フォーティーン
俺が住んでいる、ここは厨二病都市「フォーティーン」。
厨二病と言われる言動。
それが、この都市では美徳。たしなみとされる。
今は朝。俺は学校という名の、箱庭の監獄へと向かっている。
見上げると、鈍色の空に潜む堕天使たちが雨。水の弾丸を撃とうとしている。
あいにく、愛用の漆黒の傘は持ってきていない。
学校へ、急ぐ事にするか。
運命へと至る道(通学路)を歩む刻はいつも憂鬱だが、今日は特別気が重い。なぜなら約束された崩壊(テスト返却)が待ち受けているからだ。俺は「やれやれ」とため息をつく。
「ねえ……」
にわかに背後から声がした。何もかも凍らせてしまいそうな絶対零度の声。
振り向くと、そこにはひとりの少女が佇んでいた。年の頃は俺と同じくらい。
彼女は左目に眼帯をして右腕に包帯を巻いている。
「新月の闇より暗い髪、紅い月の瞳……。貴方、宵闇那由多でしょう」
少女は口を三日月のようにして嗤う。
「やっと見つけた」
昨日ぶりだな……。そう答えると、少女は「やっと一日が経ったわ」と微笑んだ。
この少女は、隣の家に住む幼馴染だ。彼女は時間感覚がとてつもなく遅いらしい。
時間を司る悪魔からの呪いだそうだ。右腕にその呪いの刻印があるらしい。
「約束された崩壊が怖いね」などと何の変哲もない話をしていると、学校に到着した。
席に座ると、歴史の教師にして担任、通称「リフレインヒストリー」が教室に入ってきた。
「歴史は繰り返す……。おはよう諸君」
いつも通りのセリフ込みの挨拶を言い終わると、担任はテストを配り始めた。
「このテストは無効よ!」
突然、俺の幼馴染が机をバーンッ! と叩き立ち上がった。
「ほう、なぜそう思う?」
リフレインヒストリーはほくそ笑む。
「ここに記された歴史は全て偽り……。時間旅行“タイムトラベル”で不正に改竄されたもの……。リフレインヒストリー、貴方の手のよって。私の右腕に宿る時を統べる者“クロノス”がそう告げているわ……!」
「ならば、どうするというのだね?」
「決まっている……。貴方に決闘”デュエル”を申し込むわ……! 真の歴史を取り戻すために……!」
「良いだろう。その決闘、受けようじゃないか」
「確か君のテストは赤点だったな」
「私に勝った暁には、救済してやろうじゃないか」
歴史の教師はそう言うと、手のひらで顔を隠しながら、不敵に笑った。
すると、教室の端の席に座る同級生が手をあげ、口を開いた。
「俺も救済してもらおうか……」
その同級生を皮切りに、生徒たちが口々に「私も」「我も」と名乗りをあげる。
そうしているうちに授業終わりのチャイムが鳴った。
「終焉の鎮魂曲か……。諸君、勝負は次の機会だ」
そう言い残すと、教師は去っていった。