そう、ここは
地獄だ。一見、オシャレなジャズ喫茶のように見えるだろう。しかし、ここは地獄なのだ。
一般に地獄にあるとイメージされる血の池や針の山などはもはや古い。そんなものはない。
地獄にも、オシャレでスマート、洗練された大人な雰囲気が求められる時代になったのだ。
カランカランという音が鳴ると共に、ドアが開く。
入って来たのは、中年の男性。
放火で家族を惨殺した後、自ら命を絶った男だ。
男はどかっと席に着き、タバコを吸った。
「死後の世界がこんなに平和だったら、
もっと早く死ぬんだったぜ。」
男はニヤニヤした。
しかしそう思ったのも束の間。
地獄の試練が始まった。
店内に流れていたBGMは消え、
火事の炎に巻かれて苦しむ、家族の叫び声が
大音量で聞こえて来たのだ。
それでも、男のニヤニヤは止まらなかった。
家族の阿鼻叫喚とした叫び声を聴きながらも、嬉々とした様子である。
男は家族を愛していた。
それは殺したいほどだ。男の異常性愛は家族を殺すことで絶頂を迎え、その官能のままに自ら命を絶ったのであった。
だが、試練は始まったばかりなのだ。
何かが男の足を掴んだ。ジュワッとした熱が伝わり、男の足が瞬く間に焼け焦げていく。
それは今もなお燃え続ける子供の手であった。
男はあっという間に激しい炎に包まれ、耳をふさぎたくなるような鋭い叫びをあげ始める。
そんな男の様子が、蓮の花が咲く巨大な池に映画のスクリーンのように映し出されていた。
大勢の人々がそれを見ながら「いいぞ」「もっと叫べ」などと、汚い言葉で歓声をあげる。
神も仏も天使も人々と一緒に眺めていた。とても穏やかににこやかに眺めているのだった。
平和で穏やかで。まるで絵に描いたような幸せな景色が広がる、地獄の上の世界。
そんな世界に飽きたのか、最近は刺激的で暴力的な内容が求められる。
そう、ここは……