プライベート 変わらないマインド
「ふにゅっ遅刻遅刻〜!」
私は幸子。
魔法少女として、日々世界を守っている。
そんな私は、普通の魔法女子高校に通う16歳。毎日セーラー服を着て、必死に自転車を漕ぎ学校に通っている。
今日は遅く起きてしまい、なんとか朝のチャイムが鳴るまでに校門に入れるよう自転車を走らせている。
「幸子、今日は重役出勤か〜!」
「何よ、あんた達もでしょ〜が!」
「お〜怖」
魔法女子高校の隣にある魔法男子高校に通う、幼馴染タケルとリュウノスケも私と同じく遅刻らしい。2人は息を切らしながら走っている。
校門が見えて、いよいよラストスパート!…という所で、タケルが「幸子!止まれ!」と叫んだ。
驚いて急ブレーキを掛けると、タイヤが地面と擦れてギャギャギャと鋭い音を鳴らした。
「ふえぇ〜!もうっビックリしたよぉ!どうしたっていうのよ…」
「2人とも、あれを見てみろ!何か様子がおかしいぞ…」
タケルが学校の上空を指差す。
「な、何だありゃァ…」
リュウノスケが数歩後ずさって言った。
「ふ、ふえぇ…何があるって言うのよ…?」
何か嫌な予感がする。
恐る恐る、2人の視線の先にあるものを見上げると…
「うそ...あれは、非魔法界の負のオーラじゃない!?ふにゅ、なんて禍々しいの...」
「アレが負のオーラ...初めて見たぜ...」
「ふたり共!!この世界の魔力が奪われる前に俺たちで何とかしないと!」
人生最大のピンチを前に、毅然とした態度のリュウノスケを見て急にドキリとした幸子。
何だろぉこのキモチ?この胸の高鳴りは?
動悸かな?後で求心飲まなきゃ。
「いっけない!私ったら!今は幸福乙女ハピネスモードにチェンジよ!ポエムーン!!」
「フニニニューン!!」
「ハァ?幸子の眼鏡が喋ってる!?」
この眼鏡は幸子の家に代々伝わる魔法の眼鏡、ポエムーン。
通常時は度が入っている普通の眼鏡だが、正体は妖精の「ポエムーン」なのだ。
「フニュニュニュッフニュッッッ!」
「幸子の眼鏡がステッキに変わったぞ?!」
幸子は、パステルカラーの魔法少女の衣装に変身し、ポエムーンは魔法のステッキに変わった。
「ポエムーンと幸子でこんな負のオーラなんて消し去ってやるわ!行くわよ!ポエムーン!」
「フニューーン」
幸子はステッキに力を込め、眩い光が空に打ち上げられた。
「やったか?!」
ポエムーンの聖なる魔法を受けた負のオーラは、耳を劈くような断末魔を上げて散り散りに霧散していった。
「ヒュゥッ!さすがだぜ、幸子!」
「世界…救っちまったナ!」
「いにゃっまだよ…まだ嫌な気を感じるにゅん」
そう言って上空を睨み続ける幸子を見て、タケルとリュウノスケもばっと振り返る。
視線の先には、霧散した負のオーラの隙間からこちらを見下ろす3つの禍々しい人影が…
『サイアークがやられたようだな…』
『ククク…奴は四天王の中でも最弱』
『人間如きにやられるとは、負のオーラの面汚しよ…』
「おーい、腐乳田(ふにゅうだ)!校門の前で何してるんだ〜遅刻だぞ〜!」
「ふぇぇん!?こんな時にドゥーヂ先生危ないよぉ」
『『『ここに居る奴ら全員、大いなる方の生贄に捧げようではないか!!!』』』
上空から次々に怪しい巨大な光が迫って来る。
「おーい、君たちも早く行きなさい!遅刻だぞ〜」
「オイ!先公こんな時に何言ってンだ!!」
「あの光が見えねぇのか?!」
「ふにゅ!!先生危なぃ!ひゃあん!!」
「「さちこおおおおおおぉぉぉ!!!!」」
ドゴゴゴォーーー!!鋭い音と共に宙に舞う幸子。
幸子が地面に落ちる瞬間、タケルとリュウノスケの前を白い何かが光の速さで横切った。
「ふえぇっ…いたくなぃ…ぬくぃ…」
「腐乳田、大丈夫か〜!」
「しぇ…しぇんしぇえ…///」
白衣を着たドゥージは幸子をお姫様抱っこでキャッチした。
「ヒュッウ!先公やるじゃん!」
「僕も魔法高校先生の端くれだからな〜!高速移動くらいはなぁ〜!」
(白髪で顎がとんがってるドゥーヂ先生が、イケメンに見えちゃう…トゥンク…)
「おいっ幸子!先公!また攻撃がくるぞ!」
先ほどより強い光が幸子とドゥージに迫る。
「幸子ーーーーっ!!!」
もうダメ────
ドゥージの胸の中で最期を覚悟し、ギュッと固く目を瞑る。
…が、いつになっても痛みのようなものは襲ってこない。
ゆっくり目を開けると、そこには負のオーラ四天王(3人だけど)の攻撃を防ぐ、タキシードの衣装を身に纏った2人の姿。
「リュウノスケ…タケルなの…?その姿は…!?」
「俺たち、一体どうなっちまったんだ?」
「大切な誰かを護るという強い気持ちが、2人の覚醒を開花させたのじゃ」
「つまり…俺たちは姫を守る騎士≪ナイト≫になった…ってコト!?」
「オシッ!何でもやってやらァ!」
「俺もスゲーみなぎってきたぜ!!いくぞタケル!!」
「オウよッ!!!」
「「エターナルツインズ◎△$♪×¥●&%#?!ナンタラカンタラー!!!!!」」
ドドッ!!ドドドッ!!!ドドドドドドドガーーーン!!!
ペガサスを象った美しく眩い光が、無数に駆け廻りサクッと残りの負のオーラ四天王を一網打尽にした。
『クッ...我等もこれまでか...』
『...しかしまだあのお方のが居られる...』
『......タケル...忘れるな...お前の本来の目的を....』
「俺の……本来の目的…」
「おい、タケル!お前あいつらの仲間だったのk---」
「ウオアアアッアアぁああああっーーハァアアアッンッッ!!」
「ふえぇっン!どうしたのタケルゥ!」
タケルは、先ほどの魔王たちと同じくあの禍々しい負のオーラを纏い始めた。
『俺の目的は、この世で1番魔力が高いこの魔法高校を潰すことだ』
「なっなんだっテ?!」
『それにはまず、魔力が特別高いポエムーンを破壊しなければならない…』
「やっやめてぇぇタケルふええぇんっ」
もうタケルを止められる人は誰もいないーーー
「タケルの中の負のオーラがどんどん膨らんでいくゼ!」
「くっ…僕がここで奴を食い止めるから、早く逃げるのじゃ!」
「ドゥージ先生…!」
「僕は幸子の先生じゃぞ?心配には及ばんよ!」
優しい笑みを浮かべてドゥージが幸子の頭をポンと撫でる。
そのドゥージの顔を見ると、幸子はなぜかもう2度とドゥージに会えないような気がしてならなかった。
「私も…私も残るにゅん!」
「なぁに馬鹿なことを〜!リュウノスケ!幸子を連れて早く行け!」
「先公…アンタ、輝いてンぜ!」
「イヤッ!ドゥージーーー!!」
『ハハッ!!!馬鹿な真似を...マズはオマエから抹殺してやろう...』
「出でよ!僕の魔メダカ達!!!彼の精神世界へ泳ぐんだ!!」
ドゥージの使い魔である魔メダカ達は一斉にタケルを包囲し動きを封じた。
そして続々と精神世界へ泳ぎ出した。
『ウッ!!ハァアアン!!ヤメロオオォ!!!』
ドゥージは魔メダカを介してタケルの精神へ呼びかける。
「どうして君はこんなことを?」
「...俺もこんなことシたくないッ!でも俺は負の四天王に造られた人造人間なんだ...この世界で諜報活動を任務としている...」
「スパイか…どうじゃ幸子とリュウノスケは傷つけないでくれないか…」
「それはできな…」
「傷つけるなと言っていル!」
精神世界で大きなドゥージの顔がタケルを襲う。
「ハァアアアーーッン!」
(サイアーク様…俺ももうここまでです…)
--『タケル、お前がもしピンチになった時はこの言葉を思い出すと良い…』
(サイアーク様…)
--『その言葉とは…』
(そうだ、あの言葉は…)
「クライマックスジャンプ」
「ぬおおお?!」
魔メダカ達は消滅し、タケルから出た黒い閃光に襲われついにドゥージは…
「は、鼻緒が!」
幸子を担いで走っていたリュウノスケの草履の鼻緒が、無惨に千切れた。
「ふえぇんっ嫌な予感がするよぉ…リュウノスケッ急いでドゥージ先生のところに戻らないと…!」
「バッキャロー!ドゥージ先生の想い≪キモチ≫を無碍にする気か!俺たちだけでも…逃げないと…!」
「でも!ドゥージ先生は今頃…」
「幸子、後ろに乗れ!」
リュウノスケは草履を脱ぎ捨て、近くにあったバイクに跨った。
「盗んだバイクで走り出す!」
「行き先も…解らぬまま…!」
幸子の涙が、静かに風に消えた。
「クッソ!何だこの黒煙は!?前が見えねェ!」
「ふぇえん!もぉ〜何なのぉ〜!」
我武者羅にバイクを走らせた先には、倒れたドゥージとタケルの姿があった。
「...き君たち...なぜ...」
『クライマックスジャンプは物語の終盤へ移動し生存率を高める能力...こうなることは必然だ』
「こうなったら...幸子っ!しっかり掴まってろよ!」
「どうするっていうのよぉ!?」
「俺たち2人の魔力で、タケルを救うゾ!」
ブロロロッーーー!!!
バイクは猛スピードでタケルを撥ね飛ばした。
「ミスった!」
「ハァアアアッン!!!!」
「ふええっんタケルゥウウウ!!」
タケルな体は飛び、綺麗な弧を描いて地面に叩きつけられた。
「…あれっイッテェ俺何してんだ?!」
「うわああぁんっタケルゥ!」
「ぷっ、幸子、リュウノスケ変な格好してんな!ここはコミケ会場か〜!」
タケルは地面に叩きつけられた衝撃で、都合よく人造人間だったこととか色々忘れ普通の少年になった。
「これで一件落着か〜!」
『まだ私が残っている…』
「ふっふぇあの声は…何?!?」
倒したはずのサイアークが3人の前に立ちはだかる。
「サ、サイアーク!貴様は幸子に倒された筈では!?」
『クク…私は何度だって生き返るさ』
サイアークがコツコツとこちらに近付いてくる。
「クッ、来るぞ!構えろ!」
臨戦体制になる幸子とリュウノスケ。
何もかも忘れてしまったタケルと、手負いのドゥージはぽかんとしたまた様子を窺っている。
「サイアーク!これ以上近付くと俺の右手が火を吹くぜ…」
『囀るな小僧…私が用のあるのは幸子、お前だ』
幸子の目の前に来ると、サイアークがマスクを外した。
「お…お父さん…!?」
『幸子…大きくなったな』
「急に居なくなって...どこ行ってたのぉ!?」
「実は、任務でサイアークに成り代わっていたんだ」
「なんでよぉ!?」
「負の四天王を統べる者の正体を調べるためさ...幸子のことが心配で、タケルを造り側で見守らせていたんだ」
父は娘を8年ぶりに抱擁した。
「もう大丈夫...分かったんだ、その者の正体が!お前だリュウノスケ!!」
「ふぇん!?嘘よ!?」
「リュウノスケを消滅させないと、この世界は滅ぶ!頼む幸子力を貸してくれ!」
「そっそんなぁ...」
そんなことできる訳無いよぉ...だって私...
リュウノスケが好き…何者でも…
この愛は変わらないマインド…
『幸子あの最強魔法を』
「ポエムーン…」
『私を使ってこの世から魔法を無くせば丸く収まる』
「やだよぉ…」
『さぁ!』
「ポエムーンさよなら…エクスペクトパトローナーム!」
ドオオオンッーーー
「ふにゅっ遅刻遅刻〜!」
私は幸子。普通の高校に通う16歳。
最近、眼鏡を無くしてしまった。
「幸子〜重役出勤か〜!」
タケルとリュウノスケも遅刻のようだ。
「腐乳田!遅刻だぞ〜!」
ドゥージ先生が叫んでいる。
今日も、平和だ。