あまうた
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6日前
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カミーネ
1人目
「私たちの秘密基地の名前『あまうた』にしない?」
天はキンキンに冷えた麦茶を勢いよく飲み干した末に、ドヤ顔で言った。
「どうして?」
譜は模造紙に油性ペンを走らせながら尋ねる。
「だって、発案者私たちだよ? 名前を取らずしてどうする?」
「いや、安直じゃないかな」
譜はそう言いながらも、模造紙に『あまうた』と書き加える。
素直に気に入ったっていえば良いのに。そういうところ、昔から変わってないよね。天は心の中でそう思った。
「じゃあ『あまうた』で決定ね。よし、これで第一歩が踏み出せたね」
天は大きく伸びをすると、ソファに深く腰掛け、だらしなく体を倒した。
「やること結構あるから、あんまりのんびりしてられないよ」
譜は片手で大豆バーを持って齧り付く。
*
2人目
その乾いた咀嚼音が、廃墟のようにがらんとしたプレハブ小屋に響いた。この『あまうた』は、元々、十年以上前に閉鎖された工場敷地の片隅にある資材置き場だった。埃とカビの匂い、錆びたロッカー。外の真夏の光もここでは薄暗い、くたびれた薄墨色に変わる。
「大丈夫だよ、譜。世界は明日になっても終わったりしない。あるいは、もうとっくに終わってるのかもしれないけど」
天は、ソファの破れた合皮から覗いているスポンジを指先で弄びながら言った。