【初心者歓迎】夜の物語

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  • 自由に続きを書いて
  • 現代ドラマ
  • 登場人物が死ぬの有り
  • 楽しんだもの勝ち
  • ヒロイン増やすのあり
1人目

「またか・・・。」
奈津子は布団の中でため息をついた。
怖い夢をこのところ毎晩のように見ては
途中で目を覚ましてしまうのだ。
今日は地球に太陽がぶつかり、人類が滅亡する夢だった。
正夢になることはないが、吉夢でもなさそうだ。
枕元のスマホで時計を見る。
2時15分。
丑三つ時だ。
気味が悪くてトイレにも台所にも行く気になれないし、かといってすぐ寝ては夢の続きを見そうで怖い。
仕方なくタバコに火をつける。
目はだんだんと覚めていく。
こんな時間につかまる友だちもいない。
どうしたもんか??

2人目

全くの無意識のうちにスマホを滑る親指。
これは現代人の悪い癖だ。
もう見たくないとフォローを外したはずの元彼のインスタグラムをわざわざ検索している自分に引いた。
ラーメン、ラーメン、酒、ギター。相変わらずだなぁと、うっかりハートを押さないように気をつけながら眺めるていると、二人でよく行った豚骨ラーメンの席が誰かと相席だということに気づいてしまった。
誰か、というか、若干フレームインしているネイルで女だと気づけてしまった。
悪夢でドキドキしていた心臓の音が、スンと落ち着く。

「ショック療法かよ…」

3人目

元カレと別れて半年。
元カレはすでに新しい恋をスタートさせていた。
「それに比べて私は・・・」
元カレを忘れようと仕事に打ち込むものの、プライベートでは、独り身になった時間をもてあまして日々をぼんやり消費。
別れた直後から何の前進もない。
元カレだけ幸せそうなのは悔しい。

「あの悪夢はこれを暗示していたのかもしれない。。。」

奈津子は、人類滅亡の夢の意味を検索した。
そこには悪夢とは反対の意外な言葉が記されていた。

「新しいスタートに立つ。」

元カレのインスタはもう覗いてやるもんか!
私だって新しい恋を見つけるんだから!!

深夜は頭が冴えて行動的になるらしい。
奈津子は再びスマホを握った。
そして、口コミ評価の高いマッチングアプリをインストールして、さっそくやってみることにした。

4人目

奈津子にとってマッチングアプリを使用するという経験は初めてのことだった。
マッチングアプリ…、所謂出会い系というものに対して良くないイメージを持っている人間は多いだろう。
奈津子もどちらかといえばそちら側の人間だった。

幼い頃から少女漫画を愛読していた奈津子にとって、出会い系特有の軽いイメージがどうしても好きになれなかったのだ。

しかしそれは数分前までの話。

今の奈津子に怖いものはなかった。
いつもなら億劫な筈のユーザー登録作業をささっと済ませ、意気揚々とまだ見ぬ世界へと足を踏み出した。

5人目

リアルに彼氏になって欲しいから、
お相手は自分の居住地域の近くの人。
検索条件はそれだけにしてみる。
どんな男性会員がいるのだろうか?
ドキドキする。
意を決して検索ボタンを押す。
213人ヒット。
多くないかい?!?!

5人ぐらい表示された男性会員の詳細を読んでは次のページをめくる。
車好き。釣り好き。
家事得意アピール。
スポーツにハマっている人。
乗馬やサーフィンが趣味という人もいる。
40代のバツ2、子持ち。
50代の人までいる。

元カレとしか付き合ったことが無かった奈津子は、
色々な男性がいすぎてビックリしてしまう。
「お付き合い前提で絡んでくれる人」を探すハズだったのに、社会見物をしている気分で次々とプロフィールを見ていった。
眠気はとうに飛んでいたので寝ることを諦め、213人全員のプロフィールをざっと読んだ。
中には「趣味が合いそう」とか、「話してみたいな」という人がいたが、213人分もプロフィールを読んだら、誰が誰だか分からなくなってしまっていた。

「元カレの他に、こんなに男性がいたんだなあ。」
この半年出会いがなかったのは、求めていなかっただけだったのだ。
ムダな時間を過ごしちゃったかな、と奈津子は後悔した。

マッチングアプリは、相手のプロフィールを見ると足跡がつく。
その足跡を辿って相手の方が奈津子のプロフィールを見て、気になるとメッセージをくれる。

そんなシステムも知らずに213人ものページに足跡を残してきたものだから、
この直後から、奈津子はメッセージの嵐に見舞われることとなった。

6人目

"車持ちです(^○^)ドライブしませんか!?"
"初めまして♪足跡ありがとうございます♪呑みいきませんか?オジサンですが(-_-;)"
"彼女いない歴=年齢です!!!色々教えてください(;_;)"

男性会員からのその怒濤のアプローチに足跡を残してしまったことを若干後悔しつつも一つ一つ返信していくことにした。
地雷だろうがなんだろうが、女として認識されているこの感覚はなんだか心地いい。ウシジマくんだったら破滅コースだろうが、休みの日の明け方なんだ。許されるだろう。

"初めまして、なつです。メッセージありがとうございます。"
ピンとくる男性もいないまま、だらだらと探り合いのメッセージを続けていたがそのうち奈津子は寝落ちしてしまった。

7人目

「げぇ……」

目が覚めると午後1時。
これから彼氏を作ろうと決心した矢先、こんな自堕落な生活をしているのはどうなのだろうかと思ったが、213人もいるんだから、1人くらいこんなだらしない女を好きになってくれる男性がいたって良いじゃないか。

と言っても限度があるか……。

とりあえず顔を洗い、歯磨きをし、簡単な昼食の準備をしてから明け方に登録したマッチングアプリを開いた。

少ないよりかはマシかもしれないが、それにしても213人は多い気がする。
全員とメッセージでやりとりしていたらそれぞれの名前を覚え切る前に、奈津子のスマホからマッチングアプリが削除されることになるだろう。
そうなる前に、なんとか最低1桁程度の人数には数を絞りたいところだが。

「どうしたもんかなぁ〜」

めんどくさくて袋から取り出した食パンにそのまま齧り付きながら奈津子は考える。
とりあえず、挨拶の時点で会うことを要求してきた人たちは無視することにした。
だいぶマシにはなったが、こうやって冷静になってみると少なくともまだ少しの不信感や恐怖は残っている。
少し慎重すぎると言われても仕方ないが、最悪のケースを想像すると間違ってはいないはずだ。

それからも、奈津子は長時間ああでもない、こうでもない、と1人試行錯誤し、なんとか彼氏候補(?)を50人程に絞ることができた。
が、それでもまだ50人もいる。

正直この時点で疲れ切っていた奈津子は、数少ない友人に力を借りるべく電話をかけることにした。
ちなみに現在の時刻は午後18時半である。

8人目

電話をかけた相手は、同い年で、
婚カツにいそしんでいる由貴。
マッチングアプリを使ったことがあるはずだ、
とふんだのだ。
「やっと彼氏を作る気になったのね!アプリは使い慣れてるから何でも聞いて頂戴!!」
由貴はノリノリである。
「・・・で、何を聞きたいの?」
「とりあえずやってみたんだけどね・・・
候補が50人ぐらいいて、そこから絞れないの。。。」
「50人?!そんなにストライクゾーン広いの?!」
「うーん、趣味とか価値観が違っていても、
自分の世界を広げてくれそうだからいいかなぁ、と思って。」
「そういうことね。
じゃあ、顔は?」
「ハゲてなければいいかなぁ」
「・・・。」
しばらくの沈黙ののちに由貴が口を開いた。
「アプリの使い方を分かってないんだね。
明日休みかい?会って絞り方教えてあげるから。」
「わー、助かる!!」
二人は明日、ランチを食べに行く約束をして電話を切った。

奈津子は一度アプリから離れてみることにした。
疲れていたから夕飯の支度はする気になれず
コンビニ弁当で済ませてしまった。
それから気分転換に、近くの温泉に行き、マッサージも受けてきた。
帰って来たのは21時。
さあて今日はいい夢を見るぞ!
と布団に入ったものの、午後まで寝ていたのだ、
寝れるワケがない。
仕方なしに再びマッチングアプリを開いてしまった。
怒涛のメッセージラッシュの対応ばかりしていて、マッチングアプリの使い方をよく分かってなかった。
基本に返って、プロフィール作りからやり直す。
「50人からもうちょっと絞って、その人だけにはメッセージを返してから寝よう。」
結局、再び選考作業だ。
ひと仕事をする前に一服。
「そうか、タバコ吸わない人は外せばいいんだ!」
カンタンにチェックポイントが見つかった。
すぐにタバコを消して、選出作業を開始し、喫煙者だけに返信していった。
人数は17人。33人もの男性がタバコを吸わない
という事実に驚愕した。
「子ども欲しいし、禁煙も考えなきゃかなあ」
と思いつつ、
作業が済んだのでとりあえず一服。
時間は23時。
まだ眠くない。

9人目

ただBGMがわりに流していたテレビ番組から懐かしいギターの音が聞こえた。

「ミケバンじゃん」

元カレが好きだと言って教えてくれた"ミケネコバンドシンドローム"。元々音楽が好きだった奈津子もハマって何度かライブに足を運んでいたが、その当時は小さなライブハウスでやっているだけだった。

"今年注目バンド!"

どん!と特集を組まれている。元カレといざこざがあってからライブも遠ざけていたから全然知らなかった。するとマッチングアプリから通知がきた。

"趣味はライブハウスに行くことなんですけど、ミケバンって言ってわかりますかね…💦"

心臓が高鳴る。

10人目

奈津子はメッセージに食いついた。

「ミケバン!大好きです!ライブにも行きます!」

それから奈津子は、「トオル」という、3歳年上の男性と、テレビを観ながらミケバンの話で盛り上がった。

番組の最後に、ミケバンのライブ配信があることを知った。
1ヶ月後の2月23日。
奈津子はトオルとのメッセージの合間を縫って、
ライブ視聴の手続きを済ませる。

「ライブ配信のチケ、さっそく取っちゃいましたよ♡」
トオルにもすぐにご報告。
「え、早いね!オレも申し込まなきゃ。」

しばらくして、トオルからまたメッセージが来た。

「オレもチケ取りました!
良かったら当日、一緒に観戦しませんか?」

奈津子は、トオルのことをほとんど分かっていないし、好きかどうかなんてこともよく分からない。
ライブに足を運ぶと、近くの席の人と仲良くなって、帰りには一緒に打ち上げに行ったりしてしまう奈津子だ。
その乗りで、軽い気持ちで
「いいですね!是非一緒に見ましょう!」
と即答してしまった。
メッセージを送ったあと、急に冷静になり、
「もっとどんな人か知っておくべきだな」
とトオルのプロフィールを再確認する。

31歳、結婚歴無し
年収300~500万円
趣味 ライブ観戦
喫煙 する

それしか書かれていなかった。

「うーん。。。」

大丈夫なのだろうか?
不安になってくる。

トオルからメッセージが来た。

「今夜は遅いからこの辺で。
おやすみなさい!
ライブ、楽しみだ!!!」


タバコを吸う。

「由貴ならアプリでマッチングした人と会ったことがありそうだな。明日聞いてみるか。」

それから片手でスマホを操作して、
「マッチングアプリ 初デート」
で検索して、いくつかの記事に目を通してみる。

「やっぱりトオルさんのこと、もっと知ってからの方がいいな。」

ベッドに潜り込み、トオルにどんな質問をしようか、と考える。

ポツリ、ポツリと、他の男性会員からのメッセージが届く。
奈津子はすぐに確認して返信していった。

「夜型なんですか?」
と聞かれたのは2:30。
今夜も夜更かしだ。

「最近夜更かしが多いです。」

ミケバンの話で盛り上がってすっかり目が冴えてしまった。
奈津子は寝るのを諦め、缶チューハイを飲み始め、男性会員たちとのやり取りを楽しんだ。