とある少年の不幸
灼熱地獄の日々が続く夏のとある月曜日、正孝は学校から帰る途中だった。
学校の最寄りの駅まで歩いていると突然黒い車が正孝の隣に止まったかと思ったら、複数の手が伸びてきて正孝は車の中に引きずり込まれ縄で手足を縛られてしまたった。
そして車は発進して正孝は誘拐されてしまう。
恐怖のあまり、正孝は沈黙することしかできない。
「マスター、やりましたね!」
最前列の助手席から聞こえてくるのは、中年の男性の野太い声だ。
「あっはっは、でかしたわ義経。これで吉田家の者たちも我々に服従するしかないわ」
運転席からは、それほど歳はいっていないだろう、女性の高笑いが聞こえる。
中間の列には、屈強そうな男が二人、スーツを身に纏って狭苦しそうにしきりに体を動かしている。
「しっかし、渋滞してますね。警察が追ってくるのも時間の問題かも」
中年男性の声には焦りが感じられる。
「よりによって、今日事故渋滞とはねぇ……あたしらもついてるんだかいないんだか」
15分後。
「やっと渋滞抜けたわね。」
「警察来なくてよかったですね!」
「本当に運が良かったわ。」
そう話す犯人達。正孝は渋滞にハマっている間に大声を出さないように薬品で眠らされていた。
車が走ること2時間。別荘のような建物に到着し、眠っている正孝を犯人の1人である男がお姫様抱っこで運ぶ。
「こいつの拘束はしたままでいいわ。むしろもう少し厳重に縄で縛っておいてもいいわね!」
「了解しました!」
男二人が正孝をあるだけの縄を使って逃げられない様に厳重に縛ってしまった。
そして男達は眠っている正孝に何か薬品を嗅がせていた。
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「ここは...」
正孝は目覚めると、薄暗く何もない部屋の中央にポツリと置かれていた。手足は勿論、口にもガムテープが張られており、言葉を発することすらままならない。
「お目覚めかね?正孝くん。」
正孝の目の前に一人の男が座っていた。黒いサングラスをかけ、足をくんでこちらを見つめている。
「手荒な真似をして悪かったと思っている。だがこれも我々の目的の遂行のためには必要なことなんだ。静と義経に命じて君を連れ去ってもらった。」
「......」
正孝は心の中で色々なことを考えていたが、いかんせん声がでないのでじっと目の前の男を見つめるだけだった。
「さて、どこから説明しようかな。」
サングラスの男は順を追って経緯を説明し始めた。
その時、部屋の扉が開き複数の男達が入ってきた。
「なんだお前ら!」
サングラスの男が慌てるように叫ぶと、男達は無言でなにか薬品をサングラスの男に吹きかけた。
男はその瞬間意識を失い窓から放り投げられた。
そしてその男達は正孝に近寄り「こいつの拘束をもっと厳重にしろ!」と言って縄で手足をきつく縛り直され、更には手錠までかけられた。
「こいつを連れていくぞ!」
正孝は男達によって再度車に乗せられ、どこかに連れていかれる。
「やはりあの男は信用出来なかったな。」
「アホみたいに俺達の計画を話そうとするとはな。おかげで計画変更だ。」
「まぁ、制服をキッチリ着た男子高校生が必要なのは変わりないからこいつには付き合って貰わなくちゃな!」
男達が話している間正孝は妙な高揚感というかムラムラする感覚を覚えていた。
正孝が眠っている間に嗅がされていたのは実は強力な媚薬だったのだ。