バスの窓から見える景色

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1人目

 2021年の秋頃。
『私』は家からはほど近い駅から、リレイブ駅を繋ぐバスに乗り込んだ。手荷物はそこそこの量で、それほど時間も差し迫ってない。

 不思議なことに、運転手以外に人は乗っていないみたいだ。窓側の席に我が物顔で座り込む。
ふと気になったので、窓を通して外を見てみる。雲がいくつか浮かんでいるが空は晴れている。

 やることもなく、暇な『私』は、せっかくなのでバスの窓から外の景色を見ることにした。

「この辺りは住宅街だったんだ……」

リレイブ駅までは、まだまだ時間も距離もある様だ。

2人目

 窓の外は閑散として、バスの中共々静けさに満ちている。最初の駅とはあまりにも雰囲気が違った。

 一人でバスに揺られ、外の景色にも飽きてきた頃。『私』はこの寂れた町がどのような場所なのかを考えていた。

「もともと人がいたけれどみんな都会に行っちゃったのかな……微妙に不便な場所だし」

 そこでふと、大切なことに気づいた。

「あれ? リレイブ駅に行く道、何も覚えてない……それに、どうして乗ったんだっけ?」

 信号待ちが終わったバスは、思い出せない町へと進む。

3人目

この状況に違和感を覚えてから15分が経った。景色は町から森へと流れ、人の気配は完全に途絶えた。運転手さんの影だけが『私』を安心させる
しかし、このままではいけない。もし道を間違えているなら、すぐに引き返さなきゃ
やはり思い出せないが、リレイブ駅には一刻も早く行くべき用事がある気がする
そう考えて、『次止まります』のボタンを押した。
ーーが、一向にアナウンスはなく、止まる気配がない。もう一度押したが、変わらない
恐怖でボタンをガチャガチャと連打した
止まれ
止まれ
止まれ
「次ぃ、とまります」

4人目

 ピンポーン

「やった! 押せた!」

 と喜んだ瞬間、バスはキキーッと急ブレーキをかけて止まった。

 どうやら停車ボタンを押すタイミングが停留所の直前過ぎたらしい。

 体勢を立て直した私は不安になった。

「変なタイミングで停車させちゃって、怒られたらどうしよう」

 『私』は恐る恐る前方にある運転席横の降車ドアに向かった。

 そしてペコペコ頭を下げながら運転席を覗き見た。

「ごめんなさい。急ブレーキ踏ませちゃって……、えっ?」

 運転席に運転手の姿がなかった。

5人目

ドアが開いた。
外は暗い森があるばかりで、足を進めるのに戸惑う。

すると、老婆が乗りこんできた。

「リレイブ駅まで」

『私』のうしろに向けて告げた。
振り返ると、そこには運転手がいた。

「あなたもリレイブ駅ですよね?」

帽子のツバの影で顔はよくわからない。
だけど、物言いは静かで、先ほどの連打を怒っている様子はなかった。

「はいそうです」

『私』はまた、窓ぎわの席に戻った。

6人目

奇妙なバスから降り遅れて不安もあったが同行者ができたことで『私』は少し安心した。
この人について行けば目的地まで迷わないはずだ。

「実は駅の場所を忘れてしまって…。ご一緒しても良いですか?」
通路を挟んで反対側に座った老婆にそう声をかけると彼女はきょとんとした顔になった。

「それは本当に私と同じリレイブ駅なのかしら?」
どういうことだろう?同じ名前の駅が近くにあるのだっけ?

バスはいつの間にか輝く海上のハイウェイを走っていた。
道の先は二手に分かれていて彼女とはここで別れる予感がした。

7人目

「私が行くのは、過去のリレイブ駅」
窓から海を眺めていた『私』の耳に、老婆の言葉が入る。過去の……?
「あなたが行くのは、現代のリレイブ駅」

どういう事ですか? そう尋ねようと振り向こうとしたが、なぜか身体が動かない。
何とか身体を動かそうとしている『私』の横で、静かに老婆が立ち上がる気配がした。
「それじゃあね」

その言葉を聞いた瞬間、何かがはじけたように『私』の視界が一瞬だけ真っ白になった。
それと同時に身体が動くようになった。隣を振り向くと、老婆の姿は無かった。

8人目

 そしてまたドアが開く。今度は立派な口髭を蓄えた片眼鏡のシルクハットを被った中年の紳士が乗り込んできた。
「リレイブ駅まで」
 運転手が告げる。
「あなたもリレイブ駅ですよね?」
 ――まただ。またこの会話。さっきも聞いた。
「お嬢様もリレイブ駅に参られるのですね」
「ええ……まぁ」
 今日は衝撃が多すぎる。消える運転手に謎の老婆、そして怪しい中年紳士。勘弁してくれ。頭を抱える『私』。

9人目

「あ、あの、今向かってるリレイブ駅って側にショッピングモールがあるところですよね?」

『私』は頭の中に浮かぶリレイブ駅の景色を中年紳士に聞いてみた。

「ん? あーなるほど。お嬢様はこのバスが何なのか分かっておられないんですね?」

中年紳士は『私』に優しく微笑んだ。

「安心してください、私も現代のリレイブ駅に行きますから。――運転手さん、こちらのお嬢様が不安がっておられる。なるべく早くリレイブ駅まで行けませんか?」

運転手は「分かりました」と呟くとアクセルを強く踏み込んだ。

10人目

バスが加速する中で
今までの出来事を思い出していた…暗い森、老婆…
今までにない奇妙な事が立て続けに起きている…
バスが止まり、恐る恐る降車すると大きな拍手が起きる。
「えっ?」
驚いて見るとあの老婆や紳士が
此方に微笑みを向けて拍手している。
「おめでとうございます。当バス路線1000万人目のお客様を記念して
今夏開催予定のバスツアーを体験して頂きました」
制服を来た綺麗なお姉さんが
案内しながら説明してくれる
「さあ、此方で歓迎の催しをご用意しております。感想等お聞かせ頂ければ幸いです」