緋色の瞳を持つ私

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1人目

踏切を待っていると、なんだか別の世界に迷い込んでしまうような――。
そんな気がする。今日も私は、学校帰りの夕方、踏切が鳴り終わるのを待っている。踏切の向こう側を見る。だが今日は、いつもと様子が違った。
「えっ……あれって……わ、私?」
踏切の向こう側に立っていたのは、私だった。そして私の方を真っ直ぐ見つめている。踏切の向こう側の私と目が合った。踏切の向こう側の私の瞳の色は、夕焼けよりも赤い緋色だった。電車が通り過ぎていく。電車で踏切の向こう側が見えなくなった。
電車が通り過ぎると、踏切の向こう側の私はいなくなっていた。

「――時が来たの。――あなたの力が必要。――私と来て」

後ろから声がした。振り返ると緋色の瞳の私が立っていた。
「どこへ?」
「異世界へ」
気が付けば私は、知らない土地に立っていた。私は、緋色の瞳をした私によって異世界へ召喚された。何のあてもなく、知っている人もいないこの土地で、この世界の私を探す私の旅が始まった。緋色の瞳を持つ私を。

2人目

私が立っていたのは市街――といっても普段見慣れたものではなく、むしろ世界史の教科書の中で見たような、原始的なそれだった。
「どこだろう、ここ…」
 困惑を口に出しながら、不安とともに一歩を踏み出す。とりあえず、街の中心にある高い塔を目指そうと思う。人が多そうだ。ここがどこなのか、どうすれば戻れるのかをそこなら聞けるかもしれない。
 街の喧騒。異国情緒あふれる風景の中に、私はふと違和感を感じた。
「おお、兄ちゃん。調子はどうだい?」
「今朝上がった魚、安くなってるよー!」
 耳に入る声が、すべて聞き取れるのだ。
 話されている言語は、確実に日本語。風景として目に入る彼らの顔は、明らかに西洋のそれ。
 そういえば、さっきから周りから視線を感じているような……。まるで珍しいものを見る目。もちろん、緋色の目をした自分に謎の場所に飛ばされたのが珍しくないかといえばそんなことはないのだが……ああ、なるほど。
 その視線の理由に、ふと自分の身体を見下ろして気づいた。周りは、古代ギリシャのようなゆったりとした服を羽織っている。対して私は制服。そりゃ、珍しく思われるよね…。周りの視線に居づらさを感じながら、私は歩を進める。

「ついた…」
 十数分歩いただけで、だいぶ疲れた。塔のふもとまで到着した。近くで見上げると改めてその大きさに驚かされる。レンガ造りで、濃い茶色に統一されている。
 ここがどこなのかは知らないが、おそらく時間の流れは私がさっきまでいた場所とは違うのだろうと、空を見上げてふと思った。私がここに来たのは、まだ昼前ほどの日差しだった。しかし今は、もう黄昏色をしている。
 ..浸っている場合じゃない。私はそばにあった大扉へと目を向ける。
 ――その瞬間。
「よお、姉ちゃん」
 下卑た声音で声をかけられた。
「えっ?」
 振り返ると、いかにも悪人顔な男が二人。どちらもガタイがいい。
「俺たちと一緒に遊ばないか」
「あ、えっと…」
「そんなに肌を見せる格好をしてるんだ。そっちだってそんな気があるんだろう?」
 スカートの丈も上げてない私だが、確かにここの人々から見たら露出が多いのかもしれない。
「ほら、こいよ」
 腕を掴まれ、勢いよく引かれる。
 抵抗しながら、どこか他人事な思考で、ふと思い出した。

 彼女の目の色。緋色――Scarletは、時に「犯罪」を暗喩することを

3人目

「やれやれ。嫌がっている女の子を強引に連れていくなんて紳士のする事じゃありませんね。彼女を離してあげてください」

後ろから声がした。
振り返ると、そこには銀髪の美男子が立っていた。

「なんだテメェ!!」
「やんのか、コラァ!!」
「……野蛮ですね。見るからに不潔そうだし、そんなんだから女の子にモテないんですよ」
「なんだとぉ!?粋がってんじゃねぇぞ、オラァ!!」

男達が美男子の顔面に殴りかかってきた。
しかし美男子は、ひらりひらりと軽くかわしていく。

「遅いですね。ライトニング!!」

男達の体に電流が走る。

「ぎゃああああああ」

男達の悲鳴が聞こえ、男達はその場に倒れた。

「テ、テメェ……。魔術師か!!」
「はい。魔術師です。シドと申します」
「シ、シドだと!?銀色の死神か!?」
「ひっ!!あ、あ、あ、あの戦場の悪魔!?」
「うーん、それは皆さんが勝手にそう呼んでるだけで自分で銀色の死神だなんて風に名乗った事はありませんよ。さてどうしましょうか?まだ私と戦いますか?」
「じょ、冗談じゃねぇ!!殺されるのは御免だ!!ひぃーー!!」

男達は、情けない声を出して逃げていった。

「お嬢さん。大丈夫ですか?」
「はい。危ないところを助けて頂いてありがとうございました」
「いえいえ。いやー、それにしても見た事のない珍しい服装ですね。異国の方ですか?」
「異国……。まあそういう感じなのかもしれません」
「サーチ」
すると私の体全体を白色のオーラが包んだ。
「えっ?」
「……ほう。これは……」
「あの、今のは?」
「サーチですよ。相手の情報を読み取る魔法です」
「魔法……」
「お嬢さん。お名前は雨衣夏美さんというのですか」
「はい」
「夏美さんは、魔術師なのですか?」
「いいえ」
「恐ろしいほどの膨大な魔力を内に秘めていますね。私以上だ。しかし……こんな数値は、見た事がない」

この人は、私を助けてくれた。
とても悪い人には見えない。この人になら事情を話してみてもいいかもしれない。

「実は――」

私は、自分が地球という星から来た事。
緋色の瞳を持つ私によって、この世界に転生させられた事をシドさんに話した。

「緋色の瞳を持つ自分と瓜二つの人物の手によって、ここに飛ばされた……。なるほど。……ああ、そうだ。長い話になりそうなので私の家に来ませんか?」

4人目

「えっと…じゃあお願いします。」
私自身もよくわからない世界に転生されて右も左も分からない様だったから、さっきの様な変な人たちに捕まると面倒だ1人ではきっと抜け出せないだろうから。
私が頭を下げるとシドさんは歩き始めた。
慌てて頭を上げてシドさんの後を小走りで私はついて行く。
10数分程度歩いただろうか。
目の前に小屋のような建物が見えてきた。
「あの…ここは?」
そう聞くとシドさんはふっと笑って
「ここが私の家ですよ。」
と言った。
「え…なんか…」
「想像と違いましたか?」
「あ…」
銀色の死神という異名がつけられるほど強いのなら住んでいるとこも立派なのだろうと勝手に思っていたため想像とあまりにも違くて拍子抜けしてしまったのだ。
「大丈夫ですよ。よく言われるんです。異名からは想像できないほどのボロ小屋に住んでるんだなって。」
やはりシドさんは優しい。
「じゃあ入って下さい。中で話します。」
そう言われて私は中に入った。
「おじゃまします…」
「どうぞ。座って下さい。 さっきの話もう一度聞かせてもらえますか?」
そう言われたので私はさっき話した話を繰り返した。
聞き終わった後シドさんは少し考えるような素振りを見せた。
「難しいな…何て説明したらいいんだろう…」

5人目

「私が思うことは」
私は息を飲んだ。

「…夏美さんと緋色の瞳を持つ夏美さんが、姉妹関係もしくは親友関係であったのではないかと思います。」
「え?」

私は記憶をたどった。
一つの記憶が霧がかかったように、はっきりと見えない。
思い出そうとすればするほど、霧がかかっていく。
だけど、「大切な人」というのはわかる。

「無理に思い出さないほうがいいと思います」
「何故ですか?」
「多分、夏美さんの記憶の一部に術がかかっています」
「シドさんじゃ、術は解けないんですか?」
「私じゃ解けないとても強力な術です」
「でも、シドさんは銀色の死神と呼ばれているほど強いんじゃないんですか?」
つい、強気で問い詰めてしまったことに後悔を抱く。
「あ、すみません」
「いえいえ、夏美さんがそうなるのも、仕方がないことですよ」
シドさんは少し考えたような、顔をしてから、ぽつりぽつりと話し始めた。
「私には、慕っていた兄と師匠がいたんです。2人は私よりも強かった。だから、私は2人と同じ肩を並べたかったんです。そのために私は毎日の鍛錬以上に鍛錬をしていました。」
シドさんの目は悲しそうだった。
「そして、ついに。兄よりも少し強い魔術師になることが出来ました。しかし、兄はそれに嫌気がさしたんでしょう。そして、師匠も今度は自分よりも強くなるのではないかと恐れて逃げていきました。」
「話の接点はなんですか?」
「兄が使っている術と夏美さんにかかっている術が似ているんです」

6人目

「って言うことは…私はシドさんのお兄さんに術がかけられている…って事ですか?」
「はい…。その可能性が高いですね…」
「でも…私とその…緋色の目を持つ私はシドさんのお兄さんに会ったことすらないと思うのですが…」
まず私自身ここに来るのは初めてで戸惑っていることもあり、知り合いがいるならとっくに知り合いのところに行っていただろう。
「夏美さんはそうなのですが…緋色の目を持つ夏美さんはそうとは限らないんです。」
「あ、別人でしたね…」
「はい。」
別人でもあんなにそっくりな人間が生まれるもんなのだろうか。
そこだけが不可解なのだ。
「その術は、私に実害はあるんですか?」
「…わかりません。ただ、あるとしたら緋色の目を持つ夏美さんがなにかしらの事故に巻き込まれた時夏美さんもリンクして同じ痛みを受けるという可能性はあり得ます。」
「じゃあ…どうしたら?」
「今2人の夏美さんは身体中糸で繋がれているとします。
もし自分が転んで膝を怪我したらもう一方の夏美さんも怪我をします。
反対に相手が転んで怪我をしたら自分も怪我をする。
今はそういう状況なんです。
相手の怪我などリンクさせないためにはその糸を切ればいいのですが…ただ、全ての糸を切ってしまうと相手の居場所などが全く分からなくなってしまうんです。
夏美さんは糸を切る術を持っていたはずなんです。
多分その術を覚えている記憶の部分に術をかけたんだと思います。」
「……私は術を使えたって事?」
「はい。」
使えるんだったら使いたい。
「他の術って使えないんですか?」
「…夏美さんならできるようになると思いますよ。
どうです?私でよければ術をお教えいたしますが…」
こんなすごい人が目の前にいるのだ。
すごいって言っても本人の力量をちゃんと見たことはないけれど…
「…いいんですか!?是非、お願いします!」
こうやって私はシドさんの元での魔法を学び始めたのだった。

7人目

「これは....」
 暗い部屋の中。シドさんは、私の掌の中に灯る小さな灯を見て感嘆の声を漏らす。実用性は低いが初歩的だからと教えてもらった、灯火の魔法だ。私がうまく術を扱えていないせいもあるのだろうが、確かに手元しか照らせないこの照度では実用性は低いと評価せざるを得ない。
「いや、そうじゃないんです」
 シドさんは、私のそんな感想に否定を示す。
「その魔法は本来、手元もろくに照らせない程度のものなんですよ。本当に魔法を使い始める人に教える。その....小学生くらいの...」
 最後の方は、言いにくそうに言う。とはいえ、バカにされている感覚は全くない。なにせ魔法に関しては、おそらく小学生どころか幼稚園児並みの知識も持っていないのだから。
「....その魔法が顕現させるのは実際にモノを燃やすことができる代物だから、子供が扱っても大丈夫なように、本当に最低限の火力しか出ないようになってるんです」
 なるほど。確かにそれは合理的だ。今私たちがいる書庫なんかで魔法の扱いを間違えた日には大事件だ。
 だが、ならば私のこれはどういうことなのだろう。内心の私の問いに答えるように、シドさんは先を続ける。
「ただ、それでも火事がごくたまに起こるんです。それなら火以外の者にすればいい、と思うかもですが、火はこの世界に存在する物質の中で、一番魔力との親和性が高い存在なんです。確かに生まれつき個人差のある魔力量ではあるけど、それでも火の魔法を扱えない人はいない。
 ....って、また話がそれた。私の悪い癖だ。で、その火事の原因なんだけですが。私の話からも分かると思いますが、魔術の効果の大小は使用者の魔力量の多少に依存するんです。 加えてその魔法はその影響を受けにくくする術式が組み込まれているから、火の大きさを変えるには、尋常じゃない魔力量が必要になる」
 なるほど。先ほどシドさんが言った通り、私には大きな魔力があるらしい。それを分かった上でのこの驚きようなのだから、それも相当なものなのだろう。
「大きな魔力を持っていれば、術が暴走する可能性も低くなります」
 シドさんは言いながら、満足そうにうなずく。
「となれば、私も貴女に教えられることが多くなる。....ええ。意外と糸を切るのも近いのかもしれませんね」
 暗がりの燈火の中で、一つ。私は前進した。

8人目

「シドさんが男達に使っていた雷の技。あれは何ですか?」
「ライトニングですか。雷属性の技の中では、初級レベルの技です。対人戦で相手の動きを封じるのに有効な技ですね」
「あの威力で初級レベルの技なんですか……。てっきり上級魔法なのかと思いました。スタンガンみたいなものか」
「スタン……なんですか?」
「あ、いえ。私がいた世界で相手に強い電気を流す道具があるんです。それに似てるなと思って。ライトニングは、私でも覚えられますか?」
「夏美さんと雷属性との相性にもよりますが……。ああ、そうだ。その前にひとつ。夏美さんと相性の良い属性を調べてみましょう」
シドさんはそう言うと、ガサゴソと何かを探し始めた。
「あー、ありました。いやー、あまり使う事もありませんから部屋の奥の方に収納したままでした。これを使います」
シドさんの手には、占い師が使うような丸い水晶があった。
「これに手を置いてください」
私は言われたとおり、水晶の上に手を置いた。すると水晶は、七色に光り出した。
「わぁ!!綺麗!!」
「七色!?そ、そんな……!!そんなことが!?」
「えっ!?シ、シドさん!?ど、どうしたんですか!?」
「七色。それが意味する事は、つまり……。火、水、土、雷、闇、光、無。全ての属性の魔法を使える資質を持っているということです」
「やったぁ!!」
「こんな……こんな事が!?七色全てを扱える人間なんて聞いたことがない。一般的は、火と無属性の二種類を扱える者が七割です。そして魔術師と言われる魔術の才能がある者は、残りのほぼ三割が更に二種類の合計四属性の魔法を扱う事ができます。更にその中でも数万人のうち数人が五種類の属性を扱えます。これは数える程しからおらず、特級魔導士と言われています。私も特級魔導士です。……七色属性。そして夏美さんの内に秘めた膨大な魔力。これは、訓練次第でたった一人で一国を相手に戦って渡り合える力を持つ可能性があります」
「ひとつの国を相手に一人で!?そんなに!?」
「緋色の瞳の夏美さん。彼女もまた七色の資質を持つ者なのかもしれません。……緋色の瞳の夏美さんには、時が来た。あなたの力が必要。そう言われたのですよね?」
「はい」
「夏美さんは、これから起こる何かとんでもなく大きな出来事に巻き込まれているのかもしれません。自身の身を守るためにも、しっかり魔法を覚えましょう」