」
歯を食いしばる音が聞こえた。ゲイルは無言のまま、慎重にクレーターの縁を
歩き回った。視線は焼け焦げた地面に固定されている。やがて彼は屈み込み、
そこに広がる異様な光景に目の当たりにした。
「これは……」
低く呟いた声には、明確な違和感が滲んでいた。
「なんだ、ゲイル? 何か見つけたのか?」
ヒートが駆け寄ると、ゲイルが指差した先には、奇怪な植物の蔦。
そして、蔦に絡まれ干からびたミイラのようになった遺体があちこちに散乱している。
「こいつぁひでえ……この蔦みたいなのに養分を吸われちまった連中か……」
「遺体の損傷が酷い。何かの攻撃を受けて建物が丸ごと破壊され……
一人残らず殺された後に、と言う所だろう」
ゲイルがそう断言する。その声は冷静を装っていたが、どこか緊張感を帯びていた。
ヒートの言葉に怒気が込められる。彼の拳が震えた。
ゲイルは頷きながら、慎重に模様を指でなぞる。
「恐らく、ここまで完膚無きまでに破壊されると言う事は、よほど大量の銃火器を
叩き込まれたようだ。軍隊のようなものか、或いは……」
言葉を切った彼が爆心地の中心部を指差す。そこには人ではない遺体が残されていた。
ヒートの目が見開かれる。
「まさか……セラじゃねえだろうな!?」
ゲイルは首を横に振った。
「いや、恐らくは違う。これは人間のものじゃない。悪魔だろう。つまり、
ここで人間の他に、悪魔との戦闘もあった……」
その言葉を聞いたヒートの胸の内に、熱い怒りと焦燥感が込み上げてきた。
「くそっ! 一体何がどうなってやがるんだ……! ホントにここにセラはいたのか!?」
ゲイルは立ち上がり、ヒートの肩に手を置いた。冷静な声が響く。
「落ち着け。彼女がここにいたと言う確証はない。ジェナに偽の情報をかまされた
可能性もある。だが、悪魔が絡んでいるとなれば、まったくの無関係と切り捨てる事も
出来ん。ともかく、この辺りを調べれば何かしらの手がかりが見つかるはずだ」
ヒートは一瞬その場に立ち尽くしたが、やがて力強く頷いた。
「……分かったよ。どこへでも行く。必ず見つけてやるさ」
ゲイルもまた静かに頷くと、端末を再び手に取った。
その冷静な態度の裏で、彼もまた、彼女を救うための強い決意を秘めていた。
「CROSS HEROESに報告しておこう……」
――村正の山。
ゲイルとヒートの捜索が始まった頃。
高山の冷たい空気が、薄く曇った空の下を流れていた。
険しい山道を、セラフィータと五ェ門が一歩一歩慎重に降りていく。
その道のりは決して平坦ではなく、時折崩れかけた岩肌や急な下り坂に
足を取られそうになる。先を歩く五ェ門の腰元には、修復された斬鉄剣が差されていた。
(斬鉄剣は完全に蘇った。村正殿の技は見事だ)
彼の足取りは安定しており、山の険しさを物ともしていない。
「……成程。悪魔の襲撃を受けたそなたは、命からがら逃れたと言う訳か」
五ェ門は振り返ることなくセラフィータの話に短く答えた。
「そこにいた人たちは、とても良くしてくれた。私みたいに、素性も分からない者にも……
でも、突然爆発が起こって、人間の姿に化けた悪魔も現れて……それなのに、あの人達は
私を密かに逃がしてくれた……あなたや村正って人もそう。
結局、私を狙う悪魔との戦いに巻き込んでしまった……」
セラフィータは確かに、ジェナが示した場所にいた。
しかし、彼女の想いとは裏腹に戦いは安らぎの時を与えてはくれない。
「私は一体、どうしたら……」
セラフィータの声は、静かな山の風に掻き消されるほど小さく弱々しかった。
その背中には深い悲しみと、自らが災厄を招いたのではないかという責任感が滲んでいた。
五ェ門はしばらく無言で歩き続けた。足元の岩が小さな音を立てるたびに、
その鋭い視線が辺りを警戒しているのが分かる。やがて、彼は立ち止まり、振り返った。
「だが、お主はまだ生きている。生きている者だからこそ、出来る事もあろう。
それを放棄する事こそ、亡くなった者たちも浮かばれぬと言うもの」
――パラガスの島。
夜の静寂が、波の音と焚き火のぱちぱちという音だけに包まれていた。
星明かりが薄く海を照らし、冷たい潮風が肌を撫でる。
島の片隅、荒野にひっそりと腰を下ろした二人の男がいた。
一人は、皺が深く刻まれた隻眼に悲壮感を漂わせた壮年の男、パラガス。
もう一人は、くたびれたコートを羽織った中年の男、銭形警部だった。
「……見てみろ、この肉の焼き加減。丁度いいだろう? 食うが良い」
パラガスが串に刺した肉を焚き火の炎から引き上げながら銭形に差し出す。
「生きている内は、飯を食わねばならん。それだけの話だ」
その目もまた、どこか疲れ切った光を宿していた。
「……だが、食っても埋まらんものもある」
パラガスがそう呟くと、焚き火の音だけが会話の隙間を埋めた。
「埋まらんもの、か」
銭形は口を拭い、静かに続きを促すように焚き火を見つめた。
「……俺には息子がいた」
パラガスの声が震えた。炎に照らされた横顔は、深い後悔と悲しみが刻まれている。
銭形は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに黙って聞く姿勢を取った。
「力のある奴だった。そして、強すぎた。俺はあいつを道具としてしか考えていなかった」
パラガスの拳が膝の上でぎゅっと握り締められる。焚き火の明かりが
その手の震えを浮かび上がらせた。
「……死んじまったのか?」
銭形が低い声で尋ねる。
「ああ……俺のせいでな」
パラガスの声がますます低くなり、風の音に紛れるほどだった。
「脱出~ESCAPE ACTION~ 前編」
深淵の実験室を出て、階段を上がってゆく。
暗闇の階段を、蜘蛛の糸を手繰る罪人のように上ってゆく。
鞄に抱えるは真実の数々。そして父親が遺した最後の希望――ソロモンの指輪。
「ところで、今何時?」
「地上は午後4時ごろです。そろそろ日が暮れる。」
――地下に居続けた故に、時間の感覚が薄れ始めてきた。
空が今青いのか、黒いのかすら分かっていなかった。
もうそろそろ刻限にして門限。
早く帰らなければ、どうなるのかが分からない。
「早く脱出しましょう。夜に襲撃なんて受けたら……さすがに。」
「このメンツなら抵抗できなくもないけどね。」
「教団の頭数は非常に多い。囲われたら俺達でもやられる。」
「袋たたきにされて肉片も残らず全滅なんて笑い話にもならないでしょ。」
そんな話をしながら、地上へと戻る。
その眼前に広がるのは、違和感しかない光景だった。
「兵士がいない。一人も。」
兵士の姿が、影も形もない。
どこにも、周囲をさまよい調査していた兵士の軍団がいなかったのだ。
「また、あの異形の怪物?」
「いや……それにしては気配がなさすぎる。不気味だ。」
生命体の影が、自分たちを含めて何一つない。
だが、それはおかしい。おかしいのだが。
「……あ。そうか。」
澄明さを取り戻した霧切は、その違和感の正体を看破した。
「あいつら、私たちがごたごたしている間に撤退したんだ。」
地下ジャバウォック島からの撤退。
冷静に考えれば、それしか考えられない。
思い返せば、彼らの姿はマクスウェル・メイガス戦を境にだんだん少なくなっていった。
何回か交戦はした。
だが、それでもその人数は少なくなっていった。
「だとしたら、何のために……。」
ただ、人工の海がさざめく音だけが響くこの地下。
嫌な予感が、彼ら彼女らの皮膚を突き刺していく。
「ここは地下で、連中は兵士で……周囲にはヘリコプターも戦闘機もあった。」
「戦闘機……地下……まさか!」
その答え合わせは、無慈悲に襲い掛かった。
天が揺れる音と共に、彼らの計画が始動する。
◇
数分前のジャバウォック島 地上層
「ビショップ様、兵士の地下撤退が完了いたしました。」
『よし、至急船に戻れ!』
兵士たちは一斉に撤退する。
何もなかったことが分かったからではない。
敗走でもない。
目的はただ一つ。
「こちらルーク-B13、ルーク-B部隊は全員避難いたしました。残りはナイト-W部隊、ポーン12「炎の翼」部隊。爆撃機はいつでも飛ばせます。」
『よし。――同志ゼクシオンがやられ、叛逆者カルネウスを捕獲し、この地に用が無くなった今こそがチャンス。ぬか喜びしている連中をまとめて葬り去るにはちょうどいい。撤退が済み次第、即刻奴らを生き埋めにせよ!地表貫通爆弾を落としてやれ!』
「了解しました。総員撤退!船に戻り次第爆撃機を出せ!」
この島ごと、シャルル遊撃隊とSPMを葬り去ること。
「もし生きて出てきた場合はいかがいたしますか?」
『その時はお前たちが虫の息となった連中を袋たたきにしてやれ!方法は問わん!』
「なるほど、さながら七面鳥撃ちって事ですな!」
「七面鳥撃ちにしてはオーバーキルもいいところですが!はっはっは!」
『そうだ!どのみち奴らがこの島を出ることはない!同胞・同志の仇を打つには絶好の機会、存分にやれ!!』
◇
地上でジャバウォック島の蹂躙爆撃が計画されていたことなぞつゆ知らなかった。
おそらくは、カルネウスの確保を終わらせてゼクシオンが江ノ島を連れ去ったら、そのまま爆撃を行いすべてを消し去るつもりだったのだろう。
「ここごと沈める気か!?」
今はまだ大丈夫だが、このまま爆撃が進み、この天蓋も砕け、爆弾がここで炸裂しようものなら間違いなく大けがじゃ済まない。
おそらく数名は確実に死ぬ。
それだけじゃない。
頑張って地上に出てきても爆撃は止まないし、のこのこ出てくれば海からの砲撃銃撃で袋たたきにされてしまう。
「エレベーターが!」
爆撃の衝撃で、エレベーターのパイプが根元から折れてしまった。
これでは地上に戻れない。
「これじゃあ戻れない……どうする……!」
ここは地下深いエリア。
唯一と思われていた脱出路を封じられた今、もはや彼らに地上へと戻るすべはない。
このまま生き埋めにされるのが先か、爆撃に飲まれ絶命するのが先か。
万事休すだ。
「……こういうときって、大体緊急用の脱出路とかってありそうなものだろうけども。」
「あたしに聞くなよ。ここにいたときの事、いまいち覚えてねーんだから。」
霧切の言っている事には一理ある。
映画、現実を問わず、地下の巨大施設には必ず緊急事態に備えた避難通路というものがある。
災害や戦争で正規の脱出路を封じられたとき、最終手段として緊急用脱出路がどこかにはあるもの。
だが、江ノ島が知る由はない。
なにせ彼女は、物心ついた時にはここにはいなかったのだから。
もし知っている者がいるならば、それはすでに死んでいる彼女の両親くらいか―――。
「ん……?こっちだ、第Ⅱ実験棟の奥に何かある!洞窟かな……もしかしたら!」
その道を発見できるゴーグルを持った、デミックスくらいのものか。
「デンデの待つ天界へ! ドラゴンボールの行方は何処に!?/療養の黒江」
アマルガム決戦の傷跡を引きずりながら、天津飯とヤムチャは
天界、デンデの神殿に運び込まれた。
負傷した二人の顔には疲労の色が濃く、今にも意識を失いそうな様子だった。
「お待ちしていました、皆さん……!!」
神殿の広間では、デンデが待ち受けていた。
その背後には付き人のミスター・ポポが控え、静かに見守っている。
「ふたりとも、随分、派手にやられた。間に合ってよかった」
「天津飯さん、ヤムチャさん、大丈夫ですか?」
デンデが優しく声をかける。
天津飯はうめき声を上げながら、片手で体を支えた。
「す、すまないな……世話をかける……」
ヤムチャが苦笑いを浮かべる。
「我ながら情けねえぜ……」
クリリンが二人に駆け寄り、その状態を確認する。
「仙豆を切らしちまっててさ……頼むよ、デンデ」
デンデは静かに頷き、二人に近づく。
「もちろんです。僕に出来ることはこれくらいのものですから……」
デンデが手を広げ、緑色の光を放つ。
その光は穏やかに天津飯とヤムチャを包み込み、彼らの傷口を癒していく。
「すごい……!」
チャオズが驚いた声を上げる。
「天さんの傷がみるみる治ってる!」
「何度見てもすごいよな……デンデの力には本当に助けられるよ」
クリリン自身、ナメック星での戦いで瀕死の重傷を負った時もデンデに
救われた経験がある。
「ふう……」
アスラ・ザ・デッドエンドによる人体破壊の力で受けた
天津飯の内蔵損傷が消え、ヤムチャの肋骨の痛みも完全になくなった。
二人はゆっくりと身体を起こし、拳を握りしめて感触を確かめた。
「これで……また戦える」
天津飯が静かに呟いた。ヤムチャは笑みを浮かべながら、デンデに向き直る。
「ありがとな、デンデ。この恩は忘れないよ。」
デンデは微笑みながら首を振った。
「礼には及びません。皆さんが戦えることが、この世界を守る力になりますから」
完全に回復した二人を見て、クリリンとチャオズも安堵の笑顔を浮かべた。
「天さん、良かった。でも無理はしないでね」
チャオズが心配そうに言った。
「でも…また一緒に戦えるのが嬉しい!」
天津飯はチャオズの頭に手を置き、穏やかに頷く。
「ああ、無理はしない……と言えば嘘になる。全力は尽くすさ」
「けど、俺達の力が何処まで通用するやら……」
激しさを増す一方の戦い。現に、ミケーネ帝国やアスラ・ザ・デッドエンドのような
強敵はこれからも現れるだろう。その時、自分たちに出来ることはなにか……
一同を沈黙が包む。
「ところでさ……デンデ。ドラゴンボールが何処かに消えちまったって……ホントか?」
ブルマからもたらされた、ドラゴンボール消失事件。
デンデならば、地上で起きた真相に天界から見ていたのではないか?
クリリンの問いに、デンデは……
「恐らく……レッドリボン軍が関わっている事までは突き止めました」
「!? レ、レッドリボン軍が!?」
「お、おい、それってヤバいんじゃないのか!? 悪い予感が当たっちまった……」
騒然となるヤムチャ達。デンデは言葉を続ける。
「ですが解せないのは、その後、ドラゴンボールの存在を感知出来なくなって
しまったことなのです。神龍も呼び出されないまま……」
現在のドラゴンボールは地球の神であるデンデが作ったもの。
地球の何処かにあれば、7つの球から発せられる波動のようなものが感じ取れるはずだ。
ブルマのドラゴンレーダーもそれを応用してドラゴンボールの位置を把握する事ができる。
「そう言えば、ブルマさんも急にドラゴンレーダーから
ドラゴンボールの反応が消えたって言ってた」
「どう言う事なんだ?」
「仮説ですが……ドラゴンボールを集めた者が、外部から感知できない場所に
保管しているか、この地球上から持ち出されたか……のどちらかだと思います」
「ふうむ……真実がどうあれ、ドラゴンボールが良からぬ者の手に渡ったらしいと言うのは
不味いぞ」
「ドラゴンボールを集めただけじゃ、意味はない。神龍を呼び出し、
願いを叶えてもらうことが本懐のはず。にも関わらず、神龍が呼び出された様子はない」
ドラゴンボールに願いの合言葉を唱えると地球上の空が昼夜関わらず暗くなり、
巨大な神龍が現れるのだ。ドラゴンボールの関係者であれば気が付かないはずもなく
地球の様子を見渡せるデンデなら尚の事……
「この事だけでも、CROSS HEROESに伝えたほうが良さそうだな……」
ドラゴンボールを集め、暗黒魔界に献上したのはマゼンタ総帥派と二分した
レッドリボン軍の片翼を牛耳る人造人間21号の派閥だ。
暗黒魔界軍はドラゴンボールで如何なる願いを叶えようとしているのか……
その頃、十六夜とみふゆは、黒江を伴い神浜市に戻っていた。
黒江はドッペル化から解放されたばかりで、応急処置を施されたものの、
すぐに戦闘に参加するのは危険な状態だった。
神浜市に到着した三人は、調整屋の八雲みたまのもとを訪れた。
「いらっしゃい」
みたまが迎え入れると同時に、黒江の様子を一目見て状況を察した。
「大変だったみたいね。こっちで少し休んで」
みたまは黒江を椅子に座らせ、診察を始めた。
みふゆと十六夜はその様子を見守りながら、ほっとしたように息をつく。
「これで黒江さんも少しは落ち着けますね」
みふゆが微笑む。
「そうだな」
十六夜は静かに頷きながらも、気を引き締めるように言った。
「だが、次に備えなければならない。自分が思っていた以上に、
CROSS HEROSの戦いは根が深かった」
異世界勢力をも巻き込んだアマルガム決戦にその身を投じた十六夜。
魔法少女として数々の修羅場を経験した彼女ですら、その規模はもはや
いち個人で収拾できるものではないのだと言うことをまざまざと思い知ったのだ。
「……先生が来てくれたんですって?」
みたまが手を止め、みふゆに向き直った。リヴィア・メディロス率いる
ピュエラ・ケアの介入がなければ、黒江はドッペルの暴走に完全に飲み込まれて
いただろう。そしてリヴィアはみたまの師でもある。
「ええ、偶然通りがかった、って言ってましたけど……」
「調整屋は基本、中立……魔法少女であれば、例えどんな境遇であっても治療する。
先生の教えだからね。相変わらず、見事な手際だわ」
黒江を治療しながら、リヴィアの施した処置が完璧であることを窺い知る。
これならば、安静にしていれば戦線復帰も程なく可能であろう。
「みたまさん。わたし、もっと強くなりたい。今のままじゃ、環さんたちの
足手まといになるだけだから……」
「ほ~ら。そう言うところがあなたの悪いところよ。病は気からって言うけど、
それは魔法少女にも言えるの。後ろ向きな気持ちはソウルジェムを濁らせるから。
今はしっかり身体を治して、気持ちを前向きにするところから始める事。
本当に強くなりたいと思ってるなら……ね?」
復帰を目指し、黒江のリハビリと強化訓練が始まる……
「勇者対勇者その1/黄金の騎士とネオブラックドラゴン」
三つ巴の戦場に突如として乱入した完璧超人達。
その一方で、アレクとバーサル騎士ガンダムがミケーネの勇者ガラダブラと戦おうとしていた。
「まずはこちらからいかせてもらうぞ!」
ガラダブラは3つある首のうち、ダブラスM2に使われた2つの頭部からビームを放ちアレクとバーサル騎士ガンダムを攻撃する。
「「っ!」」
両者共にビームを回避するとバーサル騎士ガンダムはすぐさまガラダブラに接近し飛びかかる。
「電磁ランス!」
バーサル騎士ガンダムは電磁ランスでガラダブラを攻撃しようとするが…
「甘いわぁ!」
ガラダブラは頭部に装着された鎌を手に持ち、攻撃してきたバーサル騎士ガンダムを逆に返り討ちにする
「ぐわぁ!?」
「騎士ガンダム!」
「よそ見をしている場合か?」
「っ!」
「ハァ!」
ガラダブラはバーサル騎士ガンダムを攻撃するのに使った鎌をアレクに向けてブーメランのように投げた。
「クッ…!がはぁ!?」
アレクはロトの盾で攻撃を防ぐが、吹き飛ばされてしまう。
「アレク様!」
「うっ…つ、強い…!」
「これがミケーネの勇者の実力か…!」
「どうした?貴様らの実力はその程度ではないだろう?」
「あぁ、そのとおりだ!」
アレクとバーサル騎士ガンダムはガラダブラに切りにかかる。
「っ!クックックッ…!そうこなくてはな…!」
ガラダブラは頭部の2つの鎌を両手に持つと、アレク&バーサル騎士ガンダムと激しい切り合いが始まった。
「……なるほど、彼らガンダムの者達もこの世界に来ていたか」
町の近くの高い丘から杜王町の戦いを見ている者がいた。
……それは、サーヴァント達と共にルイーダの酒場をジオン族のモンスターから守った黄金の騎士だった。
「彼らも私とは別の方法でムーア界へと突入したはずだが……何故ここにいる…?」
バーサル騎士ガンダム達が導きのハープの力によりムーア界へ向けて時空転移した後、彼はルフォイの星の水晶の力でムーア界に突入しようとするものの、その途中でバーサル騎士ガンダム達と同じように時空の歪みに巻きこまれてしまい、この特異点に迷い込んでしまっていたのだ。
「……私や彼らがこの世界に飛ばされてしまったのは、もしかすると偶然じゃないのかもしれないな」
そう言うと黄金の騎士は目線を杜王町から竜王の城へと変えた。
「あの城からはスダド・アカワールドにあるのとは異なる強大な魔力に加えてジークジオンのものと思わしきオーラを感じる……
ジオン族のモンスターが我々の知らないモンスターと共にこの世界を徘徊していることやこの世界で騎士ガンダムの手により倒されたはずのサタンガンダムと思わしき者を見かけたこと、
そして私がこの世界に来た直後に上空に出現した巨大な影なども踏まえると、やはりジークジオンはこの世界に……っ!」
気がつくと黄金の騎士の後ろにはジオン族と竜王軍のモンスター、そしてそれを従えるネオブラックドラゴンの姿があった。
「魔王サタンガンダム…!?」
「今はネオブラックドラゴンも呼んでもらおうか、騎士シャアよ…!」
「っ!?」
「クックックッ……その鎧で身を隠したらところでこの我は誤魔化せまい」
「……なんの用だ?貴様が復讐したい相手は私ではない。今あの町で戦っている騎士ガンダムのはずだ」
「だからこそだ」
「なに?」
「忘れておらぬぞ。サタンガンダムの頃の我が騎士ガンダムを追い詰めたあの時、貴様があの場で石板を完成させたことにより、やつは三種の神器を手に入れことを…!」
そう、サタンガンダムと騎士ガンダムの戦いは始めこそサタンガンダムが優勢だったものの、スライムアッザムが持ってた石板の欠片を拾った騎士シャアが石板を完成させたことにより、騎士ガンダムは三種の神器を手に入れサタンガンダムを撃破することに成功したのだ。
「蘇った我が奴に、騎士ガンダムに今度こそ勝利するためにも、その妨げになる可能性があるものは全て排除しておきたいのでな。
騎士シャアよ、炎の剣の力を今の我が身体に慣らすついでに、貴様を抹殺する!」
「っ!」
ネオブラックドラゴンが黄金の騎士の前に現れた理由、それは自分とバーサル騎士ガンダムが再び戦う時に、かつての戦いのようにバーサル騎士ガンダムが勝利するきっかけを作りかねない彼を事前に排除するためであった。
「…ええい!冗談ではない!」
黄金の騎士は剣を取り出しネオブラックドラゴンに向けて構えた。
「私はジークジオンを倒さねばならぬのだ。こんなところで死ぬわけにはいかんのだよ!」
「ふん、そのような鎧をまとったところで、ただの人間である貴様にこの我を倒せるものか!」
「やってみなければわからん!」
こうして黄金の騎士は、ネオブラックドラゴンと彼が従えるモンスター軍団に立ち向かうのであった…!
「脱出~ESCAPE ACTION~ 中編/訣別」
ジャバウォック島の天蓋を揺らす、爆撃の衝撃は次第に強くなってきている。
相手は地表貫通爆弾の雨、土の中の要塞なぞ簡単に破壊しつくせる。
故にこそ。
「急げ!」
彼らは走る。
逃げて、逃げて、逃げまくる。
爆撃から、刻一刻と迫る死の定めから。
第Ⅵ実験棟→第Ⅱ実験棟への橋
『地表への継続的な破壊を計測 緊急脱出用プロトコル 起動 内部職員は至急 第Ⅱ実験棟の脱出路に移動してください』
脱出を促す音声が響く。
一行はひたすらに走って、周りを振り返る暇もない。
爆発は次第に大きく、激しくなってゆく。
「爆撃が迫ってきている!あと3分くらい!?とにかく急がないと……!」
「死ぬってことでいいんだよな!?」
橋を渡り、500メートルある島の最奥。
そこに、デミックスが見た洞窟がある。
おそらくはそこが脱出路、生存への最後の希望だ。
もはや回りを気にしている暇などない。
音声なぞ知ったことか。
『――最終条件達成確認 管理モノリス 最終データAI再生開始』
と、第Ⅵ実験棟の真ん中に鎮座されていた巨大な電池状のモノリスがしゃべりだした。
声は人間味のない合成音声であり、実に無機質なものだった。
だが、その文言からこのAIが誰を元としたものなのかの推測はできる。
それが――己の肉親であればなおのことだ。
『……このモノリスから…このデータが流れているということは あなたはすべての真実を知ったということでいいのよね』
「……」
江ノ島盾子が、足を止める。
「江ノ島ちゃん?」
走る足を止め、彼女はモノリスを睨む。
何かを察したのか、デミックスも同様に止まった。
「みんな先行ってて。すぐ追いつく。」
江ノ島とデミックスは立ち止まってモノリスの前に立ち、そこから聞こえる声を聴いた。
『あの実験室での出来事はすべて真実よ 子供達には申し訳ないことをした そしてあなた達にも すべては私の責任 裁かれるべきは私にある』
「…………へぇ。」
『でも私は謝らない 私は清く正しく美しい世界のために素晴らしいことをしたと思っている 人類は完璧になるべき 完全な存在として君臨し続けるべき あなたたちはそのための贄――いや、神としてこの世界、この人理に永劫に君臨する あなたが望めば、世界をあなたの想いのままにできる だから―――あなたはあなたの責務を果たしなさい 完全なる人類を生むための教導端末として 私たちの神(もの)としてふるまいなさい』
「………。」
モノリスの物言いは身勝手で独善的だった。
おそらくは、江ノ島盾子の母親の性格や考え方をAIが模倣したものであろう。
だが。
例え模倣の偽物であったとしても、こんな性格であれば夫にも疎まれる。
「江ノ島ちゃん。」
「分かってるよデミックス。言いたいことは言うつもりだから。」
これでようやく、言いたかったことは言える。
一歩、黒いモノリスの前に立つ。
あの資料と実験記録の数々。
吐き気のするような悪。
度し難い独善への絶望的憤怒。
『世界の浄化と完璧な人類 そして私のために働きなさい 女神』
「へぇ、それがあんたの目的。それに対するあたしの答えが知りたい?」
『もちろん 最もあなたは私のもの 口答えする権利など……「いやだね。」』
決定的訣別からくる拒絶。
その一言で十分だ。
喩えるのなら、それは操り人形の叛逆。
怒りと共に、ゆっくりとショットガンの弾丸を装填する。
『やめなさい あなたは私に逆らえない 子供は親に逆らえない』
「うるせぇ、誰があんたの言うことを聞くかクズ親。」
次々にショットガンを撃ち、モノリスの筐体を破壊していく。
『やめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさいやめなさい―――やめろ!』
狂ったように叫んでも、合成音声が呪いのような声を発し始めても。
彼女は撃つのをやめない。
その眼にはかつてないほどの怒りと―――。
『完璧な人類!美しき地球!そしてそれらを支配する私たち!見たくはないの!欲しくはないの!?"私"たちの地球が!"私"たちのための人理が!!』
「――結局自分が主体にきている。そんなあんたの指図は聞かない。」
その一言と共に、江ノ島は傲慢なモノリスにとどめを刺した。
ショットガンの散弾が、モノリスの無機質な筐体を破砕する。
砕かれた破片は海にばらまかれ、もはやその声から不愉快な文言は放たれない。
「あたしはあたしの人生を征く。そして江ノ島家(あんたら)のケジメとして、母親(あんた)が作ったものを全て葬りにいくから。」
壊れたモノリスに捨て台詞を吐き捨てるように、江ノ島盾子は一瞥し、訣別した。
「レッドリボン軍の脅威/ホーム・スイート・ホーム」
――デンデの神殿の広間は、ようやく静寂を取り戻していた。
「怪我も治った身体慣らしに、組み手でもやってみるか? 天津飯」
「フッ……いいだろう」
天津飯とヤムチャの組み手する様子を尻目に、クリリンは一息つくとポケットから
通信デバイスを取り出した。数秒の間を置いた後、ブルマの元気な声が響いた。
クリリンはデンデから聞かされた情報を伝える。
『そうだったの……』
通信越しのブルマの声は、少し焦りが混じっている。それもそのはずだ。
ドラゴンボールが何者かの手に渡り、その行方が完全に不明となった以上、
ブルマの頭の中には最悪のシナリオが渦巻いているだろう。彼女は単なる技術者ではない。これまで数々の危機を乗り越えてきた、地球の誇るべき頭脳だ。
「デンデが調べた限りだと、レッドリボン軍が関わってるみたいなんすよ。
あいつらがドラゴンボールなんてどんなとんでもない事に使うやら分かったもんじゃない」
通信機越しにブルマが息をつく音が聞こえる。
『そうなのよ! ドラゴンレーダー、突然反応が消えちゃったの。
私にも原因はまだ分からないけど……
ただ、次元の歪みが絡んでる可能性があるわね。何かの異次元技術で、
私たちの感知を完全に遮断してるのかも』
ブルマは過去に一度、メサイア教団によって拉致され、
彼らが発生させた特異点・死滅復元界域トラオムに囚われの身となった事がある。
そこに関与していたのが、レッドリボン軍の新たなる代表となった人造人間21号なのだ。
21号の実力は桁外れで、当時の悟飯やピッコロ、ベジータ、CROSS HEORESの面々が
束になってかかっても太刀打ち出来なかった。今は表立った活動を見せていないが
それがまた不気味さを加速させる。加えて、単なる地球上の問題ではない可能性。
異世界や次元の技術が絡む場合、彼らのこれまでの知識や戦いの常識では
対応できない事態もあり得るのだ。
「次元の歪みか……厄介だな。デンデも、ドラゴンボールの波動を感じ取れなくなったって言ってたんです。だったら、ドラゴンボールが今どんな状態にあるのか
分かんないって事っすよね……」
クリリンの視線が組み手を終えた天津飯やヤムチャに向けられる。
二人も同様に緊張した表情で耳を傾けている。それだけ、今回の件は異質で不気味だった。
通信の向こうでブルマが息を呑む気配がした。
『ええ、それが一番不気味なのよ。誰が何のためにドラゴンボールを隠してるのか、
それでいて、まだ神龍を呼び出してない理由……とにかく、もっと情報が必要ね』
「俺たちも、レッドリボン軍の動きをもう少し調べてみますよ」
クリリンの声に決意が込められる。これ以上手をこまねいているわけにはいかない。
彼ら地球戦士の責務が、ますます重くのしかかるのを感じていた。
『了解。それじゃ、しっかり気を付けてね!
あと、ヤムチャと天津飯にも伝えておいて――無理はするな、ってね!』
通信が切れると、クリリンはふうっと息を吐き出した。
ブルマの頼もしさはいつも通りだったが、その裏で彼女もまた必死に
事態に対応しているのだ。天津飯が立ち上がり、クリリンに声をかけた。
「ブルマからか……俺たちも動かないとな。」
「ああ。俺たちでできることを探そう」
広間の空気は、緊張感をはらみながらも、戦士たちの決意によって引き締められた。
新たな戦いに向けて、彼らは再び動き出す準備を始めた。
――神浜市。
神浜市の夕焼けが、街全体を柔らかな橙色に染め上げていた。
調整屋を後にした黒江、十六夜、みふゆの三人は、静かな住宅街の中を歩きながら、
馴染みの景色にどこか懐かしさを感じていた。
「ああ、やっぱり神浜だな……」
黒江はぼんやりと呟いた。目に映るのは、以前と変わらない街並み。
しかし、彼女の胸の中には、長い戦いで得た疲労感と、無事に帰ってこられたという
安堵感が混ざり合っていた。彼女はまだ完全に体調が回復しているわけではなく、
その足取りは少しだけ頼りなげだった。
「黒江さん、無理はしない下さいね。みかづき荘はもうすぐだから」
みふゆが優しく声をかける。その言葉に、黒江は小さく笑いながら頷いた。
「大丈夫ですよ、みふゆさん。ご心配ありがとうございます」
十六夜は、そんな二人を静かに見守っていた。彼女はあまり多くを語らないが、
どこか緊張感を漂わせた様子で周囲を警戒している。戦場での記憶がまだ彼女の中に
色濃く残っているのだ。
やがて、三人の目の前にみかづき荘の小さな建物が現れた。その姿を目にした瞬間、
黒江の足取りが少しだけ軽くなる。
「ここだ……帰ってきたんだね、本当に」
その声には、彼女自身が思わず驚くほどの感慨が込められていた。
どれほど辛い戦いを乗り越えてきたとしても、帰る場所があるというのは
これほどまでに心を救うものなのだと実感する。
みかづき荘の前に立ち、黒江は一瞬だけ躊躇した。戦いを経た自分が、
この場所にふさわしいのかと心のどこかで思ってしまったのだ。
しかし、その躊躇いを振り払うように、彼女は意を決して扉をノックした。
「はーい、誰だー?」
中から聞こえてきたのは、留守を預かるももこの元気な声だった。
その声を耳にした途端、黒江はふっと肩の力が抜けるのを感じた。
扉が開き、現れたももこが彼女たちの姿を見た瞬間、目を見開いた。
「黒江! 十六夜さん、みふゆさんも!」
ももこは叫ぶように言うと、勢いよく黒江に駆け寄り、その肩をがっしりと抱きしめた。力強い抱擁に、黒江は思わず息を詰まらせた。
「と、十咎さん、ちょっと苦しいよ……!」
「あ、ごめんごめん!」
その声には、ももこがどれほど心配していたのかが如実に表れていた。
彼女の明るい性格の裏にある、仲間を思う深い優しさが、
黒江の胸にじんわりと沁みていく。
みかづき荘の中は、外の夕焼けとはまた違った暖かな光に包まれていた。
テーブルの上にはももこが淹れたばかりの紅茶と、かえでが焼いた手作りのお菓子が
並べられている。レナはそっぽを向いているものの、ちらりと黒江たちの様子を
気にしているのが分かる。
「黒江さん……本当に良かったよぅ……!」
かえでは涙を浮かべながら、黒江の手をぎゅっと握った。
その手の温かさに、黒江は心の底から安心感を覚える。
「ただいま、秋野さん。ごめんね、心配かけちゃって……」
「そりゃ心配するに決まってるじゃない! でも、帰ってきてくれて本当に良かった……」
その横で、レナが腕を組んで少しそっけなく言った。
「まあ、あんたたちが無事ならいいけどさ。けど、聞いたわよ?
ドッペル化してたんでしょ? 本当に平気なの?」
その言葉に、黒江は一瞬だけ俯いた。しかし、すぐに顔を上げ、力強く答える。
「正直、まだ怖い。でも、私はこの力を克服して、もっと強くなるって決めたんだ。
だから、絶対大丈夫だよ」
その言葉を聞いて、レナは小さく頷く。
「……ふーん。まあ、あんたがそう言うなら信じてあげるわ」
「Epilogue. 脱出~ESCAPE ACTION~ 後編」
爆撃音は次第に大きくなってゆく。
地表貫通爆弾が、その爆発が、ジャバウォック島の大地を砕きながらここへと進撃していっている。
脱出への最後の希望をかけて、デミックスが見つけた洞窟を走る。
もはや暗いのは気にしていられない。
泥なぞ気にも留めない。
走る、走る、走れ。
生還の希望へと向かって、遮二無二に。
そのうち彼らは、地下水路のような場所へと到着した。
洞窟内部に出来た河、パイプが無数につながった天然の用水路というべき場所だ。
「ここまで逃げ込めば……!」
とりあえず、爆撃はかわせる。
天蓋や爆風の餌食にはならずに済みそうだ。
「悪りぃ、待たせた!?」
「いや、こっちもさっき到着したばかりだ!」
決着をつけてきた江ノ島とデミックスも合流する。
もう後の憂いはない。
痕はこの先にある脱出手段めがけて走るのみ―――。
◇
バミューダ海域 メサイア教団新基地
「爆撃は進んでいるか!」
『もうじき天蓋を貫通する予定です!』
『連中が地上から出てくる気配はありません。』
「よし、このまますべての爆弾を落とせ!」
基地内の指令室では、兵士たちが指令を下していた。
ジャバウォック島を蹂躙し、命の痕跡を一つも残すなと告げ続ける。
「フン、連中もこれで終わりか。他愛もない……。」
爆撃を指示した男、ビショップは傲慢に、しかし嘲弄なく言い捨てた。
味気ない結末の映画に唾を吐くように。
「ビショップ様、そろそろ、この艦の出撃準備も整いますが……出しますか?」
「出艦は魅上の世界中継が終わってからにしろ。私は例の結晶体の研究に入る。お前たちは整備と調整を続けろ。」
「はっ。」
◇
土煙に包まれ、爆炎に飲まれてゆくジャバウォック島。
その島は、もはやかつてのリゾート地としての面影はない。
あるのはただ、凄惨な焼け野原のみ。
燃え上がる。
燃え尽きる。
何もかもが灰になる。
爆炎と硝煙の漂う地獄に、周囲の海水がなだれ込む。
目標は地下深くの悪徳。
陰湿な悪意が巣くう地獄へと、すべてを洗い流さんと渦を巻いて。
これでは、生存者はかの島からはいなくなる。
誰一人、この島で生き延びる者はいない。
ジャバウォック島は焼け野原となった。
その地には誰一人として、生命の痕跡はない。
あるのは燃え盛る炎と煙、そして煤の山のみ。
周囲の艦船に乗る兵士たちの緊張はほどけているのだろうか?
傲岸に万歳三唱でもしているのだろうか?
或いはまだ油断できないと、さらなる攻撃を加えようとしているのか?
それは、彼らにしか分からない―――。
その遠く、教団の艦船の射程外。
否。そのレーダーや双眼鏡ですら捉えきれぬ遠方にて。
ザッパァアアアアアンンン……。
黒い鉄の塊が、浮き上がっていく。
浮上しながら地上へと流れてゆく黒い潜水艇。
「あいつら「俺たちが死んだ」って絶対勘違いしてるよね。」
「まさか……緊急脱出(こういうとき)用の潜水艇もあったなんて。」
「何でもありですね……。」
どうやらシャルル遊撃隊とSPMは、この船を用いて崩れゆくジャバウォック島から脱出したようだ。
「とりあえず連絡を……このまま漂流されるわけにもいきませんし。」
ファルデウスが、潜水艇に備え付けられた通信機で近くの船に連絡を取り始める。
「こちらファルデウス、SPMのファルデウスです。応答願います。」
ノイズ交じりの通信。
近くの電波を探りながら、希望をつなごうとしている。
『あ……あー、こち……と…み……聞こえるか……ああくそ、電波悪いな。』
「こちらファルデウス!応答を!」
ノイズの奥から聞こえてくる男の声。
潜水艇の乗組員の数名は、彼の声を知っていた。
『……こちら、十神白夜。今そっちに向かっている。そのまま待機していてくれ。』
「了解。ありがとう。……とりあえずは、無事に帰れそうです。」
「十神くん……生きてたんだ。」
苗木と霧切は、クラスメイトの生存に安堵した。
「十神白夜は、君の友達ですか?」
ファルデウスがそう質問する。
「はい。僕の友達です。生意気な人だけど、結構いい人なんですよあれでも。」
「そうですか……それは、よかった。」
「――――江ノ島さん。」
苗木は、宿敵であるはずの江ノ島を見る。
対する彼女は、少しうつむいている。
「……。」
「ありがとう。助けてくれて。」
断罪法廷にとらわれて、アンリマユの汚染を受けていた彼。
その精神は汚染され、心は砕けかけていた。
あの時、江ノ島が己の責務も使命も投げ捨て助けてくれたから、彼は今ここにいる。
「……ふっ、お礼なんかいらねぇよ。むしろ……お礼を言うべきはあたしの方だよ。あんたがいなかったら、あそこで折れてた。」
それを言うなら、自分も同じだという。
断罪法廷に飲み込まれ、責務ゆえの責め苦を受けていた彼女。
その魂は痛めつけられて、心は折れかけていた。
あの時、苗木があそこにいて、標となってくれていたから。彼女は今ここにいる。
「ははは、これでおあいこだね。」
「……ああ、そうだな。」
「これからもよろしく。」
しばらくの沈黙の後、2人は互いに手を差し伸べ、強く握った。
かくて船は進む。
希望の未来へ向かって。
だが、その道中はまだ険しいものばかり。
―――まだ、旅は続く。
◇ 絶望回帰孤島 ジャバウォック島 悪別離駆 ~I hate Ordeals.~ ◇