異世界召喚ファンタジー

17 いいね
1000文字以下 20人リレー
1年前 961回閲覧
  • 初心者歓迎
  • ファンタジー
  • 自由に続きを書いて
  • 登場人物が死ぬの無し
  • 登場人物増やすのあり
  • 気軽にどうぞ
1人目

神殿の門前町の夜は静謐だ。
白いローブを纏った狼の獣人アドルフは、帰路を急いでいた。
「きゃああっ」
その道中、路地裏の方で女性の悲鳴が聞こえた。
治安のいい神殿の門前町には似合わぬ事態だ。アドルフは急いで声の出所へ向かう。
「これは……!?」
細い路地を入ったところの建物の陰に、黒髪の女性が座り込んでいた。
まだ年若く、成人はしていなさそうなその女性は、見たことのない珍妙な衣服を身につけていた。
上衣は白。襟は紺色で肩を覆うように大きく紅色の線が入っていて、襟の合わさる部分に同じく紅色のスカーフが結ばれている。下半身に纏っているスカートは全体が襞(ひだ)になっており、丈は膝より短い。足には布地らしき履き物をした上に靴を履いているが、その靴の形状も変わっている。
この国ではまず見ない服装である。
(海を渡った先にあるという、異国から来た人間か……?)
「大丈夫ですか?」
アドルフは少し距離を取ったまま声をかけた。
アドルフを見た女性は、わかりやすく驚きを表情に出し、息を呑んだようだった。
狼の獣人なんて珍しくもないし、神殿の白いローブもこの町では至る所で見られる装いだ。
この町の情勢に明るくなさそうなところをみると、本当に異国から来たのかもしれない。
「すみません……ここは何という場所で、あなたはどういった方なのでしょうか?」
女性の声は震えている。
アドルフは怖がらせないように、しゃがんで女性と視線を合わせた。
「ここは、『青の神殿』の門前町です。私は、神殿に仕える『白魔術師』のアドルフと申します。……失礼ですが、あなたは……」
彼女は、不安げな瞳でアドルフを見て言った。
「私の名前はユイです。……あの、信じがたいと思うのですが、私は別の世界からここへやって来たようなのです」

2人目

別の世界からやって来た。アドルフにとっては信じ難い話だったが、冗談と決めつけ このまま放っておく
のも癪なので彼は話だけでも聞くことにした。

3人目

「ここは比較的治安のいい町ですが、今は夜ですし、危なくないとは言えません。……私の家で話を聞かせてもらえませんか? ……あなたが、良ければですが」
別の世界、というのがどういうところなのかアドルフには見当もつかない。
けれど、アドルフの姿を見て驚いていたところをみると、獣人は見慣れない存在なのだろう。
彼女の置かれた状況からして保護すべきだと思うが、怖がられてしまうならアドルフに強制することはできない。
「私は、大丈夫です。ありがとうございます」
ユイと名乗った女性は、深々とお辞儀とした。



とりあえず話を聞いて、明日神殿の信頼できる上司に相談しよう、とアドルフは考えていた。
アドルフの直接の上司は人間男性の『白魔術師』であるし、同僚には人間女性も何人かいる。
食事をとるための簡素なテーブルセットの椅子にユイを座らせ、温かな紅茶を淹れたカップを前に置く。
「何から聞けばいいのか、私もよくわからないのだが」
アドルフは、自分用のカップを持ち上げて紅茶を少し啜った。
「あなたはどうやって、別の世界からここへ来たのですか?」

4人目

話を聞くと、ユイは「コウコウ」という教育機関に通っている学生なのだそうだった。
美術館で一枚の絵に惹きこまれ、じっと見ていて気づいたらこの世界に来ていたらしい。
狼が少女を背中に乗せ、草原とも城とも見える、不思議な場所を歩いてる絵だったそうだ。

黒い色の使われ方が印象的だったという。黒の存在が強いものは「黒の神殿」の管轄だ。
もしや「黒の神殿」の力が……魔術が関与していたり……? ……それは考えすぎか。
なにより、失礼だが何の力も無さそうな、一人の少女を召喚する理由がないだろう。

とりあえず、気持ちが落ち着いたら「青の神殿」へ一緒に行きましょう。
明日、あなたの服を買ってあげましょう。その服で歩くのは、この町では目立ちすぎる。
それまでは、これを着ているといい。私のお古で申し訳ないが……。

そう言って、アドルフはクローゼットから白いローブを取り出した。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言って受け取ったローブを着ると、ユイには大きすぎてダボダボだった。

いろいろあって疲れたでしょう。今日はもう休みましょう。……そうだ、その前に。
「……この光は? ……あたたかい」
心身の疲れを軽減させる魔術です。私は白魔術師なので、こういったのが得意なんですよ。

あなたを、きっと元の世界に戻してあげます。
だから、今は何も心配しなくていい。
おやすみ、ユイ。

そう言って、アドルフは静かに扉を閉めた。

5人目

次の日、アドルフはユイを伴って町を巡った。
市場の古着屋で衣服を見繕っているとき、屋台街で軽食を物色しているとき
いや、それらに限らず町で見るものすべてが彼女にとって新鮮であるようで、ことあるごとにアドルフはユイからの質問を受けることになった。
そしてアドルフはユイの疑問一つ一つに嫌な顔をせずまじめに答えた。彼自身もそのことを楽しんでいたのだ。

「ねえアドルフ、あなたはもしかしてとっても偉い人なの?」
「そんなことはありませんが、何故そう思うのですか?」
「だって皆があなたに親切にしてくれるもの。あなたみたいに動物の顔をしている人たちだけでなくて、その…そうじゃない人たちも。」
ユイの目線は市場を通り過ぎるにあたっておまけとして手渡されたとりどりの食べ物たちに向けられているようだ。
それに気づいたアドルフは微笑んで答える。
「これは彼らが善良で親切である以外のことはありません。そして私はそれに対して後の感謝で答えるのです。そうやって感謝を返し続けていたらいつの間にかこうなってしまったわけで。」
ユイはそれを聞いてクスクスと笑ったがすぐに何か気づいたように口を紡ぐと少し悲しい顔をした。

ーー誰からも好かれるにはそれだけ誰かの力になれないとやっぱりだめなのかなーー

「さてユイ、神殿へ向かいましょうか。青の神殿は困り事がある人々に対して常に救済の手を差し出しているのですよ。きっと力になってくれるはずです。」
アドルフの言葉にユイはハッと顔を上げる。顔を曇らせていたこと、それを看過され気を使わせてしまったことに対して言いようのない申し訳なさがこみあげてきていた。

6人目

「ごめんなさい、私……つい考えこんでしまって」
「大丈夫ですよ、謝らないでください。ユイにとっては、慣れないことばかりでしょうから」

『青の神殿』は、街の外れ、小高い丘の上に建っている。
大きな鉄門をくぐり、まっすぐ伸びた石畳の道と階段を行き、神殿にたどり着く。
『青の神殿』はその名の通り、海のような深い藍色をしている。

「おはよう、アドルフ。小さな子を連れてどうしたの、迷子?」
神殿の建物に入ってすぐ気さくに声をかけてきたのは、茶色の髪を高い位置で1つにまとめた、アドルフと同様の白いローブを着ている人間の女性だった。
「おはよう、マレーラ。彼女は迷子ではなく……少し込み入った事情があって……」
「はじめまして。ユイと申します」
ぺこりと頭を下げたユイを見て、マレーラは「あらっ」と声を上げた。
「小柄だから、もう少し小さな子どもかと思っちゃった。ごめんなさいね」
ユイは首を横に振り、「大丈夫です」と答える。
「エリック様は、確か今日お戻りだったと思うのだが……」
「どうかしたかい、アドルフ」
アドルフの背後から声をかけてきたのは、まさにユイのことを相談しようと思っていたアドルフの上司である『白魔術師』、エリックだった。

7人目

「絵を見ていたら、この世界に来た、と……。不思議な事があるものだな……」
二人が話す内容を。エリックは興味深そうに、うなずきながら聞いていた。
「黒い色の使われ方が印象的だった、というのが確かに気になるな」

「黒の神殿で何か事故などが起きて、ユイさん。君を召喚してしまったとも考えられる」
四人が囲むテーブルの上に、マレーラが静かに紅茶の入ったカップを置いた。
しばらく沈黙が流れた。その静寂を破るように、エリックが手を一つ叩いた。

「この際だから、少し遠いが、黒の神殿へ行ってみてはどうだろう」
「君たち二人の足と、飛竜船などの移動手段を使えば、何日もかからないで着くだろう」
マレーラが「私もご一緒しても?」と尋ねるが、エリックは首を横に振る。

「複数の種族の魔術師が一緒に他の神殿へ入るには、面倒な手続きが必要になってくる」
「その点、アドルフとユイさんだけならそれが無いだろう」
「ユイさんは魔術師じゃないからね」

マレーラが「わかりました」とつぶやく。心なしか、眉間にシワができている。
「そうと決まれば明日にでも。いや、すぐにでも出発……って、すぐは無理か!」
「ユイさんを元の世界に帰すための方法が、何か見つかるといいな。アドルフ」

そう言って、エリックはアドルフの肩を叩いた。

8人目

「それだけ、ではありませんよねエリック様」
一仕事終えたと言わんばかりにその場を去ろうとしたエリックに向かってマレーラがぴしゃりと言葉を挟んだ。
「黒の神殿へ訪問するにあたってアドルフを手ぶらで送り出すおつもりですか?それに行ったところで一体誰を頼ればよいのかしら?先ほど面倒な手続きがあるとおっしゃられましたけども、まさか本当にめんどくさいだけで言ったわけではありませんよね?」
マレーラの語気も表情も総じて穏やかだったが何か凄みのようなものをユイは感じた。
「もちろんだよマレーラ、相手先への紹介状を作ったり旅費の援助は行うつもりだよ。
急な訪問は失礼になるだろうからフミドリも飛ばしておこうか。頼まれてくれるかな?」
かたやエリックはけろりとした表情で受け答えた。

「まったくエリック様はもともと油断なりませんが、アドルフもアドルフです。
急に他神殿へ行くように言われてどうするつもりだったのかしら」
「ありがとうマレーラ。あとは自分の力で何とかするようにというのがエリック様のお言葉かと思いましたが正直助かりました」
アドルフは屈託のない笑みを浮かべてそう言ったが、マレーラは何とも言えない渋い顔をすると長い溜息をついた。そしてユイの方に目を向ける。
「ユイさん、アドルフは悪い人じゃないのは間違いないけどこんなだから。故郷から離れて不安なあなたに言うのも酷だと思うけどあなた自身でしっかり考えることを忘れないでね。
それこそ彼を支えてあげるぐらいになってあげてね」
ユイはその言葉に不思議と励まされたような気がして大きくうなずいた。
「ユイ、私ってそんなに頼りないでしょうか」
それを見て焦ったようにアドルフが尋ねてきたのを聞いてユイとマレーラは顔を合わせて笑った。

「はい、できたよ。黒の神殿にいる僕の知り合いへの紹介状だ。一つはアドルフに渡しておく。もう一枚は一足先に神殿へ飛んでもらう」
事務室から戻ってきたエリックが巻物状の紙をアドルフに渡し、もう片方の書状をマレーラに渡した。
マレーラが何かを口元でつぶやくと書状はひとりでに折りたたまれ鳥の形になった。紙の鳥は数回はばたくと勢いよく飛び立ちあっという間に北の空に消えていった。
ユイは鳥が飛んで行った空の先にあるまだ見ぬ土地に期待と不安の視線をおくるのだった。

9人目

ザザッ…ザザッ…ザザザッ…

「ふぅ…ここいらで一服するか。おーい!兄貴!辺りも暗くなってきた!休憩に入ろう!!」

 男は蔦で編まれたカゴをおろしながら足元の草を払い、毛皮の腰巻を解いて地面に広げた。
 小枝を少し拾い集め、腰袋から火打ち石とを取り出す。

「おう…待たせたな…コイツを取るのに少し手間取っちまって…」
顎から苔のような髭を生やした大男の手には、豚ほどの大きさのウサギに角が生えた生物が握られていた。

「レプスか!!!こりゃあいいっ!肉も美味いし、角は売れるし、毛皮は温かい!!!今すぐ、飯の準備をするよ!手元にエールがあればもっと最高なんだけどな!!」
 火付けを終えた男は、大男の手からウサギをひったくるように奪い取り、岩の上にウサギを置いた。

「なぁ兄貴!最近、ここらも物騒だけどあの噂どう思う〜?」

「バトン、またその話か…?黒の神殿近くの森で、人がたくさん居なくなってるって噂だろ。俺らは薬師だ。森をよく知ってる俺らには耳糞が詰まるほどよく聞く話の一つにすぎん…」
 大男は平たい鍋に油を垂らしながら言った。

「それに…まだなんの要請も街から届いてない。調べるにはまだ早いだろう」

「確かにそうだけどよぉ〜、噂が出てから3ヶ月も経ってるぞ?その間に何人も同じ森で行方がわからなくなってる。調べたらお金も少し貰えるかも」
 捌き終えた分厚いウサギの肉を、大男が持つ平たい鍋に押し込みながら男が言う。

「ちょっと…!あれ見ろ!兄貴!!!鳥か!?白い鳥が木にぶつかりながら飛んでるぞ!!!」

 夜空には星の川がはっきりと見え、森の木々一本一本の枝まで青白く照らされている。
 その間を、跳ねるように白い鳥が小さい塵をヒラヒラと鱗粉のように撒き散らしながら飛んでいる。

「バトン、あれは…おそらく誰かの文だ…」

10人目

「文? 手紙ってことか、兄貴?」
「フミドリだ。魔術師同士が使う連絡方法だな。向かっているのは『黒の神殿』の方角だ……どこかの神殿が動いているんじゃないか、バトン」
 大男は黙々とウサギの肉を焼きながら言う。
「それならいいんだけどなぁ〜。なーんか気になるんだよなー。ちょっと個人的に調べてみてもいいか、兄貴」
「本業に支障を出さないのなら好きにしろ」
「りょーかいりょーかい」
 男は、鍋で焼かれているウサギの肉にスパイスをふりかけながら、軽い調子で返事をした。



 『黒の神殿』は、北方の切立った険しい山の中腹にある。
 『青の神殿』の門前町から、『黒の神殿』を擁する山の麓の街までは飛竜船で3日。そこから神殿までは、更に馬車で2日かかる。
「旅をするのは、とても時間がかかる大変なことなんですね……」
 飛竜船の船着場へ向かう道すがら、ユイが呟く。
「ユイは、旅をしたことがないのか?」
 アドルフが訊ねると、ユイは何だか難しい顔をした。
「したことがない訳ではないんですけど。私のいた世界では、もっと手軽なものだったというか……」
「そうなのか。これでも、飛竜船が実用化されたことで、旅にかかる日数がかなり短縮されているのだ。安全性も高く、快適だから安心していい」
「そうなんですね。……少し、楽しみです。飛竜船という乗り物は初めてなので」
 ユイが表情をほころばせたのを見て、アドルフは安堵した。ほんの少しでもこの世界に慣れて、不安が薄れてきているように感じたからだ。

11人目

「すごい……」
飛竜船を目の前にして、ユイは口をぽかんと開けてつぶやいた。
「あれは本物の竜……なんですか?」

遠くからでも視界に収める事ができないほどの巨大な竜を指差し、ユイが尋ねる。
いや、本物の竜ではない。巨大な飛行船を、外見だけ竜にしてあるのだ。
この大きさの飛竜は滅多に見れない。空賊も、恐れをなして逃げていく。

そんな感じで話していると、船着場に着いた。
乗船券を買うと、アドルフはユイに一枚、手渡す。
さあ、乗ろう。段差に気をつけて。そう言って、アドルフはユイの手を取った。

飛竜船の中は、たくさんの人々でにぎわっていた。
人間、獣人以外にも耳の長い人や、極端に背の低い人。背中に羽の生えた人などがいる。
席に座っていたり、談笑していたり。皆、思い思いに過ごしているようだった。

お。レプスサンドが売っている。ユイ、食べよう。私は、あれが好きでな。
無邪気に売店へ向かうアドルフを見てユイは微笑んだ。飛竜船の出発時間が来たようだ。
「何かにつかまったりしなくて良いんですかね……?」

出発時間になったにも関わらず、周囲の人々は変わらず普通に立って歩いたりしている。
まったく揺れたりもしないので、つかまらなくても大丈夫だ。
それよりも、そろそろ船が飛ぶ。外を見ているといい。

アドルフに促され、ユイは透明なガラスのような壁から外を眺める。船が動き出した。
船着場があっという間に豆粒のようになり見えなくなった、と思ったらもう雲の上だ。
「……本当に、ぜんぜん揺れませんね」

そうだろう。さあ、船内を散策に行こうか。なにしろ、三日もいるのだからな。
それでも、三日では足りないほどに、色々な施設や催し物があるから退屈はしない。
アドルフがそう言うと、ユイは「とても、楽しみです」と目を輝かせた。

それからの数日間は、特に事故やアクシデントなども無く、二人は空の旅を楽しんだ。
高度な魔術で動いているという飛竜船の旅は、快適そのものだった。
そして、三日目の朝。飛竜船が船着場に、静かに到着した。遠くに街が見える。

さあ、行こう。ユイ。アドルフの言葉に、ユイはうなずいた。