十字路の悪魔
ロバート・ジョンソンは十字路で悪魔に魂を売り渡して、ギターのテクニックを身につけた。
さて、俺は悪魔だ。
今日も十字路に立って仕事をしている。
ま、本当は別に十字路である必要もないんだが…迷える子羊というのは、得てして分岐路にいるモンさ。
今日の客は、んん…カメラを持ってるな。
これはアレか、今流行りの配信者というやつか?
髪を刈り上げ、紫色に染めた不健康そうな若い男が、カメラ片手に十字路を彷徨っている。
「アレ…?っかしーな、霊の出るっていう廃墟、この辺じゃなかったのかよ」
配信者になって約3ヶ月。
すーぐに稼いで、借金なんか返してやるって意気込んでたが…現実は無慈悲だった。普通に配信しても伸びないから、どんどん荒技を繰り返す。迷惑系配信者ってやつだな。人は人の嫌ァな部分が、結構好きなんだ。
今日は出るって噂の廃墟で、幽霊煽って祟り検証!みたいな動画を撮るつもりでいたけど、道に迷って辿り着けない。暫く十字路をウロついてたら、なんか怪しげなオッさんが声をかけてきた。
「ナァ、お前、魂売らないか?」
「売ってどうするんだ?」
オレは聞き返した。薄気味悪いが、物怖じしてちゃ、迷惑系配信者はやってられないんだ。
「望みをなんでも一つ叶えてやろう」
キタキタ! いいねぇ、こういうのだぜ。
「まず、あんた、誰だ?」
カメラをオッさんに向ける。
「俺は悪魔。望みを売るのが仕事だ、お前みたいな奴にな」
ふうん、悪魔ねぇ。
とりあえず、どうしたらこのオッさんを困らせられるか、オレは考えた。
なぜか「億万長者にしてくれ」という言葉は出なかった。そうすれば借金地獄からも抜け出せるのに。
なぜなら、このオッさんが本物の悪魔かどうかわからなかったし、それに何よりも、この、怪しげで、薄気味悪くて、憮然としたこの男が困る顔が見たいんだ。
まあ、こういう時にする望みはこれだよな。
「オッケー、分かったよ。じゃあ……叶える望みの回数を無限にしてくれ」
するとオッさんは鼻で笑いこう言った。
「おっと……。君は魂を無限個持っているのか? 見たところ、君の中には1つしか魂はないようだがねぇ。——叶えられる望みは一つだけだ」
そして、ため息をつき独りごちる。
「こういうアホな望みを言う馬鹿が多くて困る……」
カチン。オレ頭の中でスイッチが入った。
絶対にこの男を困らせてやる。
迷惑系配信者として、面白い絵を撮ってやるからな。