見つけてしまったこの夏を
「夏」を見つけた。
蝉の声が響く夏だ。
冷たい水が心地よい夏だ。
晴れの日が多い夏だ。
髪の毛が邪魔になる夏だ。
そんな「夏」を見つけた。
僕は、1人の女の子と出会った。
この「夏」は、甘くて甘い、夏だった。
僕は、伊藤 蒼。
自称引きこもり。中学2年生。
学校では、自分で言うのもあれだけど、陰キャだ。
親はほぼ仕事でいない。兄妹もいない。一人っ子だ。
待ちに待った夏休みもあと2週間で、終わりか、、、
ま、ゲームでもするか。
― 数時間後 ―
うぅ、、、頭がくらくらする。画面の見過ぎかな、、、
少し外に出よう。
あ、暑い……。
真夏の容赦ない日差しが、僕をジリジリとこがす。
よけい頭がクラクラしてきた。まずい、このままだと倒れそうだ……。
目の前には、公園の水飲み場がある。
そうだ。目でも冷やしてみるか。この軽い頭痛が無くなるかもしれない。
そう思った僕は、目を洗って、冷やしてみる事にした。
ゲームのやり過ぎで頭痛がする時は、たいていこれで治るんだよな……。
冷やしていると、少しマシになってきた。良い感じだ。
しかし、何かが足りない。この際だ。頭も冷やしてみるか。もっと治るかもしれない。
この暑さなら、髪もすぐに乾くだろうし。周りに人もいないし。うん、問題ない。
そして、僕は今度は水飲みの横にあった蛇口を下に向け、頭を冷やす事にした。
良い感じだ……。水が冷たくて、気持ち良い。素晴らしい。
……シャツ、汗でビショビショだな。これだったら、いっその事……。
今おもえば、夏の猛烈な暑さが、僕を軽くおかしくさせていたのかもしれない。
気づくと、僕は全身で水を浴びていた。その時だった。背後から声をかけられたのは。
「私もやってみたいなー。それ」
!?
「毎日こんなことやってるの〜?楽しそうw」
どこかで聞いたことのある甲高い声。
僕の好きな育成ゲームのヒロインキャラの声に似ているような、、あのアイドルグループのNちゃんにも似てる気もするな、、、?けどこんなところにいるわけないよなぁ、、、
いつもは、くせっ毛の前髪が、水道の冷たい水で鼻が隠れるくらい伸びている。のれんみたいな髪の毛の隙間から、そ〜っと、ドキドキしながらのぞいて見ようとした。
「イテッ!!」
何かが僕のおでこに飛んできたようだ。
「蒼くん、1人で楽しんでないでさ〜私にもそれやらせてよぉ〜」
彼女は何故だか僕の名前を知っていた。
僕は彼女の名前を、いや、彼女の顔にすら見覚えがないというのに。
「僕のこと、知ってるんですか...?」
僕がそう告げると、彼女は少し眉をひそめながらも軽い口調で
「覚えてないの?悲しいなぁ~。」
と微笑んだ。
色白で、透き通るような肌に長い黒髪を靡かせる彼女は、照りつける太陽の下には似合わない気がした。
「まぁでも、無理もないよね。だってもう5年前のことだもん。忘れてても不思議じゃないよ。」
「ごめんなさい...」
なんだか悪い事をしたような気がして、思わず謝ってしまった。
「ほんとだよ。私は1日も忘れたこと、なかったのにな。」
そういうと彼女は水道に近づき、おもむろに蛇口をひねった。