ママの裏の顔
「生命の球?」
「そう、見てて」
ママはそう言い、脈動を続ける”それ”を再び培養ポッドの中に戻した。
上部の蓋をきつく閉めてやると、ポッド内が妖しく緑色に光る。
それが合図となってポッド内から無数の血管が現れ"それ"に吸い付くように繋がりを果たした。
すぐ傍の心電計が動き始め、終わりの無い糸が短い範囲で波を作る。
「すごい!」
「そうよ。貴方もこうやって生まれたのよ」
私が不思議な顔をしていると、ママは手をひいて歩き始めた。
私は途端に目を強く閉じた。
ママと移動する時は目を開けちゃだめ、というのは決まり事だった。
幾つかの扉を跨ぐ感覚が足元から伝わり、その間に知らない人の声が聞こえてくる。
またママとの約束事にヒソヒソ話は聞いちゃだめ、というのもあり、動かせる手で耳を塞ぎ、会話が聞こえないよう頭の中で歌を歌う。
「さ、ここよ」
その言葉で手を離してくれた。
ゆっくりと目を開け、周囲を見渡す。
壁にぴったりと張り付くように左右7個の大きな縦長のポッドがあった。
私は最寄りのポッドに何かがいることに気づき、思わず駆け出した。
それは――私に似た子供であった。
髪の色、鼻の形、口の大きさ。どれ一つとっても私と瓜二つで、まるで鏡を見ているかのような錯覚に陥る。
暫し見つめ、すぐ隣のポッドを見る。
また私に似た子が入っている。
「私と一緒!」
思わず笑顔で言うがママは何も言い返さない。
「お水さん苦しくないの?」
「大丈夫よ、ほらみて。息ができるように管がついてるでしょ」
「あっほんとだ。ちっちゃいね」
鼻以外にも管のようなものが四肢に複数つけられ、両目は閉じたままである。
「寝てるの?」
「そうよ」
「いつ起きるの?」
「……」
ママはそこで口を閉ざした。
私の方を見つめたまま暫し考える。とても怖い顔をしていた。
「あのね、私この子たちと一緒に遊びたいなって」
怖くなり、別の事を話す。
「いい考えね。でも貴方が良い子じゃないと遊んでくれないかも」
「えっ!じゃ、じゃあ良い子になる。良い子になっていっぱい遊んで貰う」
私が慌てふためく姿にママは怖い顔をやめ、普段の無表情へと変わる。
そうして優しく頭を撫でてくれた後、家に帰る事になった。