彼氏の裏

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1人目

私にはけんとという彼氏がいる

2人目

けんは学校の裏の林によく行く 
後を追ったら猫に餌をあげていた

3人目

「びっくりした…また猫に餌をあげていたのか…」
けんはとても優しい。私にとっても優しいし、この猫にとっても餌をあげたり。
でも、たまにどこかに行っていなくなる。
そういう生活がずっと続いていた。

4人目

だがそれも終わりを告げる。
健斗がいつものように裏の林に行った。私はまた猫に餌をあげに行ったと思い、ついて行こうとすると「お前は来るな。」と強い口調で言われてしまう。
「えっなんで?」
「今日は猫の相手じゃねぇんだ!」
そう言って健斗は林の中に走って行った。

私は慌てて追いかけると健斗の姿は無かった。

5人目

(!?どういうこと?)


私は心配になり、健斗を追って林に入った


「けん!どこにいるのー!?」


叫びながら、健斗を探し回った


(見つからない…)


そうこうしてると日が暮れてきた
ピピっとスマホが音を立てる
母からの心配のメールだった


『今から帰る』


健斗が心配で、彼にメールを送った


『今から帰るね、遅くならないように帰ってね』

6人目

だがその返事もいつまでたっても返ってくる事は無かった。
そして健斗が姿を消して1週間がたってしまった。

学校に行くと皆健斗の事について話していたのだが今日は違った。まるで健斗がいなかったように何も無い日常が流れていたのだ。
私は気味が悪くなったが確かめたかったからクラスメイトの1人に健斗について聞いてみる。
「中津川健斗?だれそれ?沙也加知ってる?」
「あたしも知らないよ〜?なになに?春夏の彼氏〜?」
私はこの瞬間何を言っているのか理解出来ずにいた。

7人目

「何言ってるの。冗談やめてよ。ほら、この前撮った写真が……」
 私は震える手でポケットからスマホを取り出す。健斗の写真を見れば、きっとみんな思い出すはずだ。
 

8人目

(嘘でしょ!? 私しか写ってない!?)

「可愛く撮れてるねー
でも、この写真って、春夏しか写ってないよー?」

「な、なんで...確かにけんと撮ったのに...」


皆んなの記憶からも消されて
まるで最初っから居なかったかのように

でも、私だけ覚えてる
優しくて、大好きな健斗
どこに行ってしまったんだろう...

9人目

手にしていたスマホが鳴った。画面には「非通知」と表示されている。
普段なら、非通知には絶対出ない。
しかし、私には予感があった。この電話は、絶対健斗に関係しているという予感が。
恐る恐る、通話ボタンをタップする。

「もしもし……」
「中津川健斗に、もう関わるな」

ボイスチェンジャーで加工したような不自然な声だ。

「あなた誰!? 健斗を知っているの?」

私は叫ぶように詰問する。クラスメイトがどうしたの? と不安そうな目でこちらを見るが、なりふり構っていられない。

10人目

「私、ちょっと具合が悪くなったから早退するね」
「本当、青い顔してるね…わかった先生に入っておくね」
「ありがとう」


私は一目散に彼の家へと向かった
何か手掛かりがあるかもしれないと思たからだ

だけど…インターホーンを押しても誰も出ない


(どうしよう……非通知の相手のこともわからない…)

11人目

するといきなり「多治見春夏だな、ちょっと来てもらうぞ。」といきなり腕を掴まれて車に押し込まれてしまう。

「何すんのよ!私をどこに連れていく気ィ?!」
「忠告したはずだ中津川健斗に関わるなと。」
この男どうやら先程の非通知の電話をかけてきた人のようだ。
「いきなりそう言われても、はいそうですかと言うわけ無いじゃない!それより一体どうなっているの?健斗の事誰も覚えていないじゃない!ねぇ、なにか知ってるんでしょう!」
私はムキになって叫んでしまう。すると男が「うるせえガキだな。」と私にナイフを見せてきた。

「なによ、そんなんで脅しているつもり?」
「ナイフでビビらねぇとは大したガキだな、まぁいいかお前の命はあと数時間だからな。」

12人目

男は私を無理やり後部座席に座らせた。

「数時間って、どういう意味……?」
「そのまんまの意味さ。お前さん、もうすぐ死んじまうんだぜ」

男はせせら笑う。

「おいおい、あんまりいじめるなよ」

運転席からもう一人の男が声をかけてきた。
男たちは二人ともサングラスをかけ、マスクをしていて顔が見えない。

「とりあえず、河岸を変えよう」

健斗を失ってしまう恐怖に比べれば、ナイフなんか少しも怖くはない。
しかし私は女でしかも子供だ。この屈強そうな男たちに力でかなうはずもなく、そのまま車で連れ去られてしまった。

    ◇◇

どれくらい走っただろう。
いつの間にか街から離れ、長閑な農道に出ていた。

「驚かせてすまなかったね。俺たちは君を害そうとしているわけじゃない。むしろ救いに来たんだ」

運転席の男が口を開いた。

「どこから話せばいいだろうか。そうだな……。君は並行世界という言葉を知っているかい?」
「聞いたことある。この世界とは別にもうひとつの別の世界が存在するっていう、映画とか小説とか、ファンタジーの話でしょ」
「ファンタジーではない。紛れもない現実なんだ」

男の声が怒気をはらんだ。
私は唾をごくりと飲み込む。

「君はここではない別の世界で命を落とした。それを阻止するため、俺たちは世界線を移動した。しかし、移動した先でも運命は変わらなかった……。何度繰り返しても、君を救うことができない……。今度こそ、この世界線でこそ……」

男の声は真剣で、冗談を言っている様子ではない。
彼は狂っているのだろうか? それとも……。

13人目

「並行世界があることは、理解したけれど…
けんが何故いなくなってしまったのかまでは、分からないわ…」

「彼は、俺たちと同じ立場の人間だ…君を俺たちの世界へと導くための準備をしている。」

「!?……彼は…この世界の住人じゃないの?」

「そういうことだ」


(健斗が別の世界の人間だったなんて…)


彼は時々ふといなくなったことがあったけれど、いつもはふと表れて
何事もなかったかのように、いつも通り優しかった…


「話は分かったわ。私を並行世界へと連れて行って」

「話が早くて助かるよ。じゃ行くよ」


彼らについていき、何かのマシンのようなものに乗せられた


―― ガタン キュイィィーン ――


マシンが起動する音が聞こえた

14人目

「そういえば自己紹介がまだだったな、俺は土岐隼人でこいつは本巣和真だ。」
「さ、そろそろ出発だ。」

本巣さんがそういうと白い光に包まれる。私は眩しくて目を瞑り再び開けると辺りオレンジ色の空間だった。
「あの、この空間って一体……。」
「この空間はな、世界の狭間だ。落ちると一生閉じ込められるからきをつけろ!」
私はシートベルトを握る手に力を込めた。

「まぁそう簡単に落ちやしないさ!」
簡単に落ちてたまるか。なんて思いながらしばらくマシーンは世界の狭間を進んでいく。

「あっ大垣さんから連絡来てる。」
本巣さんがスマホを取り出しそうつぶやく。
「大垣さんはなんだって?」
「大垣さんのところは無事に計画は進行しているけど、瑞浪さんの班がちょっとまずいらしい。」
「まじか、今日に限って恵那のやついねぇのに厄介な事にならなければいいが……。」
どうやらちょっとまずい状況らしい。私はこれからどうなるのか不安でいっぱいだった。

「とりあえず世界の狭間は抜けるぞ。」
マシーンは再び白い光に包まれる。そして目を開けると研究室のような建物の前に止まった。