プライベート 雨女
兵庫県の片田舎のコンビニエンスストア。
20分毎にループされる店内BGMは、この真夜中の静けさを一層際立たせ、俺を不快にさせるためだけに流れ続けていた。
コンビニのバイトもかれこれ2年になる。
"とりあえず大学には"というワケのわからない親の方針で地元の介護系の短大に入った俺は、親友とも呼べないような友人の誘いに乗り、深夜のコンビニバイトを始めた。
友人がクビになった後も、惰性でダラダラとバイトを続けてきたが、ここ最近あることにふと気がついた。
それは、いつも雨の日の出来事だった。
こんな降り続く雨の中、傘もささずずぶ濡れになりながら店内に入ってくる人間がいる。
年は俺より少し上ぐらいのヒゲを生やしたロン毛
雨の日にだけコンビニでいつもの缶コーヒーといつものワカバ(煙草)を購入していく。
今で何回目だ?いつもいつも雨の日だけ、、、
俺は恐る恐る声をかけた。
お兄さんいつも、雨の日に傘をささずに来ますよね?大丈夫ですか?
他人である為、当たり障りなく心配より興味のほうがまさるがこれが一番の言葉だと思った。
数秒、俺の目を見つめゆっくりとこう口にした
「兄ちゃんちょっと外出てみ」
俺は、すぐに感じた 終わったと。
足取り重くお兄さんと一緒に外に出た
どうかされましたか?
お兄さんは、おもむろに缶コーヒーと煙草を取り出し雨が降りしきる屋根のない所へ歩きだした。
俺は、この行動の意味がわからずとんでもねぇ人に絡んじまったと思った。
煙草を口に加え、脇に缶コーヒーをはさみ
お兄さんは、ワカバが雨で濡れないように両手で囲みながら火をつけながらこう言った。
「雨が降ると傘をさすことになる
普通なら濡れないように傘を広げる。
それじゃ缶コーヒーと煙草を同時に味わえない
手が塞がっちまうだろ?」
傘をどこかに置く、濡れないところで吸えば良いだけのことだろと口が滑りそうになったが、
お兄さんの顔は天気より晴れ晴れしていた。
言わずに眺めることにした。
またお兄さんは、こう言った。
「雨で少し湿気たタバコの味、兄ちゃんにはまだわかんねぇよな。」
「後、男が濡れるぐらいのことで嫌がってたらどうする?」
それが俺とお兄さんが初めて交わした会話だった。