僕の生き方。
まるでオールディスの「地球の長い午後」の世界に迷い込んだみたいだ。
ビル群のように際限なく続く無数の芝生が目の前に巨大な壁となってたちふさぐ。
細く続く砂利道の一粒は岩の如く重厚さを醸し出し、殴っても傷一つつけることはできないだろう。
少し離れた先には巨大な要塞達がうごめき、それらがアリだという事に気づいたのは興味本位で近づいた後であった。
僕はどうなってしまうんだ。
「とにかく…進もう」
僕は身を決して進んだ。
大きい大きい草や岩、虫たちを乗り越えて。
そして、僕は目の当たりにした。
都会だ。大きい大きい、空まで届くようなビル。
でも、よく見えないものがひとつある。
自分の家だ。何故自分の家がないのか。
足が痛い。
「ヒィッ!」
そこにいたのはさっきのアリだった。ほんとに大きくて、
巨人のようだ。
僕は都会から離れ、草むらに取り残された。
僕はどう生きたらいいのか?
行くあてもないから地面に寝転んだ。
どれほど小さくなっても空の大きさは変わらない。
秋の雲眺めて思った。
小さくなって、よかったのかもしれないな。僕の家はどこかに行ってしまったが、元々あの家は狭かったのだ。
妻を喜ばせようと思って、都会に無理して建てた一軒家は、払った額に見合わぬ小ささだったじゃないか。日当たりも散々だったじゃないか。そうして妻は、ちっとも喜ばず、日当たりが悪いからカビが生えて大変ねなどと言ったろう。馬鹿みたいだ。あんな家建てるくらいなら、瀬戸内海に一人で遊びに行きたかった。
そうだ瀬戸内海へ行こう。僕は小さくなったが、それは会社からも家族からも自由になったということでもある。家も、満員電車も、飲み屋のカウンターも僕には狭すぎたのだ。今はもう何もしがらみはない。
さぁ、どうやって瀬戸内海へ行こうか。
それは簡単に思いついた。虫の大きさになったのなら旅行客のカバンに気づかれないように張り付いて行けばいいのだ。
「東京から瀬戸内海の見られる街に行くには………、あっカバンに引っ付かなくても行ける!」
そう、東京駅21時50分発の寝台特急サンライズ瀬戸にこっそり乗車すればいいのだ。
「これなら終点の高松にひとっ飛びで行ける!」
そこでふと思う、ここはどこなんだと。いい案を思いついたのだが現在地が分からないので、東京駅にどのルートで向かえばいいのか分からないのだ。
サンライズ瀬戸・出雲には何回も乗っているから発車番線までわかるのだがこれは困った。まずは現在地がわかる目印を探さなくちゃいけない。
しばらく歩くと新田三丁目と書かれた物を発見する。
だが「新田三丁目ってだけじゃあ、ここが何県か分からねぇな。」ということで再び歩き始めるのだった。
しばらく歩き続けると、道路を発見した。
「…やった!!道路だ!!」
もう夜の街。明かりはほぼない。
すると「新田三丁目」の看板を再発見した。
「見つけたのはこれか…」
左右を確認してみる。すると奥の方に川があるのが見えた。
「川…水!!」
もう脱水症状のなりかけだ。早く行こう。
そういって走った。
そこの川は「荒川」といい、埼玉、長野、山梨に繋がり、東京湾に流れているのを知った。
「ここは東京の…」
「いや待てよ?長野って中部地方の西だよな?じゃあ、一寸法師みたいに流れていけばいいんじゃ…」
でもその考えはやめた。
山だらけだからだ。
とりあえず水をたくさん飲み、東京駅を探し続けた。
「いや待て。」
駅の気配が一つも感じ取れない。
そう。一番近い駅は東京都足立区の小台の「足立小台駅」だった。
ここから車で6時間もかかる。
「終わったな…」
そういって荒川のそばで座り込んだ。
モーターボートで東京湾に出た指田健二だったが、航行する貨物船からの波に煽られて湾の底へ沈んでいった。
指田健二「無念...」
沈みゆく中で何か暖かなものを感じたので彼はふと目を開いた。
すると、眩いばかりの光が彼を包み込んだのだ。
「フック船長!!??」
まるでおとぎ話に出てくるかのような
装いのその男に対して
僕は思わず叫んでしまっていた
「スミー、彼を知っているか?」
「はい、船長…。存じ上げません」
頭に△の帽子を付けて、のんびり、のんき、ちょっと
天然なおじさんが、答えていた
なんかやばそうだと思ったが、僕はふと思い立った。
海賊船の船長ってそういえばめっちゃ公平じゃなかったか。
どっかの本で読んだことがある。船長は船乗りたちに一人一票が与えられた選挙でえらばれて、気に食わなかったら誰かが「オレが代わりに船長やる!」っていって演説大会が始まって、しかも船長が気に入らないと、そもそもが契約社員だから船の乗組員は全員次の港で降りて別の海賊船に乗り込んだきり、帰ってこないみたいなことあった気がする。
それから船の船長室はシェアルーム状態でそこに置いてある酒(船長の自腹)は飲み放題だし、船長はワンチャンやらかすと島流しにされる場合もあって、その場合はピストルと水筒一杯の水だけ持たされてるみたいな悲惨なことになるから、皆に対して凄く公平に接しているところがあるんじゃなかったか。
別に財宝も船長が全部持っていくわけじゃなくてクォーターマスターが分け前を決めちゃうわけだし、待てよ。これはもしかして「ここで働かせてください!」がいける可能性微レ存なのでは?
全員アル中であることを除けば共存がいけるかもしれない。
僕は思った。
「あの!!!僕を!!!乗組員として雇ってくださいませんか!!!!」
「は?」
「僕、安全な飲み水を作る方法と、あと壊血病を防ぐ方法を知ってます!海図読んだりするのはてんで駄目ですけど結構使えると思うんですよ!!」
フック船長みたいな人(仮)はぱちぱちと瞬きした。
「それは.....本当か?」
「はい!!本当です!!!マジですマジです!!!」
こういうときは勢いが正義なのだ。僕は頑張って勢いで押し切った。そして無事転職に成功したのである。転職先:海賊だ。
しかしこの時代なら絶対に滅茶苦茶儲かる仕事だ。海兵の100倍くらいマシ。
その後なんやかんやあって港に着いたので、壊血病患者に生野菜をぶち込んだり、生水は濾過して煮沸消毒すればギリ飲めるという感じの技術を伝えたり、いろいろあった。僕は無事船内で確固たる地位を築き上げていた。
だいたい、もやし栽培係とかライムジュース絞り係みたいな役割でも海賊船の船員には違いない。だって選挙権はあるんだもの。