零れた雫の行先
「如月陽介を誘拐してこい。」
「でもどうやって?」
「幼なじみの新島翔に変装して隙をついて気絶させればいい。その新島翔はもう誘拐してきたからな。」
「ンーングンーングンー。」
「了解しました。では行ってきます。」
俺は如月陽介、今をときめく高校2年生だ。今日は幼なじみの新島翔と一緒に水族館に行く予定なんだが……まだ来ていないようだな。まぁ約束の時間までまだあるからのんびり待っているとしよう。
「陽介、ごめんごめん遅れた。」
あれから15分経って翔がやってきた。
「大丈夫だぜ、まだ約束の時間前だろ?気にすんなって。それより早く行こうぜ!久しぶりの水族館なんだから楽しみなんだわ。」
と俺は翔と一緒に水族館に行けるのがめちゃくちゃ楽しみにしていた。
付き合ってから今までデートをした事無かったからな。はしゃいでしまうのも仕方ないだろう。
「ちょうど名古屋港行きの電車が来るな。」
そして電車に揺られ38分。途中乗り換え1回あったが無事に水族館に到着した。
「翔、翔、シャチから見ようぜ!」
「陽介あんま慌てるなよ。」
と俺のはしゃぎっぷりに翔は呆れていた。
「陽介、見ろよ。シャチ、迫力あるよな……。すごいな」
俺のはしゃぎっぷりに呆れていた翔だったが、だんだんと同じようにはしゃぎだした。
といっても、翔は基本クールなので、はしゃぎ方が非常にわかりにくいのだが。
「次は何を見ようか」
翔からの質問に、俺は「次はペンギンがいいな!」と答える。
「ずいぶん可愛いのが見たいんだな……。わかった。行こうか」
そう言うと、翔はフッと軽く笑った。
普段、友人たちと話をしていても、翔はめったに笑う事はない。
しかも、こんな笑顔は俺にしか見せない。その特別な表情に軽くときめいてしまう。
……ところなのだが、何かが違う。こんな感じの笑顔だったっけ?
気のせいレベルの違和感なのだが、それから俺は何となく、翔の言動に注意してみた。
歩き方。話し方。そして、ソフトクリームの食べ方なんかも。うん、何も変じゃないよな。
……でも。やはり、何かが違う。
まるで、翔にそっくりな誰かの動き、に見える事があるのだ。
「さっきから、俺の事をジロジロ見てるようだけど。何か気になる事でもあるのか、陽介」
いや、なんでもないぜ! 俺は悟られないように、必死で手をブンブン横に振る。
「……それとも。人気のない、二人きりになれる所にでも行きたいのか」
そう言って、翔は口の端を軽く上げた。
……これだ。やはり、違う。
翔は、こんな表情はしない。……少し、試してみるか。
ああ! 行こうぜ! せっかく二人っきりで来てるんだからな!
そう言って、俺は翔の後ろをついていく。よし、誰もいない。今だ。
なあ、翔! 俺がそう呼びかけると、翔がクルリと後ろを振り向いた。
その瞬間を狙って、俺は素早く片手で翔の髪をフワリとなでる。
「陽介……」
不思議そうな翔の顔を見て、確信する。
ああ。やはり、コイツは翔じゃない。
誰だ、お前は……! 翔をどこにやった!
叩きつけるように叫ぶと、目の前の翔にそっくりな男の顔が、不気味にゆがんだ。
「……よく、私が翔くんじゃないと見破ったね」
翔は、俺が髪をなでると顔を赤くするんだわ。なのに、お前の顔色は全く変化しなかった。
いいから俺の質問に答えろ! 翔をどこにやった! 俺が再び、そう叫ぶと。
「答える事もない。すぐに、愛しの翔くんに会わせてあげるよ」
その瞬間。俺の身体に、雷にでも打たれたかのような激痛が走った。
どうやら俺はスタンガンを当てられたらしい。
「あがっああああああああぁぁぁ」
と叫び声をあげて気絶した。
目が覚めたら俺は縄で手足を縛られていた。
「ンーングンー」
と目の前には縄で手足を縛られている翔がいた。翔は制服を着ていたから多分、昨日学校から帰る途中で誘拐されたのだろう。
(翔、殺されていなくてよかった………)
と俺は安堵した。だが何故俺達が誘拐されなくてはいけないのかが分からない。
それを聞こうにも口は猿轡を噛まされている。
「ンーングンーングンンン」
ともがいてみるが取れそうには無い。
気持ち縄もきつく締まった感じがする。
すると男達が入ってきた。
「お前らその姿似合ってるぜ!」
「ンーングンンン」
「おお、怖い怖い、まぁこれからお前らをじっくり利用させて貰うからな!」
とリーダーらしき男が言った。
(利用って何するつもりだ、こいつらは。)
俺達はただの一般の男子高校生だ。俺と翔が付き合っている点は除くが。
訳の分からない言葉を言ったあと男が続ける。
「お前らの容姿はな、人を魅了する。だからお前らには今から不老不死になってもらう。そう、俺達が開発したこの薬でな!」
(不老不死!?そんな薬なんてあるわけないだろう。この男達、かなりヤバいんじゃ。)
男達の手には注射器が握られていて、俺と翔の首筋に刺して薬が注入されてしまった。
「お前らはたった今不老不死になった。ちなみにこの薬は本物だぜ。なんせ俺達も使ったからな。」
そして男達がその場から去っていき、俺と翔だけが取り残された。
「ンーングンーング」
と翔が心配そうにこちらを見てくるから「ンーングンンン」と大丈夫の合図をしておいた。
(不老不死とか絶対嘘だろう。だが不老不死の薬が本物だったとしたら………。でも分からない。何故不老不死にするのか、何故俺達は殺され無かったのか。とりあえずは縄を何とかしなくちゃ。)
必死で考えても分からなかったため、男達がいない今、縄を解けないかもがくもかなりきつく縛られているためビクともしなかった。
10分程で男達が戻ってきた。「こいつらを運び出すぞ!準備しろ!」と言った。
「おぉー!」という声と共に俺達は担架に乗せられてどこかへ運ばれていった。
「ンングーング」
と抵抗するも無駄だった。
(どこに行くんだろう。このままだと不味いな。なんとかしないと。)
と考えているうちに気を失った。
気がつくと薄暗い部屋の中にいた。「これで全員か?」と誰かの声が聞こえる。
周りを見ると俺と翔以外にも5人程の男が拘束されていた。皆不安そうな表情をしている。
すると部屋の扉が開いて人が入ってきた。
その人はスーツ姿の20代後半ぐらいの男だった。男は「君たちは選ばれたんだ、感謝して欲しいね」と言いながら笑った。
「ンッング」
と声を出して反抗しようとした瞬間、「おい、うるさいぞ」と言われてしまった。
(くそっ、何かいい方法は無いのか?)
と俺は考えたが何も思いつかなかった。
するとさっきの男がまた喋り始めた。
「君たちには幾つか実験に協力してもらいたいと思っているんだよ。まぁ拒否権は無いけどね」
と言ってニヤリと笑う。「特に如月陽介君と新島翔君は期待しているよ。二人は顔もいいし、それに能力値も高いからね、体液をたっぷり採取させてもらうよ。あぁもちろん性的な意味でだよ?まぁ精々頑張ってくれ」と楽しげに言う。(ふざけんな!誰がそんな事させるもんか。)
と心の中で思うものの、今の俺にはどうすることもできない。すると翔が急に暴れ出した。
「ンーングーンーグンーングゥーングーン!」
(助けろ!早くここから出せ!)
と言っているようだが猿ぐつわのせいで言葉にならない。