帰り道

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  • ホラー
  • 性的描写有り
  • ミステリー
1人目

夕方の公園を、少年は全力で走っていた。空は茜色に染まり、遠くでカラスが鳴く。無人のブランコが、風に揺れてギシギシと音を立てるだけで、公園は静まり返っていた。
「早く帰らねぇと…」
少年は息を切らしながら呟いた。足音が、砂利道を蹴るたびに軽やかに響く。

公園のベンチ、砂場、滑り台――どれも誰もいない。公園全体が、まるで時間が止まったかのように無言のままだ。少年はその静寂を気にも留めず、ただひたすらに家へと急いでいた。

しかし、少年は知らなかった。
自分が家に帰ることが出来ないことを…。

突然、少年の身体が硬直した。全身が金縛りに遭ったかのように、ピクリとも動かないのだ。

2人目

次の瞬間、空間が歪んだかのように、「ビリビリ・・・」と音がすると、まるで、録画を巻き戻すかのように、少年の身体は公園に入る前まで戻ってしまっていた。

「な、何が起きたんだ……俺は、公園の中を走っていたはず……」

少年は、公園内を再び走り出していた。しかし、何度も何度も公園を出ようとする度に、戻って行ってしまう。そこで、少年はとあることを思いつくのだった。

3人目

(そうだ!あっちからなら…)
公園に入り、滑り台の向こう…フェンスの破れ目から森へ。
いつの間にか すっかり日が暮れて、
空には丸く明るい お餅のような満月が ぽっかりと浮かんでいる。
焦る気持ちを抑えながら森の小道を 風を切って駆け抜けて行く…。
やがて辺りは すすき野へと変わり…先へ先へと進んで行くと、不意に小さな広場が現れ。そこは白兎たちで埋め尽くされていました。
「ぺったん、ぺったん餅をつけ!ぺったん、ぺったん餅をつけ!白くて美味しい兎餅!
早くできろよ 兎餅!」
月光を浴びながら杵を巧みに操り、臼の中の餅をリズミカルにぺったん、ぺったんと餅をつく兎と それを囲んで はやし立てる兎…。
広場は不思議な兎たちの餅つき会場でした。
「な、なんだこれ!?」
少年は一瞬 その非現実的な光景に立ち止まりましたが、すぐに思い直し「邪魔だよ!どけよ!」と声を張り上げながらズンズンと広場に踏み込んでいきます。
突然、現れ 怒鳴りながら踏み込んできた少年に兎たちは餅をつくのを止めて、
臼の前に立ちはだかって言いました。
「今、美味しい美味しい兎餅をついているんだ。完成するまで どけないね。」
「俺は急いでるんだ!早くどけよ!」
「戻って別の道を行きなよ」
お互いに一歩も引かず、にらみ合い。広場の空気はピリリと張り詰めます。
少年は鬼のような形相で家で待つ母と”日が暮れる前に帰る”という約束を破った罰を想像し、ますます焦り。
自分の邪魔をする兎達へ怒りを覚えます。
「俺が、どけって言ってるんだから、どけよ!」
そう叫ぶと同時に、少年は兎達を押しのけ思い切り臼を蹴り飛ばしました。
臼の中から餅が転げ出て、すすき野の地面の上で転がって
まだら模様の ドロドロ餅になってしまいました。
あまりの出来事に兎達は目を見開き!次の瞬間 悲鳴にも似た叫び声を上げます!
「僕達の餅が!大事な餅が台無しだ!」
「餅を元に戻せ!餅を元に戻せ!」
兎達の燃え上がるような激しい怒りに血の気が引いていき、
少年の体は恐怖で人形にでもなってしまったように動かなります。
「ぺったん、ぺったん餅をつけ!ぺったん、ぺったん餅をつけ!
罰を受け、罪を清めりゃ。汚れた餅も白くなる!」
兎達が はやし立てると少年の体は勝手に動き出し。
杵を手に取り、臼の中の泥まみれの餅をつき始めます。
「な、なんだこれ!? か、体が、勝手に……!?」
餅をつくたび短かった少年の髪は伸び、
日に焼けた泥だらけの肌は白く輝く餅肌へと変わっていき、
それと同調するように泥だらけの餅は徐々に白さを取り戻しいき、
滑らかで美しい状態へと戻っていきます。
「な、なんだこれ!?お、俺の…俺の体…。
ど、どうなってるんだ!?おい!俺が悪かった!謝るから!許して下さい!」
幸人の叫びなど聞こえていないのか?
それとも、聞こえていて無視しているのか?兎達は歌うのをやめません。
そして餅をつけば  つくほど少年の体の変化は進み、
胸やお尻は柔らかく膨らみ、手足はスラリと伸び、体が丸みを帯びていきます。
(いやだ…止まれ!止まって!わ、私の体…。止まれってば!)
歯を食いしばって何とか体を止めようとしても無駄で。
どれだけ心の中で叫んでも、体は兎たちの歌に操られて餅をつくのを止められません。
そして…
―――
「できたぞ!できた!餅ができたぞ!」
兎たちの歓声が上がると同時に、少年の体は ようやく止まりました。
全身を汗で濡らし、息を切らして その場にへたり込む彼…いや、彼女。
月灯り照らされる、その姿は純白の衣装を着たバニーガール。
豊満な胸は呼吸のたびに上下に揺れ動き、
くびれた腰から真ん丸と膨らんだお尻へのラインは何とも言えない色気を醸し出している。
「私…女の子になっちゃった…。どうしよう…お母さんに なんて言えばいいのよ…」
内股になり股の間を手で押さえながら、その真っ赤な唇からこぼれ出た その声は高く澄んでいて少年が知っている自分のものではありませんでした。

ショックから、しばらくの間 兎たちが餅を楽しむ姿をぼんやりと眺めていた彼女でしたが、自分を こんな姿に変えたというの楽しそうにしている兎達にフツフツと胸の奥底から怒りが込み上げてきました。
(確かに私が悪かったかもしれないけど…。
こんなの酷いわ!何とかして元の姿に戻して貰わないと!)
立ち上がり両頬を叩いて気合を入れると兎達の輪へとズンズンと入っていきます。
「ねえ!貴方達!」と声を張り上げてから…こうなった原因を思い出し
猫なで声で兎達を怒らせないように言葉を選びます。
「あのね、私 家に帰らないといけないの…だから…」
「ほら、君も食べなよ!美味しい、美味しい兎のための兎餅だよ!」
一匹の大きな兎が元・少年にホカホカと温かくて丸い お月様みたいな餅を差し出します。
「あ、いや…そうじゃなくて…」
兎達に囲まれ一身に視線を浴び…彼女は仕方なく餅を口に入れる。
(お、美味しい!)
その餅の美味しさときたら、柔らかで 噛めば甘くて ほっぺたが落ちそうでした。
「もう一個 どうだい?」
兎が餅を差し出すと迷わず それを手に取り かぶりつき。
餅を飲み込んだら、皿の上の餅を手に取り食べる。
いつしか元・少年は、兎達と月下の宴の仲間になっていた…。
―――
やがて餅が無くなると兎達は 一匹 また 一匹と すすき野の向こうへと去っていく。
このままでは広場に取り残されてしまうと不安になった彼女は、
アノの大きな兎を引き止め、震える声で尋ねました。
「ねえ、私は……どうやったら元に戻れるの?」
兎は彼女を見つめながら聞き返します。
「“元に”って? 僕は君が誰なのかさえ知らないよ。
何が、どうなったら元に戻った事になるの?」
「それは…え~と…あれ?私…元に戻る?何を?誰の元に戻ろうとしてたんだろう…?」
彼女は愕然としました。
(私は…私は…元に…元に元に戻らないと…元に戻らないといけないのに!どうして?!)
いくら考えても、思い出そうとしても頭の中は霧でもかかったように真っ白で何も出てきません。

「僕の名前はマンゲツ。君、名前は…」
「私…私の名前…。名前…」
自分の名前さえ出て来ず、不安から心臓の鼓動が早くなっていくを深呼吸をして抑えながら、ようやく答えを見つけ出す。
「……ゆきと」
「ゆきと…雪の兎で”雪兎(ゆきと)”か。きれいな君にぴったりだね」
貴方かな眼差しを雪兎に向けながらニカッと笑うマンゲツに、
ドキリと雪兎の胸が高鳴り頬が赤く染まる。
「さあ、夜も更けてきた。続きは僕の家で話そうか?」
差し出された手を取って、雪兎はすすき野の奥、森の中へと歩き出しまた。

――こうして、少年は妙齢の美しきバニーガール『雪兎』になってしまいました。
満月の夜、すすき野の彼方へ消えていく雪兎とマンゲツ…。
その先にどんな未来が待っているのか、それはまた ベ、べべ、別の…はな、はな、話…

ビリビリ…ガリガリ…ピギィっ…

空間が歪み、捻じれ、ザラザラと乱れ、色も形も前衛芸術のようになったかと思えば
すべてが逆向きに進み…

茜色に染まった空の下、静寂に支配された公園の前に少年は立っていた。
「な、何が起きたんだ…」