未来は変えられるんだよ!!
私は学校の帰り道、突然誰かに手を掴まれた。
「行くな堀内!!バスに乗るな!!」
「えっ!?えっ……?大石……君?」
私の手を掴んだのは、クラスメイトの大石君だった。
普段あまり話した事もないし、意外すぎる人物の登場に、私は戸惑った。
「お前には信じられないかもしれないけど……。俺は未来から来た俺なんだよ」
「えっ?未来?それってどういう――」
「お前は、これから家に帰る為にバスに乗る。だがそのバスは、途中で大型トラックと正面衝突して、バスの乗客は全員亡くなるんだ。お前も……」
「あははは。そんな訳ないじゃない」
「あそこの子供を見ろ。転んで手に持っている風船が飛んでいって泣いてしまう。そして通りかかった女が子供に自分が携帯していた絆創膏をあげるんだ。それから頭を撫でられて子供は、お姉さんありがとうと言って何事もなかったかのように走って立ち去っていく」
するとその通りになった。
「まさか……本当に未来から?」
「これで信じただろ」
「大変!!急いでバスを止めなきゃ!!」
「ああ、そうだ。未来は変えられるんだよ!!」
私達は、バスに向かって走り出した。
バス停に着くと、私はバスに乗り込み、運転手のおじさんに詰め寄った。
「バスを発進させないで!!」
「な、何だね!?君は!!」
「このバスは、途中で大型トラックと正面衝突するの!!」
「おじさんはね、三十年間無事故の運転手だよ。事故には十分気を付けて運転するさ」
「そうじゃないんだ。大型トラックは、対向車線をはみ出して突っ込んでくる」
大石君も乗り込んできて説明するが、運転手は全く相手にしない。
「君達。さっきから何なの。他のお客さんにも迷惑だから降りてくれ」
乗客達からの冷たい視線が二人に降り注ぐ。
「くそっ……。堀内、こっちだ!!」
大石君は、バスを降りてバスの前で手を広げた。
「そっか!!バスが発進するのを妨害するんだ!!」
私も大石君の隣で手を大の字に広げた。
バスからは、何度もクラクションの音が聞こえる。
「あと五分だ。五分だけ時間を稼げば事故は防げる」
「わかった」
そして五分が経ち、私達は運転手にこっぴどく叱られた。
そしてバスは発進した。
「これでよかったのかな?」
「ああ、そのはずだ」
次の日、大型トラックの転倒事故でトラックの運転手一人が死亡したとニュースが流れた。
「…そっか…」
このニュースを見たとき私は複雑な気持ちになった。
自分自身を助けることはできるが、すべての人を助ける事ができないと分かったからだ。
一人だけ勝手に生き残ってしまったみたいで何だか複雑な気持ちだった。
「私は大石君の秘密知ってるから大石くんの言うとうりにしたら助かるけど…みんなが聞くとは限らないし…」
そう考えていたときふっととある考えが頭をよぎった。
『未来から来ていたとき現代の大石君はどこ』
『未来変わったら大石君はどうなるの』
だった。
もし、本当に大石君が未来からやってきていたのなら現代の自分と会っているはずだ。
ただ…バスの中では見かけなかった。つまり、バスが発車したとしても現代の大石君は助かっていると言う事だ。
そして、大石君が知っている未来は私達が乗るバスと大型トラックが正面衝突すると言う事故。
無事に私たちは助かったけれども、そしたらバスを止めに来た大石君はいらないと言うことになり、結局またバスとトラックの正面衝突ーって事になるのだろうか…
私には考えてもよくわからなかった。
大石君本人に聞こうとも思ったが、それで大石君本人を困らせることになるかもしれないから、この二つの疑問は私の胸のうちにしまっておく事にした。
「なあなあ」
気が重くはあるがその内容を周りに話すわけにもいかず、(少なくとも表面上は)いつも通り友人と昼食を取ろうとしたところに話しかけてきたのは…。
「…大石君」
ほとんど話さないにもかかわらず、二度と忘れられぬ声と顔の持ち主となったクラスメイト。いや、やっぱりちょっと若いか?
「どうしたの?」
「あー、いや、そのさ…」
私が問うと、言いにくそうに目線を背けて口ごもる。
「すっげぇ、ヘンなこと聞くんだけどさ」
「うん」
何のことかわからないというような表情を作っておく。内心は、嫌な予感に襲われている。思い当たる節しかないのだ。
「俺ってさ、昨日、お前と一緒にいなかったよな?」
「……………うん」
質問の意図を読み込むのに時間がかかったかのように、たっぷりと間を開けて私は頷く。同時に、気づかれないように大きくため息をはく。
「いやさ、昨日の夕方に俺と堀内が一緒にいたのを見たってやつがいるんだ」
「私が大石君と?」
「ああ」
なるほど。それなら納得だ。バスの一件のあと、未来の方の大石君から、家まで送ると言われたのだ。正直別にどちらでもよかったのだが、仮にもあまり関わりのない相手の頼みを無下に断るのにも申し訳ないし、何より断らせてくれそうになかった。それで結局送ってもらうことにしたのだが、それを現在の方の大石君の知り合いに見られたらしい。
厄介なことにはなったものの、その場に大石君本人がいなかったことは僥倖だ。
「うん。確かに男の人と一緒にはいたけど」
ざわ。教室が一瞬ざわめいた。主に私の悪友たちだ。
「大石君じゃないことは大石君が一番知ってるでしょ?」
「あ、ああ、そうだな。悪ぃ、ヘンなこと聞いちゃったな」
腑には落ちていないようだが、ひとまず納得したのか頷いて去っていく。
私はその背中を見て、確実に昨日の大石君と目の前の大石君が違う存在であることを、改めて知った。
大石君に嘘をついている様子はなかった。多分彼は、もう一人の自分の存在を認知すらしていないんだろう。
「ふぅん....」
誰にも気づかれないようにそんな感嘆詞を漏らしながら、私は友人のところへは行かず、持ってきたパンに一人で口を付けた。