w Summer
「ここが愛夏さんの部屋になります。」
看護師は、そう言うと去っていく。私が病院にいる理由はただ一つ。交通事故で骨折したからだ。昨日までは高度治療室《HCU》に居たが、車椅子でなら移動できる状態まで回復したので普通の部屋に移動してきたのだ。4日前、夏休みに入り私達美術部員は8月のコンクールに向けてラストスパートをかけていた。特に私達3年にとって中学校最後のコンクールだ。あの日も制作が一段落し、家に帰ろうとしていた。交差点を曲がり、家が見えたその時、大きな音と光が見え車に轢かれたのだ。っと、身の上話はこのくらいにして、ベッドへと移る。母が持ってきてくれたのであろうパジャマやタオルなどを棚にしまう。すると、廊下から声をかけられた。
「こんにちは!ウチ、中学2年の高梨由香!隣に中学生の女の子が来るって言うから来ちゃった!」由香ちゃん?はとても元気な子だ。
「えーと、3年生の朝海愛夏です。よろしくお願いします?」私の挨拶に由香ちゃんは笑顔で返してくれた。
「まなっち!こちらこそよろしく!」
その後も、しばらく他愛のない話をして時間が過ぎていった。
「あ、もうこんな時間なんだ」
由香ちゃんが時計を見て言った。どうやら夕食の時間が迫っているようだ。
「じゃあご飯食べたらまた、話そうね!あと2人連れてくるから!」
由香ちゃんはそう言うとドアを閉める。
一人になり、色々考える。病室で油絵を書くことはできない。まだ製作途中なのに。コンクールが控えているのに、どうして、とやるせない気持ちで一杯になり、涙がこぼれそうになる。
「こんなことで泣いちゃダメだ」
そう自分に言い聞かせても涙が出てくるのを抑えられない。
「夕食でーす。置いときますね」
そう言うと看護師さんがご飯を持って入ってきた。私は涙を拭き、受け取る。
焼き魚は涙の味でしょっぱかった。
夕食後、約束通り由香ちゃんと、2人がやってくる。
「やっほー♪」 と明るい声を出す由香ちゃん。 その後ろから2人の背の高い男子が現れる。
「こんにちわーオレ|松木隼也って言いますーよろしくなー」松木くんはふわふわの金髪で背はもう一人の男の子よりちょっと低い。
「夜海夏樹」 そう言った黒髪の子はさらさらの髪の毛をなびかせている。 私は立ち上がって...は無理だから座ったまま自己紹介をした。
「朝海真夏です。よろしくおねがいします」