Fate/Longing Ryernism 第一部
「全能なるハンプティ・ダンプティ」
この世界は、白紙である。
この世界は、生まれ落ちたばかりの赤子のようなもの。
この世界に何を産むかはおまえしだいだとも。
聖杯戦争を観たい?良かろう良かろう、好きなだけ観れば良い。
英霊の虐殺劇が観たい?そうかよ愛いぞ、好きなだけ踏みにじってみせろ。
既存の物語を塗り替えてみたい?いいだろうとも、描いてみせよ。
因果? 知らんよどうでもいい。
理屈? よせよせ興が削げる。
人格? 関係ないだろうそんなもの。
善悪? それを決めるのはおまえだけだ。
おまえの世界はおまえの形に閉じている。
ならば己が真のみを求めて痴れろよ。悦楽の詩(ウタ)を紡いでくれ。
さあ──────創世神話を始めよう。
「王の帰還」
かつん、といった乾いた足音が無人となった廃墟群に響き渡った。辺り一帯に乱立した廃ビルの表面のコンクリートは所々が砕け、その内部の鉄骨すらもが腐食を始めている。如何やら放棄され、人の手を離れてからこれらの建造物は幾年もの月日を得たらしい、という直感を元に確信した。
「人々は去り。残ったのは彼らの営み、その残滓だけ........やはり、この地に最早人間など一人も存在し得ない、と」
故にこそ、何故己が斯様な地にこうして現界しているのか、という疑問をどうしても彼女────サーヴァント・セイバー、『アルトリア・ペンドラゴン』は拭えない。
本来は英霊の座にこそ身を置く、まごうことなき現人神たるサーヴァントの末席に連ねる彼女が現世に召喚される、という場面は実に限定的であり、その条件を今この状況が満たしているとも考えづらい。
更に不可解な点はと言えば、己を使役する主が見当たらない、という点もそうだ。
この地に招かれてより早くも数刻が経つ現在となっても、一向にも相見えることがない。だからこそ、こうして自らの足と直感を活用して、状況把握も兼ねた捜索に乗り出したのだが。
「魔力パス自体は繋がっているものの、人ひとりとして見当たらないこの地で、これ以上歩き回っても情報は得られませんか」
結果と言えば、この通り。辺り一帯が朽ち果てた建造物で構成された廃墟群である、ということを除いては、何一つとして分かっていない。
ならば、セイバーがこうして喚ばれた理由こそに、何かしらの理由があるのではないか、と仮定を立ててはみるも、所詮は仮定である。
疑問ひとつを取っても、新たに得られる情報が無い限りは正否を定めることすらもできないのだがら、考えるだけ無駄もいいところだ。それよりも、これからどうするかを決めておいた方が役に立つだろう。
さて、ここから自分は如何にして行動しようか、と考えを巡らせ始めて。
「……っ!?これは、一体」
耳を劈く轟音が、遠方より到来した。音源こそ、遥か彼方に在るものの、それでいてこの音量である。只事ではない、と直感と理性の両方が即断した。
「何があったにせよ、私には行く以外の選択肢は無いようですね」
どちらにせよ、今後の方針すらも定まらなかった身である。鳴り響く轟音へ足を運ぶ事に、迷いは無かった。