決定権は天使と悪魔

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1人目

私には天使と悪魔が居る。
比喩でもなんでもなくて、本当に天使と悪魔が私にはいるのだ。
現に今天使と悪魔は、私の周りをウロウロしている。
手のひらサイズのちっちゃい奴らだ。

コイツらは、私以外には見えてないらしい。
私の人生を変えるかもしれない選択は、コイツらが話し合って決めるんだとか。
つまり私の人生の選択の最終的な決定権は、私でわなくこの天使と悪魔にあるというわけだ。

2人目

 ちなみに、私にしか見えないということは、コイツらに語りかけようものなら何もないところでぶつくさしゃべっている危ない人、という認定をされるわけで。そこらへんの配慮は抜かりがない。
 コイツらが見えるようになったのは、私が押し入れに閉じこられていた時。小さな天使と悪魔が私に語りかけたのだ。
「このようなところにいても、あなたにとって何も良いことはないです。自由を求めて飛び立ちましょう」
「ケッ。親の期待に応えることが正解か? お前の人生そんなもんじゃねぇよ」
 天使と悪魔の見解は、結局のところ「逃げろ」ということだった。そして次の瞬間――私は外に出ていた。薄汚い、ボロ雑巾のような服に、裸足の姿のままに。

3人目

周囲の人々のヒソヒソ声が聞こえる。
私が裸足だからだろうか、それとも服がボロ雑巾だから? みんな一様に私の悪口を言っているようだ。
中には私の心を読んでこようとする人もいる。
いけない! そんなことされたら、私の中にいる天使と悪魔のこともバレちゃうじゃない!

私が焦っていると、小さな天使と悪魔が話しかけてきた。
「黙って心の中を覗かれるんじゃねえぞ。ガツンと文句を言ってやれよ」
「ダメ、そんなの争いの種を蒔くようなものよ。アルミホイルを持ってるでしょ。それを頭に巻くの。そうすれば、誰もあなたの心の中を見るなんてこと、できないわ」

私は天使の言うことを聞き、頭をアルミホイルで覆った。
いい感じ! もう悪口を言うヒソヒソ声も聞こえない。心の中を読もうとする人だって、アルミホイルの電磁バリアに阻まれて、何もできないでいる。
うふふ、いい気分! 私は高らかに笑った。
だんだん気分が良くなってくる。歌でも歌っちゃおうっと。

私は意気揚々とした心の盛り上がりを感じながら、血が流れてズキンズキンと痛む足の裏の感覚を無視して、夜の闇の中をひたすら歩き続けていた。

4人目

「うわぁっっ」

目を覚ましベットから勢いおく起き上がる。周りを見渡せば自分の家だった。ということはいまさっきまで見てたのは...

「夢...か...」

服は汗でびちょびちょだ。

本当に変な夢を見た。自分の遠く昔の過去かと思ったら明らかに私のじゃない違う出来事が混じってた。
あんなアルミホイルを頭に巻いた記憶なんて一切ないぞ。私は!
すると天使と悪魔が話しかけてくる。
天使と悪魔は夢じゃないみたいだけど。

「どうしたの?悪夢でも見た?」

「まぁ、悪夢と言ったら悪夢だけども」

「ケッ、それよりよ。出ろよスマホ、鳴ってんぞ」

言われて気づくベットの近くに置いておいたスマホが鳴っているのに。
どうやら誰かから電話らしい。

5人目

 そもそも私はスマホなど持ち合わせていない。つまりこれは、得体の知れない存在から手渡された得体の知れない物品ということになる。先程の謎の高揚感など、疾うに消し飛んだ。
 それに家だというのに、毒親たちの気配がしない。つまりここは家を模した空間、ということになる。なんという悪趣味。
 恐る恐る、スマホに手を伸ばした。
「もしもし」
「あーあーあー、こちら神こちら神。応答せよ。オーバー?」
 一気に眉を顰める。通話相手は『神』と宣ったか?
「いたずらなら切りますよ」
「いや待って。私本当に神だから」
 まさか。神様なんて存在は信じていない。と、言いたいところだが、なぜか一瞬で家の外に出ていたり、アルミホイルの件りという、私の記憶にないはずの記憶の存在。人ならざる力が働いてるように思う。それに、幼少期の精神と現在の精神が混濁している、複雑な心理状態にある。ともあれ、相手が神だと言うなら、聞きたいこともあった。
「貴方が神だというなら、なぜこの世には不条理が存在するわけ? 全知全能の神は悪なんて存在をなぜ作ったわけ?」
「オイ!」
 悪魔のツッコミが入るが、私は意に介さなかった。
「あ、ザビエルっちが答えられなかったやつっしょそれ」
 それにしても随分とノリが軽いなこの神。二重の意味で苦手なタイプだ。げんなりする。
「アダムとイブって話は知ってるよね?」
「……うん」
 とある男女が、神様の言いつけを破って知恵の実を食べたという話だ。
「もともと人間側が約束を破ったわけだ。そして、神の手を離れ文明を築いた存在だからね、人間は。約束を破った存在を守ろうなんて滑稽極まりないよ。困ったときの神頼みなんていうけど、どの面下げて言ってんだろうね?」
「……なるほど」
 道理ではある。
「……それで? 私に天使と悪魔を遣わせた理由は?」
 誰もが抱くであろう必然の理由を、神様を名乗る存在にぶつけた。

6人目

「ん?」「いやいやだから私の側にいるちっこいこの天使と悪魔はなんなのさ?」
「そんなことを聞いてどうするっていうんだい?仮に教えたとして“それ”で君は満足するのかい?」「……どういう事?」「いずれ分かるさ」
神様とやらは意味深な笑みを浮かべた。いや見えてはないけど何故がすぐイメージできた。意味が分からない。さっきから謎現象に悩まされているのに肝心な事は何一つ教えてくれないとか…。なんだか頭にきたからこう尋ねてやった。「んじゃあさ?なんで人間なんて作ろうとしたのさ?しかも結局禁断の果実?だっけか結局意味なかったじゃん!!自称神様よ!!」精一杯鼻で嗤ってやった。天使が顔を真っ赤にしたかと思いきや今度は顔が青白くなり悪魔は呆然としてたのにいきなり笑いだしお前やっぱ面白い奴だなー!!なんて言って肩を叩いてくる。………やっぱりこれは夢なんだろうか?いや誰でもいいから夢だと言ってくれ。じゃないと私が可笑しくなりそうだから。

7人目

「んー……気まぐれ?」
 かっる。
「気まぐれで作られたの? 私達」
「うん」
「ごめん。あなた苦手だわ。ちょっとぶん殴りに行っていい? 今どこにいるの?」
「原宿駅」
「おっけー今から行くね? テレキャス背負って行くわ。決まり。かっとばせーシ・ン・ヨウ(神様の意)!」
 天使は固まり、悪魔は何だか高らかに笑う。
「あっはっはっはっ!! あっは!! ヒー! ヒー! おもしれー女! ふっつー神様相手に言うことかよそれ!!」
「ダメダメダメダメ。そもそも神は殺せないでしょ? それに私原宿にいないよ? さっきの嘘だし」
 そうだったこいつ神だった。電話越しでもわかるチャラ男だから忘れてた。一人称だけはもっともらしく「私」だけど。
「……別に禅問答したいわけじゃないから何も教えてくれないならこの辺で切るね?」
「ちょい待ちちょい待ち! 閑話休題! 今から一個お告げ与えるね。電話も元を正せばその為だからさ」