船旅
僕は友達の幸生と一緒に旅行に来ていた。懸賞で当たったのだ。
周りを見ると僕たちのほかにも参加者が大勢いた。もしかしたら同じような当選者なのかも知れない。
僕たちは船員に客室に案内される。
「お客様はこちらの部屋になっています」
幸生はすぐ隣の部屋に案内された。
船員がドアをノックすると、低くしわがれた声が響いた。
「おう、入れ」
「失礼します」
船員に付き添われて中に入ると、そこには屈強な男が立っていた。
上半身は裸で、日に焼けた皮膚は分厚い筋肉に覆われ、荒々しい腕には古い傷跡が走っている。腰にまとっているのは、海の男らしい競パンだけ。まるで海に飛び込む準備のまま、堂々と部屋にいるのだ。
「……お前が乗客か。俺はこの船の船長だ」
「あっ…はい、よろしくお願いします」
僕は思わず目のやり場に困りながらも挨拶をする。どうして船長が僕の部屋に居るのだろう?
「早速だがな、あんた友達と来てるんだろう」
「はい、彼は羽島幸生という名前です」
「ふん……いいか、この部屋は元はひとつの広い部屋だったんだ。それを真ん中でぶった切って、二つに改装してある」
「そうなんですか」
「つまりよ、この部屋からは隣が丸見えだ。だが向こうからは、こっちを覗くことはできねえ仕組みになってる」
「えっ?」
僕が壁を見ると、確かにマジックミラーらしいものが張り付けてある。
なっ、なんなんだこの部屋は?
明らかに何かがおかしい。
部屋と部屋の間にマジックミラー……?
マジックミラーなんて警察ドラマかいわゆるそういうアレなやつでしかあまりお目にかからない気がする……たぶん。
船長の言葉に僕の心臓は高鳴った。マジックミラーで隣の部屋が丸見え…?
そんな奇妙な仕組み、いったい何のために?
「…ふん、驚いてる顔だ。だが安心しろ。このミラーはな、お前さんがここから隣を覗いても、相手からはただの壁にしか見えんようになっている。向こうからお前さんを覗くことはできん。それが、この部屋の特別な仕組みだ」
船長はニヤリと笑った。その顔には何か企んでいるような、不気味な光が宿っている。僕は不安を覚えながらも、隣の部屋、つまり幸生の部屋がどうなっているのか、好奇心に抗えなかった。壁に手を伸ばし、マジックミラーに触れる。冷たい感触が指先に伝わる。
船長はボタンが一つだけついた小さなリモコンを僕に差し出した。
「これを押せば、壁の仕掛けが作動する。やってみろ」
僕は震える手でリモコンを受け取り、意を決してボタンを押した。カチッという小さな音とともに、壁一面に広がるマジックミラーが淡く光を放つ。すると、目の前の壁が徐々に透けていき、向こう側の部屋が鮮明に浮かび上がった。
そこに映し出されたのは、筋骨隆々の肉体美を誇る幸生だった。
彼は上半身裸で、タオルを手にしている。鍛え抜かれた胸筋と腹筋が、照明に照らされて艶やかに輝いていた。
幸生は今からシャワールームに入っていくようだ。
僕は慌ててボタンから指を離そうとしたが、指が壁に張り付いたかのように動かない。
幸生がシャワーヘッドを手に取り、熱い湯を全身に浴び始める。水滴が彼の肌を滑り落ち、その度に筋肉の隆起が際立つ。僕は思わず息を呑んだ。
そして、僕の視線は、無意識のうちに幸生の雄の象徴へと吸い寄せられていった。
それは思っていたよりも大きく、堂々とした存在感を放っていた。
僕は幸生の肉体に見入ってしまい、その場から動けなかった。
「あ、あああああ…」
僕は幸生の全裸をまじまじと見てしまっている。
友達である幸生の、裸の姿を。