あめのち

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1人目

廃れたコインランドリーの中にある木のベンチにその男は座っていた。

悩みを抱えた青年が一人、先客のいるコインランドリーを訪れた。
「ここで雨宿りでもしよう。あぁ、いきなり雨なんてやっぱついてないんだ自分、、なんか不気味な人いるし、、、」
大学二年生の鴨下はコインランドリーで雨が弱まるのを待つことにした。
「なぁ君、悩み、、あるだろ?、、」
「えっ、」
普段から警戒心が強くあまり人とは話さないが、その時はなぜか、咄嗟に返事をしてしまった。
まだ誰にも言ってない、言えない悩みが鴨下にはあった。
「わかるんですか?」
「わかるさ、君の顔を見ればだれでもね、、」一度も目の合わない男は言った。
鴨下は雰囲気にのまれたのか、誰にも言えないはずの悩みをその男に相談したくなった。
「実は自分、、、

2人目

何をやっても上手く行かないんです。それでバイトも首になりました」
鴨下は思いつめたように語ってから男の反応を見た。
相変わらず男は目を合わせてくれない。
押し黙ったままの男に痺れを切らし、
「な、何か憑いてたりするんでしょうか、例えば霊とか貧乏神とか」
鴨下は問いかけた。
「すまない。少し考え込んでしまっていた」
男は詫びてから続きを話し出した。
「確かに君には、特殊なモノが憑いている。ここへ入ってきた時、それが見えたから声をかけたんだ」
「や、やっぱり憑いてるんですか!」
男は無言で頷く。
「でも一体何が」

3人目

「君には狐の霊が憑いている」
「狐の?あ、あの、それって悪いモノなんですか、不幸が続いたりするのもその狐の霊のせいなんでしょうか」
鴨下は怪しげな話に聞き入っていた。
男は煙草を取り出し、一服してから話をつづけた。
「フゥー・・・狐の霊自体はそんなにめずらしいもんじゃない。ただ、君の狐は隠の気を吸い取ってどす黒く増大している。それこそ君を取り付くすほどな。何か思いあたる節があるんじゃないか」
男が吐き出した煙が鴨下の前に漂う。
「それは、その…」
鴨下は俯いた。しばしの沈黙が訪れ、雨音が強まっていく。
「実は僕、コンビニでバイトしてたんですけど、失敗ばかりで怒られて…。それで、むしゃくしゃして、バイト中にこっそりガムをポケットに入れて、、、盗みました」
鴨下は自然と心の奥底の秘密を男に話していた。何故かはわからない。
今更言ったってどうしようもない話だ。罪を告白したのは罪悪感から逃れがたい身勝手な気持ちからなのかもしれない。
鴨下は恐る恐る男を見上げた。