異世界に来てしまったのだけど……
俺は高橋涼平だ。そして今異世界に居る。言っている意味がわからないって?俺も分かっていないから大丈夫だ。そんな訳で現在、俺は見知らぬ土地の見知らぬ街を歩いている。……いや、本当にどこだよここ!
「はぁ~」
思わずため息が出る。俺はほんの今学校の昇降口から出てきたはずだ。それなのに、気がついたら知らない場所に居たのだ。一体何が起きたんだ……。しかも、周りを見渡すと、明らかに日本ではなさそうな光景が広がっている。どう見ても西洋風の建物が立ち並んでいるし、行き交う人を見るとだいたい15から18歳くらいの男の人で、服装は学ランを着ている。
俺はステータス画面を開いて確認してみる。するとそこには『異世界』という文字があった。そしてスキルに『アイテムコピー』と『アイテムボックス』があった。……うん。これは間違いないな。夢じゃないっぽい。俺は今、異世界にいるらしい。つまりここは地球とは違う世界ってことか。なるほどね。まあ、そうでもなければこの状況の説明がつかないもんな。
「アイテムコピーがあるって今着ている学ランを増やせたりするのか?」
試しに頭の中でアイテムコピーと唱えてみるとアイテムボックスに学生服1式が収納されていた。おおっ!凄いなこれ!さすがチート能力。何でもできるんじゃないか?
「学ラン大好きな俺にこんな嬉しいことはないぜ!」
と俺は調子に乗って学生服1式を50000着まで増やしてしまった。
「おお!すげぇ!学ランフェチには最高のスキルだ…。」
アイテムボックスの中に収納された学生服は皆新品同様に綺麗だった。さて、次は何をしようかな。とりあえず腹が減ったので何か食べることにしよう。しかし金がないぞ……。この世界の通貨が何なのか分からないけど、もし円じゃなかったらどうするんだよ……。
「まあ、いいや。なんとかなるだろう」
楽観的な考えで街を歩くことにした。
この時は学ランを増やす事に無知で気づいていなかった。ユニークスキルに不老不死がある事に…。
通貨が分からなくても、金が無くてもこのコピー能力があればそれらの問題を解決するのは難しくない。
だが何をするにも人との関わりが必要不可欠だ。そうなると一つの大きな壁にぶち当たる。
「そういや俺、この世界の言語しらねぇわ」
この世界に来て楽観的に考えてはいたもののこの問題を乗り越えない事には何も始まらない。
とりあえず言語を確認しない限り活路は見出せないと悟った俺は裏路地に入り、道ゆく人の話し言葉に耳を傾けた。
側から見たら完全に不審者である。
だが、やってみて分かったが側から盗み聞きするぐらいじゃまったくもって聞き取れない。
「何か分かりましたか?」
「いや何も・・・ってお前、誰!」
背後から急に話しかけられた。って咄嗟に返しちゃったし。なんならちゃんと会話出来てるし。やったね言語問題解決!
ってかマジで誰こいつ?
「いやぁ、失敬。失敬。ちょっとぐらい刺激的な出会いの方が、印象に残りやすいと思った次第で」
「刺激的どころか心臓止まるかと思ったわ」
落ち着いてよくみてみると話しかけて来たのは初老の男で、白髪にシルクハットとモノクルといかにも紳士な格好をしていた。
「にしてもこんなに早く見つかるとは、私も貴方も実に運が良い」
「俺はいきなり知らない奴に絡まれてが無いと思うけどな」
今更どうなるわけでもないが男を警戒し距離をとる。
「果たして本当にそう言えるでしょうか? 今見るからに貴方はこちらの世界に来て右も左も分からないご様子。そこであらゆる事情をする人物が現れたのです。これが幸運以外なんだと言うのです?」
「その事情通がお前みたいな胡散臭い奴じゃなかったら、本当に幸運だたっただろうな!」
口ではああ言ってしまったものの、実のところこの世界の右も左も知らないってのは事実だし、帰り方が分からなければなんの為に呼ばれたかも分からない。
「これは中々手厳しいですな。ですが、こちらの世界では身の振り方考えた方がよろしいかと、まだ貴方はこの世界のなんたるかを分かっていないのだから」
確かにこの怪しげな紳士が言っていることは正しい。闇雲に行動するよりは遥かにマシだろう。
そうと決まれば背に腹は変えられない。たとえこの男が俺を利用するつもりだったとしても、構うものか。当たり前の話だが、ハイリスクを負わなければハイリターンは無いのだから。
「分かった。あんたの言う事を信じてやる。だからせめてあんたが知ってる事わかる範囲で話してくれ」
「やっと話を聞いてくれる気になりましたか! 私は嬉しいですぞ。まずは私の名から明かしましょう。私の名はジャスパー・ザリックこの世界を創造せし神の尻拭いをしている者です」
思っていたよりずっと大物だったで呆気に取られていたが、ジャスパーはそんな事を気にする事なく、俺の置かれている状況について語り始めた。
奴の言い分では、どうやら俺は神によって無理矢理この世界に転生させられたらしい。
つまり俺が気づいていなかっただけでこの世界にくる際に一度死を迎えていたらしい。
何故そこまでして神は俺をこの世界に呼んだのかと言うと。一言で言えば便利なコピー機が神界に欲しかっただけらしい。
どうやらこの世界の神は転生者にはどの様な力であっても付与する事が可能らしい。
それこそ自分で扱えない様な能力であったとしても。
だからこそ神は俺の様な何も知らない転生者に自身の扱えない能力を付与し、管理下に置く事で、擬似的にその力を手にしようとしていると言う事だ。
ジャスパーによればここにも近い内に神の追手が俺を確保する為に現れるらしい。
そしてそれらよりも先に俺を確保する為にジャスパー達、神に抗いし者達はあらゆる手を使って俺が転生する場所を神よりも先に割り出し向かいに来たのだと言う。
「これで大体の、説明は終わりました。このまま神に奴隷の如く扱われ、無限地獄を味わうか? それとも我々と行動を共にし、神に抗うか? 選ぶのは貴方です」
そう言ってジャスパーは俺に手を差し出した。
やはり俺は楽観的に考え過ぎていたらしい。
まだこいつの事を完全に信用したわけでは無いが、仮に本当の事を言っていた場合、奴は選択肢が一つしか無い俺にもう一つの選択肢を与える為に、危険を鑑みずここまで来てくれたのだ。
だとすれば俺はその行いに応えなければ。
そう考えた俺は全ての思いを振り切ってジャスパーの手を取る。
「貴方ならそう決断してくれると信じていましたよ。では改めてよろしくお願いします我が同志、高橋良平」
「これで嘘だったらありとあらゆ物をコピーして、この上無い苦しみを味合わせてやるから覚悟しとけ」
「相変わらず手厳しいですな」
して、ジャスパーは俺の手を取ったまま、魔法を唱える。すると俺達の身体は光に包まれどこかへと、消えた。
こうして俺こと高橋良平と胡散臭い紳士の神に抗う闘いが幕を開けたのである。
神に抗うといってもさすがに準備が整っていなければ立ち向かうことすらまず不可能だ。
例えば、高校や大学に入学するためには俺が知っている限りでは入試試験というある意味戦いがある。
そんな戦いに勉強という戦力を上げずして、その学校を志望することは周りの人たちから鼻で笑われて終わるだけだ。
だけども俺はまだろくにこの能力すら完璧には扱えてはいない。
それにこの世界の知識ですら碌に知らない俺は今のままではただの重荷だ。
「とりあえず貴方を良平さんと呼ばせていただきます」
「あぁ、さすがに毎回同志高橋良平とか言われるとスターリンとか北朝鮮みたいで嫌だからな……」
「申し訳ございませんが、私はスターリンや北朝鮮といった単語を存じ上げません。スターリンという名前はさすがの私であったとしても人物名ということは予想がつきますが……」
「まぁ、大体そんな感じだ。スターリンは俺たちの住む世界でかつてシベリアとかいう寒い地域にある国のトップで、北朝鮮はもともと一つの国だった朝鮮半島が分かれてできた国だ……あんたらの世界にもどうせ北の帝国とか言って……寒い国が強いお決まりがあるんだろ、それに俺はこの国の地形の予想は大体ついている。どうせ一つか二つの大きな大陸と、いくつかの島々があるんだろ」
――ジャスパーは少し驚いた表情を見せた。
ということから推測するにラノベパワーと俺の名推理が生かされた訳だ。
一応俺はいわゆる地理オタクで、これも全部“ラノベパワー”のお力で興味を持ったものではあるものの、ちゃっかりあの紳士が求めているような次につなげる会話力も兼ね備える俺に一人心の中で讃えている。
「まぁ、そんな感じです。それよりもまずは地図を見てください。あなたならそのような次につなげられる力があると信じておりましたぞ!」
「さすがにここは自分でも讃えたいわ……“ラノベパワー”を信じなかった輩がこの世界にきて堕ちていく姿が見てみたわ!」
「同志に向かって責めるつもりは一切ございませんが……このようなお心のままであるならばいつかは滅んでしまいますよ」
ジャスパーはシリアルキラーのジャック・ザ・リッパーに名前が似ているとこの瞬間思ったことはおいておいて、彼の顔からわずかに笑みが見えた。
どこか諭すようにすら思えたが、第一印象から感じとった“胡散臭さ”が消えることは今のことろはありえず、むしろより増している。
だから僕は口を開いた。どこかで一発言ってやらんと気が済まないように感じたから。
「あぁ、さすがにわかっているわ! 俺はあんたの前だから言っているだけなんだわ……人間の文明力はこえーぞ……例えばおれが今右手に持っているスマートフォンからバッテリーを取り出して、それをコピーして……てめぇーの前で発火すれば……どこぞの存在することすら怪しい神様なんか放っておいて、てめぇーを殺すことだけを考えればてめぇーにだけは態度を大きくすることができるんだわ」
「おぉ! それは恐ろしいですね‼ 見張りを一人つけましょうか?」
「いいや、さすがにそこまではやらんよ。それにだって……俺らみたいな現代っ子の武器はスマートフォンだぜ……いや待てよ…………もしかしたらスマートフォンを“アイテムコピー”を使って増やせば儲かるんじゃねーか」
――ジャスパーはあきれたような表情を俺に見せた。
そしてこの瞬間、無駄に大きく驚いて見せたり、どこかのラノベかと思うような登場の仕方もあって、何かを表現することが得意なのではないかと一人推測した。
さすがに俺が襲ってくるということは現時点では考えずらいことではあるため、そのことは冗談だとはわかられているとして、何にあきれられたかといえばおそらくはスマートフォンについてだ。
――それに関しては、一つの疑問であった。
なぜならスマートフォンは仮に俺の元居た世界ではなくてはならないもので、それなりに高価なため、Wi-Fiが使えなかったとしても、カメラぐらいはできるだろうと思ったからだ。
もしこの世界にもスマートフォンが存在するならばまずは間違いなく、いくらかに金がなるだろうし……もし存在しなかったしても魔道具として売り出せば儲かるだろうと推測したからだ。(お金はスキルで増やせるだろうけど)
しかしジャスパーは神妙な顔で口を開いた。
「そんなことをすれば、さすがに狙われますぞ! そんな薄い板みたいな見たことない形をしていたとして、その板は何かの機能があるならば、それは間違いなく、狙われる対象ですぞ! 場合によっては神がその話を聞きつけて、その板の存在が消され、その上貴方の存在も気づかれ、狙われますぞ!」
「地図はもう見終わった。だけどよ、通貨はどうするのか? さすがに俺らの世界の通貨なわけはないだろう」
「ご安心ください。私はある程度のお金は所持しております。ですが、それをコピーに頼った生活を続けるのだけはおやめください」
「どうしてだ? そのほうが早いだろう」
「貴方のお考えも十分分かります。ですが! 魔力は有限ですぞ! 今は転生したばかりだから、豊富に魔力があるだけでして、いずれかはこの調子のまま行けばレベルが上がらない限り、場合によっては魔力が枯れてしまいますぞ!」
――ジャスパーは表情を一変させてそう答えた。
さすがに俺は納得せざるを得なかった。
その神は彼の言う通りいい神様じゃないかもしれない。
でも俺はいわゆる神から力を授かったチーターだ。
だけども、無敵ってわけでもない。
なぜならその上に神がいて、よくよく考えれば魔力が無尽蔵にあることだって考えずらい。
それに“アイテムボックス”だって無限に入るとは考えずらい。
いつの間にか俺は頭を掻いていた。