あとまわし

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1人目

ある日の午後のことだった

2人目

 雨音が響き渡る。青き紫陽花はその中で綺麗に咲いていた。GWも終わりを告げ、通学帽子を被った子供たちが帰宅する。
 4年A組の教室では、幾谷太一が居残りで宿題をさせられていた。
「太一くん、宿題が終わるまで帰らないように!」
 太一は宿題が大嫌いだった。

3人目

 だからこその居残りだ。太一は宿題は大嫌いだが、居残りは大好きだった。
 誰もいない教室の中で自分だけが教室に残っている。その事実に気分が昂まり、歌でも歌ってやりたい衝動を抑えるのが難しい。
 だが、歌ってはいけない。太一が宿題の次に嫌いな担任が戻ってきて、彼の唯一の楽しみである居残りライフが失われてしまう。悪ければ、そのまま臨時の家庭訪問にまで発展するだろう。
 それに、太一が歌ってはいけない理由はもうひとつあった。

4人目

「うたっちゃ、だめよ」
 太一は静かに瞼を閉じる。か弱そうな女性の姿。
(僕のせいで、ママは死んだ)
「太一くん」
 教室の入口からそう声をかけたクラスメイトの少女は、何のためらいもなく太一の宿題を覗き込んだ。なんて無遠慮なヤツ、と太一は思わず眉をひそめる。
「あはは、めっちゃ間違ってるじゃん」
 太一は一瞬イラッとしたが、なんとか耐えた。殴ったりなどすれば大問題になる。
 少女─立花 りんは、しばらく太一の宿題を眺め、思い出したように言った。
「ねえ、明日の音楽のテストだけど…」

5人目