明日の私と昨日の貴方

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1人目

私は昨日まで確かに生きていたはずだ。
そう、絶対に。
でも今日、今現在は胸を張って、そうであるとは言えない。

田中隆は目の前に広がる非現実的な光景に打ちのめされていた。
眼前に広がるのは向こう岸が見えないほどの大きな川、川岸には同じく終わりの見えない大きな花畑が広がっている。
三途の川か…
近頃は人が死ぬと異世界に行くとばかり思っていたが、田中の場合はそうではないらしい。
いや、おかしい。
そもそも、少なくとも田中自身には死んだ記憶がない。
自分の息を確認する。
空気を吸って吐く。空気は何か湿っぽいが吸える。吐くこともできる。
とても、死んでいるとは思えなかった。

2人目

どれだけの間ぼうっと川辺を眺めていただろうか。
ゆるり、と。
一艘の舟が流れてきた。

舟は自分の目の前で止まる。

舟の上には一人の女性が乗っているようであった。
ぼんやりと霞がかっているように、どんな顔をしているのか認識することができなかった。
その女性が口を開く。

「絶対に開けないで下さいまし」
「え?」

女性は一つの箱をこちらに差し出していた。

「絶対に開けないで下さいまし」
「君、これは一体何なんだ?」

女性が自分に箱を手渡すと、櫂を漕いでもいないのに舟は自然と河岸を離れ、まるで糸に引かれるかのように下流へと流れていった。

「絶対に開けるなって言うなら最初から渡すなよ……」

田中は途方に暮れながら手渡された箱を見下ろしたのだった。

3人目

「絶対にするな」と言われればやってみたくなるのが、人間の性というものだ。
水色に塗装された、ただの木の箱。
もしかすると、家に戻れるかもしれない。あわよくば、異世界転生できるかもしれない。
「魔剣やら、伝説の宝具でも入ってりゃ面白いんだが。」
意志の弱い田中は、湧いて出た好奇心を抑えることができず、女性の姿が見えなくなってすぐに、箱を開けてしまった。
開けた途端、箱の中から目が眩むほどの極彩色の光が溢れ出てきた。 
田中は、思わず目を瞑る。
(目を開けたらそこは乙女ゲームの中でした、とかなんないかねぇ)
結局、そんな都合がいいこともあるわけがなく。
田中が目を開けると、確かに箱を持っていたはずの手の中に一冊の本が握られていた。
繊細な装飾が施された、革の表紙の本。
題名などの刻印は見受けられない。
「なんだ、ただの本かよ…。」
文句を言いつつも、まだ異世界転生が諦めきれない田中は、僅かな期待と共に本のページを捲った。

4人目

一ページ目は白紙だった。
二ページ、三ページとどんどんめくっていくがどのページも白紙だ。

(丁寧にめくる必要はないな)

そう思いペラペラと適当にページをめくった。
結果、この本にはなにも書かれていなかった。

「なんでこんなものが箱に入ってるんだよ……」

期待があった分、失望も大きい。
だって普通開けてはいけないっていわれた箱に入っているものって何かしら不思議なものだったり高価なものだったりするだろ。
それがただの白紙の本だ。
いや、革の表紙なだけでこれはノートなのか?

「わからん」

ノートはいらないと思い、ポイっと川に投げた。
するとノートが白く光った。

(なんなんだ)

川からノートを取り出し開いてみると、イラストが描いてあった。
別のページを開いてみると今度は謎の文字が書かれている。
文字は読めなさそうなのでイラストが出てくるまでページをめくる。

「おっ!」

このイラストは間違えなくここの地図だ。
上に丸一、下に丸二が書かれている。
数字を読むことができたのは助かった。
これを見るかぎり上の方にむかって歩けばいいのだろう。

田中は川上にむかって歩き出した。

5人目

・・・おかしい

どれだけ歩いても、川上にたどり着く気配すらない。

俺は上流にたどり着くのを諦め、川下に向かって歩くことにした。

が、川下にたどり着くこともできない。

問題は、他にもあった。

行きには高い塔が見えた。

今回、川下に向かう途中では特にこれといった特徴がない。

行きと帰り、重なる景色がまったくないのだ。

そして、普通は上りより下りの方が楽。

今回は、違かった。

下りの方が足がつかれる。

まるで山登りをしているようだ。

錯覚で、登りと下りがわからなくなるというのがある。

この状況はまさにそれだ。

そして、不運なのかわからないが、濃い霧がかかっていて、よく見えない。

この状況から脱出することはできるのか・・・?