地球色に染めて
「あいつらはいっちまった」
人間がすっかり宇宙へ移住したのは不思議なことではない。
僕らがおいてきぼりをくったのも、また同じ。
いつものネオンが消えたせいか、僕は星空を眺めた。
「少し、おなかがすいたな」
ブタに真珠。
ブタの僕には、キラキラ輝く星の値打ちなんてわからない。
ときはトン暦222年。
文明の進歩により、人間は地球をむさぼり荒らしていた。
僕らの地球は大気の色を変え、海の色を変え、大地はアスファルトで見えなくなるほどだ。
ましてや、自然のままの草木は見つけられない。
大地は噴火や地震を繰り返し、海は水位を上げた。
雨が降り続いたと思えば、カラカラに乾くまで晴れ続けることもあった。
洪水はいくどとなく起こり、土砂崩れは日常茶飯事だ。
季節は今では感じられない。
動物園でさえ、冷暖房が入る。
冷房でおでん、暖房でアイスを食べるのにも飽きていた。
僕らの仲間には人間に反乱を起こしたヤツもいる。
特に野生の熊や鹿、イノシシさ。
山は丸裸。食べるものが何も無くなってね。
何もかも憂い色に染まっていたんだ。
そんな中、僕らの地球から人間は去った。
がらんどうになった地球を、僕らは丁寧に住んでいこう。
僕らはおいてきぼりのブタとサイ。
そんなに人間に恨みはないし、生きていくためにできるのはそれだけだから。
僕らは動物園からそーっと抜け出し、人間の住んでいた街へ繰り出した。
「そうだ、遊園地に行ってみよう」
遊園地は貸切。
ブタとサイで
絶叫マシンに絶叫し
観覧車で黄昏れる。
人間の遊びは面白いけれど…
広い遊園地にぽつんとしていたら、
動物園が恋しくなった。
ブタは沈む夕日を見ながらかつて、この星を支配していた人間を想う。
結局の所、動物園の檻から地球の檻へと変わっただけではないのだろうか。
どう足掻いてもどこかへと閉じ込められる運命にあるのだろうか。
彼らが去り、自動的に降りてきた主導権を握っても、時偶、あの二足歩行を思い出してしまうのは彼らが居た時の方が僕らは安泰に過ごせていた。
もちろん、仲間の多くは彼らの餌になるために生かされ育てられ、最後は殺されただろう。
しかしその事実があったとしても、僕たちは長い時の中で種として存続することができた。
個人の話では収まりきれないが、一ブタとしては彼らは救世主だったのではないか、と。
観覧車の中から遠くを見つめながら、対面で同様にするカバを見る。
僕たちはどうしてしまったのだろう。忘れていた野生を取り戻せたのだろうか。
既に周囲は薄暗くなっていた。しかしこの遊園地に遊びに来た動物たちはまだ帰ろうとはしなかった。遊園地の最後のイベントであるパレードが残っているからだ。パレードが始まるコースの脇に続々と動物たちが集まってきた。ブタ、サイ、カバ・・・。
それなりに広い遊園地だがそれを鑑みても驚くほど多くのの動物達がパレードを今か今かと待っていた。
そしていよいよパレードが始まった。光や音が周囲にあふれだし、擬人化した動物達が手を振ったりパフォーマンスをしていた。表情は笑顔に固定されておりそれがロボットだというのは見物客である動物達にとってあまり気にする事ではなかった。
その華やかなパレードを純粋に楽しんでいるからである。
本来は敵であり、餌でもあるようなライオンもピューマもこの時ばかりは襲ったり逃げたりはしなかった。パレードの中のライオンは服を着て踊り、ピューマもドレスを着て手を振っていた。
数十分のパレードの後一斉に動物たちはそれぞれの帰る場所へ戻っていった。
ただ唯一、サルだけが呆然と立ち尽くした。多くの擬人化した動物がいた中、サルだけが
その中に居なかったからだ。