楽しい毎日
今日も後輩のヘマを押し付けられて、上司から長々と説教を食らってしまったわ!
あーあ、せめて上司がこの世で1番のイケメンだったらなぁ!
怒られてる間も顔を眺めていられるから、そこまでイライラしないはずなのに!
そう思いながら眠りにつくと、幸子は夢の中で何か不思議なものに出会ったような気がしました。
そして翌日。幸子が出勤すると、上司が有り得ないほどのイケメンになっていました。
目の前の真実を確かめようと眼鏡を外し目を擦った。その眼鏡を外した視界にはボヤッとしてはいるが、ハゲオヤジだ。
??
また眼鏡をかけてみたらイケメン上司に、早変わり。
「ん??」
幸子は眼鏡を確認した。
それは友達の誕生日パーティー用に購入したパーティーちゃん眼鏡だった。
「おい幸子っ!」
「ふにゅっ?!」
「聞こえるか?」
「えっえっ?!」
ど、どこから声が出てるの…?
「ここだよここ!」
近くから声がすると思ったら、それは幸子のパーティーちゃん眼鏡から声がした。
「えーーーーーーーー!」
社内だったため、周りが幸子の方を一斉に向いた。
「あっあっすいません!」
幸子はそそくさと眼鏡を持ちトイレへ駆け込んだ。
「一体どうなってるの…」
「だーかーら、お前さんが持ってる眼鏡から声がしてるんだって!」
「…」
幸子は状況が飲み込めない。
「まっまじで意味がわからない…」
「俺は、魔法の眼鏡!お前さんの要望を叶えてやるのさ!」
オレハマホウノメガネ?!こいつは何を言っているの…
魔法?!私はしごとのし過ぎおかしくなってしまったのか
「はっはーん、この世界では魔法の眼鏡って珍しいものなんだな!そうそう、俺の名前はライラ。
あっ、勘ちがいしないでくれよ。俺の本体は眼鏡じゃないよ。眼鏡に僕の息吹を少しだけ与えているだけなんだ!こんな事くらいでビックリされた事ビックリだよーっ。」
といった会話が長い間続いた。トイレに駆け込んだのは正解だった。
あまりにも長いトイレにハゲイケメン上司がトイレの入口付近で
「どうした?大丈夫か?」と気遣って声をかけてくれた。すかさず私は
「大丈夫です!すぐに行くので気にしないで下さい!」とこたえた。
私は一旦パーティーちゃん眼鏡を外して、携帯していたコンタクトに変えた。
するとその瞬間、眼鏡は静かになった。
コンタクトに変えたことによってハゲイケメンがいつものハゲに戻っていた。
幸子は少し安心した。
だがやはりクソ上司なのは間違いないのだが、この日は何故か「幸子、体調悪いなら帰りなよ。」と気遣ってくれる。
しかも仕事でミスしても「次から気をつければいいさ。」と怒らない。
見た目はイケメンでもなんでもないただのハゲオヤジなのに行動はイケメンだった。
声は、胸ポケットに入れていたパーティーちゃん眼鏡から発せられていた。
えっと、名前を言ってたな……。なんだったっけ……。バブル、だっけ。
「全然ちがうよ! ライラだよー! 一文字も合ってないよー!」
ライラが叫ぶ。しかし、周りの同僚たちには、ライラの声は聞こえていないようだ。
「俺を眼鏡としてかけなくても、身につけるだけで幸子! お前さんの要望は叶うんだ!」
そういえば言っていたな。確かに上司や、同僚たちまでも今日は色々と私に対して優しい。
「そう! そして、もう5時だ! アフターファイブの時間だよ、幸子!」
それって終業時間が5時っていう……? どこのホワイト企業ですか。ってか死語じゃん。
「クソハゲ上司を無理やりイケメンにしながらの就労時間は、もう終わりだよ!」
上司が「今日はもう終わっていいよ。気をつけて帰りなさい」と言ってくれた。マジか。
「さあ! 街へ繰り出そうじゃないか! そして、本当のイケメンを見つけよう!」
確かにイケメンとは知り合いたいけど……。何か色々と胡散臭いなぁ、この眼鏡。
胡散臭くないよ! と叫ぶライラと一緒に、幸子は会社を飛び出した。
そして街を歩いていると、幸子は誰かにぶつかってしまう。
幸子はバランスを崩し倒れそうになったが、ぶつかった相手が支えてくれていた。
「すみません、よそ見しててお怪我はありませんか?」
とイケメン男性に言われた。幸子がぶつかった相手はこのイケメンだったのだ。大学生くらいだろうか、かなり高身長で183cm位はありそう。
「大丈夫です。私こそよそ見しててごめんなさい。」
と謝ると「陽介、どうした?」とまた別のイケメン男性が現れた。
「翔(かける)、ちょっとこの女性にぶつかってな。」
とイケメン(陽介)が説明していた。
説明が終わると「陽介がすみませんでした。お詫びに何か奢らせてください。陽介が支払いますから。」
と予想外のお誘いをされた。
幸子がうろたえていると、胸ポケットから幸子そっくりの声がする。
「え〜、そんなぁ申し訳ないです。いいんですかぁ?」
それは2人のイケメンにも聞こえているようだった。
パーティーちゃん眼鏡が幸子に向かってウインクをしている。
ライラの仕業だ。
「いいですよ、陽介のお金だから高い物でもなんでも!」
と翔と言うイケメンが爽やかな笑顔で言った。
「あいつは無視して構いませんよ。では行きましょうか。」
「陽介酷い!」
と賑やかな雰囲気でイケメン2人に連れられて来たのはカフェタナカだった。
「私ここ来たかったんです。」
と幸子は目を輝かせていた。たまにテレビでカフェタナカを見かけていて、いつかは行きたいと思っていたのだ。
「なかなか、ナウい雰囲気のカフェじゃないか! 良かったな、幸子!」
さっきはよくも勝手に私の声を出したな、とライラをつねると「痛い痛い!」と叫んだ。
イケメン二人は、私を褒めてくれたり、料理を取り分けてくれたりしてくれる。天国か。
しかし、この陽介くんと翔くんの二人は友人同士、としては親密すぎる雰囲気に見える。
もしかして、恋人同士、とかなのかな。それとも、この雰囲気も私の願望なのだろうか。
ライラを胸ポケットから取り出し、テーブルに置いてみる。二人の雰囲気は変わらない。
なるほど。二人は、素でこの雰囲気なんだな……。
人類、男女二種類しかないのだ。ならば、その組み合わせなんて何でもよいと思う。
それが私の持論だ。仲良さそうな二人のイケメン達を眺めながら、幸子は微笑んだ。
「楽しかったよ、幸子さん。また、どこかで会えるといいね!」
陽介くんと握手をし「気をつけて、帰られてくださいね」と言う翔くんとも握手をする。
手を振りながら夜の街へと消えていく二人に向かって、私も手を振る。
「本当のイケメンと出会えて良かったな! 幸子!」
胸ポケットの中で叫んでいるライラに「そうだね」と返す。そろそろ、家に帰ろうか。
「俺に任せてくれれば、幸子! お前さんの毎日は、楽しくなるんだよー!」
何となくライラをかけて歩くと。街は今までに見た事がないほどに輝いて、美しかった。
そして翌日、幸子は会社に行くために電車を待っていたら、なんと昨日の爽やか系イケメンの陽介君と翔君と駅で偶然会ったのだ。
「あれ?幸子さんこの駅なんですか?」
と陽介君に聞かれ、はいと答えた。
「俺達もこの駅が家からの最寄り駅なんです。幸子さんはどっち方面ですか?」
と翔君。
幸子は指さしたら陽介君が「じゃあ同じ方面なんですね!」と爽やかな笑顔で言っていた。
翔君と陽介君と幸子は一緒に電車を待っていた。
今日はなかなか電車が来ない。
どうやら局所的に大雨が降っていて遅れているようだ。
じゃれあっている陽介くんと翔くんに癒されていたら、不意に声がした。
「おーいぃ♪幸子ぉー」
「ふにゅっ?!」
「聞ーこえるか?」
「えっえっ?!」
…この声は?
この声はライラじゃないような。
「ここだよぉー!ここぉ!」
ライラも首を傾げる。
すると私が手に持ったままのまさに“相棒”と呼ぶべき存在である“スマートフォン”から声がした。
「……え」
なに?どゆこと?
今誰とも電話繋がってない、よね……?
この感じまさか……。
「おどろかしたかなー?ごめーん。ライラの友達のローラだよ♪」
「えっえっ?!」
また変なのが現れた。
幸子はすかさず電源を落とした。しかし、すぐに電源が立ち上がってきて、
「ひどいじゃないかー。電源きるとしゃべれなくなってしまうからやめてぇ」
「どうしたの?幸子さん?」と陽介君が話しかけてきた。
「いえ、なんでもないです!」幸子は少し恥ずかしそうに答えた。
‥‥この声も陽介君達には聞こえてないんだな。
幸子は携帯のボリュームを下げた。なにかまだ喋っているようだったけどその声は聞こえなくなった。