怪盗マーティン

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  • BL
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1人目

土曜日、15時30分。
愛知県名古屋市の中心街に佇む私立「城西美術館」に、一通の封筒が舞い込んだ。銀箔の封蝋がついた、それはどこか芝居がかったクラシックな便箋。だがそれこそが、あの男が現れる証であった。

「……来たか、怪盗マーティン」

美術館の館長が額に汗をにじませながら封を切ると、そこには美しい筆記体の日本語でこう書かれていた。

拝啓 芸術を愛する皆さまへ
明日の午後九時、私は“エメラルドの夢”をいただきに参ります。
他の展示品には一切の傷をつけません。どうかご安心を。

 怪盗マーティンより

「くっ……また奴か!」
館長は叫び、すぐさま県警に連絡を入れた。

2人目

「先輩、それでどうします?」
館長からの通報を受けてまたも立ち上がった警備本部で、若手刑事のマスダが気遣わし気に年配の刑事に声をかける。
「どうもこうもなあ……これで何度目だ?あの可哀そうな館長のトコにマーティンが入ってくるってのは」
その刑事、ツキヤマが煙草を携帯灰皿に突っ込みながらマスダに問うと、後輩は手帳を開いて指折り数える。
「8回目です」
「そのたんびに毎回盗まれ、逃げおおされ、俺達ゃ県民からアホだの税金怪盗だの言われ放題だ」
マーティンは変装、鍵開け、軽業、近接格闘、何でもそつなくこなす謎の男で、警察はいつだって彼に翻弄されているのだ。
「館長も僕らをもう信じてないでしょうね」
「こないだ警備の挨拶に行った時は挨拶を返してくれなかった」
二人はため息をつく。どうせやるならもう別の(できれば管轄も違う)美術館を狙ってほしいというのが、声には出さないが本音だ。
「だから今度こそ、今度こそは絶対にマーティンを捕まえる」
「どうするんすか?」
「奴はクソ野郎だが、自分が自分に課したルールには従うタイプのクソだ。だから、それを逆手に取る。奴は『他の展示品には傷つけない』というルールを自分に課した。他の展示品を傷つけないでは制限時間内に取り出せないような場所に置くとかどうだ?インスタレーションとかの大規模な展示品の中に置くんだよ」
「その作戦、今の僕らの信用度じゃ館長はうんと言わなさそうですが」