分かりません。
「桜。愛してる。」
突然放たれたキミからの言葉。
動けなくなる。
「結果は、来週。来週、教えて。」
少し頬を赤らめて、小走りで去っていく。
私のどこがいいんだろう。
いつも「可愛くないなぁ」とか、
「ブス〜」とか、
「桜って、顔にもよらず、いい名前。」
とか。
え、でも、キミは、「愛している」って言ったよね?
聞き間違いじゃないよね?
嗚呼、結果、どうしよう。
OKか、NOか。
この一週間の、彼の行動による?・・・・
一日目。
彼の今後一週間の行動を見守るため、まずは彼を知るところから始めようと思い、まずは彼の教室を特定することにした。
1組から順に覗いて行くと、
…見付けた。彼だ。
彼は目立つので、目の端に留まるだけですぐに判別ができた。
彼は、7組。
教室の様子から、彼は1軍グループに属している上位カーストの人間であり、少なくとも私のような女子が気軽に話しかけられるような人間ではないことが見て取れた。
そんな人が、なぜ私を?分からない。
考えても分からないが、明日以降も観察を続けてみることとする。
ニ日目。天気は雨。
遠巻きに見てるので結局名前すらわからなかった。けれど、ずっと前に彼とは一度会ってるような気がしたのだ。
「桜、愛してる」
いくら何でも唐突だ。あの時は私も咄嗟のことで頭が混乱してたけど、よくよく考えたら見ず知らずの、スクールカースト上位が私に話しかけてくるのは不自然。
それに、何より一番疑問なのが名前で呼ばれたこと。「可愛くない」とかは友達の評価であって彼からの評価ではない。完全に初対面だ。
けれど私は、その不自然さをかき消すような懐かしさを覚えたのだった。
三日目、天気は暴風雨。
この日は台風の影響で学校が休みになってしまったため、私はあの懐かしさが何なのか確かめようと家にあるアルバムを見てみた。
だがやはりと言っていいのか彼に繋がる写真は何処にも無かった。だがやはり1度会っているとは思う。しかもかなり親密な関係で……。
初対面なはずなのにこんな事を思うのは何故なんだろう?やはり明日からまた彼を観察しなくては……。
四日目、天気は快晴。
彼は今日も人の輪の中。本当に綺麗な顔。女装でもしたら似合いそう……。
「あまは れい」
その名前が頭の中に響いた。
幼稚園の年少さんだった頃によく遊んだ女の子。
えぇっ?
彼の顔を見つめる。
面影はあると言えばあると思う。
えぇっ?
昨日、アルバムを見たときは男の子しかチェックしていなかった!
だって! それはそうでしょう?
彼は男なんですから!
えっ? でも、どうすればいいの?
ていうか、これ聞いていいやつ?
どうしよう?
「"天羽玲"」
歯車が噛み合ったような感覚。掘り起こされた記憶と感情が溢れ出す。
「まさかこんな所で会えるなんて」
五日目。私と彼、いや彼女は放課後の教室で会話する。彼女の背中でカーテンが風に靡いて揺れた。
「ここ地元から凄く遠いのに。親の出張でもう二度と会えないと思った。ねぇ、どうして」
「この髪、同クラの女子に切られたんだ」
玲は自嘲気味に嗤った。それは小学校時代の壮絶なイジメの話。男装は自己防衛の為だった。
「愛せる女の子は……桜しか、いないよっ」
彼女はその場で慟哭した。
六日目。天気は曇。
昨夕、改めて玲に告白された。
性別を知った。過去を知った。正体を知った。
……そして今までの軽口は、装いは、仕草は、――それを隠すための方便。
玲が打ち明けられず、悶々とした想いを抱えていたことを、私は今まで知らなかった。
私はどうすべきなのだろう。岐路に立っている。
玲を慮るなら受けるべきなのだろう。でも私の気持ちは?
期限はいよいよ明日に迫る。
七日目。天気は雨。
起きた。昨日は玲の事ばかり考えていて全然眠れなかった。
あれ、、、、体が動かない。体が暑い。
頑張って立ち上がったが、頭がくらくらして辛い。
どうしよう、、、。体温計で熱を測ってみる。
38.5度。
ひどい高熱だ。急いで親に報告する。
やっぱり学校は休んだほうが良いらしい。
こんな大事な日に高熱なんて。最悪。玲に逃げたなんて思われたらどうしよう。
それでもし玲に嫌われたらどうしよう。
熱の影響なのか考えている影響なのかわからないくらい頭がくらくらする。
八日目
熱は40度を超えた。ああ、私は死ぬんだ。私は意識が遠くなった。目を覚ますと、地球がずっと遠くに見えた。そうか。私は宇宙と一つになるんだ。そう、それは神の迎えだ。私は死の世界に向かって飛び込んだ。そこでは死を迎えた人々が次の生命になる準備をしていた。私は何になるのだろう。私は意識を失った。やがて川を流れる感覚と共に目覚めた。私は魚になったのだ。そしてすぐに釣り上げられた。玲だ。玲は魚釣りをしていたんだ。玲は私を炎で炙ると、ポン酢をかけて食った。
嬉しい。これで玲と身も心もずっと一緒だ。
……ジリリリリ――
目覚ましの音に飛び起きる。
「あれっ私、食べられたんじゃ」
周りを見回し、鳴り響く時計を急いで止めた。そこは自室だった。
寝起きでぼーっとした頭を掻きむしると、一つの考えが浮かんできた。
もしかしたら今までのは全部夢だったのかも。そう思うと妙に納得がいって笑いが込み上げてきた。
にこにこしながら学校へ向かった。すると下駄箱に一枚のメモが入っていた。
『放課後、屋上で待ってる』
見覚えのある文字。
まさか、ここでもループするの!?
えーっと、抜けだす方法は――分かりません。