冬から始まる恋物語

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  • 恋愛
  • 性的描写有り
  • 楽しんだもの勝ち
  • ヒロイン増やすのあり
  • 登場人物が死ぬの無し
  • 現代ドラマ
1人目

どこへいったんだ?
スマホが見当たらない。
電車に乗り、空いた席に座り、スマホでも見ようと思ったら、バッグに入っていないのだ。
記憶を辿りながら電車を一旦降りる。
さっきまでいた喫茶店か?

急いで引き返す。
夕暮れの町。
帰宅途中でごった返す人の群れを逆走。
さっきまでチラチラ降っていた雪は本格的に降り出し、風まで出てきた。
こんな日は早く帰って温かいお風呂に入り、鍋でも食べてぬくぬくしたいのに。
予定外だし、スマホが無いことが不安だしで泣きそうになる。

赤信号。
スマホが誰かに拾われ悪用されはしないか、と気が気ではない。

早く青になれーー!!

急く気持ちと寒さとで、足踏みをしてしまう。
そんな時だった。
「ユキちゃん?!」
隣の人から急に名前を呼ばれた。
えっ?
「やっぱユキちゃんじゃない!」
見ると、入院した時に同室であったサナエちゃんであった。
「あれ!サナエちゃん!お久しぶり!元気だった?」
「うん、元気だよお。ユキちゃんも元気そうで。
これからお出かけ?」
そういうサナエも町中に向かうようだが、飲み会かな?
そんな疑問が浮かんだが、今は急いでいるのだ。
話は手短に。
「そこの喫茶店にスマホを忘れて来ちゃったみたいで・・・。」
「あら、そうなんだ。あるといいね。」
信号が青に変わる。
ゆっくり話しているヒマはない。
「うん、ありがとう!
じゃ!今度ゆっくり・・・!」
そう言うとユキは走りはじめた。
サナエちゃんはおしゃべりだからな。
捕まったら長くなりそうだ。
邪険にしたことを申し訳ないと思いつつ、うまくかわしたことに安堵もした。

1分ほど走って、サナエと十分距離が出来たところで、ユキは走るのを止めた。
早歩きをしながら、
「どうかスマホがありますように!」
と心底祈る。

ほどなくして喫茶店に着いた。
さっきまで座っていたテーブルを確認する。
ない。
店員をつかまえ、スマホの忘れ物はなかったか聞いてみる。
「はい、ありますよ、お預かりしています。」
良かった、良心的な人に拾われていたんだ!
「こちらでお間違えないですか?」
「はい!」
ほっと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます!
どなたが拾って下さったんですか?
お名前など分かりますか?」
すると店員は、カウンターに一人いる男性を指して、
「あちらの方が拾って下さりました」
と教えてくれた。

2人目

マスクをしているせいで、その人の顔はよく見えない。
ただ、雰囲気だけで言うならば、イケメン。
かっこいい。
ブラック珈琲と思われるものを、口にしながら、「人間の定義とはなにか」という本を見ている。
カフェに居る人達はみんな、そう思っているはず。
私は恋をしたことないけれど、思う。
これが恋なのだと。
私はスマホを拾ってくれた人に惚れて、恋をしたのだと。
「あ、ありがとうございます!カフェでなくして、良かったです。」
気づけば、口から出ていた言葉。
その人は、
「君、面白いね。たしかに、電車の中で落としたら悪用される可能性があるけど。珈琲でも奢ってあげようか?いや、奢らせて。」
と、笑っていった。
その太陽のような笑顔が私の胸を締め付けた。
「いやいやいや、奢ってもらうなんて論外です。私が助けてもらったんですから、私がおごるべきですよ!私が、奢ります!」
初対面でこんなにズカズカ言うなんて迷惑かもしれないけど、私がそう思ったことは、やっぱり、伝えないとだめだよね。
「OK 君に奢ってもらう。そういえば、君の名前は?俺の名前は、柊紬。(ひいらぎ つむぎ)呼び捨てでも構わないよ。」
やったー奢れる。紬さんに、おごることができる。紬さんのことが好きだけど、呼び捨ては、まだハードルが高すぎます。
「えっと、ありがとうございます。心を込めて、奢らせてもらいます。私の名前は、雪 椿(ゆき つばき)です。私のことも、別に呼び捨てでも構わないですけど・・・呼び捨てに慣れていないので、反応が遅れるかもです。」
紬さんは、少し発声練習をしたように、マスクを動かした。
「椿。俺はこのカフェにいつも火曜日に来る。かならず来ると、今ここで誓う。もしよかったら、ここまで来て。色々、話そ」
ちょっとまってください。かっこよすぎます。その顔は、反則です!気づいたら、もう名前呼び+呼び捨てだし。本当に、惚れているんですけど。
「紬さんがいいなら、行きたいです。もしかしたら、火曜日に行けないときもあるかもしれないですけど・・・閉店時間間際でもいいなら、行きます。私も、行くことを誓います。」
「ありがとう、椿。」
これは、現実ですか?これだけでも十分なんですが。本当に、好きです。
「もう時間なので帰ります。ありがとうございました。また、来週の火曜日に会いましょう。」
「うん、また今度。」