茜色の夕焼け
8月。毎年この時期にこの高台で見る夕焼けが私は大好きだ。
子供の頃から一人でいつも見に来ている。
楽しかった日も辛かった日も。
ハルはこの夕焼けを見ながらいつも思う。
「今日は終わってしまう。明日は、未来はどうなるだろう」と。
「ハルでしょ?」
ふと呼びかけられて、ハルはドキッとして振り返った。
ハルの知らない若い女性がそこにいた。
「えーっと…誰だっけ?」
「そっか。私のこと知らないのは当然か。私はナツ。未来から来たの。」
小麦色の日に焼けた、その女性は空中に手のひらをかざす。
その瞬間、ボワーンという音がして、空中に映像が映し出された。
それはその女性が未来の方からタイムスリップしてきた空間に違いない。その女性は何故ハルが自分の名前を知っているのか不自然に思う。急に自分の名前を初対面の人に呼ばれて心の中は驚いているだろう。
ナツという女性がやってきた空間が映し出された映像の中にはまた知らない人物の姿が。
その人物が笑ってこちらに話しかけてきた。
「はじめまして。私の大切なハル。」
この2人の関係はいったい。
そしてなぜ私のことを知っているのだろう。
「あなたに伝えたいことがあって私がナツにそちらへ行ってもらいました。」
その人物は話を続けた。
「私はアキ。」
アキと名乗る女性はゆっくりと優しく語りかけてきた。
「ハル、あなたは私の曽祖母なの。ナツは私の孫。あなたは、私を可愛がってくれたわ。そして、そう、あなたは8月になると、夕焼けの見える丘へよく私を連れて来てくれたのよ。いま、『未来」…つまり、私たちの世界は荒廃した世界になってしまっ…」
「ちょ、ちょっと待って!どういうことですか?いくら、会社の先輩や上司のモラハラに耐えてる私だけど、意味わかんない!未来から来た?信じられない。」
驚きを隠せず、私はついアキの話を遮るように、まくしたててしまっていた。
3人の名前はハル、ナツ、アキと季節に関係しているがアキがハルの曽孫だとしたらハルの孫の娘に違いない。この名前の由来は何処から来ているのだろうかと不思議の思う。そこでアキはハルに「あなたは今勤めている会社で上司からセクハラを受けてるみたいだけどすぐ告訴しなさい。何か復讐を考えてるみたいだけどそういう犯罪行為は人生を台無しにするから辞めなさい」と言った。
「本題に入ります」
「今から数十年後に、人間は不老不死を実装できるようになるの」
「不慮の事故などがない限り、人は何年でも生きれるようになるの」
「そして、そこから数百年後。今度は、世界が大きな戦争で滅ぶ事になるわ」
「その世界であなたが生み出したロボットが、私のおばあちゃん」
「私たち家族は、数千年の時間を使って、時間を旅する装置を作る事ができた」
「この時代に来たのは、ハル」
「あなたのペットを抹消してもらう事をお願いに来たの」
「不老不死の実現のきっかけになった」
「ベニクラゲを」
「えっ!私の大事な『フユ』を?」
あの私が可愛がっているフユをこの手にかけるだなんてー。
アキは続けてこう語った。
「戦争をとめるためにはペットのベニクラゲを選ばれし者が食べないといけないと研究で私が見つけたの。」
「その選ばれし者がハル、あなたよ。」
「???」
クラクラしてきた。
目の前では、ナツがいつのまにかフユを調理するため準備をはじめている。
水槽でフユは、いつものようにゆったりゆったり泳いでいた。
ナツは、クラゲ料理をどうやら現代的に作ってくれるらしい。
「こんなメニューをつくることにするね」
●クラゲの刺身
●きゅうりとクラゲの中華風の和物
●きゅうりとクラゲの梅和え
いよいよ、ナツはフユを水槽からだしまな板にのせた。
そして、ナツは言った。
「さあ、ハル、あなたの番よ」
三品を食べ終え、ごちそうさまでした、と挨拶をする。
アキが満足そうに微笑む。
「これで、不老不死の実現は食い止める事ができたわ」
「戦争のきっかけになった、数百年、独裁する大統領なんてものが生まれる事もない」
「未来は、守られたのよ」
うっすらとアキとナツの姿が薄くなっている事に気づく。
不老不死が実現しなくなった事で、アキとナツもまた、誕生しなくなるのだ。
「さよなら、ハル」
二人は、部屋の背景に溶けていくように消えていった。
明日も高台へ行こう。三人で見た、茜色の夕焼けを見るために。