神様の暇つぶし

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1人目

ある日、退屈だった神様は思いついた。

「そうだ。人間達が通う全ての学校の中を迷路にしてしまおう。」

2人目

世界中が混乱の渦に飲み込まれた。
なにしろ、全ての学校の中が迷路になったのだ。
それも、一般にイメージされる折り曲がった壁などが続くような、ただの迷路ではない。

教室に入ったと思ったら階段に通じていたり、音楽室に入ったと思ったら理科室だったり。
空間と空間が、立体パズルのように複雑に組み合わされ、より難解な仕組みになっていた。
「出られない!」「誰か、助けて!」

そんな文章が、音声が世界中を飛び交った。
神様が食料などは迷路中に用意していたので、幸いにも餓死者などは出なかった。
そんな中、心身ともに疲れ切った様子ながら、脱出できた人々もチラホラ出てきたようだ。

そんな人間達の様子を眺めて、神様も最初は愉快そうだった。
しかし、それもだんだん飽きてきたのか、また何か良からぬ事を考えているようだった。
そして、神様は思いついた。

「そうだ。人間達が住む全ての家の中も、迷路にしてしまおう」

3人目

だがそんな神様の思いつきは却下された。
「家がダメなら街全体を迷路にしてやる。」
と神様はやけになり手当り次第迷路に変えていった。

4人目

スーパーに入ったと思ったらデパートだったり、歩道橋を上がったら公園の噴水に出たり。
学校のときのような、もしくはそれ以上と思える難解な迷路が、街全体として広がった。
あとは迷路になっていない空間は、人間達の住む家と、手つかずの自然だけとなった。

それでも、人間とは与えられた環境に対して順応、進化していく生物である。
最新鋭の技術を用いて、この難解な迷路の構造を把握、攻略する者たちが現れた。
理解不能の現状を何とか打開しようとする人間達の姿が、神様は面白くなさそうだった。

そんな神様の様子を見ていて。思いつきを却下した神様の父親は、ため息をついた。

5人目

退屈な神様は夢を見た。

「…息子よ、そんなに暇なら人間界で修行してこい。神の力は奪っておく。神としての素養を学ぶのじゃ。」
雲の上から声がする。

ここは…?

どこかはわからないが、学校の屋上のようだった。
屋上を出ると昇降口があり、また昇降口を出ると、校長先生の部屋があった。

とはいえ、迷路が大好きな神様だ。
ひとり遊びでつちかった才能を開花させ、あっという間に学校から出ることができた。

その時、神様は不思議な感覚に襲われた。
腹の中が物足りない。満たされていない。なんだ?この感覚は。
…グゥゥ
腹がとても空虚な音を立てていた。
「うおぉぉー!この飢餓感はなんなんだ?!」

そこへラーメンの香りが漂ってきて、神様はごくりと生唾をのみこんだ。

パラリーララ
パラリラララー♪

「おじさん!醤油ラーメン大盛り一杯」

神様は生まれて初めて体験する空腹感にカルチャーショックを覚えながら、ラーメンのスープも残さず完食した。

6人目

空腹。そして、それを満たし満腹になった時の充足感とは、何と素晴らしいんだ……!
神様は「食」に目覚めた。それから、ラーメン以外のいろいろなものを食べてみた。
しかし、そのどれもが一番最初に食べたラーメンの感動を上回る事はない。

俺はラーメンが好きなんだ……! しかし、ただのラーメン好きで終わりはしない……!
俺は……俺は……! 俺だけの……ラーメンを……! 作る……ッ!
「……息子よ。人間界で見つける事ができたようだな、自身の進むべき道を……」

天上に戻してもらった神様は、天上でラーメン職人になるための、修行先を探し始めた。
しかし、神様の父親はそれを良しとしなかった。
「……神様であるお前には。天上に暮らす、その誰もが心からは厳しくする事ができない」

「……それでは、お前のためにならない」
「……私の、行きつけの店に連絡しておく。まずはそこで修行をするといい」
わかりました。ありがとうございます、父上。まっすぐな目をして、神様はうなずいた。

超激辛、地獄ラーメン「閻魔」。神様は、地獄にあるその店の扉を開け放った。

7人目

いらっしゃーせ!!

元気な店員の声が響き渡った。

次いで辛そうなけれどとても美味しそうなラーメンの香りがして思わず腹が減る。

8人目

「たのもー!天国の神、地獄ラーメン『閻魔』にて修行願う!」

ラーメンのいい香りと賑やかな店内。
誰も神様には見向きもしない。

「え、えーと…」

ラーメン屋の中に一足踏み入れると、厨房があった。厨房から出ようとすると、今度は宴会席…。このラーメン屋もまた、迷路になっている。やはり、ただの迷路ではない。厨房はグラグラ煮えたつ噴火の絶えない火山を鍋に。宴会席は針の座敷。そして、迷路は生きているかのようだった。迷路を攻略しようとすると、また更新されるようだった。

神様の空腹は限界を迎えていた。
神様は、小走りにかけていく小鬼がラーメンを運んでいたので、急いで聞いた。
「ここの偉い人はどこですか?」

9人目

「ここだよ、ここ! ここの、ってか地獄でいちばん偉い人はここだ!」
声がするほうを向くと、厨房でラーメンを作っている大柄な親父さんが叫んでいた。
「さっそく手伝ってもらうぞ! 神様だからって容赦しないからな!」

そして、閉店後。神様は寝食のお世話になるラーメン屋の店長、閻魔大王の自宅にいた。
「お疲れさん! ビール……はまだ早いか! コーラ飲みなさい、コーラ!」
ラーメン屋であまったチャーシューなどをつまみに、大王はビール、神様はコーラを飲む。

ところで、何で地獄まで迷路になっているのだろうか。神様は疑問に思った。
天国の、自分の部屋に置いてある、自作した「迷路装置」で迷路にしたのは人間界だけだ。
そういえば、大王の息子さんが見当たらないな。同い年ぐらいだった気がする。

「息子は、天国のお前さんの親父のところにホームステイしてるよ! 修行だよ、修行!」
「ちょうどお前さんと行き違いな感じか! お前さんの部屋を借りているらしい!」
「いきなり迷路になったりよくわからんご時世だが! ほれ飲みなさい!」

自室に置いてあるのは迷路装置だけじゃないんだよな……。神様は嫌な予感を覚えた。