SMSの力

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1人目

「ルルルル…」
知らない番号からの着信音が7回鳴った。
どうせ、詐欺か勧誘だろう。

鈴木直樹は、しばらく考えて、その電話番号を検索してみた。
どうやら詐欺でも勧誘でもないのかもしれない。
とりあえず、電話をかけ直すことにした。

「ツーツーツー」

と話し中を知らせるコールが鳴ったので
不思議に思いながら電話を切った。

時間は14時を回っている。


そろそろ、起きよう。

歯磨きをしていたら、あの知らない番号からSMS が届いた。
「折り返しありがとう。元気ですか?  黒田」

黒田…


誰だろう?
同級生にも、以前勤めていた会社の同僚や上司にも、そんな名前の人はいない。

鈴木直樹、引きこもり歴10年。
部屋にこもりっきりというわけでもない。
近所くらいは歩く。

出会いは欲しかったが、恋愛や友情というものについては恐れを抱いていた。

ショートメールへの返信内容を考えていたら、すでに何時間も過ぎた。
鈴木には時間があるのだ。

いろんな返信内容を考えて、結局1番最初に思いついた内容で送ることにした。

2人目

宛先 黒田
―――――—―――――
件名 はじめまして
―――――—―――――
内容  えっと…僕は 鈴木直樹といいます
ここ、最近…外に出るのも辛かったりします
友人もいません なので黒田さんが初めての話し相手です
あの…こんな僕でよければ、相手してやってください
―――――—―――――


人と話すのも苦手なため なれない文章で たどたどしく 一生懸命書いた

(返事くるかな?)

鈴木は 内心ワクワクしていた

3人目

3日ほど経って、黒田からショートメールが届いた。

「こんにちは。返信ありがとうございます♪あなたにしかできないことってなんですか? 黒田」

鈴木は落書きをしながら、考えた。
一般的に考えて、自分にしかできないことがある人間は超人的な人間だろう?

目を落とすと、そこに映った落書きがあった。
落書きは誰もが描くことのできる行為かもしれない。
でも、この落書きを書けるのは誰でもない自分だと。
100人が100通りの落書きをするかもしれない。

なんだか嬉しくなって黒田に返信をした。
「返信ありがとうございます!!誰もができることですが…『自分』が取り組むことで自分にしかできないものになります。 鈴木」
ちょっぴり心が温かくなるのを感じた。

4人目

すぐに、黒田からSMS が来た。

「そうそう。究極、『自分』がやること全てが自分にしかできないこと。伝わって嬉しいです! 黒田」

そして、僕は少し考えた。
最近、家族に対して、感謝の気持ちを考えるようになった。
自分は家族に恵まれているのかもしれない、と。

「最近、家族に恵まれてると思うようになりました。 鈴木」

返信はすぐにきた。
「それは素敵ですね!自分がどんな人間だからですか?」

家族は温かい。
自分か…自分はどんな人間なんだろう?

5人目

黒田とのやりとりは3か月くらい続いた
色々とやり取りをしているうちに
自身も明るくなった気がする

でもまだ外に出る気にならない

と、その時黒田から写真が届いた
海外の写真だ 海がきれいに映っている


『外は素敵ですよ いろんな景色が見られて 一度外に出てみてはどうですか? 黒田』

『外に出たいけれど…色々としんどくて出られないんです…黒田』


最近はカーテンを閉め切っていて、太陽も浴びていない
健康に悪いのはわかっているけれど…デリケートな僕は外になかなか出られない