現実的な桃太郎

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  • 桃太郎
1人目

昔々あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。

おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
おばあさんは、桃を家に持って帰りました。

「おじいさん、早速食べよう!」
「おお、そうだな!」
そういうと、おじいさんは斧で桃を一刀両断した。
しかし、桃の中身は空洞であり、中には赤ん坊がいた。
赤ん坊は切れ目から離れていなので、一刀両断を免れたのだ。
おじいさん達は、桃から生まれた赤ん坊に「桃太郎」と名付けた。

その後、なんやかんやあって桃太郎は成長した。
おじいさん、おばあさんはそんな桃太郎に「鬼退治」を命じ、彼の家来を雇うために「きびだんご」を与えた。

だが、桃太郎は疑問に思う。
「命がけの戦いに、きびだんご一つで付いてくる者がいるのだろうか?」
疑問を解消できないまま桃太郎は外に出て、家来探しの旅に出た。

2人目

 そして桃太郎は働きに出た。
 やはり現実的に考えて、きびだんご一つで身命を賭して働きたいなどと思う物好きはいないだろう、と考えたからだ。
 それならば、金を稼いで腕の良い用心棒を雇う方がよっぽど合理的だ。それに、稼いだ金でより良い武器も調達できる。実家は知っての通り貧乏だ。貧乏な家で用意できるのはなまくらの刀と手製の幟くらいなものだったから。

3人目

「やはり食べ物よりも銭だ。ありとあらゆるものを解決するにはこれしかない。銭こそは力なり」
 桃太郎は常々、己に言い聞かせそれを実行した。
 手始めに半年程働いて種金を作り、それを利回りの良い投資へと向けた。
 足りない部分はおじいさんとおばあさんに頼みこみ、実家を担保に入れて借用をした。
 そして不毛とした地域の地上げを行い、人を雇った。
 生活必需品にターゲットを絞り、価格の安定する麻や絹の生産を行い事業を拡大していく。
 安定した供給が達成される事で噂は広がりをみせ、さらに人が集まる。
 1年経てば桃太郎の資産は地方の豪族に並ぶようになっていた。
「桃太郎や今朝もきび団子を作ったんだが、いるかい?」
 そういって漆塗りのお盆には表面を金箔で染めたきび団子が山のように積まれ、痩せこけていたおじいさんとおばあさんも今や大黒天とオタフクのようにふくよかな姿へと変わっていた。
 桃太郎自身も若衆マゲを止め、燃えてなびく炎のような髪型に変えた。
 町中を歩けば誰しもが桃太郎に頭を下げ、国を治める大名にすら桃太郎の名は届いていた。
 しかし財を成しとて、元来の目的である鬼退治の文字は頭の隅に控えていた。
 今や鬼を武力で制圧すべくか、それとも金の力で降伏させるかの二択になった。

4人目

「何が起こっている!」
 ダン! 地響きがするほどの轟音が鳴り響く。
 それは鬼の王が自らの執務机を叩いた音であった。
「かつてあの土地は荒廃し、貧弱な人間しかおらんかっただろう!」
 怒りで青筋が立ちまくっている鬼の王。側近である鬼の参謀が汗を拭いながら進言する。
「それが、桃太郎とかいう人間が、土地の再興と武力増強を計っており……」
「そんなことはどうでもよい!」
「ひぃっ!」
 咆哮とも呼ぶべき力強い声が、参謀をたじろがせる。
「問題はなぜ我々が人間ごときに遅れを取っているのかということだ!」
「そ、それは我々が半ば力押しで人間を統治していたからでは……」
「煩い!」
 玉座に鎮座していた鬼の王が立ち上がる。
「こうなれば戦争だ! 儂自らが指揮を執る! 鬼ヶ島中の鬼を総動員しろ! 人間どもを討ち滅ぼしてくれる!」
「し、しかし王……」
 剛腕を振るい、参謀に向き直る王。
「黙れ! これは命令だ! 鬼の本当の恐ろしさ、思い知らせてくれるわ!」
 参謀は天を仰いだ。王は一度こうと決めたら我を押し通す人物だ。このままでは滅亡の一途を辿るのみ。
「お待ち下さい!」
「ん……? ! お前は!」
「おぉ! よくぞご無事で!」
 その声の主は、鬼の王の表情を険しくさせ、参謀の表情を明るくさせた。
 それはかつて鬼の王の息子“だった”赤鬼である。