プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:6

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1人目

「Prologue」

 CROSS HEROES。
かつて、世界存亡の危機を救うべく、時空を超えて集結した勇者たちの名をそう呼んだ。
しかし、彼らは今、未曾有の窮地に立たされようとしている……・

 神浜市を舞台とした激闘の後、機械獣を迎撃に向かったマジンガーZとゲッターロボ。
アレフガルドに伝わる秘宝を求めて冒険の旅に出るアレクとローラ姫。
特異点内で奮闘を続ける門矢士とカルデア一行。
ジェナ・エンジェルに誘拐されたももこを救うため、CROSS HEROESに加入した
魔法少女、環いろはと黒江。
闇の皇帝ジークジオン討伐のためにムーア界に向かうも、仲間と離れ離れになった所を
元・盗賊の武道家、ヤムチャに保護されるバーサル騎士ガンダム。
地球平和同盟TPUが設立したエキスパートチームで、主に怪獣や宇宙人と戦っている
特殊部隊「GUTSセレクト」。
さらなる仲間を迎え入れるべく、ドラゴンワールドと呼ばれるエリアへと指針を向ける
トゥアハー・デ・ダナン……
各々がそれぞれの新たなる戦いに身を投じていく。

 門矢士、カルデア一行、相良宗介、千鳥かなめが探索を続ける特異点内の変化は
加速度を増していた。
特異点はその領域を拡大させ、続々と異世界の戦士たちを呼び込み始めていた。
ついには、あの吉良吉影や「クレイジー・ダイヤモンド」のスタンド使い、
東方仗助らが暮らしていた「杜王町」のように町が丸ごと転移する現象までが発生。
キースドラゴンのような凶暴なモンスターも周辺を闊歩していた。

 暴走を続ける聖杯を一刻も早く回収しなければ、さらに何が起きるか分からない。
そしてついに士や藤丸立香たちは聖杯の反応があると言う古城へと辿り着く。
しかし、そこで待ち受けていたのは仮面ライダーBLACK RXの力を奪い、
新たに「仮面ライダーバールクス」を名乗るクォーツァーの王、
アマルガムの幹部にしてテレサ・テスタロッサの双子の兄「レナード・テスタロッサ」、
正義・悪魔・完璧の三大超人勢力の不可侵条約を破棄し、ネプチューンマンを
完璧超人の代表から引きずり下ろした
完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)のトップ、
「ストロング・ザ・武道」。
そして、勇者アレクによって討ち滅ぼされたはずの「竜王」その人が、
特異点を混沌をもたらす聖杯を所有していた。

 「平成」と呼ばれる30数年あまりの営みを「醜い」と主張するクォーツァーの王は
ディケイドやディエンドを「平成ライダー」とカテゴライズし、圧倒する。
並行世界のオーバーテクノロジーを知覚出来る能力者「ウィスパード」である
レナードは同じくウィスパードであるかなめの潜在意識とリンクする事により
特異点の座標を突き止める事で、同盟関係のクォーツァーの科学力を利用して現れた。
かなめの身柄を手に入れるために……
悪魔超人代表・アシュラマンを制し、さらにはジョーカー、ゲイル、キン肉マンと
特異点に乱入した戦士たちを次々に薙ぎ払っていく嵐を呼ぶ暴君
ストロング・ザ・武道……

 ジェナ・エンジェルを皮切りに、これまで沈黙を守っていた各勢力のトップが
続々と最前線に参戦し、ヒーローたちを絶体絶命のピンチに追い込んでいく。
その時だった。
特異点全体を揺るがす「異変」が起きたのは。

 立香たちの状況をカルデアからモニタリングしていたダ・ヴィンチ達にも
まったく原因が掴めない。ただ、尋常ではない「何か」が特異点で発生した事だけは
確かだった。
それを愉悦と共に次元の彼方から眺める闇の皇帝ジークジオン……

 ディケイド、ディエンド、立香、マシュ、宗介、かなめ、仗助、騎士アレックス、
キン肉マン、ジョーカー、ゲイル……果たして彼らは無事なのか?
ひとつの「終わり」を迎え、そして新しい物語が「始まる」。

 CROSS HEROES reUNION。
交錯する英雄たちの戦いは、まだ誰も知らない新次元へと突入するのであった……

2人目

「Lights,Camera,Action!」

 そこは、外側からの光が、完全に遮断された一室だった。故に薄暗く、視界は当然ながら不明瞭だ。
 外界へと通ずる窓が一切存在しない作りとなっているのだから、そんな中で天上に備え付けられた照明を落とせばどうなるかは幼子でも解る単純な道理であろう。しかし、完全に暗闇が一室を占めている訳ではない。確かにそこは暗室ではあれど、確かに部屋の灯りは落ちてあれど、薄く光を放っている映写された風景は仄かに部屋を照らしていた。
 
 この場所こそは、紛れもなく劇場だ。正面にある壁面に世界を映しているプロジェクターは、近年の映画館のどれもが有しているそれであるのだし、床に敷き詰められた赤色のカーペットに座り心地の良い椅子が所狭しと敷き詰められている様は、市井の人間にとっては親しみ深い光景であろう。
 そう、この場所は映画館の一室で、いま現在は上映中の真っ只中。
 何て事は無い、平常そのものといった光景。誰もが気に留めることのない、誰もが連想するような、探せば何処にでもある劇場であるから、特段何があるというわけではない。部屋そのものに、何かが有るわけではない。
 
 真に、異常があるとすれば。
 今この劇場で、映し出されているこの映像が、映画ではなく生中継(ライブ)であることか。或いは、この劇場の中央に位置する席にてその光景を俯瞰している、たった一人の男の存在であるのか。

「………………如何やら相応に暴れたようだな。業と色欲に狂った身で烏滸がましくも平穏を謳う貴様らしくもない」

 男は、金髪だった。けれどそれは往来を練り歩く若者の染められた頭髪ではなく生来のもの。目にした者の脳裏を区別なく極光に塗り潰す、黄金色。
 男は、軍属だった。今の平和そのものといった世の中にも確と存在している軍隊、そのどれもに該当しない軍服を場違いにも身に纏っている。
 男は、武力と言う面のみで問えば人類史における至高、極点に位置する存在であり、何事にも縛られず、また揺るがない絶対的な精神力の持ち主であり、極光そのもの、正しく唯一無二そのものであった。
 一度決めた物事を、何処までも愚直に、道理など知らん顔で突き進み貫き踏破する。
 ならばこそ、彼の背負った”ゼウス-No.γ"なる忌み名が、その在り方を示すに最も適したものではあるまいか。


 『クリストファー・ヴァルゼライド』。


 それが男を示す、名前。
 それがこの暗闇に一人或る、男の存在。
 それこそが──────、この場における極大にして最大の異常そのものであった。

「それを言うなら、君らしくもないじゃあないか。英雄が一介の市民をあんな戦場に放り込むべきじゃあないとは、考えもつかないのかね?」

 ならばこそ、渓谷の底にいながら地を揺るがすかの如く、響き渡る低音の声に淡々と返答するこの男は何なのか。

 止めどなく続く映像を遮るように劇場へと足を踏み入れるは、二人目の男である。
 がちゃん、とドアが閉まる音を置き去りにして、闇に身を浸すように音もなく歩みを進めていく。
 男もまた、ヴァルゼライドと同じ金髪だった。生来のもの、という点でも同じである。だというのに、どうしてこうも存在がないようだと感じさせるのか。
 闇に紛れたその様は空白そのもののようで、しかしそこには深淵よりも深く黒い、心の奥底に或る歪みを内包している。
 二人の男は、その髪色こそ同じであれ、在り方としては真逆のものであった。
 ヴァルゼライドは殺意を輝かしくも放出し、静かに進むこの男は殺意を隠蔽する。
 暗殺者のような在り方であると同時に、男の経歴は社会に潜む犯罪者でしかない。
 この男の真なる脅威は凡俗さにひた隠された異常なまでの狂気と執念、妄執に他ならなかった。
 
「ほざけよ快楽殺人鬼(シリアルキラー)。善良な民草の皮を被ろうが、その腐臭は隠し通せまい、おまえは本来ならば処断されて然るべき悪逆の徒であると知るがいい」

 ヴァルゼライドの声にやるかたない、といった風に肩を竦める男こそは、殺人鬼。
 又の名を吉良吉影といった。

「ジェナ・エンジェルから指令が下ったよ、君が動くことになるなんて、どうやら中々の事態らしいね」

 眉をひそめるヴァルゼライドに淡々と返す、吉良吉影。彼としては、漸く少し羽休めが出来ると安心したのか、ゆっくりと息を吐いている。
 人気のないこの映画館は、今や閉館となっており、誰も入って来ないものだから、彼らのアジトとして扱うには丁度いい。 
 暫くは、この場所も特定されることは無いだろうし、当面の間の隠れ家としては有用であった。
 如何やら閉館してから余り時間が経っていないのか、残された設備自体はは今もなお健在だ。少し触ってみれば、生きているスクリーンを使ってこの様に遠方の中継も可能となっていた。 
 これはヴァルゼライドも、吉良もまた方法こそは預り知らぬことであるが、またこの世界とも異なる次元へのアクセスもまた可能となっていて、今もこうして動かずとも事の推移を見守る事が可能となっている。
 
「君の派遣先は、あの画面の向こう側………………特異点、だったかな」
 
 現在、スクリーンに映し出されている景色は、言うに特異点なる空間らしい。主に科学が文明のウェイトを占める世界に住まう彼ら二人は、魔術という概念にはてんで疎くはあるものの、兎に角何やら画面越しの世界もまた只事ではない事は安易に想像がつく。
 それを踏まえての英雄の出陣である。指示をしたジェナ・エンジェルの意図が何であれ、碌なことではないのだろうな、とヴァルゼライドは思っていた。
 
 彼女からの通達を終えた吉良は、上映された景色へと視線を移して目を細める。画面越しに映る、その町の風景に、何か感じ入るものがあったのか。
 或いは、件の特異点に”杜王町”が在ることへの呆れと失望であるのか。
 どちらにせよ、余り前向きな感情を読み取る事は出来ない仕草であった。

「………………いいだろう。だが覚えておくがいい。あの女にも伝えておけ」

 引き絞ったヴァルゼライドの声が、雄々しさと猛々しさを伴って、この劇場を満たした。
 轟く、といった表現が似つかわしいその声色は、それだけで存在感というものが多分に放出されていて、この空間そのものを押しつぶしてしまうのではないか、と錯覚すらも感じさせる。
 吉良へと一身に向けられた双眸は、抜き身の刀剣の如き鋭さがあって、以前に因縁のある天敵、空条承太郎に向けられたそれを否応なしに想起させられてしまう。
 それも偏に、ヴァルゼライドの殺意が突き刺さっているからであった。

「我々の目的は競合しない。故に俺の目標を達成した瞬間、おまえ達を諸共に切り伏せる。ゆめゆめ忘れぬことだ」

 言った後、席を立ち背を向けて出口へと進むヴァルゼライド。
 足取りに迷いが感じられず、まるで英雄の凱旋のよう。

「──────、ああ全く…………」

 知った事か、殺し合いたいならば勝手にやっているがいい。私を巻き込むなよ異常者どもめ。
 どうしてこうも己の平穏をこいつらは乱して来るのか。己の罪科を棚に上げ、吉良は一人になった館内で溜息を吐いた。

3人目

「記憶喪失の街・見滝原とタイムパトローラー」

『あたしは……忘れない……アンタが、悪魔だって事は!!』

 美樹さやかが暁美ほむらと対峙したのは、それが最後だった。
与えられた使命も、暁美ほむらが犯した大罪も、すべて、すべてが
忘却の彼方へと消えていったのである。

 美樹さやか、佐倉杏子、巴マミ、百江なぎさ……かつて、暁美ほむらと同じく
魔法少女として戦う宿命を背負っていた者たちは、
悪魔と化したほむらが作り出したこの世界に順応し、戦いを忘れた。
円環の理の力を奪う事で鹿目まどかを神の座から引きずり下ろし、ごく普通の人間として
生きていけるようほむらは世界を改変したのだ。

 しかし、それは世界の摂理を捻じ曲げる事と同義であり、本来あるべき姿ではなかった。
故に宇宙が元のカタチに戻ろうとする強制力の波を受け、時折、まどかは封印された記憶を思い出そうとする事があった。
その度にほむらはまどかの記憶を操作し、元の世界に戻すまいとしてきたのだ。
彼女が作り出した鳥籠の世界は、それほどまでに脆いものだった。
眠りから醒めればたちまちに消えてしまう、夢のように。

 誰一人理解者も無く。
自分自身が忘却に逃げる事を許さない。
孤独に苛まれながらもなお、ほむらは諦めなかった。
たとえ世界中すべての人間が敵になろうとも、自分がまどかを守り抜くのだという
強い意志を持ち続けた。

 だが、その悪魔の力を狙う輩は後を絶たない。
タイムジャッカー・スウォルツ、歴史の管理者・クォーツァー、
人類全てを悪魔化し、進化と言う名の解脱を促さんとするジェナ・エンジェルなどが
その代表格だ。

 そうして世界を超えてやって来る敵を追い払い続け、今日も彼女はあの丘で
外の世界の様子を眺めている。
そんな彼女に近付く小さな影が一つ。

「……」

 オレンジ髪のショートボブ、ともすれば少年にも見える少女……の幻影は、
丘の上に立つほむらの隣で黙って空を見上げた。

「また来たのね」

 ほむらが視線だけを横に向ける。

『うん』

 少女の名は「平坂たりあ」と言った。ほむらがかつて巡った世界の住人。
その世界も既に「滅びの現象」によって消滅していた。
肉体を失い、精神体だけがこうして漂っている。それを発見したほむらの力によって
彼女をこの世界に留めさせている。
故に、たりあの事はほむらにしか認識する事が出来ない。

 ほむらは再び眼下に広がる景色へ目をやった。そこには見滝原の街が広がっている。
平和な日常を送る人々が行き交う賑やかな街。

「まだ探しているのね。ペルフェクタリアの事を」
『うん』

 ほむらの言葉に平坂たりあの幻影は素直に首肯した。
ペルフェクタリア。たりあから切り離された半身のような存在。
たりあを守るためだけに戦い続けた魔殺少女。それも今は行方が知れない。
滅びの現象によって精神体さえも残らずに消えてしまったのか、それとも……

「滅びの現象……いずれはこの世界にも訪れるでしょうね」
『……そうだね』

 平坂たりあの幻影は悲しげに目を伏せると呟くように言った。

『ペルはきっと、まだ諦めてないんだと思う。だからわたしも、諦められないんだよ』
「そう……なら、私も同じよ。この世界だけは、どんな事があろうとも守ってみせる。
例え何があっても……」

 ほむらはそれだけを言うと立ち上がり、その場を後にしようとした。

『待って!』

 それを平坂たりあの幻影の声が引き止める。
ほむらは足を止め、振り返らずに言葉を続けた。

「何かしら?」
『ペルを、助けてあげてほしい。お願い』

 平坂たりあの幻影は深々と頭を下げていた。
ほむらはその願いに対して何の反応も示さない。ただ沈黙だけが二人の間に流れていく。
やがて、ほむらが口を開いた。

「それは出来ない相談ね」
『どうして……?』

「私はもう誰の味方にもならない。敵となるなら、倒す。それが私の決めた道。
それ以外に興味は無いし、必要も無いわ」

 きっぱりと言い切るほむら。しかし、たりあは食い下がった。

『でも、このままじゃペルはひとりぼっちだよ! みんな忘れちゃってるし、
誰も覚えていない。それなのに自分だけずっと戦い続けて……そんなのあんまりだよ!!』
「……それなら、貴女自身が彼女を見つければいい」

 ほむらは冷たく言い放つと今度こそ歩き出した。

『ほむらちゃん!! 待っ……』

 平坂たりあの制止を振り切り、ほむらは丘を下っていく。

「暁美ほむらさん、だね」

 だが、不意に聞こえた声に立ち止まった。丘の麓に一人の青年の姿がある。
ほむらは警戒心を露にした表情で彼を見た。

「貴方は誰? どうして、私の名を知っているの?」
「俺の名は、トランクス。タイムパトローラーだ。
君と同じく、過去に歴史改変を行った罪を償っている者だ」

 贖罪。今までほむらに近づいてきた者たちとは毛色が違う。
皆、己が野望のためにほむらに襲いかかってくる連中ばかりだった。
だが、目の前の男からはそのような邪気を感じない。

「歴史改変の、償いですって?」
「ああ。君は、この世界を改竄した。それによって本来あるべき姿から
かけ離れた未来を作り出した。
その事について、どう思っているか聞かせて欲しい」

「……そうね。後悔はしていない。私が私自身のエゴを貫いた結果だもの。
それに、まどかを守る為にはこうするしかなかった。
彼女が心安らかに過ごせる場所を作り上げたい。
その為にはどんな犠牲も厭わない。たとえ、世界が滅ぶ事になったとしても」

「……そうか。この世界は俺の管轄ではないし
俺はタイムパトローラーとしての職務を全うするためにここにいる。
だが、これだけは言っておこう」

 トランクスは真剣な面持ちで続ける。

「君が犯した罪は、決して許されるような行為じゃない。
歴史の改竄によって、世界の在り方そのものを変えてしまったのだから」
「許しを請うつもりも無ければ、謝罪するつもりもない。私は私の信じる道を行く。
誰にも邪魔はさせない。タイムパトローラーだろうと、何だろうと」

「俺がここに来たのは、時空犯罪者たちが活発な動きを見せているからだ。
恐らく、世界に滅びが迫っている事に感付いているのだろう。
そして、奴らは滅びを回避しようとして動き始めている。その手がかりを追っていてね」

「……そうね。確かにここの所、ちょっかいを出される頻度が増えた気がする」

 ほむらは眉根を寄せて考え込む。

「やはりか。ならば、俺たちタイムパトローラーは一刻も早く
その脅威を取り除かなければならない。
だが、その前に……まずは、君の話を聞いておきたかった」
「それで、満足したかしら」
「ああ。ありがとう。参考になったよ」

 トランクスは笑みを浮かべると踵を返した。

「それじゃあ、また会おう。暁美ほむらさん」
「……ええ」

 去っていくトランクスの背中を見ながら、ほむらは呟くように言った。

「トランクス、ね。タイムパトローラー……次に会う時は、敵同士でなければ
いいけれど」
(暁美ほむら……か。静観を決め込んでいるようだが……
今はクォーツァーを追う事の方が先決か)

4人目

「超人界の真の長」

「…何故だ?」
全ての元凶たる武道の覆面から初めに零れた声は、疑問符だった。
彼の視界一面に広がるは百鬼が呻き倒れる地獄絵図…否、紛れもない”地獄だったもの”。
荒野に広がるは文字通り死人に鞭打つ器具の数々、その残骸。
跡形も無く荒れ果てたこの世界が、本物の地獄だったのか、ただの拷問室だったのか、その違いを誰が説明できようか?
それが不可能なのは、ただ一人、この場に立っている武道だけが誰に語るでもなく証明していた。
「『聖なる完璧の山(モン=サン=パルフェ)』が、現世に顕現する等…!」
やがて疑問は確信へと変わっていき、確信は激昂を呼び覚ます。
幾億年もの間鍛え上げられ、ただの一日も鍛錬の欠かされなかった拳が、今初めて無雑作に握りしめられ、がむしゃらに岩へと叩きつけられる。
「“あやつ等”は、ミラージュマンは何をしておったのだーーーっ!?グロローッ!」
砕け散る岩石と共に上がる叫び声が、無人の荒野に虚しくこだました_

_特異点を直撃した激震から、僅かばかりの時間が経った頃。
「…ぃ、おい、無事か!?」
どれほど意識が遠のいていただろうか、ゲイルの呼びかけに、キン肉マンが漸くと言った様子で目を覚ます。
「あいてて…一体何が起きたんじゃ!?」
辺りを見渡し、今や見慣れた仲間達に説明を求めるキン肉マン。
「皆、無事みてぇだぜ。それより…周囲を見てみろ。」
求められる当たり前の要求に対して、状況の把握を勧めるモナ。
その言葉通りに辺りを見渡せば、そこは最早現世と呼べるものでは無かった。
「な、ななな、なんじゃこりゃーーーっ!?」
見よ、鮮血の如き赤と黄金に等しき黄色に染まった班目模様の大空を。
黒く塗りつぶされ、ハイカラに染まった建物を。
そして眼前に広がる巨大な山を、その麓を覆いつくす誰かの超人像と近未来的な機械の数々を。
果てにはサイバーチックな模様の触手らしきものが犇く地獄曼荼羅模様である。
混沌に満ちたこの光景を見て、一体誰が現世の証明が出来ようか。
否、最早観測者たる己の正気すら疑うばかりの魑魅魍魎である。
「こ、ここは地獄か!?」
「いや、現世なのは間違いねぇ…こいつは多分、認知世界だ」
だが、ここに世界の変貌を知る者が、猫がいる。
誰あろう心の怪盗団参謀、モルガナことモナである。
「認知世界…?あ、あれか!ママン丼とかいう…」
「メメントスだ!思考か大分牛丼にズレてるぞ!?」
そして幸か不幸か、彼等超人はこの出来事を”身を以て知って”いた。
嘗て”今と同じ様な事”に巻き込まれた…否、自ら向かって行ったが故に。
「そうそう!そのメメントスが現世に…ゲェー!それってつまり認知世界ということか!?」
「だからそうだっつーの!?」
目の前で行われるモナとキン肉マンの即興コントは、最早彼等の間で当たり前の物となっているのか、止める者はただ二人、ゲイルと明智を除いて他に居なかった。
「…仲良く喋っている所悪いが、誰か来るぞ」
「君達、そこまでだ。」
二人の間に割って入る明智とゲイルの行動によって、モナもキン肉マンも否応無しに会話を取りやめる。
彼等の言うように、耳を澄ませば聞こえてくる何かの呼び声
「…ぅ様ぁ―…!」
いや、それはキン肉マンにとってつい最近も聞いた、お馴染みの声だった。
「待て待て、この声は…!」
「スグル大王様-っ!大変な事が!!」
キン肉マンをスグル大王と慕い呼ぶ声は、誰あろうミートである。
混沌と化したこの町で、ある意味非常識的に息を切らしながら駆け寄ってくる姿は、逆に安心を覚える様だった。
「ハァ…フゥ…!」
「おぉ、ミートではないか!済まぬな、心配をかけて…!」
だが流石にこの町の光景に堪えたのだろうか、ミートの顔色は余りにも悪い。
いや、それだけにしては余りにも焦り気味であり、死に急ぐ囚人の様にも思えるほどだった。
「心配どころじゃないですよ!大変な事が起きたのにこっちでも何か起きてますし!」
「その口ぶりだと、そっちでも何か起きたみてぇだな?」
やはりというべきか、ミートの方でも何かが起きたというらしい。
「そうでした、フゥ…大事件ですよ、大王様!黄金の、マスクが…!」
彼の口から告げられる黄金のマスク、それは嘗て超人達を襲った悲劇の元凶であり、今はキン肉宮殿にて厳重に保管されている筈のものである。
「黄金のマスク?それが…」
「私が、どうしたというのだ?」
そしてその悲劇の実体が、彼等の前に現れる。
「ゲェー!?将軍!!?」
「久しいな、キン肉マン。」
誰もが予想だにしなかった再開に、キン肉マンは怯え竦む。
「居なくなったと思ったら、ここに居たなんて…!」
想像もしなかった事態を前に、ミートもまた愕然としていた。
「彼は確か…」
「そう、あの人こそ真の悪魔超人のトップ、悪魔将軍なんです!そしてその正体は…」
「ゴールドマン、それが嘗ての名だ。」
明智の疑問にミートが答えようとした時、悪魔将軍の後ろからまた一人現れる。
その人物は鏡の様に透き通った光沢の肉体を持った、悪魔将軍を除いて誰も知らない、しかし間違いなく超人と言える者だった。
「あっ、貴方は……?」
当然出てくる疑問と謎。
対して男は簡潔に答える。
「ミラージュマン、完璧超人始祖の一人だ。」
「何!?」
ミラージュマンは完璧超人、その始祖を名乗ったのだった。

5人目

「エタニティコア」

一方その頃、東京ではGUTSセレクトと4機のスーパーロボットが2体のパゴスと戦っていた。
「Zカッター!」
「トマホゥク!ブーメラン!」
ビューナスAから放たれるZカッターとゲッターロボが投げたゲッタートマホークが2体のパゴスを斬り裂く。
『いくよ!ファルコンちゃん!』
続けてハイパーモードのガッツファルコンが、機関砲で攻撃。
「ギャオオオオオオン!」
2体のパゴスは攻撃は地面の中へ逃げようとしたが、
「そうは問屋が卸さねえよ!」
そう言いボスボロットが長い腕を伸ばしてパゴスのうちの一体を掴み引っ張り上げる。
「今だ!」
『ナースキャノン!発射!』
「ブレストファイヤー!」
「ゲッタアアアアアアアアアッ!ビィイイイイイイイイイ厶ッ!!」
ナースデッセイ号、マジンガーZ、ゲッターロボによる一斉攻撃が炸裂する。
「ギャオオオオオオオオオン!?」
2体のパゴスのうちの1体に直撃し、パゴスは爆発四散した。
『よっしゃー!』
「よし!あ、もう一体の怪獣は!?」
「……どうやらそっちの方は既に逃げたらしいな……」



パゴスとの戦いを終えたあと、甲児達はナースデッセイ号の中にお邪魔していた。
「光子力研究所の皆さん、ご協力のほどありがとうございます!」
「いえいえ、気にしないでください、当然のことをしただけですから」
「けど驚いたわ、GUTSセレクトの隊長が変わってたなんて」
「タツミ隊長はGPUの情報局に異動したんです」
「それで新しくGUTSセレクトの隊長になったのがトキオカさんなんです」
「と言っても、まだ代理ですけどね」

「それにしても、お前らのところもなんか一人増えてないか?」
「俺のことか。俺は流竜馬、信じてもらえるかわかんねぇが、別の世界の人間だ」
「別の世界って……もしかしてシズマ会長のお知り合いですか?」
「シズマ?誰だそいつは?」
「ジズマ財団の会長さんでGPUの創設者よ」
「シズマさんも元々は別の世界からこの世界に来た人間で、ガッツファルコンとかはシズマさんが元々いた世界の戦闘機を基にしたものなんだ」
「なるほどな……」

「……そういえばケンゴさんは今どうなってるんですか?」
「あぁ……実はまだ……」
「あっ……す、すいません!」
「気にしないでください、ケンゴに会いたいのは私達も同じですから……」
「そのケンゴってやつもお前らの知り合いか?」
「はい……マナカ・ケンゴは私達GUTSセレクトの仲間なんです。今はエタニティコアの中にいて……」
「エタニティコア?」
「超古代文明の頃から存在する光子力にも負けないぐらい凄いエネルギーで、宇宙を作り変えれるほどの力があるんだ」
「2年前、そのエタニティコアの暴走を止めるために、ケンゴは自らエタニティコアの中に入ったんです」
「そんなことがあったのか……」
「けど、現在のエタニティコアは安定している……いつケンゴが帰ってきてもおかしくはないんだが……」
(光子力にエタニティコアか……ゲッター線みたいなエネルギーが他にもあるんだな)



「……先程、シズマ会長から連絡が来ました。我々GUTSセレクトもCROSS HEROESのメンバーに加わることになりました」
「本当ですか!?」
「はい、これからよろしくお願いします!」

6人目

「完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)」

悪魔超人のトップ、悪魔将軍に次いで現れたミラージュマン、彼は不可侵条約破棄の発端となった完璧超人の始祖、その内の一人だと名乗り出た。
ともすれば事態の元凶とも取れる相手を前にして、一瞬の内に食う気が張り詰めていく。
当たり前だろう、場合によっては敵の首領そのものであり、全ての黒幕ともいる立ち位置を名乗ったのだから。
「完璧超人の始祖、そう名乗ったのだな?」
緊張感漂う中、ゲイルが確認する様に問い詰めると、ミラージュマンはあっさりと答える。
ただし、その内容は彼等の予想を上回る物だった。
「そうだ、正確には11人いる始祖の内の1人、だがな。」
衝撃の事実が発覚するが、それは同時にこの場にいる者達に更なる緊張を走らせる。
何故なら、完璧超人は今や悪魔超人と並ぶ脅威の存在であり、そんな存在の長でが11人もいるという事は、あの武道をも超えうる存在が最低でも11人存在することに他ならない。
しかもそれが全員では無いとはいえ、少なくとも一人はここにいる。
そしてそれは同時に、この状況では最悪の状況を意味することになる。
「つまり、貴様一人で私達全員を相手にできると言うのか?あの武道の様に。」
「ああ、出来る。」
「っ! 」
緊張感は最大にまで張り詰めていき、膨らみ過ぎた風船の如く今にも爆発しそうであった。
「だが、戦いをしに来た訳ではない。」
「何だと?」
ミラージュマンの言葉の意味を掴みかねて、誰もが怪しげな表情を浮かべる。
しかし、次の一言を聞いて全員が驚愕する事となる。
何故ならば_
「頼む、どうか武道達を止めてほしい。」
ミラージュマンが突然、その場に膝をつくように座り込み、頭を下げた。
これには流石のジョーカー達も驚きを隠せず、意表を突く罠かとさえも思い始めた。
当然、相手は既に敵の所属である事を宣言しているのだから、今この瞬間に戦いが始まってもおかしくは無い。
にも拘らず、これは何の冗談だ?
彼は全ての元凶の一人では無かったのか?
それなのに何故、自分達に対してこんな行動を取るんだ?
様々な疑問が次々と浮かんできては消えていき、混乱状態に陥っていく。
そんな中でも唯一冷静さを保っていたゲイルだけは、相手の真意を探るべく質問を投げかける。
「どういうつもりだ?」
すると、ミラージュマンは顔を上げず、まるで懺悔をするかの様に答え始める。
「私は、止められなかった。完璧超人の始祖として果たすべき責務を全う出来なかったのだ。」
その姿からは先程までの余裕は無く、ただ必死さが滲んでいた。
恐らくこの生真面目さが彼の本性なのであろう、今の彼こそが本来の姿なのだ。
「情けないと蔑んで貰っても構わない。どうか、彼等を止めてくれ…!その為ならばこの命も差し出そう…!」
だからこそ、彼は自分の全てをさらけ出してまで頼み込む。
自身の命を差し出す覚悟さえ見せたその姿に、漸くジョーカー達は警戒を解いた。
「…全てを話してくれないか?」
「あぁ、話そう。そこのゴールドマン…悪魔将軍や、シルバーマン、そして私達始祖の関係も含めて…」
それから、ミラージュマンは語り出した。
望まれるがままに、全てを。
「…かつて、超人という種が生まれたのは間違いでは無かったと証明しようとした神が居た。」
神、それはジョーカー達にとっては苦酸を舐めさせられた相手であり、敵だった。
「超人の存在が間違いだった、そう言われてたような口ぶりだね?」
最初に話に食い付いたのは明智だった。
「あぁ、遥か昔の超人は、誰も彼も悪行の限りを尽くし、神に見切りを付けられていた。」
思い出す様に、語り出す。
「だが慈悲の神と呼ばれたその男は『10人の優れた超人』を選出し、助けたのだ。ふふ、今でもよく覚えてるよ。」
ミラージュマンの語りは、どこか懐かしむ様な響きがあった。
彼にとってはつい最近の出来事の様な物なのだろう。
生まれた時から今までずっと続いてきた歴史の話でもあるのだから。
「そこのゴールドマンや、弟のシルバーマンもそうだった。」
「何じゃと!?」
これに一番驚愕したのは、誰あろうキン肉マンである。
だってそうだろう、悪魔超人の長どころか、自らの祖先までもが今回の件に関していると言われたのだ。
シルバーマンと言えば正義超人、悪魔将軍と言えば悪魔超人。
その前提が打ち崩れる事実は、にわかには受け入れがたった。
「…その名は捨てた、今の私は悪魔将軍だ。」
その事について何か言いたげに怒り模様を見せる悪魔将軍だったが、今は何も言うつもりは無いようだ。
「だが、その10人は何れも慈悲の神を超える事は叶わなかった。それが最後の失望を招いたのだ。」
そこから話は激変していく。
「…やがてあやつは超人の管理を唱える様になった。粛清という形でな。」
悪魔将軍の補足が入るが、その声には怒りが籠っていた。
どうやらその件については思う所があるらしい。
だが、今はその話は置いておく事にしたらしく、続きをミラージュマンが語りだす。
「以降、超人の可能性を信じない完璧な管理の名の元に『完璧・無量大数軍』は誕生した。私は、それをただ見ているだけだった…」
悲痛な表情で語るミラージュマンを見て、誰もが同情する。
しかし、その気持ちは理解出来ても納得できるかどうかは別問題だった。
「何故止められなかった?貴様も始祖だろうに。」
今度はゲイルが問いかける。
「そうだな、私も最初は止めたかった。だが、出来なかったのだ。」
「何が有ったのか、聞かせてくれるかい?」
ミラージュマンは静かに、そして淡々と答える。
「私達始祖は、超人を管理する立場にある。それはつまり、超人の善悪を見極める事。だが『完璧・無量大数軍』は違う。」
それは超人という存在の、最も忌まわしき部分、ある意味で残酷とも言える事実であった。
「彼等は善悪を問わず、過ぎた力を持つ超人を滅ぼして管理しようとしたのだ。」
「それが、友情パワー…」
ミラージュマンが語ったのは、超人という存在の光と闇。
キン肉マンという光と、完璧な管理という闇の対立模様だった。
「私は最早、押しとどめるのが限界であった。だが…」
「あの『聖杯』をきっかけに、最後の関門も崩れた、と。」
明智の指摘に、ミラージュマンは俯き、沈黙を以て肯定するのみだった。
悲痛、ただその一言が場を支配する中で、一人の男が名乗り出た。
「…分かったわい!」
他でもない、キン肉マンだった。

7人目

「ヤムチャ危機一髪! お前の出番だ孫悟空!」

 悟空の「気」とルフィの「覇気」。
力比べをするようにお互いのオーラがぶつかり合い、その衝撃波で周囲の木々が揺れる。

「ブルマさん、私の後ろに……!」

 ごく普通の人間であるブルマを守ろうと、月美は護封陣を張り巡らせた。

(こいつは……)
(す、凄い、2人とも……!)

 精神エネルギーをスタンドとして具現化する承太郎、魔力を用いる魔法少女である
いろはや黒江にも悟空とルフィから発散される闘気の高まりが肌で感じられた。

「ちょっと、アンタたち! 何やってんのか知らないけど、いい加減にやめなさいよ! 」

 ブルマの声など耳に入っていない様子で睨み合う悟空とルフィだったが、
ふっと息をつくと同時に闘気を引っ込めた。

「ふいい……やるなあ、おめえ。すげえ気だった」
「ししししっ! まあな。けど、お前だってまだまだ本気じゃねェんだろ?」
「へへっ、バレたか?」

「あの麦わらの子、若い頃の孫くんにそっくりだわ……孫くんに負けず劣らずの
バトルマニアって感じ」

 ブルマは呆れたようにため息をついた。

(孫悟空……以前に会った時よりもさらに力を増したようだな。
それに、あのルフィという少年も相当な手練れか)

 テリーマンも悟空と同様にルフィの力を見抜いていた。

「悟空、俺たちの仲間にならねェか? 俺たちと一緒に冒険しようぜ!」
「ああ。そんかわり、今度オラと試合してくれよ」
「もちろんだ!」

 拳をぶつけ合う2人。どうやら仲間になるだけでなく、悟空とルフィは
お互いに好敵手を見つけたらしい。

「思いっきり気ィ高めたら腹減っちまったな」
「俺もだ。腹減ったぁ」
「はいはい、そう言うと思ったわ。お客さんも多いみたいだし、
みんなでご飯でも食べましょう」

「おっ、いいなそれ! サンキュー、ブルマ!」
「よし、メシ食いながら作戦会議だ!!」

「いいのかなあ……こんな感じで……」

 無邪気に喜ぶ悟空とルフィを見ていろはは苦笑したが、同時にどこか心強くもあった。
神浜での戦い以来、不安ばかり募っていた彼女にとって、仲間が増えることは
大きな支えとなるだろう。

「能天気に見えるが、あの男はこれまで数々の奇跡を起こしてきた男だ。
悪いようにはならないさ」

 そんな彼女の心情を察してか、テリーマンが微笑みを浮かべて言った。
その後、一行はブルマが用意してくれた食事を堪能した後、今後のことについて
話し合った。

「はーっ、食った食ったあ」

 悟空とルフィのテーブルの前には空になった皿が山のように重ねられていた。

「すご……」
「体の何処にあんな量が入って行ったんだ……」

 隣に座っていたソウゴとゲイツは唖然としていた。
しかし、それだけ食べたにも関わらず、2人の体つきに変化はない。
彼らは一体どういう身体の構造をしているのか……。

「食欲まで孫くんにそっくりなんてねえ……」

 ブルマは困ったものを見るような目で悟空とルフィを見た。だが当人たちは
どこ吹く風といった表情でニコニコしている。

「いやー、こんなうめえメシは久々だ。サンジが作ったメシを思いだすなあ」

 かつて共に旅をした仲間の名を口にするルフィは懐かしむように目を細めた。

「ルフィは、仲間とはぐれてこの世界に来たみたいなんだ」

 ソウゴが説明すると、悟空は納得した様子で何度か頷いて見せた。

「そっかあ。そりゃ大変だったなあ。けど、心配すんな!  
おめぇの仲間もきっと見つかるさ」

 そう言ってルフィの肩をポンッと叩く悟空。

「それもあるけどよ、俺もこの世界でやらなきゃいけねェことがあるんだ。
だから、すぐには帰れねェ。ももこも助けなきゃいけねェし、ドフラミンゴの奴を
ぶっ飛ばさなきゃならねェからな!」

 拳を突き上げるルフィに、悟空もニッと笑ってみせる。

「おめえが言うぐれぇだ、そのドフラ何とかっちゅう奴も相当強えんだろ?
オラ、ワクワクしてきたぞ!」

 やはり似た者同士なのか、悟空とルフィは意気投合したようで、
お互いの肩を組んで笑い合っていた。そんな2人を見ていたいろはは思わずクスリと
笑ってしまう。

「ん……」

 ふと、ブルマはスマホが鳴っていることに気が付いた。どうやら着信のようだ。

「あら、ヤムチャからだわ。何かあったのかしら?」

 通話ボタンをタップすると、ヤムチャの声が聞こえてくる。

『ブルマ! 大変なんだ!!』
「ど、どうしたのよ、ヤムチャ!?」

 慌てるブルマに、ヤムチャは早口で捲し立てた。

『俺の所にとんでもない怪物が現れたんだよ! 今、俺と騎士ガンダムで
何とか抑えているところなんだが……』
「ナイトガンダム? 一体何の話を……」

「何かあったんか?」
『おお、悟空も一緒か。ちょうどよかった! 詳しい話は後だ。とにかく来てくれ!
わっ……』

 何か得体の知れない奇声のようなものが聞こえた後、地面に転がったスマホが
踏み潰される音と共にブツっと電話が切れた。

「随分慌ててたみたいだけど……」
「ヤムチャなら、気を探って瞬間移動出来る。ちょっくら行ってみっか……」

「何だ? どっか行くのか?」

 席を立とうとする悟空に、ルフィが興味津々な様子で尋ねた。

「俺も一緒に連れてってくれ!」
「おう、オラに掴まってれば一緒に行ける」

「わたしも行きます。怪我をしている人がいたら、魔法で治療できます」
「環さんが行くなら、私も……」

 ルフィに続き、いろはと黒江も同行する事になった。

「よし、じゃあ行くぞ! テリーマン、こっちの事は頼む。向こうが片付いたら
おめぇの気を辿って戻ってくっからよ!」
「分かった。くれぐれも油断するんじゃないぞ」

「よし、そんじゃあみんな……行くぞ!!」

 悟空は額に二本指を当て、ヤムチャの気を感知した方向へと瞬間移動を行った。

「ーー電磁スピアーッ!!」

 電光石火の如く突き出されたバーサル騎士ガンダムの槍の先端が、
ゴブリンザクを貫いた。

「ぐぎゃあああッ!!」

 スピアを突き刺すと同時に高圧電流を流されたゴブリンザクは感電し
そのまま息絶える。

「ほっ! はっ!!」

 常に群れを成して物量で攻めてくるスケルトンドーガ3体を同時に相手取るのは、
ヤムチャ。

「……ったく! こっちは! 武道家引退して久しいんだぜ!」

 そうぼやきながらも、彼は迫り来る敵を拳や蹴りで次々と撃破していく。

「だが、俺にだって意地ってもんがあるんだ!! 狼牙! 風風拳!!」

 電光の如きスピードで繰り出された一撃は、瞬く間に2体のスケルトンドーガを
粉々に打ち砕いた。

「はぁいはいはいはいはいはいはい……はいいいいッ!!」

 そして残る1体に渾身の掌底を喰らわせる。
ゴキィッという鈍い音と共に、スケルトンドーガの五体はバラバラになって吹き飛んだ。

「はあっ、はあっ、ど、どんなもんだ……」

 荒くなった呼吸を整えながら、ヤムチャは額の汗を拭う。

(ヤムチャ殿の話ではここはムーア界でもスダ・ドアカ・ワールドでもないと聞いたが……
何故ジオン族のモンスターがここに……)

8人目

_そこは百鬼佇む荒れ果てた荒野だった。空には暗雲が立ち込めて雷鳴轟き、大地からは草木一本生えていない不毛の地であった。
超人墓場と呼ばれる、世界の一角にある文字通りの墓場であり、死した超人の亡霊が住まう地獄そのものであった。
本来であればこの場所に生きる者は誰一人として存在せず、死者に鞭打つ鬼畜共の手で亡霊が働かされる地。
そう、本来であれば。
今や地は裂け、炎が上がり、水が流れ、風が吹き荒び、氷の柱が無造作に立ち並ぶなど、そこにはまるで別世界の光景が広がっていた。
それを見届けるのは、本来有り得ない生者が2人。
誰あろう、丸喜と武道であった。
「武道。」
「……」
武道は無言で腕を組み仁王立ちしている。
先程までの激昂こそ無いものの、彼の前には何人もおらず、何者も立ち寄れぬ憤怒と憎悪が渦巻いていた。
その怒りに触れれば、たちまち身体中の穴と言う穴から血を吹き出し、命を落とすだろうという妄想さえ現実味を帯びる程に、武道の怒りは凄まじかったのだ。
この場にいるだけで死の危険に晒される程であり、武道の傍らに立つ丸喜も例外ではなく、額に汗を流していた。
「そろそろ落ち着いたかい?」
「…グロロ~、情けない所を見せたな。」
それでもなお、丸喜は武道へと言葉を投げかけると、武道は静かに口を開いた。
先ほどまでの激情とは打って変わった静かな声色には、既に憎しみも何も込められておらず、ただただ深い悲しみだけが感じられた。
それは丸喜にとって初めて見る感情でもあった。
普段の武道は常に何かへの怒りを募らせた態度をとっていたからだ。
だからこそ、今の武道の姿はとても新鮮で、同時にとても悲しく思えた。
何故なら丸喜にも覚えがあったからだ。
かつて己の力不足が原因で大切な人を守れなかった時、彼は怒りを通り越し悲しみに明け暮れたことがある。
その時のことを思い出せば、今でも自然と涙が出そうになるくらいだ。
だから丸喜はどうしても知りたかった。
「君がそれほどまでに取り乱す事だったんだ、僕には想像も付かない思いをしたんだろう?」
一体武道は何を見て何を思ったのか、どんな答えであっても受け止めようと覚悟を決めた瞬間だった。
「どうか聞かせてほしい、君がそれほどまでに超人を憎む理由を。」
思えば、武道は出会った時から超人への憎しみを隠すことなく募らせていた。
丸喜の言葉を聞いた武道はその言葉を噛みしめるように目を瞑り、ゆっくりと語り始めた。
「…そうだな、貴様と組んだ以上、いずれ話さねばならぬ事だ。長くなるぞ、グロロ~。」
その表情にはもう怒りはなく、ただ悲しみのみが浮かんでいた。
かつて超人が犯してきた罪の数々を、遠い昔を思い出すような口調で語り始めた。。

現代より遙かな過去、悪行と超人は切っても離せぬ存在であった。
彼らは生まれ持った力で世界に干渉し、時には争いを起こし、悪事を行い、多くの悲劇を生み出した。
ある者は彼らに殺され、またある者は彼らの力の為に未来を閉ざされた。
故に人々は彼らを忌み嫌い恐れた。
やがて時は流れ、100年もの月日が流れた頃だろうか、ついに超人の神々の怒りを買い、裁きが下されることになったのだ。
カピラリア七光線による制裁、超人という種の抹殺という審判であった。
ほぼ全ての神はただの1人も例外を許さなかったが、ただ1人、慈愛の神と呼ばれる男だけはこう主張した。
『性格や能力の優れた10人を、私の加護の元で育てる。』
男には人望があった、故に例外を許され、10人は生きる権利を与えられ、皆男に付き従った。
10人が育ちきり次第、男は全ての超人達を管理して教育を施し、二度と過ちが起きぬように努めた。
こうして一度は世界は平和になった。
_カピラリア七光線を生き延びた超人が居た、という事実が発覚するまでは。
初めは慈悲の心で見守る事にした男は、生き残った超人達が同じ過ちを繰り返さないことを願い、地上を離れた。
それから数億年ほど経った頃だろうか、再び悲劇は起きた。
今度は1000人以上の超人が一斉に反旗を翻し、人類へと牙を向けたのだ。
その事件をきっかけに、男の理想は深い失望と共に崩れ去った。
もはや超人は管理せねばならない、そう確信した男は、遂に超人を手に掛けた。
それが最後の一線だったのだろう、以降、男の管理は数億年にも続いた。
男の慈悲の心は、とうに擦り切れていた。

「……これが私達とあやつの歴史だ。」
ミラージュマンと悪魔将軍はそう締めくくると、大きく息をつく。
「……なんていうか、スケールがでけぇ話だな。」
モナがそう零すのも無理はない話だろう、彼等の話が正しければ、超人という種族の数億年の歴史の話にかけてのなのだから。
あまりにも壮大過ぎる話に呆気に取られていると、悪魔将軍が再び口を開く。
それは先程までの打って変わり、静かな声色だった。
「これは私達始祖の話だ、それでもやってくれるのか、キン肉マン?」
言外に、これは自分達がやらねばならぬ尻拭いだと、今なら聞かなかった事にしても構わないと言う悪魔将軍だったが、キン肉マンの答えは変わらなかった。
「男に二言は無いわい!」
「おいキン肉マン、良いのか?今の話が本当な証拠なんて…」
余りにも壮大な話に、皆が納得しかねる中で、本当に良いのかと再度尋ねるモナ。
それもそうだろう、彼等の悲痛さは伝われど、納得できているかは別問題なのだから。
「構わんわい!この男は必死の覚悟で敵である私達に頭を下げて頼みに来たんじゃ、これを断るなど、男が廃るわい!」
「…まぁ確かにそうだがよぉ」
それでも変わらないキン肉マンの意志に、モナも皆も、薄薄気付いていた。
この話が真実であることは、彼の悲痛な叫びから分かっていたのだ。
「へのつっぱりは要らんですよ!」
「…意味は分からないけど、自信は感じるね」
諦めたように、明智がそう零すのであった。
「(キン肉マン、お前は…)」
ミラージュマンもまた、彼の意志に、嘗て男が持っていた慈悲の心を見出していた。
「ありがとう…それしか言葉が見つからない…」
感謝、それ以外に言葉は無かった。

9人目

「強敵! ヒドラザク」

「ここか……! ヤムチャ!!」

 悟空たちがやって来たのは、荒野だった。辺りにはモンスターが暴れた跡と思しき瓦礫や
クレーターがいくつも見受けられる。

「おお! 悟空! 助かったぜ!」

 悟空の姿に気付いたヤムチャは安堵の表情を浮かべるが、すぐにその顔が凍り付く。

「ヤムチャ殿の仲間か……む、いかん!!」

 悟空の背後から現れたのは、巨大なヒドラザク。
その大きさは数メートル程もあるだろうか。全身を硬い鱗に覆われ、8つもの頭を持つ
大蛇のような化け物は、ヤムチャを見つけるとギロリと目を向けてきた。
それだけで凄まじい威圧感を醸し出している。

「うおっ、でっけぇ!」
「フシュゥゥゥゥゥゥッ」

 勢い良く吐き出される息吹と同時、尻尾の先端に付いている鉄球のような物を
振り回して攻撃してくる。ドガンッと轟音が鳴り響き、地面が砕き割れる。
その威力たるや、直撃すればひとたまりもないだろう。

「ゴムゴムのォォォォォォォォォッ……!!」

 飛び上がったルフィは空中で体を捻ると、思い切り右腕を引いた。

「”銃(ピストル)”ゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 ズドンッと撃ち放たれたのは、強烈な右ストレート。ヒドラザクの巨体が揺らいだ。

「う、腕が伸びた!?」

 驚くヤムチャ。初めて見る光景であれば当然の反応だろう。
一方、悟空たちはルフィの攻撃が効いている事を確認すると、 一斉に飛び出していった。

「次はオラだ!!」

 悟空が飛び出す。地面を蹴り、一瞬にして敵との距離を詰める。

「でぇありゃああああああああああああッ!!」

 そのまま敵の腹部目掛けて強烈なエルボーを繰り出した。
鈍い音と共に空気が震え、ヒドラザクの腹が陥没する。

「グギャォォォォォン!!」

 巨体に見合ったタフネスを誇るヒドラザク。異常なまでの頑丈さで、ルフィと悟空の
連続攻撃を受けてもなお、ヒドラザクは平然としている。
しかし、ダメージが無い訳ではないようで、僅かに後退りした。

 そして、今度はバーサル騎士ガンダムと環いろはが同時に動く。
バーサル騎士ガンダムはバーサルソードを構え、いろはは光のボウガンで遠方から
狙撃した。
バーサル騎士ガンダムの剣閃がヒドラザクの頭部のひとつを刎ねたかと思うと、
直後に複数の矢が胴体に突き刺さる。
どちらも強力な攻撃だったが、それでもヒドラザクは倒れない。

「キェェェェェェェェッ!!」

 むしろ、怒り狂ったかのように雄叫びを上げると、口から炎を吐き散らしてきた。
いろはは咄嵯に魔力シールドを張ってバーサル騎士ガンダムを守る。

「くううっ、だ、大丈夫ですか!?」
「ああ、おかげで助かった。感謝する!」

「もしかして、あなたも別の世界から来た人なんですか?」

そう問いかけるいろはに対し、バーサル騎士ガンダムは静かに首肯した。

「どうやらそうらしい。今少し、状況を把握しきれていない所はあるが……
だが、君たちのような勇敢な者たちと巡り会えた事、嬉しく思う」

 ヒドラザクの猛攻は続く。
8つの頭はそれぞれに独立した動きをしており、それぞれが別方向から攻撃を
仕掛けてくる。

「こいつ、しぶてぇなァ!!」
(た、環さん……! こんな怪物たちと戦う事になるなんて……)

 黒江は内心で怯えていた。
悟空やルフィたちに比べれば、自分など大した戦力にならない事は分かっていたからだ。
しかし、だからといって何もしない訳にもいかない。

「黒江さん! 危ない!」

 いろはの声にハッとする。
いつの間にか接近していた1体のゴブリンザクが、斧を振り上げている。

「くううッ!!」

 反射的に二対のクラブを交差させて防御するが、衝撃に耐えきれず
吹き飛ばされてしまう。

「ああっ……!!」

 ゴロゴロと転がっていく黒江。
一方のいろはは、ボウガンを連射して複数の敵を牽制しつつ、倒れた彼女に
駆け寄って行った。

「く、黒江さん! しっかりしてください!」
「ご、ごめんなさい……! 私が足を引っ張っちゃって……」

 悔しげな表情で謝罪の言葉を口にする黒江。
そんな彼女の肩に手を置きながら、いろはは首を横に振った。
直後、ゴブリンザクがさらに二人を襲いかかる。

「させるかッ! 繰気弾ーッ!!」

 そこへ、ヤムチャが放ったエネルギー弾が命中。
斧を弾き飛ばし、さらに誘導操作で縦横無尽に軌道を変えて敵にダメージを与える。
その隙を突いて、二人は距離を取った。

「大丈夫か!?」
「はい、ありがとうございます」

 黒江はヤムチャに感謝すると、立ち上がっていろはの横に並ぶ。
そして、再び武器を構えた。 

(環さんたちにばかり戦わせちゃダメだ。私も頑張らないと……)

 決意を新たに、敵を見据える。

「みんな! あいつの動きを止めてくれ!!」

 ヤムチャの指示を聞いたルフィとバーサル騎士ガンダムは即座に行動に移った。
まず、ルフィが敵の注意を引き付けつつ、拳の連打を浴びせていく。

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃァッ!!」

 ルフィのラッシュが炸裂する度に、ヒドラザクの身体が徐々に押し込まれていった。
そこにバーサル騎士ガンダムが頭上から槍を突き立てる。

「覚悟! せやああああああッ!!」
「グギャェェェェェエエッ!!」

 緑色の血液が噴水のように噴き出し、見事ヒドラザクの意識を逸らす事に成功した。

「ヤムチャ! 久々にやっかァ!」
「おう、任せろ!!」

 悟空とヤムチャが同時に飛び出すと、左右から強烈な蹴りを放った。

「どりゃああああッ!!」
「はいいいいいいッ!!」

 強烈な蹴りを喰らい、ヒドラザクの巨体が揺らぐ。

「ほっ! はっ!」

 連続でバク宙しながら距離を離した悟空とヤムチャは、
タイミングを合わせて同時に構える。

「お前とこれをやるなんてな!」
「行くぞォ!!」

 両の掌をお椀の型にして合わせる。
二人の手の中で気力が凝縮されていき、蒼く眩い光を放つ。

「か……! め……!」
「は……! め……!!」


「「波ああああああああああああああああああああああああああーッ!!」」


 悟空とヤムチャの手から放たれる巨大なエネルギーの奔流。
彼らの共通の師である亀仙人が編み出した必殺技・かめはめ波だ。
二つの超パワーが合わさった事で、それは通常の倍近い威力にまで高まっていた。

「グギャアアアアアアアッ!?」

 まともに受けたヒドラザクは堪らず悲鳴を上げた。その光景を見て、いろはは驚愕する。

「物凄いエネルギーです……!!」

「一気に押し切るぞ!黒江さん、援護してくれ!!」
「は、はいっ!! ええええいッ!!」

黒江がクラブで地面を叩き、苦しみもがくヒドラザクの足場を崩落させた。

「今です!!」

「よし、とどめだ!!」
「くたばっちまえーッ!! はあああああああああああああああああああああああッ!!」

 悟空とヤムチャがダメ押しの一撃を放ち、遂にヒドラザクは爆散した。

「――終わったか」

 かめはめ波の直撃寸前で退避したバーサル騎士ガンダムが着地し、決着を告げる。

10人目

「悪魔の機体、ベリアル」

一方その頃、特異点の方では
「クッ……仗助殿、康一殿、大丈夫か?」
「あ、あぁ……なんとかな……」
「……あれ?ジョーカーさん達は?」
周りを見渡すと一緒にいたはずのジョーカー達がいなかった。
「……どうやらさっきのが原因で彼らとはぐれてしまったようだ……」
(先程のは間違いなくジークジオン……まさかやつもこの事件に関わっているのか?)
すると、近くから大きな爆発音のようなものが聞こえた。
「な、なんだ!?」
「今のは……どうやらあっちの方らしいな……」
「もしかして、ジョーカーさん達が?」
「わからない……だが、行く価値はあるかもしれない……」
仗助、康一、騎士アレックスの3人は、音のした方へ向かった。



「……この辺りから音がしたのは確かだが……」
「ん?お、おい!あそこに人が倒れてるぞ!?」
「なに!?」
仗助達が見つけたのは、ボロボロになって気絶し、倒れていた宗介の姿だった。
辺りにはボン太くんと思わしき着ぐるみがバラバラになっており、さっきまで戦いを行っていたと思わしき痕跡も残っていた。
「おい!大丈夫かアンタ!?」
「……どうやら気を失っているらしい……」
「酷い傷だ……」
「俺、近くに医者がいないか探してきます!」
「僕も行くよ!」
「わかった」
仗助と康一は近くに医者がいないか探し始めた。



何故宗介がこんな状態になっているか……それは彼らが宗介を見つける数十分前まで遡る。
「……千鳥、大丈夫か?」
「う、うん……あれ?立香さん達は?」
「恐らくは、先程の現象によりはぐれてしまったのだろう……」
「そのとおりだ」
「っ!その声は…!」
そこに現れたのは……見たことのない銀色のASだった。
「銀色のAS……!?」
「新型のAS……乗ってるのはレナードか!」
「今の現象は聖杯によるものだ」
「なに!?」
「どうやら僕やクォーツァーの王、それにあの竜王のような似た願いを持つものが複数近くにいたことにより、それに反応した聖杯が、この特異点一帯に影響を与えたようだ」
「似た願い…?」
「まぁそんなことはどうでもいい、僕が作り替えたいのはこの特異点ではなく、僕らが元々いたあの世界だ。
そのためにも千鳥かなめ、君には僕らのところに来てもらうよ」
「っ!」
「千鳥、君は安全なところに隠れてるんだ」
「う、うん」
千鳥は近くの物陰に隠れ、宗介は再びボン太くんスーツを身にまとう。
「ほう、それが噂に聞くボン太くんか。
確かに可愛らしい姿だが、それでこのベリアルを倒せるかな?」
(ベリアル……それがあの機体の名前か……)
ボン太くんはマシンガンでレナードの乗るAS、ベリアルを攻撃する。
がしかし、傷一つ付かない。
(攻撃が効いてない…!?超合金Zか?それとも別のなにかか…?)
「言っとくが、ベリアルの力はこれだけじゃない…!」
そう言うとベリアルはなんと上空へと飛び立った。
(なに!?)
「嘘でしょ…!?」
ボン太くんの中にいる宗介も近くの物陰から見ていたかなめも驚いた。
それもそのはずである。元々ASはマジンガーZやゲッターロボのようなスーパーロボットとは違い飛行能力を持たない、つまり本来なら空を飛ぶのは不可能のはず。
しかし、目の前にいる機体はその本来できないはずのことを平然とやり遂げている。
すなわち、宗介達が知ってるASとは次元が違うと言っても過言ではないのだ。
「ふもっ!(チッ…!)」
ボン太くんは空中にいるベリアルに攻撃を仕掛けるが、ベリアルは余裕で回避する。
「今度はこっちの番だよ」
レナードがそう言うとベリアルは目にも止まらぬ速さでボン太くんに接近し、近接格闘で攻撃する。
「ふもっ…!(クッ…!)」
(この感覚……やはりあの機体は…!)
「どうやら君も感づいているようだな。
そう、この機体はラムダ・ドライバ搭載機、さっきの防御力も飛行能力もラムダ・ドライバの応用だ。と言っても僕とベリアルぐらいにしか使えないだろうけどね!」
ベリアルはボン太くんを思いっきり蹴り飛ばす。
「ふもぉおおおおおお!?(ぐわぁああああああああああああああ!?)」
ベリアルの蹴りによりボン太くんスーツはバラバラになり、中にいた宗介は蹴り飛ばされた勢いによりそのまま近くの壁に激突してしまう。
「ガハッ!?」
「ソースケ!」
「着ぐるみ1つでここまで耐えれたことは褒めてあげよう。だけど、そろそろ終わりとしよう…!」
そう言いレナードはベリアルの機関砲を宗介に向ける。
「クッ…!」
「待って!」
「っ!」
二人の間にかなめが割り込んだ。
「千鳥!?」
「あんたの目的は私なんでしょ!?だったら、さっさと連れて行きなさいよ!」
「………………」
(お願い…!彼を殺さないで!
あなたの言うことは何でも聞くから……私のことは好きなようにしていいから……だから…!)
(……何故だ…その健気さを…強さを…)
「何故、あの男に…」
「千鳥…」
「さぁ行くよ、千鳥かなめさん。
僕達の場所へ」
「…ソースケ……さようなら…
…あしたは…大丈夫だから……あなたも…」
そう言い残し、かなめはレナードに連れていかれた。
「千鳥……千鳥ぃいいい!」
その後、レナードとの戦いによる身体的なダメージと守りたかったかなめを連れ去られたことによる精神的なダメージにより宗介は気を失った。

11人目

「誰か、医者は居ませんかー!?」
混沌とした街に響き渡る康一の呼び声に、しかし誰も応える者は誰一人おらず、人影すら見当たらない。
代わりに返ってくるのは、街の建物に反射された自身の声だけ。
それだけならば、ただの徒労であっただろう。
だがそこで、康一が目にしたのは…
(……え? が、骸骨ぅ!?)
肉を一切そぎ落とした、むき出しの黄ばんだ骨。
それが人の形を成し、原理も分からず歩み寄ってくる光景だった。
(な、何なんだーっ!?化け物!?)
よく見れば片手にはボロ切れた直剣を引き擦っており、康一を上回る体格を持っている。
その骸骨が、今、剣を振り上げ、降ろさんとする光景。
何が起きてるのか脳が理解を拒み、一瞬呆然とする康一だったが…
「う、おぉーーっ!!?」
次の瞬間には、既に行動に移っていた。
咄嵯に身を屈め、振り下ろされる刃をすり抜けると同時に、背後へと回り込む。
そして相手の背骨目掛けて、思い切り回し蹴りを叩き込んだ。
「か、硬い!?」
足裏に伝わる感触は、硬いゴムのような弾力のあるものだった。
恐らくは骨格自体が頑丈なのだと思われる。
(何なんだあの化け物は!?スケルトンなんて空想の産物なのに!!?)
蹴り飛ばされながらも体勢を立て直す怪物を見て、即座に距離を取る康一。
体格の差か、すぐに追いつかれるが、康一の目的は時間稼ぎにあった。
「だったら、脆くするまでだ!エコーズ!」
康一がその名を語ると同時に現れる、緑色の虫を模した幻影(ビジョン)、エコーズ。
康一の意思を受け、エコーズは敵である骸骨に向けて飛んでいく。
エコーズが纏わりつくように骸骨の全身を覆うと、そこから波紋のように衝撃波が広がり、骸骨の身体を揺らす。
_カタカタカタカタッ!?
骸骨はカタカタ震えると、全身の関節が別れ、基盤の抜けた機械の如くその場に倒れ伏した。
エコーズの能力は振動による衝撃であり、故に筋肉という軟体で関節を保護されてない骸骨にとって、相性の悪い能力と言えよう。
だがそれでも倒すには至らず、僅かに痙攣している。
「まだ生きている!!骸骨の癖になんて生命力なんだーっ!?」
康一が叫ぶ間に、関節を再結合してゆっくりと起き上がる骸骨。
「うわぁ!?復活してる!!」
再び剣を手に取り、向かってくる。
対して康一は再びエコーズを放つ。
エコーズとてスタンド、物理的な干渉力それ自体は持つ。
だが破壊力の低い非力なスタンドであるが故に、特殊な能力による戦闘頼みになる。
その能力が効かないとなれば…否、一つの閃きが康一の脳裏に走る。
「…だんだんムカついてきたぞ。」
康一の怒りに、火が灯る
関節が外れては再生を繰り返す『理不尽』を前に、逆に康一は『キレた』!
「どうして顔も知らない死んだ奴に、怯えなくっちゃあならないんだっ!?」
エコーズの尻尾が、骸骨の背骨へと突き立てられる。
だが、骸骨は最早気にした様子を見せず、ただ康一に刃を突き立てんと進むのみ。
「弱点は『作れる』!そしてここで倒れるのはお前だ、化け物っ!!!」
一度受けた蹴りも取るに足らない一撃だと、剣を振り上げる。
そんな一撃こそが、致命傷だった。
_ポキポキッ
康一の蹴りが、骸骨の背骨を、軽やかな音と共にへし折る。
思考が停止したようにガクリと膝を付き、真っ二つに分かたれ、自重によって骸骨は折られていく。
「やっぱりだ。『硬いもの』は『砕ける』!『砕ける音』を『貼り付ければ』良かったんだ。」
骸骨の体には『ポキポキッ』という文字。
「そうやって再生できなくなるまで砕けてろ、化け物!」
これがエコーズの能力、擬音の実体化であった。

「康一、医者は見つかったか?」
「駄目だったよ、化け物しかいないや。そっちは?」
「どーも精神が不安定みてぇで意識が戻らねぇ。このままじゃ衰弱死しちまうぜ。」
康一は宗介の治療を終えた仗助と合流し、お互いの状況報告をしていた。
仗助のスタンドは、怪我の類いは治せる。
一方で精神や意識に対しての治療は施せない為、本場の医者を求めていたのだ。
「街がこの有様じゃ、治療も難しい。一先ず安全な場所に運ぼう。」
「そうだな、拠点を確保してから…」
康一の提案で、その場を離れようとした時だった、新たな脅威が襲ってきたのは。
「伏せろ康一っ!!」
突然、頭上から何かが降ってくる。
咄嵯に身を屈める康一。
そのすぐ上を、巨大な鉄球が通り過ぎる。
「うわぁ!?こ、今度は何だ!?」
振り向くとそこには、先ほど倒した骸骨の姿。
しかも、一体だけではない。
__カタカタッ!カタカタカタッ!
鉄球、大剣、槍…様々な獲物を持った、骸骨の群れが、康一の背後から迫って来ていたのだ。
「(し、しまったーっ!?さっきの戦闘で他の骸骨を呼び寄せたんだ!それに気づかないでここまで来てしまったーっ!)」
康一は内心、自分の迂闊さを呪った。
エコーズは遠距離攻撃型であり、近接戦闘は不得手である。
故にエコーズによる戦闘は、エコーズの尻尾による打撃と、エコーズが生み出す衝撃波による攻撃が主となる。
だが、そのどちらも近距離戦では無力。
先のような一対一なら分はあるが、多数が相手であれば…
「ドラァッ!!」
『烏合の衆』であれば、『クレイジーダイヤモンド』に分がある、と言わんばかりに、仗助のスタンドが骸骨の一体を殴り壊す。
一瞬の内に行われた攻撃によって、骸骨たちに動揺が走った。
「ごめん、ありがとう!」
康一は仗助に礼を言うと、再び骸骨たちへと向き直る。
その視線の先には、警戒する骸骨たちの姿があった。

骸骨たちの数は多く、またそのどれもが強靭な再生能力を持っている。
クレイジーダイヤモンドを以てしても、数の差でじわじわと押されるのは当然であり、時間の問題だった。
「クソッタレめ!キリがねぇぜ!!」
仗助の攻撃をすり抜けて迫る骸骨たちを、康一がエコーズを使って砕き続ける。
このままではいずれ体力が尽きてしまうだろう。
そうなれば、康一も、何より宗介もただでは済まない。
そんな時であった。
_ドォン!!という轟音が突如鳴り響くと共に、地面が大きく揺れ動く。
そして次の瞬間、地割れと共に何かが這い出てくる。
「_やれやれ、騒がしいと思えば、戦っているとはな。」
それは巨大な体格を持った、マントを被った男だった。
隙間から見える水色の体と、外科手術用マスクの様な覆面、そして節々に鉄板を張り付けた、異質な雰囲気を放つ男だ。
「だ、誰だぁーーーっ!?」
彼が何物か、仗助達には心当たりが全くなかった。
というより、知っていれば一発で分かるだろうという確信を持てる。
それほどまでに、彼の容姿は異質だった。
「人に名を訪ねる時は…」
直後、非常識な存在の男はその腕を振り上げ、
「自分から名乗るのが通りだ。」
常識的な忠告と共に、骸骨をラリアットで薙ぎ払った。
「つ、つえぇ…」
圧倒的な強さを見せる男を前にして、康一達は思わず息を呑む。
人間なのかすら怪しいレベルである。
だが、今は頼もしさを感じる味方なのも間違いなかった。
「あ、ありがとうございます!あの、康一って言います。貴方は…?」
「ふむ、お主は礼儀正しいな。私の名はドクターボンベ、超人医師だ。」

12人目

「BB CHANNEL Now ON AIR!」

 藤丸立香は、暗い意識の底に漂っていた。

 ――ここはどこだろう? わからない。
ただ真っ暗な闇の中に、自分だけがぽつんと浮かんでいる。

 ――どうしてこんなところにいるんだっけ……? 何か大切なことがあった気がする。
何かをやらなければならないような気もする。
けれど何も思い出せない。

「……そうだ、マシュ……!?」

 ふいに誰かの顔が思い浮かぶ。それはとても大切な人のはずなのに、
どんな顔をしていたのかすら思い出せなかった。ただその声音だけが、
ぼんやりと頭の中で響いている。

『先輩』

 そう呼んでくれる少女の声がした。

『大丈夫です。わたしたちは、必ず先輩を助けますから』

 ああ、そうだ。自分はこの声の主を助けるために、ここにいるのだ。
それならば早く起きなくては。きっと彼女も待っているはずだから。

「……うぅ……」
「ようやくお目覚めですかぁ? セ・ン・パ・イ♪」
「!?」

 頭の中に浮かんでいたマシュの声ではない。悪戯っぽい女性の声に驚いて目を開けると
そこには前屈みになって立香の顔を覗き込む一人の女がいた。
紫のストレートヘアを長く伸ばし、真っ赤なリボンをサイドに結ったその女性は
まるでアイドルのような可愛らしい顔立ちをしている。
黒を基調としたコートを羽織り、スカートの下にはニーハイブーツを履いていた。

「BB☆ちゃんねる~♪」

 サイケデリックな照明の下で、TV番組のスタジオのようなセットをバックに
彼女は笑っている。

「……BB、ちゃん?」

 立香はその顔に覚えがあった。以前カルデアを巻き込んだ騒動の張本人。
月の裏側、ムーンセルの女王を名乗る彼女が何故? それに、ここは一体……

「はい! みんなのラスボス系後輩サーヴァント、愛されキャラにして
宇宙一かわいいAI美少女、BB☆チャンネルのお時間ですよぉ~!」
「BBちゃん、私はどうしてここに……私は確か、特異点を修復しようとして……」

 そうだ。門矢士、相良宗介、千鳥かなめ……それにマシュを始めとした
カルデアのサーヴァントらと共に特異点を発生させていた聖杯を回収すべく
レイシフトをしたはずだった。
だが今、自分が立っている場所は、どう見ても彼女らが旅していた特異点ではない。

「そう! センパイたちは特異点修復に失敗!
その結果、皆さんはバラバラになってしまったのでーす!」
「えっ!?」

「何でも出来るラスボス系後輩のBBちゃんは甲斐甲斐しくも、そんなセンパイを
サルベージしてあげたというわけなのでした。はい拍手ー☆」

 ぱちぱちとまばらな拍手が鳴る。

「私が助けてあげなかったら、よわよわ人間のセンパイはあの時空嵐に巻き込まれて
ミンチよりひでぇことになっていたところですが……まあ、そこはいいでしょう。
とにかくセンパイにはここで、私のアシスタントをしてもらいます♡」

 BBの言うことは半分以上理解できなかったが、ひとつだけはっきりしている事がある。
――私たちはバラバラになったままなのか。
それだけが確かな絶望となって胸の中に広がる。

「BBちゃん、お願い。私はここでじっとしている訳にはいかないの。
マシュやみんなと合流しなくちゃいけないし……」
「ダ・メ・で・す♪ 今のセンパイなんて、そこらの雑魚エネミーにも負けるぐらい
弱いんですから、大人しく私のお世話になってくださいね?」

 BBが支配する虚数空間に閉じ込められてしまった立香。
離れ離れになった仲間たちと再会する事は出来るのだろうか?

 そんな中、竜王の所持する聖杯の力によって特異点は固定化され、
さらにその領域を拡大する一方であった。
宗介はレナード・テストロッサの前に敗れ、かなめはレナードの掌中に落ちた。
キン肉マンやジョーカー達は認知世界へと飛ばされ、仗助や騎士アレックスたちは
未だ混沌を極める特異点内に留まっている。

「特異点は未だ健在……藤丸くんたちの反応もロスト……
これはいよいよもってマズイぞ……」

 カルデアにて、ダ・ヴィンチは考え込んでいた。
天才的な頭脳を持つ彼女をもってしても、この状況を打破できる方法は見つからない。

「事件は迷宮入りか……」

 さしものホームズも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
と、その時だった。
管制室のモニター類のすべてにBBチャンネルの映像が映し出される。

『みなさんこんにちは~♪』
「なっ……あれは確か、BBと名乗った少女か!?」

 突然の出来事に驚く一同だったが、その中でただ一人、レオナルド・ダ・ヴィンチだけは冷静に画面を見つめていた。BBがこのような形でコンタクトを取ってくると言う事は
何らかの重要な情報を持っている可能性が高いからだ。

『皆さんの大切なセンパイはこのBBちゃんがしっかりお預かりしていま~す!』

 映像の中のBBは、カメラに向かって挑発的にウインクをする。
そしてその背後には、立香の姿が捉えられていた。

『ホームズさん! ダ・ヴィンチちゃん! 私は一応無事です!
でも、マシュ達と連絡が取れなくて……』

 必死に訴えかける立香の言葉に、ホームズとダ・ヴィンチの顔色が曇った。
彼女の言葉通り、マシュたちとの通信は未だに回復していない。
しかし、それよりも問題なのは、このBBと名乗る少女の目的だ。

「BB、藤丸くんには特異点を修復してもらう必要があるんだ。返してくれる気はあるかい?」
ダ・ヴィンチは努めて落ち着いた口調で問いかけたが、BBは首を横に振った。

『ダ~メ☆』

 どうあってもBBは、立香を元の世界へ戻すつもりはないらしい。

「悪いが、そう言う訳にはいかないな」

 コツ、コツ、スタジオ内に足音が響く。
ゆっくりと歩いてきたのは、黒いスーツに身を包んだ長身の男。
鋭い眼光。首から提げるトイカメラ。

「――士さん!」

 仮面ライダーディケイド、門矢士は生きていた。
士は視線だけを向けて、立香に応える。その様子に、BBは不満げに頬を膨らませた。

「ぶー! もう来ちゃうんですかぁ? もう少し待っていてくれたら良かったのにぃ……
流石は世界の破壊者。空気を読むということを知らないんですねぇ~」
「そいつに特異点とやらをどうにかしてもらわんと、こっちとしても困るんでな」

「うふふ……まあいいでしょう。センパイはもうじき私だけのモノになるんですから」
「いいえ、先輩は返していただきます!」

 さらに、士の後ろに続くようにして現れた人影があった。

「マシュ!」
「はい! 先輩!」

 マシュ・キリエライトは盾を構えながら、士の隣に並ぶ。

「おお、マシュにミスター門矢! 彼らも無事だったか!」
「やれやれですねえ。せっかくセンパイと二人っきりになれると思ったのに」

 BBはつまらなそうに唇を尖らせる。

「どうしてもと言うのなら、私を倒してみてください♡」
「そうさせて貰おう」

【KAMEN RIDE DECADE】

「変身」

「マシュ、行くよ!」
「はい、マスター!」

 士がディケイドに変身すると、立香とマシュも臨戦態勢に入った。

13人目

「超人作戦会議」

「さて、これからの方針を決めようか。」
悪魔将軍の鶴の一声によって、温まった場の空気が引き締まる。
全員の視線を一身に受け、悪魔将軍が語り出す。
「まずはこの認知世界とやらを破壊し、現実世界へ帰還する。全てはそれからだ。」
「早速でけぇ仕事になったな…」
モナが腕組みしながら、唸る様に呟く。
「あの時の様に、聖杯を破壊しなければ。」
ジョーカーの言葉に皆一様に押し黙る中、困り顔のミートが疑問を呈する。
「あの、大王様。聖杯に認知世界って…?」
「ん?あぁ、ミートはメメン丼について知らんかったな!」
「メメントスだ!メ・メ・ン・ト・ス!」
メメントスはラテン語で"記憶"の意味を持つが、ミートには馴染みの無い言葉である。
「ったく、ワガハイから説明するぞ?」
「あぁ、私も詳しくは知らないからな。」
モナはミートに説明する為、一旦話を中断してメメントスについて説明する事にした。
「まずメメントスっつーのは、人間の無意識、つまり『認知』が大量に集まって出来た、いわば空想の世界だ。」
モナはミートの目線に合わせてくれているようだ。
「この認知世界の中じゃ、人間は自分の心の奥底にある願望とか認知が具現化出来るんだぜ。例えば、こんな風によ!」
そう言ってモナは両手を広げ、自分の身体を見下ろすように見つめた。すると次の瞬間、その全身が煙に包まれる。
突然の出来事に驚くミートだが、煙はすぐに晴れていく。
「うわ!?何ですかこれ!?」
そして直後にに現れた姿を見たミートは驚愕の声を上げる。
今まさにモナが居た場所には、黒塗りの光沢を放つワゴン車の姿があったからだ。
「どうだ、驚いたか?」
「く、車が喋った!?でも、モルガナさんの声だ!」
「こんな風に『猫はバスになる』って大衆の心理を利用して、ワガハイは車になれる訳だ!」
驚き戸惑うミートに対し、得意げに語るモルガナは続けて話す。
「他にも色々あるが、まぁそれはおいおい教えるとして…一番の目玉はこれだ!頼むぜジョーカー!」
「任された。」
そう言うとジョーカーの体が蒼い炎に包み込まれる。
「ペルソナァ!」
そして内心ウッキウキで自身のペルソナであるアルセーヌを呼び出した。
「わぁ…!」
赤いタキシードに身を包む禍々しい魔人の出で立ちに、一同から感嘆の声が上がる。
そして炎が晴れた当の本人はいつもの制服ではなく、怪盗団としてのスーツを身に纏っていた。
「これが認知世界で他人の認知にやられねぇようになる人格の鎧『ペルソナ』と『怪盗の姿』だ!」
「す、すごいです!!」
興奮気味に目を輝かせるミートを見て、モルガナは満足気に笑う。
「そうだろそうだろ?これで俺達は戦える訳だ!」
そんな二人のやり取りを見ながら、悪魔将軍は咳ばらいをしながら一言。
「そろそろ良いか?」
ドスの効いたような、そんな錯覚を覚える声で、二人のやり取りは静止させられた。
「ニャイ!?」
「あ、はい!大丈夫です!!」
二人は慌てて姿勢を正し、向き直った。
それを確認した後、悪魔将軍は再び口を開く。
「我々はこの認知世界を破壊する、その為の布石は既に打ってある。」
先程までの威圧的な態度とは打って変わり、穏やかな口調であった。
しかし、その眼光だけは鋭いままだ。
まるで、獲物を狙う猛禽類のような目つきだった。
ミートは、その視線から目が離せなかった。
「布石、ですか?」
「あぁ、超人墓場を破壊した。」

「やはり、か。」
武道が一人、超人墓場で呟く。
その手には、人の丈を優に上回るサイズだったであろう石臼の破片が握られていた。
破片と言っても、元の大きさを考えるとその大きさは尋常ではない。
直径にして約3mはあるだろうか? それが、粉々になっていた。
武道は石臼の残骸から視線を上げ、辺り一面に広がる瓦礫の海を見る。
そこに横たわる一人の超人を、ただただ見守っていた。
「…武道、その人は?」
丸喜が、武道の視線の先にいる者が死体だと、何となく気づいた。
「完璧超人始祖の完璧・肆式(パーフェクト・フォース)、アビスマンだ。この石臼を守っておった。」
そう言いながら武道はアビスマンの亡骸に近づき、しゃがみ込む。
そしておもむろに手を伸ばし、開きっぱなしだった彼の眼を閉ざした。
「お前が守ろうとしたこの石を、お前の墓としよう。」
そう言って彼は立ち上がり、アビスマンの巨体を軽々と持ち上げると、地割れで露出した穴へと埋める。
そして、石臼の一部を立て掛けアビスマンの名を竹刀で刻むと、振り返って歩き出す。
「…あの石臼、禁断の石臼(モルティエ・デ・ピレ)は死者の手で超人の命を生み出す装置であり、超人が蘇る超人墓場の核。同時に現世とここを隔離する物でもあった。」
「それってつまり…」
「あぁ、石臼が破壊された今、ここ超人墓場は死者を蘇らせることは出来なくなった。さらに言えば、お主の守る認知世界の核、聖杯や死者諸共に現世へと顕現した。」
武道より告げられる絶対防衛線崩壊の合図に、丸喜が、息を吞む。
「あやつらは来るぞ、ここへな。グロロ~…」

_一方、崩壊した超人墓場より脱出した超人の1人、ドクターボンベ。
彼は、仗助達の危機の前に現れ、窮地を救っていた。
「ドクターボンベ…?」
「如何にも、超人専属医のドクターボンベとは私の事じゃ。」
安全な空き家へと隠れた仗助達は、宗介をベッドに寝かせて話し合っていた。
「超人専属医とやら、どうかこの方を救ってくれないか?」
騎士アレックスが、ドクターボンベに頼み込む。
騎士として、目の前で命が失われるのはゴメン被るのだろう。
「良いだろう、私も医師の端くれとして、死人が出るのは御免じゃ。」
そういうと、宗介の状態を一見し、診断する。
「ふむ、傷は完璧に直っておる。となると精神の問題じゃな。」
傷跡も無いのに負傷していた事を見抜いたのは、医師としての賢眼なのだろう。
「よし、オペの内容は決まったわい。」
「本当か爺さん!って、何をする気だ!?」
懐から出るオペの道具に、仗助がゾッとする。
ノコギリや巨大な鉈等、どう見ても拷問用の物としか思えない物を見れば、誰でもそうなるだろう。
「今からコイツの中枢神経系を刺激する、後は本人の気力次第じゃ。」
「刺激するって…まさか痛みで起こすっつー訳じゃねぇーよなぁー!!?」
これから行われるであろう地獄の光景に、仗助は黙ってられない。
だが、ドクターボンベも医師のプライドを以て答える。
「このドクターボンベのオペは、麻酔が無くとも患者に痛みを与えず治療する事が売りじゃ!私を信じて待っておれ!」
「~っ!分かったぜ!だが、何かあったらすぐ呼べよな、爺さん!」
ボンベの鋭い眼光の気圧されたのか、或いは言葉の重みを感じたのか、仗助は一言言い残して部屋を出る。
「ドクターボンベと呼べい!さて、始めるとするか…!」
部屋の扉を閉じる音と共に、ボンベの無麻酔無痛治療が、今始まった。

14人目

「混沌次元、そして融合次元」 

 強敵・ヒドラザクが撃退された事で、ジオン族のモンスターたちの姿も消え失せた。

「ふぃー、終わったなぁ」
「助かったぜ、悟空」

 ヤムチャが言うと、悟空はサムズアップで応えた。

「おめえだって頑張ってたじゃねえか、ヤムチャ。また武道家に復帰したらどうだ?」
「冗談じゃない! 俺はもう武道家は引退したんだ!」
「そうなんか? まあ、いいけどよ……それより、そっちのヨロイみてえなの着たんが
ナイトガンダムとか言う奴か?」

「如何にも。我が名はバーサル騎士ガンダム。助太刀、感謝する」
「おう、気にすんなって。オラたちも仲間を助けられたからな」

 悟空の言葉に、バーサル騎士ガンダムは微笑みながら礼を言った。

「あっ……あれ、見てください!」

 いろはが指差した上空には、ワームホールが渦巻いていた。

「あれは……! 私がムーア界で見た……」
「きっと元の世界に戻るためのゲートですよ!」
「だんだん、小さく……」

 黒江が呟く通り、渦は徐々に収縮しつつあった。そして……

「消えた……」

「……何と言う事だ。私の世界はまだ戦乱の最中だというのに……」
「まあ、気持ちは分かるけどよ。
ここにいるルフィも、おめえみてえに別の世界から来たんだぞ」
「!? そうなのか?」

「しししっ、まあな。悟空もそうだけど、お前も強そうだからさ。
もし良かったら俺たちと一緒に来ねえか?」
「わたし達は、あなたやルフィさんのように別の世界から迷い込んでしまった人たちを
保護しているんです」

「私も……この世界に放り出されて困っていたところだ。
それに、君たちと共に戦った事で信用に足る人々だと分かった。
是非とも同行させてくれないだろうか」
「ああ、勿論だ。よろしくな!」

 こうして、バーサル騎士ガンダムのCROSS HEROES加入が決まったのだった。

「さっきのワームホール……あれの原理が分かれば元の世界に戻れるかもしれませんね」
「そうだなぁ。ブルマにでも聞きゃあ何か分かっかもしんねえな。
オラそう言うのさっぱりだからよぉ。そんじゃ、カプセルコーポレーションに戻っか」

 再び瞬間移動の準備をする悟空の元に集まるCROSS HEROESのメンバーたち。

「あり? ヤムチャ、おめえはこねぇんか?」
「ああ……俺は修行のやり直しだ。
武道家は引退したと言ったが、どうにも嫌な予感がする。またさっきみたいなバケモノが
現れないとも限らないからな。今度はもっと強くなって戻ってくるぜ!」
「そうか。そんときは手合わせしようぜ!」
「ああ、望むところだ! ブルマにもよろしくな」

 そして、悟空たちはブルマの元へと戻った。

「あ! 帰ってきた」

「おう、帰ったぞー」
「アンタたち……って、あら? その人は?」

 ブルマはバーサル騎士ガンダムを見て驚いたように目を見開いた。

「オラの仲間になったんだ。ほれ、挨拶しろよ」
「うむ。お初にお目にかかる。私はバーサル騎士ガンダム。
CROSS HEROESなる組織に加入させていただく事になった者だ」

「へぇ~、そうなんだ! 孫くんと違って礼儀正しいじゃないの。
あたしはブルマ。よろしくね!」
「こちらこそ宜しく頼む。それで早速だが、一つお願いがあるのだ」

 バーサル騎士ガンダムは例のワームホールについて説明をした。

「成程ね……確かにそれは気になるわよね。いいわ、調べてみる」

 ブルマは快く引き受けてくれた。

「よし、それでは一度トゥアハー・デ・ダナンに戻るとするか」

 テリーマンの言葉に全員が賛同し、一行はトゥアハー・デ・ダナンへと
帰還したのであった。

「おかえりなさい。他の地区に向かった人たちからも連絡がありましたよ」

 テッサが出迎えてくれると、全員の顔が綻ぶ。

「甲児さんと竜馬さんはGUTSセレクトとの連携を密にして、
各地に出現した怪獣を撃退してくれているそうです。
GUTSセレクトもCROSS HEROESへの協力を惜しまないと言ってくれていますよ」

 テッサの言葉に、一同は安堵した様子を見せる。
そんな中、バーサル騎士ガンダムは表情を引き締めていた。

(騎士アレックスやアルガス騎士団も私と同じようにこの世界に飛ばされたのであれば、
見つける事も出来る筈だが……そうとも限らないか)

 そんな不安を抱きつつ、彼は今後の戦いに向けて決意を新たにしたのだった。

「ところでよ、アレクとローラはどうした? 何か連絡はあったか?」
「いいえ、まだ目的のものは見つかっていないと……」

 ルフィが聞くと、テッサは首を横に振る。
すると、その名を聞いた悟空は目を輝かせた。

「アレクとローラ……って、もしかしてそいつらもどっか別の世界からきたんか?」

 悟空の言葉に、CROSS HEROESの面々は驚きを隠せない。

「アレクさんとローラさんの事、知ってるんですか?」

 いろはが尋ねると、悟空はうん、と大きく頷いた。

「……けど、あいつらはオラと会った事覚えてねえと思うけどな」

 悟空は少し寂しげな顔で答えたが、

「そっかぁ、アレクとローラか。もう二度と会えねえと思ってたけど、
分かんねえもんだな。こうやってまた会えるなんてよ!」

 そう言って、悟空は再び嬉しそうに笑ったのだった。
悟空とアレク、ローラの出会い……
それはこの物語のエピソード・ゼロとも呼べるものかも知れない。
いずれ、語られる事もあるだろう。

「アシュラマンやプラネットマン、BH……それにゲイルやジョーカー達は
あれから連絡はあったか?」
「そちらに関しては連絡さえも届いてない状態で……まるで、
何処かに消えてしまったように反応もロストしています」

 アシュラマンら悪魔超人軍団はストロング・ザ・武道の前に敗れ、
ジョーカーやゲイルは特異点の異変により認知世界へと飛ばされている事など
CROSS HEROESの面々はまだ知る由も無かった。
そこはもはや別世界に等しい、「混沌次元」とも呼ばれる領域なのだ。
まさにその時である。

「艦長! 緊急事態です。原因不明の時空震が発生し、各国の主要都市に
モンスターが同時多発的に出現!」

 突如としてブリッジに飛び込んできたのは、副長のマデューカスだ。
その言葉を聞いて、CROSS HEROESの面々は息を飲む。
今まで世界各地で起きてきた事件の数々に由来する事件。
それはもはや偶然で片付けられるものではない。
まるで異なる世界同士が結び付き、ひとつになろうとしているような……言うなれば
「融合次元」とも呼べようか。

「まだこちらに帰還出来ていないメンバーもいると言うのに……何と言う事……!」
「ジオン族のモンスター達のように、別の世界から怪物がやって来たと言う事なのか。
このような事が連続して起きるとは一体……」

「分かんねえ。けど、強ええ奴が相手だっちゅうんなら、オラ燃えて来たぞ!
CROSS HEROESに入って良かったかもな! はは!」
「不謹慎な発言だが、この状況においてはそれが頼もしい限りだ。孫悟空。
私も久々に正義超人としてのファイトが湧いてきたぜ!」

15人目

「認知歪めし深淵の招き手(前編)」

_聖なる完璧の山を目指したキン肉マン達が最初に辿り着いた場所は、高層ビルが立ち並ぶオフィス街だった。
巨大なスクランブル交差点と大型モニターがシンボルの、大都市であるそこは日本の首都、東京の一角、渋谷。
夜になると、ネオンの明かりで煌びやかになり、夜を知らない街でもある。
「おいジョーカー、ここって…」
「あぁ、渋谷だ。」
その街もまた、特異点に取り込まれていた。
「おぉ~、渋谷ではないか!どれ、牛丼屋でも…」
「大王様!」
「冗談冗談!こんな空気で食えるほど大胆では無いわい!」
呑気にそんなことを言うキン肉マンだが、すぐに真面目な顔になる。
それも当然だろう。何故ならここは、他の場所と同様に人っ子一人いなかった。
信号機は点滅をしたまま止まらず、車も走ってこないこの街に喧騒等というものは無く、ただただ空虚な静寂に包まれている。
「…またここに来るとは思わなかった」
彼は内心そう思いながら、目の前に広がる光景を見る。
彼にとって最も忌まわしき事件の舞台でもあり、同時に叛逆の意志を覚醒させた全ての始まりの場所でもあった。
そんなジョーカーの、雨宮蓮の思い出の街が、今再び混沌に飲まれていたのだ。
それはまるで、神を名乗る傲慢な彼の者が顕現した"あの日"を再現したかのように。
「……」
ジョーカーは無言のまま、周りを見渡す。
周囲を行き交う人影はただの一つも無く、異形の存在が点在するのみ…否、たった一人、見覚えのある金髪顔を見つける。
「あいつは…!」
その者は怪盗団結成の初期メンバーであり、同時に掛け替えのない親友(ダチ)でもあった者。
「竜司…!オーイ竜司!」
コードネーム『スカル』、坂本竜司。
「え、俺?ってジョーカー!?」
彼は声を掛けられて、ようやく此方に気付いたようだった。

「いや~、朝起きたら誰も居なくてよぉ!スマホも繋がんねぇし、ジョーカー達が居てくれて助かったぜ!」
渋谷にて佇む竜司の姿を見つけたジョーカー達は、一先ず空いた店、というよりバイト等で通っていた牛丼屋にて、彼に事情を聞くことにした。
どうやら渋谷がこの世界に来てから、彼ら以外の人間には出会えなかったらしい。
通話が繋がらないのも、ここが認知世界であり、電波等が届かないのもあるだろう。
しかしそれ以上に、現実世界ではもう二度と無いと思った再開が嬉しいらしく、竜司はいつも以上に上機嫌であった。
なお、悪魔将軍とミラージュマンは組んで店の壁に佇んでいる。
悪魔将軍の鋭い眼光に気付いたら最後、飯など喉を通らない事は間違いないだろう。
最も、旧友との仲を深めるという事に何か思うところがあるようで、邪魔する様子は無いが。
「いやぁ~、ホントお前らと会えて良かったわ!メッチャクチャ嬉しかったぜ?」
「まぁ、こっちも似たような感じだしな…」
見知った街が異形と化した光景を見るという事は、それだけで心に来るという物なのだ
まして宝石の如き思い出の詰まった街ならば尚更だった。
それを竜司は一人彷徨ったのだ、その心象は察して計るべしものだろう…
と、誰もが最初は思っていたのだが。
「竜司、こんな状況でよくそんなに食べられるな?」
モナが愚痴を零す様に問いかける。
「おう!腹が減ってたら力が出ねぇからな!」
「いやそういう事じゃ無くてな…何ていうか、メンタル的な話だよ。」
「しょれひょはりゃろわれるらろ?(それと腹とは別だろ?)」
「心臓に毛でも生えてんのか!?ていうか食いながら喋んな!!」
腹が減っては何とやらか、竜司は特に気にした様子も無く牛丼に被りついている。
「ガツガツガツガツガツガツガツ…」
「もう、大王様ったら結局牛丼を…ってこっちの方が多い!?」
ちゃっかり牛丼に在りついたキン肉マンが食べているのは大盛りであるが、竜司に至っては特盛りの汁ダク紅ショウガマシマシである。
その光景にジョーカー達の方が唖然とするばかりだが、この混沌とした状況下でこれだけ平常心を保てるというのは、ある意味凄い事ではあるのだろう。
それにしても、あの竜司が"これほどの状況で平常心を保つ"というのも妙だが、そもそも、彼は元々こういう性格なのだろう。
思えば初めての出会いの日も、竜司の方からコミュニケーションを取っていた。
口調に似合わず社交性が高く、加えてこういう異常事態に何度も遭遇してきたことを考えれば、ある意味では当然なのかもしれない。
「君には、こんな仲間がいるんだな。」
「あぁ、最高の親友(ダチ)だ。」
「少し、羨ましく感じるよ。」
ゲイルそう微笑ましく言った時だった。
特盛り牛丼を半分ほど食い終え、水を飲んだ竜司が口を開く。
「ぷはっ…ところでジョーカー、これからどうするんだ?」
「そうだな、このまま聖なる完璧の山に向かうつもりだったが…」
ジョーカーがモナに目配せすると、その意図を読み取ったモナが語る。
「あぁ、ここが巻き込まれてるってなら話は別だ。心の怪盗団、再集結といこうぜ!」
その言葉に、竜司は目を輝かせる。
かつて共に戦った仲間が、また一緒に戦ってくれるというのだ。
「よっしゃあ!お前らと一緒なら心強いぜ!」
竜司にとってこれ以上に嬉しいことは無い。
「そういえば竜司、あの化け物だらけの中で無事だったもんな!」
だが、そんな喜びも束の間だった。
「…化け物?そんなもん見かけなかったぞ?」
「…えっ?」
すっとぼけた様な顔で言う竜司に、呆気に取られるジョーカー達。
数えるほどとは言え、異形の者の影はまばらに存在していたはずである。
「いやいやいや、ちょっとは見かけただろ!?ビルや空が変化してて気付かなかったのか!?」
それをただの一体も見かけてない等と、そんな事を言う竜司に突っ込むモナ。
「ビル?空?…人はいねぇし遠くの景色は違うけど、街自体はいつも通りだろ?」
そんな筈は無い、異形のツタが蔓延るビルに赤と金色の縞模様の空等、いつも通りではない。
認識が、ズレている。
そう確信した時、明智が呟く。
「ジョーカー、気付いてるね?」
「あぁ…」
2人の呟きを余所に、モナがある違和感に気付く。
「何で、制服の下に体操服着てんだ?」
そう、学生服こそ着てるものの、胸元から見えるのはいつものパツ金シャツでは無く、何故か学校指定のジャージ姿だったのだ。
「えっ、何でって、俺陸上部で…」
その姿に何気ない違和感を覚えたモナの指摘、それが事態を急変させる。
「あれ、何かおかしくね…?」
大事な何かを忘れていた様に、頭を抱えて眉間に皴を寄せる竜司。
「いや、俺は去年から陸上頑張ってた筈…」
「…竜司。」
記憶の奥に仕舞い込んだ何かが脳を締め付ける、そんな感覚に捕らわれた竜司の様子を見て、ジョーカーがすかさず指摘する。
彼と真実の、認識のズレを。
「陸上部は廃部になったって、自分で言ってただろ?」
「っ!」
その瞬間、彼の眼に映る光景に罅が入った。

16人目

「最後のピース」

「お疲れ様です、我が王よ」
「あぁ……」
特異点から帰還し王の間へと戻ってきたクォーツァーの王をウォズが迎える。
「それで我が王よ、例の聖杯とやらは手に入ったのですか?」
「いや……残念なことに聖杯は使われてしまった……どうやら俺やレナード以外にも同じような願いを持つ者がいたようだ……」
(一人はあの聖杯の所有者である竜王だろうが……他にもいてもおかしくはない……)
クォーツァーの王が聖杯を狙った理由は2つ、1つはクォーツァーとアマルガム、どちらの計画も失敗してしまったときの最終手段。
もう一つは自分達だけ対処できないほどの障害が出撃したときの保険だ。
しかしその聖杯はクォーツァーの王とレナード、そして竜王と武道という似た願いをもつ者達に共鳴してしまい、その結果特異点の固定という現象が起こったのだ。
しかし、クォーツァーの王にとってこの特異点の固定化は想定外の事態にして不都合な出来事だった。自分達が手に入れるはずだった聖杯を特異点の固定化という望んでもない現象を起こすのに使われてしまったからである。
「あれを手に入れることができなかったのは残念だが、アマルガムの計画に必要な千鳥かなめは手に入った」
「そうですか。それならあとは我々の方の計画に必要な最後のピース……グランドジオウウォッチもとい常磐ソウゴの確保さえ完了すれば、双方の計画、どちらも実行可能になりますね」
「……そういえば、お前が言ってたあの案はどうなった?」
「あぁ、タイムパトロールもといZ戦士達への対抗手段として別の時代のドラゴンワールドから強力な戦士をスカウトする案ですね、そのことなら順調に進んでおります」
そう言いウォズは大きなモニターを表示させる。
「既にこちらの3人のスカウトに成功しており、今後は他の候補につきましても、順次交渉を行う予定です」
「ほう……中々いいじゃないか…!」
「ありがとうございます」
「・・・」
「……どうなさいましたか?我が王よ……」
「いや……さっきレナードから1つ気がかりな情報を聞いてな」
「気がかりな情報とは?」
「あぁ……なにやら聖杯の持ち主……竜王と一緒にガイコツのような模様の全身が黒い者たちがいたらしい……それも、掛け声が『イー』のな……」
「ガイコツのような模様……全身が黒い……掛け声が『イー』……っ!まさか…!?」
「あぁ……恐らくはあの組織の戦闘員どもだろう……」
「それがその竜王とやらと一緒にいたということは……」
「あぁ……この世界…いや、全ての世界において仮面ライダーの歴史が誕生することになった全ての元凶であるやつらが、竜王と手を組んでる可能性があるということだ」
「やつらが竜王と……」
「……はっきり言って俺はやつらが憎い、やつらが仮面ライダーという存在を生み出したせいで、クウガから始まる20年にもわたる平成ライダーの歴史が誕生し、そしてそれによりただでさえ他の歴史と比べて凸凹で醜かった平成という30年の歴史がより凸凹にそしてより醜くなってしまったのだからな……そのやつらが聖杯が使われあの特異点が固定化した原因の一つである竜王と本当に手を組んでるというのなら……」
「我が王……」
「……まぁよい、どのみちあの特異点は他の世界をどんどん取り込んでる以上、計画が成功してこの世界の歴史が綺麗に塗装されたとしても、特異点に取り込まれて再び醜くなってしまう恐れがあるからな……あの特異点はいつか消さないといけないと考えてたところだ。やつらはその時に一緒に消し去るとしよう…!」
「そうですか……それでは我が王、このあとはどうします?」
「あぁ、もちろんCROSSHEROESへの攻撃だ。
これ以上邪魔が入ったり障害が増えたりする前に最後のピースを手に入れて、我々の計画を実行に移すぞ」
「……わかりました、我が王よ……」

17人目

「認知歪めし混沌の招き手(中編)」

決定的な一言を言われた、瞬間、竜司の脳内にて、何かがカチリと音を立てて嵌まった。
同時に、彼の表情から血の気が引いていく。
それは、彼が最も恐れていた何かを思い出すように。
席を立った竜司の身体が震え始め、抱え込んだ頭を抑え込む。
その様子を隣で見ていたキン肉マンが慌てて後ずさる。
「ななな、なんじゃあ!?」
「そうだ…俺は鴨志田の野郎に、足と部活をやられて…!」
事実を確認する様に、竜司は呟く。
その声は恐怖に染まっており、その瞳には涙すら浮かんでいる。
その様子に、他の者達は思わず息を呑む。
彼でもここまで追い詰められるのかと。
「でも、じゃあこの記憶は…!?」
何もかもが分からなくなって、テーブルに頭を打ち付けそうになり…
「…ミラージュマン!」
「ゴバーッ!!『カレイドスコープドリラー』-ッ!!!」
今まで黙止していた悪魔将軍の掛け声と共に、ミラージュマンの左腕が、寸分違わず竜司の"影"を貫く。
回転するドリルと化した手は"影の中の何か"を捉え、抉る様に引き吊り出す。
「がぁっ!!」
「竜司!?」
"ソレ"が引き抜かれた瞬間、全ての苦痛を吐き出した竜司が倒れ込み、モナが支える。
「あっ…つぅー…」
一先ず命に別条が無いようだと、安心は出来なかった
「…違和感の正体はコイツか。」
『カレイドスコープドリラー』によって胴を穿たれながらも生きているソレは、まさに異形そのもの。
形容しがたいおぞましき腕、いや触手と言うべきものが5対。
それを菱型の頭や体から前後左右に生やした怪物の姿。
節々に黄金色の光を放ち、全身から黒ずくめを泥を流すソレは、恐らくシャドウだろう。
だが問題はそこでは無い。
「坂本竜司の『認知が歪んでいた』のは『コイツに取り憑かれていた』せいか!」
竜司の異変の原因となった存在、それが目の前にいると理解している。
ならば、これは『誰の差し金』なのか?
聞きださなければならない、元凶を。
『主の慈悲を拒む、愚か者共ぉ!!!』
怒号にも似た叫びが響くと同時に、異形の化け物が脈動する。
憤怒、怨念、そして憎悪を乗せて伸び行く5本の黒い触手が、心の怪盗団へと襲いかかる。
「来るぞ!」
「ちぃっ!させっかよ!」
だが、しかし修羅場を潜り抜けてきた者は伊達ではない。
いち早く反応したのはモナ、迫り来る脅威に対してペルソナ『ゾロ』の鋭い剣撃で以て対抗。
変幻自在、それがどうした。
伸縮自在ながらも頑丈であろう触手と火花散らし、いなし、一撃、また一撃と傷を負わせていく。
「どぉりゃあっ!!」
暴虐の嵐を操る神技の連撃が、さっそく一本の触手を切り刻む。
見た目に似合わず苦痛を覚えたのか、苦悶の声を上げる捻じれた深淵。
「行け、ジョーカー!」
すかさず反転攻勢へと入ったジョーカーが駆け出し、その勢いのままに放たれる渾身の蹴り。
それは異形の腕の一つをへし折りながら吹き飛ばし、更にもう1本も巻き込んで壁に叩きつけた。
否、本体諸共叩きつけられまいと、1本は自ら千切りとったようだ。
そのまま壁を突き破り、瓦礫と化す廃ビルの中へと消えていく異形へと、間髪入れずにジョーカーは跳躍、空中で体勢を整えつつ、追撃の銃弾を浴びせる。
それは的確に異形の身体を撃ち抜き、血飛沫と悲鳴を上げさせる。
その痛みに怒り狂う様に、残る4つの腕がジョーカーの身体を貫かんとする。
だが、それを待っていたのだ。
振り下ろされる寸前で身を翻した彼は、既にそこにはいない。
そして次の瞬間、異形の頭上に現れた彼は銃口を向け、トリガーを引く。
銃声と共に撃ち出された弾丸は、正確に異形の額にある目を貫き、その動きを止める。
無論、それで終わろう筈も無く、続けざまに二度三度と引き金を引かれる。
その度に放たれるのは、必殺の威力を持つ大罪の洗礼弾。
頭部に3発、胴体に3発の計6発を喰らえば、いかにシャドウと言えども無事では済まない。
ただの一度も攻勢に乗り切れなかったその肢体は満身創痍と言った風貌に変わり果てており…
_あぁ、それだけか?と言わんばかりに、瞬きする間もなく肉片を増殖させ再生する様を見せつけてくる。
眼前で平然と行われる理不尽に、そんな事は想定内だと、むしろ、この程度のダメージで倒れるなら拍子抜けも良い所だと、口角を吊り上げる。
それを見た異形は、果たして何を悟ったのか、先程とは打って変わり、攻撃の手を止め、防御に徹する構えを見せる。
直後、突き抜ける黒い剣撃の閃光が、構えられた6層の触手を防壁を貫き、そこで止められる。
「チィィ!!ザコが、小賢しいんだよぉ!!!」
苛立ちを隠せないクロウが叫ぶと同時に、今度はゲイルが疾駆する。
まるで矢のように一直線に駆けた彼は、宙を舞い、既に異形の背中側へと回り込んでいた。
「『アギダイン』!」
そして彼の放つ灼熱の息吹は、先程の閃光と同じく、触手を全て滅さんとする。
だが、それでも尚、異形は倒れない。
燃え盛る腕を尚生やし続けて反撃に転じようとするが、それより先に、異質な何かが異形の頭を鷲掴みにする。
それは、異形の頭上から忍び寄っていたミラージュマン。
彼の手が頭を掴んだまま持ち上げると、力任せに投げ飛ばし、ガラスを突き破り店外へと投げ出される。
投げ飛ばされた異形が立ち上がり振り向けば、そこにはギラギラと燃ゆる己の姿を現す鏡。
「ゴバッゴバッ!厄介な再生も…」
能力によって生み出された『本性の鏡』、そこに写る虚像の異形へ向けて、宣告と共に撃ち込まれるドリル。
「終焉の時よーっ!!!『姿鏡体殺封じ』-っ!!!」
直後、異形に怒る異変。
鏡に走る罅と共に、虚像の箇所と同じ四肢もまたはち切れんばかりに膨れ上がり、内から弾けんとしていた。
異形の体の再生力は『姿鏡体殺封じ』によって、鏡映しにその力を穿たれたのだ。
_ア”ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!
それはまさしく、異形の者に相応しき断末魔。
醜くも恐ろしい悲鳴にも似た叫びが響き渡る中、異形の身体は徐々に膨張し、今にも爆発せんとしていた。
『ア”ァ”ァ”ァ”…ぉ愚か愚か愚かァ!!!!』
それでも、異形の進撃は止まらない。
残った触手がしなり、眼前のミラージュマンを巻き取り、一瞬の内に四肢の拘束を果たす。
「ゴバッ、それでも動くと言うのか!?」
最早執念と言うべきそれが、ミラージュマンに不覚を取らせる。
更にはその肉体に更なる異形へと変貌を与えてゆき、その身に纏う鎧のような触手が、次第に鋭利な刃となってゆく。
更には、触手は肥大化した手足に収まり切らず、溢れ出し、自身の全身に巻き付いていく。
もはや、それは人の形をした巨大な丸ノコ。
四肢を封じられて尚、残る触手を唸らせ、一瞬の思考の隙を突いてミラージュマンへと襲い掛かる。
「不味い、ミラージュマン!」
迫り来る鋭利な刃の螺旋。
それがミラージュマンを切り刻まんとし…
「…させっかよぉ!!」
_横合いから飛び出してきたスカルのスイングが、それをカットした。
「竜司!」
「わりぃ、待たせちまったな!」
そして間髪入れずに繰り出された蹴りが、異形の腹にめり込み、吹き飛ばした。
ジョーカーはその様子に満足気に鼻を鳴らした。
「ナイスタイミングだ。」

18人目

「ラスボス系ライダー対ラスボス系後輩」/「薔薇の皇帝」

 月のムーンセルの虚数空間内に建てられたBBチャンネルのスタジオを舞台に、
カルデア対BBの死闘が繰り広げられる。

「俺は女だからと言って容赦はしないぞ」
「きゃあ、野蛮~。そうやって他所の魔法少女にも手を出したんですかぁ?」
「お前……暁美ほむらの事を言っているのか?」
「BBちゃんは何でもお見通しですから♪」

 円環の理と一体化した鹿目まどかによって創造された世界「リ・ワールド」にて、
門矢士と暁美ほむらは出会い、そして一戦を交えた。
ディケイドの目の前にいるBBはそれを知っているらしい。


「お喋りはそこまでだ。俺も暇じゃないんでな。さっさと終わらせるぞ」

【ATTACK RIDE BLAST】

 連射モードに切り替えたブッカーガンのトリガーを連続で引き、弾丸を乱射する。
だがBBは教鞭「支配の錫杖」から放たれるビームを新体操のリボンのように
ひらひらと頭上で旋回させ、自らを守護するバリアのようにして
ディケイドの銃撃の尽くを弾き落としてしまう。

「そんな攻撃でBBちゃんに勝てると思ってるんですか? 
あなたって自意識過剰さんなんですねぇ」
「小賢しい真似を……!」

「はーい、お返しです♡」

 支配の錫杖でハートを形作りながら振り下ろすと、その先端からピンク色に輝く光線が
発射される。

「サクラビーム!」
「チッ……!!」

 光の奔流を側転で回避すると、地面が爆発してクレーターが出来上がる。
威力だけならサーヴァントの宝具にも匹敵するだろう。

「うふふっ! どうです?」
「ふざけた奴だが腕だけは確かなようだな……」

「あら? 褒められちゃいましたぁ?」
「そろそろ本気で行くぞ」

 ディケイドはライドブッカーを取り出し、ライダーカードを素早く装填していく。

【KAMEN RIDE W!】

 電子音声と共に装甲が形成されていき、それぞれ緑と黒の半身を持つ
仮面ライダーWサイクロンジョーカーへと変身を遂げた。
風に靡く銀色のマフラー。赤の複眼とWを象ったアンテナ。

「さあ、お前の罪を数えろ!」
「BBちゃんの罪? うーん……可愛すぎる事ですかね☆」

「言っていろ……!」
「はーい♪」

 軽快なステップを踏みながらディケイドへ肉迫し、教鞭を振るう。
対するDCDWは鋭い一撃を回避しながら応戦、反撃の機会を窺っていた。
お互いに決定打を与えられないままに熾烈な攻防が続く。

 一方で、BBが生み出したタコ型モンスター「シェイプシフター」の群れが
立香とマシュを取り囲んでいた。

「くっ……! 数が多いです……!」
「出来るかどうか分からないけど……いちかばちか!
――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ 汝、星見の言霊を纏う七天
降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ―――!」

 この状況下で、果たしてカルデアのサーヴァント達を召喚する事が可能なのか。
不安に駆られた立香だったが、その心配は無用だった。
何故ならば既に、彼らは彼女の呼びかけに応えていたからだ。

「――余を呼んだか、マスター!」

 シェイプシフターの触手を瞬く間に切り落とす真紅の騎士。
セイバー、ネロ・クラウディウス。古代ローマにおいてローマ帝国の第五代皇帝を務めた
少女である。

「ネロ陛下!」

 マシュの声を聞き、笑顔を浮かべる彼女であったが、すぐに表情を引き締める。

「むぅんッ!!!」

 彼女が自ら鍛え上げたと言う紅蓮の剣、原初の火(アエストゥス・エストゥス)の一閃に
よって、周囲のシェイプシフター達は一掃された。

「あらぁ? これはこれは……皇帝さまじゃないですかぁ」

 BBの言葉には隠しきれない憎悪が込められている。
それはそうだろう。彼女はかつて、自身の計画を台無しにした張本人なのだから。

「また会ったな、女狐め! 今度こそ息の根を止めてくれるわ!」
「まあまあ、そんなに怒らないでくださいよぉ。せっかくの可愛いお顔が台無しですよ?」

 ネロは歯ぎしりをしながら剣を構え、対するBBも教鞭を構える。
緊迫した空気の中、二人は同時に動いた。
先手を取ったのはBB。鞭のように振るわれた教鞭の一撃をネロは跳躍で回避する。
空中で身体を回転させ、着地と同時に剣を振り下ろす。
しかし、それも空を切る。いつの間にかBBの姿は消えており、
気配を感じてすぐさま振り返るとそこには、教鞭をくるりと回しているBBがいた。

「うふっ♡」
「ぬぅッ!?」

「えーい!」

 咄嵯に剣で防御するも、衝撃を殺しきれずに大きく吹き飛ばされてしまう。

「むううッ……! まだまだ!」

 地面に転がりながらも即座に立ち上がり、再び構えを取る。

「ほらほら、もっと頑張ってくださいね~」
「貴様ァ!」

「お遊びはここまでです。そろそろ本気でいきますから……覚悟してください」

 BBの瞳が妖しく輝くと、今度はネロの足元から無数の黒い手が這い出してきた。

「何だと……おのれぇ!」

 次々と現れる手に捕まり、その身動きを封じられてしまう。

「くッ……! 離せッ!」
「無駄な抵抗は止めて大人しくしてくださーい。痛い思いはしたくありませんよね?」

「ふんッ!! この程度で余を縛れると思うなッ!!」

 ネロが原初の火を一振りすると、そこから発生した突風により拘束していた手を
弾き飛ばす。

「……っ! やりましたねぇ」

 自由を取り戻したネロは剣を地面に突き立て、不敵に微笑んだ。

「ふふふ、余を甘く見るでないぞ。
このような児戯、余にとっては準備運動にもならぬわ!」
「へえ?言うじゃないですかぁ。じゃあこれはどうです?」

 BBが再び教鞭を振るうと、今度は地面の下から巨大な影が現れた。
新たなシェイプシフターが増殖し、ネロに向かって一斉に襲いかかってくる。

「くッ……! 小賢しい真似ばかりしおって!!」

 ネロは舌打ちしながらも冷静に対応し、一体ずつ確実に倒していく。
だが、その度にまた新たに増えていき、きりがない。

【FORM RIDE 555 ACCEL】

「付き合ってやるぜ、10秒間だけな!」

【START UP】

 仮面ライダー555・アクセルフォームに変身したディケイドは、
超高速移動を駆使してシェイプシフターを次々と撃破していった。
胸部装甲「フルメタルラング」を展開させ、フォトンストリームが出力上昇する事によって赤色から銀色の粒子へと変色するシルバーストリームを発生させる。

 通常時の実に1000倍にも達する超高速移動が可能となるが、長時間の使用は
変身者の肉体にも深刻な影響を及ぼす諸刃の剣でもある。

【TIME OUT】【RE-FORMATION】

 そして再びディケイドの姿に戻る。

「貴様はカルデアにいた男か……なかなかやるではないか!」
「お前もな」

「皇帝たる余を『お前』呼ばわりとは、なかなかに肝の据わった奴と見える」
「悪いが、そう言う性分だ」

 ディケイドとネロ。互いに背中合わせになりながら言葉を交わす二人。

19人目

「認知歪めし深淵の招き手(後編)」

「切り込み隊長として、遅れた分は取り戻すぜ!『キッド』ォ!」
微睡からの覚醒を果たした男が今、変貌を果たす。
学校指定の衣服は跡形も無く、あるのはチェーンの付いたライダースーツ。
髑髏の意匠をあしらった鉄仮面を脱ぎ捨て、そこに現れたるは稀代の大海賊『キャプテン・キッド』。
怪盗団の切り込み隊長『スカル』は、ここに復活を果たしたのだった。
_オオオオッッ!!
雄叫びを上げるスカルを背に、ジョーカー達は走り出す。
「おい、スカル!」
「あぁ?何だよ?」
「お前、随分派手にやってくれたじゃねぇか。」
「ハハッ!良いだろ、別に!」
そう言って笑うスカルに、全くと呆れつつも笑うモナが異形へ視線を向ける。
今はもう、その巨体は見る影も無い。
今やそこにあるのは、歪んだ球体の塊。
しかし、それでも尚、異形は立ち上がっていた。
既に意識は無く、ただ本能のみで動いている状態だろう。
それでも、まだ、戦い続ける意思を見せる。
__終わらせよう、誰がそう言うでもなく、意志は決まり切っていた。
異形を囲み、一斉に構えを取る。
「行くぞ……!総攻撃!!」
号令と共に放たれる攻撃の数々。
炎が舞い、風が吹き抜け、雷光が煌めき、氷雪が降り注ぐ。
異形はそれを受けながらも触手を伸ばし、反撃を試みる。
だが、無駄な抵抗だった。
「『アギダイン』!」
悪魔の放つ灼熱が。
「『エイガオン』!」
大怪盗の放つ呪怨が。
「『ガルダイン』!」
剣豪の放つ真空の刃が。
「『ジオダイン』!!」
そして大海賊の放つ雷撃が、焼き切り、腐り落とし、斬り裂き、全ての手を穿った。
それはまさしく、異形の最期を告げるもの。
最早再生する気配も見せず、異形の者は力無く項垂れているそれを見て、拳を握り締めるスカルの表情には、確かな怒りがあった。
「テメェだけは、絶対に許さねえ…」
『……』
異形の者は何も答えない。
ただ静かに、己の運命を受け入れているようにも見えた。
「その空かした態度も、俺を歪めた事も…」
それすらも怒りの闘志の火種とし、一歩ずつ近付くスカル。
その歩みに迷いは無い、真っ直ぐに見据えて、異形の者の元まで辿り着く。
「お、おい竜司!殺したら…」
「何より。」
そうして振り上げた鉄パイプを手に、脳天目掛けたとどめの一撃を構えたスカル。
それが今、怒号と共に振り下ろされ…
「仲間達に手を出しやがった事が、ぜってぇ…!」
「そこまでだ。」
渾身の一撃は、悪魔将軍の手によって止められた。
鉄パイプを掴む腕が震え、血の登ったスカルの顔色が青ざめていく。
その眼前には、悪魔将軍の鋭い瞳が迫っていた。
「殺しきっては何も聞けん。後は、私に任せろ」
「…うっす。」
その声には、少し寂しさが残っていた。
スカルが下がると同時に、悪魔将軍が前に出る。
その光景を見て、抱いたのは畏怖の念か、あるいは渇望か、今一度足掻く様に異形の者が逃げ出さんと這いずり出す。
「逃がさん。」
だが、天下御免の悪魔将軍がくたばり損ないの1人なぞ、逃す通りは何処にもない。
即座に仕掛けられるダブルアームロック、そこから回転、飛翔。
そうして此度の戦いは。
「地獄の急所封じ、その9…!」
罪人を断罪するギロチンと共に。
「地獄の断頭台!」
幕を下ろしたのだった。

終わってしまえば呆気無かった一方的な戦闘の後で、手を鳴らしながら異形の者の拘束を終えたジョーカー達が改めて問いただす。
「貴様の主とは誰だ?」
『……』
その問いかけに、答える様子は見られない。
ただ虚ろな顔を彷徨わせるばかりである、そんな反応にスカルは舌打ちする。
「黙ってねぇで何とか言ったらどうだ!?」
スカルが異形の者を蹴り上げるも、やはり無言のまま、まるで喋る事を忘れてしまったかのように、ただ沈黙を貫く。
そんな光景に、モナは呆れたようなため息を吐いて、今度はジョーカーが話しかける。
「お前の主は誰だ?」
彼の質問は、先程と同じ内容だ。
しかしそれでも尚、異形は口を割らない。
この頑ななまでの態度に、流石におかしいと感じたモナが、ひっそりと口を挟む。
「(妙だな、主のあるシャドウなら本人の欲望によって生み出された筈…主の名を聞かれたら喜んで喋る筈だぜ?)」
「(あぁ、今までに無いタイプだ。)」
「(オイ、どうするよコイツ?)」
だがその疑問の答えが分かる訳も無く、途方に暮れ始めた時だった。
_ザザッ、ガー…キィン…
「っ!?」
街の広告サイレンの一つから、唐突に流れ出したノイズ音。
それと同時に異形の者もビクリとその身を震わせ、虚ろであった顔が、次第に何かを思い出したように歪み始める。
救いの光を見出したかのように、内から現れた黒顔に浮かぶ白い双眼は嗤っていた。
「な、何だぁ!?」
やがて溶けて崩れ落ちていく異形の中から、科学者の様な白衣を纏ったシャドウが現れた。
その顔には、とぐろ模様の仮面。
「(アイツは…)」
その余りにも不気味な姿にスカル達は一瞬呆気に取られるが、すぐに我に返り再度捕えようとする。
だが一瞬遅かったか、シャドウは自らの影へと溶ける様に消えてしまった。
「チィッ!」
_ドンッ
「くそ、逃げられた!」
後には何も残っていなかった。
この事態の唯一の手掛かりが消え、スカルが壁を叩く程の焦燥に駆られるのは、当然と言えるだろう。
しかし、ジョーカーただ1人は冷静だった。
「…いや、手掛かりはある。」
「本当かジョーカー!?」
そう、あの白衣のシャドウには心当たりがあったのだ。
失った手掛かりの在り処に喜ぶ二人を余所に、ジョーカーは広告サイレンへと問いかける。
「聞こえているな?お台場のパレスの主。」
『…あぁ、聞こえているとも。』
帰ってきたのはノイズの掛かった男の声、そしてそれに次いで別の声が響く。
壮年の男性の声色にも聞こえるそれは、何故か懐かしさを思わせた。
恐らく、この男こそが今回の事件の黒幕だ。
ならば次に聞かねばならないのは一つ。
そう思い、口を開いて。
『「何が目的」か、だろう?』
「…!」
ノイズ交じりの声が、ジョーカーの言葉に被せられる。
図星だった故に、悪寒が走る感覚を覚えて、仮面の下で薄っすらと驚嘆の声を漏らす。
そんな心境を知ってか知らずか、語りを続ける男。
『君達の為、と言ったら?』
「本気か?」
ふざけた言葉に、思わず仮面の中で眉根を寄せながら、ジョーカーは質問を重ねる。
今度は相手の真意を確かめるために。
『あぁ、本気だとも』
その答えはすぐに返ってくる。
何処までも感情のこもっていない様な、しかし何かを秘めた声で。
「あれが救いか?」
『あれこそ君達が本来望んだ未来、得られた筈の幸福だよ。』
「ふざっけんじゃねぇ!!」
怒号が、スカルの叫びが響き渡る。
「あぁ確かに望んださ、こんな未来があればなんてよ!」
だが、と続けてスカルは吠える。
「それでも今選んだ生き方が俺の一番の幸せなんだよ!テメェが勝手に決めつけるな!」
『そう、か。』
果たして、何に対する納得だったのか。
『それなら、聖なる完璧の山で待っているよ…今ならまだ引き返せる。』
男はそう言い残し、それから声が聞こえなくなった。

20人目

「あの辺りか」

アジャンダ石窟群。
19世紀に発見された古代の仏教寺院石窟である。
世界遺産に認定されており観光名所でもある場所なのだが数週間前より石窟の中が以前とは違う空間になっている、化け物が現れると言われ封鎖されている。
地球全土で異変が起こっている今となっては調査隊の派遣もままならなかったところにテッサを通してアレクとローラの探索許可の依頼が届き、現地の管理者は大喜びで許可を出しついでに化け物の討伐も可能ならばと頼んできたのだった。

「大丈夫ですかローラ」

アレクは先程大いなる者が世界に現れた気配を感じてより顔色の悪いローラに「冒険者の袋」より竹の水筒を取り出し渡した。

旅人の袋とはかつて大魔王を倒した勇者がラダトーム王国に残していった秘宝の一つである。
見た目は成人男性が担げる程度の大きさのただの布袋なのだが、袋の口に入る大きさのものならなんでもいくらでも入り、取り出す時は出したいものを頭に浮かべるだけでそれが出てくる上に重さも感じないという旅を著しく便利にするものだ。

竜王を倒し旅立つ二人に餞別としてラダトーム王から授けられたものだが、アレクは旅の中の携帯する物のやりくりに困った経験から最初にそれをくれていればという思いを抱いた。

「大丈夫です。魔物の気配がありますが……」
「はい。我々の世界の魔物とは少し違うものを感じますね……ローラはここでお待ちを」

そう言うとアレクは身をかがめ、足音を殺して石窟の中の一つに歩き出した。


石窟の中には多くのモンスターが蠢いていた。
アレフガルドに存在したドロルやおおさそり、がいこつといった系統のモンスター以外にもアレクの知らないモンスター……スダドアカワールドのモンスターも数種類存在していた。

(知らない魔物もいるな。単に見た事がないだけの魔物かもしれないが……)

実際にラダトームから旅立ってから未知のモンスターと出会った経験は少なくない。

(やはりどこか異質な雰囲気がある。この世界か、あるいは俺の世界とはまた別の異世界からモンスターか?)


アレクは思案しながらもモンスターの数と姿態を目にし、戦術を練っていた。
強い魔物はいないように見えるが数はいる。戦いが広がり後方のローラに危険が及ぶのは避けたい。ならば。

(久々にあの手段でいくか)

アレクは手近な小石を広い、石窟の入り口近くに投げた。
最初の一つが落ちた音は気付いた魔物も特に気にはしなかったが続いて二つ、三つと投げれば骸骨の内の一体が何事かと石窟の外に歩き出した。それを確認したアレクも身をかがめ移動する。

石窟の外に出て辺りを見回す骸骨の死角に俊敏に回り込み、何もないのを確認して石窟内に戻ろうとしたところで一気に近付いて後ろからロトの剣を抜き、骸骨を腰から横に一刀両断した。

骸骨は何が起きたかを理解しないまま魔物ではないただの人骨となった。
アレクはその骸骨の頭蓋骨部分を掴み、石窟の中に投げこんだ。

小石を投げた音程度は気にしなかった魔物達もこれには興奮した様子で各々石窟の中から外へ向かった。

アレクは素早く石窟の中に入り込み、移動速度が遅くまだ石窟内にいたドロル系統達を見ると瞬間的に魔力を練り上げる。

「ベギラマ!」

ドロルの群れは閃光の中に一掃され、放たれる異臭と呪文の叫びに反応し敵は石窟内にいると気付き振り返った魔物の中の最も素早そうな魔物……キラーズゴックに狙いを定め、ロトの剣を投擲しその特徴的な単眼に突き刺した。
倒れるキラーズゴックに目もくれず走り出したアレクはおおさそりに向けて走り、自分めがけて突きだされたおおさそりの尻尾を両腕で掴み、突きだされた勢いを殺さずそのまま力の行き先を誘導しておおさそり自身の脳天に突き立てる。

キラーズゴックの死体からロトの剣を抜いたアレクは残った一体のモンスターに向き直る。
大柄なアレクよりも更に頭一つ大きく茶色い巨体に大きな頭の中央に複眼構造の大きな単眼、両腕に指はなく触手を垂らした異形の魔物……ワームアッグガイだ。

ワームアッグガイはアレクの攻撃の予備動作の小さな動き一つにも機敏に反応し、腕の触手を鞭のようにしならせて牽制し中々攻撃のタイミングを作らせない。

(妙な眼の通りに目がいい奴か。ならば)

「レミーラ!」

アレクの叫びと共に周囲は強烈な閃光が広がる。
瞼のないワームアッグガイはその強烈な閃光をモロに受けて眼が眩み一瞬ではあるが怯む。
アレクにはその一瞬で十分だった。
ワームアッグガイは一瞬で両腕の触手を切り落とされた上に顎の下からロトの剣を突き刺されて脳天まで貫通された後、今度は下方向に剣を動かされ胴も縦に切り裂かれて絶命した。

レミーラは本来はたいまつ等の照明がなければ暗闇により何も見えない場所を照らす光を発生させる冒険者の呪文であり戦闘用の呪文ではない。

しかしアレクはこれを目眩ましの呪文として動くものへの反応が早いリカントなど相手に活用していた。

かつての性格柄パーティーを組む人間が見つからず竜王軍相手に単身戦っていたアレクはこのように相手が単独の時を狙ったり単独になる機会を作る・奇襲や後方から襲い掛かる・戦闘用でない呪文や武器でないもので戦う等のゲリラ的な戦術を得意としていた。

竜王の城に入る頃にはそのような戦術が通用する相手がいなくなり状況を作り出せる環境でもなくなっていったでこの頃からアレクは正面からの戦闘技術をメインに磨き出したのだった。

アレクはローラの元に戻り、二人で調査を再開しようとしたがその時ロトの剣が一際大きく反応しだした。

「これは、向こうから近付いて来ている?」
「秘宝が向こうから近付いてくるなんて…?」

その時二人は一つの人影を見た。

その手に持たれた蒼く輝く盾は二人とも初めて見るものだったにも関わらずそれが何か瞬時に理解した。

ロトの盾。
ラダトームにも残されていなかった伝説の勇者の持っていた聖なる盾。
それを持っている者とは何者か。

今、勇者は歴史の歪みに直面する。

21人目

「帰還、そして新たなる介入者」



「……うっ……俺はいったい……」
「やっと目を覚ましたか」
「お前達は…?」
「ただの通りすがりの者です」
「彼らは倒れていた君を保護して身体の方の治療までしてくれたのじゃ」
「そうか……感謝する」
「しかしあんた、あんなにボロボロの状態で倒れてたけどよ、何があったんだ?」
「……わかった。今まであったことを全部話そう……」
宗介は今までにあったことを全て話した

「……つまりアンタはそのレナードってやつにボコられたうえに大切な女をさらわれたってことか……」
「あぁ……そうだ」
「なるほど……これからどうするんですか?」
「もちろん今すぐにでも千鳥を助けに行く……と言いたいところだが、恐らくやつらも千鳥も俺が元いた世界にいるだろう」
「こことは別の世界ということか……」
「あぁ、残念なことに俺は時空を超えて移動する手段を持っていない……このままじゃ千鳥を助けに行くどころか元いた世界に帰ることもできない……」
「時空を超えて移動できる手段か……悪いが俺たちにはそんなとんでもねえ代物なんて……」

「だったら僕が送ってやるよ」
「!?誰だ!?」
「っ!お前は…」
そこに現れたのは海東だった。
「知り合いか?」
「あぁ、非武装の人間にも平気で発砲する泥棒兼ストーカーだ」
「とんでもない悪人じゃないですか!?」
「失礼だね君は」
「……で、送ってやるとはどういうことだ?」
「そのまんまの意味さ、僕も士と同じで世界を渡り歩ける力がある。それも士と違って無制限で自由にね。
その力を使って君を元の世界に帰してやろうってことだよ」
「……何故貴様がそのようなことを?」
「なに、大聖杯を狙うライバルは一人でも少ないほうがいいからね」
「大聖杯だと?」
「知らないのかい?聖杯は大と小の2つが存在するんだ。あの時に使われたのは小の方……つまりまだ大の方は残っているってわけさ」
「なるほどな、それでそのような交渉を持ちかけてきたってわけだ」
「そういうこと、なんならそこにいる君たちも一緒に送ってあげるよ。
彼の世界には今、君たちが知っている人物、空条承太郎や騎士ガンダム、アルガス騎士団もいるからね」
「っ!?騎士殿達が!?」
「それに承太郎さんも!?」
「あぁそうだ。どうだい?」
(……俺は千鳥を助けたい……が、やつやこの特異点のことを放っておくわけにはいかない……どうすればいいんだ……)

「……わかった。宗介とか言ったか、アンタは元の世界に行きな」
「っ!いいのか?」
「あぁ、俺達は億泰達を探さねえといけねえし、なによりもこの特異点には俺たちの町もあるからな。だからここは俺らに任せてアンタはさっさとかなめってやつ助けに行ってこい」
「……すまない、感謝する…!」
「アレックスさんも行ってください。お仲間の皆さんに合うためにも」
「仗助殿、康一殿……わかりました!」
「……で、アンタはどうするんだ?」
「……私は超人墓場が崩壊して実体の有る生霊になっただけの死人だ。だからこの特異点から離れることはできないのじゃ」
「そうか……わかった」

「決まったようだね。それじゃあ」
そう言うとディエンドはオーロラを出した。
「入りたまえ、そうすれば君の世界に行けるはずだ」
「わかった」
「承太郎さん達にもよろしく伝えてください」
「了解した」
「皆さんもお気をつけて」
そう言い宗介と騎士アレックスはオーロラの中に入った。

「……行っちゃいましたね」
「だな」
「それじゃあ僕は大聖杯を探しに行く。次に会った時は敵だと思ったほうがいい」
そう言い残し海東はどこかへ消えた。
「……あのよくわからねえやつと大聖杯とやらも放っておくわけにはいかねえが……まずは億泰達を探すか」
「そうだね、さっきの現象のこともあるからね」
「………」
「……どうしましたかボンベさん?」
「……どうやら、とんでもないのがこの特異点に来たようじゃ……」
「なに…!?」
そうドクターボンベの言うとおり、宗介と騎士アレックスがCROSSHEROESのいる世界へ行ったのと同時刻、彼らと入れ違うようにある人物がこの特異点にやってきたのだ。
その人物とは……




『クリストファー・ヴァルゼライド』である。

22人目

「リ・ユニオン・スクエア」/「悪夢のリターンマッチ! ピッコロ対スラッグ」

 CROSS HEROES本体が存在する世界……仮称「リ・ユニオン・スクエア」。

 認識世界で奮闘するジョーカーやキン肉マン。
海東が生成した時空のオーロラにて特異点からリ・ユニオン・スクエアへの進出を
果たした宗介と騎士アレックス。
アレクとローラの前に現れた「ロトの盾」を携えたシルエットは果たして何者か。

 この地球上の至る場所で、今まさに戦いが繰り広げられている。

「………」

 ここはドラゴンワールドの片隅。およそ人が立ち入らない秘境とでも言うべき場所。
その奥にある巨大な滝の麓にひっそりと佇む一軒家に暮らす、
一人の戦士が静かに瞑想をしていた。全身を纏う白いマント。頭部を覆うターバン。
緑色の肌に蛇腹模様の身体を持つ男の名は、ピッコロ。
かつて世を恐怖で支配したピッコロ大魔王の転生体であったが、
悟空とのライバル関係を経て、現在は誇り高きナメック星人の戦士として
平和な暮らしを送っている。

「………」

 意識を集中し、自身が座禅を組む大地を浮かび上がらせるピッコロ。
そのまま宙へ舞い上がり、彼は静かに目を開く。

「何やら地球全体が騒がしい……孫の奴もCROSS HEROESなる連中と
行動を共にしているようだ。俺も動くべきか……」

 ピッコロはリ・ユニオン・スクエア全体で起きている事象を千里眼にも似た超感覚で
察知する。だが、そんな彼にも刺客が迫っていた。

「むっ……!?」

 ピッコロに向けて虚空より放たれるエネルギー弾。

「つああああああッ!!」

 素早く立ち上がり、渾身の手刀でエネルギー弾を弾き飛ばすピッコロ。
放物線を描きながら地面に落下したエネルギー弾は爆散し、跡形も無く消滅する。
ピッコロの集中が途切れ、浮かび上がっていた地面も元の位置に落着した。

「誰だ……!?」

 周囲を警戒しながら身構えるピッコロ。
すると彼の目の前には、一人の男が姿を現す。
黒いローブに身を包み、顔まですっぽりと覆った怪しい風貌の男だった。

「ふはははははは、やるではないか……流石だぞ!」
「この声……それに、この気……ま、まさか……!?」

「おうさ、貴様の予想通りよ!!」

 男がフードを取り払うと、そこに現れたのは……

「貴様は……スラッグ!?」

 それはかつて、孫悟空によって倒されたはずの純粋悪のナメック星人、
スラッグであった。

「奴は確かに孫の奴が元気玉で仕留めたはずだ……何故貴様がここにいる? 
まさか……ドラゴンボールの力で蘇りでもしたというのか?」
「ふん、それを貴様が知る必要はない」

 スラッグは不敵に笑いながら答えた。

「俺はただ、再びお前を倒すためにやって来ただけだ……ピッコロよ!」
「そうか……ならば、話は早い!」

 ピッコロもまた不敵な笑みを浮かべると、戦闘態勢を取る。

「ナメック星人の面汚しめ……もう一度地獄に叩き落としてやるぜ!」
「やってみろォォォォッ!!」

 二人のナメック星人は同時に飛び出した。

「あれがピッコロか……」

 クォーツァーの幹部、ジョウゲンとカゲンがピッコロとスラッグの激突を
遠巻きに眺めていた。そう、倒されたはずのスラッグが再び姿を現したのは
クォーツァーの仕業によるものであった。
以前、クォーツァーの一員となっていたスウォルツ……アナザーディケイドの力。
異なる歴史を辿った世界「アナザーワールド」を生み出す力により、
「スラッグが悟空たちZ戦士に勝利した世界線」を誕生させたのである。
その結果、アナザーワールドではスラッグが悟空たちと互角に戦えるほどの強さを
得ていた。そして今、クォーツァーにスカウトされた彼はその実力を以て
ピッコロの命を奪いに来たのである。

「追放したスウォルツの力が今頃になって役に立つとはな」
「ああ、まったく皮肉な話だよなァ」
「奴までもがCROSS HEROESに合流されると厄介だ。ここで潰しておくに限る」

「こいつ……以前とは比べ物にならん戦闘力だ……!」
「ふはははははは、貴様こそ、俺が知るものとは比較にならない強さだぞ!」
「バケモノめ!」

 ピッコロとスラッグの戦いは熾烈を極めた。
互いに拳と蹴りをぶつけ合い、激しい攻防を繰り広げる。

「ぬううううううううううううううんっ!」
「ぐぉあああっ!?」

 スラッグの攻撃をまともに受けてしまうピッコロ。
吹っ飛ばされて岩壁に激突するが、すぐに体勢を立て直す。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「ずああああああああああああああああッ!!」

 強引に追撃を仕掛けてくるスラッグに対し、ピッコロも渾身の一撃を放つ。
互いの攻撃がぶつかり合うが、パワーはピッコロの方が勝っていた。
そのまま押し切って吹き飛ばす。だが、スラッグの方も負けてはいない。
壁を蹴って勢い良く飛び出すと、両手からエネルギー波を放って反撃してきた。

「てぇあたたたたたたたたたたァァァァッ!!」

 その尽くを払い除け、ピッコロは跳躍。
空中で身を翻しながらスラッグに向かって舞空脚を放った。

「ぐぬうッ……」

 スラッグは両腕でガードを固めるが、衝撃までは殺せない。
大きく後退しながらも何とか踏み留まり、両足を地面につける。
しかし、次の瞬間にはピッコロの姿を見失ってしまった。

「こっちだァッ!!」

 背後からダブルスレッジハンマーを喰らい、地面を転がるスラッグ。
それでもなお立ち上がろうとする。
だが、そこへ更に追い打ちをかけるようにピッコロの攻撃が迫る。

「つおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉッ!!」
「うがああああああああああああああああああああッ!!」

 怒涛の攻防を繰り広げるピッコロとスラッグ。間合いを離し、次なる一手を探り合う。

「……」
「……見事だ。ここまでとはな。想像以上だった……」
「!?」

 すると、傍観を決め込んでいたはずのジョウゲンとカゲンが
ゾンジスとザモナスに変身し、ピッコロに奇襲を掛けた。

「シャアアアアッ!!」
「ふんぬあああッ!!」

 不意を衝かれたピッコロは咄嵯に防御姿勢を取るが、
二人の強烈な攻撃を受け止めきれずに弾き飛ばされてしまう。

「ぐぉぉぉぉッ……!」
「油断大敵だぜ、ピッコロさんよォ!」

「き、貴様らッ……ぬあああああああああああああああッ……!!」

 ピッコロは谷底深くに落下していった。

「……ふん、他愛もない」
「余計な事をしおって。俺ひとりで十分にやれたものを」

「さあ、行くぞ……我々には時間が無いのだ」
「へいへ~い」

 ザモナスはゾンシズに気のない返事をしながら、スラッグと共にその場を後にした……。

「……どうやらあいつらがスラッグの復活に一枚噛んでいるようだな」

 ピッコロは生きていた。気を消し、谷底に潜んで様子を窺っていたのだ。

「奴らの目的が何なのか……それは分からんが、
いずれにせよ放っておくわけにもいくまい。それに……化けて出たのが
スラッグだけとも限らんからな……」

 ピッコロはそう呟くと空高く舞い上がり、密かに行動を開始した。

23人目

「悪夢の影」

『わりぃジョーカー。付いて行くって言った手前、やることが出来ちまった。』
あの戦いの後、そう言って申し訳無さそうな顔をしながら謝った竜司に、ジョーカーは構わないと言った。
竜司が仲間の為を思う気持ちは、痛いほどよく分かったからだ。
それに自分が同じ立場ならば、同じことを思ったのだろう。
『他の奴等も同じ目に合ってんなら、俺が目を覚まさせてやんねぇとなんねぇ。だから!』
そう力説する竜司に、しかしこの認知世界で単独行動を取るというのは自殺行為に等しいと説くジョーカー。
下手をすれば、もう一度認知を歪められ、二度と戻ってこられないことも有り得るのだから。
『だったら、ワガハイも付いて行くぜ、竜司!』
だからこそ、迷いなくモナも同じく同行すると言い出した時、本当に心の底から仲間の頼もしさという物を感じた。
『モルガナ、お前…!』
その言葉を聞いた竜司が、思わず目頭を熱くした程だ。
『ジョーカー達にはもう、十分に仲間がいる。ワガハイが付いてなくても安心だ!』
そんなモナの言葉を聞いて、ジョーカーは無言で彼の頭に手を置き、優しく撫でた。
『うにゃ…何だよジョーカー、くすぐったいな!寂しいのか?』
『そうじゃない。竜司を、頼む。』
『…あぁ、任せろ!お前等は聖なる完璧の山を目指せ!必ず追いつくからな!』
モルガナは猫の姿のまま、ジョーカーに背を向けるように振り向いた後、力強く返事をした。
そしてそのまま、二人は駆け出すようにしてその場を離れていった。
『君という人間が、よく分かった気がするよ、ジョーカー。』
そう呟いたゲイルの眼差しには、ジョーカーが"嘗ての仲間"と重なって見えた。
憧憬、というものなのだろう。
『…全く、僕に無いものをいつも持っているな。』
そんな光景を直視出来ないスカルの心には、嫉妬を含んだ憧れがあった。

「…良いのか?」
通信を終えた丸喜に語り掛ける武道の言葉には、気遣いが含まれていた。
先程の会話の中で、丸喜の願いは踏みにじられたことに少なからず動揺していたのだと。
だがそれは、自分にとって都合の良い解釈だとすぐに思い直す。
武道はただ単に、心配してくれているだけなのだと。
「良いんだ武道、ありがとう。」
「グロロ~、何を感謝することがある?」
「…何でもだよ。」
それだけでも、丸喜にとっては嬉しかった。
こんな自己満足に浸りたいだけの自分を、本気で気に掛けてくれる存在がいてくれたことが。
しかし、今は感傷に浸っている場合ではないのだ。
まだやるべきことが残っている、それをやり遂げるまでは、立ち止まってなどいられなかった。
それが例え、自分のエゴであったとしても。
「彼等はきっとここに辿り着く、辿り着いてしまうんだ。その先に苦難があると分かっていても。」
丸喜はその未来を知っているからこそ、今ここで止めるわけにはいかない。
止めてしまったら、それこそ意味が無いからだ。
自分がこの認知世界を創り上げた理由が無くなる。
だから、丸喜はこの世界を終わらせない。
「その前に今度こそ、全世界との融合を果たさせる。」
悪魔将軍の手で超人墓場を現実に顕現されたことで妨害された、全世界の融合。
丸喜はそれを果たさなければならぬと、心に誓っていた。
例え、嘗て同じ志を持った彼を、ジョーカー達を一度排除しなければならないのだとしても。
「それが"ショッカーと交わした条件"だから。」
そう大聖杯に誓う丸喜の姿が、武道の目には何処か虚しい足掻きの様に感じていた。

認知訶学は、発足当初から現在に至るまで研究の進んでいない、俗に言うマイナーな学問である。
その所以としては、そもそ認知訶学自体が眉唾物のオカルトとして生まれたものだからでもある。
認知とは、人間の生命活動において起こる現象であり、その過程として脳波などの観測が出来ることから、そのメカニズムを研究することは科学の発展に大きく寄与すると期待された。
だが蓋を開けてみれば、その研究成果は芳しくなく、また成果が出るまでに必要な時間も膨大であったことから、その分野の研究は停滞を余儀なくされた。
そこで次に脚光を浴びたのが、心理学という新たなジャンルだった。
その理論は、人間の持つ無意識下の心理作用に着目したものであり、従来の認知訶学のアプローチとは異なるものであった。
意識的にではなく、潜在意識下における思考に影響を及ぼすということだ。
所謂洗脳と呼ばれるそれは、次第に世間一般で脚光を浴びる様になっていった。
その大半もまた眉唾物の効果しかない物だったが、ショッカーはこの心理学を用いた技術を組織規模で習得していた。
故に、ショッカーの目に心理学の前身となった認知訶学を研究していた丸喜の姿が定まったのは、ある意味では必然だった。
『貴様の奪われた論文を取り返し、認知世界とやらで望むがままにしてやろうではないか。代わりにその成果を必ず献上せよ、丸喜拓人よ。』
丸喜は、悪魔の囁きに負けたのだった。

拡大していく特異点を基礎に全世界へと浸透、融合していく認知世界。
その影響を受けた現実世界『リ・ユニオン・スクエア』の一角にある街にて、異変は起きていた。
一夜にして、人々が消えた。
家の中も、商店街も、車に至るまで、無人だった。
まるで神隠しにでもあったかのように、ついさっきまで存在を主張する様に、衣服のみを残して。
では、そんな街を悠然と闊歩する緑色の人型は何者か?
尻尾を持ち、虫の様な甲殻を纏い、人ならざる姿を持つこの者は?
今、目の前にいる生きた人間を追い詰め、確かな殺意を向けるこの者は…
「では、生体エキスを頂くとするか…」
_うわああぁぁぁぁーー…!
無人の街に響き渡る悲鳴。
それは紛れもなく、この街で起きている異常事態によるものだった。
そして、その元凶はまた人を求め彷徨う。
完全な姿を取り戻す、ただその為に。
彼の名は、人造人間セル。
特異点の世界融合と共に呼び寄せられた、人造の悪魔。
「命は貰ったっ!」
邪悪な視認欲求を満たす為に、今もまた人間を手に掛ける。
「(やべぇよぉ…!)」
その陰で音も無く震える樽が一つ。
それは変化したウーロンだった。

24人目

「神精樹の実」

一方その頃、特異点にある二人がやってきた。
一人はクォーツァーのウォズ、そしてもう一人は……
「ここが特異点とやらか?」
「あぁ、そうだ。
……しかしどうして急に特異点に行きたいといったのかね?……ターレス」
ターレス、かつてクラッシャーターレス軍団のリーダーとして孫悟空やその仲間達と戦ったサイヤ人。
本来彼は孫悟空によって敗れてるのだが、スラッグ同様クォーツァーがアナザーディケイドの力を使い生み出したアナザーワールドのうちの一つ「ターレスが悟空たちZ戦士に勝利した世界」から連れてきたのである。
「この特異点はいろんな世界が融合してるんだろ?」
「あぁそうだ。現在進行形でいろんな世界を取り込んでいる。それがどうした?」
「なら話は早い……この特異点に神精樹を植えるんだ」
「……なるほど、そういうことか」
神精樹、それは星の生命を吸収し成長する木であり、そこから実る実を食べることで食べた者をパワーアップさせることができる。
ターレスはかつてこの神精樹を様々な惑星に植えることで実を手に入れ、それを食べ続けたことによりとんでもないパワーを手に入れてたのだ。
「そうだ。いろんな世界が集まってるってことはそれらの世界の養分も大量に集まってるってことだ。
だからこの特異点に神精樹を大量に植えれば取り込まれたいくつもの世界の養分を吸収して成長する。つまり神精樹の実を大量に手に入れることができる…!
しかも例え養分を吸い尽くしたとしても、現在進行形で世界をどんどん取り込んでるから養分は追加され続ける。つまり無限に神精樹の実を手に入れることができる…!」
そう、ターレスはこの特異点に集まった世界を利用して神精樹の実を大量に手に入れようとしていたのである。
(なるほど、中々凄いことを思いつくじゃないか……しかし神精樹か……もしも聖杯のエネルギーも吸収してくれるのなら、吸い尽くしてエネルギーを渇れさせれば特異点の侵食も止められるかもしれないな……)
「……わかった。では私も協力しよう」
クォーツァーやアマルガムにとって、特異点や認識世界が他の世界を侵食することはせっかく計画を達成し世界を塗装し直したとしてもそれをめちゃくちゃにされる恐れがあるため、それを阻止できる可能性がありできなかったとしても食べた者をパワーアップさせる神精樹の実を無限に手に入れられるようになればCROSSHEROESやタイムパトロール、ショッカーなどといった自分達の邪魔になる他の戦力との戦いで有利になるためどちらに転んでも都合がいいのである。
「いいのか?」
「あぁ、常磐ソウゴもといグランドジオウウォッチの確保の方はジョウゲンとカゲン。それにスラッグやもう一人の戦士がなんとかするだろう。それに神精樹の実を大量に手に入れれるのはこちらとしてもありがたいからね」
「へっ、ならさっさと植えようぜ」
「あぁ、そうだな」
(へっ、馬鹿なやつめ。俺が神精樹の実を大量に手に入れるためにテメェを利用してるとも知らずによ……)
ターレスの目的、それは神精樹の実の力を使い、全ての並行宇宙を自分のものにすること。
その為に彼はクォーツァーに協力するふりをしていることを。
この時のウォズはまだ知らなかった。



一方その頃、
「……ここは……」
「……どうやら本当に戻ってこれたらしいな、俺の世界に……」
海東が出したオーロラに入った宗介と騎士アレックスは、宗介が元々いた世界に、CROSSHEROESのいるリ・ユニオン・スクエアにたどり着いたのである。
「ここが宗介殿のいた世界ですか……」
「あぁ、とりあえずまずは特異点での出来事を報告だ。元の世界に戻ってこれた以上、通信機も使えるだろうからな」
「宗介殿、通信機とはいったい?」
「知らないのか?離れた場所にいる人間と話したりすることのできる装置だ」
そう言い宗介はミスリルと連絡を取るために通信機を取り出した。
(なるほど……別の世界には我々の世界にないそんな便利な代物が存在するのか……)

25人目

「宗介の帰還/地球まるごと超決戦! 甦るターレス」

「艦長、MIA認定されていた相良宗介軍曹からの通信です」
「サガラさんが!?」
「ソースケだと!? あの野郎、生きてやがったのか!」

 大海を航行するトゥアハー・デ・ダナンに届けられた宗介からのメッセージ。

「サガラさん、まずは無事であったことを嬉しく思います」
『ありがとうございます、大佐殿。ですが、残念な報告をせねばなりません』
「……聞かせてください」

 宗介はこれまでの長き戦いの旅路を話し始める。
千鳥かなめを護衛する任務の最中、特異点へと迷い込み
そこでカルデアの面々や仮面ライダーディケイドとの遭遇を果たした事。
特異点が様々な世界を取り込み、杜王町のような異世界の街や
リ・ユニオン・スクエアには存在しなかった怪物が出現している事。
竜王が持つ聖杯が励起した事により、特異点が固定化された事。
そして、宗介がレナード・テスタロッサに敗れ、かなめを連れ去られてしまった事……

「ディケイド……門矢士。生きていたんだ……」

 復活を企てていたオーマジオウとの戦いの果てに倒れ、
ソウゴの目の前で消滅した門矢士。
それ以来、ソウゴは彼が死んだものと思い込んでいたのだが、
まさか生き残っていようとは。

「世界を取り込む特異点……ですか。イレギュラーの皆さんが次々と
この世界に迷い込んできた事と関係しているのかも……」
『はい。こちらには、自分と同じように別世界から取り込まれながらも
協力を示してくれた騎士アレックスなる人物もいます』

「騎士アレックス!? それは真か!?」
『おお、その声はバーサル騎士ガンダム殿。よもや、貴公もこちら側に来ていようとは!
何と言う僥倖か。アルガス騎士団もそちらに?』
「いや……彼らの行方は分からぬ。だが、無事であると信じたい」

「まさか、杜王町がそんな事になっているとは思わなかったぜ。
仗助や康一くんまでもが巻き込まれているなんてな……」

 かねてより承太郎が身を案じていた甥の東方仗助、その友人・広瀬康一の安否。
彼が帰るべき世界に残してきた者たちが、
今まさに危機に陥っているかもしれないという現実を知り、承太郎は思わず拳を
強く握りしめる。

「レナード……彼がそのような大それた計画に加担していたなんて……」

 テッサの双子の兄、レナード。彼が所属するアマルガムが、クォーツァーと結び付き
あまつさえ特異点にも関与していたという衝撃的な事実に、彼女の表情もまた曇る。

「……分かりました。サガラさん、大変な思いをされたようですね。
ですが、こちらの世界もまさに未曾有の危機を迎えています」
『承知しました。これより自分は大佐殿の指揮下に復帰します』
「よろしくお願いしますね。これより、サガラさんと騎士アレックスさんとの合流地点へ
向かいます。トゥアハー・デ・ダナンは進路変更、目標ポイントへ急行せよ!」

「アイ・アイ・マム!」

「悟空さんがいれば、瞬間移動ですぐにでも駆けつけられたのに」
「そう言うなって。あいつらだって帰ってくるなり、
急に生えてきたバカデカい樹を調べに行っちまったじゃねえか」
「そうですね……」

 悟空とルフィ、テリーマンはドラゴンワールドから帰還した後
トゥアハー・デ・ダナンにソウゴ・ゲイツ・いろは・黒江・承太郎・月美
バーサル騎士ガンダムを残した後、突如として出現した謎の巨大植物の正体を探るべく
調査に乗り出していた。

「悪魔の実みてえなのが生えてんな。食えんのか? アレ」
「悟空、この樹が何なのか知っているのか?」
「ああ……まだ育ちきっちゃいねえが……これがあるっちゅう事は……」

 聳え立つ神精樹の実の樹。星の生命力を吸い上げ、無限に成長を続ける樹。
一説には神のみが食する事を許されたと言う果実「神精樹の実」を食べた者は、
強力無比なパワーを得る事が出来ると言う。

「とにかく、こいつをこのまま放っておいたら地球がカラカラの砂漠になっちまう。
とっととぶっ壊すぞ!」
「孫! 俺も手を貸すぜ」

 そこに現れたのは悟空の仲間・天津飯であった。

「おぉ! 来てくれたんか、天津飯! ありがてぇ! 
オラたちだけじゃ手が足りなかったところだ」
「何やら地球のあちこちで妙な事が起きていると聞いたが、まさかもう一度
この樹を拝む事になるとは思わなかったぜ……」

「ははははは、こいつを植えておけばノコノコとやってくると思っていたぞ、カカロット」

 神精樹の枝の上に立ってこちらを見下ろしていたのは、
悟空と同じくサイヤ人の生き残り・ターレスであった。彼はかつて、
神精樹の種をまいた張本人であり、
かつてこの樹を使ってドラゴンワールドを支配せんとした事もある。
そんな彼の出現に、悟空は驚きの声を上げた。

「ターレス……おめえ、死んだんじゃ!?」
「ふん、おめでたい奴だ。相変わらずのマヌケ面よ」
「や、やはり、あの野郎の仕業だったのか……だが、奴は孫に倒されたはずだ、
あの時に……」

 悟空が神精樹の実に吸い上げられた地球の元気を集めた「元気玉」によって、
神精樹の樹もろともに消滅したはずの男。
それが今、再び目の前に現れた事に、悟空や天津飯は驚愕を隠せないでいた。
ターレスもまた、先のスラッグ同様にアナザーワールドからクォーツァーに
スカウトされた者のひとりだ。

「特異点を神精樹の樹で支配する前の前哨戦だ。
貴様だけはこの手で始末しておかねば気が済まんからな」

 神精樹の麓から、ジオン族や竜王軍のモンスター、
さらにはクォーツァーの尖兵・カッシーン達が続々と湧き出てくる。

「何かわかんねえけど、こいつらをぶっ倒しゃいいんだな!?」
「孫! 雑魚は任せろ! お前はターレスを頼む!」
「分かった!!」

 悟空は一足飛びでターレスが待つ神精樹の高みまで登り詰めると、
ルフィ・テリーマン・天津飯はモンスター軍団へと向かっていく。

「おおおおおおおおおッ!!」

 テリーマンはカッシーンの頭部を抱え込み、
地面に向かって自分の体重を加えながら下敷きにするように叩きつける。

「そりゃああああーッ!! オクラホマ・スタンピードーーーーーッ!!!」

 脳天から地面に激突したカッシーンは一瞬にして砕け散り、
その破片が周囲の敵に降り注ぐ。起き上がろうとするテリーマンの背後から迫ってきた
カッシーンに、

「どどん波ッ!!」

 天津飯が指先から放つエネルギー波が炸裂。心臓部を貫かれたカッシーンは
そのまま爆発四散する。

「お前とも、随分久しぶりに顔を合わせるな、天津飯!」
「ふっ、そうだな。俺も、まさかまたアンタと戦う事になろうとは思ってもいなかったさ」

 互いに背中合わせになり、迫りくる敵を蹴散らしていく二人。
かつての激しい戦いの中で、互いの実力は嫌というほど知っている。

「ゴムゴムのォォォォッ! スタンプゥゥゥゥゥッ!!」

 両足を揃えて飛び蹴りを放つルフィ。
その威力は凄まじく、次々と敵の群れを巻き込んで神精樹に激突させる。

「あいつは……見ない顔だな。だが、強い……!」
「ああ、説明は後でするが彼は別の世界から来た男だ。腕前の程は私が保証する」

26人目

「サバイブミッション」

…数分前。
_グチャッ!ブチィ!!ゴクン…
無人の病院に響き渡る断末魔と、生々しい音。
男の肉体は、音を立てながら吸収されていく。
肉も、骨も、内臓も、全てが一片残らず吸い込まれていく。
やがて彼の存在は全て消え去り、後に残った衣服だけが、その存在を証明するばかりである。
病院は、まるで何事も無かったかのように静寂に包まれていた。
人影一つ見つからないという異常のみを残して。
_カサ、カサカサ。
否、この異常の下手人の影が一つ。
赤ん坊ほどのサイズを持つ、四つん這いで動く深緑色のナニか。
セミの如き甲殻を持つソレは、男を取り込み終えると、その背中から光が溢れ出す。
瞬く間に大きくなるそれは、辺り一帯を埋め尽くしていく中で、異形の姿を変化させていく。
頭は細く短くなり、代わりに手足が大きくなっていく。
人型に限りなく近くなったそれは、喉に当たる部分に手を当てると、確かめる様に声を発する
「_あぁ…」
曲げたホースのような口から発せられたそれには、罪悪感という物は何一つ無く、寧ろ愉悦混じりの歓喜に包まれていた。
自らの意思の通りに手足へ力が宿り、身体中を巡る血液にも活力を感じる。
そして、先程までとは比べものにならない程の速さで駆け抜ける事が出来る。
まさに万能の力だ。
これ程あれば。どんな相手でも倒せるだろう。
そんな気分に浸りきり、一息ついて、一言。
「_足りん。」
落胆、それが彼の口から発せられた言葉だった。
目の前には、衣服の山となった人間の成れ果て。
だが、彼にとってはそれだけでは足りなかった。
もっと欲しい。もっと喰らいたいと、抱いた欲求は乾きを知らない。
故に彼は再び歩き始めようとして。
「…気のせいか?」
一歩踏み出した時の違和感。
しかしすぐに湧いてきた次なる獲物への欲求が勝り、再びその場を後にせんと飛び去って行った。
少しして現れた、陰に隠れていた人型の豚を見落として。
(_何でセルが蘇ってんだよぉ…!?)
その悲痛な心の叫びは、彼、ウーロンの脳裏に虚しく木霊した。

人造人間セル、かつて地球を恐怖に陥れた、未来からの来訪者。
自らの欲求を満たす事を第一とする生命体であり、最終的には悟空達によって倒された筈の存在だ。
だが今現在、その化け物はついさっきまで目の前にいたのだ。
しかも、よりにもよってウーロンの前に。
(逃げるてぇよぉ…!)
無い頭を絞って一瞬だけ考える素振りを見せるも、逃げても無駄だと何処か悟りの様な境地に陥っていた。
奴の恐ろしさは、骨身に染みている。
先程だって、完全に隠れたつもりだったのに、此方の視線に気づいている素振りさえ見せていた。
建物を一歩外に出れば、奴は今度こそ此方に気付くだろう。
このまま立ち止まっていてもいずれ殺されるだけ、いっそ戦う方がマシだと、そんな考えさえ浮かんでいた。
(けどよぉ…勝てねぇよなぁ…)
当然、無駄な足掻きである事は誰の目にも明らかではある。
寧ろ余計な養分となって更なる犠牲を生み出すきっかけにさえなりかねない。
そう悩む彼を責める者は誰も居なくなってしまった。
決断することが出来ない彼を優柔不断と言い切れないだろう。
彼が選んだ選択は、現状維持であった。
動かないという事で助かるかもしれないという、希望的観測による消極的な策。
だが現実は非情だった。
__ドォンッ!!!!
爆音と共に巻き上がる土煙と瓦礫の雨。
そして吹き飛ばされる人影は、紛れもなくウーロン自身だった。
遅くなる視界の中、彼は呆然と辺りを見渡していた。
そこには振り返って気弾を撃ちこんでくる、セルの姿。
「やはり、居たな。」
その視線は確かに此方を捉えていた。
まるで最初から分かっていたと言わんばかりの余裕を持った表情。
それが、更にウーロンの心を揺るがす。
何故バレたのか、そもそもどうして自分を狙ったのか?
疑問は尽きないが、答えてくれるような相手ではないと、理解している。
故に彼は思考を放棄しようとして、しかし慣性によって叩きつけられる体の痛みが彼の意志を覚醒させる。
「ちく…しょう…!」
何故自分がこんな目に遭わなければならないのかと。
自分はただ、この場でじっとしていただけだというのに。
「俺は、戦いたくねぇのに…!」
やがて、彼の思考は徐々に理不尽に対する憤怒へと変わっていく。
彼はゆっくりと立ち上がると、人造人間に向かって歩みを進める。
どうせ死ぬなら、あのにやけ面に一発でも叩き込んでやらないと気が済まない、そんな思考が彼を支配していた。
それは、彼の中で何かのスイッチが入った瞬間でもあった。
「だぁりゃあぁーーーっ!」
瞬間、煙を上げて変化するウーロンの体。
それはオモチャの様な、しかし確かな威力を持つ小型ミサイル。
そのロケットに火が灯り、一気にセルへと肉薄する。
そのまま直撃し、そして巻き起こる大爆発。
「ぬぅ!?」
一切の猶予も無く撃ち込まれた特攻は、意表を突かれた為か、セルの体を紙切れの様に吹き飛ばす。
「どうだぁ!」
その爆心地の中で、満足気に叫びを上げるウーロン。
だが、奇跡の綱渡りを経て得た快進撃もここまでだった。
爆風が晴れ、そこに見えたのは無傷で佇むセルの姿。
その光景を見たウーロンの顔色は、みるみると青ざめていく。
(嘘だろぉ!?)
自身の渾身の一撃を喰らっても尚、セルには傷一つ付いていなかった。
その事実は彼の心に絶望を与えるのには十分過ぎた。
後はもう、構えられた腕から放たれる気弾によって死を待つばかり。
「なんなんだよぉ、俺が何したって言うんだっ!誰か助けてくれよぉ…!!」
最早諦めた様な口ぶりで、見果てぬ願望を口にするウーロン。
それでも彼は諦める事無く気弾を避け、必死に生きようと駆け出した。
「フッフッフ、諦めろ…!」
直撃を受ければ楽に死ねる筈なのに、一発、二発と、何度も気弾を掠めながらも逃げるその姿は、セルから見れば滑稽なものだった。
それでも生きる為に足掻く彼を嘲笑うかの如く、執拗に攻撃を繰り返す。
「畜生!畜生ぉぉぉ!」
病院を突き抜け、破壊を巻き起こす気弾の雨霰。
その内の一発が、床を砕き、足をもつれさせる。
「あっ」
一瞬だけ動きを止めてしまった事で、更なる追撃を受ける羽目になる。
そうして遂に、ウーロンは膝から崩れ落ちる様に倒れ伏してしまった。
「もう、駄目だ…」
息絶える寸前まで追い詰められた事で体力の限界を迎えたのだ。
そんな彼を見逃す程、セルは甘くない。
「そろそろ遊びは終わりにしようか。」
そう言って振り上げられた、迫り来る尻尾は、ウーロンの命を奪い去る筈だった。
彼一人だという意識の外から投げ込まれる、Stunと書かれた缶状の物。
直後、轟音と共に閃光を放つソレは、セルの聴覚と視覚を焼く。
「ぐああぁ!!?」
超常的な存在の喘ぐ姿に呆然とするウーロン。
「こっちだ。」
その手を取ってその場から立ち去る、一人の男の影。
成すがままに運ばれていくウーロン。
「ぬぅ…!」
セルの視界が回復した頃には、既に誰も居なくなっていた。

「助かったぜぇ…あんた、名前は?」
「お前も良い一撃を叩き込んだもんだ。俺は…スネーク、ソリッド・スネークだ。」

27人目

「相棒」

ミスリルもといCROSS HEROESとの通信を終えた宗介と騎士アレックス
「まさか騎士ガンダム殿が宗介殿のお仲間と一緒だったとは」
「あぁ…さて、我々も合流地点に急ぐぞ」
宗介達はトゥアハー・デ・ダナンとの合流地点へと向かった。



数十分後
「ここを抜けた先に港が合流地点だ。
そこにさえたどり着ければ……っ!」
「今感じた殺意……宗介殿!」
「あぁ……間違いない……やつらだ…!」
合流地点へと向かってた二人を待ち伏せてたように、『フラン1058 コダールi』1機と『フラン1059 コダールm』2機、その他大量のAS部隊と、ザモナスとゾンジス、そして数機の量産タイムマジーンとカッシーン軍団が現れた。
「やつらが宗介殿達の敵……アマルガムとクォーツァーか…!」

「久しぶりだなぁ…会いたかったぜぇ……カシムゥウウウウウウウウウ!」
「ガウルン……生きていたのか…!」
「宗介殿のお知り合いですか?」
「あぁ……昔からの腐れ縁だ……」

「相良宗介、そして騎士アレックス……君たちには彼らをおびき寄せるエサになってもらうよ……」
「クッ…!」

すると
「っ!?な、なんだ!?」
どこから砲撃が何発か飛んでくる
「今のはいったい……!?」
「っ!宗介殿!あれを…!」
砲撃が来た方角から『フラン1058 コダールi』とは異なる赤いASがやってきた。
「なんだ!?あのASは!?」
「まさかミスリルの新型か…!?」
『………』
赤いASは宗介と騎士アレックスのすぐ近くまで来た。

『……お久しぶりです軍曹』
「その声は……まさかアルなのか!?」
アルとは、宗介が乗るAS『ARX-7 アーバレスト』に搭載されてる人工知能であり、宗介とは相棒と言っても過言ではない関係である。
『肯定。
ただし本機の名称は「ARX-8 レーバテイン」です』
「ARX-8…!?」
『推測通り、「ARX-7 アーバレスト」の後継機です
サガラ軍曹…。
あなたの戦争へと復帰を許可願います』
「もちろんだ。許可する」
そう言い宗介はレーバテインへと乗り込んだ。
「またせたな、ガウルン」
「気にするな、カシム。
俺としても新型に乗ったお前の方が潰し甲斐ってのがある」
「黙れ!」
次の瞬間、宗介の乗るレーバテインが目にも止まらぬ速さでガウルンのコダールiに一撃を加える。
「速い…!」
「意識が持って行かれる…!?アル!出力の設定を…!」
『今のが80%です。お楽しみいただけましたか?』
「お前…!」
『実はこの機体…秘密裏に建造されたため、ろくな試運転も実施してないのです』
「何だと!?」
『さらに各種の無茶な装備の犠牲となり、ECSの搭載が見送られました』
ECS(Electromagnetic Camouflage System、電磁迷彩システム)とはレーダーやセンサーなどから機体を隠す装置。ホログラムを始めとするさまざまな機能を組み合わせることで、赤外線や電磁波などの探知からほぼ完全に身を隠せる。ミスリルの場合は、センサーだけでなく肉眼ですら見ることはできないほどの高性能な「不可視モード実装型ECS」をASや戦闘ヘリに備えている
要するに超高性能な迷彩機能であり、レーバテインにはそれが搭載してないので他のASのように隠れながらの行動などが不可能なのである。
「そんな機体が戦えるのか…!?」
『問題ありません。
あなたの操縦のクセを知る優秀なメカニックが最終調整を担当してくれましたから。
そのメカニック……ナミさんから伝言です。
「頑張れ、ソウスケ」…だそうです』
「そうか…。この機体の開発には彼女も関わっているのか」
『ですが、ラムダ・ドライバの作動までは保証しかねます』
「それはぶっつけで試すまでだ!」
『了解(ラージャ)』

「なるほど……あの新型のAS、中々凄いみたいだね……」
「だが、いくら強力な機体があろうと、たった二人でこの数を相手できるわけが…!」
『言っておきますが、ここに来たのは私だけではありません』
「なに!?」
するとそこへマオ、クルツ、ジオウ、ゲイツ、いろは、黒江、承太郎、月美、バーサル騎士ガンダムがやって来た。
「どうやら間に合ったようだな」
「騎士ガンダム殿達!来てくれたのか!」
「あぁ、当然だ!」

「来たか、常磐ソウゴ…!」
「我々の計画を遂行するために、貴様には来てもらうぞ…!」
「俺のことを狙ってる…?」
「どういうわけかは知らんが、お前達にソウゴを渡すつもりはない」
「ならば力ずくで連れてかせてもらうぞ…!」

「どうやらあっちはあっちで殺り合うみたいだな……なら、こっちも楽しもうぜカシムゥ…!」
「望むところだ。今日こそ決着付けるぞ、ガウルン!」

28人目

「災禍を呼ぶ凶星」

 こうして、宗介とガウルン、
そしてアマルガムとクォーツァー連合軍対CROSS HEROESの戦いが始まった。

「でも、相手は傭兵とは言え、人間……殺すことは……」

 躊躇ういろはに、ゲイツは言った。

「相手の生命を奪うためじゃなく、自分や仲間の生命を守るために戦え」
「え……?」

「はッ!!」

 傭兵の武器を破壊し、拳打を打ち込んで沈黙させるゲイツ。

「ぐあっ……」
「そう! 相手を無力化してしまいさえすれば、命まで奪う必要はない……! 
彦星! 織姫!!」

 月美が使役する神具が傭兵たちの武器のみを的確に破壊し、動きを封じる。

「悪いが、俺はこのお嬢ちゃんたちのように優しくはない。
目の前に立ちはだかるなら、誰であろうと容赦はしねえ……
俺は『やる』と言ったら『やる』男だぜ……スタープラチナッ!!」

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァッ!!!』

 承太郎がスタンドのラッシュで次々と傭兵たちをなぎ倒していく。

「ぶげらァァァァァァッ!!」

 その攻撃によって、承太郎が相手取っていた傭兵たちは全員気絶した。

「――とは言え、お嬢ちゃん達の手前、半殺しで勘弁しといてやる……
ありがたく思いな……」

「皆さん……! わかりました、私も覚悟を決めます!」
「環さん、コネクトを!」

 黒江が手を伸ばす。それに答えるように、いろはも手を伸ばした。
コネクトとは、魔法少女同士が魔力を同調する事で、ひとりでは不可能な魔法を発動する
技術の事である。
ふたりの手と手が触れた瞬間、黒江の手から大量のエネルギーがいろはの体へと流れ込む。

「感じる……黒江さんをいつもよりも近くに……!!」

 力が湧き上がる感覚を覚えた二人は、同時に叫んだ。

「「コネクト・オーバードライブ!!」」

 二人が叫ぶと同時に、オーバーブーストされた魔力光がいろはのボウガンから発射され、
傭兵たちを衝撃波で吹き飛ばす。
さらに続けて放たれた矢は、空中で分裂して無数の矢となって降り注いでいく。
その一撃一撃が、次々と傭兵たちの武器目掛けて直撃していった。

「環さん、凄い!」
「矢が、私の意志に応えてくれたんだ……!」

「ぬうう、こいつら…!!」


『やれやれ、随分とヌルい戦い方をする連中だな』


 戦場に、ひとりの男が乱入してきた。音もなく。

「う、うう……うあああああああっ……」

 その男が歩みを進める度、周囲の傭兵たちの色彩がモノクロに染まっていく。
それはまるで、男の纏っている漆黒のマントが、彼らの色を、生命そのものを
奪っているかのように見えた。
そして傭兵たちは砂塵の如く崩れ去り、跡形もなく消えてしまった。

「何だ、あいつは……!?」
(このドス黒い邪気……どこかで……)

 月美は直感的に、その男の危険性を感じ取った。

「日向月美。自分の世界を捨てておめおめと生き延びた女。見苦しいねぇ」
「!?」

 そうだ。月美の世界が崩壊を向かえた時。その中で感じた邪悪なオーラを放つ存在と
同じだ。あの時は正体が分からなかったが、今ははっきりと分かる。
こいつは敵だと。

「あなた……もしかして、あなたが……!」
「そう。君の世界を消したのは……俺だよ」

 男は口元を歪めて笑った。

「あなたが……私の世界を……! お父さんを……!!」

 怒りがこみ上げてくる。こいつだけは許せない……!

「待て、月美!」

 承太郎は慌てて制止するが、今の彼女を止める事は出来なかった。

「おいおい、まさかここで戦うつもりかい? まぁいいけどさぁ……」
「うわああああああああああああああああああッ!!」

 あの温厚で大人しい月美が今までに見せたことの無い表情で男に飛びかかる。
徒手空拳で男に殴りかかったのだ。
だが、男はそれを軽くいなすと、逆に彼女の腕を掴み、地面に叩きつける。

「ぐっ……!!」
「無駄だって」

「どうして……! どうして私の世界を……!!」

 月美は泣きながら、必死に訴える。
世界の崩壊から月美を脱出させるため、己が生命を賭して放った日向家の奥義を持って
このリ・ユニオン・スクエアへと送り出してくれた父の最期が脳裏に浮かび上がる。

「んー……そう言われてもね。それが仕事だし。仕方ないじゃん?」
「ふざけるなッ!! あなたが……お父さんの……!!」

 月美は涙を浮かべ、激昂しながら男に掴みかかろうとする。
だが、そんな彼女をあざ笑うように、男は言った。

「手間取らせてんじゃねえよ、クソガキ」
「ぐあっ……」

 一瞬だった。鳩尾に強烈な蹴りを叩き込まれた月美。
その威力で、視界が歪む。全身の力が抜け落ちる。

「月美さん!!」

 いろはと黒江が駆け寄るが、月美は既に気を失っていた。

「くそッ……!!」
「御婦人に乱暴するとは何事だ!」

 バーサル騎士ガンダムが男を叱り付ける。

「お前もイレギュラーか。それにそっちの帽子被ったコートの男も……」

 承太郎は帽子の鍔を少し持ち上げると、鋭い眼光で男を睨んだ。

「ぶちのめす前に聞いといてやる。貴様は誰だ」

「禍津星穢(まがつぼし・けがれ)。以後お見知りおきを」
「悪いが『次』は無え……ここで跡形も無くしてやるからだッ! 
スタープラチナッ! ザ・ワールド!」

 時間を止めて、一気に間合いを詰める。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
「おいおい、怖いなぁ。でも、無意味だぜ」

 次の瞬間、スタープラチナのラッシュは確かに命中したはずだった。
だが、彼は無傷でそこに立っている。

「何ィ……!?」

 まるで虚空に向かって殴っているような感覚。
そう錯覚してしまうほど、手応えが無い。

(どうなってる……こいつもスタンドのような能力を持っているのか?)
『無駄だ。俺はお前達とは違う次元にいる』

「どういう意味だ」
『こういうことさ』

 男が指を鳴らすと、彼の周囲に、複数の魔法陣が現れた。
その中から、何かが飛び出してきた。

「ウバァァァァァシャァァァァァァァッッ!!」

 それは、人型の怪物だった。
いや、『それ』が本当に人間なのか、承太郎たちには分からなかった。
何故なら、その怪物の顔は、人間のものではないからだ。
まるで、動物が無理矢理に二足歩行をしているかのような外見。
その醜悪な姿は、まさに異形と呼ぶに相応しいものだった。

「な……何なんだこいつらは!?」
「グオォゥ……ギシャアアアッ!!」
「うわああっ!!」

 その怪物たちは、一斉に襲いかかってきた。その標的はCROSS HEROESのみならず
アマルガムやクォーツァーまでにも及ぶ。

「くっ……バケモノが!」
「俺のかわいいペットたちだ。さて……もういいかな。じゃあ、死んでくれよ」

「来るぞッ!!」

 突如として出現した、月美の世界を消したと言う男・禍津星穢。
その正体は……?

29人目

「崩壊の序曲:世界樹」

「_不埒な輩が入り込んだようだ。」
丸喜がその呟きを聞いたのは、大聖杯への祈りを自然と終えた頃だろうか。
振り返った武道の眼は険しく、どこか忌々しいものを見る様に歪んでいた。
その表情に、何か言い知れぬ不安を感じたのか、丸喜もまた眉を寄せて、彼の言葉の意味を問いかける。
「武道…?」
「すまない、急用ができた。」
そう言うなり、武道は飛び上がった。
誰かがそこに居るかのように空を見上げながら、焦燥感に満ちた表情で彼は駆ける。
丸喜にはそれが一体誰の事を指しているのか分からないが、それでも彼が尋常ではないほどに焦っていることだけは分かった。
だからこそ、彼は引き留める事も出来ずにただ呆然とその姿を見送ったのだ。
「あぁもう、武道はいつも一人で抱え込むね。」
丸喜の言葉だけが、武道の背を追いかけていく。
しかしそれも直ぐに消え去り、大空洞に残されたのは彼の呼吸音のみ。
やがて、武道の姿が完全に見えなくなった後、丸喜はその足で大聖杯の元へと向かった。
不埒な輩とやらが誰かは分からないが、武道が焦る程の人物だ。
この特異点の崩壊は、そう遠くないのかもしれない。
そう考えると、眼下を覆いつくす巨大な聖杯が、急にちっぽけな金メッキのコップにさえ見えてきた。
触れれば、今にも割れてしまいそうな…
「…いけないな、僕までネガティブになっちゃ。」
ぴしゃりと頬を叩いて、丸喜は自分の思考を振り払う。
今は、とにかく出来る事をやるしかないと、丸喜は気を取り直し改めて状況を確認することに努めようとして。
「…嘘だろう!?」
特異点を飲み込まんとする巨木の存在に、膝を折り。
「これじゃあ、認知世界が崩壊してしまう…!"彼等"が、来るっ!」
視界の上に映る『鷹のレリーフ』を前に、絶望した。

_それはさながら、天変地異のようだった。
あらゆるものを呑み込まんとする神精樹は、既に特異点の大聖杯ですら賄いきれない程にまで膨れ上がり始めている。
あらゆる世界を取り込み、大気圏をも超え、今まさに次なるエネルギー源"月"へとその根を伸ばしている。
もはやそれ自身が独立した生命体であるかのような有様はまさに天災であり、かつて超人の歴史に起きた終末を武道に思い起こさせた。
放って置けば地球を崩壊させるであろうその樹を見て、しかし武道の関心は向かない。
裏を返せば"一度地球を崩壊させるだけ"であり、武道の粛清という目的からすれば寧ろ都合の良い存在というだけだ。
頃合いを見て伐採でもすれば、後は自然と元に戻るだけだ。
再び地上に管理すべき超人が繁栄するまで時間は掛かるだろうが、何、幾億年程度は苦ではない。
ならば彼の関心は何処か、それはただ一人の男。
「_見つけたぞ、ターレス。神の実を使わんとする蛮族よ。」
遥かなる神精樹の頂上で、武道が吠える。
その憤怒を表すかの如く、世界が、震えた。

「_これも、シナリオ通りなのかい、『ショッカー』?」
丸喜の呟きが虚空へ溶けていく。
そこには、彼の視線の先には何も無い。
ただ暗い闇が広がっているだけだ。
しかし、彼の問いかけに応える声がある。
『如何にも、想定内だ。』
姿無き男の声が、暗闇の奥から響く。
その声色は、丸喜にとって聞き慣れたもの。
しかし、その姿を見る事は叶わない。
何故なら、彼がそこに居る場所は、人の認識の外側だからだ。
『しかし、ここまで早く動くとは予想外であったな。』
「君達がそう言うなんてね…」
『……』
丸喜の言葉に沈黙を貫く男は、しかし確かに笑っていると丸喜には分かった。
『何、心配するな。貴様の望む認知世界は、すぐにでも帰ってくる。』
そう一方的に告げると、暗闇は虚空へと消えていく。
後に残されたのは、壁に掛けられた鷹のレリーフのみだった。

「ななな、なんじゃあ!?」
超人墓場を目指していたキン肉マン達を襲う、強大な揺れ。
同時に眼前に現れる、現実世界の特異点に芽生えた巨木の光景。
まるで地球が塗りつぶされそうな光景に、ジョーカー達は見覚えがあった。
「おい、これってあの時の…!」
「現実とイセカイの融合…!」
特異点と認知世界、そして全世界の境界が、崩壊し始める。
否、最早誰の思惑をも超えた事態が巻き起ころうとしていた。

30人目

「走る南風に乗って」

『オラァァァァッ!!』

 謎の男・禍津星穢が解き放った怪物の顔面にスタープラチナの拳がめり込んだ。
その衝撃で、怪物は地面に叩きつけられる。

「グギャェッ!!」
「やれやれだぜ。まさか、こんな化け物と戦わなきゃならないとはな」

 承太郎は帽子を深く被って、ため息をつく。

「だが、こいつらには攻撃が効くようだ。あの禍津星とか言う男と違って……」

 禍津星穢に何故スタープラチナの攻撃が通じなかったのか。それは今以って謎だった。
彼が本当に月美の世界を消滅させたのだとすれば、
承太郎達には理解出来ないような何かしらの手段で攻撃を無効化したと考えるしか
ないだろう。それこそ、スタンド能力にも類似するような何かを……

「ウグゥゥウ……ッ!!」

 怪物はふらつきながらも立ち上がる。そして、今度は二本足で立ち上がり、
両腕を振り上げて襲いかかってきた。

「無駄にタフな野郎だぜ……」
「電磁スピアァァァァァァッ!!」

 上空から急降下するバーサル騎士ガンダムの槍が、怪物の心臓部を貫いた。

「グギャェェェェェッ……」

 怪物は体内に高圧電流を流されたことで全身が激しく痙攣し、
口から血反吐を大量に吐き出して絶命した。

「う、うわあああああッ……」

 怪物達はアマルガムの傭兵たちにまで襲い掛かる。
傭兵たちは恐怖のあまり悲鳴を上げて逃げ惑っていた。

「ひぃっ!? ば、化け物がぁーッ!」

 叫びながらマシンガンを乱射するも、銃弾は全て怪物の皮膚によって弾かれてしまう。

「ガォオオッ!!」

「ぐえぇっ!」
「ぎゃああっ!!」

 怪物達が飛びかかってきた傭兵たちを次々に喰らい始めた。
腕を引きちぎられ、内臓を引き摺り出され、頭を噛み砕かれて、凄惨な死を遂げる
傭兵たち。

「やめろーッ!!」

 騎士アレックスが傭兵たちを襲う怪物を横薙ぎ一閃の剣撃にて斬り裂いた。
胴体を真っ二つに切断された怪物は、断末魔を上げながら倒れて動かなくなる。

「大丈夫か?」
「お、おう! ありがとうよ、助かったぜ!」

 助けられた傭兵たちが感謝の言葉を告げる。

「生命の有り難みが分かったであろう。戦いを止め、ここより立ち去るが良い」

 騎士アレックスの忠告を聞いて、傭兵たちは戸惑いながらも武器を捨てる。

「わ、わかったよ……俺たちも命は惜しいしな……」

「何だ……? 戦況はどうなっている?」

 ガウルンと交戦していた宗介は、戦場の雲行きが怪しくなってきていることに気付き、
周囲を見回す。

「俺を目の前にして余所見なんざ余裕じゃねえか、カシムゥゥゥゥゥ!?」
「チッ!!」

 背後からの殺気を感じ取り、咄嵯に前転してその場から離れる宗介。
その直後、先程まで立っていた場所目掛けて ショットガンの弾丸が降り注いだ。

「ほう! この距離と射角でよく避けたな! 流石だ! 
新型のおかげか、てめえの腕か!?」
「ガウルン! あれもお前の差し金か!? 
アマルガムの連中が怪物どもに襲われているぞ!」

「あァン……? 知ったこっちゃねえな。ここは戦場だ。1秒前まで味方だった奴に
笑顔で喉元掻っ切られる事だってあるんだぜェ~?」
「貴様ァッ!!」

 宗介の新型機、ARX-8 レーバテインが背部ブースターを点火させ、一気に加速して突撃。
対するガウルンのプラン1058 コダールiは手にしたショットガンで応戦しようとするが
それよりも早く宗介のレーバテインはショットガンを蹴り飛ばした。
更にそのまま拳を突き出し、コダールiの顔面に叩き込む。

「へっ……! 流石に速えェじゃねェか!」

 一歩、二歩と引き下がるも踏み留まり、コダールiは反撃に移る。

「オラァッ!!」

 単分子カッターをくるりと回してから突き出す。だが、その攻撃は空を切るのみ。
宗介は機体を屈ませて攻撃をかわすと、すかさず足払いをかける。
バランスを崩したコダールiは仰向けに転倒してしまう。

「ぐぉッ!」
「くたばれッ!!」

 間髪入れずに追撃を掛ける宗介。

「させるかよ、バカ野郎!!」

 足を伸ばし、向かってくるレーバテインの腹部装甲を蹴飛ばす。

「ッ!!」

 後方に吹き飛ばされるレーバテインは、なんとか着地し体勢を立て直した。

「楽しいなァ、おい! もっと楽しませてみせろ、カシムゥ!!」
「黙れッ!!」

 怒号と共に、宗介はコダールiに向かっていく。

「どうした、そんなもんかァッ!? ガールフレンドのカワイコちゃんを盗られたのが
そんなに悔しいのか!? あァ!?」
「黙れと言っている!!」

 激昂し、声を荒げる宗介。怒りに任せて、単分子カッターを振り下ろす。

「ハハッ! 図星だな、オイ!?」

 コダールiは左手の指先で、レーバテインの刃を摘まんで受け止める。
そして、反撃とばかりに右手の単分子カッターを振り上げて斬りつける。

「うおおおっ!!」
「おらぁっ!!」

 互いの刃がぶつかり合い、火花が散った。

「カシム、てめえの実力はその程度なのか!? 
アフガニスタンで俺に鉛玉を撃ち込んでくれた時のお前はそりゃあもう凄かったぜェ? 
あの頃のお前なら、俺をもっと熱くしてくれたはずなのによ!!」
「貴様に褒められても嬉しくはない!!」

「ソースケ! ちったぁ頭冷やせ、馬鹿タレがッ!!」
「なんだと!?」

 クルツのM9ガーンズバックの遠距離射撃が膠着状態になっていた2機の合間を縫って
飛来してきた。

「チィッ!」

 ガウルンは舌打ちすると、飛び退いて回避行動をとる。
その間に宗介は一旦、後退して呼吸を整える。

(落ち着け、相良宗介。感情的になるな)

 心の中で自分に言い聞かせる。しかし、一度燃え上がった闘争本能は簡単には
消えてくれない。

「ソースケ! てめえが冷静さを欠いちまったら、それこそ奴らの思う壺だぞ!
しっかりしろ!」
「ああ、分かっている。だが……」

「大丈夫だ。お前は強い。俺なんかよりもずっとな。だから自信を持て」
「…………」

「たまには良い事言うじゃないの、クルツ」
「姐さん、茶化さないでくれよ」

 クルツ機に続き、マオ機も合流する。

「けど、こればっかりはクルツの言う通りよ。ソースケ、アンタは一人じゃ無い。
仲間がいる。そうでしょう?」
「そうだな……ありがとう、2人とも」

 宗介の表情から、先程までの険しさが消える。

「ふん、何が『ありがとう』だ。気持ち悪りぃ」
「さぁ、ソースケも戻ってきた事だし、改めてウルズ小隊の再結成といきましょっか!?」

「おうよ!」
「ウルズ7、了解!」

 マオ、クルツ、そして宗介。離れ離れになっていたミスリルの精鋭たちが
再び一丸となって戦う時が来た。

(千鳥……護衛対象である君をみすみす敵の手に奪われてしまった事は、
どれだけ謝罪しても足りないだろう……
だが、それでも……俺は必ず君を救い出す。たとえこの身がどうなろうともだ!!)

 吹く風は、南風。宗介達の背中を押すように……

「ははは、いいぞ! どいつもこいつも殺し合え!! ははははははははははは……」
「――見つけたぞ、禍津星穢」