ボロボロボット
僕の家のロボットはボロボロだ。ひいじいちゃんが買ってからずっと一緒にいるらしい。
「番犬がわりにロボットを一家に一台」というのが当たり前になり始めた時代に買われた。
今では一家に一台ロボットなど当然で、何台も置いてある家もたくさんある。
一台しかいない、しかも半世紀以上まえのロボットしかいない僕の家はレア中のレアだ。
そんな隣を歩く我が家のロボットだが、ここ最近で様子がおかしくなってきた。
大きな身体のどこからか、ガリガリという音がずっとしている。
古すぎて、修理もできないのだ。
僕が昔
「なんで新しいロボットを買わないの?そのほうがいいと思うのに。」
といったら、お父さんは少し困った顔で言った。
「たしかに、ロボットを買ったほうがいいかもしれないけど、それでも曾祖父ちゃんから受け継がれてきたものをさ、これからも大切に受け継いだほうがいいと思うんだ。」
「受け継ぐ・・?」
「まだわかんないかもな。もっと大きくなったら、きっと意味もわかるさ。」
もうお父さんは死んでしまった。
病気だった。
でも最後まで、お父さんはお父さんだった。
僕の仲間はロボットだけになってしまった。
「ワタシはちかいうちに、こころもからだも、かんぜんにこわれてしまいます」
僕の隣を歩くロボットが、ガリガリと音を鳴らしながら、ゆっくり話し出す。
このロボットにも、今ほどじゃないけどそこそこ優秀な人工知能が備わっている。
人間ほどに歩いたり走ったり、動けるのはもちろん、話す事も、考える事もできるのだ。
「おかしくなったワタシがあなたたちかぞくを、きずつけてしまうかもしれない」
ロボットがガリガリと音を鳴らしながら、うつむく。
「そうなってしまうまえに、ワタシをこわして、すててほしいのです」
ロボットが言ったことに僕は反対だったけどお母さんはそうじゃないみたいだった。
「今までありがとうね」
ロボットにそれだけ言うと回収屋さんに電話を始めた。
お母さんはお父さんが言ってたことを忘れてしまったのだろうか?
このロボットはずっと一緒にいないといけないのに。
しばらくして電話が終わったお母さんが戻ってきた。
「このロボットは古すぎてメーカーで引き取ってもらえないんだって」
「じゃあ一緒にいてもいいの?」
「だから、私たちで壊さなきゃいけないんだって」
僕たちは黙ったままだった。
しばらく沈黙が続く…
それを破ったのは僕だった
「受け継がなきゃ、いけないと思うんだ…」
僕は父さんの最後の言葉を思い出していた
「僕が、このロボットを修理するよ」
続けていった言葉に母さんは驚きながら話す
「修理って、一体どうやって?あなた学校の成績だって0点ばっかりじゃないの」
「わかってるよ…それに何年かかるかもわからない…けど、こいつだって家族だよ。助けたいんだ」
それから僕は必死に勉強を初めた
寝る間も惜しんでロボットの本を読み漁り
少しずつ修理を重ねていった。
その本を読んだのは偶然だった。古いロボット工学の本。
そんな本を読んでも勉強にならないと思っていた。けど、むずかしい本ばかり読んでたので、ちょっとした気晴らしだ。
だけど、読んでいて飛び上がった。うちのロボットの設計図が載っていたのだ。
僕は緊張で手が震えながらも、ロボットの分解を始めた。直すために中を見なきゃいけない。
ガリガリ
いつもの音が鳴った。そして、一枚の鉄板を外した時、その音の主が飛び出てくる。それはネズミだった。
「ロボットを壊してくれてありがとう」
ネズミがしゃべっていた。
……ネズミがしゃべる!?
「え? え?」
「おかげでようやく出られたよ。アンタの親父さんも人使いが荒いねまったく」
ネズミはペラペラと饒舌に話し続ける。ツッコんだら負けってやつなんだろう。しかし、引っかかることを言ったなこのネズミ。
「父さんが? どういうこと?」
「なんだ知らないの?」
ネズミは呆れたようにため息を吐く。
「このロボットの動力源は、このオレだよ」
一瞬、何を言ってるのか分からなかった。
「……えっ?」
よく見ると、このしゃべるネズミもロボットのようだった。本当に、動力源がコイツ……?
「親父さんに、十年ほど経ったらロボットの中から出て行ってくれ、と頼まれてたんだよ」
死ぬ前に父さんが改造したらしい。あんなに大切に受け継ぐ事を話していた父さんが……?
「出て行ってくれ、とは言われていたけど出られなくなってね。助かったよ、本当」
ピクリとも動かない我が家のロボットの上で、ネズミはホッと安心したように息を吐いた。
「そうそう。大事な事を忘れてた。親父さんから伝言があるよ」
ネズミは話し始めた。
ピピーガガ。機械音声が流れ始める。
「悟。この声を聞いているということは、父さんはもうこの世にいないだろう。まず、謝らせてほしい。このロボットについてなんだけど、悟が生まれるずっと前から――ガタが来て機能停止してたんだ。それでも、どうにか再稼働させたいと思って、ネズミ型ロボットM-3689を動力源とした。けれど、動力源となったネズミの連続使用はもって20年。母さんには既に話していた。潮時だったんだ、すまない」
頭をトンカチで殴られたかのような衝撃が走った。じゃあ今までの苦労は何だったんだ?
「たまに、父さんやロボットの事を思い出してやってくれ!」
「それが、受け継いでいくって事なのかもしれないな。父さんもよくわからん!」
ハッハッハという父さんの愉快そうな笑い声と共に、機械音声がピピーガガ、と終了した。
「って事だったな。良い親父さんだな」
それじゃ、俺はこれでサヨナラだ。そう言ってネズミはロボットからひょいと飛び降りた。
ネズミにお礼を言うと「俺も、こんな感じの最後を迎えたいもんだね!」と去っていった。
今まで、本当にありがとう。そして、さよなら。僕の家族。ボロボロボット。