幽霊調査員
「君らの仕事は、あの一軒家に幽霊が存在するかどうか確かめることだ」
ベテラン調査員のタキザワは面々を見渡して言った。
「幽霊の実在が確かめられれば、その先は"退治屋"……いわゆるゴーストバスターズの仕事だ」
「見たところ廃屋とかじゃなく、普通の一軒家に見えますけど……」
見習い調査員の一人、紅一点のアキは不安げに手元のライトで目標の家を照らし出した。
「数年前、あの家で一人の少女が死んだらしい。今は空き家だ。それよりも報酬は調査結果に関わらず一件につき一万円。更に幽霊実在の証拠を見つけられた奴は倍だ」
「ひゅー、美味すぎる!」
金の話に明るい声をあげたのは見習い調査員その二、レイヤだ。
「……あの」
見習い調査員その三、気弱そうなメガネのマサトがおずおずと手をあげる。
「この仕事、人が死ぬことがあるって聞いたんですけど、本当ですか?」
「――――その話、誰から聞いた?」
タキザワの目がすっと鋭くなり……そして、破顔した。
「なーんて、ないない! 幽霊がいるかどうか確かめるだけで人が死ぬわけないだろう!」
タキザワはマサトの問いを一笑に付したのだった。
「さ、入るぞ」
タキザワを先頭に、四人は一軒家の中に入っていった。
家の中は、ライトこそつかないが、数年前から空き家であることが信じられないほどにホコリが少なく、誰かが住んでいると言われても信用できる様子だった。
それが一層、恐怖を引き立てる。
「うう……帰りたい……」
アキの弱音は聞き入れられず、四人は玄関から続く廊下を進む。
二階へ続く階段が見えてきたところで、タキザワは足を止める。
「よし、じゃあ手分けして調査するか。俺は一階を探すから、君ら三人は二階を探してくれ!」
「え!?」
ベテラン調査員が離れることに、マサトが恐怖で声をあげる。
「大丈夫だって! 俺がいる!」
そんなマサトの肩を、レイヤが叩く。
「何か見つかったら、すぐに大声を出して呼んでくれ!」
タキザワの声に送り出され、三人は階段を上って二階へと向かう。
ギシギシという音が響く。
「……行ったか」
タキザワは、三人の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
「……ごちそうさま」
その直後、糸の切れた人形のように床へと倒れた。
「ぐわぁぁぁーッ!!」
新人調査員三人が二階を探索しているその時、一階から凄まじい絶叫が聞こえてきた。
「な、何!?」
三人はすぐさま一階へと駆け戻る。
すると、そこにはリビングの床に倒れているタキザワの姿があった。
「た、タキザワさん!?」
アキが悲鳴をあげる。
マサトとレンヤがタキザワに駆け寄る。
「こ、これってよぉ……」
「死んでる……」
タキザワの息を確かめたマサトが静かに呟いた。
「きゃあああああーーっ!!」
そこで恐怖が振り切れたかのように、アキが悲鳴をあげた。
無理もない、本当に死者が出たのだ。
この幽霊調査は実のところ酷く危険な仕事であることを、三人とも理解した。
「こ、こんなとこっ、いられない……っ! わたし帰る……ッ!!」
アキは玄関まで駆け、ドアに手をかけた。
「え、嘘……!? 噓でしょッ!?」
アキはノブをガチャガチャとさせるが、一向にドアが開く様子はない。
新人調査員三人は、恐怖の家に閉じ込められたのだ。
「何してんだよ……」
アキの焦る姿を見ていたレンヤは立ち上がり玄関まで近づく。
「開かないのッ! 鍵もかかってないのに!」
「どいて」
アキがドアから少し離れると、レンヤがガチャガチャとノブを鳴らし始める。
「くそっ!」
動かないのを確かめるとガンガンとドアを足で蹴ったり身体をぶつけたりしてみたが、それでも開く様子はない。
「おい! 他のドアか窓から出るぞ!」
ドアを開けるのを諦めたレンヤは振り返り二人に言った。
いや、一人だった。
タキザワの側にいたはずのマサトがいなっかたのだ。
アキも振り返りマサトがいないことに気がつく。
「マサトくんは?」
怯えた声でアキが服の袖を引っ張りながら聞いてくる。
「わからない…どこに行ったんだ!」
辺を見渡したが見当たらなかった。
「と、とにかくここから出られるところを探すぞ!」
と、レンヤがアキを引っ張る。
アキは、動こうとせず
「マ、マサトはどうするの?」
「出口を探しながら探すしかない」
レンヤはアキを引っ張り出口を探すため、歩き出した。