歪な青春

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  • ハッピーエンド
1人目

世間一般で「青春」は、学生時代の甘酸っぱい恋愛やたくさんの友達に囲まれて平穏な生活を送ることとされている。
コミュニケーション能力が無い、恋愛対象は画面から出てきてくれない、顔は平凡の三拍子が揃っている中野美咲には一切縁のない言葉だ。

2人目

しかし、美咲の親友である久野 愛奈は“青春を謳歌している”と言っても過言でないほどである。
彼女は学年や性別に関係なく、誰とでもすぐに仲良くなる。一部では恋愛関係まで発展している異性がいると噂されるほどだ。
だがしかし、それも噂止まりであり、実際は違う。実際に彼女と恋愛関係まで発展してるのは異性では無く、“同性”である。その相手は私だ。
「恋愛対象は画面から出てきてくれないと言ってるのに、なんで愛奈と付き合っているんだ?」と疑問に思っている人も多いだろう。その理由としては去年の高校の入学式にまで遡る事になる。

3人目

コミュニケーション能力の無い美咲は、中学では仲のいい友達を作ることができず、高校もどうせ同じだろうと、完全に諦めていた。
自分には二次元があるから友達なんていらないと言い聞かせていた。
何一つ期待しないまま迎えた入学式の日、美咲は校門で愛奈の姿を見て衝撃を受けた。

「……音葉様?」

そこには、画面の中にしかいないと思っていた音葉様その人が立っていた。
頭のてっぺんから足の先まで、どこからどう見ても音葉様だ。
美咲は何かに憑りつかれたようにふらふらと、音葉様――もとい愛奈の元へと近づいていった。

4人目

音葉様に気づかれるか気づかれないかのギリギリの距離から私は音葉様をもう一度見直した。

長い髪のさらさら感。
毎日リップを塗ってると思われるぷるぷるの唇。優しい目。
口元にある黒子。

全ての特徴が画面の中にしか存在しないと思っていた音葉様だった。
「嘘でしょーー!?」
私は校門で叫んでいた。声が大きすぎたからか、周りにいた人が一斉に振り向く。その中には音葉様もいた。

5人目

その端麗な容姿故に、同性愛者だと言う事をカミングアウト出来ずに今日までズルズルと生きてきた久野愛奈は、高校生活もどうせ似たようなものだろうと諦観していた。

だが。

「音葉様…。とうとう私の想いが伝わったのですね…。」

入学式当日から、女の子に手を握られるとは思わなかった。

(私はどうやらこの少女に、「音葉様」という人物と思われているみたいだ。)
頭の回転の早い愛奈は、そう合点した。

これは、この女子生徒の勘違いによるアクシデント。
だが経緯はどうであれ、今女の子と体が触れ合っているのは事実。
ポーカーフェイスが得意な愛奈でも、頬が紅潮しそうなのを堪えるのは大変だった。
もう少し、この時間が続いてほしい───。
だが、時間というものは前へ前へと流れるものだ。
愛奈の手を握っていた少女が、簾のような前髪の奥にある綺麗な瞳で、愛奈を見上げ。
そして手を離した。

「す、すみません、音葉様!迷惑、でしたよね。私のような者が…。」

少女の言葉は最初こそ勢いはあったが、言葉は尻すぼみに小さくなる。
それがまた愛おしくて、愛奈はつい、言ってしまった。

「貴女、かわいいわね。」