冬から始まる恋物語
どこへいったんだ?
スマホが見当たらない。
電車に乗り、空いた席に座り、スマホでも見ようと思ったら、バッグに入っていないのだ。
記憶を辿りながら電車を一旦降りる。
さっきまでいた喫茶店か?
急いで引き返す。
夕暮れの町。
帰宅途中でごった返す人の群れを逆走。
さっきまでチラチラ降っていた雪は本格的に降り出し、風まで出てきた。
こんな日は早く帰って温かいお風呂に入り、鍋でも食べてぬくぬくしたいのに。
予定外だし、スマホが無いことが不安だしで泣きそうになる。
赤信号。
スマホが誰かに拾われ悪用されはしないか、と気が気ではない。
早く青になれーー!!
急く気持ちと寒さとで、足踏みをしてしまう。
そんな時だった。
「ユキちゃん?!」
隣の人から急に名前を呼ばれた。
えっ?
「やっぱユキちゃんじゃない!」
見ると、入院した時に同室であったサナエちゃんであった。
「あれ!サナエちゃん!お久しぶり!元気だった?」
「うん、元気だよお。ユキちゃんも元気そうで。
これからお出かけ?」
そういうサナエも町中に向かうようだが、飲み会かな?
そんな疑問が浮かんだが、今は急いでいるのだ。
話は手短に。
「そこの喫茶店にスマホを忘れて来ちゃったみたいで・・・。」
「あら、そうなんだ。あるといいね。」
信号が青に変わる。
ゆっくり話しているヒマはない。
「うん、ありがとう!
じゃ!今度ゆっくり・・・!」
そう言うとユキは走りはじめた。
サナエちゃんはおしゃべりだからな。
捕まったら長くなりそうだ。
邪険にしたことを申し訳ないと思いつつ、うまくかわしたことに安堵もした。
1分ほど走って、サナエと十分距離が出来たところで、ユキは走るのを止めた。
早歩きをしながら、
「どうかスマホがありますように!」
と心底祈る。
ほどなくして喫茶店に着いた。
さっきまで座っていたテーブルを確認する。
ない。
店員をつかまえ、スマホの忘れ物はなかったか聞いてみる。
「はい、ありますよ、お預かりしています。」
良かった、良心的な人に拾われていたんだ!
「こちらでお間違えないですか?」
「はい!」
ほっと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます!
どなたが拾って下さったんですか?
お名前など分かりますか?」
すると店員は、カウンターに一人いる男性を指して、
「あちらの方が拾って下さりました」
と教えてくれた。