滅亡前夜

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1人目

テレビをつけると、報道番組が流れていた。

「それでは次のニュースです。明日、世界中に流星の雨が降り注ぎ、地球が滅亡します」

アナウンサーが淡々と原稿を読み上げる。私は吃驚仰天して、食べていたトンカツ(スーパーの惣菜コーナーで5割引きになっていたもの)を取り落としてしまった。

2人目

いきなり明日地球が滅亡すると言われても現実感が無い。
私はきっとなにかのドッキリだろうと思い再びトンカツを食べ始める。

「はぁ、35歳になっても未だ独身かぁ。本当に地球が滅亡するなら1回くらい結婚したかったなぁ。」
そうは言っても相手すらいないためまずは相手を見つける事から始めなければならない。

3人目

「35歳なんて、まだまだ若いじゃないか! 良い出会いはきっとあるさ!」
ため息をつきながらトンカツをかじろうとしたら、どこからか大きな声が聞こえてきた。
なんかすごく近くから聞こえてきたような……。声の聞こえてきた方向を見ると。

「ここだよ! ここ! 僕がしゃべったんだ!」
なんと、一切れだけ残ったトンカツが、皿の上でピョンピョンと飛び跳ねている。
え。なんでトンカツがしゃべってるの! 飛び跳ねてるの! 思わず私は叫んだ。

「僕はただのトンカツじゃない! 超トンカツ。その名も、スーパートンカツなんだ!」
「スーパーで買ってきただけにね!」
「ここ笑うところね!」

面白くねーし! ハシで刺そうとすると、トンカツは皿の上で軽やかに逃げた。
「そもそも、トンカツの名前の真の由来から教えようじゃないか!」
「とんでもない規模の大災害から地球の皆を守る活動者! 略してトンカツなんだよ!」

トンカツの叫びを無視しながら、テレビを見る。
どうやら本当に地球は滅亡してしまうらしい。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。死にたくない!

「安心して! 世界中のトンカツが、空に集まりだしたよ!」

4人目

「し、視聴者の皆さん! ご覧ください!」

アナウンサーが裏返った声をあげる。
テレビに目を向けると、なんとそこには空を覆いつくす大量のトンカツが映し出されていた。見るだけで胸焼けしそう。

「ね、すごいでしょう! えっへん!」
「それじゃあ、地球は助かるんだね?」
「いや、それが……」

トンカツは急にしどろもどろになった。

「確かに僕たちは単品でも美味しい素敵な主菜さ。しかし、やっぱりアイツが一緒じゃないと、最高のパフォーマンスを発揮することができないんだ」
「アイツって?」
「あのね、僕たちに必要なのはグワーッ!?」

何者かが部屋の隅からサッと飛び出し、トンカツを襲った。トンカツはなすすべもなく哀れな悲鳴をあげる。
トンカツを襲った影は、机の下に隠れた。
覗き込むと、そこには私のペットのスーちゃんがいた。
スーちゃんが、トンカツをむしゃむしゃと食べてしまっていた。

5人目

とりあえず私はトンカツのお供である『つけてみそかけてみそ』を窓から投げてみる。すると1部のトンカツが光だした。

「ありがとう。力がみなぎってきた!」
と言い空へ飛んで行った。ちなみにさっきまで喋っていたトンカツはスーちゃんの胃袋に入ってしまったようだ。満足したのかスーちゃんは寝ていた。

「でもなんでトンカツが世界を救うのだろう?」
私はそんな疑問を持ちながら空を見上げていた。
「まぁいいか、とりあえずお酒飲もっと。」
冷蔵庫から缶チューハイを4本取り出し飲み始める。

6人目

「あんた達を救うのは、トンカツだけじゃないぜ」
なんと今度は、飲み終わった缶チューハイ達がしゃべりだした。
「窓の外を見てみな」

窓を開け放つと、酔っぱらった私の目の前に、もの凄い光景が広がった。
トンカツだけじゃない。あれ、キャベツだよね。それに、あれなんか冷蔵庫じゃないか。
よくわからないゴミや家電など、生物以外のありとあらゆる物体が空に吸い込まれていく。

「全部、あんたたち人間に捨てられた、食べ物や家具や機械たちさ」
「でも、どんな扱いを受けようと、俺たちを生み出してくれた事には変わりないからな」
「守ってやるよ。あんた達を」

あばよ、と私の手から、テーブルの上から空の缶チューハイ達が空へと旅立っていく。
何かよくわからない。私だけが見てる、カオスな夢なのかもしれない。
でも、何ていうか、とりあえず……うん。ありがとう。

流星の雨。大量の、無数の隕石たちが地球に降り注ぐまで。あと、20時間を切った。

7人目

トンカツ、キャベツ、缶チューハイ。冷蔵庫にゴミにエトセトラ。
あれだけたくさん集まれば、多分なんとかなるだろう。

なかなかセンセーショナルな天体ショーだったが、もういい加減眠たい。
明日地球が滅亡しようがしなかろうが、どうせ仕事は休みにならない。早く寝よう。

しかし、私は眠るわけにはいかなくなってしまった。

「それじゃあ、僕も行くよ」

さっきまで眠っていたスーちゃんが起き上がり、窓に近づいた。

「スーちゃん! 君、喋れたの!?」
「違うよ。僕はさっきのトンカツさ。この体を乗っ取ってやったんだ。それじゃあ僕は皆と一緒に地球を救いに行くよ。バイバイ」

いけない! スーちゃんは私の大切な家族だ。
いくらトンカツに乗っ取られようと、地球を救うためだろうと、手放すことは到底できない。