異世界から現代日本に来た勇者はとある男子高校生を誘惑する。
俺は今、異世界から来たと言う勇者に「お前のことが好きなんだ。」と告白されたところだ。
しかも俺は男、勇者も男だ。
「好きと言われても俺、お前の事知らないし。」
「そうだよな!すまない突然こんなことを言って・・・でもどうしても気持ちを伝えておきたくってさ!」
いやそんな事言われても困るんだけど・・・それに何で俺なんだ? 確かに俺はイケメンと言われる事はあるが自分では普通だと思うし、なんせ至って普通の男子高校生だ。成績だって中の上くらいだし運動神経だって人並み程度にしか無いと思う。
それに比べて目の前にいるこの勇者様ときたら顔立ちは整っているし身長も高い、おまけに髪の色が銀色の短髪とかマジかっこいいんですけど!? 更に言うなら体つきだって細身だがしっかりと筋肉が付いていて凄く良い身体をしている。まぁ簡単に言えばイケメンの中のイケメンって感じなのだ。
そんな奴が何故俺みたいな冴えない男を好きだなんて言い出したのか全く理解できない。
「本当にごめん!いきなりこんなこと言われたら迷惑だよな・・・忘れてくれ。」
そう言った勇者の顔はとても悲しげでどこか諦めたような表情をしていた。
そんな顔をされると少し心が痛む。
「友達としてなら構わないぞ?」
「えっ?」
「だから、友達としてなら別に構わんと言ったんだよ。」
「ほ、本当かい!?ありがとう!!」
その瞬間、勇者は満面の笑みを浮かべていた。
「シバルだ」
ところでお前、名前は何て言うの? そう尋ねると、目の前の勇者はにこやかに答えた。
そうか。俺はフツオ。よろしくな、シバル。そう言って俺はシバルと改めて握手をする。
シバル……。なんか、どこかで聞いたような、見たような名前だな……。
まあ、いいか。しかし、本当にハンサムだな、コイツ……。
ここは学校の屋上。昼休み終了のチャイムも鳴ったし、そろそろ教室へ戻ろう。
しかし、先生、クラスメイト達になんて説明しようか……。
この人は異世界から来た勇者で、僕が屋上で寝転がってたら、いきなり現れました。
で、僕の事が好きだと告白してきたんですが、まずは友達から、という感じです。
いやいやいや、どういう説明なんだ。異世界とか、誰も信じないだろう……。
服装はファンタジーのロールプレイングゲームのキャラクターな感じではあるが……。
いろいろ考えていると、教室に着いてしまった。もう、どうとでもなれ、だ。
……と思っていたら、シバルはなぜか普通に受け入れられていた。机と椅子まである。
「勇者の力だよ」
俺の隣に座るシバルがニコリと笑う。意味がわからない。どういう力だよ。
転校生として皆を洗脳した、と言うシバルと一緒に午後の授業を受け、放課後になった。
「帰ろうか、フツオ」
いや、それ今日のところは俺のセリフじゃないの? と思ったが「うん」と答えておく。
夕日が、シバルが背負っている大きな剣の鞘に反射して、キラキラと輝いている。
歩行者も、警官すらもシバルを気にしていないようだ。これも勇者の力なのか。
普通ならこんな変な格好のヤツが歩いてたら、即、職質されそうだけどな……。
そして、いつも通り、電車に乗り込み、空いている席に座る。
しかし、銀髪のイケメンが一緒ってだけで、何か通学路が。風景が違って見えたな……。
隣を見ると、シバルは眠っている。なんだかんだで、疲れたんだろうな……。
その時、電車の端のほうから男性とも女性ともわからない、大きな悲鳴が聞こえてきた。
何だ? 火事? 事故? テロ……? 乗客たちが一斉に俺たちのほうに逃げてくる。
何が起こったんだ。乗客たちの隙間から、悲鳴が聞こえてきたほうを見ると。
マジかよ……っ!
なんと、手に包丁を握りしめた男が、奇声を上げながらこちらに向かってきていた。
もう片方の手には、ペットボトルが握られている。まさか引火物でも入っているのか。
男は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
シバル! 起きろ! シバル! やばいって!
シバルを必死に揺するが、なかなか起きない。まずい! 目の前に来た……っ!
男はシバルに狙いを定めたらしい。奇声と共に、包丁を握った手を大きく振りかぶった。
ちくしょう! シバルは寝てるのに! 卑怯だぞ……っ!
恐怖を感じると共に、怒りも爆発し、俺はほぼ反射的にシバルをかばった。
いてぇっ……! 一瞬、熱さを感じると共に激痛が走った。腕を切られたんだとわかる。
「フツオ……!」
シバルが起きた! 逃げようシバル! そう叫ぶと、シバルが立ち上がった。
「よくも、僕の恋人を傷つけたな」
男が再び振りかぶると同時に、シバルがそれを防ぐような形で、片手をかざす。
勢いよく振り下ろされた包丁が、シバルの手にぶつかると思った瞬間。
金属同士がぶつかったような高い音と共に、男の包丁が弾き飛ばされた。
それとほぼ同時に、シバルが片手を男の方向にかざしながら、何かの呪文を唱える。
え。その呪文って……。
次の瞬間、呪文を唱え終わったシバルの片手が強く震えた。
と同時に男が鋭い叫び声をあげた。見ると、男の両腕、両脚が無残に切り刻まれている。
「本来なら粉々にしてやりたいところだが、フツオが望んでいないだろう」
「もうお前は、反撃する事も。歩く事すらもできない」
「さあ、フツオ。あとは戦士……警官たちが何とかしてくれるだろう。逃げよう」
あ、ああ……。ってか、さっきの呪文……。お前、もしかして……。
「そう。僕は君が遊んだゲームの勇者。君が、僕を強くしてくれたんだよ」