ここは白の世界

誰もが新しくそして可能性に満ち溢れた世界

平和でそして怠慢でワガママで

誰しもその世界が続くと思っていた

あの出来事が起こるまでは

ここは黒の世界

絶望的で希望のカケラも落ちていない世界

暴力と病気とウイルスが蔓延していて

誰しもその世界が続くと思っていた

あの出来事が起こるまでは

あの出来事が起こる、少し前に時間を戻そう。黒の世界に、ひとりの科学者が住んでいた。
彼はどこかにあるという、白の世界へ行きたいと強く願っていた。黒の世界を疎んでいた。
何とか白の世界へ行きたいと、方法を探し求めた。しかし、その願いは叶う事は無かった。

あきらめきれない彼は、狂った。黒の世界に生まれた自分を呪った。そして、こう考えた。
「白の世界に行く事ができないのならば、この黒の世界を白の世界に変えてしまえばいい」
彼は研究に没頭した。そして、ついに完成させる事ができた。

白い、雪である。

雪は降り続いた　何日も何日も絶え間なく

彼はそれを止める術をしらない

彼はやがて凍りつき、そして砕け散った

‥‥

‥‥

それから何万年経っただろうか

白銀の極寒のこの世界に生命が誕生した

皮肉にも長い年月をかけて

彼の願いは叶うのだった

白の世界から奪い続けた、全てを一新させる力を秘めた、白い雪

長い年月をかけてかつての黒の世界、白銀の世界に誕生した生命

そしてまた、何年も経って、長い年月をかけて

その世界は、白でも黒でもない、灰色の世界へと変わっていた

誰もが新しい事もなく、可能性に満ち溢れているわけでもない

絶望も希望のカケラもちょうどよく落ちている世界

平和で怠慢でワガママで

暴力と病気とウイルスも一緒に共存していて

誰しもその世界が続くと思っている

そんな灰色の世界に、今年も雪が降る

白い、雪が降る