ユリの花が咲くころに

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  • 登場人物が死ぬの有り
  • バッドエンド
  • 性的描写無し
  • 自由に続きを書いて
  • 恋愛
  • ラブコメ
1人目

{4月}  ✳出会い✳

「ふぁ…あ?」
4月、屋上で少年_向日葵はいつもどおり昼寝をしていた。
もう高校生になったというのに彼はまだ数回ほどしか学校に来ていなかった。
風が吹くたびに彼の金色に輝く髪をなでる。葵がそばに置いた青色の角張ったスマホが鳴る。そのアラームは下校の時間になったことを知らせる。その音と同時に屋上の扉が開き一人の少女が入ってきた。少女は迷わずフェンスにのぼり柵の向こう側へ行く。アラームで目を覚ました葵の目の前にいる真っ白な少女は葵をちらりと見た。
――誰?これから死ぬっていうのに邪魔だなぁ。でも関係ないか。どうせ私に興味なんかない。――
彼女はそんな事を考えていた。そしてまた赤い夕焼け空へと視線を移す。そばには靴がきれいに揃えておいてあった。少女を見た葵の耳はほのかに赤く、そして熱かった。
「……何してんの?お前。死ぬ気か?」
そう言うと、少女は驚いたように振り向いた。葵が話しかけてくるとは思わなかったようだ。そしてため息をついて言った。
「キミには関係ないでしょ。それに私が死のうと私の勝手」
その言葉を聞いた瞬間、葵は一瞬にして目を覚ました。そして、こう言った。
「お前、アルビノ……ってやつか?」
「……はぁ?今それ関係ある?」
少女は呆れたように言い返す。
「戻ってこいよ。俺がお前と生きてやる」
気がつけば葵はそう口走っていた。
――放っておけない――
その一心だった。
「……なんで、なんで私に構うの?キミも私のこと気持ち悪い、悪魔だ、っていうんでしょ?」
風が吹き、色素の薄い少女の髪を揺らす。
「別にいいだろ。ってか俺はそんな事言わねぇよ。それより早く来いよ」
そう言って葵は手を差し出す。
しかし、少女はその手を取ろうとしない。
それを見た葵はフェンスを蹴り破り強引に少女の手を引っ張る。
「やめてっ!死なせてよっ!私は、この世に必要ない存在だから……」
「んなことねーよ」
「嘘つかないで!」
少女が声を荒らげる。少女はハッと取り乱したことに気づき声を抑える。
「だから……キミには関係ない。私の命をどうしようと勝手でしょ?もう話しかけないで」
スマホを取り出し、幼馴染_紅葉に『先帰ってて』と連絡をするとくるりと向きを変えあるき出す。
帰り道、少女の後ろを葵がついてきていた。
「ねぇ、どうして私を助けたの?ほっときゃ良かったでしょ」

2人目

「お前のこと気になったから。」
「はぁ?意味分かんない。」
「あのさぁ、キミっていうのやめてくれない?俺にはちゃんと親が付けてくれた向日葵っていう名前があるんだけど。」
「それはわかったけど、向日。向日も、お前って呼ぶのやめて。私は、白石ゆり。名前も、白が入ってるのか。すごい嫌な名前だ。」
は?お前がアルビノだかなんだか知らねぇが、俺だって持病持ちだ。不幸なのは私だけとか思い込むんじゃない。みんな、苦しい時を乗り越えていまを生きているんだから。
「俺は、癲癇だ。いつ発作が起きるかわからない。もし発作が起きても自分に意識はある。『大丈夫?救急車!』といっているのをただ聞くだけ、資格も正常。ただ、体が動かないだけだ。でも、もし道路で発作が起きたら、車に惹かれる可能性があるんだぜ。同じような病気どうし、仲良くしようぜ。」
「キミにそんな事があるとは、知らなかった。」
「だから、キミじゃねぇ。向日だって言ってんだろ。」
「向日。お前、いい名前を持ってる。」
「おお、どうもどうも。でも、俺は向日葵っていう名前よりもお前の名前のほうがかっこいいと思うぜ。」
「そう。でも、誰も私のことをわかってくれない。わかっているような気に勝手になっているだけ。私だってわからない。正解が何なのかわかんない。前お母さんに「私、死にたい」って言ったとき、「落ち着いて、ゆり。生きていればいいことあるから」っていわれた。生きていればいいことがあるって何が?どういうふうに?そんな占いのようなことを言わないで。それを知りたいのは今なんだ。とりあえず生きたって、何も楽しくない。ねぇ、向日。生きるって、何なの?生きる意味って、何なの?死んで、何が悪いの?生きるって、何なの?死ぬって、何なの?」

3人目

ゆりの目にはうっすらと涙がにじんでいた。柔らかな夕方の光が涙に反射している。
「それが生きるって事なんじゃないの?」
涙に気づいていない、という風にぶっきらぼうに葵は言葉を返した。

「……なにそれ」
何を言ってるのかわからない、という表情だ。
「息継ぎもしない勢いで必死に話してさ。そういうのが生きてるって事なんじゃないの?」

葵は言葉を続ける。手の甲で目をこすっている、ゆりの髪が揺れる。
「そうやって必死で何かやってるうちに、いつの間にか年とって自然と死んじゃうんだよ」
どこか遠い目をしながら、葵は息を吸う。

「だから、いま死ぬ事ないって。生きろよ」
電車が通り過ぎ、目の前にある遮断機が上がる。
「……変な人」

二人は、夜の闇に染まりつつある空の下、歩き出す。

4人目

「君気持ち悪い。」 「うわっ悪魔じゃん。」 「近寄らないで!」
周りから言われてきた言葉が、ゆりの胸を貫いた。
やっぱり私は・・・。
「そういう悩みを抱えてきた奴ってさ。」
葵が話し出した。
「必ず自分を励ましてくれる誰かに出会うんだよな。 でもやっぱり自分はこの世に必要ないって
何度も思ってしまう。 それでまた励まされる。 それの繰り返しなんだよ。」
「え・・・どういうこと?」
ゆりが驚いた表情で葵を見つめた。
「死にたいと思っても、励まされるからまた仕方なく生きる。
やっぱり死ぬのは明日にしよう、 今日もやめておこう、つってな。」
「なんで分かるの?」
「俺にもそういう時期があったからな。」
「・・・。」
「それで、明日にしようって繰り返していけばそのうちにすごく良いことに出会って、気づいたら過去のことを笑って皆に話せるくらい幸せに、生まれてこれて良かったって思えてるようになってるんだ。」

5人目

向日葵はあくびをしながら、今日も屋上への階段を上がる。


葵が癲癇になったのは小学6年生の頃だった。
いつからかぼんやりとするようになった。
いち早く気がついた同級生たちは気味悪がった。

話をしている最中。
テストが終わり、問題用紙を回収する瞬間。
等々…

なんの前触れもなく、それは突然にやってきた。
「葵、葵!」「向日?」…
最初、同級生たちは、葵に声をかけてくれてはいたものの、返事もなくしばらくぼんやりとしてしまう葵から距離を置いていった。

あれは小学校の卒業式の日だった。
校長先生からひとりずつ卒業証書が渡されていた。

バタンッ

それが葵の最初の発作だった。

主治医の篠田先生からは、睡眠が大事だと、無理をするなとお墨付きがある。
ぼんやりするのもいまでは癲癇の症状だと知った。
葵が眠くてしょうがないのは薬の副作用なんだそうだ。


屋上にはゆりがいた。

6人目

「……向日」
ゆりはフェンスにもたれかかっていた。白い髪が、昼休みのおだやかな風に揺れている。
いたのか。屋上、立ち入り禁止になってるのに。悪いヤツだな。葵が愉快そうに話す。

「……誰かさんが、フェンス蹴り破ったからね。キミより屋上、来てるんだから。私」
そう言いながら、ゆりは厳重にテープが貼られた、フェンスの「あった」空間を眺める。
朝のホームルームで「下に誰もいなくて良かった」とか言っていた。知ったこっちゃない。

今日は靴そろえてないな。よし、ちゃんと生きる気になったようだな。えらいぞ、ゆり。
そう葵が嬉しそうに話すと「フェンスのネジが外れて死ぬかもしれないし」と返ってきた。
本当、ひねくれてんなぁ……。葵も同じようにフェンスに、もたれかかる。

「……本当に外れるかもよ? そんな細い足で、蹴り破れちゃう程度のフェンスだし」
お。ひでぇなー。これでも中学1年まで空手やってたんだぜ。ってか量より質だよ、うん。
「……ふーん」

しばらく沈黙が流れた。フェンスにもたれたまま、ゆりの横顔を覗き見る。
白い肌。白い髪。なのに、目だけうっすらと赤い。なんていうか……うん、綺麗だよな。
「……綺麗?」

まずい。うっかり言葉に出してしまっていたようだ。いやいや! 葵は、軽く慌てる。
「……本当にそう思ってる?」
思ってるよ! だから思わず言っちゃったんだろうな! 葵はそう答える。

何より、ゆり。お前、動画サイトとか見た事ないの? アルビノって人気あるんだぜ。
綺麗とか神秘的とか。お前の周りも、わりと嫉妬したから悪口言ってただけだったりして。
「……そんなわけない。それにネットは嫌い。皆、本当にそう思っているかわからないし」

本当にそう思ってるかどうかは、ネットに限らずだろ。
信じる事ができるかどうか、じゃないの。まずは、何でも信じてみる努力をしないと。
「……本当にキミは、どこか悟ってるような物言いをするね」

死んだじいちゃんのおかげだな。葵は、遠くを見るような目でつぶやいた。

7人目

「あの、さ、考え事してるところ悪いんだけど、キミっていうのやめてって言ったよね。なんでそんな言い方するわけ?名前忘れちゃった?」
なんでそんな挑発するような言い方をするのさ。俺は重い病気でもないけど、今を頑張って生きてるのに。
「忘れるわけないだろ!馬鹿にするなよ・・・俺だって、俺だって!」
神秘的な白い髪が風に揺れる。
「私は人が好きなの。」
「・・・・・・え?」
呆れたようなため息を吐く。そしてもう一度。
「私は人が好きなの。喜怒哀楽の表現の仕方が、個人の個性が、髪型とか、見た目とか。機械が好きなわけじゃないの。だからネットは嫌い。」
喜怒哀楽・・・そんなこと考えたこともない。
人の顔なんて見えない方が安心するだろ!?
自分を他人に曝け出さなくていいじゃないか。
「急に黙り込まないでよ。ほら、癲癇だって、大変なんでしょ?」
なんだよ、なんなんだよ。疑問形で俺にきくな!
「人ごとみたいに会話してさ。あんたは楽だよな、美人な上に神秘的な見た目。くそっ。」
いっちまった。でも、俺は。
「楽って何!私が今まで楽して生きてきたと思ってんの?!」
「お前に何がわかる!俺は…プールに入るのにもみんなと違う帽子を被らないと。作ったカヌーに友達が乗るのを黙って見ろと。副作用で寝てしまっただけなのに怒られる。気持ちわかんねぇだろ!」
ああ、いいすぎた。わかってんだ、俺だって。
「あんた、何。」
「……」
「少なくとも私は!一生懸命生きてきた。」
「だから!?なんだよ!おれだってしにたい。でも死ぬ勇気なんてない。」
「いいよ。もしあなたが死んだら、私もついていってあげる。」