スカイが知る魔法
王国歴五十年四の月。国王の容態が悪化。医者が処置を続けるも、既に手遅れであった。
死の間際、彼は笑顔だった。
「やりたいことは、全てやった。仲間もできた。思い残すことはない」
容態が悪化する前に彼はこう言っていた。
数日後の彼の葬儀には大勢の参列者が訪れた。彼が若い頃に共に旅をした仲間のアルタイル様とウィズ様や同盟国の元首達、彼を慕う国民達がほとんどで、全員が涙を流していた。私は今でもみんなから慕われる彼に仕えられて光栄に思った。気がつくと私も葬儀の最中に涙を流した。
葬儀を終えて、彼の遺品を整理する日々が始まり、その中で私は、彼が若い頃に書いたと思われる手記を見つけた。それを読む中で私は彼にはもう一人、仲間がいたことを理解した。
彼女はスカイといい、魔法使いだったそうだ。だが、なぜ彼女は彼の葬儀には参列しなかったのか。私は気になって、彼女に会うべく、城を他の者に任せて旅に出た。彼女を探す旅は過酷なものだったが、なんとか彼女と会うことができた。彼女から、私が知らなかったさまざまな話を聞くことができた。
これは、私が彼女と出会って得たものを纏めた記録である。
森の木々が色づき始め、獣たちも冬支度をはじめた。
魔女は畑仕事を終えると川釣りをするべく山へ入った。
薬草を摘みつつ夕飯を豪勢にという算段だったがすぐにそれどころではなくなった。
少年が倒れていたのだ。
この季節に狩人等が迷って行き倒れることは珍しくない。
ただその少年は薄手の皮鎧を着こみ新しくないキズを多く負っていた。
その姿は奴隷剣闘士を思わせた。
ただ事ではない事情を察した魔女は少年を介抱すべくいそいそと支度を始めた。
…
近くで薪のはぜる音がして少年は目を覚ました。
野営地から必死で逃げて山の中を走って途中から記憶がない。
見ればそばでたかれた火の中で川魚が焼かれている。
「やぁ目が覚めたかい?まだぼうっとするならこの葉を食むといい」
不意に声が聞こえて少年は身構える。
火を挟んだ先には黒髪の女が立っていた。
「西からの旅は辛かっただろう、腹が減っているなら魚もあるぞ?」
こちらを見透かしたような口ぶりだが女の声には不思議と安心感があった。
鋭く女をにらみつけた少年はいつのまにか泣きながら焼き魚にかぶりついていた。
後に王となる少年はこうして魔女と出会ったのだ。