流れに身を任せて
仕事ではパワハラ上司にあたるし、友人とは疎遠になるし、ツイッターでは変な男に絡まれるし、コンビニ弁当でお箸もらい忘れたし、楽しいことなんて一つもない。
そんな時、どうせ当たらないだらうと思っていた推しが入っているアイドルグループのライブチケットが当たった。しかもアリーナ席だ。
しかしそのライブがコロナウイルスなる感染症のせいで取りやめになった。つくづく不幸だ。仕方がないのでチケットを払い戻しにコンビニへといく。そのコンビニは前に私がお箸を貰い忘れたコンビニだった。
「お箸付けてください」
そういうと、かったるそうに「しゃーす」と、レジ担当のバイトが箸を袋に入れた。そして私は会社へと赴く。
終わりなきデスマーチが今日も始まる。
俺は疲れていた。コロナウイルスによりリモート授業だったり、友人と遊べなかったりでストレスも溜まっていた。
「陽介、ちゃんと勉強しなさいよ。」
と母親に毎日言われてうんざりもしていた。
ニュースでは毎日何人感染しただのでちっとも楽しくない。
だから俺はコンビニでアルバイトを始めた。
「如月君が来てくれて助かってるよ!手際がいいし!」
と店長に褒められた。
それから俺はバイトに勉強に一生懸命になれた。それからある日、とあるOLがいた。
そのOLはたまにこのコンビニを使うようだ。俺はあまりレジに入らず品出しとかの仕事をしていることが多い。
そのOLは目が虚ろで何か払い戻ししている様だった。俺は品出ししつつそのOLが気になっていた。
バイトから帰ってもやはりあの目が虚ろなOLの事で頭がいっぱいだった。
2日後、その日はたまたま俺がレジに入っていた。するとあのOLが来た。
弁当とお茶をレジに持って来た。俺はバーコードを読み取り会計をする。
「お箸ください。」
「お箸1つですね、袋はお持ちですか?」
と対応した。
「あ、袋あります」
OLの抑揚のない声のとともにポーチから取り出したのは、コロナでライブがなくなってしまった、推しのアイドルグルーブの期間限定版エコバッグだった。
「そ、それってあのアイドルの限定版…!」
驚いて、つい口に出してしまった。
するとOLは、虚ろだった目を輝かせ、急に語りだしてきた。
「そうなんですよ!このエコバッグ、まだコロナウイルスが流行る前、彼女たちがまだ地下アイドルだった頃に奇跡的に手に入れたもので、今はもう売っていないすっごいレアグッズなんですよ!これに似たグッズは最近もあるんですけど、これはそれとは違う材質で作られてて…」
と、そこで我に返ったのか、顔を赤くさせながらうつむいてしまった。
「す、すみません、つい興奮してしまいました。ご迷惑でしたよね…」
「い、いいえ!」
俺は慌てて否定した。
「僕もそのアイドルが好きで、この前のライブのチケットも当選してたんですけど…」
「ほ、本当ですか!?」
と、そんな会話をしているうちに、俺とOLさんは、だんだん仲良くなっていった。
バイトリーダーに昼休憩をもらい、俺とOLさんは公園のベンチで座りながらいろいろな話をした。
どうやらOLさんは、このコンビニの近くのオフィスで働いているらしいのだが、自身のアイドル趣味を共有する同僚や友達がいなかったらしく、あのような閉鎖的な虚ろな目をしてしまっていたらしい。
「やっぱり、私みたいな女性が、女の子アイドルのファンっていうのは、おかしいんでしょうね…」
自嘲気味にOLさんがつぶやく。
俺はそんな彼女を励まそうと、少し強めの声で、こういった。